85 ゴロッソの確保
「……というところです」
私は新たに得た情報をヴィルヘルムと共有する。
抜けがないように記録しつつ、思い出しながら彼に伝えた。
「私の証言だけになりますが」
「ああ、そこはわかっているよ」
キメラを放った目的の一つはヴィルヘルムを始末すること。
それを主導したのはピンク髪の男、先生。
その護衛にルドロフ、マルガルフという男がいて、片方は風使い。
ゴロッソ会長はどうやら彼らに見捨てられたらしく、もう強力な護衛はいない。
ただし、ゴロッソ会長は先生に黒水晶を渡されており、追い詰めると暴走するかも。
と思ったら、実は私が黒水晶をすり替えてきたのでその心配はない。
縮地で飛んだ先の湖にもしかしたら魔獣災害に似たことを引き起こす何かが隠されているかも。
「……そうか。しかし、ピンクの髪の男」
「私は存じ上げないのですけど、コーデル伯爵家にはメリッサ嬢のお兄さんなどがいらっしゃいます?」
「……いや。コーデル家にいるのはコーデル嬢の弟だけだ」
「あら」
ということは、先生はメリッサ嬢のお兄さんではない?
そんなに単純なつながりではなかったか。
「だが、無関係とも思えないな。縁者を探っていけば辿り着けそうだが……」
「残念ながら証拠はありませんわ。あと、潜入調査も厳しそうです。姿を消しているはずなのに護衛に気づかれましたし……それに」
「それに?」
「私のギフトが、その先生に反応したみたいなんです。近づいただけでバレるかも」
「それも君のギフトの力かい?」
「ええと、厳密には少しズレるんですけど、似たようなものです」
あれはまさに『孫悟空が反応した』という感じだった。
幸い、私の人格が乗っ取られるほどじゃなかったけど。
本家・孫悟空がこの身に宿っているのなら、とうの昔に私の存在なんて消し飛んでいるはず。
流石に存在の〝格〟が違いすぎるというか。もちろん私の方が下ね。
なので私に制御できる程度の孫悟空は、たとえ本物であっても、断片のようなものだと思う。
体の内側にモンスターを飼っている系?
孫悟空が私に紳士的なイメージが浮かばない。
自我があるなら、とっくに私を乗っ取っているはず。
それとも仏になったから多少は人類に優しいとか。
……この辺りは考えても仕方ないかしら。
それよりも問題なのは先生一行の方だろう。
「騎士団を編成して、湖を調査するべきと思います。避難誘導も」
「すぐに何かを引き起こす様子だったかい?」
「いえ、すぐに行動する雰囲気ではありませんでした。ただ、それもゴロッソ会長次第かと」
「だが、ゴロッソは切り札である黒水晶を君に奪われている」
「ええ」
私とヴィルヘルムの間にある机の上に黒水晶が乗せられている。
「一応、ヴィル様は触れない方がいいです。言い方を考えると使えばロクなことにならないタイプかと」
「……関係を切った相手に渡していいようなもの。試作品か、失敗作か。そういうものだね」
「おそらく。安全を考えるなら、いっそ壊した方がいいんですけど」
「そうだね。でも貴重な証拠品でもある。分析できるものならしたいところだが……」
流石にマロット家でもアイゼンハルト家でも、これを分析する部署はないだろう。
王宮に依頼して解析してもらうか。
でもなぁ、暴走とか、爆発とか、そういう危険性があるものを王宮に持ち込めないし。
「ひとまず手紙で報告しよう。だが、その前に少なくともゴロッソは確保する必要がある」
「はい」
そうでなければ、この黒水晶はどうやって手に入れたのか。
どうして危険だと思うのか、という根拠が用意できない。
王宮から私たちが疑われることになる。
「湖とレギデーシュ商会、ほぼ同時に抑えるべきだね。協力してもらえるかい?」
「もちろんです。私にとっても利がありますから」
忘れてはいけない。
私の目的は、緊箍児を外すことで、そのために徳を積むこと。
推定乙女ゲームのイベントを奪って、問題を解決して、聖女を救うこと。
何から救うのかは不明だけど、王国の裏で何かが蠢いているのは確実だ。
どうにも平和なラブロマンス世界ではないらしい。
下手をするとヒロインちゃんの肩に人類の命運が乗っているタイプの世界だ。
そうなるとG4たちと絆を育み、かつ彼らに成長してもらう必要もありそう。
今さらだけど……。
でも、それはそれとして私は緊箍児を外したいのでイベントは奪う。
うーん、矛盾!
ラグナ卿のような強者を仲間にしていれば、G4に頼らずともどうにかできないかしら。
推定ラスボスが私自身という、へんてこな状況だ。
実は、ラスボス抜きのイージーモードかもしれない。
翌日。さっそく私たちは行動することになった。
といっても私はヴィルヘルムのサポート的な位置だ。
別行動しようと思ったけど、今回は彼のそばに控える。
ちなみに格好や髪型・髪色は動きやすいように世直しクウゴ状態。
三つ編みに赤茶色の髪色。騎士服にパンツスタイル。
ヴィルヘルムとだけでなく、騎士団も率いて移動するので、みんな『誰?』と思っていそう。
身外身法でミニたちに湖を張らせている。
姿を隠させているので表向きは平穏だ。
また別動隊が湖から人を遠ざけるように、かつ混乱させないようにやんわりと避難誘導に当たっている。
何事もなければそれでいいのだけれど、ちょっとそれはなさそうに思う。
「押し入るぞ!」
「「「はい!」」」
騎士団を率いてヴィルヘルムがレギデーシュ商会に突撃する。
人の数は少ない様子で、制圧に時間はかからない。
何より強力な護衛だったのだろうルドロフがいないため、相手は抵抗もできない様子。
私は火眼金睛以外のギフトはオンにした状態だ。
『旦那様! 騎士団が! 小侯爵がやってきました!』
『くそ! このタイミングでぇ! 逃げるぞ!』
お。逃げるの? どうするのかしらね。
屋敷の周りは取り囲まれている。逃げる隙はないはずだ。
黒水晶も偽物だし、暴れようとしても無理。
『くそっ、これを使うことになるとは……』
あ、使っちゃう? 偽物を。
そう思ったんだけど、黒水晶を使っても発動しない、という驚きの声は続かない。
ただ、ガタゴトと何かを動かすような音が同じ場所からしているような?
「ヴィル様、こっちですわ!」
「ああ!」
昨日、一度来た経験と聞こえる音を辿ってゴロッソ会長の居場所へ誘導する。
『早くしろっ』
『はいっ!』
どうも従者の一人と逃げようとしている声だけど。
ん? 窓から外に逃げようって雰囲気じゃないわね。
ということは。
「ヴィル様、隠し扉か何かあるのかも」
「隠し扉?」
「ええ」
ゴロッソ会長がいる部屋へと辿り着くが、扉は鍵が締まっている。
解鎖法で開けてもいいけど、目撃者がいるので多用は控える。
ドアを蹴り破り、踏み込んだが、そこはもぬけの殻だった。
慌てて逃げた様子はあるものの、窓は開いていない。窓から逃げたわけじゃないみたい。
「直前まで声がしていました。ええと、ちょっと騎士団に下がってもらっても?」
「わかった。お前たち、少し部屋の外で待機してくれ。ああ、扉は開いたままで」
ヴィルヘルムの指示を受けて疑問を浮かべつつも、素直に従う騎士たち。
よく統率されているわね。
「火眼金睛」
本家・孫悟空の眼と同じかはあやしいけど、私のギフトとしてのこの眼は隠し扉などは見抜ける力がある。
この眼で部屋を見回してみると、あっさりとそれは見つかった。
「本棚の裏があやしいみたいですわ」
ベタねぇ。まぁ、隠し扉なんて隠せる場所は限られているか。
なんらかのギミックがあるのか知らないけど。
「開!」
私は指差し、命令することで隠し扉を開こうとする。
ガチャリ、と音が鳴ったのが聞こえた。これで本棚を動かせそうだ。
とりあえず如意棒を手に構え、腰には幌金縄を出しておく。
「ゴロッソ・レギデーシュ! これ以上、無駄な足掻きをするな!」
現れた隠し扉の向こうには階段がある。
これは賢い人なら間取り図を見て、隠し扉に気付きそうね。
『ひっ!? まさか、もうバレたのか!?』
へいへい、ビビってるぅ。
「ヴィル様の声が聞こえて驚いている様子ですわ。遠くないです。ですが、この通路、狭そうですわね」
階段は下へと続いている。
今いる場所は屋敷の二階部分。でも、階段は折れ曲がりつつ、けっこう長い。
おそらく地下へと達していて、地下通路を通って外へ逃げられる造りなのだと思う。
残念ながら快適とは言い難く、通路は狭い様子。
ここを騎士団に進ませることは難しい。
「私が追いかけるのが最適かと」
「……いや、だが、それは。君に背負わせるようなことでは……」
「大丈夫です。危険な護衛はいなくなっていますから。さっさと片付けたいですし」
なんだったら幌金縄であっさり捕まえるだろう。
一棒食らわせる必要すらない。
「……わかった。無理はしないでくれ」
「はい!」
というわけでヴィルヘルムの信任を得た形で一兵士として突撃!
『貴方、本当に公爵令嬢?』とか言うのはなしである。
将来は女騎士キャラを目指そうかしら!
それはたぶん、本職の女騎士に失礼な気がするわね!
今世の女性平均よりは身長高めな私だけど、ヴィルヘルムよりは背が低く、また体付きも細やか。
そんな私でも孫悟空の剛力を振るえるので、狭い場所での戦闘とか実は適正が高い。
伸縮自在の如意棒でリーチも確保できるものね。
気をつけたいのは煙だ。火眼金睛の弱点だから。
「と、念のため、っと」
うなじの毛を二本、引き抜き、息を吹きかける。
「身外身法」
私が追いついた時に思わぬ反撃とか嫌なので、まずは攪乱と牽制。
「「ウキーッ!」」
ミニ・カーマインが二体、狭い通路に現れてミニ筋斗雲に乗り、ミニ如意棒を構える。
狭い通路戦なら、私よりさらに小回りが利く。使わない手はない。
「命令、この通路の先にいるゴロッソ会長とその従者を捕まえて! 殺してはダメよ!」
「「ウッキィー!」」
流石、筋斗雲で飛んでいった方が走るより速い!
『うわぁ! なんだ!?』
『こ、これは噂の〝赤髪の妖精〟では!?』
『そんなものがなぜ、ここに!』
ほどなくして、私が追いつく頃には、ミニたちが二人を転ばせていた。
「「ウキーッ!」」
あはは、私が追いついて仕事する間もなかったわねぇ。
やっぱりミニたちは優秀だわ。
「よしよし」
「「ウキキッ!」」
そして撫でると喜ぶ姿が可愛らしい。
いけない、彼女たちはただのロボット、感情移入してはダメ。消しにくくなるから!
あと微妙にナルシストっぽくなるから! 容姿は私なので!
「戻れ!」
「「ウキッ!」」
スッと毛に戻ったミニたちは私のうなじに戻っていく。
「お、お前は……?」
「世直しクウゴよ!」
「は……?」
「あんたが雇っていた賊どもを捕まえた女ってところね!」
「な……」
名乗った名は知らずとも、その事実を突きつけてやると、怒りを見せるゴロッソ会長。
「あんたと賊が交わした契約書も確保済み。逃げられないわよー?」
「き、貴様……! こ、こうなったら!」
お。出す? 出しちゃう? 黒水晶を!
ゴロッソ会長は懐から黒水晶を取り出し、叫んだ。
「は、白骨夫人! 出てこい!」
……は?
私は余裕の表情から、思わぬ言葉を聞いたことで凍り付いた。
もちろん、黒水晶はすり替えておいたから何も起きなかったけれど。
この男、今なんて言った?




