20 ゲームと誘惑
「その質問に、私が答える義務があるとは思えませんけれど、そうですわね」
私はチラリとヒロインちゃんに視線を向ける。
なぜか若干、キラキラとした期待の目を向けているのは何かしら。
問題は私のギフト名を明かすことがどれだけのリスクになるか。
日本語が読めない様子なように、孫悟空の名をこの世界の人間が聞いたところで意味がわからないままだ。
ただ、流石に転生者ならわかる。
孫悟空の詳細については知らなかったとしても、およそ見当をつけられる。
さらにいえば『斉天大聖』は異世界の魔王の名ともいえる名だ。
それが変に捻じれて広まったら? よくないに決まっている。
そして、この場にいるヒロインちゃん。
彼女の中見が転生者ヒドイン系だったら? 彼女にだけは知られたくないところ。
「質問に質問で返しますけど。ヴァレンシュタインさんが見えている私のギフトは、なんらかの文字列として見えていますの? ギフトの詳細までは明かせないのかしら?」
彼のギフトでそれができるなら、問答など無意味のはず。
「……以前、貴方に会った時に明らかにしようとしました。ですが、私には貴方のギフトが意味不明の文字列が大量に並んでいるようにしか見えませんでした。まるでギフトの受け取り損ないかのようです」
読めない文字列が並んでいるように見えるということね。
けれど、それは、おそらく日本語が読めさえすれば、大量の詳細がわかるようになる。
洗礼水晶でさえ、はっきりさせられなかったギフトの詳細がわかりそうだ。
彼が協力者なら、より深くこのギフトが理解できるようになるだろう。
ジュリアン氏に視えた文字列をそのまま書き出してもらえばいいのだ。
彼には文字とは見えず、謎の形の並びに感じるだろうが、私はそれでわかる。
まぁ、協力できそうにないことと、そこまでして知りたいかというと微妙なところがね。
いや、不老不死判定が入るかどうかは把握しておきたいかも。
流石にないとは思っているんだけど、一応ね。
孫悟空を形作り、それがギフトとして再現されるにあたって。
誰もが思い浮かべるのは如意棒、筋斗雲、そして緊箍児だろう。
逆にこの三点さえ揃っているなら孫悟空と言ってもいい。
火眼金睛や分身、七十二変化は、あくまで道中のエピソードにすぎない。
問題は緊箍児だ。
孫悟空を象徴するアイテムでありながら、孫悟空側からすればデメリットしかもたらさない。
最終的には重要な意味を持つものの、旅の道中における緊箍児は孫悟空の〝枷〟だ。
仮に『五百年の幽閉』や『不老不死』が私の考えすぎにすぎなかったとしても。
……緊箍児だけは、このギフトに〝ある〟と思っている。
では、三蔵法師がいない中、緊箍児はどういった役割を果たすのか。
それがこのギフトのセーフティー、能力制限的な役割を果たすのではないかと当たりをつけている。
つまり私が暴れ回った時とか、御仏に怒られそうな悪行をした時とか。
はたまたギフトの能力を使いすぎてしまった時とか。
そういう時に、私の頭に緊箍児が現れ、締めつけてくるのではないか。
そうでもないと、孫悟空の能力を一個人に好きに使えと、ギフトとして授けるのは如何なものかと思うのだ。
だって悪用し放題だもの。それって神様的にどうなの? って話なのよ。
他はまだしも七十二変化がねぇ……。王様のふりすらできてしまうわけで。
あとは〝徳〟ね。孫悟空として善行を積め、と。
そうお示しになっているとしたら? という考え。
西遊記の天竺への旅とは、言ってしまえば孫悟空の改心・反省を促がす旅でもある。
多くの人を救い、悪しき妖怪を倒し、天竺へと至り、孫悟空は〝仏〟となる。
これをゲーム的に考えると、善行ポイントを積み上げておけば、能力を安全に使えるとか? 逆に悪行を成せばポイントが減り、仏罰が下り、緊箍児で締めあげられるのでは? とか。
そんなふうに今まで考えてきたのだ。
それで最終的にはギフトの名前も、魔王を意味する『斉天大聖』から変わるとかね。
若干、迷走気味の思考かもしれないが、ジュリアン氏のギフトがあれば、その悩みを解決できるかもしれない。
これは私にとってメリットがある。
「ヴァレンシュタインさんは、どの程度、本気で私のギフトの詳細を明かしたいと思っているのかしら」
「……どの程度?」
「その本気度によって、私の答えも変わってくるわね」
「……意味がわかりませんが」
「ふふ、そうね。せっかくだからゲームでもしようかと」
「ゲーム?」
ピクリと反応し、眼鏡の奥から鋭く睨みつけてくるジュリアン氏。
「貴方の得意なギフトでもいいし、頭脳勝負でもいい。なんらかのゲームを私たちの間でする。その勝敗で賭けるのは私のギフトについて。いかがかしら?」
「どう、賭けになると言うのですか、それは」
「簡単よ。たとえば貴方が負けたなら、貴方の視た私のギフトについて書き起こしてもらう」
「……その文字列を貴方は読めると?」
「さぁ? 洗礼水晶の時はなんとなくわかったけど。貴方の視えているものが私にはわからないからね」
「……マロット公女が負けた場合は?」
「それも同じ。やはり貴方には視えた文字列を書き起こしてもらう。ただし、私が負けた場合はその文字列から判明したことを隠さずに打ち明けるわ」
「……公女が勝った場合は、詳細を明かさないということですか」
「そうよ。乙女の秘密だもの。無理には聞かないわよね? ヴァレンシュタインさんは紳士だから」
ニコリと笑ってみせる私。
「…………」
攻略情報を知らないから、私はG4たちの性格も知らない。
でも、ヒーロー役といえば能力が高いのがセオリーだ。
彼はプライドが高そうで、ギフトにも、自身の実力にも自信を持っていそう。
だから、割と乗ってきそうだと思う。
「……いいでしょう。そのゲーム、承諾しました」
「ふふ、嬉しいわ。とても楽しみね」
「……言っておきますが、嘘を吐けばわかりますよ」
「え? 貴方のギフト、嘘を見破れるの?」
それは便利だけど、メンタルが病むやつじゃない?
私だったらお断りなんだけど。
「見破れるかどうかは明かしません。それもゲームの駆け引きですから」
「ふぅん?」
思ったよりも乗り気。もしかして、ジュリアン氏の攻略エピソードに乗ったとかある?
まぁ、正解がわからないし、そこは気にしても仕方ないわね。
「じゃあ、選挙管理委員会のお仕事を進めていきましょうか」
「はい! なんだか緊張しましたぁ!」
ヒロインちゃんの明るさが染みるわねぇ。
よし、ヒロインちゃんをジュリアン氏に焚きつけて篭絡してもらおう。
ゲームはすでに始まっているのよ、ウッキッキ!
一通り、仕事を終えた私たち。
ヒロインちゃんは一緒に帰るとかいうかと思ったけど、用事があるそうだ。
またバビュンと廊下を走り去っていった。
「廊下を走るとは……!」
そんな姿に怒りを示すジュリアン氏。
まだ好感度が低い状態?
ここからダンダン心惹かれていくのかしら。
ヒロインちゃんの眩しい笑顔に。
ジュリアン氏が怒りながら、ヒロインちゃんを注意しようと追いかけていった。
「なぁ、あんた」
「はい?」
残った私に、セシル・ランバートが話しかけてくる。
「ヴィンセント殿下と婚約するって話はどうなったんだ?」
「……候補止まりだけど?」
「へぇ? じゃあさ」
グイッと。セシル・ランバートが私の手首を掴み、廊下の壁に押しやった。
「殿下より先に、俺のものにならないか」
「…………」
うわぁ。最悪。
推定乙女ゲーム世界の初壁ドンがこんなシチュエーションとか。
「お断りしますね」
「そう言わないでさ」
私を掴む腕に少し力が入る。暴力と制圧のギリギリの範囲。
場合によっては、ドキドキイベントかもしれないが……。
相手が悪い。
「おっ……?」
グググ、と掴まれている腕を〝剛力〟で押し返す。
内側に力強く腕を振り払い、そのままの勢いでセシルの胸倉を掴んだ。
「うわっ……!?」
グイッと。
ほんの少し彼の足が、つま先立ちになる程度の高さに持ち上げた。
「なっ、なっ……」
「顔と力で女性を口説くタイプ? 悪いわね、相手を間違っているわ」
「なっ、うわぁっ!?」
ちょっとだけ強めに掴んだ胸倉ごと押し投げた。
壁にぶつかるとかはなく、ただバランスが取れずに廊下に尻もちをつくセシル。
「あぐっ……!」
「では、ごきげんよう。セシル・ランバート。自信があったみたいだけど、そういう迫り方って品がないわよ」
「……!」
顔を真っ赤にして私を見上げるセシル。
悪意があったというより、綺麗な女性とお近付きになれそうだったからコナをかけた感じ?
きっと普段はモテるのだろう。G4と比べてどうか知らないが。
ヒロインちゃんがいたら、そっちに声をかけていたかもね。




