127 四健将
使役型ギフト『混世魔王』が出す〝花果山の猿たち〟は、はたして本家とつながりがある存在なのかしら?
それぞれギフト名が示す魂の欠片くらいは宿っていそうではある。
少なくとも猪八戒からはそう感じた。
本家の存在すべてではなく、ごく一部だとは思うのだが……。
「それで? こっちはどういう状況だ、カーマイン」
「こっちは……」
私は空中で金角・銀角とその中身であろう兄妹について話す。
「そんな……。あのような姿に変えられてしまったのですか」
「そうね。本人の意思ではなかったと思うわ」
「伯爵と同じか。操られていたのか?」
「いえ、当人はきちんと会話ができていたわ」
そういえば。
「そちらの気を失っている男性がベラゴート伯爵?」
ミニたちが気絶した伯爵をわざわざ抱えてきている。
普通に危ない。ここは今、空中である。落とさないでよね。
「ああ。だが、本人の意思はなかった。その代わりにこれだ」
ラグナ卿はそう言いながら取り出したのは黒水晶。
「伯爵の胸元に寄生していたのを無理矢理に引きちぎってきた」
「……それでズタボロな服装しているのね。大丈夫なの?」
「さぁな。だが、あのままにしておく方が伯爵のためにならん」
「まぁ、そうよね……」
さらに聞けば、伯爵はやはり青毛の獅子みたいな姿になっていたという。
西遊記縛りのギフトならば、間違いなく『青毛獅子怪』だろう。
幽霊メイドのアンリエッタさんのギフト『烏鶏国王』で、ほぼ確定。
対となって存在していると思われる。
……西遊記のギフト同士って、やっぱり引かれ合うのかしら。
「それでどうする? あいつらを倒すのか」
「いいえ、倒さず拘束しているところ。幸い、今の彼らは知性がないわ」
「ほう」
私は彼らの救出プランを話し、考えを聞く。二人の意見は重要だ。
私の推定にすぎないが、本来ここにいるのは彼らだけであった可能性が高いと見ている。
聖女セラフィナもこの場にいたかもしれないが。
「拘束したあと、カーマインが聖女を連れてくるか」
「それが一番確実だと思うの」
「あの、先程、ベラゴート伯爵はその人に操られているとおっしゃっていましたよね? その人がきを失っているなら彼らも操られなくなることは?」
「……いや、違うな。こいつと彼らはつながっていない」
「そうなの?」
「ああ」
勘なのだろうが、ここは信じるか。それに心当たりもある。
「たぶん、逃げている方が関係しているわ」
九尾狐理精の女が逃げているのを今、ミニ・マインたちに捜索させている。
いつの間にそんなに遠く逃げたのか、まだ見つかった報告はない。
「「ウキーッ!」」
そう思ったが、見つけたらしい。よし。
「ラグナ卿」
「任せろ。行くぞ、ラウゼン嬢!」
「え? 何が……きゃああっ!」
「「「ウキーッ!」」」
すぐさま出発するラグナ卿。ガンガン行こうぜ!
この猪突猛進スタイル、フィナさんとは相性がいいのかもしれない。
逆にストッパー役がいなそうなカップリングだ。
意外と理知的なところもあるので、どうにかなるのかしら。
反面、エミリア嬢は振り回されている。
ついていけるかは彼女の根性次第かしら?
ちなみになぜか、ラグナ卿に掴まって一緒に飛んでいくミニ・マインたちがいる。
貴方たちはサポートというより遊んでない?
さてさて。とにかくだ。
いろいろと各所でイベント続きのベラゴート家だが、私の仕事を継続しなければ。
「よし、続けるわよ! 続きなさい、ミニたち!」
「「ウキッ!」」
サポート役に呼び寄せた数体とともに再び金角・銀角の捕縛作戦を続行だ。
ラグナ卿がミニたちとともに九尾狐理精の女をあっさりと捕まえてくる。
……そこ、捕まえられるんだ。逃げられるかと思った。
もう全部、ラグナ卿一人でいいんじゃないかしら?
私の方もその間に金角・銀角をどうにか拘束してみせたわ。
骨が折れる作業だったけれど、流石に知性のない相手であれば、これくらいはね。
再合流した私たちは筋斗雲や五行車からは降り、地上に降り立つ。
フラフラのエミリア嬢をミニ・マインたちが甲斐甲斐しく世話をしているわ。
捕縛された金角・銀角ことクラリオとロクサーヌ。
気を失ったままのベラゴート伯爵。
同じく気を失った『混世魔王』の男。
そして捕まえた九尾狐理精の女。
聖女を呼んでくる前にやるべきことがある。
「クラリオとロクサーヌを元の姿に戻しなさい」
「……あら、そんなことできると思うの? 私にそんな力はないわ」
「どうだか」
明らかに呼びかけて異変を引き起こしていた。
彼女のギフトは金角・銀角の義母を示すものだ。
平頂山の小妖を使役するギフトとして、その範疇に金角・銀角がいても不思議はない。
ただ、気になるのは伯爵家の兄妹は黒水晶を身に着けているように見えなかったこと。
また火眼金睛でも変身したあとの彼らからキラキラとしたものが視えない。
ギフト自体は、兄妹が生来持つものかもしれない……。
それを彼女のギフトで暴発させたとか。
しかし、そうなると聖女の浄化でどうにかできるものなのか。
「殺すか?」
ラグナ卿が冷徹に黒槍・火尖槍を持ち、女に突きつける。
「ひっ……」
「だめよ。こいつには聞きたいことが山ほどあるわ。いい加減、敵の正体を掴みたいの」
「……そうだな」
虎先鋒の男には逃げられてしまった。
それに……実は、こっそりあのあと、虎先鋒の男を火眼金睛で視てみようとしたのだけど。
なんと視られなかったのだ。
誰でも、いつでも、登録さえすれば視られるものかと思っていたのだが。
火眼金睛の遠視を防ぐ手段があるのか、はたまた別の理由なのか。
ヴィルヘルムが『黒風大王』ルドロフやゴロッソ会長を尋問して情報収集に当たっているはずではある。
でも、いい加減、こいつらの正体は掴まなくてはならない。
乙女ゲーのストーリー展開を待っていたら犠牲がどれだけ拡がるか。
そんな運命を悠長に待ち構えている暇はないのだ。
「ミニたち、命令よ。この女と男を絶対に逃がさないでね」
「「「ウキッ!」」」
とりあえず事態は一旦、収束。だが、解決はしていない。
そうだわ。幽霊メイドのアンリエッタさんはどうなったのかしら?
まさか、霊体なのに瓦礫に潰されたなんてことはないわよね?
「幽霊の彼女はどこに行った?」
「私もそれを気にしていたところだけど」
私たちは半壊した伯爵家の屋敷を見る。悲惨な状況だ。
それに消えた使用人たちはどこへ?
「「「ウキーッ!」」」
「ん?」
まだ合流していなかったミニ・マインたちが戻ってくる。
この子たちは、まさか?
「魔猿の灰やらを集めていた一団だな」
「ああ……」
どうなるのか、どうするつもりなのか。
花果山の猿たちが洗脳され、使役されているというのなら、救うのは確かに孫悟空の仕事だろうけど……。
本当に花果山由来の魂が宿っているのかは未知数すぎる。
「「「ウキーッ!」」」
なんかすごい勢いで突っ込んでくるわね?
ただ、以前のように都合のいい〝岩〟はない様子だ。
集め切れないか、霧散してしまったんじゃない?
「なにやら集まってきましたけど……」
エミリア嬢がミニ・マインたちの挙動を呟く。
私たちのそばまで飛んできたミニたちは、あろうことか。
「「「ウキーッ!」」」
ドドドドドド!
「げぶっ、ごぼっ、がぼぉお!?」
気を失っていた『混世魔王』の男に突撃していった。
いや、それだけじゃないわ。
「ちょっ……」
「げぼぉおお!?」
ボフン! と煙を上げて、ミニ・マインたちはさらに小さく変じる。
いつもが手乗りサイズとしたら、それこそ一口で飲めるサイズに。
そのサイズ感になって、なんと男の口の中へと突っ込んでいくのだ。
「汚い! やめてぇ! 貴方たち、元は私の〝毛〟よ!?」
自由すぎる! ミニ・マインじゃなく、ほぼ悟空でしょ!
絶対に元に戻す前にお風呂に突っ込むわ! その上で浄身法を重ねがけしてやる!
「「「ウキーッ!」」」
なおもミニ・マインたちは並んで男の口の中に入り込んでいく。
小さくなるだけではなく、煙の塊みたいになってきたわ。
「ぐぼっ、ぐぶっ!? なに、何を……やめろ、痛いっ、ぎゃあああ!」
堪らず意識を戻した男が悲鳴を上げる。
これは相手に呑み込まれた小さな孫悟空が、相手の胃の中で暴れ回る、なんてエピソードの再現かしら!
などと現実逃避をしてしまう。
「がはっ!」
ひとしきり苦しんだ男が、大口を開き、そこから黒煙を吐き出す。
「おおおお……!」
いったい何事が起きているのか。
ミニ・マインたちは何をしたいのか。
そろそろ私に説明してほしいのだが。
「やめ……ろ! 何をする、奪うな! それは俺の、俺のギフトだぞ!」
奪う? ……花果山の奴役とのたまったらしいけど。
むしろ、こちらが奪い返すのが正しいのでは?
「黙っていろ」
「ぎゃふ!」
ラグナ卿、容赦なし! 火尖槍の柄で思いきり横殴りし、再び気を失う男。
悲しいかな、ギフトが力強くても当人が小者すぎる。
いや、ギフトも微妙なのだが。
もしかしたら、この儀式的な行為のあと、彼は魔猿たちを使役できなくなるのかもしれない。
そうなったら、少しは安心だ。
「「「「ウキッ!」」」
黒煙が、なんだか見覚えのある〝岩〟、四つへと変じる。
これは、やっぱり?
「「「「ウキーッ!」」」
例の如く、四つの岩へと突撃していくミニ・マインたち。
その岩の中へと吸い込まれるようにして入っていった。
「「ウキ、ウキッ!」」
岩四つ。
……花果山に暮らす猿は非常に多くいる。
彼らは常に平和に暮らしていたわけでもなく、悟空がいない間に襲われるエピソードがよくある。
まぁ、そもそも善良な猿たちなのかはさておいて。
そんな花果山の猿たちの中でも特別な猿が四匹、存在している。
四健将とまとめられる、四匹の老猿たちだ。
彼らは悟空の配下の中でも特に力を、或いは知性を持っていて、悟空の相談役となったり、悟空のいない間に花果山を治めたり、猿たちの軍勢を率いたりと指導者的な立場にある。
二匹の赤尻の猿が馬元帥と流元帥。
もう二匹の腕長の猿が奔将軍と芭将軍。
一応、名らしきものはあり、台詞もあるが、彼ら用の大きなエピソードはない。
ただ西遊記世界には孫悟空と合わせて、四種の特別な能力を持つ猿たち、『混世四猴』というのが存在していて、のちに出てくる悟空ブラックも含めて、彼らもその種族のうちの一つだったと明かされる。それだけ。
「「「ウキィ……」」」
バギバギ……バッガァアアン!
「「「「ウッキィー!!」」」」
花果山の大岩から生まれる孫悟空の如く。
ミニ猪八戒と同じようにして再生するミニ・マインたち。
「「「「ウキッ!」」」」
四匹の新生ミニ・マインが小さな筋斗雲に乗ってポーズを取る。
原典描写では老猿とのことだが、そういう雰囲気はなく、相変わらずコスプレ風だ。
ミニ・マインの容姿のまま、服装は中華風になっている。
頭には、わざとなのか緊箍児をつけてみせているが、色が金色ではなく銀色だ。
親分に金色は譲るとか、そういうことかしら?
何より印象的なのはおそらく。
「……尻尾が生えているわね」
「「「「ウキィ!」」」」
頭に銀色の輪。服装は中華風。そして、お尻には赤毛の尻尾。
それが新生ミニ・マイン四体。
即ち、〝ミニ四健将〟だ。
ジャンル:ハイファンタジーなので主人公がレベルアップしていきます!
レベルアップ……?




