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Aビル地下二階ー1

 Aビル前には、既に依頼人と思われる2人が立っていた。

 近付く圭に気付き、ぺこ、と軽く会釈をされた。


「浄華の桂木だ。こっちはアシスタントのおっさん」


 圭がぶっきらぼうに言いながらも名刺を二人に渡す。私は「よろしくお願いします」と頭を下げた。その様子に、依頼人の二人は顔を合わせたのち、小さく笑った。


「依頼人その1の、ノコノコです」

「ノコノコ、さん」


 亀を連想する名前だ。本名ではないのだというのは分かるけれど。

 どうしたものかと圭を見れば「忘れてた」と口を開いた。


「なるべく同じ手順を踏むという意味で、本名じゃなくあだ名というか、ハンドルネームというか、そのSNSで使ってる名前で呼ぶことにしたんだ」


 なるほど。

 改めてノコノコさんを見る。ちょっとぽっちゃりした、おっとりとした雰囲気の女性だ。朗らかな話し方が、亀っぽいといえば亀っぽい。


「僕は、依頼人その2のレインです」


 もう一人の依頼人、レインさんがそう言って頭を下げた。こちらはがっちりとした体格の男性だ。

 二人とも、若い。


「オフ会の時と同じような行動をしたいんだが、当日は揃ったらすぐ1つ目に向かったのか?」


 圭が尋ねると、二人が同時に「はい」と答える。


「軽く自己紹介をして……自己紹介と言っても、さっきみたいに名前を告げるだけなんですけれど……それをして、すぐに1つ目に向かいました。なんといっても、このビルの地下2階ですし」

「エレベーターで向かうだけだから、すぐですよね。念のため、二手には別れたんですけど」


 ノコノコさんに続いて、レインさんが話す。話すことで、当日の様子が思い出されているようだ。


「二手、というのは?」

「万が一、都市伝説と同じことが起こってしまったら、助けないといけないじゃないですか。うっかり地下2階に行ってしまったら、助けないと」

「一応、地下2階に行けたとしても、エレベーターから絶対下りないようにしよう、とも話していたんですけれど」


 圭の問いに、今度はレインさんの言葉をノコノコさんが続ける。


「エレベーターから下りなかったら、大丈夫なんですか?」


 ふと疑問に思って尋ねると、二人はこっくりと頷く。


「その点は、元々チャット内でも話したのですけれど、地下2階という空間がおかしくなっているだけで、エレベーター内は大丈夫なはずなんです。そうじゃなければ、他の階に行く事自体ができないはずなので」


 ノコノコさんの言葉に、なるほど、と頷く。

 エレベーターはあくまでも地下2階に行けるかもしれない通路という認識なのだ。だからこそ、他の階に行く手段として使われている。


「それでも、おかしな空間となっている影響から、エレベーターでの操作ができなくなる可能性がゼロではないので、万が一エレベーターが地下2階に止まってしまったら、エレベーターを呼び出せばいいんじゃないかって」

「それで二手、か」


 レインさんの言葉に、圭が頷いた。「二人は、どういう行動を?」


「私とレインさんは、先に地下2階に挑戦するグループにいました。地下2階ボタンは押しても反応なかったので、地下1階ボタンで降りてみて、改めて地下2階ボタンを押したんですけど、駄目でした」

「タケさん……今回の依頼の原因になった、おかしくなった人も、同じ先グループでした。そういえば、タケさんがボタン係だったっけ……?」


 うーん、と口元に手を当てながら、レインさんが言う。ノコノコさんが「そうそう」と言って頷く。


「タケさんでしたよ、ボタン係。だって、地下1階で『なんとかして地下2階に行けねぇかな?』って言いながら、開ボタン押しながら地下1階で降りて、辺りを見回してましたもん」

「ああ、そうそう! 地下1階は駐車場で、案外停める車があるんだなぁって思った覚えが」


 二人の話で、状況が見えてきた気がする。タケさんは、好奇心旺盛タイプなのだろう。怖いもの見たさ、というか。

 いや、この手のグループチャットにいるのだから、ノコノコさんもレインさんも好奇心旺盛なのか。なにしろ、検証までしているのだし。

 ただ、その好奇心が他の人より強いのかもしれない。


「交代した時、助けがいるような事態には?」

「なりませんでした。地下2階にランプがともることもなかったし、後発隊も『ボタン押せないし、普通に帰ってこれたし』って言いながら笑って帰ってきました」

「ちなみに、その検証は何人で行われたんですか?」

「先発隊が、私とレインさんとタケさんと、あと二人ほど。後発隊は四人だったと思います」


 ただの都市伝説だったことを証明して終わった、ということか。


「じゃあ、一応行ってみるか。二手に分かれるのは面倒くさいから、一気に行こう」


 圭はそう言うと、エレベーターの下ボタンを迷わず押した。


「圭君、万が一何かが起こったら」


 私が慌てて言うと、圭は「願ったり叶ったりじゃん」と言って笑う。


「この場所にいて何も感じないから、何かあったとしても対処できると思う。それに、今回の該当者が三人とも先発隊にいるのだから、二手に分かれる必要はない」


 圭がきっぱりと言う。私はレインさんとノコノコさんの方に向き直り「お二人は、同行しても大丈夫ですか?」と尋ねる。


 怖かったらやりたがらないかも、とかなんとか、圭が言っていた気がする。その場合は、私と圭の二人で検証することになるかも、とも。

 その場合、私がこの場に残るとかなんとか言えるかもしれない。


 ところが、レインさんとノコノコさんは顔を見合わせたのちに「もちろんです」と満面の笑みで返してきた。


「タケさんみたいになったら心配ですけど……今のところ大丈夫ではありますし」

「なってしまったら、何とかしてもらえると信じてますし」


 二人は口々に笑いながら返してきた。これは、本当に覚悟を決めるしかないようだ。

 覚悟を決めたあたりで、ぽん、と軽快な音が響いた。


 エレベーターが到着したのだ。

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