第六部 第九次元人の「あなた」へ。⑨星姫奪還作戦
ごちゅうい!
今回のエピソードは今までのネタバレを大量に含んでいます!
初見の方で「興味あるけど本文長すぎて無理!」と言う方は第五部 アストロブレム攻防戦05ファラス シア エスペラナからお読みください。
第六部への導入、世界に詳しくない新主人公登場となっていますので、初見の方もご安心してお読みいただけます!
これまでの「ダリア」おさらい
さまざまな主役が活躍していた「ダリア」の世界はある時突然、第十三次元人によって「赤いインクに漬けられた」
二次元世界の「ダリア」を読んでいた読者の「あなた」(四次元人)は作者おおとろべふこ(四次元人)に認識され、第十三次元人に対抗するための第九次元人として、作中世界へ送られる。
これからの文中にはA、Bという選択肢があり、「あなた」はどちらを選んでも同じ物語の中を進めます。この選択肢では作中登場人物の反応が変化します。
それでは、良い旅を。
天の川銀河の中心天体、命球に再現された惑星としての領域、その一本の木に、元とある星系のいち惑星、いち島国のいち地域の女子高生の蓮坂舞が、女神として興した樹上文明クルルガンナ。その存在する、木の枝の一本、その根本。ごく僅かな領域にある夏都市エルベラノ、その都市民総勢一千三百九十一万と、千九百人の市民を食い尽くした、秘密裏にエルベラノで製造された対惑星文明兵器と、喰われて再現された転写模倣体、カゲと呼ぶ、それらの掃討、また取り込まれ始めたダクトロ、ハイェルルラ・エル・ベラーナの奪還作戦。その戦いの最中、準勇者ダリア・アジョアズレスのカゲを自身の限界以上の能力を引き出し、「あなた」は撃破した。何の特別な力も与えられず、己が血と意志で戦った第九次元人の「あなた」。過ぎた力の代償に両腕が指先から肩まで紫電に焼かれ、上肢、腰まで食い込んだそれの治療のため、「あなた」は早い話、入院している。
ちちちち、ちゅん、ちゅん。
ロータス綜合学園の医療棟、その2階。窓の外には少し背の高い模倣植栽の枝枝と青々とした葉が模倣太陽の柔らかな日差しを浴びて煌めき、己の身体を小鳥に変換した何名かが会話をしている。
きゅ、ぎゅ。
ゆっくりと右腕を上げて、軽く指先を曲げ、握り込む。手首を曲げて、反らす。疼く痛みは残るものの、担当の看護学生の献身的なケアと毎日のリハビリで、少しずつ滑らかに動かせるようになった。
かちゃかちゃ。
ベッドのサイドテーブルに置かれたコップ、その中の液体を、細い枝を削ったマドラーでかき混ぜる。
かちゃ、こく、こく。
マドラーを置き、コップに指を添え、持ち上げ、中の液体を飲む。ミントなどの香草とレモンの皮、少量の砂糖を練り合わせ、水に溶かしたもの。その強烈な酸味と鼻腔を通り頭へと抜ける酸味、爽やかな香りに「あなた」は目を強く閉じて悶絶する。必要最低限の行動しか認められていない今は、これくらいしか刺激がない。
日中は、時々派手な爆発音を立てて喧嘩をする学園生の叫び声くらいしか、ろくな楽しみがない。
みんなはエルベラノの復興手伝いに駆り出されている。日の暮れる頃、学園医療棟のこの部屋に入って、帰って来て、おしゃべりをして、お土産のお料理を食べて、1人用のベッドに4人で、抱きしめ合って、重なるように寝る。
枕元の元スマートフォン、手のひらサイズの妖精となったアロエを触れば会話も出来るけど、今は寝かせておいてあげよう。
すっかり馴染みとなったこの病室を見回すと、サイドテーブルに置いた手紙が目に止まる。
親切ではない描写とラフな挿し絵でインターネットに投稿されていたweb小説、「ダリア─太陽系第三惑星人戦記─」。「あなた」はそのお話が、画面上に点と線の連なりで表現される、二次元作品だと捉えていた。じっさい、このお話は単なる二次元の作品。「あなた」はそれを読む四次元人。そして、あるエピソード、星姫アセデリラ・アルマコリエンデが時の彼方へ向かい、ひとりの母親と娘の運命を上書きした。残されたものたちは過去となった作品世界から時の彼方へ光を放つ。それは彼女アセデリラのとる航路を示す北極星、帰るべき港を知らせる灯台となるはずだった。しかし、目にした、作中時間軸で光の放たれた瞬間、別の場面で、読者である四次元人の「あなた」よりも上位、高次元の存在、第十三次元人カヌメナーアによって、「ダリア」という物語の存在自体が、赤いインクに漬けられ、登場人物たちだけではなく、作品のページそのものが、太陽に焼かれるのを見た。
作品ではなく、物語の存在が、破綻した。
一
切
の
望
み
を
捨
て
よ
。
「あの縦に表記された文字が読めて、理解できたわね?」識っていた展開とは違う、突然焼かれ始める世界に困惑していた「あなた」は、作者おおとろべふこにより、第四次元の読者と認識されて、第九次元人として、書き直された作品世界へ、新たな主人公として送られた。
「わたしはここで、この焼かれた世界に残って「あなた」の戦いを書き続ける!あいつをやっつけて!がんばって!」そう「あなた」を送り出した。
作者おおとろべふこ。
彼女は少し前「あなた」へ「手紙」というかたちで近況の報告を行った。まず女神を同一の女神その2号、という形で表記新生し、焼かれて失われた登場人物たちを、街を、青い情報体として表記再生した。
そして、ほんの少し前、「あなた」が準勇者のカゲを撃破したあと、
「病院のベッドの上ってひまひまでしょ?こっちの記録を送るから、暇つぶしに読んでみて。」という内容の手紙を「あなた」へ送った。
そして今、開け放たれて、あたたかで爽やかな春の風が流れ込むこの病室に、新たな手紙が運ばれてきた。
情報配達員、レタ ラ リベ所属の小鳥は、差出人のことは、所在も含めわからない、と言う。ただ消印の無い手紙が鞄に入っていたので、とりあえず送り先の「あなた」へ届けに来た、と。
その手紙を取り、開く。
独特の丸みを帯びた、走り書きの文字。
─────
<48706|i1130152>
と、と。
た、た。
ふたりで、あまりの熱量を長時間かけて溶け落ちた街の、かつてはたくさんのヒトが、ものが行き来していた道を歩く。
てっ、
跳び、突き出た岩を足がかりにつま先をかけ、
たっ。
軽く跳ねて、結晶化した、ヒトの背丈ほどの段差を登る。
「手、出して。」
「うん。」
この場所だけは、あらゆるぜネロジオなどの力は制限される。わたしは身をかがめて、つま先を荒れた地面に引っ掛け、上半身を段差の下に乗り出し、彼女の手を取って、
「さん、に、」
「い、ちっ!」
彼女のテンポに合わせ、左手を引き、わたし自身の膝を立て、右手を掴んで上半身を起こすように彼女の身体を空に放り投げる。
ぎゅっ、ごろごろ。
つかまえて、一緒に転がる。
この世界は、天の川銀河の中心天体、構成する天体、ガス、ちり、全ての熱量移動を記録するいて座Aスター。
そこに再現したどこか、地球によくにた組成の惑星。
「んっふっふ。」
「こんな時に笑わないで。」
ふたりで抱きしめ合って、空のようで、その実際は何も無い、ただ記録された熱量に濃い青を塗って、塗り重ねて、そこにガスを浮かべて、水を浮かべて、この模倣した大地を包むように高速で周囲を回転させて、模倣した太陽、永遠に燃やし続ける第0号ウサギ、ヨウヤで照らして、そのガスと水や氷、ちりで乱反射されて水色に見えているだけの、書き割りの青空を睨む。
「わたしたちは、」
「できることを。」
作者のわたし、おおとろべふこは、半生の一部を、同じ子ども時代を、そして定められていた死に繋がる病とその結果を、この登場人物、蓮坂舞ちゃんに与えた。全てを失って、その代償に手に入れた全てを。
「あいつへの対処は。」
「ナインにおまかせ。」
ひとしきり抱きしめ合って、どちらともなく、立ち上がる。わたしはこの子で、この子はわたし。
「けどわたしは、女神にはなれなかったよ。」
「理由が恥ずかしいからっていうのが最悪。」
わたしは歩けていた時と同じ、飲食店の従業員として、ただこの世界で暮らしているだけでよかった。この世界でなら、わたしは歩くことができて、両手もつかえるし、急に身体の力が抜けて動けなくなることもない。ただ、左目だけはこの世界でも見えないようにした。
と、と。
て、て。
舞ちゃんもそう。歩けていた頃のように自由に移動ができて、地球じゃない命球でなら、知らないお料理も知ってるお料理も、お腹いっぱい食べられて、飲めなかったお酒もたくさん飲める。一応立場のある女神だから、ひとの上に立つ身として、やらなきゃいけないこととか制限はあるけど、可能な限り、好きなところにお出かけして、生きている間に見れなかったきれいな景色や、おいしいものを見ることができる。
「それじゃなんで星間絶滅戦争なんて描いたのよ。たくさんのひとたちがいなくなったよ。」
「この世界で、わたしたちの描いたひとたちが先に進むには、他の命を奪う必要があった。」
生きることは、命を奪うこと。
それは罪で、それを受け入れて、罰を背負いながら、歯を食いしばって前へ進むみんなを、わたしは描いた。
この宇宙の仕組みが、そうなっているのなら、それに抗うのも、順ずるのも自由。
わたしは、従うふりをして抗うことにした。
「わかってるなら、もっとふわふわしたかわいいお話でよかったじゃない。」
「それはそれ。かっこいい主人公とかっこいいロボットが、泣きながら相手の命を奪うの、好きでしょ?あ、着いた!」
燃え尽きたそこ、いくつもの琥珀を掘り起こす。
嘆きの灰が全てを覆い隠す湖。
エルヴィエルナ。
「ラプリマを掘って、エルベラノを通って南のエルアートヌと来て、もう一度ラプリマを通ってエルヴィエルナ。この2ヶ月歩きっぱなし。」
「文句言わない、おいしーもの作ってあげてるんだから。そろそろかな、姫子ちゃん!」
琥珀を掘り起こしながら、蓮坂舞ちゃんの地球での同級生。この命球まで追いかけて来たお友達、宮門居 姫子ちゃんに声をかける。
しゅいいいいい。
青く細い無数の線が、この土地ではなく、空間の座標に対して平行に走り出す。
「はい〜、お待たせいたしました〜。」
青い線は眼鏡をかけた、長髪でロングの女の子の姿をかたち作る。
「カトラス、アルマ。」
次に2人分の名前を呼ぶ。同じように青い線が空間に走り。
「ようヤク、出番ダナ。」
「もう少シ読みた、イ。」
青い線はボブカットの女の子と、手のひらサイズの長髪の女の子の姿を取る。
「まさか、お主。」
「いいのいいの。せっかくなんだから。」
「うム。話ハ聞いテいル。」
「夢ト謡エヤ─♪」
さん!
ひゅううううああああああ!
青い線のボブカットの女の子は、背負っていた身の丈ほどの偃月刀を空間に突き立て、それを軸に舞い始める。
しゃん!しゃ、しゃ、しゃ、しゃ!
青い線の手のひらサイズの少女は、その舞いに合わせて、ゆるやかな氷の軌跡を描いて飛びながら舞う。
「あ、あ、この想いや空へ届けー♪」
「…?」
「ほどけた靴のひもを、むすぶよにー♪」
「むすぶよにー♪」
わたしの歌についてこない、ノリわるわるこを置いて歌い続けると、舞ちゃん2も遅れて歌い出す。
しゃん、しゃ、しゃん。
たらら、たーららら、らー。
歌声に合わせて、舞は緩やかな時の流れを表すように、氷の軌跡は戻らない時間を可視化するように拡がって。
「あなたの歩いたみちをー♪」
「わたしも歩くからー♪」
かつて、太陽系第三惑星人とクルルガンナ星人との間に勃発した、星間絶滅戦争クルルガンナ解放戦。太陽系第三惑星人側の死者は、その魂は同じ地球人の蓮坂舞、つまり女神ロータスの持ち込み定義した輪廻転生、山川草木森羅万象、ヒト、大型生物種の総称である龍、さらに無機物や当然UltraSuperGiganticへと生まれ変わる。しかし、クルルガンナ側はその数百万年単一の文明を保持し、魂すら数値化、兵器転用を行なっており、先の大戦でもその数千億という命は、ほぼ半数が対惑星文明兵器へと加工された。地球人蓮坂舞の解釈にないその魂は生まれ変わらせる事が出来ず、殺し切ることも出来ず、ただランサーで焼き尽くし、ここエルヴィエルナに灰として埋葬し、鎮めることしか出来なかった。
しゃりい、い!
舞が白熱する!
きぃ、ん!
テンポの上がる舞の熱量に合わせ、生み出される氷の軌跡は、この灰の湖に降り注いで。
かつて、妹を辱められたうえ殺害された姉は、戦乱の最中にあったその惑星、全ての生命体と交合を行い、妹の因子を植え付けた。
星に愛された姫と呼ばれたその系譜を継ぐ第1184代星姫は、本能のまま生きた初代星姫アルマコリエンデへの反省から、自身の肉体を徹底的に軽量化と効率化を行なった。
「ゆけ!」
「ゆけ!」
青い線で形作られるのは、既に視界に収まりきらないほどのヒトの、太陽系第三惑星人の姿。
氷の軌跡と舞が整えるのは、消えない憎悪の感情に固定され兵器となり、灰となったクルルガンナ星人の姿。
「刹那トラッカー!」
幾度も繰り返した舞と歌の中、最後のフレーズを、その場に再現された太陽系第三惑星人、クルルガンナ星人のそれぞれが、めいめいの意志で声を揃えた。
ぱち、ぱち、ぱち。
らー、らー、ららー。
同じ歌詞を舞ちゃん2とわたしが歌い、カトラスとアルマのふたりが舞う。
地球人の歌に合わせてクルルガンナ星人が手拍子を行い、星姫ふたりの演舞に太陽系第三惑星人がコーラスをつける。
「ゆけ、」
「ゆけ、」
ふたりの掛け声のような叫びに、星姫ふたりも重ねる。
「刹那トラッカー!」
クルルガンナ星人と、太陽系第三惑星人の双方が唱和する。
命を奪い、奪われ、奪い返したそのふたつの惑星文明、かつて第2291代星姫アルマコリエンデが太陽系第三惑星人の女神直属騎士、勇者ゲンザンと視線を交わし、言葉を交わし、殺意を交わし、手を握り、口付けを、愛を交わし紡いだ生命の螺旋が、切れてしまったリボンが、繋ぎ合わされた。
「けどね。」
「マダ足りナイ。」
「取り返す必要があるのじゃ。」
「我らガ娘、アセデリラ・アルマコリエンデ。」
数百万年、他の惑星文明を同族化という名前の虐殺を行なってきたクルルガンナ星人は、混血を行った双方の星人から浄化を行い、それは当代星姫と太陽系第三惑星人の勇者も例外では無かった。
その2人のいのちを、繋いで駆ける、軽薄なまでのクルルガンナの金髪と、太陽系第三惑星人式の見事なドリル縦ロール─────。
─────
「ナインさーん?ナイン・エルナさーん?」
耳元で吐息をかけられて顔を上げる。しまった看護学生の巡回だ!慌てて手紙を畳む。
「ふふ、いつもは入室前から私がわかるくらいなのに、ここまでしないと気付かないのはすごいですね。ラブレターですか?」
白に、前と後ろに一本赤の縦線が入った学園制服の看護学生は、「あなた」に柔らかく微笑む。
A、「そんなところだよ。」
B、「昔の知り合いからだよ。」
A、─「ナインはまたそうやって女の子に手を出すんですね!」刺すようなトーンの声に振り向くと、カランコエのじとーっとした視線があった。「カコ、こっち来て。」怪訝な顔で近寄ってきた彼女を、元気な方の腕で捕まえて、抱きしめる。「ちょっと、ナイン!見られて!」
B、「ふーむふむ、内容からして送り主はべふこですなー。」頭の上から声がする。対惑星文明兵器としての機能、焼かれた世界の記憶への制限が解除された、際限なく首が伸びるようになったガルデニアの顎に手を添え、抱き寄せる。「むむむ、さみしんぼですなー。」
その間にも看護学生は「あなた」の、過ぎた力の反動として、紫電が焼いた腕を触診する。
「痛みはまだ残っているようですが、上半身の傷も目立たなくなってきましたね。」
そう、準勇者の転写模倣体との戦闘で編み出した新たなる剣、その反動である紫電の龍は「あなた」の手や腕だけでなく、腰骨にも喰らい付いたが、そちらは浅いものだった。激しい運動はまだ許可されていないものの、リハビリとしての、病室内の軽い歩行なら認められている。
「それでは次の巡回まで、快適な日々をお過ごしください♡」
どこかで聞いたような言い回しで看護学生は退出する。
「そうそう、エルベラノにラプリマでもナインの事で持ちきりですよ。ヤリラ ルーマを超えた、新たな剣の使い手が現れたって。」
カランコエが話しながら、赤い球体の果実、三等素材で再現されたものに、窓から差し込む光を反射する石英のナイフを当てる。
A、「それ、やらせて。」
A、─「良いですけど、また飛鷹のぜネロジオを使ったら取り上げますから。」頷いて果実と刃物を手に取る。七万と五千三百回の死から見出した、自身と対象を取り巻く全ての要素、変数から、対象を確実に破壊する結果を計算する飛鷹のぜネロジオ。前回りんごに使用した時は、りんごを微塵切りにしてしまった。
さ、しゃ、り、しゃり。
寝かせるように刃を当てて、肩の動きでりんごを上下と左右に動かし、肘から手首を捻って向きを変える。手のひら全体を回すように動かして、5本の指先それぞれを小刻みに動かして回転させる。
最初の動きが平面の二次元なら、肘を捻る動きは三次元かな?ではりんごを握る指それぞれを別に動かせば?例えば切り方が気に入らないから、再度同じ箇所を削るのはどうだろう?指先は?爪を軽く食い込ませるのは?そうして変化をつけた先に第九次元があり、その先に第十三次元があるのなら?
しいいいい!
りんごを剥きながら思考と手の動きは止まない。
「んんんあむあむあむあむあむあむあむあむ。」
「ちょっと!やめなさい!私のです!」
カランコエの声にはっとして、手が止まる。
非常に薄く、病室の扉が透けて見えるほどに薄く、切れ目のなく桂剥きにされたりんごは、その全てがガルデニアの口の中へ吸い込まれてゆく。
「んむんむ、ん。お姉ちゃんの剥いたりんごに比べたらまだまだですなー。」
「なら口から出しなさい!私が食べます!」
そうだ、春の4月ならまだ、カヌメナーアのもたらす破綻も起きない。
A、「エルヴィエルナへ、お姉さんたちに会いに行ってみる?」
A、─「んむむ、そうしたいのはやまやまですな。しかし、この世界のお姉ちゃんたちは、この世界のわたしのものなんですなー。」ガルデニアは、絵本のお日様のように微笑む。「それに、わたしのお姉ちゃんたちは、わたしの中にいますからなー。」羽衣と泡、赤黒の剣を抱いて、ガルデニアは笑う。
「そこは、それなら、ガルデニアちゃんから今のガルデニアちゃんへ、お手紙を書いたらどうでしょうか。」
ナナカマドがゆっくりと身体を実体にする。お見舞いに渡された梨を受け取る。石英ナイフを当て、皮を剥き始める。
A、「ガルデニアがいることで、この世界のガルデニアの未来は…。」
かつて、前の世界でガルデニアの姉たちはクエーサーズとの戦闘で、ブラックバッカラとアルストロメリアが機能停止、命が失われた。さらに星姫アセデリラ・アルマコリエンデが定義したように、確定した未来の因果を持つこのガルデニアがいることで、この世界のガルデニアたちの運命は決まったと言っても、過言ではない。悪い想像ばかりが始まる。以前衛星都市ピニ イラで見た、対惑星文明兵器リピニィエーラによる悪夢のような、そして悪夢と言えば、雷鳴の轟く深い森を、大粒の雨に打たれて、泥に足を取られて、同族たちの断末魔を聞きながら逃げるあの夢が、脳裏にこびり付いて離れない。あのやけに生々しい夢は─。
「かーらーんーこーえー!そろそろ食べさせてほしいですなー!」
「シャリシャリシャリシャリ。」
ガルデニアの大きな声に意識が引き上げられる。今度はカランコエが梨の桂剥きを口に吸い込んでいた。
ぽす。
次の果物、手のひら2つ分ほどの長さの、黄色いものを取る。房から切り離されたその切り口に指先を当てて、剥く。こちらは簡単に剥き終わるので、期待した眼差しのナナカマドに食べさせる。
「んむ。ふふ、ナインに食べさせてもらうくだものは美味しいです。」
「マドカさんずるいですよ!」
「そーだそーだ!」
わいわいと、穏やかだった病室が賑やかになる。「あなた」は、枕元で待機中になっている元スマートフォン、アロエのほっぺをつつき、隠していたりんごと梨とバナナの切れ端を食べさせる。そうしてみんなでわいわいとおしゃべりをして、浴室で洗ってもらい、夜になり、ささやかながら幸せな夕食を取り、歯を磨き、ひとつのベッドを4人と一台、5人で抱きしめあって眠る。
ざああああ。
昼間に想像したから、だろうか?
びだびだびだ。
夢の中は
ごろごろごろ。
あの悪夢の世界だった。
びしゃあああ!
稲光。
A、手で顔を覆う。
A、─前回と違い、この身体は「あなた」の意思で動く!
走る!
びだ、びだびだだだ!
滝のような雨が、地面を、泥を跳ね回らせ、「あなた」の足にまとわりつく!
ぱきゅ、も、きゅ、きゅ。
「うぐるぅおおおお!」
生きながら貪られる、同胞の断末魔!
びだびだびだ!
深い青と緑の森の中、ただひたすら、葉を掻き分け、足指に石が食い込むのも構わず、前へ!
太い木の根元の、背の高い草の中へ飛び込む!
息を殺して震える身体を抱きしめ、腕に噛みつき、鳴る歯骨を噛む!
びだだだだだ!
濁流のような雨が「あなた」の頭上から、泥の波が膝を覆う!
腕の肉に食い込んだ歯は、それでも止まらない!体温が奪われているこの状況よりも、少し遠くで生きたまま喰らわれている同胞の状況が恐ろしい!
生きたまま!
喰らわれている!
溢れる雨と泥水の中で、喰われる同胞の声だけが響く!
い、いたいよ、たすけておかあさん。そんなにかまないで、たすけておとうさん。
以前の「あなた」なら、この夢に圧倒されて、ただ目が覚めるのを待っていた。
だが、これは2回目だ。
身体の震えは止まらない。
同胞の死に声も止まない。
飛鷹のぜネロジオを編み出した、無数の死を繰り返した時のように!
観測する!
この悪夢を、解析する!
この雨と水は、喰らわれている同胞の意識を伝えている!
ごろごろごろ。
遠雷が、近付いている!
びだびだびだ!
滝の雨の中、ひとつでも情報を手に入れようと目の前の植物に触れる!
草の形状は、触覚ではシダ類のようで、表面は一部の菌類の特徴、鱗のように捲れた指触りと、糸を編んだ網目のような形状が混在している!
ぴしゃあああ!
雷が落ちる!
木の根元に背中を擦り付け、擬態するように!
目を凝らす!
あの捕食者を観測するため!
稲光の中、その捕食者の頭部が─。
A、「うぉぉ、ぼぉー!」
「あなた」の魂と「あなた」の肉体が恐怖に声を上げた!
A、─「やれ。」
がばっ!
跳ね起きる!
ぽむ。
眠りながら身体がベッドの上に浮いている、ガルデニアのお腹に顔が埋まる。
A、「はァーッ!はーっ!」
A、─「あんん、ナインは積極的ですなー。」寝ぼけたガルデニアの両脚が、過呼吸を起こす「あなた」の脇下に絡み付く。
「えっち。」
「ナインさんも、お昼は1人で寂しいでしょうから。」
カランコエとナナカマドは、「あなた」の激しい息遣いで完全に覚醒した─。
ちゅん、ちゅん。ちちちち、ち。
「あの方達にはもう少し、優しくしてもらわないといけませんね。」
窓の外、まだ肌寒い春の4月、初旬の空気の中、「あなた」は紫電に焼かれた傷痕の残る左腕にすら、容赦なく口吸いの跡を付けられて、看護学生の処置を受けていた。
A、「それだけ、愛してもらっているということですから。」
A、─「愛─。」看護学生は左手を口元に当てて、考える。「その、私も負けないくらい、ナインさんに愛情を注いでいますよ?」
ひゅ、うう。
爽やかな春の風が、木々の芽吹きの香りが、部屋に入り込む。
B、「ええ、それはもうよくわかります!あなたの献身的な姿勢はすべての看護学生、いえ、ラプリマ全都市民の規範となるべきであります!」さまざまな戦いで「あなた」の活躍に心打たれた無数の学園生、騎士、都市民から、男女問わずエンゲージの誘いはあった。しかし、その想いは戦う理由にはなるが、身体はひとつなのだ。ガルデニアやカランコエ、ナナカマドと3人、アロエも含めれば4人のパートナーが居る時点で、もうこれ以上の愛には応えきれない。丁重にお断りするようにしていた。
B、─「ピニ イラでの戦いのあと、「あなた」に興味が湧いて。」看護学生は静かにベッドに腰掛けて、胸元のネクタイを外す。「「あなた」の事を調べて、お近づきになるには学園に入るのが手っ取り早くて。」彼女は看護用の帽子を外し、膝に置く。「そこで看護の適性を見出され、看護学生となりました。」彼女は、片眼鏡をかける。
C、「サミ ラ セクの、次元人!」対惑星文明兵器となったリピニィエーラの脳を摘出した、位階は不明なものの、「あなた」には認識が出来る、いずれかの次元人!気付いた時には、両手足が医療措置用のポデアで拘束されている!
C、─「私から…ぼくから「あなた」の位階を正しく認識することは出来ませんので、恐らく「あなた」の方がぼくより上層に位置するのでしょう。」彼女は、「あなた」の紫電の左腕を優しく、両手で抱えてから胸に抱く。「ぼくは、誰かの傷と病に寄り添う痛みの共有を、誰かを癒やす事の喜びを、このロータス綜合学園の看護科で学びました。ピニ イラの都市民に軽はずみに知識を与えた事は、とても悔やんでいます。が、女神はぼくの告白も、慈護のぜネロジオを編み出したぼくの信念と共に、受け入れてくださいました。」サミ ラ セクのその女は、「あなた」の手に頬擦りをする。「そして、邯鄲の時間圧縮の中で「あなた」の治療とリハビリに向き合ったこの5年間。」サミ ラ セクの女は、「あなた」の手のひらを自身の胸に押し当てる。ふわ、とした感触が指に、ゆっくりとした、それでいて高鳴る鼓動が、手のひら越しに「あなた」に伝わる。
A、B、C、─「「あなた」は、ぼくの心を奪ってしまいました♡この怪盗ストンリバー フィンネルの心を♡ね、すてきな騎士さま♡ナインさん♡ディスガス─。」彼女フィンネルは、両目を閉じて、「あなた」に全身を預けるように唇を突き出してくる!
A、B、C、「─ニン。」「あなた」は宿命を受け入れる!そう言えばこの看護学生は出会った頃からやけに過剰にボディタッチを繰り返してきた!あれほどの戦いをした騎士に対する物珍しさから来るものだと思っていたが、こう言われれば妙に納得する所がありすぎる!手指の爪を手入れする際は、「これは私のおすすめなんです♡」と彼女愛用の爪やすりで時間をかけて丹念に磨かれた!「おはようございます♡朝の洗顔ですよ♡」みんながエルベラノへ出た後、見計らったようなタイミングで現れて顔を撫でられた!洗顔にたっぷり1時間もかけた!身体を撫で回された!「はい、お口を開けてください♡」食事の際は口移しだった!「もっと、強く握ってもらっても大丈夫です♡」リハビリで立って歩く時は、歩行器や杖を用意するのではなく、常に抱き支えられた!「これでお肌がすべすべになるんです♡」入浴など身体の清潔を保つ介助の時は、何故か一緒に入浴した!当然疑問をぶつけると「これも必要なことです♡」と言われたため、「そういうものなんだなあ。」と納得してしまっていた!相手は「あなた」担当の看護学生だったから!「ここ、風が優しく吹くので大好きなんです♡」屋上で沢山のベッドシーツが干される中、一緒に空を見上げていた!模倣太陽が眩しかった!
…ちゅっ。
覚悟を決めて、フィンネルの唇を受け入れる。
恐らくはじめてなのだろう、風に震えた薄い花びらのような、その繊細なくちびるを─。
かちゃり。
「な、な、な、な、な、ナ、ナ、ナ…!」
「おー、この女はいつかはやると思っていましたなー。」
「もうちょっと、ナインさんの体力を減らしておいた方が良かったですね。」
「泥棒猫ー!」
エルベラノおみやげの袋を落とすカランコエ、あごに指を添えて目を細めるガルデニア、諦めたように微笑むナナカマド、そして。
「ふふ、ぼくだって女の子だ、恋くらいするさ。」
「あなた」の胸にフィンネルは顔を埋める。
「わたしもやるー!」
「は!?私が先ですが!」
「私は最後で構いませんので♡」
もみくちゃにされる中、「あなた」の目は天井のシミを数え、次第に思考は冷える。
A、「リピニィエーラは。」
A、─「あの子ですね…彼女の脳器官と魂は、既に保全措置が進んでいます。ぼくも持てる知識は渡してあります。あの子を生かす事がピニ イラ都市民の願いであり、そうして産まれた、祈りの子なのですから。」
B、腕を広げる。「ウバタニも、おかみさん達も、愛しいヒトを、そして子どもを守り切れなかった。」
B、─争うようにして「あなた」のお腹に頭を擦り付けていたみんなが動きを止め、「あなた」の広げた腕に、それぞれの頭を乗せる。
C、「ぼく/私は、君たちを守り続けたい。」ガルデニア、カランコエ、ナナカマド、フィンネルの肩を、そっと、抱きしめる。もちろん、首を動かして待機中のアロエにも口付けをする。
C、─みんなが、手を、頭を、それぞれ「あなた」の腕や手に擦り付ける。
そうして、眠る。
「今日はお天気もいいですし、屋上で過ごしませんか?」
「おやすみだし、おひるねできるならどこでもいーですなー。」
「寮から色々持ってきますね。」
「私もついて行きます〜。」
フィンネルの提案にガルデニアが賛成して、寮へ戻るカランコエにナナカマドが張り付き荷物を取りにゆく。
「ナインさまの悪夢に、予想がつきます。」
フィンネルがそう切り出した。
以前「残された日々をどうぞ快適にお過ごしください。」と告げて去ったように、フィンネルの本来の言語体系は少々、公用語を日本語とする太陽系第三惑星人の解釈では誤解を生むきらいがあります。実際ガルデニアもこれからの説明を理解するのに手間取りました。
作者が簡単にまとめさせていただきますと、もともと第四次元人であり、作者の手で第九次元人となった「あなた」は、さまざまな戦いを通しての成長で「上位の階層」、つまり本来の第四次元より上の第五、六、七、八、九層のいずれかの層に、夢を通じてアクセスしてしまったのではないか、と。
「ややこしーですけど、似たような扉を通ってこの世界に入った記憶がありますので、そう理解するしかありませんなー。」
そう。
ガルデニアは「あなた」に抱かれ、この世界に連れられた。
とてとてとて。
カランコエのかわいい足音が聞こえる。
彼女は脚走型の騎士であり、学園医療棟から学園裏の選抜騎士寮の往復程度なら、数分もかからない。
かちゃり、ドアが開く。
「ただいまですー、マドカさんが朝ごはん買って帰ろうって聞かなくって。」
「焼いておいたパンがいい感じに乾燥していたので、朝市で買ったお野菜とチーズに合わせていただきましょう。」
つまみ食いしたのだろう、口元からチーズを垂らしてナナカマドが言う。
「そう言えばぼく達は朝ごはんがまだだったね。」
「たいへんお腹がぺこぺこですなー。」
A、「うん、お日様の下でご飯にしよう。」
A、─「さんせーですなー。」顔を洗って、歯を磨いて「あなた」たちは、医療棟の屋上でピクニックすることになった。
そこからまた、圧縮された時間の中で星月が流れ、「あなた」の治療とリハビリは継続された。
た、ん。
膝を上げて、下ろす。
腰に軽く、疼きがある。
手すりに手を添えて、次の段を登る。
た、ん、たん、たん。
少しずつテンポを上げる。
重心を胴体に置くのではなく、頭の上に乗せるように。
た、たん、た、た、た、た、
重力に逆らい、階段を登る。
たっ、たっ、たっ!
リズムに乗せて、跳ねるように駆け上がる!
たんっ!
踊り場に足を着くことなく、蹴り上がった身体を、その重心と慣性を、手すりに添えた指先を支点にして回転するように飛び越える!
たたたたた!
その勢いを殺さず、爪先立ちで駆け上がり!
たんっ!
開け放たれた屋上への扉へ、青空の下へ跳ね飛ぶ!
く、る!
頚椎と脊椎を、頭と首に肩を腹側へ丸め込むように、回転する!
たっ!
紫電に喰われた手、肘、肩から接地して、屈曲させた踵を付け、跳ねる!
ぽふっ。
「ほほー、だいぶ回復してきましたなー。」
跳ね飛んだ「あなた」の身体を抱き止めて、ガルデニアが感心するように笑う。
「今までは踏み込みの時に、無意識的な躊躇がありましたが、消えましたね。」
その下でカランコエが「あなた」の挙動についての冷静な評価を行う。
「もう少しで私に掴まれますよ、ナインさん。」
ナナカマドが「あなた」とガルデニアの上から降りて来る。屋上に立つカランコエ、その上に浮くガルデニア、さらにその上を漂う、幽霊であるナナカマド。
「うん、もう戦闘にも支障は無さそうだね。」
ランチョンマットを敷いて、フィンネルが言う。
た、す。
ゆっくりと、つま先からガルデニアに降ろしてもらう。
A、「春が過ぎれば夏が来る。夏が過ぎれば秋、秋が過ぎれば…。」
そう、「ダリア」の世界は冬に、第十三次元人により物語自体が破綻してしまった。
B、「それまでに、ぼく/私は更に強くならなければいけない。」
ガルデニアが、みんながいるこの世界を、焼かせるわけにはいかない。
C、「たとえ、差し違えてでも。」
カヌメナーアを、殺す。
A、B、C、─「ナイン!」ガルデニアが「あなた」を強く抱きしめる!「いいの!ひとりでがんばらなくて!」「そうですよナイン。」カランコエが「あなた」の紫電の左腕を、手を取って抱く。「「あなた」はひとりじゃありません。」「私をまたひとりぼっちにするつもりですか?」ナナカマドが後ろから「あなた」の首元に息をかける。「私はナインさんの背後霊なんですよ?」「私はナインのスマートフォンなので。」肩に乗せている妖精、アロエが待機状態から復帰する。「安全を守ります。」「ぼくだって、きみをに心を捧げたんだ。」フィンネルが「あなた」の前で片眼鏡をかけ直す。「ぜったいに逃さないよ、ぼくのナイン。」
みんなが「あなた」の手や顔に触れる。
ひゅう、う。
ラプリマを見渡せる丘の方から、あたたかな風が吹く。
「るる、る、るーる、らー♪」
その風に合わせて、ガルデニアが口ずさむ。
「ゆめの、はーての、ほしそらに─♪」
ガルデニアが、歌い出す。
こんな歌は、「あなた」も、カランコエも、ナナカマドも、フィンネルも、アロエも知らないと思います。
「わたしの、こーころを、おきーざりに♪」
今のガルデニアには、焼かれた世界の記憶と、「あなた」が第九次元人として、この世界に送られた真実が刻まれています。
「あなたは、そらーへ、かけーてゆく♪」
「あなた」だけが感知できる、第十三次元人カヌメナーアの来訪と、その対決で「あなた」が取る行動を、ガルデニアは予見しているのかもしれません。
「すべーてのかなーしみだーきしめて♪」
この作品世界自体を焼いたカヌメナーアとの対決を。
「あなたは、そらーへ、かけてゆく♪」
「あなた」の決意は─。
「い、や、だ!」
「あなた」の周りを囲んで全員が叫ぶ!
「わたしのこころをまもった「あなた」を!」
ガルデニアが、普段の歌声とは違う力強さで叫ぶ!
「私に夢を与えた「あなた」を!」
騎士になる、その夢を諦め切れず、「あなた」の存在によって叶えることが出来たカランコエが!
「私の瞳に映った「あなた」を!」
情報として焼き付き、数え切れないほどの死を見送ってきた幽霊を、「あなた」が女の子として目覚めさせたナナカマドが!
「ぼくの心を掴んだ「あなた」を!」
凄惨な場面での出会いから、時間圧縮された5年の歳月をかけて「あなた」の痛みに寄り添い、共に歩き、傷を癒したフィンネルが!
「離さない!」
第四次元の、「あなた」の認識ではただのスマートフォン、手元にあって、数年かそれよりも早い間隔で買い換える消耗品。だったそれに、命が与えられて、今、「あなた」の肩の上で歌っている!
アロエ、寄り添う花。
彼女たちの叫ぶような歌声、唱和は屋上の干された純白のベッドシーツをはためかせる風の、この模倣された書き割りの青空の中で、拡がって散らばることなく、「あなた」を包む!
ロータス綜合学園、生徒は女神の邯鄲により時間圧縮された数十年を学生として過ごす!その初め、初等生として学ぶ、歌というかたちで願いと想いを込める技術、ルリロー!
折り重なる声が、準ダクトロである対惑星文明兵器、ガルデニア・ヴィナヴァルテの生み出す半球状の力場により「あなた」の身体を包む!彼女の姉達の因子、アネモネ、ブラックバッカラ、アルストロメリアの願いが「あなた」の左腕に喰らい付き続けている紫電の龍を、結び止めるリボンのように包む!
A、「ちょっと待って!紫電の龍って光の剣の反動っていうか力の逆流の表現でただの傷じゃなかったの!?」
A、─「クククク、クカカカカ!まだこの世界の命の流れへの理解が不足しているようだな!」願いのリボンに拘束される紫電の龍が、「あなた」の腕に巻き付いたまま笑う!
B、「ウワーカッコいー!」
B、─「あ、名前は付いていませんので、どうぞお好きにお呼びください。」紫電の龍は急に改まったような口調になる。
C、「…それで、どちら様ですか?」
C、─「それが私にもさっぱりで。」「話が違う!」「いえ、この世界では太陽系第三惑星人の命は、万物に循環するじゃないですか?」「それは女神の敷いたルールだから理解できる。」「「あなた」が光の剣をエルベラノで使った際、同時刻に死んだ魂が「あなた」の力に引き寄せられて、この姿になったんです。クカカカカナイン・エルナよ!我を見事御して見せよ!」「今更無理があるって!」「いえ、こちらが本来の私の役目、生き方となっていますので。」「それならしょうがないか。」「はい。」「よろしくね。」「ククククク!認めよう!」
元の魂の人格、話し方と声からしてガルデニアくらいの少女は、そう笑う。
「なんかまた、ナインに女が出来ましたね。」
「まったくです。スマホの私より距離が近いじゃないですか。」
「みさかいなしに女の子を増やす、こーいうのはよくないと思いますなー。」
「ナインさんに引き寄せられた幽霊としては、同族のよしみがありますね。」
「これでぼくもナイン古参になるわけだね。新入りくん、ナインの下着はぼくが替えよう。」
「は!?ナインの下着は私のものですが!?」
「ナインのぱんつはいいお出汁が出ますなー。」
わいわい、ランチョンマットの上に座っておしゃべりを始めるみんな。不穏な話題が始まってガルデニアとカランコエが笑顔で牽制をはじめる、が下手に口を挟めば脱がされるのは目に見えている。「あなた」はそう判断して彼女たちの輪に入らず、もう一度手紙を手に取る。ナナカマドの淹れてくれた温かいお茶を、マグカップに口をつけて飲む。
ご、く。
ペースト状に底に溜まったお茶の粉末が、舌の奥に残り、渋みを残す。
ぺら。
手紙には埋め尽くすような量の書き文字が上から下に流れている。白地に黒の文字しかないはずのその手紙には、赤い楔のようなスタンプが押されていた。どうやらそこから読んでね、という事らしい。
「第六部 第九次元人の「あなた」へ。⑨星姫奪還作戦
ここまでの焼かれた世界でのできごと。
まず、作者のおおとろべふこは、この焼かれた世界で喪われた女神ロータス、蓮坂舞ちゃんをその2号、舞ちゃん2として表記、新生させた。
そして、この2ヶ月太陽系第三惑星人の支配区域だった場所を巡って、焼かれたひとびとの魂が残した琥珀を掘り起こした。
予測はつくが結局何なのじゃ?
ここから説明するの!とにかく、エルヴィエルナの湖に埋葬というかたちで留めていたクルルガンナ星人の魂を、刹那トラッカーで再生した星姫カトラスとアルマのふたりに鎮めてもらって、焼かれた太陽系第三惑星人の魂とユニゾン組んでもらったの。
これでお互いの間で起きた絶滅戦争はおしまい!
無理がある気がするよ。
作者のわたしが言ってるからいいの!
ふむ…冬都市エルヴィエルナだけ太陽系第三惑星人がほぼ0じゃったのは、クルルガンナ星人の魂を都市民として扱っていたからじゃな?
そう。それで彼らの中の主戦派、クルルガンナ解放戦の引き金を引いた一団は、星姫ふたりにシメられたから、そこで正座してるよ。
第九次元人の「あなた」にはお見せできない内容でしたのじゃ。
…そうだね。とにかく、そこからお話を始めるよー!
ゆけ!
ゆけ!
刹那トラッカー!
─────
ぱり、ぽり。
「あなた」は、乾いたままのパスタを果実油で揚げて胡椒を振ったおつまみを齧る。相変わらずめちゃくちゃな論理で話を進めているけど、読者の「あなた」を作品世界の主人公にしためちゃくちゃさよりはマシかな?というわけで次の文を読み始める。
─────
「うム、反省しタナ!」
「元よりこやつらも何度も殺されておるのじゃ、反省するしない以前に目が死んでおる。」
その女神の言葉に、許可を取らず顔を上げた者の頭上に、追加の氷壊を落として初代星姫は嗤う。
「頭が高イ。」
「ひいいワガハイより魔王してるのじゃ。」
きゅいい、チュイイィ!
作業の方を見ると、プロペラシャフトの加工が進んでいる。
「ふっふっふ。」
「まさか、このために再現度の高いお船の模型をいくつも組み立てていたとはの。」
舞ちゃん2のきれいな銀髪をわしゃわしゃ撫でていると、肩に乗せていた、元スマートフォンの人形が声を上げる。
「ぴぴぴぴ、メリージェーン隊の座標特定が完了しました、女神、勇者の光剣許可を。」
「さすがクルルガンナ星人の探索技術じゃの。」
「そもそも命球の中の太陽系第三惑星人を識別出来たんだから、命球の外に出ちゃったあの子達を見つけるくらい朝飯前よ。」
「んむ。許可しよう、トモ、ダリア、モモ!ヤリラ ルーマの発動を承認!」
しゅううう。
刹那トラッカーで構成された、青い情報体だった3人が、三等素材を形代に実体を伴い再生される。
「久しぶりに受肉したかと思ったら、三等素材じゃんこれ。」
「もしかしてヤリラ ルーマ撃ったらこの身体崩れるんじゃない?」
「あーん久しぶりにおいしーものを生の身体で食べたかったのにー。」
くちぐちにぶーぶー言う3人へ、お盆へ載せたお団子とお茶を渡す。
「はいはい5分あげるから、食べたら撃ってね。」
「せっかくなら洋菓子も出しなさいよ。」
「わたしシュークリームがいいー。」
「なんでも頼んでいいの?エクレアたべたーい!」
技術者の太陽系第三惑星人、作業を行うクルルガンナ星人の、恨めしそうな視線の中、3人は山盛りになったスイーツを胃袋に詰め込んでゆく。
「はいはいあんた達もおいしいご飯出るんだから寄るな寄るな。」
「もーたまんない!カロリーの暴力!何回だって撃てちゃうよぉ〜!」
「あ、べふこ、新しいお手紙、リぺさんと書いたから。」
モモちゃんからお手紙を受け取って、腰のポケットから小箱を取り出す。
たっ。
小箱の側面を左手の親指と人差し指で挟み、右手首に当てて、中箱をスライドさせる。
そ。かしゃかしゃ。
右手で小箱全体を持ち、左手親指人差し指で中の無数の木軸の一本を摘む。
か、か、しゅぼ。
小箱の側面に木軸の先端をぶつけ、擦り付け、火を起こす。
「届け!」
しゅ、ぼおおお。
手紙の端に火を当てて、燃焼させる。
「時の彼方のリラちゃんに!」
モモ・クルルテラが時の彼方へ旅立ったパートナーの名前を叫ぶ!
「己の半身、ゲンザンと娘アセデリラ・アルマコリエンデへ!」
─────
ぱりぱりぽりぽり!
おつまみパスタを口へ運ぶ手が止まらない!
「あなた」はこの手紙の文面に載っている人物たちは「ダリア─太陽系第三惑星人戦記─」の登場人物である事はわかっていた!口調や一人称からも判別できた!
だが!
一人称が「己」である登場人物は恐らくいない!
ぽりぽりぽり、ごくん!
もう一本のおつまみパスタを飲み込んで、「あなた」は空を仰ぐ。
整理をする。
焼かれた世界で作者おおとろべふこ、女神ロータス2は、以下登場人物たちと何かを作っている。
プロペラシャフトという言葉に、お船の模型という言葉から、何らかの船を造っているのだろう。
そして、時の彼方へ旅立って、第十三次元人により作品自体が焼かれ、この時間軸の命球に帰って来ることが不可能となった星姫アセデリラ・アルマコリエンデへ、彼女のパートナー、モモ・クルルテラが手紙を書いた。
受け取った作者おおとろべふこは手紙を燃やした。
「届け!」そうべふこは言った。
モモはそれに続けた。
問題は次。
「己の半身、娘」と3人目の人物は言った。
彼女はどう考えても、勇者ゲンザンの妻であり、星姫アセデリラ・アルマコリエンデの母親、先代星姫だ。
しかし
彼女はクルルガンナ解放戦の開戦時、主戦派の手による奇襲、対惑星文明兵器ナラシンハの生体指向性誘導弾で絶命している。
謎が多過ぎる。
A、ページをめくる。
第六部 第九次元人の「あなた」へ。⑨星姫奪還作戦 了
次回予告!
焼かれた世界といずれ焼かれる世界、それぞれの時間が進行する中、「あなた」は退院し、パートナーたちと共に旅行へ向かう!
第六部 第九次元人の「あなた」へ。⑩命球帰還は、満天星空ツーリング!へ続く!
己は、ゲンザンにも会いたい。
というわけで!
お読みいただきありがとうございます!
やっとここまできました!
ここからめっちゃ本番ですよ!
次回はやっと、アセデリラちゃんとアルセロラちゃん(ノンドリル様)の姉妹が!
ってゆわけで、ちょっとゲンザンさんの新デザインのためのお勉強を本格的にしますので、次回更新は5月の中ごろになると思います!
それではまた!




