軌道空域編⑨-3 光の海へ
ジィィィィァァアア。
前面パネルの高度計表示は、既に限界を突破している。
ピ、ホー、ン。
「目標高度到達まで10.9.─。」
スイッチを押し、
ぱしゅみゅぅぅぅ。
操縦席内の気密性を高めるため、クリーム状のシーリング材が再充填される。
ちょん、ちょん。
ヘルメット越しに頬の位置を指でつつかれる。
「2、1─、ローンチ!」
ジャコッ。
機体下部のハッチから投下され、
「行けや、ナイン─!」
その言葉と共に、ロケットへ点火。
ずずず、ず。
振動と共に点火されたロケットの噴進力が、プロタガルテピュモッソを、対流圏から成層圏へ引き上げる。
ぐぐぐ、ぐ。
岩石惑星の重力は「あなた」の肉体を離すまいと引きずる。視界が狭まる。全身にかかる重圧を、口と目を閉じて奥歯を噛み、耐える。
さわ、さわ。
指が「あなた」のスーツ越しに首元から肩を撫でて、操縦桿を握る手を撫でる。
とん、とん。
ずごごご、と響くロケットの振動に合わせてその手はリズムを奏でる。
成層圏、
中間圏、
熱圏、
体感では10日分にも感じられたそのリズムは、対流圏を突破してから、ピアノを弾くように、ギターを奏でるように、ドラムを叩くように切り替わった。
それが止まる。
「もーおめめ開けてもいーですなー。」
ゆっくりと、「あなた」は目を開く。
エンジンを停止させ、「はああああ。」とゆっくり呼吸をする。
目の前には─。
「くらくつめたいひかりのうみに─♪」
隣でスーツも着けずにガルデニアが歌う。
A、「対惑星文明兵器はずるい。」
そう「あなた」は愚痴る。
目の前の、果てしなく広がる光の海へ、ガルデニアは生身での往来が可能だ。航空機で対流圏まで上がり、ロケットを使わずとも。
A、─「んんー!わたしだけで解決させたら意味が無いってわかってるのにー。」背伸びをしたガルデニアは、「あなた」のヘルメットを外そうと手をかける。「待って怖い!」
かぽ。
「ちゅっ。」
口付けをされる。
「ナインはしょーがありませんなー。わたしが付いてるから大丈夫大丈夫ー。」
ぱたたたた。
スーツの中のスマートフォン、アロエが鳴る。
「設定された予定時刻まであと1時間20分です。」
今、地球ではイヴとヒュネアが各区域で同型機、姉妹たちと戦線を開いているのだろう。
「心配そーですなー?」
ガルデニアの手が、「あなた」の頭を撫でる。
否定する事も出来ず、「あなた」は頷いて、手元のモールス信号テレグラフ・キイを叩く。
A、「ナイン・エルナ、月軌道空域へ突入する。」




