軌道空域編⑨-2 指2
ざざ、かちゃ、
隊員達が通信用のヘッドホンを装着し、
つつつー、とんとんとん、
モールス信号を打ち、または記述してゆく。
その音以外は、聞こえない。
静寂の支配する、部屋。
かた、かた、たたたた。
旧式のタイプライターを叩く音。
じじ、じじじ。
ぴーひょろろろろるり、びー。
室内で作成された文章が、電気信号に変換され、受信したファクシミリから印字される。
「SADAは一部犠牲が出たものの健在。マリア・サルターレを旗頭に抵抗を続けています。」
別のオペレーターが印字されたモールス信号を読み上げる。
「UBDAはイヴの同型機イールアンぜの大半がNAoEへ、ロミネンシアもほぼ鹵獲されました。」
更に別の報告が上がる。
「WEDAも同様です。ヒュネア同型機フィカスシリーズは全てNAoEの理念に呼応。WEDA管理区域では広範に渡り殺戮が起きています。」
続々と報告が上がる。
「AAoEも本部庁舎が壊滅。総司令フルツガヤは捕縛されました。」
ぴぴー、ぴーりりり。
並べられたファクシミリは鳴り止まない。
「つまり、無傷の部隊が残るのはAADA楠木基地のみ、と言うわけだな。」
司令官が事実の確認を行なった。
「無力化したNAoEのパイロットから情報引き出しと整理が行えました。」
生きる死体となったパイロット達を整列させ、両目から顔を出したイングラの発光信号を読み解いていた隊員が伝える。
「既にΔの艦隊は小惑星の艤装を解除し、月の赤道軌道上を周回しています。」
カリカリ、
大部分が焼け落ちた壁面に石灰のチョークで楕円と直接を引いていたクズノハさんが、その報告を聞いて直線の先に円を描く。
「通常のロミネンシアは航空機を利用し、作戦区域へ投下される。」
「そうだな。ロミネンシアは水素結晶で構成されるため7トンほどだ。パイロットが生身の人間であるため軽量化が出来ない。エンジニア達は一番の重荷と呼ぶほどだ。」
クズノハさんの言葉に司令官が答える。
「しかし、なぜ今この話を─。」
その言葉を聞いて、彼女の瞳は紅く煌めいた。




