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5、私の値段(秋)

異性に運命を感じたこと?うん、あるよ。

でも運命って仕組みさえ知ってれば簡単に作れるらしいね。


挿絵(By みてみん)


〈過去〉久保公園 アキ視点


待ち合わせの大時計へ小走りする。少し遅刻してしまったようだ。


「えっと、ネックレスのロン毛の人……」


きょろきょろと見渡したのち“遅れてすみません、今着きました”とスマホに打つ。


「まだ着いてないのかな?」


赤いハンカチを取り出し、小走りした汗を拭いた。

そしてハンカチをポケットに戻す際に、腰に潜ませた包丁の冷たさを確かめた。

一応の護身用だ。緊張と同じくらい恐怖も抱えて来たのだから持つくらい許してほしい。


そして頭に手を当てる。

やばい。今更、頭が痛み始めた。大丈夫かな。


「あー、君がアキちゃん?」


隣にいた男性に声をかけられる。


挿絵(By みてみん)


「は、はい!」


気づかなかった!

目を細める。大学生くらいかな?


「え?何でそんなに睨むの?」


「あ!ごめん。いたの気づかなくて」


「目、悪いの?」


「あーうん。家にいる時はあんまり気にならない程度なんだけど」


「じゃあ裸眼の俺と同じくらいだ」


笑う顔に清潔感があり、少し安堵する。


今日こそ、私は初体験を捧げるんだ。

今まで男の人と手をつないだこともないこの私が……


「ハイドです。今日はよろしくねー」


ハイドかい!絶対本名じゃない!

手慣れてる感じにさらに緊張する。


緊張と怖さは仕方ない。しかしそれがバレないように進めないといけない。

ナメられちゃダメだ。こっちだって慣れてる風に進めないと!


「あれ?アキちゃん、顔赤くない?緊張してる?」


「あ、いやいや。暑いだけだよ」


「暑い……か?熱でもあるんじゃない?」


誤魔化さないと。


「いや、遅刻はまずいと思って走ってきたからさ」


「なるほどー俺も今来たとこだし気にしないで」


よかった。誤魔化せたか。


「そうだ、こっちこそ謝らないと。今日、夜に予定入っちゃってさ。ご飯行ってからホテルの約束だったけど、もうこのままホテル直行でもいいかな?」


「あー……も、もちろん」


いいも悪いも、普通なのかもわからない。適当に肯定してみた。


「じゃあいこか」


そう言い、ハイドさんは歩き始める。私はがんばって隣に並んでみた。

すれ違う人達にはどう見られているのだろうか。


「アキちゃん地雷系似合うねー、可愛い」


「え、ほんと?ありがとう」


「いくつ?」


「……18だけど」


「高校生?」


「はは、そんなのもう辞めちゃったし」


「家帰ってないってマジなの?」


「うん、親うざいじゃん?」


「まあなー……」


「……」


「……」


急な沈黙。

え、雑談ってどう続けたらいいんだっけ?

せっかく拭いたのに汗がダラダラ出てくる。こんなんで大丈夫か私?


「す、好きな芸能人とかいる?」


耐えかねた私がめちゃくちゃな質問を投げてしまう。


「いや、いないけど。君は?」


「私も……いないかも」


じゃあ何で聞いたんだって言われそうだ。


「あ!でも私、強いて言うなら“見猿・聞か猿”ってお笑い芸人を応援してる」


「誰?知らねえ」


「いや全然有名じゃないし!最近デビューしたばっかだし」


「何でそんなの好きなの?」


「……ツッコミの方と知り合いなんだ。恩があるというか」


「それ、好きな芸能人っていうのか?」


「確かに……」


全然会話が盛り上がらない間に、いつのまにか自分が電飾色めくホテル街を歩いていることに気づく。


「2でいいんだよね?」


「え、うん」


「アキちゃん可愛いし、もっととれるでしょ?」


え?そうなの?と聞きそうになったがぐっと飲み込む。


「あーでしょ?よく言われる」


「ぶっちゃけこういうの慣れてるでしょ?俺にはわかるよ」


普通に驚く。何でそう思われたんだろう?


「スマホだよ。2台持ってる。プライベート用とパパ活用を分けてるのは、素晴らしいプロ意識だ」


なるほど。理由は違うがそう思われるのか。


「おっさんとかと温泉旅行行きまくってるタイプでしょ?違う?」


多分、失礼なことを言われてる気がした。


「してないしてない。あーでも温泉は大好き」


「なら、今度行く?」


何て返せばいい?どうしよ……

瞬きが増える。


「私、温泉入れないからパスかな」


「何で?」


「背中に、ちょっとね」


「あーなるほど。入れてる系?」


「うん、親がちょっと怖い系で」


「あ、着いた。ここだよ」


ピカピカのお城の前で足をとめる。

私は唾を喉に落とし、震えを押さえつけた。





「先にシャワー浴びて来て」


ハイドさんは慣れた様子でそう言う。


「ありがとー!優しい」


で、いいのか?親切か当然かも判断出来ない。


でも!お風呂に入れるのは嬉しい!

久しく入れてなかったからだ。


震える手でボタンを外す。心臓が爆発してしまいそうだ。

後で全部見られるのに、覗かれていないかハイドさんのいる方をチラチラ見てしまう。


「まずい。どうやってお湯出すんだ」


左手で色々なものをぐるぐるまわすも、シャワーからは水しか出ない。ハイドさんに聞くか?

いや、もう私は全裸だ。恥ずかしくて死んでしまう。


あ!もしかして、家みたいに外のパネルから操作するタイプか?

私はシャワーを出しっぱなしにしながら、脱衣所に戻る。


そこでハイドさんの声が聞こえてきた。


「事故った?遅れるってどれくらい?」


通話しているようだ。


「もう今、女がシャワー浴びてるから無理だわボケ!親父の車でも何でもいいから、運べる車まわしてホテルまで来いや」


来い?運ぶ?まさか……


思い出す。

最近、この地域で発生してる少女誘拐事件のニュース。

息が早くなり、尋常じゃない汗が溢れた。


「とにかく何とか間に合わせろ!あとどれくらいシャワーあびるか?知るか!

今日初めて会った売女だぞ」


私はシャワーの水量をマックスにして、急いで脱いだ服を着る。

いつの間にかシャワーから湯気が出ていたが、そんなことどうでもよかった。





「はあ、はあ」


髪が濡れたまま、ホテル街の路地裏まで逃げ込んだ。

そっと振り返るが、追って来てはいないようだ。


危なかった……


「こ、怖かった……」


パパ活は悪いことだと知ってはいる。そして悪いことの近くには他の悪者も紛れてる。よく考えれば当たり前だ。

こんな生活、いつまで続けないといけないんだろ。


ポツポツと空が泣き出した。


「もうやだぁ……ううぅ」


頭が痛い。動悸もおかしくなってきた。


「はあ、はあ……誰か助けて」


スマホの通知音!ハイドさんかとびくっとしたが、四季先生からだった。


『困ってるんだろ?助けてやるから、明日俺の家に来ないか?』


「……何でわかるの」


いつもはうざく感じるのに、こんなタイミングで手を差し伸ばされると、白馬の王子様に見えてしまうじゃん。

私はすがるように返信ボタンに触れていた。






既読が付いた頃、四季要一はスマホを眺めていた。

そのモニターに映るのはGPSの位置情報。ホテル街の路地裏がチカチカと赤く点滅していた。


人は窮地に陥った時、最寄りの異性を運命の相手と錯覚するもの。

つまり運命の作り方とは、相手を監視したのち最良のタイミングで声をかければいいだけなのだから。











〈現在〉友人代表スピーチ 花嫁視点


この結婚式の演目にファーストバイトはない。

理由は、ケーキ入刀が“あの刺殺事件”を彷彿させるからだ。


「お次は友人代表スピーチです。新婦のふーー」


司会の言葉を遮るように会場の扉が勢いよく開いた。


「ちょっと待ったああ!!」


スーツ姿の男が両手を伸ばして、飛び入ってきた。

ドラマでよく観る光景にざわめく場内。男は神妙な顔つきで、新婦の横まで歩く。そして司会のマイクを奪い取った!


「みなさん聞いてください!この結婚式……」


緊張で場内が静まり返る。


「……で、スピーチを任された新婦の友人代表でーす!」


急にへらへらし始めるも、会場の空気は凍ったままだった。


「あれ?ここでウケる予定やったんですけど、ここまで滑るとは!ややこしい演出してすみません!僕に任せるってウケを狙えってことなんかなーと」


笑いが返って来ないのは、単純に私の友人の腕が足りないからだろうか?それとも……


「あ、申し遅れました。僕は“見猿・聞か猿”って漫才コンビでツッコミやらしてもろてます。男友達でさぞ驚かれたでしょうが、新婦のいいところをたくさん知ってますので紹介していきますね」


いくら“包丁の方”を隠そうと、“刺殺犯の方”がこの会場にいては緊張なんて晴れるわけないからか。

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