拠点防衛 Wave 3
ep.8-3 拠点防衛 Wave 3
「ひひん♪––––これはこれは諸氏ご注目いただき汗顔の至り♪」
「っ!あんた、さっきの……って、どっから入り込んだの⁉」
「おっと失敬。名乗りがまだであったな。––––ごほん、小生の名はアリオン!時と界を渡る夢魔にして、此度かのダンジョンのフロアキーパーとして招請されし者なり!」
––––中央広場でカケル達と連絡を取っていた私達の前に突如として現れたのは、先の空中に投影されていた映像に映し出されていた馬頭のモンスターだった。
「アリオンだかリリアンだか知んないわよ!どっから入り込んできたのかって訊いてるんでしょっ⁉」
「おっと、それは重ね重ねも失敬♪とは言え小生、只今の名乗りで言ったはずであるが?––––時と界を渡る夢魔である、と」
「?それがどうしたって––––」
「故に、このような事もできるのである」
次の瞬間、馬頭のモンスター––––アリオン––––は、かき消えるようにして姿を消した。かと思うと、その姿は私の後ろにあった。
「––––高速移動⁉って……?……??~~~っ‼‼」
ヤツを追って振り返った先。そこには、余裕の表情を浮かべるアリオンが、あるものを手に立っていたのだ。
「~~~っ‼そ、それ!わ、わ……私の貞操帯っ‼‼‼」
「「えええっっっ‼」」
「……んん~ん、この芳しき香り♪––––紛う事なき処女の証しっ‼」
「嗅ぐなっ‼っていうかどうやって盗った!いつ盗った⁉この変態!ヘンタイ‼HENTAI‼‼‼」
「お、お、お、お姉さまの……貞操帯⁉……そ、それだけでも万死に値するというのに、あまつさえ、においまでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ‼」
「落ち着け、エリュシア!それよりもあのモンスター、今のうちに……殺っちまうぞ‼」
本人以外には外すことのできないはずの私の貞操帯。
それを、いつの間にか奪われてしまって動揺する私と、にわかに沸点に到達して殺気立つエリュシア&テッド。
けれど、あのエロ変態馬は気にした風もなく鼻歌まじりで悠々と構えている。
「ナメやがって……突っ込む!隙を見てデカいのブチかましてくれ!––––V‐スラァァァッシュ!」
「あ~っ!もうっ、勝手に仕切らないでくださいっ!––––詠唱破棄符、発動!」
「(ガシッ!)––––ふむ?小生、男勝りな女子は嫌いではないが。……中身が男では興醒めである。ゆえに––––ぽいっ!」
「––––なっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
手にした盾をV字に構えたテッドが突進を敢行する。も、事もなげにそれを片手で掴んだアリオンは、興味もないとばかりに放り投げた。
「お、おいお前ら!テッドを助け––––へぶぁっ!」
「「ニック!」」
投げ飛ばされたテッドを助けようとしたニックは、健闘むなしくテッドのお尻に顔面を強打されて沈んでしまう。
「ぐふっ……い……いいケツ、してんじゃ、ねぇか……(ガクッ!)」
「っ!今です!【火・水・金審判の日】‼」
「おっと!––––『トマッテミエマース』!」
次いで、タイミングを見計らったエリュシアの魔術が放たれるも、アリオンはまたしても霞むような速さでそれを躱す。
さっきからなんなの⁉コイツ!
「ブラス隊!ここが堪えどころです!––––【我・知・音】‼」
そこへすかさず、詠唱を終えた教主さんの空間崩壊魔術が飛ぶ。
「––––ほう、これは珍しい。ならば小生も返礼をせねば。––––『ダメだこりゃ。次イってみよー』!」
「っな‼……これは、まさか!【位相転移】⁉」
教主さんの魔術に、わずかに膝を屈しただけでお返しに––––……っていうか、真面目なのかふざけてるのか問いただしたい攻防なんだけど。
……いずれにせよ、アリオンが返した魔術の影響で、疲弊していたブラス隊は総崩れを起こし、教主さんは……
「これ、以上の、跳梁は……許しません!はああああああああああああっ‼」
「中々に良い打ち込みであるが……小生相手には、いやはやまだまだ♪」
渾身の気迫とともに振り抜かれるトゲ付き連鉄球。
……けれども、振り抜いたその先に連鉄球はなく、蹄になったアリオンの拳に折り砕かれてしまっていた。
「あ……ア・ナルパの轟棒が……!げぅっ!」
「「教主様‼」」
「勝者の特権……そなたは、後でたっぷりと可愛がってくれよう♡」
続けて放たれたアリオンの回し蹴りで、教主さんは広場の端まで吹き飛ばされてしまう。
「……さてと♪」
そうして、ゆっくりと振り返ったアリオンが私の方へと足を向け……
「燃ゆる髪の少女よ。そなたの宿したマリー=パルフェタムール=ルシェの魔力、捧げてもらおうか?」
「っ⁉……そう。それが狙いってわけね」
––––あの時。
意図せずに吸収してしまったマリーの魔力。それが目当てだ、と。
「小生としては、まだまだ楽しみたいところであるが。これもリセエッタ殿の所望ゆえ、悪しからず」
「私と……闘ろうっての?」
ハッキリ言って、教主さんでさえも軽々とあしらうようなヤツ相手には只の虚勢でしかない。
けれど、ここでナメられてたまるもんか!
「~~~♪」
「ってあんた、何してんの……?」
すると、私の精いっぱいのハッタリを気にするでもなく、アリオンはお布団を敷き始め、その上にゴロリと横になって……
「カモン♪」
事もあろうに、横になった姿勢のままで私に手招きをしてきたのだ。
「……一応、聞いておくけど。なんのつもり……?」
「無論!床相撲であ––––」
「誰がヤるかっ‼⁉バカなの⁉ねえ、あんたバカぁ⁉」
よりにもよって、とんでもないことを言い出すド変態に罵声を飛ばす。
––––え?床相撲が何かって?おじーちゃんに聞きなさいっ!
「ふむ。どうやらお気に召さないようであるな?」
「お気に召す要素がどこにあるっ‼」
「しかし、そなたと対等に、かつ楽しめる勝負だと思ったのであるが?」
「うっさい‼」
ハンデのつもりだったみたいに言ってるけど、そもそもこっちはETDの処クリが目的だしこんな馬にくれてやるほど安くもないしっっっ‼第一こんな所で花を散らしたら本末転倒だっての‼
「––––とならば……そなたは、小生との剣の勝負をご所望である、ということかな?」
「っ!の……望むところよ!」
一瞬、気圧されそうになりながらも私が叫び返すと、アリオンはおもむろに自分の股間に手を伸ばす。
そして、『自主規制』と大書されたソレをずるりと引き抜くと、六フィート程もある大剣が姿を現した。
「……ならば、我が精剣『ワカラセイバー』の力、とくと味わうが良い」
伏せられていた顔を上げるアリオン。その眼には、それまでのスチャラカな気配が消え失せ、武人のような鋭い光が宿っていた。




