旅立ちます!
「王子様!?」
「あの王印は間違いない! 特別な魔術によって守られていて偽造不可だからな!」
皆と同じように、私も信じられなかった。王子様なんて絵本の中でしか知らない。
解体技術を教えてくれたり、リリンさんとウェントさんを紹介してくれたり。他の冒険者さんと何も変わらない。
「エドワール、すでに証拠は出揃っている。警備隊を買収した件や元傭兵を雇ってそこのクーリエを拉致しようとした件もな。あ、元傭兵のおっさんが雇い主の名前を吐いたからこれも言い逃れは出来ないぜ」
「そんな、何かの間違いだ……。私は街を良くしようと思っていただけなんだ……」
「この期に及んで、口が回るな。周辺の人間の口が堅くなったのは気づいていたんだろう?」
「あれもすでに抑えられていたというわけか……」
「連中は賢かった。あんたのうさん臭さを嗅ぎ取ったんだろう。まぁ自供してもらったけどな」
エドワールがガックリとうなだれている。
前にリッドさんが言ってた事が気になった。孤児を引き取る為にエドワールが何かしてたらしいけど、今は聞けない。
「こ、この人と違って私は関係ないわ!」
「あんたもヤフスと違法薬物を取引している。いい大人なら、知らなかったが通らないのはわかるよな?」
「そんな! 私は被害者よ! ふざけないで!」
「ふざけてんのはてめぇだろうがッ!」
突然、怒鳴られてアグネが縮こまった。座り込んだまま、震えてリッドさんを見上げている。私もビックリして胸がドキドキしてる。
優しいリッドさんがあんなに怒るなんて。
「息子を殺しかけておいて、まだそんな口が利けるのか! あんたが正しい判断をしていれば、ガズーはあんな目にあわなかった! それでも母親か!」
「だって、だって……わかんないわよぉ……」
「あんたもエドワールと同じだ。等しく裁かれな」
「ク、クククッ……」
肩を揺らして不気味に笑っているのはヤフスだ。何がおかしいんだろう。ちょっと怖い。
「等しく裁かれる、か。結構だが、こんな世界に生まれておきながらよく言える」
「お前は黙ってな」
「クラスですべてが判断される世界で何が等しいものか。そんな不平等を私はなくそうと努力していたというに……」
「悪党の詭弁なら聞き飽きてる。黙りな」
「クラスを絶対的な指標としておきながら、都合の悪いものは法で縛り付ける様は滑稽、滑稽……ククッ!」
ヤフスが口の中で何かもごもごしてる。リッドさんは気づいてるのかな。
「リッドさん! その人、何か食べてる!」
「なに! おい、吐き出せ!」
「生まれ持ったクラスとは一生の付き合いだ。望まぬクラスを持たされた者がどんな思いでいるか、想像した事があるのか? それは不遇職に限らん」
「吐けッ!」
リッドさんがヤフスを殴るけど、すでに飲み込んだ後だった。
なんだろう、すごく嫌な予感がする。だって飲んだ瞬間、ヤフスの体がかすかに揺れたもの。
「ソードマスターなども典型例だ。あれは神が与えたクラスと言われているが、極めるとすれば竜の道を歩くようなもの……。与えられた人間が英雄アルヴェインのような者とは限らない。中にはクラスとしての真価に辿り着く前に挫折する者も多いだろう。そこの愚かな母親の息子のようにな……ゴボッ、ゴボォッ!」
「なっ!」
「夢見たクラスとは……かけ離れている薬師など……ゴボッ……」
ヤフスが血を吐いたまま倒れて動かなくなる。リッドさん達が対応して、私が呆然としていた。
* * *
「……街を出るのか」
「はい、リッドさん……いえ。リッド王子、お世話になりました」
「まぁリッドでいいよ。それよりヤフスの事は気にするなよ」
「平気です」
ヤフスの言ってた事が何となくわかった気がした。不遇職、それは魔導機師みたいなものばかりじゃない。
誰にとっての不遇職という話だ。ヤフスが何のクラスになりたかったかわからないけど、私も魔導機師になりたかったわけじゃない。
「自分に何が出来るか……。それが大切だと思ってますから」
「そうだな。それで十分だ。あのガズーも、そのうち気づくだろう」
「王都に連れて行くんですか?」
「あぁ、あの両親から離せば少しはマシになるはずだ。最初は辛いだろうけどな」
「そうですか……」
ガズーもいつかきちんとしたソードマスターの自覚を持つのかな。私も負けないようにしないと。
「クーリエちゃん! 元気でな! 今度はうちの店で食べてくれよな! 不遇職なら大サービスだぞ!」
「はい、アルコフさんもお元気で!」
「クーリエさん! 先日は失礼しました! 私、鍛冶師ゴッドンは心を入れ替えて日々邁進したいと思います!」
「は、はい……」
皆、いろんな意味で変わった。変わりすぎるのもどうかと思うけど。
「ではクーリエ殿。達者でな。プロドスへの道のりは遠いが、挫けるでないぞ」
「はい、マルコフさん!」
今、私の旅が始まる。いざ、アイテム集めの旅へ!
ご愛読ありがとうございました!
これにて完結です!