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悪魔リュウトと境界の美少女生活  作者: おかゆか
悪魔リュウトと魔法少女
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悪魔リュウトと魔法少女-4

 

「モーモリーン!」


 目の前の女児が大きく手を振り上げ叫んだ。


「モモリーン!モモリーン!」


 横に座っていたはずの女児は立ち上がり、絶叫にも似た歓声を飛ばし、背後から上がる声は悲鳴を通り越し奇声だ。


『モモリンがこのドリーム遊園地の野外ステージに来てくれたみたーい』


 舞台上に居た女が声援に答え、賑やかな音楽が鳴ったと同時に、平面的な絵を無理やり立体にしたような顔で、頭が異常に大きな種族が飛び跳ねながら登場した。


『ピーチメモリアルロマンチック!わぁ、今日は良い子のお友達がこんなにいーっぱい!モモリン嬉しいなぁ!』


 アミが持っていた魔法の杖と似た杖を振りかざすと、女児の歓声は、より熱を帯びたものになった。


「誠司……」

「やっ、僕は騙してないから!そんな目で見ないで」


 誠司は目尻に涙を浮かべて笑っている。俺の顔がそんなにおかしいのか。

 結論的に言えば、モモリンは俺が思っていた魔法使いではないようなのだ。

 配布されたチラシに目を落とす。「魔法少女モモリンと仲間達のドキドキカーニバル」そう、銘打たれ、大きな赤いリボンのピンク頭の少女の挿絵に「モモリン」と分かりやすく書いてある。

 舞台を見る。

 見ようによっては、この挿絵の少女と似ている。


「ぷっ!はははは」


 とうとう堪えきれなくなったのか、誠司が噴出し、体を揺すって笑った。


「ごめんって、リュウトさんがあまりにも真剣な顔でモモリンを見比べていたから……!そんなに睨まないでって!悪気は無いよ!ちょっと面白かっただけだから、ぷっ」

「チッ……なぁ、モモリンと言うのは、魔法少女を騙った本の主役か何かなのか?」

「そう、アニメ主人公だよ。子供向けのね……ごめんって、着ぐるみショーだって事、僕は知ってたけど、リュウトさんの反応が見たくって、こんなに落ち込んじゃうとは思いもしなかったけど、睨まないで、反省してるから!」


 俺の落胆した顔がよほど愉快なのか、謝罪しながら、隠す事無く笑う。


「はぁー、なんて酷い男だ。俺はモモリンが実在すると信じていたのに……。これじゃあ、お前と遊びに来ただけじゃねぇか。恋人のふりまでしてバカらしい」

「僕らの交友は深まったね」



 誠司は悪びれもせず、爽やかに歯を見せた。

 俺は、ため息交じりに、綿埃の塊のような人形と戦い始めたモモリンを睨む。

 優勢だったモモリンは、いつの間にか窮地に立っているようだ。


「でもさ、楽しかったでしょ?乗り物もいっぱい乗ったし、ほら、ベストカップルで招待券も貰えたしさ」

「まぁな、退屈だったとは言わねぇよ」


 モモリンが倒れこみ、会場からは悲鳴が漏れた。


『みんなー!モモリンを応援して!小さいお友達も、大きいお友達も!せーの!』


「モモリーン!」


 誠司が叫んだ。

 一際大きい声を出したので、前に居た女児の母親が怪訝そうに振り返ったが、誠司の顔を見ると「お兄さん元気ねー」と、笑顔で声を弾ませた。


「なにやってんだよ、誠司。子供じゃあるまいし」

「リュウトさん、見てよ!モモリンがピンチ!」


 誠司は大真面目に舞台を指差す。


『まだ、声が足りないみたいだよー!』


 舞台上の女が呼びかけると、誠司は「ほら、次はリュウトさんも!」と、俺のわき腹を肘で小突く。


『さぁ!みんなー!せーの!』


「モモリーン!」


 誠司も、俺も叫んだ。


「あははは、リュウトさん、多分、もう1回あるよ」

「くそ、モモリン、早く立ちあがらねぇと、トドメを刺されるぞ」

「あっははは、女の子らしくしないと、モモリン起きないよ」


『もうすぐ皆の声がモモリンに届くはずだよ!せーの!』


「モモリーン!」


 力の限り二人で叫び、盛大に笑った。


「あっははは、リュウトさん、力はいりすぎ!」

「ぷっ、誠司ほどじゃねぇよ!」


『ありがとう!みんなのパワーがモモリンたちに届いたよ!』


 モモリンが立ち上がり、仲間達が脇から現れた。ミカリンとリンリンだ。どうせ、助けに来るなら最初から助けにきやがれ。

 隣の女児が興奮した様子で「もう皆が来たから大丈夫だよ!」と俺に声をかけてきた。


「そうだな、仲間が来たからモモリンは、もう大丈夫だ」


 女児は俺の答えに満足そうにゆっくりと頷き、舞台へ視線を集中させた。


『ピーチビーム!』


 モモリンが魔法の杖を振ると小規模な爆発が起こり、弱々しく火花が散った。

 子供たちに混じり、俺も誠司もモモリンと仲間たちに声援を送った。

 期待させやがって!魔界に帰る手立てが消えてしまったじゃねぇか!そんな意味も込めて叫び、大声で笑っているうちに、なんだか胸の内は晴れて「まぁ、楽しんだし良いか」そんな気になってきた。


「なぁ誠司、最後にあれに乗って帰ろう」


 そびえ立つ巨大な車輪型の遊具を指差すと「良いね」と、誠司は端整な顔をふにゃっとほころばせた。






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