#5
またログインして瑠偉に会うのも恐いし、こちらで操作できなくなるのも恐ろしい。
やっぱ市販のゲームが一番安全だと悟ったので、俺は気分転換に新しいゲームを買うことに決めた。
いきなりオンラインでやろうとしたのがバカだったのだ
俺みたいなゲームばっかりやっている引きこもりは大人しく家で一人で遊べるローカルゲームをするに限る。何も無理にオンで友達や恋人を作る事なんてすることないんだ。
いや、恋人には未練はあるが…それはその内現実世界で作れればいい。絶対その機会は巡ってくるはずだ。
と、自分に言い聞かせて新しいソフトを物色するために俺は財布だけポケットに突っ込み、二階を降りて玄関へと向かった。
家の中は誰もいないのでキッチンに置いてある母が使用している予備用の鍵を手に取り再度玄関へ足を向けたその時、ピンポーンと言うチャイムが鳴る音が家の中に響いた。
誰か帰ってくるなら鍵を開けるはずだし、宅配か近所のおばさんまたはセールスか?
玄関に立っていた俺は直接出るかどうかを思案したが、やはりここは誰が来たのかをまず確認しようと思い、相手にバレないよう静かに後ずさりながら、リビングにあるインターホンに備え付けられている防犯カメラを覗いた。
セールスだったら居留守だし近所のおばさんでも居留守だ。宅配だったら出てやろうと思ったが、そこに映し出されていた姿に俺は小さな悲鳴を上げ後ろへと倒れてしまった。
「…んで…ここにいるんだよ…」
そこに移っていたのは先ほどまでゲームの中で見ていた顔だった。
その顔は無表情でカメラを見つめている。
ただ呼び鈴が一定のリズムで鳴らされ続けていた。
「アメリカにいるって…」
だってさっき頼がそう言っていたじゃないか。ここに居るはずがないんだ。
でも、でも、確かにあの顔は瑠偉だ。
あのゲームの中で見たRUiと全く同じ顔をしている。見間違うはずがない。
「何しに…なんで…」
混乱と恐怖で足がすくむ。
どうにか立ち上がって玄関の方を伺った。未だに呼び鈴は押され続けている。
誰もいないって気付いてないのか…それとも居留守だって事に気付かれている?
俺は足音を立てない様に静かにまた二階へと上がり自室へと逃げ込んだ。
玄関の鍵は閉まっている。
他の窓とかは見ていないが用心深い母の事だ、多分全部施錠してあるだろう。
さすがに入ってくることは無いと思うが、呼び鈴が鳴り続けているのは恐怖でしかない。
頭がおかしくなりそうだ。
警察に…いやでも、ただこんな事だけでそんな警察を呼んでもいいのだろうか?警察を呼ぶにしたってここには俺のスマホしかない。スマホで…いや、もし俺も頼の様に瑠偉にハッキングされていたとしたら?
余りにも恐ろしい考えが脳裏を過る。
そんな事、あり得ないとは理解しているのにどうしてもスマホに触る勇気が出なかった。
どうしようどうしようどうしようどうしよう
パニックを起こしかけているのが自分でも分かった。
そこでようやく呼び鈴が鳴っていない事に気が付いた。
「…帰った…のか?」
布団にくるまっていた身体を起こして何事もないことを確かめる。
自室のドアを開け、階段から玄関先をそっと覗くと
人影はそこから消えていた。
身体の力が一気に抜けたように俺は座り込んでしまった。
ほっとした。怖かった。何よりもよく分からないが、自分が助かったのだと思った。
ほっとしたらどっと疲れてしまった。
もう今日は外に出たくない。ゲームは明日辺りに買いに行くとしよう。
日も暮れそうだし、もうすぐ母も夕飯作りに帰ってくる頃合いでもある。
はぁと一息ついて暗くなってきた自室へ入りカーテンを閉めようと窓に近付いた。
そこで自分が如何にバカなのかと知った。
見なきゃよかったと、そう思った。
どうして俺は電気なんて付けようとしてしまったんだろう。
悲鳴を上げそうになった。いや、上げれなかった。あまりの恐怖に絶句してしまったのだ。
道を挟んだ向かい側にある家の塀の前、彼はそこでこちらを見ていた。
まるでそこが俺の部屋だと分かっていたかのように。じっとこちらを見ていたのだ。
固まって動けない身体を諭すようにいきなりスマホからメール音がした。
その音にやっと金縛りが解けたように反射的にスマホを取り上げていた。
メールには知らないアドレスが貼られている。
ただ分かることは迷惑メールではないと言う事。
件名に俺の名前が入っているからだ。
見てはいけない開いてはいけないと頭の中で警音が響いているのに
俺はどうしてかそのメールを開けてしまっていた。
〈 ねぇ 愁くん 遊びに来たよ。 やっと 愁くんと遊べるね。 だから早く開けてよ。 僕と新しいゲームを始めよう? 今度は絶対に逃がさないから。 〉
本文の末尾には ヨウコソ ココハフタリダケノセカイ NEW GAME と記載されていた。
END




