その8
読んでくださっている方々へ
思った以上に早く書けたので、早速投稿させて頂きます!
あ~後、ちょっと気になるコメント?を頂戴したので、それについては後書きにて、お話しさせてもらいます。
荊州南陽郡孫堅軍陣所
「皆の者、我が軍の勝利を祝って・・・乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
孫堅の音頭に依って孫堅軍の武将である、孫静・呉景・程普・黄蓋・韓当といった、主だった者が祝杯を掲げて一斉に杯を傾ける。
此処孫堅軍の陣所では、初戦で董卓軍随一と謳われた猛将・華雄を討ち取った事と、董卓軍の将・胡軫を撃破した祝宴が開かれていた。
連戦連敗続きの連合軍に於いて、結成以来初めての勝利であり、「江東の虎此処にあり!」と広く諸侯に知らしめた一戦でも有った。
「プハァ~・・・やはり勝利の美酒は、いつ飲んでも美味いモノですな~。」
「左様、左様、しかも初戦で華雄という大物を、仕留めた事で尚のこと美味し!」
「オイ・・・何でオレだけ水やねん?」
程普が気持ち良さげに杯を傾けていると、黄蓋も同調して頷く。
孫策は愚痴っているが。
「正しくその通りや。
コテンパンに敗北し続けて、逃げ惑いつつもこっちゃに華雄達を引っ張ってくれた、袁術軍にもお裾分けせなあかんなぁ、こりゃ。」
神妙な表情で呟く孫堅。
「ハハハハ!何言うとんねん兄やん!
そないな事してもうたら、面子丸潰れの袁術のボンボンが、ブチキレて暴れるで?
あんだけ居丈高な物言いしとって、いざ董卓軍と戦ったら鎧袖一触であっと言う間に敗走、みっともなぁに右往左往して、逃げ回っとったんやから。」
「「「「「然り然り!ワハハハハ!!」」」」」
孫静のツッコミに、諸将も呵々大笑する。
孫堅は荊州は長沙郡に、太守として赴任して以降、孫静達の協力を得て政治・軍事の充実に勤しみ、長沙郡を自分の根拠地化に成功し、曹操・劉備に先駆けて、軍閥化を果たしていたのであった。
長沙郡で力を蓄えて、飛躍の時を待っていた折に、袁紹を発起人として、反董卓連合の結成を宣言。
誘いに応じた諸侯が袁紹の許に集い、見掛け倒しでは有るが厚い陣容を誇ったのに対し、連合軍で唯一南側の荊州・南陽郡で旗揚げしたものの、近隣諸侯が集まらず、ポツンと孤立状態だった袁術の誘いに応じ、とある事情も有って孫堅は、連合軍に加わったのである。
そういった経緯で唯一袁術に組した孫堅は、無位無官のプー(当然董卓により没収済み)では有るが、「四世三公」の家柄である袁術に対し、最低限の礼儀として袁術に挨拶に向かったのだが、徹頭徹尾見下した物言いをされた挙げ句、「自分の手柄を取る邪魔をするな」と釘を刺された為、喜んですぐさま袁術軍から距離を取り、後方待機したので有った。
(こりゃあかんわ・・・。
董卓軍を知っとる身からすれば、大人とガキぐらいの戦力差や。
マトモに訓練も受け取らん雑兵に、素人丸出しの校尉と指揮官、伝達や輜重もいい加減・・・ようもまぁこんな体たらくで、勝てる気になるもんやな。
戦素人の皮算用にも程があるで・・・)
歴戦の将軍視点で、袁術軍を評価する。
この手の増上慢な輩は孫堅からすれば、義勇軍を旗揚げして以降、イヤと言う程掃いて捨てる程見てきたので、さして気にもならなかったが、袁術軍の陣容を観て「コレはアカン、確実に負ける」事を察し、巻き添えを避けたので有った。
案の定、董卓軍の先鋒・華雄軍約1万に対し袁術は、自軍の約3万の半分以下の兵力と観て侮り、見晴らしの良い地形で堂々と正面から、無策で歩兵団を騎兵団にぶつけた結果、アッサリと鎧袖一触に突破されて、壊乱状態になって敗走。
袁術軍の約束された敗北を読んでいた孫堅は、状況把握の為に斥候を放ちつつ、数キロ程離れた地点に2重の鶴翼に近い陣形を構え、敵襲に備えていた。
「殿!袁術軍を追撃して来た董卓軍が、我が軍に気づいて接近中!騎馬隊で凡そ約4~5千騎!!」
「お、来たかいな!
よ~しほんなら予定通り、作戦開始せいや!」
伝令兵の情報を聞いて、合図を送る孫堅。
「弓隊~構えぇ!未だだぞ未だ!しっかり良く引き付けて・・・今だぁ!一斉発射!射てぇぇぇ!!」
声を張り上げて弓兵に指示を送る将校。
1の陣の指揮官を務める程普の指図で、敗走する袁術軍掃討を切り上げて馬首を巡らし、2重鶴翼陣の中央部分=孫堅の居る本陣を目掛けて、猛然と突っ込んでくる董卓軍に、千本単位の矢を浴びせる。
「射て射て射てぇぇ!!狙いを定めるよりも一本でも多く、董卓軍の先頭に射つ事を心掛けよ!
下手な矢玉も数射てば当たるのだ!
先頭の者が倒れれば、後続も倒れた先頭に引っかかって倒れるか、立ち往生する!
さすれば騎馬隊なぞ恐るるに足らず!!」
最前線で指揮を執る程普が、叱咤激励する。
「おお?・・・よっしゃよっしゃ!怯んどるわ!
よし!第2陣の黄蓋・韓当に合図を送れ!」
「ははっ!」
機を見るに敏な孫堅の指示で、本陣から太鼓が盛大に鳴らされる。
「!?合図が出たか!
よし!我々第2陣槍隊は、程普の第1陣と入れ替わり、棒立ちになっている敵軍に突撃致す!
勢いの死んだ騎兵なぞ、木偶の坊と同じじゃあ!
黄蓋隊ぃ・・・突撃ぃいいい!!」
「韓当隊も続けて行くぞぉ!全隊突撃!!」
「「「「「オオオオォォォォ!!!!」」」」」
第1陣の間をすり抜け、槍を構えて突撃していく。
「弓隊は槍隊の後方に下がった後、敵軍後方に向かって曲射を行い、援護射撃に入る!」
冷静に指示を出して、第1陣を後退させる程普。
ついさっきまで勢いづいていた華雄軍が、激しい連射に依り一時的に止まった所を、間断なく槍兵によって突き崩され、見る見るうちに馬上から兵の姿が消えていき、押し返されていく。
後方の部隊が立て直そうとするも、上から降ってくる矢玉に遮られ、ままならない状況で有った。
「いや~兄やん、上手くいっとるなぁ。」
「ああせやな。涼州で散々涼州兵相手に、えらい目に遭った甲斐が有ったわ。
お陰様で騎兵対策の、習熟が出来たからな。」
孫静に相槌を打ちつつ、目を逸らさず具に戦況を眺める孫堅。
2度に渡って涼州兵や異民族兵(韓遂の乱)と、直接対峙して戦った孫堅は、多大な犠牲を払いながら、騎兵に対する対策と熟練度を上げていた。
孫堅が涼州兵と対戦して得た教訓は、「徹底的に弓矢による遠距離攻撃で倒して、近付けさせない」事と、「勢いさえ殺せば歩兵でも、槍を使って騎兵をわりかし簡単に倒せる」事で有った。
その為弓兵の育成に重点を置き、歩兵も槍を主軸にする事で、涼州兵の騎射の射程圏外からのアウトレンジ攻撃を徹底し、立ち往生した所を槍兵で突き崩すという、涼州兵にも対抗し得る戦法を編み出したのである。
「幾ら騎射が出来る涼州兵と言うたかて、使っとる弓は短弓で射程が短い。
それならこっちは、長弓を使って近付かれる前に射たら、騎兵の攻撃を受ける事なく倒せるし、先頭が倒れたら後続は急には止まれへん。
馬が足を取られて雪崩を打って、先頭と同じく転けてまうし、もし止まれても勢いが死んでまうから、騎兵の持つ特性即ち突破力も無くなって、只のデカい的や槍の餌食になるだけや。」
自身の戦術眼に狂いがなかった事を確信し、グッと拳を握りしめる。
歩兵隊で騎馬隊を破る方法を模索した結果、アウトレンジの弓撃で匈奴族を、次々と撃破して名を馳せた、前漢後期の悲運の名将・李広に近い戦法に、孫堅は自然と行き着いたので有った。
※(因みに日本の鎌倉武士は、モンゴル軍でも短弓で騎射をしていたのに、フツーに2m以上の長さがある、重籐弓という長弓を使って騎射を行っており、かなりのクレイジーな集団だった)
それはさておき、
「・・・・・・よっしゃあ!敵軍が撤退し始めよったわ!我らの勝利や!!」
「おお!ホンマや!オトン追撃すんのか!?」
「アホ言うな、引き鉦を鳴らせ!
呉景が確保しとる地点まで、即座に退くぞ!」
孫策の進言を一蹴し、後方で呉景が最終防衛線を構築している地点に向けて、撤退命令を出す孫堅。
「ええ~何でやねんオトン?」
「あのな策、騎兵に逃げに徹されたら、歩兵が追い付ける訳ないやろ?
調子に乗って追撃したら、隊列がバラバラになった所を、距離を取って突破力が戻った騎兵に、逆襲されるんがオチや。
そもそもこの戦法は、「待ち」を主体とする戦法やさかい、「追う」方には向いとらへん。」
ブスッとする息子に、理路整然と説明する。
「・・・ああ、なる程な~。
適度に距離を取ってこそ勝てる戦法やのに、自分から優位性を捨てるだけやな、確かに。」
父親の話を聴いて、即座に理解を示す孫策。
「不思議でしゃーないんやけど・・・何で兄やんや策は軍事関係の理解は、無茶苦茶早くて鋭いのに、2人揃って政治関係はポンコツやねんな?
その頭の良さを少しでも、政治関係に割り振ってくれへんかホンマに?
子供の権に書類決裁させた方が、よっぽどマシって大概過ぎるやろ・・・。」
「うっさいわ放っとけ!!」
「適材適所て謂うやろおいちゃん!?」
孫静の愚痴を、親子揃って遮るので有った。
それはさておき、
こうして初戦を快勝した孫堅軍は、撃破した華雄軍の首実検を行った所、大将・華雄を討ち取るという大金星を挙げていた事が判明。
そして防衛線へ後退中に、怒り狂った胡軫が追って来たので、孫堅自らが囮になって防衛線まで誘引し、手ぐすね引いて待ち構えていた弓兵の十字放火ならぬ、十字放射を浴びせて撃破したのである。
華雄軍に続いて胡軫軍も撃破するという、大金星に華を添えたので有った。
そうした経緯で、勝利の余韻に浸っている孫堅達で有ったが、
「殿!申し上げます!」
「ん?どないしたんや?」
「は!袁術軍に伝令に向かった者が急遽帰還!
どうやら袁術軍が、後背から徐栄軍の急襲を受け、敗走した模様との事です!
急襲された袁術軍は陣地を放棄した様で、徐栄軍に追い立てられつつ、将兵が続々と此方に接近中で有ります!」
「何やと!?」
好事魔多し、思ってもみない悪報が届く。
「っ!?くそったれが!!
徐栄の奴、騎兵の機動力を生かして我が軍の警戒網の外から、背後に回り込みよったな!?
それにつけても袁術は、何をしよんや何を!?
己の陣所もマトモによう守れんのかいな、あのバカ坊は!?ボンクラにも程が有るやろ!?」
持っていた杯を叩きつけ、悉く足を引っ張る形になっている袁術を罵る。
「ど、どないするんや兄やん?
袁術軍と合流するんか?」
「アホな事言うなや静!
それこそが董卓軍の狙いじゃい!
そないな事してみい!我々が1番損失を被る羽目になるぞ!?」
「へ?何でやねん?袁術軍を前面に配置して、盾にしたらええやんけ。」
首を傾げて兄に問いかける。
「俺の指示に袁術軍が、従う訳ないやろがアホ!
指揮系統がバラバラな上に、マトモに戦う事も出来へん足手纏いを抱えて、満足に戦う事もままならんと、徐栄達にええように殺られるだけや!
それにバカ坊の軍は、食い詰めモンの寄せ集めやさかい、幾らでも補充が効くけどが、俺らの軍は補充がホイホイ効かへんねんぞ!?
とどのつまり袁術軍を受け入れて共闘しても、数だけの弱卒軍団に成り下がるだけや!!」
「あっ・・・確かにせやな。」
兄の軍事的知見を聴いて、己の不明を悟る孫静。
「ほならオトン、早よ撤退しようや!」
「せやな策、お前ならどないするぞ?」
息子の見解を尋ねる。
「んなもんオトンの話聞いた上で、袁術軍を避けて董卓軍の追撃を躱す事考えたら、2手ないし3手に別れて、後方に撤退するべきやろ?」
すらすらと明快に答える孫策。
「ほう、その心は?」
「心もなんも、後方から徐栄軍が押し寄せて来とんのに、前方の牛輔軍が黙っとる訳ないやろ?
明らかに袁術軍と合流した時を見計らって、挟み撃ちする気満々やんか。」
「よう観たな策。俺も同意見や。」
息子の答えに満足気に頷いた。
「聞いたな皆の者!
バカ坊の軍と合流したかて、巻き添えを喰って我々が大損害を被るだけやさかい、袁術軍を避けて今より陣地を放棄する!
急いで2手に別れて、南の後方に撤退するぞ!」
サッサと見切りを付けて、撤退命令を出し、
「一手は俺が指揮を執る。
呉景・黄蓋・祖茂は俺に続け!」
「「「はは!」」」
テキパキと別れる軍の内訳を決める。
「もう一手は策を指揮官とし、静・程普・韓当を下に付ける!
程普・韓当、策の尻拭いを頼む!」
「はは!必ずや若を無事に撤退させまする!」
「お任せを殿!」
「え!?オレが指揮官!?」
自分を指差して目を見開く。
「今からする事は、予め決めとった撤退時の、合流地点まで逃げる撤退戦や策。
トロトロしとったら、最悪命を落とすぞ!!
気ぃ引き締めてやれや!・・・行け!!」
バンッと背中を叩き、半ば韓当と程普に引き摺られて行く、跡取り息子を見送る。
最悪を想定して、孫策に精鋭を多く割り振り又、長沙郡の政治と軍事の要になっている、孫静と程普に孫策を託して、万一が有っても再起が出来やすい様、父親として配慮していた。
(俺も人の親やな~、こんなん考えるとは・・・)
内心苦笑しながら。
そうこう慌ただしく準備をしていると、
「ほなら殿、殿の紅い巾を拝借したく。」
「は?何言うとんや祖茂?」
近衛隊長を務める、祖茂の発言に戸惑う孫堅。
「さっき若が言わはったでしょ?2手か3手に分けた方がええと。
ほんなら一手誰ぞが、ギリギリまで董卓軍を引きつけた方が、他の2手の生存率が上がりますやろ?」
そう言うと返答する前に、孫堅の鮮やかな紅い巾を取り、自分の巾と交換する。
「祖茂・・・オノレ死ぬ気か?」
「はぁ?まさか。
そんなバカバカしい事なんぞ、これっぽっちも考えてへんですよ。
逃げるに逃げれへん負傷兵と共に、董卓軍に一当てしたら、とっとと逃げますわ。
ワイは夢の続きを観たいですから。」
手を左右に振って否定する祖茂。
「夢?」
「ワイだけやなく、程普・韓当・黄蓋達も一緒に観とる夢ですけどね。
殿が何処まで駆け上がって、どうなるのかを直ぐ側の特等席で、楽しみに観る夢をね。」
面映ゆそうに笑みを浮かべると、
「ワイらは殿に出会わなんだら、安酒呑んでクダまいとるチンピラか、ええとこ小役人になって平凡な人生を送った事でしょう。
それが殿に出会って夢を観れたお蔭で、今や程普は万を越す軍の副将、黄蓋と韓当とワイは千人以上の部下を持つ、大隊長サマですわ。
ええもん食えてキレイなベベ(服)着れてと、お大尽(お金持ち)の様な生活を送っとりますから、心配せんでも死ぬつもりは寸毫もありまへんで殿。」
キッパリと言い切る。
「ハッ・・・ワハハハ!!そうか!そうかいな!!
俺の夢はこれからがええ所やさかい、まだまだ観て貰わんといかんなぁ!
ほなら殿軍は、お前に任せるで祖茂!
・・・ほなまたな・・・。」
「はは!殿もお気を付けて!」
お互いに拱手すると、互いに背を向けてそれぞれの部下と共に、駆け出して行くので有った。
それから数日後・・・
「殿、合流地点に集結した、軍勢の状況が大凡纏まりましたので、報告致しまする。」
「おう、程普頼むわ。」
現況報告に来た程普に、鷹揚に頷く孫堅。
第3手になった祖茂の奮闘で、孫堅・孫策親子は無事に危地を脱出して、南陽郡の南端に近い合流地点に到達して合流。
その後も撤退中にはぐれた兵も、数日で大方集結してきたので、大急ぎで自軍の再編成と、現況確認をしていた所であった。
「当初の我が軍が約1万5千だったのに対し、現況で約1万2千になっております。」
「ちゅう事は約3千の損失を被った訳か・・・。」
重たい溜め息を吐く。
「幾らかは未だはぐれた兵が戻って来て、増える可能性は有るでしょうが、恐らく千にも満たぬかと。
そしてあくまでも聞き取り調査に拠る、未確定のものではありますが、少なくとも千人以上は戦死していると思われます。」
淡々と上げられた報告書を読む程普。
「戦死者の半数以上は、祖茂の殿部隊の者です。」
「・・・ほうか。
我らを助ける為に、命を懸けて踏みとどまった勇士達に、手厚い恩賞を与える。
その恩賞を必ずや、遺族の者に渡す様に。」
「はは!必ずや!」
拱手して頭を下げる。
「ほいで祖茂はどないや?」
「・・・は、その・・・辛うじて此処に到達したものの、半死半生の重傷です。
その上片腕を酷く損傷しており、方士(医者)の見立てでは、か、片腕を切り落とすしかないと・・・戦働きは、戦働きは無理と・・・うう。」
孫堅軍の旗揚げ以来、苦楽を共にした盟友の悲報に耐えきれず、声を詰まらせて泣く。
「ほうか・・・祖茂を親衛隊長の任から外す。」
「「どうか殿!祖茂に御慈悲を!?」」
黄蓋と韓当が揃って哀願する。
「アホ言うなお前ら。
戦働き出来へんモンを戦場に出す方が、死ね言うとんのと同じで、よっぽど残酷やろうが。」
正論を吐いて、哀願を突っぱねる孫堅。
「されど!?・「それに家の台所事情で、祖茂を遊ばす余裕なんぞ有るかいな。
こうも物騒な状況になってもうたら、長沙に残してきた権や国太の事が、心配になってしゃーないさかい、家族の護衛隊長兼執事を、いっちゃん信用出来る祖茂に頼むつもりなんやがな?」
言い募ろうとする黄蓋達の言を遮り、片目を瞑りつつ微笑みながら、祖茂の処遇を伝える。
「「「!?あ、有り難き幸せ!」」」
「俺の後ろを任せれるのは、アイツしかおらへん。
元気に成り次第、そう祖茂に伝えてくれや。」
「「「はは!」」」
盟友に対する温情に、感動の面持ちな三者。
そうして将兵が改めて、主君・孫堅の粋な計らいに感動して、「この人の為ならば!」と忠誠を内心で誓っていると、
「兄や~ん!只今帰ったで~!」
ドスドスと荒々しい足取りで、今後の行動をどうするか袁術と相談をする為と、一連の不始末のケジメをどうするかの、交渉を兼ねた使者として、袁術の許に赴いていた孫静が帰って来た。
普段はにこやかな糸目をしている孫静が、眉間に皺を寄せて、不機嫌そうにしていた。
「おう、ご苦労はん静、どないやったぞ?」
「どないもこないも有るかいな兄やん!
あの袁術のバカ坊は、とことんウチらを舐め腐っとるわホンマに!」
憤慨気味に答える。
「何て言いよったんや、バカ坊のアホタレは?」
「開口一番、「今回の敗戦は、其方に有る」言うて、責任転嫁して来よったわい!」
「「「「「はぁ!!??」」」」」
孫兄弟の側で聴いていた諸将が、信じられないといった表情を浮かべ、徐々に怒りの表情に変化する。
「どういう理屈やねんな!?おいちゃん!?
自分が油断して奇襲を受けた上、マトモに統率もとれんと潰走したんが発端やろがな!?
寧ろこっちは袁術の潰走に巻き込まれた、哀れな被害者の立場やろがい!?」
憤然と立ち上がって、孫静に詰め寄る。
「止めんかい策!静に言うたて性がないやろが?
ああいうバカ坊な輩はな、「ええ事は自分のお蔭、悪い事は他人の所為」を当たり前に思とる、自己中心的な思考をしとる奴やねん。
その場の感情や思い付きで動く奴に、理屈なんぞ通用せーへんわ。」
今までに出会った中央の、名士・名家連中を思い浮かべ、諦め顔で首を左右に振る。
「せやかて・・・!」
「どっちみち静に言うても意味ないわい。
んで静、お前はどうしたんや?」
尚もゴネようとする息子を制して、交渉を全権委任した孫静に、改めて問い質す。
「ああ、余りにも阿呆らしい屁理屈捏ねるモンやさかい、「盟主の袁紹に一連の問題を訴える為に、此処を去って本軍と合流する」言うて突っぱねたわ。
そしたら慌てて泣き言を言うて来たわ。」
フンと鼻を鳴らす孫静。
「袁術と袁紹は犬猿の仲なんは有名やしな。
それに俺らが南部戦線を抜けたら、ホンマに孤立無援になって、全滅待ったナシになるぐらいの分別は持っとったか、バカ坊殿でも流石に。」
保身には長けてやがると呟く。
「んでそのバカ坊殿の要求と見返りはなんや?」
「・・・とりあえず要求は、ウチらが負けた事にして欲しいで、見返りは出来る限りの武具・兵糧の、無償提供やとよ。」
投げやりな口調で告げ、
「筋書きとしては、「ウチらが逸って袁術軍の後方支援と補給を疎かにし、袁術軍からの兵糧の供給が途絶えて弱った所を、董卓軍にやられて敗走した」って事にしてくれやとさ・・・アホくさ。」
袁術が考えた、くだらない三文芝居の筋書きを、呆れ気味に貶す。
「・・・そんな嘘丸出しの筋書き、諸侯に信用されると本気で思とんのかいな、袁術のオッサンは?
何処の軍に、別系統の軍に己の生命線である、兵糧の供給を依存・委託するバカがおんねんな?
面識の無い見ず知らずの他人に、己の財布を預けるのと同じ事やろそれ?
オトンと変わらんぐらいの、ええ歳した大人が言うこっちゃないでホンマに・・・アホ過ぎる。」
叔父の呆れ顔と、全く同じ表情を浮かべる孫策。
古今東西世界レベルでそうだが、指揮系統や所属の違う多国籍・他軍同士が、援助以外で武器・食糧を共有したり、特定の軍に供給を依存・委託する事など、基本的にはまず有り得ないのである。
何故なら援助(無償提供)以外で、特定の軍(国)から供給を受ければ、普通に軍(国)の間の「貸し借り」となり、何らかの見返りを要求されるリスクを負うし、最悪その特定の軍が居なくなると、ライフラインが消失し、あっという間に自軍が崩壊するリスクも、背負う羽目になるからであった。
まぁ、反董卓連合軍の場合は、袁紹に食糧供給を依存し過ぎると、自軍の将兵が袁紹に取り込まれ、指揮権を奪われるリスクも有ったが。
なので当然、各自の諸侯は独自の財布(供給源)を持っており、大概の諸侯は孫堅と同じく、任地の郡からの供給を受けていた(所属している州の刺史や牧は、どっちつかずの日和見に走り黙認状態)。
逆に袁術と曹操は、供給源となる任地を持っておらず、曹操の場合は盟主・袁紹や、駐屯地兗州の統轄者・劉岱からの無償援助と、残存している唯一無二の宦官閥の希望の星として、僅かに残った宦官閥の残党からの提供と、隠居した実父・曹嵩経由の援助で、辛うじて賄っていた。
そして袁術の場合は、袁家の当主代理として家政を取り仕切っていた、父・袁逢の部下達が袁術の下に集い、袁家がコッソリ持っていた隠し財産や、首都洛陽と州都襄陽の中間点で、衛星都市して栄えている南陽郡の宛を占拠し、宛と周辺部の富を吸い上げる事(主に略奪)で、軍を賄っていたのである。
そんな袁術軍の様に、マトモな供給源を持っていない、他軍の兵糧を頼るなぞ不安定過ぎて危険だし、補給の重要性を熟知している歴戦の孫堅が、他人任せにして自分の財布を預けるが如き愚行を、間違ってもする筈もなかった。
父・孫堅の薫陶を受けている孫策が、若年の自分でも理解出来る無理筋な与太話を、父と歳が変わらない袁術が言っている事に、呆れ顔で「駄目だこりゃ、頼りにならんわ」となるのも、至極当然の事であった。
「どないする?兄やん?
このまま袁術のバカ坊と付きおうとったら、振り回されて貴重な将兵を、損耗するだけやで?
見切り付けて、長沙に戻った方がええ事ないか?」
孫静が消極的な撤退論を述べると、
「いやいやおいちゃん、それは逆やろ!?
こんだけ犠牲を出したんや!もっと功績や手柄を立てて貰うもん貰わんと、犠牲になった将兵が報われへんやろがな!
袁術のオッサンに付き合わんと、袁紹のオッサンの所に行って、向こうで活躍したらええやんか!?」
孫策が積極的な進軍論を述べる。
その後孫堅軍の軍議は、進軍論と撤退論との意見に割れ、激論を交わす事となる。
やがてお互いの言い分が尽きたのか、徐々にクールダウンして静かになり、
「「兄やん(オトン)!どないするんや?」」
孫静と孫策が、孫堅に決断を促す。
「う~ん、せやな~・・・意見は両方共却下や。
個人的な考えとしては、袁術の要求を受け入れようと思っとる。」
「「「「「はぁ!?」」」」」
2人と違う第3論を述べて、諸将を驚かせる。
「何言うてんねんオトン!?正気か!?」
「策の言う通りや兄やん!袁術のバカ坊の為に、わざわざ泥を被る気なんかいな!?」
2人共に父と兄に詰め寄って怒鳴る。
「ええい近付き過ぎや2人共!鬱陶しいわい!
とりあえず俺の話を聞けて!
先ずは静の意見を却下した理由は、今退いてもうたら、後でその報いが返って来るからや。」
「報い?」
距離を取って、首を傾げて尋ねる。
「ああせや、報いや。
静の言う通りにして退いて、袁紹が勝った場合は、袁紹達から観れば、俺らは敵前逃亡の卑怯者になって、討伐されるのは確実になるやろな。
逆に董卓が勝っても、俺らは華雄を討ち取ってもうてるさかい、それがデカい痼りになって、袁紹達と同じ討伐対象になるだけや。」
肩を竦めて、詰んだ未来予想図を述べた。
「あっ!?・・・確かにそうなってまうな。」
納得して頷く。
「次に策の意見を却下した理由は、袁紹達が中央の「名家閥」やからや。
コレが皇甫嵩や朱儁のオッチャンやったら、袁術なんぞ放たくり捨てて(放り捨てて)、サッサと合流するんやがな。」
「はい?どう言うこっちゃねんオトン?」
孫策も首を傾げて孫堅に尋ねる。
「前に言うた、「ええ事は自分のお蔭、悪い事は他人の所為」と付随してな、「他人の手柄や功績は、横取りして奪ってナンボ、自分の面倒事や厄介事は、他人に押し付けて投げてナンボ」が、中央の名家だの名士と呼ばれる奴らの、極々当たり前の常識的思考やねんコレが。」
苦々しい表情で、溜め息混じりにボヤく。
「はい?破落戸や遊侠者顔負けの、腐った屑人間やんけそれ・・・。」
「正しくお前の言うと~りや策。」
唖然と呟く息子の言に、深々と頷く孫堅。
「まぁ、お前の場合は、(周)瑜君との付き合いが深いさかい、中央の古株の名家や名士を、周家の人達と同等と思とってもおかしないけどなぁ・・・。」
苦笑しつつ、
「実際の名家・名士連中の大概の奴は、相手に依って態度を変える、廬江郡太守の陸康(陸遜の族父)のアホみたいな奴か、此処に来るまでの行き掛けの駄賃に始末した、前荊州刺史・王叡(王朗の一族)みたいな小悪党が、大半やと思とって間違いないで。」
厳しい現実を教える。
「・・・ホンマかいな・・・ほならオレ、友人に恵まれとったんやなぁ。」
父の言を受け、しみじみと呟く。
「まぁそういうこっちゃ、瑜君を大事にせえよ?
つー事で、袁紹の許に行っても「使い潰しの利く駒」扱いされて、ええ様に利用されるだけや。
連合軍の中で唯一白星を挙げてるから、余計にな。
後は補給路が延びきってまうさかい、供給が細くなって滞る危険性も、上がってまうしな。」
「・・・ああ、確かにソレが在るわな。」
軍事的知見で、直ぐ様リスクを理解する。
「そういった理由で、2人の意見は却下する。
それに静が仕入れて来た情報を、俺的に分析した感じでは、ほぼ十中八九袁紹達の負けや。」
「おいおいおい兄やん!?」
孫堅の爆弾発言に、素っ頓狂な声を上げる孫静。
孫堅の発言を聴いて諸将も、ざわめき始めた。
「お前ら、まぁ聞けて!
1月と云う、食糧が最も集まらへん時期に挙兵。
率いとるのはド素人の指揮官で連戦連敗、兵は寄せ集めの雑魚で、連携感皆無の烏合の衆。
挙げ句に洛陽に入るのに攻略せなアカン、虎牢関を始めとする関門の要衝は、ガッチリ董卓に押さえられてると来とる。
是ほどまでに狙ったかの如く、悉く天地人の理に外れとんのに、勝てる道理があるかいな。」
理路整然と、軍事的知見を述べる。
「なる程な~・・・兵法の基本である、天の時・地の利・人の和の天地人の法則を、初っ端から外しまくっとるわ確かに。」
コクコクと理解して頷く孫策。
「そやかて兄やん。
自分で今更帰る事も出来へん言うたやんか、どないするんやコレから?」
「そやから袁術の要求を受け入れて、様子見の「見」に入るんやがな。
ボロ負けに大敗した我が軍が、軍の再編成の為に後方待機するんは、何にもおかしないやろ?」
ニタリと含み笑いを浮かべ、
「まさか言い出しっぺの袁術も、敗軍に前を守って貰うという、みっともない事は出来ひんやろーし。
オマケに武具・食糧もタダで貰える特典付きや。
一石二鳥のボロ儲けやろがな!」
呵々大笑する。
「なる程・・・ほたら兄やん、場合によっては董卓側に付くんか?」
「場合によっては、な。
元々俺らは袁紹達のボンボン共に、恩義が有る訳でもあらへんし、董卓にも怨恨が・・・あー全く無い訳でもあらへんけど、そうは無いし。」
とある悪辣な少年に因る、策謀の延長上で囮にされて、韓遂達に追いかけ回された記憶が過ったが、脳内で手を振って慌てて打ち消す。
「丁度ええ具合に手土産も、俺らの直ぐ近くを彷徨いとるしな・・・。」
「間違いのう、これ以上ない手土産になるわな。」
兄弟揃って、袁術の陣所がある方向を見つめる。
「俺らの当初の目的である、目の上のタンコブやった王叡を、キッチリと始末出来たし、周囲に一目置かれる活躍もした。
どっちが勝っても負けても、立ち回れる立ち位置も確保でけたし、これ以上動いても蛇足にしかならへんやろうから、ノンビリ様子見しようや。」
居並ぶ部下達に呼びかける。
実際に連合軍の中でも唯一しがらみの無い、フリーな立ち位置だったのが孫堅であり、連合軍の存在を最も上手く利用したのも孫堅だった。
孫堅が長沙郡に赴任した時、上司であり州刺史だった王叡は、一銭の援助も手助けもせず放置したクセに、孫堅が統治に成功した途端、いきなり税金の割り増しや蛮族退治の兵役を課すようになった。
孫堅が苦心して統治に成功した、長沙郡の利権を奪おうと、州刺史の立場を笠に着て孫堅に対し、やりたい放題言いたい放題してきたのである。
当然そんな無体な事をされた孫堅は怒り、王叡との間とは衝突が絶えず、ドンドン関係が険悪化していく最中、袁紹が反董卓連合を結成。
糜芳と同じ徐州出身で、地方官僚を多く輩出した地方名家・王家の出身でも有った王叡は、「同じ地方名家出身の董卓が、自分よりも上位なのが気に食わない」という個人的な理由と、名家中の名家だった袁紹からの勧誘を受けて、自尊心に則って誘いに乗り、反董卓に組したので有った。
それを知った孫堅は、「好~機」とばかりに王叡に同調したフリをして近付き、近付いた途端に「この者は、主上の勅命を無視した天下の大罪人である!」と糾弾し、バッサリと処断したのである。
そうして邪魔者を排除した後、「中央が荒れれば、自分はもっと飛躍出来る!」と踏んだ孫堅は、袁紹側に組した王叡を始末したのに、ちゃっかりと袁紹側に属すという、ダブスタ=ダブルスタンダード的行動を行っており、わりかし抜け目のない立ち回りをしていたので有った。
それはさておき、
「せやな、袁紹達も自分の都合で動いとるんやし、ウチらウチらでこっちゃの都合で動いても、文句言われる筋合いも無いわな。」
自分達の立ち位置を思い出し、コクコクと頷く。
「そう言うこっちゃ静。
早速袁術のバカ坊殿に承諾の報せと共に、袁術軍から根刮ぎ武具・兵糧を掻っ払って来いや!
ど~せ彼奴等が持っとっても、董卓軍に奪われてまうのが関の山やさかい、俺らが有効利用したった方がええやろ?」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「ハハハ!そりゃそうや!
ついでに、「後方の安全は我々にお任せを」て言うておいとくわ兄やん!」
「プッ・・・ワハハハ!そりゃ夕ップリと、皮肉の利いた言い回しやなそれ!?」
兄弟揃って笑い合うので有ったが、
「・・・グス、兄やんウチは嬉しいで。
武勇一辺倒やった兄やんが、そないに政治的な配慮も、ちゃんと出来る様になったんが・・・。」
突然、兄の成長を涙して喜ぶ弟。
「やかましいわボケ!?いきなり泣きだして、何を言いよるじゃお前は?俺のオトンか何かか!?
お前らもお前らで、何で貰い泣きしとんねん!?
想像以上の過小評価に、こっちが泣きたいわい!」
顔を真っ赤にして怒鳴る孫堅。
こうして成り行き上、ガッツリと連合軍に組した、曹操とは全く別ベクトルのスタンスで、飄々と事の推移を見守る、孫堅とその一党なので有った。
続く
え~と、なんかどっかのサイト?で当作品に、評価ポイントの水増し疑惑が、浮上しているらしいとのコメントを頂いたのですが・・・。
正直言って、「はい?何それ?」とリアルに青天の霹靂的な感覚を、実体験した次第です。
個人的な感想としては読者の方々が、優しい評価をしてくださった賜物だと思っていますし、プロや熟達した人が調べれば直ぐに解る(らしい)、虚しい努力をする暇や時間が有るなら、一文字でも一文でも書いて、楽しんで読んで貰える方が、よっぽど有意義なんですがねぇ。
世間様に当作品を、なろうさんから出している以上は作品に対する、賛否両論・毀誉褒貶を受けるのは当然の事ですし、承知と覚悟の上で書かせて貰ってはいるのですが、何というか予想外の問題に、戸惑っているのが正直な所です。
どちらにせよ、貴重な時間を割いて当作品を読んでくださっている方々や、賛否を問わず労力を惜しまず、感想を書いてくださる方には、「感謝」の2文字しかありませんが。
恐らく不審に思った方が、運営さん側に通報をされているのでは?と思うのですが、現段階では運営さん側から、何の通知も連絡も全く無いので、多分問題が無かったのではとは思っていますけど。
それはさておき、
楽しんで読んで頂ければ嬉しいです・・・出来れば本来と違う楽しみ方は、ご遠慮頂ければ幸いにございます。
優しい評価と、何処のサイトで問題提起されているのか、教えて欲しいです・・・めっちゃきになる!ので。




