その9
読んでくださっている方々へ
え~と、何とか書き上がりましたので、早速投稿します。
司隷虎牢関前曹操軍駐屯地
曹操は頭を抱えて唸っていた。
「ぬおおぉぉぉ・・・何もかもが足りん!このままだと軍の維持が出来ん!・・・どうすれば!?」
自分の尻に火が着くのを・・・即ち、自軍の財政がドンドン火の車になっていくのを。
4月、突如として董卓軍が戦線を後退させ、虎牢関などの要害に閉じ籠もって、防衛戦を展開。
董卓軍が退いたのを観て、間を置かず連合軍も後を追うように進軍を始める。
初戦は勝利したものの大敗して、思わぬ大損害を被った・・・らしい孫堅軍や、袁紹達の本軍や曹操達の支軍と同じく、連戦連敗続きの袁術の南方別動軍も合流し、洛陽に入京するのに突破しなければならない関門・虎牢関に、連合軍は集結したのだった。
そうして集結した諸侯は、誰が虎牢関攻略の先手(大損害が必至)を務めるか、積極的に交戦した結果、摩耗し過ぎてごっそり兵数の減った曹操、大敗したらしい孫堅、騎兵団な為に攻城戦は不可の、公孫瓚の軍を除く諸侯が、譲り合いという名の押し付け合いを開始。
結局は敵軍の目前で、押し付け合いをしつつ傍観するという、有る意味剛胆な行為を行い、無為な時間と兵糧の浪費をしてしまっているので有った。
それだけなら曹操も、ギリギリ現状維持が出来ていたので、「自分が先手に選ばれなくて良かった」で済んでいたのだが、糜芳の置き土産の策謀、「2龍相剋の計」が董卓に依って発動し、一気に「負」の方に天秤が傾いたのである。
各地に散らばる皇族・王族宛てに、宗室=本家当主である献帝から、謀反に加担した劉岱の皇族からの除名と、州刺史の解任が通達され、あっという間に劉岱の処遇が広まったのだった。
劉岱が存在しない者とされた為、自動的に家の家督が実弟の揚州刺史・劉繇に移行したのだが、これまた献帝から注文が入り、「劉岱なる人物の討伐・誅殺を実行次第、相続を認める」とされ、本家の献帝から承認を得ないと、当主に成れない分家筋の劉繇は、宙ぶらりんな存在になると共に、「討伐対象と繋がりが有る人物」として、本家公認の監視役まで付けられて、鵜の目鷹の目状態に晒されてしまう。
こうして「皇族の2龍」として持て囃された、劉岱・劉繇兄弟の声望は大暴落し、特に劉岱の場合は悲惨なモノで有った。
連合軍に劉岱の処遇が知れ渡る(荀攸の流言飛語工作)と、劉岱の率いていた兗州の将兵が、「刺史でも皇族でも無い者に、我々が従う義理も義務も無し」と離反を決意。
集団脱走を決行して全軍が逃亡してしまい、一夜にして1軍が忽然と消失した上に、刺史就任以前からの側近までも、逃亡して行方を眩ますという、四面楚歌で有名な項羽より、酷い有り様で有った。
そうして宗室非公認の属尽よりも、遥に劣る存在価値に成り下がり、利用価値も喪失した庶民の劉岱は、連合軍からもあっさり放逐されて、帰る家も無く頼れる者も居ない、リアル家無き青年となり漢帝国内に於いて、存在自体が抹消されたので有る。
(まぁ、そういう事態になった経緯は、本人が自分で選んだ行動の結果だから、自業自得としか言いようが無いし、同情の余地も無い・・・だがな)
頭を抱えつつ劉岱を脳内で評論し、
バンッ!!
「何でそのとばっちりを、直接関係のないオレが、受けにゃあならんのだ!?」
声に出して、拳を机に叩きつける曹操。
劉岱が兗州刺史を解任された結果、兗州の各郡は曹操達連合軍と、敵対もしないし味方もしないという中立になった為に、兗州で活動していた曹操はモロに煽りを受け、劉岱経由の大口の補給源を喪失し、軍の維持もままならない事態に陥っていた。
「いや操・・・どう考えても劉岱の方が、お前のとばっちりを食らって、被害に遭ったんだろうが?
何を被害者面しているんだお前は?」
何言っているんだお前?と、半眼で睨む夏侯惇。
「・・・やっぱりそう思う惇?」
握り拳を緩めて、ヘナヘナと肩を落とす。
「そりゃ曲がりなりにも皇族を、どうこうしようなどと、埒外の非常識な企みをするのは、どう考えても糜芳殿しかおらんわ。」
「だよな~・・・漢の常識にドップリ浸かってる荀攸や、長年に渡って従って来た董卓が、思い付く様な策謀じゃないわな。」
夏侯惇の予測にコクコクと頷く。
「それでどうするんだ操?
完っ全にお前が糜芳殿に、要らんちょっかいを掛けた事への仕返しだぞコレは。」
「・・・どうしよう?」
弱った表情を浮かべる。
「こっちがソレを聞いているんだよ!?
ええい、仮にも一軍・一家の主たる者が、情けないツラを見せるなたわけ!
しゃきっとしろ!しゃきっと!!」
近しく親しい者にしか見せない、本音と弱音を吐く曹操を叱り飛ばした後、
「・・・ハァ、とりあえず弁解の手紙は送ったが、どれほどの効果が有ることやら・・・。」
溜め息混じりにボヤく。
「一応俺も、糜芳殿の仲人役を務めた親父殿に、嘆願書を頼んで書いて貰ったんだが・・・。」
「お前も書けよ!お前も!?
何で叔父貴に書いて貰ってるクセして、自分は詫び状を書かないんだよ!?
貴様が当の当事者だろうが!!」
ビシッと指差して、非難する夏侯惇。
「いやあ、俺の立場でホイホイ詫びを入れるのは、鼎の軽重を問われるかな~と思って・・・。」
「実の親で有る叔父貴に泣きついてる時点で、とっくにお前の鼎の軽重なんぞ、羽毛の如く軽くなっとるわ馬鹿たれ!
能書きを垂れとらんと、サッサと書け!」
手持ちの竹簡を投げつけて、怒鳴る。
「・・・恐らくだが先日訪れた、徐州出身のあの商人を経由しないと、糜芳殿の手元まで届かない可能性が、かなり高いがな。」
投げられた竹簡を要領よくキャッチして、意味深な事を言いつつ、ポンポンとお手玉の様に玩ぶ曹操。
「うん?どう言う事だ?届かないとは?
それに徐州出身の商人って、糜芳殿の兄君の友人とか申していた者の事か?」
首を傾げて、つい先日の記憶を辿る。
糜芳に用事が有って訪ねると言って、曹嵩の紹介状を携えて通行の許可を取りに来た、温厚そうな若い商人と年配の商人が現れたので、「糜芳と直接的に連絡が取れる(手紙が届く)大好機!」と喜び、丁重に扱ったので有った。
「ああ、兄君の糜竺殿とは、親密な間柄と言っていた、あの若い商人だよ。」
その通りと頷きつつ、
「今まで利用していた、陳宮の持つ洛内の情報元が、「荀攸が董卓の幕下に加わった」という伝達を最後に、連絡がパッタリ途絶したらしい。」
会話のバトンの如く、夏侯惇に竹簡を投げ返した。
「なんと・・・と言う事は陳宮殿の情報網は、何進大将軍の元懐刀だったあの荀攸に、壊滅させられたという事か?」
「さあな?詳しい事は解らん。
陳宮がアレコレと連絡を取ろうしても、向こうからの返信は、梨の礫なのは間違いない様だ。
荀攸が董卓幕下に入った途端、そうなった様だから、確実に防諜されてはいるのだろうが。」
肩を竦めて苦笑しつつ、
「今我々が置かれている現状は、虎牢関以西即ち洛陽の情報が、一切入らなくなっている。
と言う事はだ、此方から洛陽より西の涼州にいる、糜芳殿に繋ぎを取るのも難しいという訳だ。
向こうから連絡が無ければ、次に繋ぎが着けれるのは、あの若い商人待ちになるだろうな。」
どうにもならんと、バンザイする。
「なる程、そういう事か。」
納得顔の夏侯惇。
「とりあえずは、親父殿の嘆願書次第だな。
第3の父に等しい仲人役の嘆願を、幾ら糜芳殿でも無下に出来はすまいよ・・・まず・・・多分・・・きっと。」
非常識な行動をしている糜芳に対し、自分の言っている事に自信が徐々に無くなっていったのか、語尾がドンドン弱くなっていく。
「まぁ、どのみち糜芳殿に対しては、我らには出来る事は殆ど無いと言う事だな?操。」
「そう言う事だ。」
コクリと頷く。
「それならこれ以上話しても詮無き事か。
しかしながら確か荀攸と董卓は、抜き差しならぬ仇敵に等しい間柄だったと聞いていたが、よく和解したものだな?」
首を傾げて疑問符を浮かべた。
「そりゃ当然、誰かが仲介役というか仲裁役に入ったんだろ。」
「ふむ、揉めた両者に繋がりが有り、尚且つ降って湧いたが如く、ピタリと両者の仲裁を務めたと有らば・・・どう考えても糜芳殿だろうなぁ。」
「間違いないだろうなぁ。」
夏侯惇の予測に同意する曹操。
「・・・お前、寝た子を起こした処か、眠れる獅子の頭を叩いたんじゃないか?オイ。」
「・・・そうかもしんない・・・。」
頭を抱えて呻く。
因みにだが結果的に曹操達は、糜芳とは何かと縁があるうえに、ちょっかいを掛けてしっぺ返しを受けた事で、董卓の裏に糜芳が居るのを察知出来た。
しかし孫堅というよりも、孫堅軍の諜報を担う孫静は、糜芳とは縁薄く又、孫堅達は中央の政治情報より、目前の董卓軍の動きに注視した為、糜芳の存在が抜け落ちていた。
もしも孫静がもう少し中央情勢にリソースを割き、悪辣な糜芳の存在を察知していれば、ifが有ったかも知れないが、歴史の修正力なのか、概ね歴史に沿った行動をとっている。
それはさておき、
「・・・とりあえずコレ以上考えると、頭が痛くなりそうだから、止めようか。」
「そうだな、気鬱になりそうだから止めるか。」
曹操の提案に同意する。
そうして別の話に持って行くも、
「・・・ぶっちゃけて操よ、今の連合軍の戦況と今後をお前はどう観る?」
「惇、お前・・・別の意味で頭の痛くなる質問をしてくるなよ。」
額に手を当てて愚痴る。
「本音と建て前、どっちが聴きたい?」
「無論本音に決まっているだろう。」
早く答えろと、目線で急かす。
「先ず戦況については、9割9分我らの負けだろう、話にならん。
実質、洟垂れ坊主の3~4人ぐらいが、巨漢の大人1人に喧嘩売っているのに等しい戦力差が有る。
・・・正直、どうにもならんな。」
溜め息混じりに、戦力差の分析を述べる。
「やはり・・・か。」
最前線で戦い続けて、肌身で実感した予測が正しかった事に、何とも言えない表情を浮かべた。
「それにウチの軍も含めて、深刻な食糧不足が、連合軍内で発生しているようだ。
昨日、袁紹に食糧援助を頼みに行ったら、他の連中も嘆願していたよ。」
「なんと、諸侯もか?
自分の任地からの補給が、我々同様に保たなくなっているのか。」
歴とした供給源が在るのに、自軍と変わらない懐事情に愕然とする。
「それを加味した今後の展開予想だが、このままだとほぼ確実に、食糧難で連合軍は瓦解するだろう。
6月になれば麦の収穫期に入るから、多少は息を吹き返すだろうが、其処まで軍内の食糧が保つかどうかが甚だ疑問だ。」
現状を分析して予想を述べ、
「対して董卓側は、何進大将軍が存命中にタップリ備蓄していた食糧と、全国から集まった租税(麦・米)を使い放題。
備蓄食糧でさえ、10万の軍が数年は維持出来る量なのに加えて、集めた租税の分も足せば余裕で5年は保つだろうな。」
軍部に所属していた際の、内部情報を開示して、より現実味を持たす。
「話しにならんではないか・・・。
それで万一瓦解した場合はどうする?」
沈んだ表情を浮かべて、主君で有る曹操を不安げに見つめる夏侯惇。
「最悪の場合は一か八か漢高祖様の如く、何処ぞに拠って立つしかあるまい。
連合軍が解散しても、指名手配されているのは変わらんし、大人しく座して謂われのない罪に服すつもりもないしな。
まぁ、漢高祖様の様に天下の道が拓けるのか、張純の如く竜頭蛇尾で終えるのかは、天のみぞ知る事では有るが。」
はっきりと大胆に言い切る姦雄。
(コイツは躊躇もなく堂々と・・・。
相変わらず窮地に陥ると、余計に肝が据わると言うか、太くなると言うか・・・。
何故か危ういのに不思議と輝いて見えるから、質の悪い魅力を持っていやがる)
乱世にこそ輝く素質を、改めて認識する。
「・・・解った、其処まで腹を括っているなら、オレも腹を括ろう。
我ら夏侯一族はお前と一蓮托生故、一族一門の命運を預ける。」
「ああ、これからも宜しく頼む。」
肝胆相照らす2人で有った。
「それで、お前が先程唸っていた、喫緊の食糧問題はどうなんだ?」
「とりあえず袁紹と交渉して、幾らかの食糧を提供して貰う事が出来たから、当座の所は何とかかんとか凌げるだろう。
後は親父殿の援助が頼みの綱だな。」
打って変わって、沈痛な面持ちで告げる。
「隠居した叔父貴頼りか・・・。
しかしよくよく考えて観ると、補給源を持っていても食糧確保に難儀している諸侯に比べて、補給源を持っていない叔父貴が、それなりの援助が出来ているのは、何気に結構スゴい話しだよな。」
顎に手を当てて、感心したように頷く。
「確かに。
あの頼り無げな親父殿が、何処からか援助を引っ張り出してくる手腕を持っているなど、予想だにしなかった。
「疾風に勁草を知る」と言うが、困難に直面した今に、親父殿の強さが理解出来るとは皮肉なモノだ。」
夏侯惇の励ましにも聞こえる話に、子として嬉しい様な、自身が不甲斐ない様な、複雑な感情を覚えた曹操で有った。
そうこう曹操達が四方山話をしていると、
「殿、袁紹殿より物資を頂戴して参りました。」
援助物資を受け取りに、袁紹の陣所を訪っていた陳宮が戻って来た。
「ご苦労陳宮、コレで当座は保つな。」
「はい、何とか賄えるかと。
それよりも殿、ちとお耳に入れたい事が・・・。」
声を潜めて、曹操に近付く。
「何だ?何か有ったのか?」
「はい、実は袁紹軍の物資管理の担当官と話した際、さり気なく探りを入れた所、曰わく袁紹軍の食糧備蓄が、枯渇寸前で有ると嘆いておりました。」
周囲に視線を巡らし、漏れ聞こえがない様に、声量を落として話す陳宮。
「なっ!?・・・ソレは本当か?
袁紹の所はウチと違って、任地だった青州からや、姉の嫁ぎ先の冀州の大豪族・高家といった、かなり太い補給源を確保していた筈で有ろうが?」
慌てて口を抑え、同じく声を潜める。
「どうやらその2カ所共に、「無い袖は振れない」と供給を断られたらしく・・・。
特に青州側の方は、正式に連合軍からの離脱を告げて、袁紹と袂を分かったそうです。」
「なる程・・・さもありなん。
己の蓄えを放出して饉えてまで、袁紹を助ける謂われは無いだろうからな。」
自分でもそうすると、理解を示した。
「おい操、という事は・・・。」
「ああ、いよいよ腹を括らんといかんようだな。」
思った以上に早くなりそうな、Ⅹデーの到来に緊張感を持つ曹操で有った。
そうして、緊迫した雰囲気を醸し出していた曹操達だったが、
「殿!ご隠居様からの、援助物資の護衛に就かれていた、夏侯淵様が帰還なさいました!」
「おお!折り良く親父殿の方まで届いたか!」
久方ぶりの朗報に、顔を綻ばせる。
「ご苦労だった淵・・・ん?」
笑顔で労うも、ズカズカと無言で曹操に近づいた夏侯淵は、
ガシッ!!
「よぉ、只今帰ったぞ操よ。
早速、乱取り稽古をしようぜ?」
片手で襟首を掴んでヒョイと持ち上げ、「殺る気」な笑みを浮かべて、稽古という名のお仕置きを提案するので有った。
「なんでだよ!?糜芳殿の件は前の稽古で、水に流してくれたんだろうがよ!?」
短身痩躯な身体を、大兵の夏侯淵に持ち上げられつつ、ジタバタともがく姦雄。
糜芳にチョッカイを掛けた事が、夏侯惇に露見した時に、「後になれば成る程、尾を引いて拗れるし、痼りになる」と、アッサリ夏侯淵にチクられ、怒った夏侯淵に依り稽古に託けて、容赦なく前にぶちのめされているのであった。
「それとは別件だ安心しろ。」
「何処に安心出来る要素があるんだよ!?」
抵抗を続ける曹操を無視しつつ、
「嵩叔父が援助してくれている、物資の出所を貴様は知っているのか?」
探る様な目つきで尋ねる。
「?・・・いや、知らんが?
恐らく呂伯奢の様な、懇意になった商人辺りからとは、推測しているが。」
プラーンとぶら下がりながら答える。
「援助物資の大半は、糜家からの供出でその内の半分は、糜芳糜家からの提供だそうだぞ操?」
グイッと顔を近付けて、睨み付ける。
「へ?そうなのか?
・・・っ!?知らん知らん、その事は今始めて知ったんだって!!本当だって!?」
ジタバタと弁明する姦雄。
曹嵩の援助物資の中身は、糜芳の紹介で徐州に隠居した、曹嵩の世話役を済し崩し的に務めた糜董と、糜芳に代わって親孝行と投資を兼ねて、義父の行動を察知した糜芳の妻・蔡夫人こと蔡琰が、曹操軍に提供していた。
お互いが温厚篤実な性格で波長が合い、お互いに隠居して破天荒な子を持つという、共通点が有った為に出会ってすぐに意気投合。
どうにか子の曹操の手助けをしたいと、私財を切り売りする曹嵩に、深く感情移入した糜董が積極的に買い取り、買い取り価格以上の武具・兵糧と交換していたのである。
そして蔡琰の方は、「夏侯家にコッソリ援助しろって旦那様が言っているし、一族の曹操にも援助した方が良さそう、連合軍の副盟主に伝手が出来るし」という、クレバーな思考のもと抜け目なく、義父の提供している武具・兵糧に上乗せをしていた。
結果的に曹操軍には福音を齎したが、曹操自身には祇園精舎の鐘に等しい、皮肉な結果を齎す事になり、知らず知らずの内に夫の報復行為の幇助をしていたので有った。
それはさておき、
「親父殿の件は本当に知らんて!?
惇、お前からも淵に言ってくれ!?」
タヌキ型機械人形に泣きつく某少年の如く、夏侯惇に擁護を哀願するも、
「構わん淵、やれ。」
血も涙も情けも有るが、容赦はない従兄弟にバッサリ見捨てられる。
「ちょっと惇さん!?」
「夏侯一族の者が、不義理をしたらどうなるか、もう一度教えて殺れ。」
「なんか不穏当な発言をしてないか!?」
「よしきた惇兄、任しておいてくれ。」
笑顔で襟首を掴んだまま、連行していく。
「さて、陳宮殿、殿が志気昂揚の為に公開稽古をしている間、やれる事をやっておきましょうか?」
ドップラー現象を残しつつ逝く、曹操を見向きもせずにニッコリと微笑む。
「はぁ・・・宜しいので?」
「宜しいも何も、殿自身が望んでなった事。
我らが気にする事は有りますまい。」
淡々と曹操の席の横に、積まれてあった竹簡を取り、書類処理をしていく夏侯惇。
「はぁ・・・左様で・・・。」
唖然としつつも夏侯惇を倣って、書類処理に勤しむ陳宮であった。
こうして連合軍内がバタバタと、各陣営で騒いでいる同時期に・・・
司隷虎牢関後方董卓軍駐屯地
董卓は焦燥感に駆られていた。
「ええい、長安遷都計画の進捗状況は、どがいになっとんじゃい!?」
幕舎の中で吠える魔王。
「はっ!董旻様の定期連絡に依れば、2割強に至っているとの事!」
「もっと急がせろ!!
昼夜を問わず、寸暇を惜しまずとな!!
国家の危急存亡に関わる一大事ぞ!!」
怒鳴る様に念押しをする。
「ハハッ!直ちに!!」
「・・・クソったれのボンクラ共がぁ!
悉く漢に仇をなしよってからに!!
黄巾賊よりも質の悪い奸賊共め!」
唾を吐き捨てる様に罵る。
「オヤッさん落ち着いてくださいや。
騒いだけんて、どがいにもならんのですけん。」
「解っとるわい、そがいな事はや!
そう思たかて6月の収穫期までに、大量の棄民・流民が発生する前に、長安に移転が間に合わなんだら、漢王朝が滅亡の危機に瀕するんやけん、焦りもするやろが!?」
イライラと牛輔の諫めに反論する董卓。
4月に突如として董卓が籠城を開始したのは、籠城するしか漢王朝滅亡の危機を、防ぐ手立てが無かったからであった。
その様な事態が発覚したのは、凡そ1ヶ月程前に遡るので有った。
洛陽相国府相国執務室
3月、荀攸が献策した、連合軍に対して「積極的攻勢」か「消極的守勢」の、どちらに方針を定めるか董卓政権を支える、皇甫嵩・朱儁の軍人コンビと、廬植・蔡邕の文官コンビが意見を交わしていた。
意外にも軍人コンビは、兵士の損耗を避ける為に守勢策を推し、文官コンビは一刻も早く民心を落ち着かせる為に、攻勢策を推すという、立場と違うあべこべでさでは有ったが。
そうして意見を交わしている時に、完全に政治畑の蔡邕が有る事に気づき、事態は急変を迎えるので有った。
「・・・ん?はて?・・・これは?」
「どうかしたのか蔡邕殿?」
顎に手を当て、突然怪訝な表情を浮かべた蔡邕に、董卓は問い掛けた。
「うん?いや、相国閣下よ。
この方針を定めた後の事を考えておられるのか、ちと疑問に思ってのう・・・。」
「後の事、とは?」
再度首を傾げて問い掛ける。
「無論どちらの方針に定めるにせよ、鎮定後の後始末の事じゃよ閣下。」
「え・・・?そりゃ黄巾賊と同じ対処をすれば、良いのではないのか?」
違うの?と、ポカーンとした表情で答える。
「はい?何を言っておられるですかな閣下?
そりゃ確かに、張角の黄巾賊も袁紹の賊軍共も、広義的に云えば同じ「反乱行為」じゃが、中身は全くの別物ですぞ。
それなのに黄巾賊と同じ、対処なんぞ仕出かしたら、主上陛下の尊厳と名声が、地の底に落ち込みまするぞ!?」
目を怒らして怒鳴る蔡邕。
軍人トリオは、「へ?何が違うの?」と目が点になっていて、どちらかと云えば政治よりも、軍事寄りの軍師タイプの荀攸・廬植の2人は、軍事的観点から政治的観点に、脳内を切り替えているのか口に手を当てつつ、卓上に置かれた盤面に、せわしなく視線を巡らせている。
「え~と・・・どう違うのかな蔡邕殿?」
「端的に言えば、規模や範囲はほぼほぼ変らねど、張角の黄巾賊の場合は、「民衆による反乱」で、袁紹の賊軍共の場合は、「政争の延長上の反乱」になり申す・・・コレはお分かりですな?」
「まあ、それは流石に理解出来るが・・・。」
コクリと頷く。
「黄巾賊は太平道とか申す、張角率いる妖しげな宗教団体に、煽動された民衆が反乱に加担。
冀州を中心に兗州・豫州・荊州にも広がるも、此処に居る両将軍の尽力で、鎮定され申した。」
そう説明して、
「鎮定後は残党狩りを行い、少なくとも首都圏である、司隷近郊の賊徒は一掃され僻地に逃亡、中央は不思議と大きな行政的問題は、発生しませなんだ。」
「行政」の部分に、語気を強めて話す蔡邕。
「・・・?行政的な問題が無かったのに、不思議とは一体どういう事だ?」
「単純に反乱の影響で、略奪を受けて食い扶持を失い、主上に助けを求めて本来寄って来る筈の、棄民や流民となった者達が、洛陽方面に寄り付いて来なかった事じゃよ閣下。」
「「あっ!?」」
蔡邕の「棄民・流民」のキーワードを聴いて、違いに思い至った軍師コンビ。
「どうして寄って来なかったんだ?」
「それは無論、その棄民・流民達も本人或いは身内が反乱に加担しており、連座で裁かれるのを恐れたからじゃろ。
豫州刺史じゃった王允が、実際に容赦の無い処罰を下していたから、尚のことのう。」
若干非難めいた口調で予想を述べる。
「少なくとも鎮定後から暫く経って、先帝陛下が恩赦を下さるまでの間は、都に近付く気も起きんかったじゃろうて。」
「成る程、わざわざ自分からお縄に掛かりに来るアホは、まず居らんわな。」
蔡邕の語る理由に、納得する董卓。
「しかし、今回の袁紹の場合は全く違う。
民衆は我々「統治者側の者」が、起こした事象に巻き込まれた被害者じゃ。
故に間違いなしに、収穫期に略奪を受ける農民達が、主上に救済を求めて洛陽に押し寄せて来るのは、極々自然の事じゃし、棄民・流民化した民衆も、遠慮や躊躇いもあるまい。」
眉間に皺を寄せ、厳しい表情を浮かべる。
「・・・予測的には、どれくらいになる?」
漸く蔡邕の言っている懸念を理解した董卓は、顔面蒼白にして尋ねた。
「黄巾を参考にすれば、兗州・豫州を始め各州で最低でも10万規模。
下手すれば100万規模に、なるやもしれん。」
「「何と!?群衆がそんなに!?」」
桁違いの数の羅列に、驚嘆する軍人コンビ。
「荀攸、どうだ?賄えるか?」
「いくら何でも無理です!
亡き何進閣下が有事に備えて、コッソリ各所に秘匿していた備蓄を足しても、10万人を10年賄える分しか有りません!」
董卓の震え声の問い掛けに、首を左右に振って無理筋と言い切る。
「いや、それなら当座の分・「閣下、あくまでも蔡邕殿が仰っているのは、「コレぐらいだろう」という楽観的予測ではなく、「コレぐらいであって欲しい」という希望的予測です。」
董卓の言を遮り、ズイっと身を乗り出すと、
「求めに応じて救援物資を、ホイホイ放出したら最期、全国から棄民・流民が加速度的に、寄り集まって来るのは必定。
そうなれば正しく蝗の如く、あっという間に備蓄を食い潰されるのは明白です!」
真剣な表情で断言する。
「そして最悪の場合、賄えきれなくなった群衆が暴徒化し、洛陽が・・・否、漢帝国自体の崩壊に繋がろうな・・・。」
蔡邕が荀攸の発言を受けて、最悪のシナリオを告げたので有った。
「ならば今すぐにでも、元凶である袁紹達を討ち果たせば!?」
「無駄じゃ皇甫嵩殿。
黄巾の時と同じく頭を討っても、生き残った残党が細分化して賊徒化し、結局は略奪の範囲が広がって、被害が拡大するだけじゃ。」
廬植が首を振って、皇甫嵩の意見を一蹴する。
「それなら各州の備蓄を放出させるのは?」
「朱儁殿、今現在進行形で袁紹達が、その備蓄を吸い上げて食い潰しておるのだ。
司隷近郊の州の刺史・牧が、保身に走って密かに提供しておるのは確実じゃろうて。」
蔡邕が難しい表情を浮かべ、
「その様な状況下で、備蓄の余裕が有る所なぞ、何処にも無かろう。
無理矢理徴発しても、結局は民にしわ寄せがいって、押し寄せて来る棄民・流民の数を、助長してしまうだけじゃ。」
悪手にしかならんと、首を振る。
朱儁の提言も、蔡邕の政治的現況により、退けられたので有った。
「・・・いっそのこと、虎牢関等の関門を袁紹達に明け渡し、あやつ等を盾代わりにしてはどうじゃろうのう、荀攸殿?」
「申し訳有りませんが廬植殿・・・成否の確率とそれに伴う利害を換算すれば、余りにも成功率が低く又、害の方が大き過ぎます。」
流石にそれはと否定し、
「袁紹達には我々と違って、棄民達をマトモに相手する必然性が無く、高確率で素通しさせて放置する事でしょう。
寧ろ下手すると煽動されて、反乱軍の尖兵に成りかねません。
それに都の防備は、関門を以て防衛線を構築しており、虎牢関等を渡せば、洛陽は丸裸同然です。」
理路整然と理由を述べた。
「うぬぅ・・・確かに・・・かと言うてどうすれば良いのか、方策が浮かばぬ。」
「ええ、私も同様です。」
「・・・1つだけ、方策が有るには有る。」
荀攸と廬植が揃って嘆息し、董卓達が頭を悩している中で、ポツリと呟く蔡邕。
「「「「「有るのか!?」」」」」
「ああ・・・為政者側の者がしてはならぬ、外法にして外道な方策じゃがな。」
自己嫌悪に陥ったのか、苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべる。
「蔡邕殿、危急存亡の秋を迎えかねん状況で、なりふり構っている場合ではない。
清濁併せ呑むのも、為政者側の務めなのだから、躊躇せずに言ってくれ。」
話を促す。
「承知した・・・先ず主上には畏れながらも、洛陽から長安に移転して頂く。」
「ふむ、軍事的に観ても防衛機能の低い洛陽よりも、副都である長安の方が、主上の玉体(身体)を守るには適しているしな。」
蔡邕の発言を、軍事的観点で賛同する朱儁。
「さすれば主上の御在所即ち長安が、実質的な漢帝国の首都なる。」
「ふむ、それはそうだ。」
「主上の首都移転の行幸に、洛陽の民が倶奉(供)して付き従うのは、なんらおかしな事ではなく、極々自然の成り行きで有ろう。」
「「「「確かに。」」」」
コクコクと頷く荀攸達。
「そうしたら、洛陽は誰も住まぬ廃都になるし、放って置けば袁紹達に悪用されかねん故に、徹底的に破却せねばなるまい・・・陵墓ごとな。」
「「「「「なっ・・・!?」」」」」
蔡邕のぶっ飛んだ内容に、異口同音に絶句する。
「其処までする必要性が有るのか蔡邕殿!?」
「有らねばこんな事なぞ、間違っても言わぬわ!
洛陽を放棄した状態で長安に移転すれば、袁紹達が洛陽を利用して、「都を棄てる者に、志尊の位は能わず」とぬかし、他の皇族を勝手に担いで、帝位に就かせかねんのだ!!
己達の反乱行為を正当化する、1番の解決策で有り、早道じゃからな・・・不忠者共が!」
想像したのか、怒りに打ち振るえる。
「それは理解し申したが、陵墓まで破却(破壊)するのは、流石にやり過ぎではなかろうか蔡邕殿?」
廬植が苦言を呈するも、
「廬植殿こそ、何を申されておられるか!?
陵墓に有る副葬品(金銀財宝)を前にして、野盗にも伍する、卑劣で下衆な反乱軍共が、黙って見過ごすとお思いか!?
父祖の墓が荒らされて汚された上に、副葬品まで強奪され、鼠賊共に悪用されるのは、火を見るより明らかで有りましょうぞ!」
ハッキリと反論する蔡邕。
「それに食糧でさえ、満足に賄えておらぬ反乱軍が、給金を賄えておるとは思えぬ。
さすれば陵墓の副葬品で、配下の給金の補填や、食糧購入に充てるのは必定ですぞ!?」
袁紹達がどうするのかを、予測して告げる。
「うむぅ・・・確かに左様ですな。
荒らされて悪用されるぐらいならば、自分達で運び出して破却し、長安で新たに陵墓を建てて祀る方が、遥かにマシか・・・。」
反論に納得する廬植。
「成る程、確かに蔡邕殿の仰る通りですね。
しかし今蔡邕殿の仰っている事は、どちらかと言えば軍事的観点に思えます。
大量発生するであろう、棄民達の対策は如何に致しますので?」
肝心要の問題の解決策が、スッポリ抜け落ちてないかと、問い掛ける荀攸。
「気にせんでも長安に移転し、洛陽を破却した時点で方策は成っておるわい。
距離を考えてみよ、距離を。」
「距離・・・ですか?」
首を傾げて疑問符を浮かべる。
「例えばお主の郷里・豫州潁川郡から、洛陽までは凡そ※300里故に、普通に歩けば※1日で約70~80里、平均して3~4日程は掛かるで有ろうが?」
「はぁ、まぁそれぐらいですね。
ゆっくり移動して一週間程かと。」
コクリと頷く。
(※この時代の1里は約400m程で、約300里=120Km程。
※1日の移動距離の平均が、一般的には約30Kmという、現代の基準値に準拠)
「そして洛陽から長安までは約900里程。
つまりは潁川郡からは1200里、即ち1ヶ月程長安までは掛かる訳じゃ。
さて、それを前提に問うが、豫州で発生した棄民達が数十万居たとして、食うや食わずの状態で長安まで辿り着けるのは、どれくらいおろうかのう?」
苦笑気味に問い掛けた。
「その様な事言うまでもなく無理・・・!?
つまりは蔡邕殿は、人為的な飢饉を見越した上で、ハナから棄民・流民達を見捨てる算段で、主上を長安に行幸をと仰っておられたのですね!?・・・なんて事を・・・。」
余りに外道な方策に絶句する荀攸。
「じゃから言うたで有ろうが?為政者側としてあるまじき、外法で外道な方策とな。」
「確かにその通りです・・・が、政治的判断としては、最適手と言わざるを得ません。」
個人的な感情を抜きに、蔡邕の方策を認める。
間違いナシに対処仕切れず、確実に暴動が起きて国家が滅びるなら、最初から距離を取って関わらなくて済む様にという、人道的には最低の方策だが、「国家が滅亡して、大乱が起きるよりはマシ」といったモノだった。
「しかしその方策は、俗に言う「天道是か非か」の行いでは有るまいか?」
若干非難めいた口調で、蔡邕の方策を評す。
「確かに廬植殿の言う通りやも知れん。
しかし棄民・流民達とかかずらえば、現皇室は暴動に因って倒れ、それこそ光武帝が即位する前の、各地の皇族・王族が割拠して争う、戦乱の世に成るのもまた事実。」
廬植の苦言を認めた上で、後漢黎明期の状況に成るぞと警告し、
「つまりは発生するであろう棄民達を取って、それ以上の犠牲者を出すか、寄ってくる棄民達を捨てて、それ以上の犠牲者を出さない様にするかの、2択しか無いのじゃ。
為政者側の我々が選ぶ道はな・・・。」
肩を落として消沈気味に答えた。
「・・・判った、蔡邕殿の方策を採用する。」
「・・・宜しいのですかな?儂の方策を実行すれば閣下は、洛陽の都を破却したという、後世にほぼ確実に残る「悪行」を為す事と相成り、汚名を被りかねませぬが・・・?」
即決即断した董卓に、リスクを説く蔡邕。
「それとて「漢を滅亡に追いやった愚者」の汚名と、どちらがマシかの2択であろう?
それならば漢の一臣として、国家存続を取るのは至極当然の事。
個人や家の名誉を考えている場合では無い。」
キッパリと言い切る。
「「「「「閣下の御決断に、深く感銘を受け申しました!何なりと申し付け下され!」」」」」
後世に残るで有ろう汚名を被ってまで、国家存続に尽力する事を誓う姿勢に、感動した面々は一斉に拱手して、協力を申し出る。
「宜しく頼む。
蔡邕殿、移転は何時頃が良いのだ?」
「は!今から一刻も早くするべきです!
最低でも収穫期までには、移転を完了させておかねば、「飢饉の対処から逃げ出す為に、洛陽を捨てて長安に移った」と、主上が不名誉を被り、袁紹達の偽帝擁立をする蠢動を招きかねませぬ!」
一刻も早い移転を促す。
「判った・・・聞いたな?皇甫嵩・朱儁将軍?
軍を総動員して、直ぐ様移転の準備を進めよ!
又、洛内の馬車や馬も、身分を問わず問答無用で徴発し、民衆の長安移転を促せよ!」
「「はは!一切承知しました!」」
拱手して、走り去っていく両将軍。
「それで閣下、洛内の名家連中に対して、移転する「大義名分」は如何致しますか?」
「北方の匈奴族が洛陽に向けて、「大規模な侵攻を企てている」とでも言っておけ!」
大げさにでっち上げて、処理しろと命じる。
「成る程、それならば袁紹達が入京しても、自分達は安泰と日和見している名家連中も、慌てて荷造りする事でしょうね。」
「ああ、異民族にとって名家連中なんぞは、金銀財宝をぶら下げた豚と変わらん。
真っ先に狙われる美味しい獲物だからな。」
皮肉を込めて嘲けった後、
「間違っても「真の目的」を悟られるなよ。
国家滅亡よりも、人道だの道義だの何だのと、騒ぎかねんからなあやつ等は。」
念押しする。
「確かに国家無くして、道義もヘッタクレも無いのに気付かない、腐れ儒者が名家連中には、ゴロゴロ居ますからねぇ。」
納得して頷く荀攸。
「それと袁紹達にも動きを悟られぬ様、防諜の徹底も頼むぞ。」
「ははっ、承知しました!では早速。」
優雅に歩き去る。
「廬植殿は侍中として、主上の身の安全の確保に、全霊を尽くしてくれ。
前の張讓の如き輩に、混乱に乗じて拐かされる事が無い様に頼む。」
「は!一命を賭しても!!
あの様な事態は某としても、2度と御免被りたい醜態ですので!」
拱手して頷く。
「最後に言い出しっぺの蔡邕殿には、今回の方策の事前・事後の、計画・立案を命じる。
悪名・汚名は儂が引き受ける故、実務的な面は貴殿に引き受けて貰うぞ?」
「ははっ、お任せくだされ!
直ぐ様計画を練りまする!」
拱手して引き受ける蔡邕で有った。
こうして董卓は、強引な移転に反対・反発する輩達を「反逆者」として、一族諸共死罪に処していき、洛陽と陵墓の破却を実行した事で、後世に「魔王」と称されるのである。
本来的には何らかの要因(涼州に於ける、州内の暴動or異民族の蠢動に因る、軍事的問題?)で、1月から長安に移転していた事で有った。
しかし糜芳が司隷の後方である、涼州と異民族をピタッと抑えてしまった事で、不安定要素が霧散した為に、軍事的要因で発動しなかった出来事が、政治的要因で発動したのである。
歴史の修正力は、恐るべきモノで有った。
それはさておき、
こうして董卓は、本来よりも2カ月遅れの移転に追われる事となり、刻一刻と迫るタイムリミットに、焦燥感を募らせるので有った。
「ああっ、チックショウ!イライラするわ!」
「オヤッさんが吠えても、どがいの仕様もあらせんですし、しゃあないでしょうに・・・。」
呆れ半分に諫めつつ、
「軍政に長けた董旻のオジキに後の事は諸々任せて、俺らは俺らで関門を捨てる際に、袁紹達に真っ先に追撃の被害に遭うのを、承知の上で虎牢関を守っとる、勇士のケツ持ち(殿)を、先ずは全うしましょうやオヤッさん。」
やれる事をしましょうと、落ち着かせる。
「・・・ああ、そやな。
男気の有る虎牢関の守備兵を、無事撤退させたらな、儂の仁義が立たんけんのう。」
牛輔の諫めで深呼吸をして、落ち着きを取り戻したのであった。
「そう言えばオヤッさん。」
「なんじゃい牛輔?」
「いや、洛陽の民衆を長安に移転させるんはええんですけどが、長安に洛陽民を収容出来る許容量って、有るんですかいな?」
素朴な疑問を問い掛ける。
「有る訳無いやろ。」
「へい?じゃあどがいにすんです?」
「蔡邕殿の計画に拠れば、長安と涼州の州都・隴県の間ぐらいに、新しく中継都市を築いて、あぶれた洛陽民を収容するらしいわ。」
他人事の様に話す董卓。
「へ~それは又、大事業ですわいなぁ。
都市を建造するなんぞ近年に無い、とてつもない一大事やないですか。
蔡邕殿もてんてこ舞いでしょうね~。」
同じく他人事として聞く牛輔。
「まぁそやろーけんどが、すぐねき(近く)の涼州に優秀な娘婿がおるけん、その娘婿殿に丸投げする積もりらしいぞ?」
あくまでも自分は無関係と宣う魔王。
「何せその娘婿殿は、荒れ放題だった涼州の政治事情を安定させ、馬騰・韓遂といった不穏分子を手懐け、異民族を妖しげな妖術で畏怖させとる、稀代の傑物やけんな。
涼州民からは後漢を代表する政治家、「馬援の再来」って言われとるみたいやし。」
「・・・ソレって末孫の馬騰の立場が、形無しになっとるんでは?」
冷や汗を垂らして突っ込む牛輔。
こうして糜芳が保身の為に、改変した事象が歴史の修正力により戻り、その揺り戻しの余波と言うかとばっちりが、本人の預かり知らぬ所で、発生しているのであった。
続く
とりあえず、前回の後書きに記した事柄についてですが、皆様方の色々な御意見・御感想を、確認させて貰って考えた結果、「自身に無関係で、預かり知らない事なので、ほたくっとく(無視する)」事にしました。
そして、お気持ち表明の部分も消すなり、削った方が良いのでは?という御意見も、わりかし頂戴したのですが、「書いた以上は毀誉褒貶を受けるケツを持つ」べきだと思っていますし、ヘタに消したりすると、厳しい意見を為された方が、後々初見で感想欄をご覧になった読者から、「謂われの無い誹謗中傷を書いた人」と、誤解されかねませんので、敢えてそのままにさせて頂きます事、悪しからずご了承くださいませ。
色々な御意見をくださり、誠にありがとうございました。
以後は預かり知らぬ事や、周りを気にせず、自分が書きたい事を、書きたい様に書いていきますので、宜しくお願いします。
それはさておき、
後1~2話で章を終わらす予定です。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




