その3
読んでくださっている方々へ
え~この作品はフィクションですので、難しく考えずに、菩薩とか海のよ~に、広~い心で読んでくださいね。
感想・いいね爆押し、ありがとうございます!
洛陽太尉府(旧大将軍府)董卓執務室
「何でこがいな事に・・・次から次へと・・・。」
げっそりとやつれた表情で、力無く呟く董卓。
何進横死後、太尉に任じられた董卓は、何進の直属軍と将軍府を接収し、亡き何進が使用していた執務室を、そのまま再利用しており、豪奢で立派な机に上半身を預け、矢継ぎ早に襲いかかってくる不運を嘆いていた。
「ホンマもんに、弱り目に祟り目ですわいな。」
同じくげっそりとした表情で、弱々しく相槌を打つ副官兼娘婿の牛輔。
9月、先月末に発生した何進暗殺事件の、最高功労者として劉弁に賞され、太尉に昇進して何進の遺した、軍民(軍部・民部)の遺鉢を継いだ董卓は、中央政界に乗り込んだ。
当然名家閥からは、「自分達の我が世の春到来を、邪魔する田舎者の異分子」として、侮蔑と嫌悪を以て迎えられたのである。
名家閥にしてみれば、邪魔な宦官と何進が共倒れになり、漸く雌伏の時代が過ぎたと思いきや、ひょっこり董卓というダークホースが現れたのだから、負の感情が爆発するのも、無理からぬ事であった。
まぁ当の董卓からすれば、一昔前と違って殆ど権力を失っている、末成りの青瓢箪共にどう思われようと、柳に風であったが。
事実上何進の後継者となった董卓は、遠慮や躊躇なく何進暗殺事件騒ぎに関わった、各関係者達の処断・処罰に鉈を振るう。
先ずは何進暗殺から劉弁兄弟誘拐という、国家規模の犯行に及んだ、十常侍の血縁者・縁戚を含む全員を死罪・族滅とし、知人・友人処か本貫地(出身地)の住人までもが死刑の対象として、巻き込まれる事態となり、地域住人達は辛うじて避難できたか、死刑執行に巻き込まれたかに2極化した。
(国家規模犯罪クラスになると、市町村単位で皆殺しになる事が、ちょくちょくあった)
次に袁紹達が起こした、宮中侵犯・宦官虐殺・建物の放火に対する、犯罪行為の審判を行い、宮中侵犯に関しては、ギリギリ何進の敵討ちに見えなくもなかったので、甥である劉弁からの恩赦により、彼らは辛うじて罪を免れた。
しかし幾ら何でも宦官虐殺と放火は、やり過ぎとして有罪判決となり、袁紹・袁術は父祖の功績を考慮して、無期限の蟄居謹慎処分となって官位・官職を剥奪、参加した虎憤・羽林達は本人は死罪として処され、家は改易処分となり庶民に落とされた。
そして残りの虎憤・羽林連中は、国賊に劉弁兄弟を拉致られた失態を理由に、解散と召し放ちを命じて、新たに軍部から実力本位の選りすぐりを選抜。
実質軍事関係から名家閥の影響を、完全に排除する事となり、軍事系名家は没落の憂き目にあった。
厳しすぎると名家閥から、抗議の声もあったが、
「虎憤・羽林は曲がりなりにも軍人の端くれ。
コレだけの失態を犯せば、武官として自刎して果てるのが常識であり、末代の恥を晒した者の親とて率先して自害し、皇室に詫びるべきモノだ。
それを強いる訳でなく、召し放ちだけで済ましている時点で、寧ろ十二分に温情をかけている。」
軍人視点でキッパリと反論し、躊躇なく実行した。
そうして信賞必罰を断行して、名家閥から益々怨みと敵意を買ったが、お互いに元々マイナスの感情だったし、遠吠えにしか董卓にはならなかったので、なんら影響がなかった。
此処までは。
第1のボタンの掛け違いが発生したのは、「十常侍の親類・縁者族滅」に因る、参謀長を務めていた荀攸の離叛である。
経緯としては、十常侍の筆頭格だった張讓は、豫州穎川郡の出身で、荀攸と同郷だった。
穎川郡に於いて長年宦官閥のトップだった、張讓の影響力の範囲は広く又、荀家を始めとする名家も多い為、軍部の軍勢では躊躇いや躊躇をしかねず、自分の麾下である3千騎を派遣して、張讓の親類・縁者族滅を行った。
当然族滅騒ぎに巻き込まれる事が無い様、董卓は荀攸には事前通達したし、荀攸も理解していた。
しかし地方軍閥を詳しく知らない荀攸は、涼州軍の行動の素早さを知らなかった為、いつも通りの定期連絡で大丈夫と思い込んでしまったのだ。
その間に董卓の指示を受けた麾下の3千騎は、即時即断で行動し、元々名家閥だの宦官閥だのから派遣されて、故郷の涼州を無茶苦茶に荒らされて恨み骨髄の涼州勢は、容赦なく穎川郡を蹂躙する。
結果、穎川郡は住人達がこぞって離散してしまい、荀攸が慌てて一族に連絡を取る頃には、音信不通の生死不明状態になってしまう。
実際には何進暗殺事件からの、十常侍の顛末を知った筍1号こと荀彧が、自分達が巻き込まれる危険性を予見し、同郷の郭家(郭嘉)や陳家(陳羣)と共に、すんでのところで危難を脱していたのだが、これ又同郷で冀州牧に就任している、韓馥を頼って移動中だった為、連絡を取れる状態では無かった。
その為一族を殺されたと勘違いした荀攸は、逆上して仇討ちに走り、董卓暗殺を実行してしまう。
しかしながら素人の何進なら兎も角、戦場で生き抜いて来た、玄人の董卓達にはあっさりと看破され、当然の如く失敗に終わる。
事情を知った董卓は、事実無根を荀攸に訴えたが、涼州勢が荀家だけを避けたという、「悪魔の証明」を実証出来る筈もなく(そもそも董卓自体も、荀家の人間を知らないレベル)、無論殺す訳にもいかないので、やむなく投獄する事となる。
こうして行き違いに依る相互の認識不足で、大事な知恵袋を失ってしまったのであった。
何故か荀攸の暗殺未遂事件は、名家閥連中には義挙に映ったらしく、名家閥からは賞賛されたが。
それはさておき、
次に起こった不運は、自分の後ろ盾とも云える劉弁が不意の病に倒れ、明日をも知れぬ危篤状態になってしまった事である。
この思っても観なかった事態に依り、連鎖的に董卓に不運が襲いかかったのであった・・・とは言っても、多少は董卓の自己責任の面も有るのだが。
董卓自身も劉弁が病を発して後、合間を縫って見舞いに行ったのだが、ドンドン重病化していく我が子に、縋り付く様に寝食を忘れて必死に看病する、劉弁の母・何太后のやつれ果てた姿を観て、自身も実子を夭折して失っており、妻と全く同じ心境にある何太后に心底同情し、もし万一の事を考えて、劉弁の名誉を守る為に奔走する決意をする。
このまま万一が有れば劉弁は、「十常侍に知らず知らずの内に誘拐された上に利用され、漢を災いをもたらしかけた愚鈍な人物」という誹りを受けかねず、余りにも不憫であった。
其処で少しでも名誉や事跡を残せる様にと、「重い病を発した劉弁は、自ら帝位を降りて王位に下り、漢の将来を劉協に託した」といったサイドストーリーを考案し、何太后にはこの筋書きに同意する様に、誠心誠意説得をする。
当初は突っぱねていた何太后だったが、日に日にやせ衰えていく劉弁の様を観て、「汚名を遺して逝くよりは・・・」と、精根尽き果てた表情に涙を浮かべて、泣く泣く了承したのであった。
何太后の了承を得た董卓は、他の三公や九卿を集めて会議を開き、殆どの三公・九卿が出席する中、劉弁の危篤状態を伝えた上で、劉弁を霊帝が亡くなった直後に帝位に就いた事にして、皇帝としての公的な記録を残し、病床の為に進んで退位して王位に退き、国家安寧を劉協に託したとする捏造を提案、出席者全員の賛成を以て可決される。
(捏造に関しては、漢帝国の始祖・劉邦の様にエピソードを盛って、記載されている事が有るように、ごくごく普通に行われている事だった)
そうして閣僚会議で決定した事を、十常侍討滅の慰労の宴にて、公式に発表する事が決まり、一段落ついた後に董卓が発表したのだが、思わぬ形で問題が発生する。
自主謹慎中だった尚書令の盧植と、并州から何進の呼び出しに応じて上洛し、そのまま在京して執金吾になった丁原の2人が、「なんたる不遜!僭越にも程があろうぞ!?」と、猛反発して宴席を蹴って帰ってしまったのだ。
そうした突発的な問題が発生した直後の現在・・・
「・・・どうします?オヤッサじゃなくて、え~とその~閣下?」
「・・・どうしよう?蔡邕殿・・・?」
言い慣れない単語に詰まりつつ、今後の対応を聞く牛輔に対し、蔡邕に右から左に振る董卓。
「どうしようもないわい・・・「覆水盆に返らず」と言うものじゃ。
自主謹慎中で事情を知らぬ盧植殿は、まぁ擁護出来る余地が有るし、弟子達や士人の助命嘆願が出されようから、まだ罷免だけで済ませれる。」
盧植の場合の予測をして、
「じゃが丁原殿はどうにもならん。
盧植殿と違って謹慎しとった訳では無いし、閣僚会議をすっぽかした挙げ句、後になって反対する様な筋違いな事を仕出かしておる。
貴殿だけでなく他の三公・九卿をも、敵に回したのと同義じゃ。
まず助命嘆願をする者も居るまいて。」
丁原は助ける余地なしと断じた。
同じ行動を取ったのに、2人の明暗が分かれたのは、事前行動の差であった。
盧植の場合は正式に謹慎の届け出を出して、筋を通して慰労の宴までは休職し、外部の情報が自然に遮断された状態と云えるし、当然閣僚会議も欠席していた為、会議の内容を知らなかった故の、発言だと受け止めれるので、まだ弁護出来る余地があった。
しかしながら丁原の場合は、「董卓主催の閣僚会議」と聞いて、董卓に対して反感を持っている丁原は、個人的な感情でワザと欠席した節がありしかも、いつでも会議の内容を知り得る立場で有りながら、マトモに確認をとっていない可能性が高かった。
挙げ句に会議を欠席した以上は、自動的に「白紙委任」=会議の決定に従うのが原則なのに、平気で後になって蹴たぐる行動を取っている。
摂政である劉弁が、病床で政務が取れない現状に於いて、三公が主催する閣僚会議が、最高位の国家意思決定機関と成っている中、公然と意思決定に反対・反発した丁原は、国家上層部と反目して実質、謀反を宣言したに等しい行為を行っていた。
トドメに丁原自身が并州から、約5千の私兵を連れてきており、より一層の信憑性と危険性を、周囲にバラまいている。
「しかしな蔡邕殿。
宴席の上での話だから、多少なりとも余地があるのではないか?」
食い下がる董卓。
「無理なモノは無理じゃと言うに・・・。
私的な宴席なら酔った上での、戯れとしてまだ余地があったがのう。
此度の宴は、一連の何進閣下暗殺事件に関する、後始末が付いた事を文武官に周知する為の、政治的な意図を持つ宴じゃ。
盧植殿もそうじゃが、キチンとした対応を取らねば、鼎の軽重を問われる事になるぞ?」
キッパリと言い切る。
実は今回の宴は慰労会という名の、「何進暗殺事件の解決と後始末」が終了し、「これ以上の事件追及は無い」というのを、知らしめる為の公的な意味合いを持つモノであり、現代風に云えば会社主催の飲み会と同じであった。
そんな実質的に公の場に等しい所で、会社の意思決定に逆らい、文句を言って席を蹴って帰れば、後日がどうなるかは、火を見るより明らかな話である。
逆に言えば造反を仄めかした者を放置すれば、今後似たような事例が発生した場合、改めて後で罰せなくなるし、「あの人がやっても何もされないなら、自分もしてOKだろう」と、舐められてしまうのだ。
「・・・ハァ・・・やっぱり始末を付けにゃあいかんのか。」
眉根を寄せてため息を吐く。
「そう言う事じゃ董卓殿、覚悟を決められよ。
劉弁陛下が万一の時には、劉協殿下が至尊の位(帝位)に就かれる事となる。
もしそうなられた場合に、このまま今回の件を見過ごせば、後々に名家閥のたわけ者共が、好き放題する名分を与える事になる。
故に毅然とした態度と処理を、貴殿が周囲に示さねばならんのじゃ!」
語気を強めて、非情の決断を促す蔡邕。
前述した様に、劉弁の場合は何進からの繋がりで、即位をしたら董卓の役目は終わるのだが、劉協の場合は名家閥の手垢が、べっとりと付いていているので、劉協自身も若年なのもあって、どうしても一定の配慮をせざるを得ない。
その為唯一名家閥に掣肘出来る立場の董卓が、日和ったり弱気な姿勢を見せると、ズカズカと躊躇なく権力掌握に走り、元の木阿弥処か、良くも悪くも対抗馬が消失した現在、最悪の場合はブレーキ役がいない名家閥が暴走して、「王莽の二の舞」か「内部権力抗争の激化に因る、異民族の侵略誘発」を、招く危険性が十二分にあるのだ。
まぁ、それと同時に董卓という敵を、座して見逃す事も無いのも自明の理であったが。
それはさておき、
「・・・やむを得んか、儂にも守らなきゃいかん者達がおるし、躊躇して失う訳にもいかん。」
「・・・心中お察し申す。
この上はできる限り、要らぬ巻き添えを減らす事に注力するべきじゃろう。」
うなだれる董卓を励ます。
「具体的には?」
「可能なれば丁原殿が連れて来た、并州勢を説得して丁原殿と離間させて、貴殿が便宜を図る、と言った感じじゃろうかのう。」
腕を組みつつ、瞑目して首を捻る。
「・・・分かった、牛輔!」
「へ?あ、はは!」
「張遼・・・いや、李粛を呼べ。」
「李粛ですね、承知しました。」
拱手して立ち去っていく。
一瞬、何進死後に并州から帰還し、そのまま新たに傘下に入った、張遼を説得役に考えたが、自分を何進に推挙してくれた恩人に対して、仇なす行為をさせる事になると判断して頭を振り、丁原との関係改善の交渉役を務めさせている、家臣の李粛を指名したのであった。
凡そ30分後・・・
「お召しにより参上しました殿。」
恵比寿顔の軍政官・李粛が、主君の前で拱手する。
李粛は以前并州の刺史を務めた際に、并州で採用した家臣であり、強面の多い家臣団の中でも表情と言葉遣いが柔らかく、敵意を買い難く受けが良いため、外交的な役割も担っていた。
「ああ、よく来てくれた李粛。」
「はは、恐れ入ります。」
「お前に頼んでいた丁原殿の件だが・・・。」
「申し訳ありません。
丁原殿は意固地になっておられる様で、中々聞く耳を持って貰えず・・・。
主簿(主計長兼副官)で養子の呂布殿を介し、徐々に距離を詰めていく積もりであります。」
八の字に眉を寄せて、頭を下げる李粛。
「丁原殿、いや丁原の事はもういい。
それよりも主簿で養子の呂布とは、個人的に連絡を取れるのか?」
先の宴で丁原の後ろに陪席していた、武人然とした偉丈夫を脳裏に思い浮かべる。
「?はい、出来ますが・・・。」
「では呂布に儂が今から言うことを、余すことなく明瞭に伝えてくれ・・・実はな・・・・・・。」
慰労会での出来事と、その顛末と丁原の今の状況、呂布達并州勢の選択と行く末を、李粛に話した。
「な、なんと誠にございますか!?」
「ああ、最早手の打ち様が無いし、時間も無い。
一刻も早く去就を定める様、呂布に伝えてくれ。」
「はは、今すぐに行って参ります!・・・御免!」
バタバタと走り去っていく李粛を見送り、
「無益な犠牲が出んことを祈るのみ、か・・・。」
溜め息を吐いて、天井を見上げるのであった。
そして・・・
洛陽執金吾府幹部用個室
「おお、よく参られた李粛殿。
急を要する案件と聞いたが、先日の慰労会に於ける、義父殿の無礼の事で有ろう?
酔った勢いで申し訳ないと、董卓閣下に伝えて貰えないだろうか?」
大男の偉丈夫が書簡を畳みつつ、窮屈そうな机から立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
呂布奉先・・・三国志随一の猛将で知られる人物で、脳筋の代表格に挙げられる彼だが、故郷の并州時代では所属していた、丁原の軍閥で主簿(主計長=軍政官筆頭で軍閥の経理)を担当しており、当時ではかなり貴重な読み書き算盤が出来る、意外にも軍政・軍事両道な人物であった。
「いや呂布殿・・・最早なぁなぁで済む話では、疾うになくなっているのだ!」
早口でまくし立てる李粛。
「は?・・・どう言う事かな李粛殿。」
険の籠もった声音で問い返す呂布。
当初こそ苛立ち気味に、眉間に皺を寄せていた呂布だったが、李粛の話を聞いている内に、ドンドンと顔面蒼白になっていく。
「そんな!?・・・只の宴ではなかったのか!?」
「呂布殿、此処は并州でも涼州でもない、政の権力に群がる物の怪が巣くう洛陽だぞ?
例え私的な宴でも、一々政治的な駆け引き等の、意味合いを持っている所なのだ。」
田舎の価値観で考えている呂布に、懇々と諭す。
呂布の感覚からすれば、戦勝祝いや狩りの宴では、酔った勢いでの失言や喧嘩などは、日常茶飯事な事であり、後で内々に部下同士を派遣して和解、自然と無かった事にするのが常だったので、地元基準の軽い気持ちで、今回の件を捉えていたのだった。
「しかし義父殿も、恐らく知らなかった筈だ!
そんな無体な話を急に言われても!?」
「先程から言っているが、此処は洛陽だ。
知らなかったでは通じんのが、丁原殿が就いている執金吾という、立場であるのだ呂布殿・・・。」
認識不足の呂布に、苦々しく呟く。
「でだ呂布殿、此処から本題なのだが、董卓閣下からの提案を伝える。」
「提案・・・。」
筋骨隆々の偉丈夫が、李粛に詰め寄る。
「最早丁原殿は救い様が無い前提で、貴殿等には2つの選択肢がある。
1つ目は丁原殿と命運を同じくする事。
この場合は謀反に加担したと見做され、貴殿等の家族も累が及ぶ事となる。」
「そ、そんな無茶苦茶な・・・!!」
李粛の言葉に絶句する。
「・・・そして2つ目、貴殿等并州勢が自ら進んで丁原殿から離反して・・・討伐をする事だ。」
「な!?貴様ぁ~!俺達に主君を裏切った上に、殺せと言うのかぁ!!」
片手で李粛を軽々と掴み、ギリギリと締め上げる。
「ぐぐっく・・・き、貴殿が怒りを抱くのは、と、当然の仕儀だ、が、他にしゅ手段がぁ・・・ぁ。」
「・・・・・・く、くく、くそったれぇ!!」
口惜しげに罵った後に李粛を解放して、ドカリと胡座をかいて座り込んだ。
「ゴホッゴホッ・・・!」
「・・・時間をくれ。
俺1人で決められる事ではない・・・。」
「ゴホッ・・・ああ、無論そうだろうとも。
但し、それ程猶予は無いと思ってくれ。」
「・・・承知した。」
退出していく李粛を見送るのも忘れ、額に両手を置いて俯く呂布であった。
その日の晩・・・
丁原には秘密裏に、丁原軍の主だった校尉達、陣代(筆頭武官)の高順を始め、郝萌・曹性・成廉・魏続・宋憲・候成らを集めて、自分達の現状の立場と董卓からの提案を、憔悴した顔で告げる。
「・・・という訳だ・・・皆の意見を聞きたい。
遠慮なく意見を言ってくれ。」
「そもそもその話は事実ですか?」
「ああ、残念ながらな。
万一を考えて部下達に探りを入れさせたら、董卓閣下の意を受けた軍部が、明らかに我々執金吾府を意識した、隊形を整えていた。
・・・我々の動向を探る、複数の監視付きでな。」
溜め息混じりに、候成の疑問に答える。
「・・・呂布殿、かくなる上はいっそのこと、本当に乱を起こしますか?」
「鵜の目鷹の目な状態で、成功出来るならな。
相手は軍部を含んだ5万以上、コッチは我々だけの約5千で、オマケに市街戦になるぞ。」
郝萌の胡乱な問い掛けに、彼我の戦力差と戦地の想定を告げる。
「どうにか野戦に引きずり込めれば・・・。」
「馬鹿を言え。
董卓側が此方の都合に乗る理由がない。
地の利がある市街戦に持ち込んで、数で押せば楽勝なのだから。」
宋憲の都合の良い話に、成廉がキッパリ否定する。
「こうなれば、洛陽を脱して并州に帰り、并州軍閥を糾合するしか・・・。」
「・・・糾合する大義名分をどうするのだ魏続?
まさか殿の個人的なわだかまりと、閣僚会議に於ける仁義破りをしたから、と言うつもりか?
例え上手く誤魔化して糾合出来ても、討伐軍に討伐理由を告げられたらお終いだ。
間違いなく他の軍閥連中に、袋叩きにされるぞ?」
魏続の提案を冷静に返す曹性。
それから約1時間程話し合い、議論百出して意見を重ね、頑張ってどうシミュレーションしてみても、「大義名分が自分達に無い」が足枷になり、失敗する公算しか出なかった。
「・・・最早意見は出尽くしたな・・・呂布殿。」
今まで黙して聞いていた、筆頭武官の高順が口を開いて、腕を組んで瞑目している呂布に視線を向け、
「我らは丁原様の旗の下、漢帝国に仇なす者共と戦い、無辜の民衆と家族を守り、それを誇りに思って今日まで生きて来た・・・だが。
だが今回の場合は、それとは逆になってしまう。
我らだけなら、丁原様に殉ずるのは否とは言わん。
しかし、将兵5千とその家族を巻き込む事だけは、将兵を預かる立場として、やってはならん事だ。」
1軍の将としての意見を、朗々と呂布に告げた。
「・・・確かに高順の言う通りだ、な。
義父殿の子(部下)で有る前に、将兵の親(上官)である我々が、将兵を守らねばならん・・・か。
ハァ・・・なんでこんな事に・・・。」
頭を抱えて呻く。
元々董卓と丁原は、最初から険悪な関係ではなく、寧ろ董卓から執金吾を任されるくらいの、かなり良好な間柄だった。
しかし張讓や趙忠達十常侍に因る、何進暗殺事件に関して、自分が執金吾(警視総監)の役職なのに、洛陽の治安維持のみで、一切関わらして貰えなかった事に、激しい憤りを覚えた丁原が、一方的にへそを曲げてしまったのが、今回の騒ぎの発端だった。
董卓からすれば、協力を申し出ている丁原の意見を、無下に突っぱねるのは心情的に悪いし、かと言って名家閥の処分も含まれている為、下手に何進暗殺事件に関わらして、要らぬ恨み辛みのとばっちりを、受けさせるのも立場的に悪いと感じ、事件解決までのバタバタしている間、都の治安維持を頼む意図だったのだが、思いっきり裏目に出たのである。
態度が急変した丁原に、慌てて関係改善に努めた董卓だったが、意固地になる処か関係悪化に便乗して、煽動する輩(名家連中)まで発生し、余計に悪化の一途を辿ったのであった。
もし荀攸が董卓の傘下に居れば、何進時代からの関わりで、丁原の頑迷固陋ぶりを知っていたので上手く対処し、こんな不幸な事態を防げたのだろうが、結局は最悪の形になってしまったのであった。
それはさておき、
「・・・やむを得ん、義父殿には・「呂布殿、それ以上は言いなさるな。
某が始末を付けに行きます故に。」
呂布の悲痛な心情を察し、高順が立ち上がる。
「いや、俺がやる・・・やらしてくれ。
せめて・・・せめて義父殿の最期は俺が・・・。」
立ち上がった高順の袖を掴み、俯いたまま言葉をつっかえつっかえに紡ぐ。
「・・・心中痛いほどにお察し申す。
呂布殿・・・いえ呂布様、今是より我らは貴方様を主君に戴き、忠誠を此処に誓いまする。」
高順はやんわりと袖の拘束を外し、バシッと拱手して頭を下げ、呂布を新たな主君と仰ぐ。
そして同じく他の者も、高順に倣うのであった。
「・・・これからも宜しく頼む。」
「ははっ、お任せください殿。
将兵達は我らで抑えます故、どうかご安心を。」
自分の家臣となった高順達を背に、ノロノロと部屋を出る呂布であった。
覚束ない足取りで、義父・丁原がいる執金吾の執務室に、断りもせずに訪う。
「・・・ん、呂布か?・・・おい!?どうしたのだお前!?涙を流してからに!」
普段観た事無い呂布の状態に、驚いて立ち上がり、慌てふためく丁原。
「義父殿・・・義父殿を謀反人として、俺が義父殿を討たねばならん仕儀になった・・・。」
「は!?どういう事だそれは!?
とりあえず座れ!落ち着いて座って話せ!」
急な話に、目を白黒させ動揺しつつ着席を促した。
ポツリポツリと経緯と、現状を話し出した呂布の話を聞いた丁原は、唖然呆然とした表情になっていき、「何たる事だ・・・」と絶句する。
「・・・つまりは、儂の無知蒙昧が原因で、お前らにまで累が及ぶ事態に成っとるのか・・・。」
「ああ、そういう事になる。」
コクリと頷く。
「そして董卓閣下が、将兵達を救う手段として、我々に提案したのが・・・。」
「儂の首をお前らがとって、叛意が無い証明とし、儂個人の勝手な話しにするという事、か・・・。」
腕を組んで虚空を見上げて、
「ククク・・・ワッハハハハ!!こりゃ参ったわ!
一方的に嫌っとる儂に、最後まで気遣うとはな!
こりゃどうも参った、参った!」
突如として呵々大笑する。
「義父殿?」
「所詮は田舎者の儂の愚かさという事か。
都は恐ろしい所よのう呂布よ、何気ないと思った事で、儂が何十年と掛けて積み上げたモノが、一瞬にして消えるのだからなぁ・・・ワッハハハハ!!」
額に手を当てて頭を振って笑う。
一頻り笑った後、
「かくなる上は是非もなし。
董卓閣下に首を持っていき、お前らは生き延びろ。
今回の件は儂の自業自得、故に関係の無いお前らを巻き込む訳にはいかん。」
清々しい表情で呂布に告げる。
「・・・義父殿ぉ。」
「最期まで勝手を言うが、一族妻女を頼む。
それと儂の警告じゃが、儂以上にお前は純な軍人故に、都の雀共には一切関わるな。
関われば自然と口車に乗せられ、必ずや災いが降り懸かると思えよ。」
「分かった・・・義父殿。」
俯いてコクコク頷く呂布であった。
そうしてお互いに泣き笑いながら、夜が明けるまで昔話や、故郷の話に花を咲かせた後・・・。
早朝未明に董卓の居る大尉府を訪れ、董卓の前に丁原の首を差し出して、并州勢に一切の叛意が無い事を、身を以て証明した呂布であった。
丁原の首を持参した呂布を董卓は褒め称え、呂布を自分の養子にすると宣言。
丁原の養子である呂布を、自身の養子にする事で、呂布の義実家であり家族である、丁原の一族の保護を、遠回しに告げたのであった。
こうして并州勢をも吸収した董卓は、最早洛陽に敵無し状態となり、名家閥連中も従面腹背を余儀無くされ、悪評をばら撒くのに勤しむのだった。
そうこうする内に9月末になって、ついに危篤状態だった劉弁がひっそりと逝去。
10月、先帝の子で唯一残った劉協の為に、董卓は魔王と化して腐り果てた名家閥連中に対し、積極的に涼州から応援を呼び寄せて、遠慮会釈無しの粛清を始めたのであった。
そして呂布率いる并州勢も、丁原に謀反を促したとされる、執金吾府に頻繁に出入りしていた、名家連中の始末を皮切りに、修羅と化したのである。
そんな騒ぎに洛陽が騒然とする少し前、とある地方の代表者は・・・
涼州漢陽郡隴県州牧館内厩
「うおぉ・・・デケェ・・・。」
異民族からの「友好の証」として贈られた、立派な体躯の馬を見上げる糜芳。
「ふ~む・・・恐らくこの馬は汗血馬ですな。」
首を傾げてしたり顔で告げる、家令のイー。
「へ~ほ~、この馬が前漢の武帝が、国外遠征してでも欲しがったつう、汗血馬か~。」
汗血馬?の周囲をうろうろして観察する。
(う~ん・・・競馬のサラブレッド種と言うよりは、北海道の橇引きする、ばんえい競馬だっけ?の馬に近いかも・・・?)
脳内で思考する。
「して殿、名前はどうしますか?」
「う~ん名前ね~・・・。」
威厳というか覇気の有る、黒鹿毛の馬を観た糜芳は、
「やっぱりコクオー・ゴッ!!おぉぉ・・・!?」
世紀末的名馬の名前を付けようとした瞬間、馬に左足のスネを蹴られ、キリストに祈る様な姿勢で、しゃがみ込んで悶絶する。
激痛に無言でプルプル震えていると、コクオー(仮)が見下ろす姿勢で首を捻り、舌をデロンと垂らして、「おいテメエ、オレ様を舐めてんのか、あ?ふざけた名前付けてんじゃねーぞ?」と言いたげに、糜芳を観ている(様に見える)。
「こ、このヤロー!?ワザとやりやがったな!?
お前みたいな奴は、ゴッ!!ルシィ痛ぁぁぁ!?」
ラピュータに出てきそうな、ヒロイン名っぽい悲鳴を上げて、蹴られた右足のスネを押さえつつ、ゴロゴロと激痛にのた打ち回る。
~~しばらくお待ちください~~
「このクソ馬がぁ!!馬刺にしたるわ!!」
漸く痛みから解放された糜芳は、半泣き状態で空手の型を構えて、戦闘体勢に入った。
それに呼応するかの様に、ルシーた(仮)も「おお?やんのか?コラ?やんのか?」と言いたげに、蹄をガッガッと地面に擦ってブフーと鼻息を荒げて、戦闘体勢に入った(様に見える)。
呑気に「馬と仲がよろしいですなぁ」と宣う、イーを尻目に、一触即発の状態に入った途端、
「糜芳君じゃなくて州牧閣下!洛陽の都より急報です!一大事の急報が届きました!」
蔡邕の婿養子で糜芳とは義兄弟になり、義弟の別駕従事(副官)を勤めている苦労人、蔡良が厩に飛び込んで来た。
「うん?どうかしたの義兄殿?」
「一応公務の報せだから、公的な呼称でお願い!
去る2週間前、大将軍の何進閣下が洛陽に於いて、張讓達十常侍に因って暗殺、暗殺されたとの事!」
一気にまくし立てて糜芳に報告する。
「え・・・ああ、そうなんだ・・・分かった。」
素っ気ない返事を返す糜芳。
(ああ、やっぱり史実通りに成ったのか・・・。
ごめんなさい何進殿、貴方1人を救う為に歴史を改変して、どう転ぶか判らないリスクを賭けられないんだよ、どうしても俺には・・・)
脳内で何進に謝罪する。
前述の通り、歴史的に重要度の高い、人物の生死を改変すると、バタフライエフェクトの理論の様に、どんな歴史のうねりが発生して、どんな状況になるのかの予測が難しいという、非常に大きいリスクを背負う可能性が高かった。
そして糜芳自身には、もし何進の生死を改変しても直接的に解決できる、立場や権力を有しておらず、下手すれば人1人救う為に、万を越す無用な犠牲者や被害者を出してしまう、危険性がかなりあった。
(徐州虐殺の場合は、1人でも犠牲者を減らす方策なので、成功したら数十万単位が助かる計算で、失敗しても何割かでも助かれば儲けといった、金銭・食糧以外はリスクの殆どない、補填の効く類のモノだからまだやれるんだけど、何進や董卓の場合は重要度と影響力が高すぎて、流石に無理だ。
余りにもリスクが高すぎるし、責任が持てない)
改めて認識する糜芳。
(何進殿には悪いけど、自分で責任を持てない事は出来ないし、無責任でやりたくない。
他のチート主人公みたく、どでかい歴史改変をして華麗に解決!なんて事は、俺には無理だから。)
再び脳内で陳謝する。
「?・・・如何なさいました州牧閣下?」
呆然としている糜芳に、恐る恐る問い掛ける蔡良。
「あ、いや、余りに衝撃的な内容に、頭が真っ白になって、呆然としてしまっただけだ。」
頭を振って誤魔化した。
そして洛陽の方に体を向けて、
「何進殿・・・ご冥福をお祈り致します。」
手を合わせて拝んだ・・・瞬間、
ドカッ!
「ぐはぁ!?・・・いてぇぇぇ!?」
コクオー或いはルシーた(仮)に、後ろから蹴られて拝んだ姿勢のままで、ヘッドスライディングを敢行する羽目になった糜芳。
「ヒヒヒィィン♪」
「ぐぉぉぉ・・・このクソ馬ぁぁ!!
絶対に許さん、許さんぞ!!馬刺にした上で、皮を剥いで敷物にしてやる!」
鼻で笑うコクオー(仮)に怒り狂った糜芳は、猛然と襲いかかったのであった。
続く
とりあえず乱世突入直前です。
呂布の話の下りは、いきなり丁原のクビちょんぱして、それで并州勢が素直に従うのは、流石に無理が有ると思い、事前にこういうやり取りが有ったんでは?という感じに書きました。
ボチボチと進めていく予定です。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
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