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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
89/111

その3

読んでくださっている方々へ


え~この作品はフィクションですので、難しく考えずに、菩薩とか海のよ~に、広~い心で読んでくださいね。


感想・いいね爆押し、ありがとうございます!

    洛陽太尉府(旧大将軍府)董卓執務室


「何でこがいな事に・・・次から次へと・・・。」

げっそりとやつれた表情で、力無く呟く董卓。


何進横死後、太尉に任じられた董卓は、何進の直属軍と将軍府を接収し、亡き何進が使用していた執務室を、そのまま再利用しており、豪奢で立派な机に上半身を預け、矢継ぎ早に襲いかかってくる不運を嘆いていた。


「ホンマもんに、弱り目に祟り目ですわいな。」

同じくげっそりとした表情で、弱々しく相槌を打つ副官兼娘婿の牛輔。


9月、先月末に発生した何進暗殺事件の、最高功労者として劉弁に賞され、太尉に昇進して何進の遺した、軍民(軍部・民部)の遺鉢を継いだ董卓は、中央政界に乗り込んだ。


当然名家閥からは、「自分達の我が世の春到来を、邪魔する田舎者の異分子」として、侮蔑と嫌悪を以て迎えられたのである。


名家閥にしてみれば、邪魔な宦官と何進が共倒れになり、漸く雌伏の時代が過ぎたと思いきや、ひょっこり董卓というダークホースが現れたのだから、負の感情が爆発するのも、無理からぬ事であった。


まぁ当の董卓からすれば、一昔前と違って殆ど権力を失っている、末成(うらな)りの青瓢箪(あおびょうたん)共にどう思われようと、柳に風であったが。


事実上何進の後継者となった董卓は、遠慮や躊躇なく何進暗殺事件騒ぎに関わった、各関係者達の処断・処罰に鉈を振るう。


先ずは何進暗殺から劉弁兄弟誘拐という、国家規模の犯行に及んだ、十常侍の血縁者・縁戚を含む全員を死罪・族滅とし、知人・友人処か本貫地(出身地)の住人までもが死刑の対象として、巻き込まれる事態となり、地域住人達は辛うじて避難できたか、死刑執行に巻き込まれたかに2極化した。


(国家規模犯罪クラスになると、市町村単位で皆殺しになる事が、ちょくちょくあった)


次に袁紹達が起こした、宮中侵犯・宦官虐殺・建物の放火に対する、犯罪行為の審判を行い、宮中侵犯に関しては、ギリギリ何進の敵討ちに見えなくもなかったので、甥である劉弁からの恩赦により、彼らは辛うじて罪を免れた。


しかし幾ら何でも宦官虐殺と放火は、やり過ぎとして有罪判決となり、袁紹・袁術は父祖の功績を考慮して、無期限の蟄居謹慎(ちっきょきんしん)処分となって官位・官職を剥奪、参加した虎憤・羽林達は本人は死罪として処され、家は改易処分となり庶民に落とされた。


そして残りの虎憤・羽林連中は、国賊に劉弁兄弟を拉致られた失態を理由に、解散と召し放ち(解任・クビ)を命じて、新たに軍部から実力本位の選りすぐりを選抜。


実質軍事関係から名家閥の影響を、完全に排除する事となり、軍事系名家は没落の憂き目にあった。


厳しすぎると名家閥から、抗議の声もあったが、


「虎憤・羽林は曲がりなりにも軍人の端くれ。

コレだけの失態を犯せば、武官として自刎(じふん)して果てるのが常識であり、末代の恥を晒した者の親とて率先して自害し、皇室に詫びるべきモノだ。

それを強いる訳でなく、召し放ちだけで済ましている時点で、寧ろ十二分に温情をかけている。」

軍人視点でキッパリと反論し、躊躇なく実行した。


そうして信賞必罰を断行して、名家閥から益々怨みと敵意を買ったが、お互いに元々マイナスの感情だったし、遠吠えにしか董卓にはならなかったので、なんら影響がなかった。


()()()()()


第1のボタンの掛け違いが発生したのは、「十常侍の親類・縁者族滅」に因る、参謀長を務めていた荀攸の離叛である。


経緯としては、十常侍の筆頭格だった張讓は、豫州穎川(よしゅうえいせん)郡の出身で、荀攸と同郷だった。


穎川郡に於いて長年宦官閥のトップだった、張讓の影響力の範囲は広く又、荀家を始めとする名家も多い為、軍部の軍勢では躊躇(ためら)いや躊躇(ちゅうちょ)をしかねず、自分の麾下(きか)である3千騎を派遣して、張讓の親類・縁者族滅を行った。


当然族滅騒ぎに巻き込まれる事が無い様、董卓は荀攸には事前通達したし、荀攸も理解していた。


しかし地方軍閥を詳しく知らない荀攸は、涼州軍の行動の素早さを知らなかった為、いつも通りの定期連絡で大丈夫と思い込んでしまったのだ。


その間に董卓の指示を受けた麾下の3千騎は、即時即断で行動し、元々名家閥だの宦官閥だのから派遣されて、故郷の涼州を無茶苦茶に荒らされて恨み骨髄の涼州勢は、容赦なく穎川郡を蹂躙する。


結果、穎川郡は住人達がこぞって離散してしまい、荀攸が慌てて一族に連絡を取る頃には、音信不通の生死不明状態になってしまう。


実際には何進暗殺事件からの、十常侍の顛末を知った筍1号こと荀彧が、自分達が巻き込まれる危険性を予見し、同郷の郭家(郭嘉)や陳家(陳羣)と共に、すんでのところで危難を脱していたのだが、これ又同郷で冀州牧に就任している、韓馥(かんふく)を頼って移動中だった為、連絡を取れる状態では無かった。


その為一族を殺されたと()()()()()荀攸は、逆上して仇討ちに走り、董卓暗殺を実行してしまう。


しかしながら素人の何進なら兎も角、戦場で生き抜いて来た、玄人の董卓達にはあっさりと看破され、当然の如く失敗に終わる。


事情を知った董卓は、事実無根を荀攸に訴えたが、涼州勢が荀家だけを避けたという、「悪魔の証明」を実証出来る筈もなく(そもそも董卓自体も、荀家の人間を知らないレベル)、無論殺す訳にもいかないので、やむなく投獄する事となる。


こうして行き違いに依る相互の認識不足で、大事な知恵袋を失ってしまったのであった。


何故か荀攸の暗殺未遂事件は、名家閥連中には()()に映ったらしく、名家閥からは賞賛されたが。


それはさておき、


次に起こった不運は、自分の後ろ盾とも云える劉弁が不意の病に倒れ、明日をも知れぬ危篤状態になってしまった事である。


この思っても観なかった事態に依り、連鎖的に董卓に不運が襲いかかったのであった・・・とは言っても、多少は董卓の自己責任の面も有るのだが。


董卓自身も劉弁が病を発して後、合間を縫って見舞いに行ったのだが、ドンドン重病化していく我が子に、縋り付く様に寝食を忘れて必死に看病する、劉弁の母・何太后のやつれ果てた姿を観て、自身も実子を夭折(ようせつ)して失っており、妻と全く同じ心境にある何太后に心底同情し、もし万一の事を考えて、劉弁の名誉を守る為に奔走する決意をする。


このまま万一が有れば劉弁は、「十常侍に知らず知らずの内に誘拐された上に利用され、漢を災いをもたらしかけた愚鈍な人物」という誹りを受けかねず、余りにも不憫であった。


其処で少しでも名誉や事跡を残せる様にと、「重い病を発した劉弁は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」といったサイドストーリーを考案し、何太后にはこの筋書きに同意する様に、誠心誠意説得をする。


当初は突っぱねていた何太后だったが、日に日にやせ衰えていく劉弁の様を観て、「汚名を遺して逝くよりは・・・」と、精根尽き果てた表情に涙を浮かべて、泣く泣く了承したのであった。


何太后の了承を得た董卓は、他の三公や九卿を集めて会議を開き、殆どの三公・九卿が出席する中、劉弁の危篤状態を伝えた上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事にして、皇帝としての公的な記録を残し、病床の為に進んで退位して王位に退き、国家安寧を劉協に託したとする()()()()()、出席者全員の賛成を以て可決される。


(捏造に関しては、漢帝国の始祖・劉邦の様にエピソードを盛って、記載されている事が有るように、ごくごく普通に行われている事だった)


そうして閣僚会議で決定した事を、十常侍討滅の慰労の宴にて、公式に発表する事が決まり、一段落ついた後に董卓が発表したのだが、思わぬ形で問題が発生する。


自主謹慎中だった尚書令の盧植と、并州から何進の呼び出しに応じて上洛し、そのまま在京して執金吾(しつきんご)になった丁原の2人が、「なんたる不遜!僭越にも程があろうぞ!?」と、猛反発して宴席を蹴って帰ってしまったのだ。


そうした突発的な問題が発生した直後の現在・・・


「・・・どうします?オヤッサじゃなくて、え~とその~閣下?」

「・・・どうしよう?蔡邕殿・・・?」

言い慣れない単語に詰まりつつ、今後の対応を聞く牛輔に対し、蔡邕に右から左に振る董卓。


「どうしようもないわい・・・「覆水盆に返らず」と言うものじゃ。

自主謹慎中で事情を知らぬ盧植殿は、まぁ擁護出来る余地が有るし、弟子達や士人の助命嘆願が出されようから、まだ罷免だけで済ませれる。」

盧植の場合の予測をして、


「じゃが丁原殿はどうにもならん。

盧植殿と違って謹慎しとった訳では無いし、閣僚会議をすっぽかした挙げ句、後になって反対する様な()()()()()を仕出かしておる。

貴殿だけでなく他の三公・九卿をも、敵に回したのと同義じゃ。

まず助命嘆願をする者も居るまいて。」

丁原は助ける余地なしと断じた。


同じ行動を取ったのに、2人の明暗が分かれたのは、事前行動の差であった。


盧植の場合は正式に謹慎の届け出を出して、筋を通して慰労の宴までは休職し、外部の情報が自然に遮断された状態と云えるし、当然閣僚会議も欠席していた為、会議の内容を知らなかった故の、発言だと受け止めれるので、まだ弁護出来る余地があった。


しかしながら丁原の場合は、「董卓主催の閣僚会議」と聞いて、董卓に対して反感を持っている丁原は、個人的な感情で()()()()()()()()がありしかも、いつでも会議の内容を知り得る立場で有りながら、マトモに確認をとっていない可能性が高かった。


挙げ句に会議を欠席した以上は、自動的に「白紙委任(はくしいにん)」=会議の決定に従うのが原則なのに、平気で後になって蹴たぐる行動を取っている。


摂政である劉弁が、病床で政務が取れない現状に於いて、三公が主催する閣僚会議が、最高位の国家意思決定機関と成っている中、公然と意思決定に反対・反発した丁原は、国家上層部と反目して実質、()()()()()()()()()()()行為を行っていた。


トドメに丁原自身が并州から、約5千の私兵を連れてきており、より一層の信憑性と危険性を、周囲にバラまいている。


「しかしな蔡邕殿。

宴席の上での話だから、多少なりとも余地があるのではないか?」

食い下がる董卓。


「無理なモノは無理じゃと言うに・・・。

私的な宴席なら酔った上での、戯れとしてまだ余地があったがのう。

此度の宴は、一連の何進閣下暗殺事件に関する、()()()()()()()事を文武官に周知する為の、()()()()()()を持つ宴じゃ。

盧植殿もそうじゃが、キチンとした対応を取らねば、鼎の軽重を問われる事になるぞ?」

キッパリと言い切る。


実は今回の宴は慰労会という名の、「何進暗殺事件の解決と後始末」が終了し、「これ以上の事件追及は無い」というのを、知らしめる為の公的な意味合いを持つモノであり、現代風に云えば会社主催の飲み会と同じであった。


そんな実質的に(おおやけ)の場に等しい所で、会社の意思決定に逆らい、文句を言って席を蹴って帰れば、後日がどうなるかは、火を見るより明らかな話である。


逆に言えば造反(ぞうはん)(ほの)めかした者を放置すれば、今後似たような事例が発生した場合、改めて後で罰せなくなるし、「あの人がやっても何もされないなら、自分もしてOKだろう」と、舐められてしまうのだ。


「・・・ハァ・・・やっぱり始末を付けにゃあいかんのか。」

眉根を寄せてため息を吐く。


「そう言う事じゃ董卓殿、覚悟を決められよ。

劉弁陛下が万一の時には、劉協殿下が至尊(しそん)の位(帝位)に就かれる事となる。

もしそうなられた場合に、このまま今回の件を見過ごせば、後々に名家閥のたわけ者共が、好き放題する名分を与える事になる。

故に毅然とした態度と処理を、貴殿が周囲に示さねばならんのじゃ!」

語気を強めて、非情の決断を促す蔡邕。


前述した様に、劉弁の場合は何進からの繋がりで、即位をしたら董卓の役目は終わるのだが、劉協の場合は名家閥の手垢が、べっとりと付いていているので、劉協自身も若年なのもあって、どうしても一定の配慮をせざるを得ない。


その為唯一名家閥に掣肘(せいちゅう)出来る立場の董卓が、日和ったり弱気な姿勢を見せると、ズカズカと躊躇なく権力掌握に走り、元の木阿弥処か、良くも悪くも対抗馬(宦官閥)が消失した現在、最悪の場合はブレーキ役がいない名家閥が暴走して、「王莽の二の舞」か「内部権力抗争の激化に因る、異民族の侵略誘発」を、招く危険性が十二分にあるのだ。


まぁ、それと同時に董卓という敵を、座して見逃す事も無いのも自明の理であったが。


それはさておき、


「・・・やむを得んか、儂にも守らなきゃいかん者達がおるし、躊躇して失う訳にもいかん。」

「・・・心中お察し申す。

この上はできる限り、要らぬ巻き添えを減らす事に注力するべきじゃろう。」

うなだれる董卓を励ます。


「具体的には?」

「可能なれば丁原殿が連れて来た、并州勢を説得して丁原殿と離間させて、貴殿が便宜を図る、と言った感じじゃろうかのう。」

腕を組みつつ、瞑目して首を捻る。


「・・・分かった、牛輔!」

「へ?あ、はは!」

「張遼・・・いや、李粛を呼べ。」

「李粛ですね、承知しました。」

拱手して立ち去っていく。


一瞬、何進死後に并州から帰還し、そのまま新たに傘下に入った、張遼を説得役に考えたが、自分を何進に推挙してくれた恩人に対して、仇なす行為をさせる事になると判断して(かぶり)を振り、丁原との関係改善の交渉役を務めさせている、家臣の李粛を指名したのであった。


凡そ30分後・・・


「お召しにより参上しました殿。」

恵比寿顔の軍政官・李粛が、主君の前で拱手する。


李粛は以前并州の刺史を務めた際に、并州で採用した家臣であり、強面の多い家臣団の中でも表情と言葉遣いが柔らかく、敵意を買い難く受けが良いため、外交的な役割も担っていた。


「ああ、よく来てくれた李粛。」

「はは、恐れ入ります。」

「お前に頼んでいた丁原殿の件だが・・・。」

「申し訳ありません。

丁原殿は意固地になっておられる様で、中々聞く耳を持って貰えず・・・。

主簿(しゅぼ)(主計長兼副官)で養子の呂布殿を介し、徐々に距離を詰めていく積もりであります。」

八の字に眉を寄せて、頭を下げる李粛。


「丁原殿、いや丁原の事はもういい。

それよりも主簿で養子の呂布とは、個人的に連絡(つなぎ)を取れるのか?」

先の宴で丁原の後ろに陪席していた、武人然とした偉丈夫を脳裏に思い浮かべる。


「?はい、出来ますが・・・。」

「では呂布に儂が今から言うことを、余すことなく明瞭に伝えてくれ・・・実はな・・・・・・。」

慰労会での出来事と、その顛末と丁原の今の状況、呂布達并州勢の選択と行く末を、李粛に話した。


「な、なんと誠にございますか!?」

「ああ、最早手の打ち様が無いし、時間も無い。

一刻も早く去就を定める様、呂布に伝えてくれ。」

「はは、今すぐに行って参ります!・・・御免!」

バタバタと走り去っていく李粛を見送り、


「無益な犠牲が出んことを祈るのみ、か・・・。」

溜め息を吐いて、天井を見上げるのであった。


そして・・・


      洛陽執金吾府幹部用個室


「おお、よく参られた李粛殿。

急を要する案件と聞いたが、先日の慰労会に於ける、義父(おやじ)殿の無礼の事で有ろう?

酔った勢いで申し訳ないと、董卓閣下に伝えて貰えないだろうか?」

大男の偉丈夫が書簡を畳みつつ、窮屈そうな机から立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。


呂布奉先・・・三国志随一の猛将で知られる人物で、脳筋の代表格に挙げられる彼だが、故郷の并州時代では所属していた、丁原の軍閥で主簿(主計長(しゅけいちょう)=軍政官筆頭で軍閥の経理)を担当しており、当時ではかなり貴重な読み書き算盤が出来る、意外にも軍政・軍事両道な人物であった。


「いや呂布殿・・・最早なぁなぁで済む話では、疾うになくなっているのだ!」

早口でまくし立てる李粛。


「は?・・・どう言う事かな李粛殿。」

険の籠もった声音で問い返す呂布。


当初こそ苛立ち気味に、眉間に皺を寄せていた呂布だったが、李粛の話を聞いている内に、ドンドンと顔面蒼白になっていく。


「そんな!?・・・只の宴ではなかったのか!?」

「呂布殿、此処は并州でも涼州でもない、政の権力に群がる物の怪が巣くう洛陽だぞ?

例え私的な宴でも、一々政治的な駆け引き等の、意味合いを持っている所なのだ。」

田舎の価値観で考えている呂布に、懇々と諭す。


呂布の感覚からすれば、戦勝祝いや狩りの宴では、酔った勢いでの失言や喧嘩などは、日常茶飯事な事であり、後で内々に部下同士を派遣して和解、自然と無かった事にするのが常だったので、地元基準の軽い気持ちで、今回の件を捉えていたのだった。


「しかし義父殿も、恐らく知らなかった筈だ!

そんな無体な話を急に言われても!?」

「先程から言っているが、此処は洛陽だ。

知らなかったでは通じんのが、丁原殿が就いている執金吾という、立場であるのだ呂布殿・・・。」

認識不足の呂布に、苦々しく呟く。


「でだ呂布殿、此処から本題なのだが、董卓閣下からの提案を伝える。」

「提案・・・。」

筋骨隆々の偉丈夫が、李粛に詰め寄る。


「最早丁原殿は救い様が無い前提で、貴殿等には2つの選択肢がある。

1つ目は丁原殿と命運を同じくする事。

この場合は謀反に加担したと見做され、貴殿等の家族も累が及ぶ事となる。」

「そ、そんな無茶苦茶な・・・!!」

李粛の言葉に絶句する。


「・・・そして2つ目、貴殿等并州勢が()()()()()()()殿()()()()()して・・・討伐をする事だ。」

「な!?貴様ぁ~!俺達に主君を裏切った上に、殺せと言うのかぁ!!」

片手で李粛を軽々と掴み、ギリギリと締め上げる。


「ぐぐっく・・・き、貴殿が怒りを抱くのは、と、当然の仕儀だ、が、他にしゅ手段がぁ・・・ぁ。」

「・・・・・・く、くく、くそったれぇ!!」

口惜しげに罵った後に李粛を解放して、ドカリと胡座(あぐら)をかいて座り込んだ。


「ゴホッゴホッ・・・!」

「・・・時間をくれ。

俺1人で決められる事ではない・・・。」

「ゴホッ・・・ああ、無論そうだろうとも。

但し、それ程猶予は無いと思ってくれ。」

「・・・承知した。」

退出していく李粛を見送るのも忘れ、額に両手を置いて俯く呂布であった。


その日の晩・・・


丁原には秘密裏に、丁原軍の主だった校尉達、陣代(じんだい)(筆頭武官)の高順(こうじゅん)を始め、郝萌(かくぼう)曹性(そうせい)成廉(せいれん)魏続(ぎぞく)宋憲(そうけん)候成(こうせい)らを集めて、自分達の現状の立場と董卓からの提案を、憔悴(しょうすい)した顔で告げる。


「・・・という訳だ・・・皆の意見を聞きたい。

遠慮なく意見を言ってくれ。」

「そもそもその話は事実ですか?」

「ああ、残念ながらな。

万一を考えて部下達に探りを入れさせたら、董卓閣下の意を受けた軍部が、明らかに我々執金吾府を意識した、隊形を整えていた。

・・・我々の動向を探る、複数の監視付きでな。」

溜め息混じりに、候成の疑問に答える。


「・・・呂布殿、かくなる上はいっそのこと、本当に乱を起こしますか?」

()の目鷹の目な状態で、成功出来るならな。

相手は軍部を含んだ5万以上、コッチは我々だけの約5千で、オマケに市街戦になるぞ。」

郝萌の胡乱な問い掛けに、彼我(かのが)の戦力差と戦地の想定を告げる。


「どうにか野戦に引きずり込めれば・・・。」

「馬鹿を言え。

董卓側が此方(こちら)の都合に乗る理由がない。

地の利がある市街戦に持ち込んで、数で押せば楽勝なのだから。」

宋憲の都合の良い話に、成廉がキッパリ否定する。


「こうなれば、洛陽を脱して并州に帰り、并州軍閥を糾合するしか・・・。」

「・・・糾合する大義名分をどうするのだ魏続?

まさか殿の()()()()()()()()()()、閣僚会議に於ける()()()()()()()()()、と言うつもりか?

例え上手く誤魔化して糾合出来ても、討伐軍に討伐理由を告げられたらお終いだ。

間違いなく他の軍閥連中に、袋叩きにされるぞ?」

魏続の提案を冷静に返す曹性。


それから約1時間程話し合い、議論百出して意見を重ね、頑張ってどうシミュレーションしてみても、「大義名分が自分達に無い」が足枷になり、失敗する公算しか出なかった。


「・・・最早意見は出尽くしたな・・・呂布殿。」

今まで黙して聞いていた、筆頭武官の高順が口を開いて、腕を組んで瞑目している呂布に視線を向け、


「我らは丁原様の旗の下、漢帝国に仇なす者共と戦い、無辜の民衆と家族を守り、それを誇りに思って今日まで生きて来た・・・だが。

だが今回の場合は、それとは逆になってしまう。

我らだけなら、丁原様に殉ずるのは否とは言わん。

しかし、将兵5千とその家族を巻き込む事だけは、将兵を預かる立場として、やってはならん事だ。」

1軍の将としての意見を、朗々と呂布に告げた。


「・・・確かに高順の言う通りだ、な。

義父殿の子(部下)で有る前に、将兵の親(上官)である我々が、将兵を守らねばならん・・・か。

ハァ・・・なんでこんな事に・・・。」

頭を抱えて呻く。


元々董卓と丁原は、最初から険悪な関係ではなく、寧ろ董卓から執金吾を任されるくらいの、かなり良好な間柄だった。


しかし張讓や趙忠達十常侍に因る、何進暗殺事件に関して、自分が執金吾(警視総監)の役職なのに、洛陽の治安維持のみで、一切関わらして貰えなかった事に、激しい憤りを覚えた丁原が、一方的にへそを曲げてしまったのが、今回の騒ぎの発端だった。


董卓からすれば、協力を申し出ている丁原の意見を、無下に突っぱねるのは心情的に悪いし、かと言って名家閥の処分も含まれている為、下手に何進暗殺事件に関わらして、要らぬ恨み辛みのとばっちりを、受けさせるのも立場的に悪いと感じ、事件解決までのバタバタしている間、都の治安維持を頼む意図だったのだが、思いっきり裏目に出たのである。


態度が急変した丁原に、慌てて関係改善に努めた董卓だったが、意固地になる処か関係悪化に便乗して、煽動(せんどう)する輩(名家連中)まで発生し、余計に悪化の一途を辿ったのであった。


もし荀攸が董卓の傘下に居れば、何進時代からの関わりで、丁原の頑迷固陋(がんめいころう)ぶりを知っていたので上手く対処し、こんな不幸な事態を防げたのだろうが、結局は最悪の形になってしまったのであった。


それはさておき、


「・・・やむを得ん、義父殿には・「呂布殿、それ以上は言いなさるな。

某が始末を付けに行きます故に。」

呂布の悲痛な心情を察し、高順が立ち上がる。


「いや、俺がやる・・・やらしてくれ。

せめて・・・せめて義父殿の最期は俺が・・・。」

立ち上がった高順の袖を掴み、俯いたまま言葉をつっかえつっかえに紡ぐ。


「・・・心中痛いほどにお察し申す。

呂布殿・・・いえ呂布様、今是より我らは貴方様を主君に戴き、忠誠を此処に誓いまする。」

高順はやんわりと袖の拘束を外し、バシッと拱手して頭を下げ、呂布を新たな主君と仰ぐ。


そして同じく他の者も、高順に倣うのであった。


「・・・これからも宜しく頼む。」

「ははっ、お任せください殿。

将兵達は我らで抑えます故、どうかご安心を。」

自分の家臣となった高順達を背に、ノロノロと部屋を出る呂布であった。


覚束ない足取りで、義父・丁原がいる執金吾の執務室に、断りもせずに(おとな)う。


「・・・ん、呂布か?・・・おい!?どうしたのだお前!?涙を流してからに!」

普段観た事無い呂布の状態に、驚いて立ち上がり、慌てふためく丁原。


「義父殿・・・義父殿を謀反人として、俺が義父殿を討たねばならん仕儀になった・・・。」

「は!?どういう事だそれは!?

とりあえず座れ!落ち着いて座って話せ!」

急な話に、目を白黒させ動揺しつつ着席を促した。


ポツリポツリと経緯(いきさつ)と、現状を話し出した呂布の話を聞いた丁原は、唖然呆然とした表情になっていき、「何たる事だ・・・」と絶句する。


「・・・つまりは、儂の無知蒙昧(むちもうまい)が原因で、お前らにまで累が及ぶ事態に成っとるのか・・・。」

「ああ、そういう事になる。」

コクリと頷く。


「そして董卓閣下が、将兵達を救う手段として、我々に提案したのが・・・。」

「儂の首をお前らがとって、叛意が無い証明とし、儂個人の勝手な話しにするという事、か・・・。」

腕を組んで虚空を見上げて、


「ククク・・・ワッハハハハ!!こりゃ参ったわ!

一方的に嫌っとる儂に、最後まで気遣うとはな!

こりゃどうも参った、参った!」

突如として呵々大笑する。


「義父殿?」

「所詮は田舎者の儂の愚かさという事か。

都は恐ろしい所よのう呂布よ、何気ないと思った事で、儂が何十年と掛けて積み上げたモノが、一瞬にして消えるのだからなぁ・・・ワッハハハハ!!」

額に手を当てて頭を振って笑う。


一頻(ひとしき)り笑った後、


「かくなる上は是非もなし。

董卓閣下に首を持っていき、お前らは生き延びろ。

今回の件は儂の自業自得、故に関係の無いお前らを巻き込む訳にはいかん。」

清々しい表情で呂布に告げる。


「・・・義父殿ぉ。」

「最期まで勝手を言うが、一族妻女を頼む。

それと儂の警告じゃが、儂以上にお前は純な軍人故に、都の雀共には一切関わるな。

関われば自然と口車に乗せられ、必ずや災いが降り懸かると思えよ。」

「分かった・・・義父殿。」

俯いてコクコク頷く呂布であった。


そうしてお互いに泣き笑いながら、夜が明けるまで昔話や、故郷の話に花を咲かせた後・・・。


早朝未明に董卓の居る大尉府を訪れ、董卓の前に丁原の首を差し出して、并州勢に一切の叛意が無い事を、身を以て証明した呂布であった。


丁原の首を持参した呂布を董卓は褒め称え、呂布を自分の養子にすると宣言。


丁原の養子である呂布を、自身の養子にする事で、呂布の義実家であり()()()()()()()()()()()()()を、遠回しに告げたのであった。


こうして并州勢をも吸収した董卓は、最早洛陽に敵無し状態となり、名家閥連中も従面腹背を余儀無くされ、悪評をばら撒くのに勤しむのだった。


そうこうする内に9月末になって、ついに危篤状態だった劉弁がひっそりと逝去。


10月、先帝の子で唯一残った劉協の為に、董卓は魔王と化して腐り果てた名家閥連中に対し、積極的に涼州から応援を呼び寄せて、遠慮会釈無しの粛清を始めたのであった。


そして呂布率いる并州勢も、丁原に謀反を促したとされる、執金吾府に頻繁に出入りしていた、名家連中の始末を皮切りに、修羅と化したのである。


そんな騒ぎに洛陽が騒然とする少し前、とある地方の代表者は・・・


      涼州漢陽郡隴県州牧館内厩


「うおぉ・・・デケェ・・・。」

異民族からの「友好の証」として贈られた、立派な体躯の馬を見上げる糜芳。


「ふ~む・・・恐らくこの馬は汗血馬ですな。」

首を傾げてしたり顔で告げる、家令のイー。


「へ~ほ~、この馬が前漢の武帝が、国外遠征してでも欲しがったつう、汗血馬か~。」

汗血馬?の周囲をうろうろして観察する。


(う~ん・・・競馬のサラブレッド種と言うよりは、北海道の(ソリ)引きする、ばんえい競馬だっけ?の馬に近いかも・・・?)

脳内で思考する。


「して殿、名前はどうしますか?」

「う~ん名前ね~・・・。」

威厳というか覇気の有る、黒鹿毛(くろかげ)の馬を観た糜芳は、


「やっぱりコクオー・ゴッ!!おぉぉ・・・!?」

世紀末的名馬の名前を付けようとした瞬間、馬に左足のスネを蹴られ、キリストに祈る様な姿勢で、しゃがみ込んで悶絶する。


激痛に無言でプルプル震えていると、コクオー(仮)が見下ろす姿勢で首を(ひね)り、舌をデロンと垂らして、「おいテメエ、オレ様を舐めてんのか、あ?ふざけた名前付けてんじゃねーぞ?」と言いたげに、糜芳を観ている(様に見える)。


「こ、このヤロー!?ワザとやりやがったな!?

お前みたいな奴は、ゴッ!!ルシィ()ぁぁぁ!?」

ラピュータに出てきそうな、ヒロイン名っぽい悲鳴を上げて、蹴られた右足のスネを押さえつつ、ゴロゴロと激痛にのた打ち回る。


~~しばらくお待ちください~~


「このクソ馬がぁ!!馬刺にしたるわ!!」

漸く痛みから解放された糜芳は、半泣き状態で空手の型を構えて、戦闘体勢に入った。


それに呼応するかの様に、ルシーた(仮)も「おお?やんのか?コラ?やんのか?」と言いたげに、(ひづめ)をガッガッと地面に擦ってブフーと鼻息を荒げて、戦闘体勢に入った(様に見える)。


呑気に「馬と仲がよろしいですなぁ」と宣う、イーを尻目に、一触即発の状態に入った途端、


「糜芳君じゃなくて州牧閣下!洛陽の都より急報です!一大事の急報が届きました!」

蔡邕の婿養子で糜芳とは義兄弟になり、義弟の別駕従事(副官)を勤めている苦労人、蔡良が(うまや)に飛び込んで来た。


「うん?どうかしたの義兄殿?」

「一応公務の報せだから、公的な呼称でお願い!

去る2週間前、大将軍の何進閣下が洛陽に於いて、張讓達十常侍に因って暗殺、暗殺されたとの事!」

一気にまくし立てて糜芳に報告する。


「え・・・ああ、そうなんだ・・・分かった。」

素っ気ない返事を返す糜芳。


(ああ、やっぱり史実通りに成ったのか・・・。

ごめんなさい何進殿、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうしても俺には・・・)

脳内で何進に謝罪する。


前述の通り、歴史的に重要度の高い、人物の生死を改変すると、バタフライエフェクトの理論の様に、どんな歴史のうねりが発生して、どんな状況になるのかの予測が難しいという、非常に大きいリスクを背負う可能性が高かった。


そして糜芳自身には、もし何進の生死を改変しても直接的に解決できる、立場や権力を有しておらず、下手すれば人1人救う為に、万を越す無用な犠牲者や被害者を出してしまう、危険性がかなりあった。


(徐州虐殺の場合は、()()()()()()()()()()()()()なので、成功したら数十万単位が助かる計算で、失敗しても何割かでも助かれば儲けといった、金銭・食糧以外はリスクの殆どない、補填の効く類のモノだからまだやれるんだけど、何進や董卓の場合は重要度と影響力が高すぎて、流石に無理だ。

余りにもリスクが高すぎるし、責任が持てない)

改めて認識する糜芳。


(何進殿には悪いけど、自分で責任を持てない事は出来ないし、無責任でやりたくない。

他のチート主人公みたく、どでかい歴史改変をして華麗に解決!なんて事は、俺には無理だから。)

再び脳内で陳謝する。


「?・・・如何なさいました州牧閣下?」

呆然としている糜芳に、恐る恐る問い掛ける蔡良。


「あ、いや、余りに衝撃的な内容に、頭が真っ白になって、呆然としてしまっただけだ。」

頭を振って誤魔化した。


そして洛陽の方に体を向けて、


「何進殿・・・ご冥福をお祈り致します。」

手を合わせて拝んだ・・・瞬間、


ドカッ!

「ぐはぁ!?・・・いてぇぇぇ!?」

コクオー或いはルシーた(仮)に、後ろから蹴られて拝んだ姿勢のままで、ヘッドスライディングを敢行する羽目になった糜芳。


「ヒヒヒィィン♪」

「ぐぉぉぉ・・・このクソ馬ぁぁ!!

絶対に許さん、許さんぞ!!馬刺にした上で、皮を剥いで敷物にしてやる!」

鼻で笑うコクオー(仮)に怒り狂った糜芳は、猛然と襲いかかったのであった。


                  続く

とりあえず乱世突入直前です。


呂布の話の下りは、いきなり丁原のクビちょんぱして、それで并州勢が素直に従うのは、流石に無理が有ると思い、事前にこういうやり取りが有ったんでは?という感じに書きました。


ボチボチと進めていく予定です。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そう言えば、お馬さんの性別に触れてませんね? [一言] 結局お馬さんの名前は黄金の船になるのか●王号になるのか、或いは全く別の名前になるのか…… ハマの行進や、実は牝馬オチからの北斗の…
[良い点] 俺達と同じ様な凡人的な行動が親近感わくわぁ。 やっぱり凡人だし、無茶は出来ないもんなぁ。 俺達が同じ立場になったら、やっぱ歴史的な流れを基に行動の中心に置いて動くと思うからなぁ。 そこから…
[一言] 赤兎馬ってつけるのかと思ったら、違うんですね。 このまま糜芳の馬になるのかな? しかし、よくここまで董卓の性格を変えないように無理なくストーリー繋げて考えましたね。 読んでて感心しました。…
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