その3
読んでくださっている方々へ
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相変わらずの遅筆、ご容赦の程を・・・。
後漢の現状
188年12月に中央で馮芳らが、不祥事を起こしている頃地方では、幽州で反乱を起こしていた張純・張挙と、異民族の大人(部将クラス)である烏桓族・丘力居が率いる約10万を、幽州軍閥の1人・公孫讃が石門の地にて、僅か2千の兵で撃破し、全国に武名を轟かせて一躍時の人となる。
逆に張純は10万の兵で、2千に敗れた愚将として「黄巾賊にも劣る賊将」と天下の笑い者になり、余りの無様な惨敗にたったの一戦で、愛想を尽かした反乱兵も逃散してしまう。
そうしてあっという間に軍勢が瓦解して、にっちもさっちも行かなくなった張純達は、長城(万里)を越えて烏桓を頼りに逃亡するも、1月には肝心の丘力居が新たに幽州牧となった、劉虞の降服勧告に応じて帰順してしまい、結果的に頼りの烏桓からも逐われる始末だった。
張純達は別の異民族・鮮卑族を頼って、烏桓からも逃亡する羽目になったのである。
こうして幽州に於ける張純の乱は、公孫讃の武勇と劉虞の人徳により、一応は平定される事となったが、それとは別に新たな騒動の火種を、作るきっかけにもなってしまったのであった。
その火種になった一大要因は、異民族・烏桓の丘力居の扱いについて、劉虞と公孫讃達幽州軍閥が、真っ向から対立してしまった事だった。
コレは幽州軍閥のみならず、隣州・并州軍閥にも当てはまる事だが、彼等からすれば烏桓だの匈奴だのは、先祖代々それこそ漢代より前の、戦国七雄時代以前から血みどろの殺し合いをして来た、不倶戴天の天敵であり父祖の仇敵でもあった。
それ故に異民族討滅を掲げ、強硬論を唱える軍閥が多く、異民族の丘力居も当然討伐して討ち取り、漢帝国の威を異民族共に示すべきと主張していた。
そういった強硬姿勢な幽州軍閥に対し劉虞は、国内で反乱が相次いでいるのに、無闇矢鱈に国外勢力・異民族との戦争は避けるべきという考えと、自身の理念である「徳を以て治世を為す」を心掛けて、宥和論を唱えていた。
それ故に異民族の恭順化を掲げ、敵対した丘力居を先ずは降服を勧告して恭順させ、漢帝国の徳を異民族達に示すべきと主張していた。
そういった経緯で、両者の意見が対立して紛糾していたが、劉虞は州牧の強権を以て、公孫讃達幽州軍閥の意見を退け、石門で敗退後に烏桓の本拠地に戻らず、と言うよりは、公孫讃達に退路を封鎖されて戻れず、幽州周辺地域で略奪を繰り返していた、丘力居に降服勧告を行ったのであった。
実は劉虞は、幽州牧就任前に刺史も勤めており、その際に丘力居との親交を持っていて、それもあって丘力居も降服勧告に応じたのである。
しかしながら劉虞のやり方は、到底公孫讃と幽州軍閥達には、断じて受け入れられない事だった。
何せ劉虞のやった事は、「幽州軍閥・民達の父祖の恨み辛みを、水に流して忘れろ」と「凶賊共を放免して逃がす」という事を、公孫讃達に言っているのと同義であり、「無神経に余所者が勝手に決めて、自分達幽州人の気持ちを踏みにじった!」と公孫讃達が感じ、怒り心頭に発したのである。
当然公孫讃は猛抗議したが、「私が降服勧告をするのは、これ以上丘力居による被害拡大を防ぐ為であり、そもそも貴殿が丘力居に敗れて取り逃がし、周辺地域に迷惑を掛けているのが原因なのに、何を言っているのだ?」と一蹴した。
石門の戦いで、一躍勇名を轟かした公孫讃だったが、実は調子に乗って逃げる丘力居を追撃した際、逆襲されて半分以下の丘力居軍に敗れて敗走し、追撃に失敗した後慌てて退路を封鎖して、捕捉・追撃を断続的に行っていたのである。
しかし最初の追撃に失敗して以降、丘力居軍を捕捉する事に失敗し続けて、結果丘力居が周辺地域で、暴れ回る要因を作っていた。
痛い所を突かれた公孫讃は沈黙するしかなく、裏でコソコソ勧告交渉の使者を暗殺したりと、稚拙な妨害工作をして、破談に持って行こうとするも、コレも失敗に終わり、結局丘力居は劉虞(朝廷)に恭順を誓って、本拠地に撤退してしまう。
こうして劉虞は公孫讃達幽州軍閥を、「上司の命令を聞かない処か、抗命までする、知見と徳のない脳筋武力バカ共」と認識して嫌悪し、同じく公孫讃及び幽州軍閥も劉虞の事を、「自分達の面子を潰した挙げ句、本当に異民族が、自分の徳に従っていると思い込んでいる、脳内お花畑の勘違い野郎」と認識して侮蔑したりと、お互いに嫌悪しあう様になり、幽州統治に暗い影を落とす事となったのであった。
結果、何進と軍部や糜芳と涼州軍閥の様に、互いに協調・尊重・歩み寄りをして、相乗効果を生み出したのと違い、負の相乗効果を生み出したのである。
因みにだが後に糜芳が涼州にて、何進の連絡から劉虞と、公孫讃達幽州軍閥との確執を聞いた時に、糜芳は「そりゃ劉虞公が悪い」と主張している。
副官の成公英や龐徳が何故ですか?と、首を傾げて尋ねて来たので、
「そりゃあなぁ・・・劉虞公の徳って言うのは儒教的な徳であり、儒教に馴染みのない異民族に徳を説いた所で、理解されないし相手にされんだろう?」
呆れ半分で言い切る。
「え?じゃあ丘力居が、降服勧告に応じたのは?」
「単純に劉虞公の勧告に応じた方が、自分の利益になるからに決まっているだろ。
異国で他領土である、漢帝国内を彷徨いている間に、地元に残っている部下が謀反を興して、領地を乗っ取られる危険性が有るわけだし。
丘力居からしたら、幽州軍閥に攻撃されずに堂々と帰還出来る訳だから、渡りに船だった訳だ。
それに地元に帰って、「漢帝国の皇族が自分を認めた」とでも言えば、箔付けにもなるしな。」
恭順に応じた丘力居の利点を話す。
「それに丘力居は元々、張純という漢帝国に背いた謀反人に、ホイホイ組した好戦的な奴だぞ?
丘力居が漢帝国の威勢だの、劉虞公の人徳だの云々を、そもそも理解しているのなら、最初っから反乱に加担しないだろうしな~。」
「確かに・・・前提がおかしいですね。」
糜芳の説明に頷く成公英。
「そうなると、劉虞公が為さった事は?」
「無論、朝廷及び漢高祖様の威徳にも恐れず従わなかった、好戦的な異民族・略奪者を無罪放免、野に放った行為をした訳だ。
実質的には利敵行為に等しい事を、無自覚にやらかしてんぞ劉虞公は。」
爆弾発言をぶっちゃけた。
「・・・よく告発されて処罰されませんね?」
「まぁ皇族の連枝(一門衆)だし、やっている事自体は、儒教の意に添ったモノだからだろ?
「怨みに報いるは、徳?直?を以てす」だっけ?
「仇は恩を以て報ぜよ」だっけ?そんな感じの。
寒門出身の私がやれば、惰弱と非難囂々に叩かれて、下手すりゃ利敵行為と見なされて、処断される可能性大だけど。」
皇族っていいなぁと言い添える。
「某、当初は劉虞公の徳を讃え、抗議した公孫讃殿達を問題視していましたが、糜芳州牧様の話を聞いた後は、武官の某からすれば公孫讃殿達側の方に、深く同意・同感してしまいました。」
龐徳がしみじみ語る。
「まぁそうだろうなぁ。
劉虞公の宥和政策問題のツケを払うのは、言い出しっぺの劉虞公当人じゃなくて、幽州民・軍・軍閥達だから、さもありなんだわ。」
コクコクと頷く。
実際に丘力居達烏桓族は、その後も遼東郡を始め度々侵略行為を繰り返しているし、劉虞が後に公孫讃と戦争となった時には、高みの見物で傍観しており、劉虞に対して恩や徳を全く感じておらず、只単に利害得失で判断しているのが明白だった。
地元民・武官・文官からすれば、余所者が個人的な自己満足で凶悪な異民族を逃し、その逃した異民族が再侵攻してきた場合、真っ先に自分達が被害に遭うのだから、たまったモノではなかった。
「うん?しかし糜芳州牧様は、わりかし強硬派な意見を述べておいでですが、馬騰の異民族との融和策を容認して、外別駕従事に任じていますけど、コレは劉虞公と同じなのでは?」
矛盾していないか?と尋ねる成公英。
「そもそもの前提条件が違う。
州の最高位である劉虞公が、自ら宥和政策を推進しているが、これはウチの涼州と違って、馬騰の融和策が問題に為れば、逆の韓遂の強硬策に切り替えると言った融通性が無くなり、調整が難しくなる。
それに州牧自身が行っている事だから、公孫讃の様に格下の反対を受け入れれば、例え正論でも、いや、正論だからこそか?劉虞公自身の不明や不才が明るみになり、天下に知られるからな。」
涼州と幽州の政策過程の違いを述べ、
「つまり劉虞公のやり方に問題が発生しても、止められる者が処罰を恐れてしなくなり、最悪の事態を招くまで止まらない危険性が高くなる。
しかも劉虞公の立場や地位を考えれば、失敗すれば自分の名声が落ち、恥を晒す事になるから、意地になりかねんし。」
「成る程、吐いた唾は飲めませんか。」
個人的な名誉・名声の為に、最悪幽州民達を犠牲にするほどの、取り返しのつかない所まで、暴走する危険性が有るのを理解する。
「それにあくまでも馬騰の融和策を容認しているのは、匈奴や羌族等の異民族達が、涼州に侵略行為をしない様にする為に認めているのであって、間違っても劉虞公の様に、既に侵略行為をした異民族との融和は、断じて認めていないし認めない。」
手を左右に振りながらそう述べて、
「そんな事をすれば、異民族から芋を引いたと観られて、舐められてしまうからだ。
そうなれば、侵略行為をすれば略奪が出来る上に、窮地に陥れば降服して「恭順しました」と言えば、簡単に逃げられると思われて、却って侵略行為を助長する事になるのは明白だ。
依って、劉虞公の宥和政策を批判して、馬騰の融和策を容認しているのは、その違いの差である。」
明確な違いを示唆する。
「なる程・・・強制力の有無や事前と事後では、同じ様な策を用いても、結果・効果は全く違うという事ですね?」
「ああ、そういう事だ。
実際に劉虞公が以前刺史だった折りにも、宥和論を述べて実践していた様だが、あくまでも個人的な親交を結ぶといった、馬騰と同様に事前行動だったから、幽州軍閥も反発していないだろう?
だから今回の劉虞公の宥和政策に、公孫讃達が猛反発したのは、自分達軍閥の面子と前回とは違って、強制力が有る事と事後行動の所為で、害悪を招く温床に成りかねないからだと思うぞ。」
成公英の問い掛けに答える。
「確かに・・・良くも悪くも、周りに与える影響が大きいですしね。
事前に宥和交渉するのであれば、友好を結んで親交を交わそうと観られるでしょうが、事後で同じ事をすれば、劉虞公が単に烏桓族を恐れている、としか観られませんでしょうし。」
糜芳の話に深く頷き、理解する。
「しかし某には理解不能なのですが、何故に劉虞公は、その様な愚策を行ったのでしょうか?」
龐徳が首を傾げて糜芳に尋ねた。
「う~ん・・・その辺は私個人の予測・予想になるが、恐らくそういった差違を、単純に理解していないから、だろうな。
もしも理解してやってたら、普通に売国奴だし。」
容赦なく同郷の貴人を非難する。
現代風に言えば劉虞のした行為は、某国の政治家の如く外国人を優遇して、自国や国民に対して行った犯罪行為を見逃し、その犯罪行為に依り被害に遭う、自国民を蔑ろにする様なモノである。
反発や批判されない方が、おかしい事を平然とやっているのだから、自国民と言うか地元民の公孫讃達が、怒り心頭に発するのは当然であった。
「まぁ劉虞公ご本人は、同郷だからちらほら噂は耳にしているが、至って温厚篤実な御仁の様だし、今まで儒教の道理を説いて、問題を解決していた実績がお有りの様だから、大真面目に善かれと思ってやっているんだろう。」
「いや実績って・・・そんなモノ、儒教が浸透している国内なら兎も角、国外の異民族に通用する筈もないでしょうに・・・。」
それは無理筋でしょうと呆れ声を上げる。
「貴君達の様に生活環境上、日常的に異民族と接して来た者なら当然判る事だが、直に接した事の無い劉虞公は悲しいかな、相手は儒教の道理が通じない者達とは、理解されていないのだろうな。」
首を左右に振りつつ、
「そもそもその問題解決の実績だが・・・ぶっちゃけ皇族の連枝に説得や道理を説かれたら、国内の大概の者は拒否出来んし、すれば不敬になって社会的に死ぬから、断れないつう実状も有るようだがな。」
ボソッと父・糜董から漏れ聞いた、裏話を漏らす。
「あのそれって・・・道理云々ではなく身分や立場を笠に着て、説得というお題目で強制的に、問題解決をしていただけなんじゃあ・・・?」
「可能性は無きにしもあらず、だな。」
印籠をこれ見よがしに掲げて、満を持して身分を明かして威圧し、高笑いをしながらワンサイドで事件解決を行う、とある縮緬問屋(服飾屋)のご隠居を自称する老爺を、脳裏に思い浮かべる糜芳。
「元々劉虞公は属尽出身で、しがない下役人からドンドン出世して、しまいには皇族入りを果たした御仁だが、下役人時代で既に県令でも、劉虞公に遜って迎合していた様だしな~。」
「それはそうでしょうとも。
属尽が殆ど居ない此処涼州でも、「属尽と喧嘩したら負け、関わったら負けの厄介者」という、常識が有るぐらいですから。」
さもありなんと頷いて、
「その県令からしたら、例え劉虞公に非が有ったとしても、揉めれば一応皇族の端くれなので、「不敬罪」が適用されてしまい、不条理に県令が悪くなり、最悪一族処刑の憂き目に遭うのですから、気が気でなかったでしょうね~・・・。」
クソ厄介な部下を持った県令に、心底同情の念を送る成公英。
後漢に於ける大概の人達から観て属尽は、「煮ても焼いても食えない穀潰し&ロクデナシ」という認識であり、飛びっきりのピンであるボ○ビーは当然として、比較的真っ当な劉虞でさえ、周囲はそう言う認識で接していたのであった。
現代風に言えば勤務している会社の、社長の息子という立場のバカ坊を、部下に持ってしまった、哀れな管理職の様なモノであった。
はっきり言って、何時暴発するか判らない手榴弾を、ヒョイと渡された様なモノであり、心労は想像を絶するモノであったろうと思われる。
「一応擁護しておくが、父上曰わく「困った時の劉虞公」と呼ばれていて、汚吏・悪吏の不当な要求とかは、「劉虞公が駄目だと言った」と言ったら、すごすご引き下がったらしいぞ?」
鶴の一声の実例だよなと、成公英に話す。
「いやあのそれって、只単に周囲が都合の良いように、劉虞公の名前を利用しただけでは・・・?」
「とりあえず事後承諾だが、普通に容認してくれたらしいから、問題ないだろ。」
「完っ全に確信犯じゃないですかそれ!?」
「それに全く擁護になっておりませんぞ?」
成公英と龐徳から突っ込まれるのであった。
そうした未来の話なぞ、露知らずの糜芳は・・・
「さて、婿殿?性根を据えて返答願おうか?」
人生最大の山場を迎えていた。
司隷洛陽内蔡邕邸大広間
(え、え?どうしてこうなったの俺?ホワイ?)
ズラリと八の字に並んで座っている、蔡家の人々を尻目に、霊帝に年始の挨拶をする為に洛陽に訪れた記憶が、走馬灯の如く駆け巡る。
12月に押し寄せて来た、大量の就職希望者を咄嗟の機転で捌き、楊阜達に人員配置を丸投げにした糜芳は、年末に漢陽郡を出発して、大晦日前に洛陽入りをし、
「毎度~!?大将軍閣下はおられますかね~!?
不幸をお届けにまいりましたよ~!?」
諸悪の根源・何進の下へ、某世紀末的閣下な台詞を吐きつつ、カチ込みをかけたのであった。
「い?・・・い、いや~よく来たね糜芳州牧殿。
まぁまぁ何はともあれ、兎に角落ち着いて冷静~に、座って話そうじゃないかね?うん?」
時代劇に出て来る悪徳商人の如く、本職顔負け(?)の揉み手をしながら、笑顔で着席を促す何進。
堂の入った洗練された動作でヘコヘコ遜り、自ら糜芳の為に椅子を引いて、違和感や不快感を感じさせずに、巧みに糜芳を誘導する。
数多の場数を踏んで経験を積んだ、熟練のプロの接待術に、糜芳は為す術もなく引き込まれ、気がつけば自然と、スルリと座らされていた。
「あので・「まま、言いたい事はまぁ解るから。
とりあえずご苦労様。はい、どうぞ。」
プロの接待術に屈せず、それでも抗議をしようとする糜芳に、被せる様に台詞を遮ると、スッと1枚の木簡(板状の木製ノート)を何進は、笑顔でスッと糜芳の前に差し出した。
(うん?・・・1千万銭現金化の保証書!?)
木簡の内容を理解した瞬間、瞬時にお目めが¥になり、瞬速で木簡を懐に入れる銭ゲバな男・糜芳。
「先の書簡に記していた様に、糜芳君の州牧就任は主上陛下の思し召しだから、私個人ではどうにもならなかったんだ。
どうか理解して欲しい。
それに現状、糜芳君以外に適任者が見当たらず、後任を任せられる者もいないのだ。
どうか、どうか暫くの間、せめて後任が見つかるまででいい、州牧を続けてくれないだろうか?」
お辞儀するように頭を下げつつ、名刺を渡す営業マンの如く、スッと両手で2枚目の木簡を差し出す。
「コホン・・・し、仕方ないですねぇ。
其処まで平身低頭されれば、否とは言えません。
因みに後任は僕自身が、適当に何人か見繕っても宜しいですか?」
咳払いをして、躊躇や淀みなくしれっと、金銭引換券の木簡を懐に納める。
「勿論だとも!
君に後任の当てが有るなら、私としても願ったり叶ったりだからね。
そうだな・・・主上に君に与力(寄騎)を付けるように上奏しておくから、そういった体で後任者を連れて行くといい。
但し、当然だが同格や九卿などの上役、又は大将軍府に勤務する者は除外させて貰うから。」
部下を引き抜かれたら、コッチが堪らんと釘をしっかりと刺す。
「ええ、了解しました。
閣下に要らぬ負担を掛けるつもりは、今の所有りませんので。」
「そ、そうか、それは助かる。
まぁ、君も色々と入り用だろうから、コレでなんとか上手く賄ってくれたまえ。」
若干引きつった笑みを浮かべつつ、3枚目の木簡を堂々と渡す。
こうしてあっさり買収された糜芳は、ホクホク顔で大将軍府から退散し、何進は何進で「しゃあ!災いを退けたぞぉ!!」と大喜びしたのであった。
そして1月の新年早々に宮中に参内して、今回は文武百官の文官側の末席に立ち、去年の様に腰にくる姿勢で走らなくて済んで、安堵しつつ霊帝に新年の挨拶をする。
只列席している文武百官の糜芳以外は、40~50代から上が殆どで、相変わらず滅茶苦茶浮いており、ジロジロと観られていたが。
去年よりも若干顔色が悪いが、ふっくらモチモチの白アン○ンマンから、お声掛けが有り、
「ふむ、涼州牧・糜芳よ。」
「はは!!」
「何進からの上奏に依れば、お主が与力を欲していると有るが・・・誠か?」
ジッと糜芳を見つめる。
「はは、左様にございます。
主上陛下もご存知の様に、私は生まれが卑しく頼りになる者がおりません。
又、涼州も悪吏・汚吏に依る搾取や、それに連動してうち続く反乱により、悪事を働いた太守・県令が殺害され、管理職処か正規職員・使い走り等の末端ですら、事欠く有り様です。」
さりげな~く、自分が涼州行く羽目になる遠因を作った、アホ共に聞こえる様チクリと嫌味を混ぜる。
「ふむ一・・・悉く中央から派遣した者が、殺害されたと聞いてはいたが、其処まで酷い悪行を為していたのか。」
文官側の上位陣を、ジロリと睥睨する霊帝。
白アンパ○マンに横目で睨まれた名家・宦官閥上層部は、ソッと視線を下に向けて俯いた。
「は、その通りにございます。
幸いにして募集をかけた所、何とか職員の目処は立ったのですが、涼州統治の要となる管理職及び、非常時の代理・代行役である、刺史・別駕・太守等が不足・不在でありまして、困っているのです。」
さも涼州統治の為と、切実そうに訴える。
(事務処理を丸投げ出来る人材をプリーズ!)
内心は私利私欲で真っ黒だったが。
「ふむ、成る程のう・・・ふ~む。」
糜芳の内心など露知らず、目を閉じて長考に入る。
(う~ん、もう一押しか?ほなら霊帝さんが食い付くワードを混ぜてっと)
畳み掛けるべく、知恵を巡らす。
「重ねて申し上げます。」
「うん?なんじゃ?」
「はっ、涼州は国外交易の要所にて又、漢帝国の威容・情勢を、真っ先に異国の者が知る事になる、玄関口でも有ります。
急ぎ平穏を取り返さねば、治安悪化で忌避されて交易による利益・収入が減って、国家財政に悪影響を及ぼしかねません。」
霊帝が大好きな銭勘定と、経済的損失を述べ、
「それと同時に、我らが漢帝国の威信の低下や沽券にも関わり、異国からの侮りを受けかねません。
陛下の鼎の軽重を問われる様な事態は、一刻も早く解消するべきかと存じます。」
プライドを刺激して、決断を促した。
「う~む、確かにのう。
大司農と大鴻臚を兼務しておる曹嵩よ、糜芳の意見をそちはどう思う?」
「はは、国庫の収支を司る大司農としても、国外との外交を司る大鴻臚としても、涼州牧殿の言われる事は尤もかと。」
糜芳の意見に賛成の意を表す。
「ふむ、では将軍の朱儁はどうじゃ?」
「は、国防を司る者として涼州の安定即ち、異民族に対する威圧に繋がり、陛下のお膝元である司隷方面の安泰にも、繋がるものと愚考致します。
故に喫緊を要する案件と心得まする。」
朱儁も賛同する。
「成る程、相判った。
糜芳の申す通り、適材と思う者を与力として、涼州に赴任させる事を許すとする。」
「はは、有り難き幸せ!
陛下の御恩情に感謝致します!」
認証されて、正式に与力を貰える事となった。
(うひひひ・・・これで大手を振って、無償で扱き使える人材ゲットだぜ~が、堂々出来るわ~)
神妙に拝礼しつつ、どす黒い笑みを浮かべる。
浮かれている糜芳に対し、白ア○パンマンは、
「良きに計らえ・・・おお、そう言えば。
糜芳よ、今年でお主はいくつになったのか?」
「?はい、今年で15に成りましたが。」
「ほう、もうそんな歳になったか・・・もうボチボチ結婚する時期よのう。
誰ぞ相手は居らんのか?世話してやろうか?」
ふと思い付いたとばかりに、ニヤニヤと笑みをうかべて、ゴシップ好きなオッサンの様な、下世話な話題をいきなりぶっ込む。
「は、え~と・「陛下、糜涼州牧殿は、蔡邕殿の御息女と婚約済みにてございます。」
戸惑う糜芳を遮って、何進が霊帝に要らん情報をくっちゃべる。
(おお~い!?オッサン!?止めろマジで!)
ダラダラと大量の汗が、新年早々から流れる。
「ほうほう、誠か?蔡邕よ。」
「・・・は、左様にございまする。」
「そうか目出度き事よの。
お主も良き婿殿に恵まれたのう蔡邕。」
「・・・は、有り難き幸せ。」
白アン○ンマンからの言祝ぎに、ピクピクと頬が引きつった顔で答える。
「結婚して嫁を貰って始めて、一人前の男と言うモノじゃぞ糜芳よ。
お主も立場ある身、早よう結婚致す様にな。」
「・・・・・・はは、有り難くぅ・・・うぅ。」
霊帝の鶴の一声で「人生の墓場にGO!」が、強制的に決定してしまい、泣く糜芳であった。
そして現在・・・
「こりゃ、何を呆けておるんじゃお主は?
日取りはどうする?仲人は誰ぞ当てが有るのか?
性根を据えてシャンと答えぬか!」
「あ、え~と夢か幻か・・・?」
「それで何故儂の髭を引っ張る!?
自分の頬を抓れ!このたわけ者が!!」
「あ痛ぁ!?やっぱり現実かぁ・・・しくしく。」
ゴスッと鈍い音が響き、頭に激痛を覚えた糜芳は、現実逃避という名の走馬灯から、はっきりと意識が戻り、今の現状に視界が滲む。
霊帝から綸言(勅命)に等しい言葉を得た、年始の挨拶の後で、茫然自失としている最中、そのまま蔡邕に自邸に連行され、急遽近しい身内を集め、結婚に向けた家族会議が開催されている。
「あの~蔡爺さん?」
「これからは義父上と言わんかい、うつけ者!」
「はぁ・・・え~と本当に結婚すんのコレ?」
「当たり前じゃ!主上直々に結婚を勧められたのじゃから、せねばなるまいが!?」
唾を飛ばして糜芳に詰め寄る。
(うう・・・腐っても鯛、独裁者である皇帝の権威を正直舐めてた・・・娘バカのサーティーンな爺でさえ、素直に従うとは・・・)
前世からの現代人感覚と、封建制時代の人々との認識のギャップに、頭を抱える。
なにせ今まで恋愛絡みの婚姻や、お見合い的な過程を得ての結婚は観てきたが、為政者の一声で結婚が決まるのは、当然観たことなかったし、当事者になるとは予想だにしなかった。
「・・・どうしても?」
「どうしてもじゃ!嫌だと言うのなら主上に対する、「不敬罪」で投獄される覚悟で申せよ?
まぁ、その前にウチの阿琰を傷物した、代償をキッチリ払わせるがのう・・・。」
壁に掛けている手斧を指差す。
「いや傷物て・・・指一本触れてないけど?」
「たわけ!!主上直々のお声掛かりである、婚姻話が破談と為れば阿琰は、綸言を蹴って投獄されてでも振られた不器量な女子と、天下に恥を晒した上に嘲りを受けるのだぞ!?
これ以上の傷が何処に有るんじゃ!!」
顔を真っ赤にして、糜芳の襟首を掴む。
「な、成る程ぉ!?ぐ、くるじいです義父上!?」
「お父様お止めください!
芳様が苦しんでおられます!どうか!えい!!」
首締めに入った蔡邕を、慌てて止めに入る。
「ぐぼぉ!?」
「大丈夫ですか芳様!?しっかりなさって!」
「ゲホッゲホッ・・・ふぅ、助けてくれてありがとう蔡琰殿。」
荒れ狂う蔡邕に蔡琰が夕ックルをかまし、わりかし吹っ飛んだ隙に、キャッツな蔡家3姉妹とその婿さん達が、ぐったりした爺を取り押さえて、縄で縛り上げているのを尻目に、2人だけの空間になる。
「芳様、正直に仰ってください。
私と夫婦になるのはお嫌ですか?」
不安と恐れの入り混じった表情で、糜芳を見つめて返事を伺う蔡琰。
「いやぁそう言う訳では・・・。
正直言って蔡琰殿は、私には勿体ない程の器量良しですし、頭脳明晰な才女でも有るので、気後れがするというか、私の妻になるのがイマイチ実感が湧かないというか・・・。」
頭を掻きつつ、正直な心情をぶっちゃける。
(いきなり結婚って言われても・・・結婚経験皆無だから、正直戸惑いしかないよな~。
前世では学生時代に彼女は居たけど、社会人になったら連絡が途絶えがちになって、お別れメール1つで関係が消滅して、それっきり縁が無かったし)
前世の我が身を振り返り、
(そう考えるとライトノベルの、異世界・時代逆行とかで転生した主人公って大概、ホイホイと複数の女性と関係を持って、わりかし躊躇いも無しに広げて逝くけど、筋金入りのすげー神経だよな)
前世で読んだ青少年向けの小説に登場する、幾多の主人公の神経の図太さを羨み、その図太さに心底尊敬する糜芳。
大体の登場する主人公達の前世は、糜芳自身が前世で読んだ限りでは、殆どが女性とのお付き合いが無かった人達が多いのに、転生した途端に中身の人間性が消失したかの如く、別人の様に周囲にいる美人・美女達を迷いも無く、ポンポンと多数侍らして、ステータス(の如くマイハーレムを築き、周囲の野郎共に自慢気に)オープンをして逝く、はっちゃけた強者が多く、極々一般的な小市民レベルの感性の糜芳は、常々感心していた。
(現代みたいに共働きで、公私に渡るパートナー的な夫婦関係と違い、19世紀以前での結婚は、マジで人1人を扶養して、他人の人生を背負うのに、躊躇無く結婚・側室を持つ方々の、是非とも将来設計やプランを御教授願いたいよな~)
偉大なる方々へ切実に思うのだった。
それはさておき、
「いきなり結婚って言われて、糜芳殿が困惑する気持ちは良く解るよ。
私自身がそうだったしね。」
「出歯亀(覗き魔)殿・・・。」
「いや、ホンマに止めてくれん?糜芳殿?」
困惑している糜芳に、舅・蔡邕を取り押さえている次女の旦那が、しみじみと同情の念を送る。
「貧乏書生だった私に、嫁に娶って責任を取れって言われてさ、目の前が真っ暗になって、ろくすっぽ収入も無い状態で、嫁さんを養っていかなくちゃいけないと思ったら、ズッシリ肩が重くなるわ吐き気が出るわで、大変だったからね。」
「そうそう!そんな感じなんスよ!覗き魔殿ぉ!」
ウンウンと共感の意を表す。
「いや、あのね?呼び名を換えろって言うんじゃなくて、言うのを止めろって言ってるんだけども?
・・・まぁそれは置いといて、糜芳殿はしっかりとした収入と、財産はキチンと持っているのだから、十分養っていけるだろ?
激怒して手斧を持った義父上に、追いかけ回されて殺されかけた訳でも無いし。」
それに比べたらマシだよと告げる。
「そうですぞ楽聖殿。
私など嫁が、両親処か親類縁者まで手懐けていたのを露知らず、両親が「何時嫁と結婚式を挙げるんだ?」と言って来たので、「そんな予定は無い」と言ったら、家を叩き出されて親類にも同様の措置を取られて、3日間路上生活を送った事に比べたら、遥かにマシですぞ。」
然り然りと、次女旦(那)に同調する長女旦。
「そうそう俺なんか、もっとキツかったぞ~?
気の置けない同門の友人と思ってたのに、ある日いきなり女でした、嫁になりますと来たんだぞ?
親父殿にはボコボコに殴られるし、お見合い予定だったモンだから、相手の家に行って土下座して謝罪しにいったり、洒落にならんかったわ本当に。」
どんよりとした雰囲気で、愚痴る三女旦。
「はぁ、いやあの・・・不幸自慢にしか聞こえなくて、ますます結婚に隔意を持ったんスけど。」
3人の話を聞いて、余計にブルーになる糜芳。
「「「ちょっと旦那様?何か文句でも?」」」
ジト目で夫を見つめる3姉妹。
「!?いやいやいや!そんな事ないですぞ!?
私は十分に幸せですぞ。
門下生も嫁に従っていて、色街とかで女性に接すると、自動的に嫁に連絡が云った後、厳しく詰問されるぐらいですぞ。」
高速で首を左右に振りつつ、慌てて取り繕う様に焦りながら、結婚=幸せアピールをしているつもりで、地雷臭漂う不満を漏らしている長女旦。
「!?そうそう、そうだよ!
嫁さんは一途で可愛いし、婿養子に入って就職が出来て、役所勤めも充実しているしね!
周りが全て嫁さんの家の者だから、四六時中監視状態で、小遣い制で遊ぶのもままならないけど、私は十分幸せだよ!」
ブラック臭漂う、言葉の羅列を笑顔で言う次女旦。
「!?お、おう、その通り!
がきんちょの頃からの付き合いだからよ、以心伝心バッチリ心通わせているから、お互いに理解し合えて幸せだぜ!?
繁華街に飲み行こうとすると、以心伝心でバレるから出し抜くのが不可能だし、仕事で飲み会に行っても、同僚が俺と嫁の同門だから、酌女や踊り子と仲良くなったりすると、即座に通報されて帰ったらボコられる上に、納屋(物置)か厩で寝る事になるけど、春先から秋口なら大丈夫だぜ!」
哀愁感漂う、悲壮な話をにこやかに語る三女旦。
「・・・アンタらホンマに幸せなんか?
私の目を観て、堂々と胸張って言ってみ?」
「「「アハハハ・・・トウゼンジャナイカ、シアワセイッパイダヨ?」」」
「オイ、何で目を逸らす?幸せなんだろ?ちゃんと私の目を観て言ってみろよ!?オイ!?」
怪しい片言で乾いた笑い声を上げ、目を逸らす3マス夫に詰問する糜芳。
「「「旦那様?ちょっと彼方へ・・・。」」」
「「「・・・・・・ハイ。」」」
3姉妹が揃って窓の方を、親指でクイっと指差し、「ちょっと後で積もる話があるけど、今は邪魔だから外に行ってろ」と暗に示して、雪が積もっている外に、父親諸共部屋から追い出す。
「ごめんなさいね~?ウチの旦那が、有る事無い事言って、恐がらせちゃってもう・・・。」
「そう、先生の言った事を真に受けちゃ駄目。
誇張した表現と、照れているだけ。」
「そうそう、そういう事。
ちゃんと僕達は妻として、しっかり旦那を支えているから安心して。
アイツが言った事はアホの戯言だから。」
3姉妹が揃って愛想笑いを浮かべ、「旦那の言った事はフィクションだから、忘れなさい?」と、プレッシャーを掛ける。
「はぁ、左様ですか・・・。」
「それでね糜芳君?結婚というのはね・・・。」
「そうだよ糜芳君、姉様の言う通り・・・。」
「そうそう、そういう事。姉貴達の・・・。」
戸惑う糜芳に、3姉妹は矢継ぎ早に畳み掛けるが如く、口々に言い始めた。
キャッツな3姉妹からの、ジェットなストリーム風連携を受け、精神勢威の口撃に晒され続けた、恋愛関係にはからっきしの哀れな男は、
「アエンダイスキデス、ケッコンシテクダサイ。」
「は、はい!私で良ければ喜んで!!
まだまだ未熟な不束者ですけど、末永く宜しくお願いしますね、旦那様♡」
魂の抜けた様な虚ろな表情と、ロボットの様な口調で求婚して蔡琰が快諾、両家と当人達納得(?)の末、正式に成婚に相成ったのであった。
続く
え~と、ちょっと189年の1月で、足踏み状態になっておりますが、物語の都合上次話も1月のままになります。
これ以上後にするとバタバタになって、延び延びになってしまう予想となり、その為早めにサクッと、蔡琰との婚姻をした方が都合が良いかなと、思ったモノで有りまして。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら、幸いであります。
優しい評価をお願いします。




