その2
読んでくださっている方々へ
いいね・感想をありがとうございます!
又、誤字脱字や、史実の誤認識の指摘についても、誠にご協力ありがとうございます!
前話に於いてフツーにイスラム教が、漢代にも存在すると勘違いをしており、ガンダーラの説明部分で存在すると書いてしまい、申し訳ありません。
訂正をしておりますので、平にご容赦を。
最後に遅筆で申し訳ありません。
年度末過ぎても、中々忙しく・・・。
後漢の現状
洛陽内西園軍駐屯所
188年12月、洛陽に於いて結成された即応軍の西園三軍は、主に下軍校尉の鮑鴻が、ちょくちょく汝南郡などにしょぼい賊の討伐を行って、辛うじて存在意義を世に示していた。
しかし正直言って洛陽近辺の司隷や、豫州・兗州の州軍にとって鮑鴻達西園軍は、足手纏いの厄介者であり、非常に迷惑な存在であった。
何故なら指揮系統の違う別軍(地方軍(州軍)は太尉及び大将軍・何進の管轄で、西園軍は衛尉・董重の管轄)が、自分達の州の縄張りに入って、好き勝手な行動をとるからである。
純粋に個々の基礎能力は、生まれつきの環境に恵まれ高いのだが、校尉以外の明確な上下関係が、家格ぐらいしか無いので、かなりグダグダで連携もマトモにとれず、はっきり言って烏合の衆であった。
管轄違いだからと言って、西園軍即ちバカ坊共を、無視して無下にすればほぼ確実に、バカ坊共の実家からクレームが出るし、万一に死なれでもしたら、逆恨みを買いかねない為放置も出来ず、やむを得ず各州軍は、サポートに回る羽目になっていた。
戦死して逆恨みを買う事と、賊徒の捕虜になって法外な身代金要求を防ぐ為、討伐優先度が高い且つ、危険性も高い賊徒を任す訳にもいかず、数十人程度のチンケな賊の討伐に誘導し、とっとと任務達成をさせて、体よく追っ払うのが常になった。
州軍にとっては本来の賊討伐が有るのに、西園軍のお接待にもリソースを割かねばならず、「最大の敵は有能な敵ではなく、無能な味方」を、各州軍はリアルタイムに実体験する事となった。
挙げ句にお坊ちゃま育ちなので、料理人は伴っているのに、輜重隊(補給部隊)は帯同させる概念がなく、州軍に寄生して州の食糧事情を悪化させるオマケ付きである。
結果、西園軍2~3千人で、数十人の賊討伐を行う事を繰り返し、爪の先程の治安向上の貢献と、2~3町村以上の食糧を浪費するという、蝗も顔負けの食糧被害を齎したのであった。
因みにだが涼州と并州には、頑として一歩も西園軍は踏み入れる事はなく、とある悪辣な州牧と大将軍閣下が、「クソ、彼奴等がくれば、後漢最高級の賊徒ホイホイになって、賊徒共と抱き合わせで、一石二鳥に始末出来るのに・・・チッ残念だ」と、異口同音にぼやいていたとか何とか。
そんな対費用効果が、全く見合って無いのに比例するかの様に、西園軍が結成された途端、名家と宦官閥が即座に決裂して、権力抗争を開始。
西園軍の主導権を巡って互いに貶めるべく、水面下で激しい密告合戦が繰り広げられていた。
そして密告合戦の結果、結成から僅か2カ月足らずで、左右校尉の馮芳と夏牟の2人が、軍需品(武器・食糧)の横流しや、公金(軍資金)横領をしていた事が発覚、西園軍の運営資金横領の罪に問われ、捕縛されて投獄される事になる。
後漢末期に於いては、特に中央役人達官僚が、物資・予算の中抜きや横領をして、私服を肥やす事が常態化しており、それ故に横領に関する罪の刑罰と、当事者の罪の意識が軽かった。
刑罰に関しては、精々免職と弁済金プラス罰金程度で済み、1~2年程大人しくしていれば、しれっと復職している事が殆どだった。
意識的に関しては、「あちゃー・・・引っ掛かったかぁ、俺もツイてねーな・・・チッ」と言ったぐらいの認識であり、罪悪感が薄かったのである。
その為馮芳と夏牟の両名も、関与した隊員もちょっとしたキャリアダウンぐらいの感覚で、「臭い飯を食う期間が長引くのは、真っ平御免だ」とばかりに、尋問に際し素直に自供して認めた。
結果・・・
馮芳と夏牟は腰斬の刑(腰の部分で体を、真っ二つに斬り落として処刑する、特に重い死刑)に処せられ、3族が連座で斬首刑となり、関与した隊員とその近親者も、激怒した霊帝に依って斬首刑に処せられて、晒し首になった。
一般的だった横領罪よりも、あまりにも遥かに重い量刑に、根本的な勘違いをしているアホ共が、処刑前の馮芳達の擁護が多数入るが、それを聞いて再度激怒した霊帝からの返答は、事件の重大性を理解していないアホ共に対し、「※簡素な一振りの剣」を渡したのみである。
※君主(皇帝)が家臣に簡素な剣を渡す=「その渡した剣で自害せよ」という意味であり、問答無用で強要される死刑であった。
但し、数ある死刑でも軽く当人だけであり、一族近親者が連座する事はなかった。
そうして霊帝の馮芳・夏牟と、擁護者に対する処置に、「至極当然、寧ろ生温い!」と憤慨する、盧植や荀攸を始めとする良識派と、「幾ら何でも理不尽に過ぎる!今回の件は不当だ!」と叫ぶ、アホ共高官達を戴く、ガチ無恥派に意見が分かれた。
西園軍内でも出身者が出身者なので、ガチ無恥派が多く、袁家2恥の1人で恥将・袁紹が、「今こそ西園軍を掌握する絶好の好機!」とばかりに、声高に擁護(名誉回復)の声を上げ、名家・宦官閥を問わずシンパを増やしていく。
その様にして、名目上のトップ・蹇碩を越えて、史書に「風度(見映えが良く、外見が立派な事)有り」と評されただけはあり、軍内最大派閥にのし上がった中軍校尉・袁紹は、軍内では少数派になる、良識派の代表格で同門の友人、曹操を説得して味方にすべく、曹操の元へ訪れていた。
「曹操よ、如何に勤皇の志の篤いお前でも、此度の主上の裁定は、理不尽とは思わんのか?」
そうだそうだと、袁紹に同調する取り巻き。
「袁紹よ・・・お前本気で言っているのか?
今回の主上の裁定は、当然の話で異論など無いし、全く理不尽とは思わん。
寧ろ主上の多大な温情に、頭が下がる思いだが?」
首を横に振り、呆れ顔で袁紹達を観るコ○ン。
曹操以外で唯一名家出身者だが、良識派に属している淳于瓊も同じく、「何言っているんだ此奴等は?」と、呆れ顔で観ている。
「はぁ!?馮芳・夏牟が3族族滅、関与者は一族近親者諸共に、斬首刑に処せられたのが温情!?
他の者は免職と、弁済金・罰金で済んでいる横領罪で、処刑されているのにか?何処が温情なんだ?」
片目を吊り上げ、首を傾げる恥将。
「今回の一件は、馮芳達と関与者だけでなく、馮芳達の部隊全員と近親者が、処刑されるのが妥当な処を、当事者と関与者の一族だけで済ましてくださっているのだから、立派な温情だろうが。
それに他の者とは、段違い処か桁違いに悪質な、横領をしているのだから、当然の報いに過ぎんよ。」
キッパリと言い切る。
「は?所属部隊員全員?どういう訳だ!?
何故そんな話になるんだ曹操!?」
「・・・お前、理解していなかったのか・・・?
念の為聴くが、我々西園軍の直属の上司は誰だ?」
「無論、主上陛下に決まっておろうが!」
バカにするなと吠えた。
「そうだなそうだよな。
では我ら西園軍の、運営費を賄っているのは?」
「それも無論、主上陛下である。」
「その通りだ袁紹。
我々西園軍は、主上陛下の私費・私財で運営を賄われている。」
袁紹の答えに頷き、
「さて、それを踏まえて問うが、主上陛下の私財である、国土を荒らし金品を奪う不届きな反乱者共と、主上陛下の私財である運営費を盗み、金品を横領した馮芳達不逞の輩。
反乱者共と馮芳達の所業を比べて、何がどう違うのか、何処が違うのか教えて貰えるか袁紹?」
真顔で問い掛ける曹操。
現代風に例えれば、馮芳達がやった事は、何処ぞの独裁者である国家元首の、個人資産を盗んだと同等のモノであった。
そんな第一級犯罪を仕出かせば、3族族滅に成るのは至極当然、タダで済み様がないのは、誰でも解る自明の理である。
それを馮芳達は理解せず、普段通り横領・中抜きをしてしまった、真のアホ共であった。
「え?・・・アッ・・・うう・・・。」
曹操の問い掛けの返答に窮した後、漸く内容を理解して唸る袁紹。
袁紹に同調していた取り巻き連中も、同じく事態を悟ったのか、顔面蒼白になっている。
「・・・理解したか袁紹?
まぁ敢えて言うなら、観たことも無い野良犬が、遠くで暴れているのと、自分の飼い犬に手を噛まれるぐらいの差かな?
つまり馮芳達の方が、より悪質という訳だ。」
苦笑いしつつ、
「遠くの反乱でさえ、当事者処か住んでいる1町村丸ごと、粛清されても珍しくないのに、近くで反逆した当事者の身内だけで、堪忍しておられるのだから、主上陛下の温情の深さが判るよな?袁紹。」
同意を促す。
「え?あ、ああそうだな曹操。」
「そう言う訳で他の者の横領罪は、罪を犯して父祖の名を貶めた「不孝罪」だから、まだ免職と罰金で罪を贖う事も赦されているが、馮芳達のは天下の大罪、「不道罪」に当てはまるから、徹底的に処刑されたという事だ。
馮芳達をなぁなぁで処しては、主上陛下御自身の「鼎の軽重」が問われかねんしな。」
「・・・確かにそうだな。」
曹操の解説に、力なく頷く。
「・・・スマン、早合点だった・・・。」
「いや、解ってくれたなら良い。
・・・一応念の為聴くが、お前達不届きな事は、当然やってないよな?」
「へ?む、むろむ無論この袁紹本初、「四世三公」の名に掛けてやってなどおらん!」
大量の脂汗を掻いてどもりつつ、ブンブンと高速で左右に振る袁紹。
取り巻き連中も高速身振り手振りで、自分達はやってないアピールをしている。
「ふ~む・・・それなら良いが。
とりあえず俺と淳于瓊は、馮芳達を擁護するつもりはサラサラ無いのは、理解して貰えたか?」
「ああ、聞けば聞く程当然の話だろう。」
コクリと頷く。
「それと此度のお前の発言は、きっちり主上陛下に上告しておくから。」
「はい!?何でだよ曹操!?」
「なんでってお前、当然の話だろうが?・・・俺の軍務を忘れているのかよ?」
自分を指差して袁紹に問い掛ける、典軍校尉=軍監の親玉のコ○ン。
「え?へ?あ!?」
「いや~流石は四世三公出身の袁紹殿。
典軍校尉の私を前に、紛れもない天下の大罪人達を擁護するクソ度胸、恐れ入り申した。」
口調が急にかしこまり、他人行儀になる名短体。
バッサリ見捨てる気満々であった。
「ち、ちがう違う、違うんだ孟徳!?
コレは周りの奴らっ・・・いない!?何処に行ったんだ彼奴等は!?
誤解だ誤解なんだよ孟徳ぅ!?信じてくれ~!」
椅子から転げ落ち、ジタバタ混乱状態で支離滅裂な行動をしつつ、必死に否定する恥将。
そして当然の如く我が身第一のコ○ンは、むさ苦しい同年代のオッサンの醜態に、毛筋程も心動かされる事なく、しっかりと霊帝に上告。
アホとは全くの無関係を強調し、身の安全を図って難を逃れたのであった。
上告を受けた霊帝は、袁紹を「状況判断が出来ない無能」と、レッテルを貼って見切りをつけ、コレにより霊帝在世中の、袁家復権は潰えたのである。
因みに袁紹は曹操から論破された後に、周囲から「近付くと自分も被害に遭う」という、放射性物質並みの危険物扱いをされ、願い事を叶え終わった龍玉の如く、光速で人が散っていったそうな。
そうしてガチ無恥派が盛大な自爆をかまし、己から進んで地獄の釜に、多数のアホ共が紐無しバンジーを敢行している頃、とある地方では・・・
涼州漢陽郡隴県州治所会議室
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・糜芳閣下?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「糜芳閣下?黙ってないで、今回の騒ぎの始末をどう収めるのかを、仰ってください。」
「・・・・・・どうしよう・・・?」
「いえ、あの・・・それを聞きたいのは、コッチの方なんですけど糜芳閣下?」
半眼で「早よ解決策を提示しろ」と急かす楊阜。
(どないせいっちゅうんじゃいコレ・・・?
こんな事態になるなんて、想定外や・・・)
机上で頭を抱える糜芳。
10月の頭に、涼州に於ける浮屠暗部のトップ・(ド)羅深さんに、年末までを期限に選考設定し、暗部からの役人募集を依頼したところ、
半月後・・・お、キタキタ~!じゃんじゃん来て頂戴、千客万来!・・・凡そ百人くらい。
1ヶ月後・・・うっひょ~ぉ!?これなら余裕で郡県役人の、穴埋めが出来るんじゃねーのコレ!よっしゃあ!・・・凡そ5百人くらい。
1ヶ月半後・・・うん?あれちょっと?なんかエラい多すぎへん?もう十分よ?・・・凡そ1千5百人くらい?(目算での概算)
2ヶ月後・・・いやもうええて!?来すぎ!来すぎやから!?どんだけ来るのよコレ!?・・・凡そ3千人越えくらい?
・・・という状況になったのであった。
余裕で隴県城内の宿泊許容量を越えて、城外にて野宿する者までおり、99%浮屠教徒からなる応募者が、今か今かと採用選考を待ち望んでいる。
「まさかこんなに来るとは・・・。」
「あの~そもそもどうやって、こんなに人材を集めたんですか閣下?
近隣の益州・司隷から来るのは、まぁ判らなくはないのですが、北は幽州から南は交州まで、東端の徐州・揚州からと、全国規模で集まってますけど、とんでもないですよ・・・コレ。」
応募者が提出した、簡単な履歴が書かれた竹簡を見ながら、閻温が糜芳に問い掛ける。
「中小様々な商会長だの、学者・易者だの果ては、指名手配されていた(恩赦により無罪扱いになっている)者まで、ピンきりなんですけど・・・。
閣下の人脈って、一体どうなっているんですか?」
「え~と、とある知人に頼んだら、こ~なった。」
多少ボカシながら答える。
「いやどんな知人なんですか?
全国規模で、人材召集が出来るなんて・・・。」
絶句する閻温。
「そがいなもん、今はどうでもよかろうが!
採用選考の基準・方法を、どがいにして決めるんかが、いっちゃん肝心やろーがや!?」
「ほうよほうよ、趙昂の言うとおりや。
それが定まらん事にゃあ、なんちゃ出来せんのやけん、早よ決めんとなー。」
しょうもない事に拘る閻温に、趙昂が注意して(注:怒ってはいません、涼州では日常会話です)楊阜が趙昂に同調し、
「「「という訳で、解決策をお願いします閣下。」」」
三者三様に、糜芳に問い掛けるのであった。
「え~と・・・筆記試験を行って合格点に至った者を、採用決定するのは?」
「悪くはないですが、試験問題を作成する暇がありません。
それに百人ぐらいなら、試験官も確保出来ますが、3千人を越す人達を監督する試験官、答案を採点する者を確保するのは、非現実過ぎです。」
「だよね~・・・。」
楊阜にバッサリと問題点を指摘され、確かにそらそうだと頷く。
「う~ん・・・となると、ある程度の足切りをしないと、始まらないか・・・。
成公英、採用予定人数はどれくらいの予定だ?」
民部従事の成公英に、確認をする。
「は、大凡で有りますが、敦煌郡内を除く80余県で6~8人前後の約5~600人、これも敦煌郡を除く11郡で、10人前後の約100人、そして最後に州では50人前後の、合計約800人程を見込んでおります。」
「ふむふむ、凡そ応募者数の4分の1を採用する為に、簡単で効率よい方法が要るわけか・・・。」
「左様にございます州牧様。
斯様な状況で、如何なる手段を用いるのですか?」
不安げに糜芳を見詰める。
「ん~・・・全員雇用は無理だよな?」
「決して不可能では有りませんが、今は危急時故に一時は良くても、落ち着いた際に人余りで遊んでしまう者が確実に発生し、その者達の給与等の支出で各郡県財政の、圧迫要因になるのは確実かと。
後々の事を考えれば、臨時雇いが精々ですね。」
首を横に振って、否定的な意見を述べる。
「臨時雇いかぁ~う~ん・・・将来的に正規雇用者と、揉める可能性大だよな~。」
「まぁ無きにしもあらずかと。」
糜芳の予測を肯定する。
「あ、じゃあ軍閥の人達に雇用して貰うのは?」
「はぁ、それも選択肢としては、有りとは思いますが、その場合は我らの様に地方とは言え、朝廷に仕官して官職に就くのとは違い、軍閥はあくまでも私的組織ですので、私的な雇用・出仕となります。」
そう説明した上で、
「つまり、同じく出仕すると雖も、社会的立場・地位に明確な差違が生じます。
董卓将軍の前で言うのも何ですが、正直雇用される者にとっては、雲泥の差になりますので、かなり難しいと言わざる得ません。」
董卓に目礼しつつ、締めくくる。
「気にせんでええ成公英、お前の言う通りや。
そやけん軍閥には、いよいよ居らせんのよ。
まぁウチみたいな古株は、代々世襲的に事務系の人材を抱えとるけん、よっぽど所帯が大きならんと、新規雇用もしやせんけどな。」
オブザーバー的なポジションの董卓が、成公英に手を振りながら、軍閥内部の文官事情を話した。
因みにちょくちょく董卓が、糜芳の元に遊びに来るので、やんわり「遊んでねーで仕事しろや」と、書類の山に囲まれた状態で苦言を呈したのだが、当人は半分隠居状態らしく、軍閥運営は次代を担う20代の息子(庶子(側室の子)だが、嫡男の兄が早世したので跡継ぎになった)と、甥や娘婿に殆ど任せて、経歴がモノをいう軍事に関してのみ、表に立っているようだ。
因みの因みに、それを聞いた瞬間、糜芳はすかさず「じゃあ私が不正や問題を起こしてないか、監査をお願いしますね」と自分の書類を押し付け、押し付けられた董卓が、側近という名のパシリ=娘婿の牛輔に、「お前に任せた」と右から左に押し付け、押し付けられた牛輔が、「何でオレがやらにゃあいかんのよ!?おかしいやろコレ!?」と、今現在も会議室の隅っこで、書類決裁を押し付けられている。
それはさておき、
「う~ん、では根本的に需要が無いと?」
「ああ、まず無いのう。
有っても新参の韓遂か、馬騰の所ぐらいやろな。
お前さんやけん正直に言うけどが、儂等も余所に知られたくない事も多々有るけん、回し者の可能性が有る新参者は、中々雇用出来んわな。」
軍閥でも雇用は難しいと答える。
(つう事はやっぱり足切りをして、募集人員を絞るしかないか・・・。
筆記試験は無理、面接は論外、全雇用も余所にスライドも不可能・・・どないしょー?どないしょー?
・・・あぁ、なんもかんもうっちゃって、俺もガンダーラに行きて~よぅ・・・愛の国に)
妙案が浮かばず頭を抱え、
「マジで行きて~・・・うん?行きたい?・・・行きたい・・・うおお!?
そうだアレだ、アレをすればええやんけ!
我、天啓を得たりってか!」
思わず口に出して呟いていると、前世のとある記憶がフラッシュバックし、イケル!と立ち上がって、右手で握り拳を眼前に作る。
「あの~?どうなされたのですか?」
「楊阜!閻温!趙昂!成公英!」
「「「「は、ははっ。」」」」
糜芳の急な呼び掛けに、慌てて返答する4人。
「今より2日後に、採用試験を行うとする。
その旨を応募者全員に告知し、開催場所は南門外にて行うとする事も伝えよ。」
「「「「ははっ。」」」」
「それに加えて貴君等他10数名を、採用試験の試験官に任じ、合否を委ねる事とする。」
「はっ、承知しました。
しかしながら閣下、幾ら何でも我ら20人程だけでは、数が少なすぎると愚考しますが?」
楊阜が苦言を呈す。
「うん?その辺は気にしなくても大丈夫だ。
それぐらいで事足りる様、調整をするから。」
「はぁ、左様で・・・?」
呆気らかんと告げる糜芳に、首を傾げる。
「それと董卓将軍。」
「うん?なんやの?」
「ちょっと採用試験の運営に、将軍の手勢をお借りしたいのですが?」
「う~ん・・・貸すのはやぶさかや無いけどが。」
「お礼に董白殿の姿絵を提供します。」
「任せとかんかい!全軍出動させるわ!」
ドンと胸を張って、無責任に応じるジジ馬鹿。
「ちょっとオヤっさん!?何言うてるんです!?
そがいな事、勝手に決めたらアカンでしょうが!?
糜芳殿も頼みますけん、ウチらを牛馬の如くこき使うの、止めてくださいや!?お願いですけん!」
糜芳と董卓の身勝手さに、半泣き状態で懇願する、哀れなマス夫さん。
「まぁまぁそう言わずに。
手伝って貰った分の、賃金は払いますので。」
「いやまぁそれなら・・・じゃあ俺が今働いている分もくれますよね?」
「いいえ?元々董卓将軍に渡したモノですから、そっちは董卓将軍に請求してくださいね?」
「ええ!?そ、そんなぁ。」
絶望的な表情を浮かべた後、一縷の希望をかけて、主君兼舅の董卓をチラ見する。
「オウこら牛輔、おどれ儂から銭取ろうちゅうんかああ?ええ度胸しとんの~ワレ?」
獰猛な笑みを浮かべ、腕をグルングルン回す後漢の魔王を観て、
「いえいえ!?殿から銭をせしめようなんて、滅相もございやせん!
ロハで誠心誠意やらして頂きます・・・グスッ。」
あっさり屈して、書類決裁に戻ったのであった。
そして2日後・・・
涼州漢陽郡隴県城南門外
ザワザワ・・・ワイワイ・・・ザワザワ・・・
凡そ三千人を越す応募者が、糜芳の出した告知に従って集まっており、その周囲を董卓から借り受けた手勢約5千が囲っている。
それを城門上の城楼(平時は敵軍・賊徒の襲来を見張る、物見櫓兼守備兵の詰め所だが、戦時には兵士の待機所や武器庫・作戦室になる、城門上に設置される建物)から見下ろしていた糜芳は、内心某大佐の名言を呟きつつ、テクテクと城門の縁まで行き、メガホン状に木をくり抜いた、特注品を口に寄せて息を吸い込み、
「皆の衆~!!入浴!・・・じゃねえ、ガンダーラに行きたいか~!!?」
何処かで聴いた事のある台詞を叫ぶ。
「「「「「・・・う、うおおぉぉ!?ガンダーラ!ガンダーラ!ガンダーラ!!」」」」」
糜芳に触発されたのか、応募者も喚声を挙げ、腕を上げて理想郷の名を連呼する。
「・・・なんやか、黄巾賊に怖いくらいそっくりな狂気を、仄かに感じるんやが・・・。」
「気のせいです。」
董卓の疑問をキッパリと否定する。
「いやいや、中黄太乙(儒教を重んじた為に漢は、腐敗して滅びの道を歩んだ。今こそ儒教を捨てて黄老(漢民族の祖・黄帝と思想家の祖・老子を混ぜ合わせた思想=原点回帰)に立ち帰ろうという主張)を唱えたら、まんま黄巾賊やんけ彼奴等。」
「大丈夫です、同業他社ですから。」
再度キッパリ否定する。
「???同業他社って何じゃそれ?」
「似て非なるモノという意味ですよ。」
「う~ん・・・ほうなんか?後ガンダーラって何のこっちゃい・・・?」
「董白殿と将軍が一緒の姿絵。」
「うむ、問題ないな!気のせいやったわ。」
あっさり買収される魔王。
無事(?)董卓を丸め込んだ糜芳は、理想郷の名を叫ぶ応募者達に、手を上げて騒ぎを鎮めると、
「よくぞ参った有志諸君。
私の声に応じてくれて誠に感謝する。」
バシッと拳と手を合わせて音を鳴らし、拱手する。
「しかしながら済まぬが、採用予定人数よりも応募者の方が超過してしまい、因って誠に遺憾だが選抜をする為の試験を実施し、予定人数まで人選を絞らして貰う。
応募者数約3千人に対し、採用者数は約8百人になるので、4人に1人の合格者が出る事となる。
心して試験に臨んで欲しい!」
木製メガホン越しに、試験開催理由を述べた。
「「「「「ははぁ!承知しました。」」」」」
一斉に拱手する応募者達。
「ちょっとお待ち頂きたい!」
1人の応募者が声を上げると、ズラズラと2百人ぐらいの人達が前列に集まり、次々と帽子型の巾を脱いで、剃髪した頭を見せつつ座り込み、手を合わせて座礼をして、アルカイックな微笑を浮かべる。
「この度は我ら・「あーあーあーテステス!テステス!ちょっと黙って待っててね!御坊さん!?」
黄巾賊を彷彿させる、バリバリの宗教活動っぽい騒ぎをした直後に、宗教名を名乗って事態を悪化させようとする、天然坊主を慌てて遮って、状況の悪化を食い止める。
(おい、ちょっとイーさん!?
何で本職が此処に来ているんだよ?)
(はっ、申し訳ありません、皆目見当が・・・。
恐らくですが、熱心な一般信者経由で、話が漏れたモノかと推測します)
イーも予想外だったのか、困惑気味に答えた。
(う~ん、そんなら仕方ないか)
(本当にすいません・・・)
とりあえず、不慮の事故だったのを確認すると、
「あ~あ~御坊達?」
「はい!何で御座いましょうや!?」
「御坊達は失格とする。
お~い警備兵~、この頭を剃っている人達を、丁重に外につまみ出してくれ~。」
糜芳もアルカイックスマイルで、一発不合格を坊主達に言い渡した。
「お待ちください!何故に!?」
「いやなぜもクソもないだろうに。
貴殿達に、俗世にかかずっている暇は無い筈だ。
こんな所で油を売っていないで、悟りを開く修行を為されよ。」
サッサと解脱しろと言い放つ。
糜芳に至極真っ当なド正論を言われ、坊主達は大人しく退場していった。
「次に・・・笮融!何でお前が此処に居るんだよ?
徐州の屋敷と任務はどうした?」
コソコソ隠れようとしている、見覚えの有る悪党面の凶相を、逆行転生した際の唯一の特典、素晴らしいまでの視力で見つけ、ビシッと指差した。
「え?笮融って誰ですか?他人の空似ですよ。」
「んな凶悪面が、2人も3人も居てたまるか!?
テメエ・・・さてはサボりやがったな?」
空っとぼける笮融を睨みつける。
(導師様、笮融だけでなく複数人の地域の幹部職が、応募者に紛れ込んでいる模様です)
度重なる問題発生に、溜め息混じりにコソコソ話で告げるイー。
(叩き出して任地に強制連行し、監視役を付けろ。
もしも、御仏の衆生救済に支障を来せば、地獄に堕ちるぞと言い添えてな)
公私共に、容赦なく締め上げる鬼・糜芳。
(ははっ、心得ました)
イーが返事をして間もなく、笮融を含めて百人ぐらいが、急にバタバタと倒れだした。
「あ~警備兵~、今倒れた者達は不合格とするから、その者達を外に叩き出せ。
なんなら2~3発シバいても構わんぞ~?」
警備兵に暴力を推奨する外道。
こうして不心得者とアホを排除し、若干の数が減って漸く、採用試験を開催する。
糜芳が閃いたのは、前世に於いて過ぎ去りし日に、一世を風靡した某超越問答であった。
城門を起点に、門の中央に簡易にロープを張って、左右に簡潔に分けてスペースを作り、糜芳から観て左に「正」の字が書かれた板を置き、右に「誤」の字が書かれた板を置く。
「あ~諸君、試験内容を説明するぞ?
今より幾つか問題を出すので、問題の内容が正しいと思う者は、「正」の板が有る方へ、間違っていると思う者は、「誤」の板が有る方に行くように。
銅鑼が3回鳴った時点で、選択時間の終了とし、正解者は続けて問題に挑み、不正解者はその場で不合格と致し、退場を命じる・・・以上だ。」
俗に云う○Xクイズの説明をする。
「では始めるぞ・・・第一問!・・・・・・!」
儒教的な問題は殆ど出さず、政治・法律・一般常識・算数・教養(礼法)といった分野から、適当に問題を作り上げて出していく。
幾つか問題を出した後、董卓から借りた優秀な物見(斥候役)から、大凡2千人になったと報告を受けて、足切りの○Xクイズを止めた。
次に2千人を5人1組に分け、計4百組を作って20人の試験官に20組割り振り、3問正解先取の上位2人が勝ち抜ける、勝ち抜け戦を始める。
解答者達の中央には、土山が盛られていて、その土山には小さい旗が刺さっており、解答者は旗を取ってからでないと解答権なく、解答を間違えた場合と同じく、ペナルティーとしてお手つき1回になるルールである。
残念ながらあの有名な、帽子型解答ボタンは電気のでの字も無い、後漢時代に再現は不可能なので、やむを得ず、ビーチフラッグみたいな様式になってしまった。
そしてマンネリ化と、出題傾向の偏りを防ぐ為、1組ずつ終わる毎に、大変だがシャッフルをして試験官を変えて対策を行った。
こうして1日で3千人近い応募者を、○Xクイズで2千人に絞り、勝ち抜け戦で上位2人X4百組=800人に、絞り込む事に成功するのである。
(よっしゃ!とりあえず雇用予定人数を、絞り込む事に成功じゃい!
いや~簡易に人数絞り込むに関しては、結構優秀なやり方だわコレ。
平等に勝負出来る公平性も有るし、真剣勝負して勝ち負けしてるから、こっちに恨みが来にくいのが、何よりも素晴らしい!)
我が身の保身を、きっちり計算する糜芳。
翌日の2日目、勝ち残った800人から、今度は郡・州の役人・約150人を選抜する為、又5人1組=160組に分けて、3問先取の1人勝ち抜けにする。
2日目になると、糜芳の選抜方式が珍しいのか、敗退して不合格となった元応募者達や、隴県の住民達も試験会場に屯して見物し、屋台まで出て、ちょっとしたお祭り状態になっていた。
残った応募者達も、県役人までは確定したが、上位の郡・州の役人に、なれるかどうかの瀬戸際の為、より真剣味が増して熱が入る。
その為に真剣勝負にも、自然と生の感情が解答者に現れて悲嬉交交、幾つかの熱い展開やドラマが発生したりして、見物人も解答者の正誤に、一喜一憂をし出して盛り上がる。
そうして半日も経たず、郡・州の役人になる160人が決まり、最後の州役人選抜に入った。
今度は4人1組=40組を作り、同じく3問先取1人勝ち抜けにして、40人が州役人に決定する。
其処で糜芳が、10人分の椅子が残っている事を言って、敗退した120人に対し、敗者復活戦を行う事を発表、会場がどよめいた。
12人1組の10組を作り、1点先取のサドンデス方式を採用し、ヒリついた空気で復活戦が始まる。
そしてサドンデスを制した10人が、復活して州役人に決定する。
コレで終了かと思われた瞬間、またまた糜芳が翌日に、50人で最終戦を行う事を発表。
1位には漢陽郡太守代理の官職を、2位には隴県令代理の官職を、それぞれに与える事を宣言し、聴いた見物人から怒号の様な叫声が上がる。
3日目最終日、生き残った精鋭50人が集まる会場には、滅多にない娯楽を見物しようと、昨日以上に見物人が詰め掛け、大盛り上がりであった。
そうして激しい最終戦を制し、1位になったのは浮屠教徒ではなく、賊徒に因って故郷の治安が悪化し、地元から疎開する際に、偶々応募を知ってやって来た、司隷・河内郡出身の常林という者で、その場で郡太守代理に任命する。
2位には浮屠教徒であり、地元涼州出身かつ、涼州暗部教区長・(ド)羅深の息子で、羅英という若者がなり、コレもその場で県令代理に任命した。
開催して僅か3日で、採用試験を終わらせて、漢陽郡の人々は、糜芳の手腕に驚嘆したのであった。
(よっしゃ!コレで涼州内の、深刻な人員不足が解消されたぞ。
郡・県代理も厳選された優秀な人材だし、いや~ホンマに一石二鳥だったわ。
敗退して採用に漏れた奴も、ガンダーラ実現を夢見て、涼州に残る奴も多いし、職人タイプや学者みたいな、技術職・知識層も増えるし、万々歳だわ)
内心思った以上の収穫にほくそ笑む。
こうして涼州の、筆答問題だった人員不足を、短期間で解消する事に成功し、各郡・県役人達から感謝されて、ますます信望を得つつ年末を迎え、年始の挨拶の為に上京する糜芳であった。
因みにだが1位になった常林さん、寒門出身者で有りながら、同郷出身で司馬晋の祖・司馬懿から、会う度に常に拝礼される程尊敬された人物であり、曹魏に於いて三公に推された大人物である。
何気に糜芳は、大当たりを引いていたのであった。
続く
え~と、常林という人物は、実在の人物です。
わりかし無名な人物ですが、寒門出身者では1番出世した人かも・・・。
後、超越問答はまぁ、ウルトラなアレですね。
西園軍関連は、独自解釈が多々ありますので、悪しからずご了承ください。
楽しんで読んで頂けたら、非常に嬉しいです。
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