その5
読んでくださっている方々へ
何時も読んでくださって、誠にありがとうございます!
そして、前話の誤字脱字に関して、指摘してくださった事と共に、本当に誤字脱字が多々あって、申し訳ありませんでした。
汗顔の至りであります。
東海郡太守館居室
「ウウ、実家に帰りたくねーよぅ・・・。」
頭を抱えて呻く糜芳。
11月に人物批評家の許劭をやり込めた後、許劭に紹介状を書いて案内までしたクセに、しらばっくれてボケた振りをして、局地的に都合の良い年寄りになる、世紀末長老・華陀を問い詰めた。
そして狼藉者を紹介した罪(連座)を、司法取引で不問にする代わりに、父・糜董の肩こり・腰痛の無料治療を了承させて、ニタリとほくそ笑む。
案の定、前回の梅里軍政官の時の様に、必殺的な仕○人の様な殺人未遂的施療を行ったので、糜董が殺られたと思い違いをした母・糜香が激怒。
某暗殺拳奥義や、レオなセイントのライ○ニングが華陀に炸裂し、糜芳の目論見通り糜香にボコボコにされて、鉄拳制裁に成功、糜芳は大いに溜飲を下げたのであった。
(ついでに、女性にボコられた事を話せば、華陀自身が「男として情けない」と笑われてしまうので、自動的に口封じのオマケ付きである)
こうして一連の許劭騒ぎの、ケジメをつけれてスッキリした糜芳だったが、直後に糜香から「偶には帰省しなさい」という、極々一般的な子を心配する、親の手紙を貰って硬直する。
(怪しい・・・今まで太守になってから一片も、手紙なんぞ送って来なかったのに・・・変だ)
脳内の危機予知センサーが危険を感知して、糜芳に警戒を呼び掛ける。
そうして警戒心を強めていた矢先、糜香から「正月に会うのを、非常に楽しみにしているわ」という続報を貰い、全身から冷や汗が滝のように流れる。
脳内では「エマージェンシー」の文字が明滅し、ビービーとけたたましい警報音が鳴り響き、「危険度赤、死徒です!」の音声が聞こえていた。
殺人紛いの施術をした方士にキレた糜香が、その方士を紹介した、糜芳にもキレているのは、至極当然の事であった。
「ウウ、実家に帰りたくねーよぅ・・・。」
再度呻いて頭を抱える愚者・糜芳。
年の瀬が近づくにつれ、刻一刻と死神の鎌が迫りつつある現状を嘆いていると、
「殿、急報が届きました。一大事です。」
藪から棒に、糜芳の執事を勤めている笮融が、全く大事そうに観えない淡々とした表情で、ゆったりと入室して来る。
「ま、まさか堪えきれずに母上が、此処に乗り込んで来たのか!?」
窓枠に片足を掛けた状態で、笮融に問い掛ける。
「は?いえ、違います。」
「ホッ・・・なんだ違うのかぁ、良かった~。」
すたすたと椅子に座ろうとする。
「殿を亡き者にする動き有り、と洛陽の暗部から通報が有りました。」
「はい!?うぉぁちゃあ!?」
笮融のトンデモ発言に、バランスを崩して椅子ごと後ろに倒れ込んだ。
「ワンモアプリーズ!?」
「わ、ワンも??・・・よく解りませんが、殿の殺害を企てている輩が居る模様です。」
「フゥ!?じゃねぇ、誰がそんな事を!?」
慌てて立ち上がって、片言の英語から元の言語に戻して問い質す。
「暗部の調査に拠ると、洛陽の豪商・李商会との事です・・・表向きはですが。」
「誰それ?と言うか、表向きって事は・・・?」
「ええ、李商会は偽装に過ぎません。
精査した結果、実際の依頼者は現三公の1人、許相の親族だった様ですね。」
「ホンマかいな!許劭の件でって事か?」
「間違いなく。」
コクリと頷く。
笮融の話では「醜聞千里を走る」の言葉通り、この前の糜芳との一件で許劭は、徐州内で名を落としたが、それだけではなく隣州にまで醜聞が広がって、絶賛大炎上中のようだ。
元々許劭の人物批評は賛否両論だったのだが、前回の件で徹底的にやり込められ、這々の体で逃げ帰ったと噂が広がり、一気に非の方に傾き、活動停止状態に陥っているとの事。
「それに加えて、殿の評判は東海郡にとどまらず、徐州でも善政を敷き、公平無私・寛厳の仁として名を上げております故、直のこと許劭に、非難が集中した模様ですね。」
淡々と説明する。
「う~ん、自分が楽な様にしただけだし、結構私利私欲に走ってるし、わりかし厳しい処分もしてるんだけどな~。」
「まぁ殿の思惑はどうあれ、周囲は結果でしか殿を評価しませぬ故、乖離が有るのも当然かと。」
評判が良い事はいいことですよと、第三者視点で、あっけらかんと話す笮融。
「う~ん、そりゃそうなんだけどな。
そう言えば、何で許劭は俺なんかを、人物批評しようとしたんだ?
どう考えても名家至上主義者の許劭が、俺に関わろうとするとは、到底思えないんだけど?」
理由を聴かずに追っ払ってしまったので、許劭の動機が不明で首を傾げる。
「何を仰っておられるのですか殿は?
殿が豫州で「名士とはなんぞや」を、滔々と語った事が騒動の原因でしょうに。」
「・・・全っ然記憶に御座いません。」
何処ぞの政治家の如く、記憶が酔っ払ってフォーマット済み状態の糜芳。
笮融曰わく夏侯添の葬儀の際に、酔った糜芳は幾つかの曲を歌い上げた後、「流石は楽聖、楽才を主上に認められ、名士になった事は有る」と誰かに言われ、「自分は名士じゃない!」と反論し、ご高説を垂れ流したようだ。
「その上で「名士の生き様を、山と河で例えた歌」を朗々と歌って、出席者を感動させたとか。
豫州で殿の言動があっという間に広がって、特に共感する若者が後を絶たず、大層な評判ですぞ。」
「え・・・そうなの?」
多分あの曲かなと、当たりを着ける。
「ええ、噂では豫州から徐州はもとより、司隷(洛陽)にまで殿の逸話が、広まっているとの事です。」
「は!?そんなに!?」
予想以上の広がりにビックリする。
「暗部の調査では、その様に聴いております。
それでその話を聴いた許劭が怒り、「若造が名士を語るなど、不遜にすぎる!懲らしめてくれよう!」と息巻いて、殿のもとに押し掛けたようですな。」
許劭騒動の発端と経緯を述べた。
(全っ然覚えてねぇ・・・おちゃけ怖い)
自身のやらかしが原因だった事に、頭を抱える。
「ああ、道理で短絡的で喧嘩腰だった訳だ。」
「ええ、そういう理由で押し掛けた結果・・・。」
「ものの見事に俺が返り討ちにした訳だ。」
許劭がわざわざやって来た理由を理解した糜芳。
「それにより、許劭は殿に依って名声が落ち、同時に許家も一族の大看板に泥が付き、家の面子を潰された事に怒り心頭に発し、主上から殿への洛陽呼び出しに託けて、殿の殺害計画に至ったと訳ですな。」
ふぅ、と嘆息しつつ報告する。
「は?主上から呼び出しって、勅使が俺の所に来るのか?なんで?
まさか、それ自体が許家の策略とかか?」
「いえ、それに関しては全くの偶然・・・とも言い切れませんな。
勅使来訪も殿が原因ですし。」
「どういうこっちゃい?」
訳が分からず、首を傾げる。
「はい、殿が先日豫州夏侯家の、葬儀に於ける出来事を、莫大な金銭を主上に献金して、主上お気に入りとなった太尉・曹嵩が主上に話した所、大層羨んだ主上が、「年始の挨拶に来るよう、糜芳に申し伝えよ!」と言ったそうですよ。」
今週中には到着予定ですと告げる。
「うげぇ、ホンマかいな・・・ハァ、因果応報か。
うん?アレ?曹嵩殿って大司農じゃなかったか?」
自分のやらかしにため息を吐きつつ、素朴な疑問を笮融にぶつけた。
「はい、先月中頃まではそうでしたが、月末に前任の太尉・崔烈が朝廷で、愚にも付かない痴れ言を吐いて解任された後、太尉に就任しております。」
「愚にも付かない痴れ言?」
何をどう言ったらクビにされんだよと、首を傾げて尋ねる。
「朝廷の議題で、「涼州に於ける多額の予算出費を、どうするべきか」の議論をしている時に・・・。」
「時に?」
「崔烈が、「涼州への負担が大きいなら、涼州を切り捨てて、放って置けば良いんじゃないか?」と発言し、出席者全員から非難囂々、罵詈雑言の雨嵐を喰らい、その場で解任された様です。」
「リアルなマリーさんかよ!?」
余りのお馬鹿発言に、猛ツッコミをいれる糜芳。
西洋・おフランスのマリーさんこと、マリー・アントワネットの迷言は後世の創作だが、東洋・後漢のマリーさんこと、崔烈のお馬鹿な迷言は史実であり、コレによって総スカンをくって解任された。
その上実の息子にさえ、「銅臭がする(お金に汚い、守銭奴)」と言われて嫌悪される程の金策をして、売官で三公の地位を得た為、名家閥からは除名され、故郷ですら「汚吏・崔烈」と非難されて追われる羽目になり、哀れでも無く成るべくして崔一族は、人目を忍ぶ様に荊州に落ち延びていったのであった。
(諸葛亮の友人・崔州平は、崔烈の息子)
「涼州ていう防壁が有るから、司隷地域と首都洛陽は、異民族の被害を受けずに、安穏と暮らしていられるのに・・・。
それすら理解出来ないなんて、有る意味凄いわ。」
逆ベクトルで感心する糜芳。
「そうですね、凄いですよね。
余談ですが、崔烈の発言を耳にした涼州軍閥の間では、「崔烈」と名が書かれた人型の的に、弓矢で射たり剣で斬りつけるのが、大流行しているとか。
ついでに、2文字限定ですが識字率が急上昇して、自分の名前も読み書き出来ない連中が多い中、「崔烈」の2字だけは読み書き出来るそうですよ。」
「スゲエわ崔烈効果、最早現象だなそれ!」
益々逆ベクトルに感嘆する。
それはさておき、
「え~と、話を戻すけど、何で俺を殺そうと言う、よ~わからん発想になるんだろう?
単純に許劭が仕官して、功曹(州等の人事部長)なりにでもなってさ、自分の人物批評が正しい事を実証すれば良いだけだろうに。」
馬鹿じゃねーの?と呆れる。
「一応家の面子が、潰された恨み辛みですかね。
後はまぁ、そういう風に考えが至らないのが、今時の名家と言うか、何というか・・・。
それにそもそも己の批評が、実証出来るかどうかも怪しい所ですから。」
「ああ、そっちの可能性があるか。」
笮融の発言に頷く。
(前世のTVで出てた、評論家や実務経験が無いけど専門家と同類だからなぁ、どう聞いても批評家って)
舌先三寸は立派だけど、言うだけで実が伴わない、けど立派な肩書きだけは持っている、公家の位負けな前世の人達を脳裏に思い浮かべた。
「しかし、浮屠の暗部って滅茶苦茶優秀だよな。
良くそんな事まで、情報を入手出来るもんだ。」
浮屠の卓抜した情報網と、収集能力に舌を巻く。
「はは、ありがとうございます。
まぁ、今回の場合はウチの暗部に、殿の殺害依頼が来たからなんですけどね。」
「はい?へ?・・・アンだって~!?」
淡々と語る笮融の、トンデモない爆弾発言に戸惑った後に、素っ頓狂な声を上げる糜芳。
「どう言うこと?ねぇどういう事?」
「ウチの暗部も性質上、非合法な裏組織としての側面を、持ち合わせておりまして・・・。
ちょくちょくこういった類いの、非人道的な依頼も舞い込んで来るのですよ。」
若干言い辛そうに、ポリポリと頬を掻く。
「はぁ・・・あの~その~笮融さん?
当然私めの殺害依頼なんか、受けてませんよね?」
引きつった笑顔を浮かべ、急に丁寧語を喋りつつ、熊に遭遇したかの如く、目線を笮融に合わせながら、ジリジリと窓際に移動する。
「ご安心ください!ちゃんと引き受けました!!」
「何処の世界に裏組織が、自分の殺害依頼を引き受けたと聞いて、安心する阿呆がおるんじゃい!?」
胡散臭い笑顔でドヤ顔する笮融に、怒鳴りつけながら、窓枠を蹴って飛び出した糜芳であった。
~~リアル○ごっこ中につき、糜芳確保まで少々お待ちください~~
「はっ!?此処は?」
キョロキョロと周囲を見回す糜芳。
逃げ出した直後、影のような物体が蠢いたと思った瞬間、首筋に痛みを感じて意識を失い、気が付くと、何事も無かったかの様に居室に戻っていて、椅子に座っていた。
「気が付かれましたか殿?
殿の殺害依頼を受けた、ちゃんとした理由が有ります故、某の話を最後まで聞いてください。」
眉を八の字にして、困り顔で糜芳に話し出す笮融。
笮融曰わく、断れば他の裏組織に依頼が回り、予測が付きにくくなって、何時何処で襲撃を受けるか不透明になり、守る浮屠側の犠牲も予測不能になる為、ワザと引き受けたようだ。
そうする事で、襲撃側も護衛側も同じ組織になって、ツーカーのやりとりで、適当に誤魔化す事が可能になるので、無用な犠牲者を出さずに済むという計画である。
ついでに、浮屠の暗部は国内の裏組織では、指折りの実力で知られているらしく、実力者の暗部が襲撃に失敗する程の、手練れが糜芳側に居る、と思い込ませる事で、以後に同じ事が発生しても、引き受ける裏組織は殆ど居なくなり、糜芳の身の安全が図れるといった、思惑も有るようだ。
「・・・という訳で、襲撃側も護衛側も、我等暗部の者だけで編成し、許家の依頼は八百長をして欺きますので、ご安心くださいませ。」
「え?守ってくれるの?本当に?ホンマに?」
疑心暗鬼真っ盛りな小心者・糜芳。
「無論当然の事です導師様。
貴方様が提唱した、屯田制の裏事業・衆生救済計画の、陰の支援のおかげで此処徐州を中心に、数多くの寺院を建設する事が叶いました。」
手を合わせて、「ありがたや」と感謝の念を送る。
笮融に倣って、しれっと笮融の後ろに居る暗部の者達と思われる、一見地味で特徴が無い、10人程の老若男女も手を合わせる。
「それと共に、貴方様が立案した「※王法為本策」により、漢の国法に則りつつ、高貴な者を無理に布教・教化の対象とせず、一般民衆を主な対象とする事で、少しずつですが徐々に徐々に、我等の同志が増えております。
「黄巾の良し悪しを学べ」の教え、身を以て実感している次第であります。」
深くお辞儀する。
※王法為本=王法(国家権力者・統治者が定めた法律と、権力者・統治者自身)を遵守して従いつつ、為本(仏教の教え)を柔軟に説く事。
(いや~、俺のオリジナルじゃなくて、確か後世の偉いお坊様が、提唱したモノなんだけど・・・。
寛容な御仏の仏心で許してくださいね)
ゴメンナサイと未来のお坊様に、心中で合掌・拝礼して謝る(仏)罰当たり者。
因みに黄巾の良し悪しとは、良い所は「草の根活動」により、一般民衆を教化の対象とした結果、時代背景も合わさって、ネズミ算式に信徒が増えた事であり、悪い所は教化して日が浅く、国家全体に年数を掛けて教化も浸透もしていないのに、反乱を起こして邪教扱いになった事である。
それはさておき、
「その上で我等日陰者の暗部にも、衆生救済計画の一翼を担わしていただくという、日の当たる大仕事に関わらして貰う事に、誠に感謝しております。」
遂には涙を流し始めた。
後ろの暗部連中も、嗚咽を漏らして泣いている。
「それ故に、導師様のお命は我等暗部が、命を賭して御守り致します。」
「「「「「我等にお任せくださいませ導師様!」」」」」
「あ~・・・ゴメンナサイ、笮融。
其処まで考えてくれているのに、疑っちゃって。」
ぺこりと頭を下げて謝罪する。
「いえいえ、命を狙われているのですから、当然の反応かと。
某の言い方も、若干悪かったですし・・・。」
「いや若干じゃなくて、9割方そ・「しかし!」
糜芳の反論を遮る様に声を上げ、
「それだけ用心しても、相手は大家・許家。
豊富な財産を元に莫大な報酬を積めば、目が眩んで応じる組織も出てきましょうし、場合によっては、国外からの組織を呼び込む等の懸念があります。
許家が有る限り導師様に安息の日々は、訪れ無いかも知れません。」
悩ましげに語る。
(・・・確かに、此処まで拗れると、殺るか殺られるかにしかならない・・・か。
躊躇すれば父上や竺兄・阿燐に害が及びかねん。
母上?は大丈夫っぽいな、鬼神も避けそうだし)
腹を括りつつ、糜香本人に知られたら、華陀の二の舞になるのは確実な、ド失礼な思考をする。
「潰すしかないか・・・う~ん・・・あ~して、こ~したらそ~なって・・・。」
目を瞑って腕を組みつつ、ぶつぶつと独り言を呟いた後に、
「・・・よし!コレに決めた!」
「殿?」
カッと目を見開くと、竹簡に文章を書き始めた。
暫くして筆が止まると、
「笮融!急ぎこの書簡を、何進大将軍いや荀攸殿に届けてくれ!」
「はっ、承知しました。」
「それと・・・・・・の手筈も頼む。」
「はぁ、浮屠の情報網を使えば容易ですが。」
矢継ぎ早に笮融に、指示を出していく。
「あ、そうそう、言い忘れてました殿。」
「うん?何?」
「今回は洛陽で前々から常宿にしていた、某が推薦した屋敷には宿泊出来ませんので、別の場所を考えてください。」
「え?どうして?」
首を傾げる糜芳。
「いや~あの彼処は実は、暗部の裏組織用件の連絡・交渉の場所でして・・・。
許家の関係者も出入りしていますので、流石に殿が彼処に泊まるのは、幾らなんでも不味いですので。」
申し訳なさげに、頭を下げる笮融。
(まぁ、当の暗殺対象者が、暗殺する側の組織の拠点で寝泊まりして、平然と寝起きしているなんていう、シュール処か怪奇現象な事になって、八百長が即バレするからっていうのは、それはそれで判るんだけども・・・)
それはそれとして、
「お前なぁ・・・んな物騒極まりない所を、宿泊先に推薦すんじゃねーよ!?」
至極当然な事を怒る糜芳。
「はぁ、申し訳有りません。
結界(防衛網)を張るのが、容易なモノでつい。
え~とそういう訳でして、出来れば不特定多数が出入りする、一般の宿屋ではなく、個人宅を宿泊先に選んで頂けると幸いです。」
ペコリと頭を下げつつ、しれっと要求する。
「え、駄目なのか?」
「出来れば、万全を期す為にお願いします。
許家がウチ以外に、殺害依頼をしていない保証が有りませんし、不特定多数だと判別が難しく・・・。」
「ああ、確かにそうだわな。」
笮融の説明に納得する。
(う~ん・・・じゃあ何処にすっかなぁ・・・。
何進・荀攸は却下、下手に借りを作ると面倒だし。
蔡・・・は論外、別の意味で危険だからな。
商家の高家はどうだろ?嫁さんの結婚プロデュースや、食糧取引の恩義が有るから、喜んで泊めてくれそうだけど・・・一般の人を巻き込むのもなぁ。
すると・・・あっこしかねーか、ううっ面倒臭い)
脳裏にとある短体を思い浮かべて、選択の余地無しと渋々筆をとり、笮融に書簡を渡した糜芳。
「まぁ、とりあえずこんなモンか。
後は勅使来訪を待って・・・ん?年始の挨拶って事は・・・よっしゃあ!!万歳~万歳~万歳!
母上に年始に会わずに済むやん!
曹嵩様々だわ~・・・ありがたや、ありがたや。」
災い転じて死神の鎌から、逃れ得た事に万歳三唱した後に、柏手をパンパンと打って、曹嵩が居ると思われる洛陽方面を拝む。
「あの~殿?その曹嵩様々のせいで、命を狙われる隙が出来た事を、理解しておられますか?
それ以上に母君に会いたくないとは・・・母君は悪鬼羅刹か何かですか?」
「時と場合による。」
笮融が若干引きつった顔で糜芳に尋ねると、真顔で深く深~く頷くのであった。
そして数日後・・・
洛陽大将軍府執務室
「フンフンフ~♪・・・。」
後漢が誇る軍部の、実質的トップである大将軍・何進は、鼻歌を歌いながらうずたかく積まれた、決裁待ちの書類を処理している。
彼は此処最近上機嫌であった。
遂に彼はとある真理を悟って実行に移し、自己負担の軽減化に成功したからである。
その真理とは、「アホ共に下手な案件を任せたら、ほぼ確実に失敗や問題を起こして、何倍もの厄介な状態で尻拭いをさせられるから、最初からアホ共に任せず、自分でやった方がマシ」という、前向きなのか後ろ向きなのか何とも言えない、意見が別れる真理であった。
結果、一時的には負担は増すが、最初からやる分、後の始末は楽になり、中抜き・横領する中間管理職が減って、何処ぞの国の公共事業の如く、予算経費が膨張したり、継ぎ足しのお代わりも少なくなって、予算出費の圧縮に自然になっていた。
そうして、「何で儂って軍部の将軍なのに、政務をやっているんだろう・・・おかしくないか?絶対おかしいだろこれ?」という日常的に感じる疑問を、頭の片隅に追いやりつつ、せっせと処理していると、
「何進閣下、宜しいでしょうか。」
「うん?どうした荀攸。」
副官兼腹心の参軍総長・荀攸が、1巻の竹簡を携えてやってきた。
「今朝方、徐州の糜芳殿より、楽しい策謀のお誘いが参りました。」
スッと竹簡を差し出す。
「・・・・・・・・・。」
無言で差し出された竹簡を受け取り、ジ~ッと眺めた後、スタスタと未決裁の竹簡の束の山に持って行き、崩れ落ちないよう、砂山を削っていき棒を落としたら負けの、山崩しゲームの如く竹簡山を慎重に掻き分け、ソッと糜芳からの書簡を、下部奥底に押し込む。
ふぅ~と一息吐いた何進は、やりきった表情で席に戻り、何も見なかった、何も知らないかの様に、元の書類決裁をこなす。
「・・・・・・・・・。」
一部始終を眺めていた荀攸は、竹簡の束からジェンガの如く、スッと糜芳からの書簡を抜き取り、ガシッと何進の手首を掴んで、ポンッと書簡を渡す。
「なぁ、止めようよぅ荀攸~。
漸く韓遂の件が落ち着いた矢先に、これ以上厄介事を抱えるのはさぁ・・・。」
いい歳扱いたオッサンが、泣き言を洩らす。
「諦めてください何進閣下。
いずれはやらねば成らぬ事ですから、早く処理しておくべきです。
それに今回は上手くいけば、何進閣下に最も恩恵が有りますぞ。
具体的には、その政務関係の竹簡の束山が、減るか無くなるぐらい。」
ニッコリと微笑みかける。
「な、なんだと!?」
慌てて竹簡を開いて、血走った目で読み込む。
「・・・なぁ荀攸、コレって糜芳君の策謀が失敗した場合は、儂に最も恩恵が有るけど、どれくらい失敗する可能性があると思う?」
「そうですね・・・塵芥か優曇華の花ぐらいの、可能性は有るかと。」
「全く無いに等しいだろそれ!?」
荀攸の答えにツッコミを入れる。
「まぁまぁ閣下、どちらに転んでも閣下に損は無く、どっちに転ぼうが利になりますから。」
「それはそうなんだが・・・しかし荀攸、お前の方こそ良いのか?
コレを実行すると、名家に影響が出るが。」
「構いません、寧ろ名家なればこそでございます。
報国報恩をせずに、何が名家でございましょうや。」
キッパリと言い切る。
「私の方よりも、糜芳殿の策謀案件の肝である、閣下に依る主上の説得の方は、如何なものなんですか?出来そうですか?」
「ああ、その辺は問題ない。
主上は結構功利的、特に利害には聡いお方だ。
説明すれば、アッサリ喜んで了承なさるだろうな。」
自信有りげに頷く。
「それより今回の策謀の生贄役、許劭の人物批評とやらは、実際どれくらいのモンなんだ荀攸。」
「う~ん・・・私の知っている限りでは、ウチの大将軍府に在籍している、曹操殿が出世頭かと。
後は寡聞にして、聴いた事有りませんな。」
記憶を辿っているのか、天井を見ながら答える。
「おいおい、全然大した事ねーじゃねーか。
何処のそれが「大家」なんだよ?チンケな占い師と大差無いじゃねーかそれ。」
儂の期待を返せと愚痴る何進。
「ええ、ですから塵芥の可能性と言ったんですよ。
批評を専業にしている連中の殆どが、自身と名家閥の評判を上げて、地方名家をヨイショして、派閥に取り込んでいくのが目的ですから。」
「フン、やっている事は只の幇間かよ。
名士様が庶民顔負けの、みみっちい事してやがる。」
鼻を鳴らして嘲る。
「閣下、断じて許劭は名士では有りません。
糜芳殿曰わく、「名士は妄りに批評をしない。何故なら悪しきと観れば、己が行いを省みて戒めとし、その者と関わりを避けて語らず、善しと観れば、その者を推挙して世に出す事を、如何なる険難が在ろうとも、厭わないからである」ですから。」
ウンウンと、けだしその通りと頷く。
「なんだそりゃ?糜芳君がそんな事言ったのか?」
「ええ、糜芳殿が豫州の知人の、葬儀の際に名士の定義を語った、「糜芳語録」の1つですね。」
自慢げに語り、
「実際に糜芳殿は、無名の国淵なる人物を、州の屯田計画の責任者として推挙し、後見人(連帯保証人)となっております。
その国淵なる者は、素晴らしき才を発揮して、屯田計画を何倍にも促進しているとか。」
ご存じ無いのですか?と、確認する荀攸。
「いや、知らん。糜芳語録?初めて聞いたが。」
「語録の定義に依れば、閣下は立派な名士ですね。」
「え?庶民出身の儂がか?」
自身を指差して、驚いた表情をする。
「ええ、曰わく、「名士とは、家柄・出自・血筋から来る者ではなく、生き様で成る者である」であり、「名士は国家の危難に際して報国報恩をする。それは義務だからではなく、当たり前と考えているからだ」ですので、報国報恩を自然としている閣下は、紛う事なき立派な名士であります。」
「・・・そうか、名家筆頭格出身のお前に言われると、余計に実感が湧くなぁ・・・。」
ジーンと感無量な面持ちの何進。
「良いこと言うなぁ、糜芳君は。」
「ええ、本当にそうですよね。
私も語録を聴いて感銘を受けました。
私自身、出自で思う所や周囲の目が、気になっていたのですが、「生き様で成る」と聴いて、靄が晴れる思いをしましたので。」
晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。
「ああ、儂とは真逆の悩み事があったのか。」
なる程と頷く。
「ええ、そうなんです。
まぁ、そういった悩める若人を中心に、糜芳語録が爆発的に広がっており、特に武官系の者達には、絶大な支持を受けていますね。」
「武官系にか?糜芳君は文官系だから、相反する系統から支持されるなんぞ、よっぽどじゃないか。」
自身が武官系(将軍)に属し、文官系(名家閥等)と対立しているので、余計に凄さが解る何進。
「はい、彼の言った、「軍人達は誰もが、名も無き末端の兵士でさえ、烈士であり名士である。何故なら彼等は、命を賭して報国報恩をしているからだ。これを以て違うと誰が言えようか?もし違うと言うなれば、その者自身が軍人以上に命を賭して、範を示さなければ万民が納得しないだろう」を聴いて、感銘しない武官は居ないでしょう。
実際、皇甫嵩・朱儁将軍は大泣きしました。」
「実証済みかよ!?まぁ、さもありなんか。」
そりゃそうだわなと納得した。
「それに加えて、そう発言した糜芳殿自身が、傷病兵・遺族を優先して屯田開拓に選抜したり、私財(給料)を投じて、戦没者の遺児の為に、就業訓練施設や斡旋所を開設したりと、軍人の報国報恩に報いる事を積極的に行っており、尚のこと評判が高まっている状態ですね。」
補足説明をする。
因みに、戦没者の遺児とは、糜芳は治安維持・良化の為に行った、就業訓練施設に放り込んだ、浮浪児の中に含まれ、捨て子だけでなく片親が戦死・病没して、身寄りの無い子供も、浮浪児になることが多かった。
「おいおい・・・片や色街の幇間擬き兼、チンケな占い師擬き、方や立派な郡太守兼篤志家。
これじゃあ端から聞いたらどっちが、名家生まれの奴か判んねーよ。」
ハァ、情けないと嘆く。
「全くその通りですな。
・・・して糜芳殿の献策、如何なさいますか?」
「聞く迄もないだろう。
立派な名士たる儂が国益にも繋がる事柄を、放って於くわけにいかんだろうが。
ククッ、ハーハッハッハッハ・・・!!」
呵々大笑して了承する何進。
「では、私も何時でも行動に移れる様、準備を整えておきます。
曰わく、「名士は多くを語らない。何故なら語るよりも先に、動いて範を示すからだ」ですからね。」
「・・・いやお前、かぶれ過ぎじゃないか?」
困惑気味に苦言を呈す。
こうして糜芳が、許劭及び許家を潰す為に発案した策謀は、個人同士の諍いから、国家を巻き込んだ騒動へと、発展していくのであった。
続く
え~と、王法為本に関しては、調べたのですが私自身の不明でハッキリと理解出来ず、こういう意味合いだろうと、推測して書いてあります。
間違ってたら、御仏の寛容なお心で、優しく諭してくれるか、スルーして頂けたら幸いです。
(合掌・拝礼)
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価・感想を、書いて頂けたら幸いです。




