表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
68/111

その5

読んでくださっている方々へ


何時も読んでくださって、誠にありがとうございます!


そして、前話の誤字脱字に関して、指摘してくださった事と共に、本当に誤字脱字が多々あって、申し訳ありませんでした。


汗顔の至りであります。

         東海郡太守館居室


「ウウ、実家に帰りたくねーよぅ・・・。」

頭を抱えて呻く糜芳。


11月に人物批評家の許劭をやり込めた後、許劭に紹介状を書いて案内までしたクセに、しらばっくれてボケた振りをして、局地的に都合の良い年寄りになる、世紀末長老・華陀を問い詰めた。


そして狼藉者を紹介した罪(連座)を、司法取引で不問にする代わりに、父・糜董の肩こり・腰痛の無料治療を了承させて、ニタリとほくそ笑む。


案の定、前回の梅里軍政官の時の様に、必殺的な仕○人の様な殺人未遂的施療を行ったので、糜董が殺られたと思い違いをした母・糜香が激怒。


某暗殺拳奥義や、レオなセイントのライ○ニングが華陀に炸裂し、糜芳の目論見(もくろみ)通り糜香にボコボコにされて、()()()()に成功、糜芳は大いに溜飲を下げたのであった。

(ついでに、女性にボコられた事を話せば、華陀自身が「男として情けない」と笑われてしまうので、自動的に口封じのオマケ付きである)


こうして一連の許劭騒ぎの、ケジメをつけれてスッキリした糜芳だったが、直後に糜香から「偶には帰省しなさい」という、極々一般的な子を心配する、親の手紙を貰って硬直する。


(怪しい・・・今まで太守になってから一片(いっぺん)も、手紙なんぞ送って来なかったのに・・・変だ)

脳内の危機予知センサーが危険を感知して、糜芳に警戒を呼び掛ける。


そうして警戒心を強めていた矢先、糜香から「正月に会うのを、非常に楽しみにしているわ」という続報を貰い、全身から冷や汗が滝のように流れる。


脳内では「エマージェンシー」の文字が明滅し、ビービーとけたたましい警報音が鳴り響き、「危険度赤、死徒です!」の音声が聞こえていた。


殺人紛いの施術をした方士にキレた糜香が、その方士を紹介した、糜芳にもキレているのは、至極当然の事であった。


「ウウ、実家に帰りたくねーよぅ・・・。」

再度呻いて頭を抱える愚者・糜芳。


年の瀬が近づくにつれ、刻一刻と死神の鎌が迫りつつある現状を嘆いていると、


「殿、急報が届きました。一大事です。」

藪から棒に、糜芳の執事を勤めている笮融が、全く大事そうに観えない淡々とした表情で、ゆったりと入室して来る。


「ま、まさか堪えきれずに母上が、此処に乗り込んで来たのか!?」

窓枠に片足を掛けた状態で、笮融に問い掛ける。


「は?いえ、違います。」

「ホッ・・・なんだ違うのかぁ、良かった~。」

すたすたと椅子に座ろうとする。


「殿を亡き者(抹殺)にする動き有り、と洛陽の暗部から通報が有りました。」

「はい!?うぉぁちゃあ!?」

笮融のトンデモ発言に、バランスを崩して椅子ごと後ろに倒れ込んだ。


「ワンモアプリーズ!?」

「わ、ワンも??・・・よく解りませんが、殿の殺害を企てている輩が居る模様です。」

「フゥ!?じゃねぇ、誰がそんな事を!?」

慌てて立ち上がって、片言の英語から元の言語に戻して問い質す。


「暗部の調査に拠ると、洛陽の豪商・()商会との事です・・・表向きはですが。」

「誰それ?と言うか、表向きって事は・・・?」

「ええ、李商会は偽装に過ぎません。

精査した結果、実際の依頼者は現三公の1人、許相の親族だった様ですね。」

「ホンマかいな!許劭の件でって事か?」

「間違いなく。」

コクリと頷く。


笮融の話では「醜聞千里を走る」の言葉通り、この前の糜芳との一件で許劭は、徐州内で名を落としたが、それだけではなく隣州にまで醜聞が広がって、絶賛大炎上中のようだ。


元々許劭の人物批評は賛否両論だったのだが、前回の件で徹底的にやり込められ、這々(ほうほう)(てい)で逃げ帰ったと噂が広がり、一気に非の方に傾き、活動停止状態に陥っているとの事。


「それに加えて、殿の評判は東海郡にとどまらず、徐州でも善政を敷き、公平無私・寛厳の仁として名を上げております故、直のこと許劭に、非難が集中した模様ですね。」

淡々と説明する。


「う~ん、自分が楽な様にしただけだし、結構私利私欲に走ってるし、わりかし厳しい処分もしてるんだけどな~。」

「まぁ殿の思惑はどうあれ、周囲は結果でしか殿を評価しませぬ故、乖離が有るのも当然かと。」

評判が良い事はいいことですよと、第三者視点で、あっけらかんと話す笮融。


「う~ん、そりゃそうなんだけどな。

そう言えば、何で許劭は俺なんかを、人物批評しようとしたんだ?

どう考えても名家至上主義者の許劭が、俺に関わろうとするとは、到底思えないんだけど?」

理由を聴かずに追っ払ってしまったので、許劭の動機が不明で首を傾げる。


「何を仰っておられるのですか殿は?

殿が豫州で「名士とはなんぞや」を、滔々(とうとう)と語った事が騒動の原因でしょうに。」

「・・・全っ然記憶に御座いません。」

何処ぞの政治家の如く、記憶が酔っ払ってフォーマット済み状態の糜芳。


笮融曰わく夏侯添の葬儀の際に、酔った糜芳は幾つかの曲を歌い上げた後、「流石は楽聖、楽才を主上に認められ、名士になった事は有る」と誰かに言われ、「自分は名士じゃない!」と反論し、ご高説を垂れ流したようだ。


「その上で「名士の生き様を、山と河で例えた歌」を朗々と歌って、出席者を感動させたとか。

豫州で殿の言動があっという間に広がって、特に共感する若者が後を絶たず、大層な評判ですぞ。」

「え・・・そうなの?」

多分あの曲かなと、当たりを着ける。


「ええ、噂では豫州から徐州はもとより、司隷(洛陽)にまで殿の逸話が、広まっているとの事です。」

「は!?そんなに!?」

予想以上の広がりにビックリする。


「暗部の調査では、その様に聴いております。

それでその話を聴いた許劭が怒り、「若造が名士を語るなど、不遜にすぎる!懲らしめてくれよう!」と息巻いて、殿のもとに押し掛けたようですな。」

許劭騒動の発端と経緯を述べた。


(全っ然覚えてねぇ・・・おちゃけ怖い)

自身のやらかしが原因だった事に、頭を抱える。


「ああ、道理で短絡的で喧嘩腰だった訳だ。」

「ええ、そういう理由で押し掛けた結果・・・。」

「ものの見事に俺が返り討ちにした訳だ。」

許劭がわざわざやって来た理由を理解した糜芳。


「それにより、許劭は殿に依って名声が落ち、同時に許家も一族の大看板に泥が付き、家の面子を潰された事に怒り心頭に発し、主上から殿への洛陽呼び出しに託けて、殿の殺害計画に至ったと訳ですな。」

ふぅ、と嘆息しつつ報告する。


「は?主上から呼び出しって、勅使が俺の所に来るのか?なんで?

まさか、それ自体が許家の策略とかか?」

「いえ、それに関しては全くの偶然・・・とも言い切れませんな。

勅使来訪も殿が原因ですし。」

「どういうこっちゃい?」

訳が分からず、首を傾げる。


「はい、殿が先日豫州夏侯家の、葬儀に於ける出来事を、莫大な金銭を主上に献金して、主上お気に入りとなった太尉・曹嵩が主上に話した所、大層羨んだ主上が、「年始の挨拶に来るよう、糜芳に申し伝えよ!」と言ったそうですよ。」

今週中には到着予定ですと告げる。


「うげぇ、ホンマかいな・・・ハァ、因果応報か。

うん?アレ?曹嵩殿って大司農じゃなかったか?」

自分のやらかしにため息を吐きつつ、素朴な疑問を笮融にぶつけた。


「はい、先月中頃まではそうでしたが、月末に前任の太尉・崔烈が朝廷で、愚にも付かない痴れ言を吐いて解任された後、太尉に就任しております。」

「愚にも付かない痴れ言?」

何をどう言ったらクビにされんだよと、首を傾げて尋ねる。


「朝廷の議題で、「涼州に於ける多額の予算出費を、どうするべきか」の議論をしている時に・・・。」

「時に?」

「崔烈が、「涼州への負担が大きいなら、涼州を切り捨てて、放って置けば良いんじゃないか?」と発言し、出席者全員から非難囂々、罵詈雑言の雨嵐を喰らい、その場で解任された様です。」

「リアルなマリーさんかよ!?」

余りのお馬鹿発言に、猛ツッコミをいれる糜芳。


西洋・おフランスのマリーさんこと、マリー・アントワネットの迷言は後世の創作だが、東洋・後漢のマリーさんこと、崔烈のお馬鹿な迷言は史実であり、コレによって総スカンをくって解任された。


その上実の息子にさえ、「銅臭(どうしゅう)がする(お金に汚い、守銭奴)」と言われて嫌悪される程の金策をして、売官で三公の地位を得た為、名家閥からは除名され、故郷ですら「汚吏・崔烈」と非難されて追われる羽目になり、哀れでも無く成るべくして崔一族は、人目を忍ぶ様に荊州に落ち延びていったのであった。

(諸葛亮の友人・崔州平(さいしゅうへい)は、崔烈の息子)


「涼州ていう()()が有るから、司隷地域と首都洛陽は、異民族の被害を受けずに、安穏と暮らしていられるのに・・・。

それすら理解出来ないなんて、有る意味凄いわ。」

逆ベクトルで感心する糜芳。


「そうですね、凄いですよね。

余談ですが、崔烈の発言を耳にした涼州軍閥の間では、「崔烈」と名が書かれた人型の的に、弓矢で射たり剣で斬りつけるのが、大流行しているとか。

ついでに、2文字限定ですが識字率が急上昇して、自分の名前も読み書き出来ない連中が多い中、「崔烈」の2字だけは読み書き出来るそうですよ。」

「スゲエわ崔烈効果、最早現象だなそれ!」

益々逆ベクトルに感嘆する。


それはさておき、


「え~と、話を戻すけど、何で俺を殺そうと言う、よ~わからん発想になるんだろう?

単純に許劭が仕官して、功曹(こうそう)(州等の人事部長)なりにでもなってさ、自分の人物批評が正しい事を実証すれば良いだけだろうに。」

馬鹿じゃねーの?と呆れる。


「一応家の面子が、潰された恨み辛みですかね。

後はまぁ、そういう風に考えが至らないのが、今時の名家と言うか、何というか・・・。

それにそもそも己の批評が、実証出来るかどうかも怪しい所ですから。」

「ああ、そっちの可能性があるか。」

笮融の発言に頷く。


(前世のTVで出てた、評論家や()()()()()()()()()専門家と同類だからなぁ、どう聞いても批評家って)

舌先三寸は立派だけど、言うだけで実が伴わない、けど立派な肩書きだけは持っている、公家の位負けな前世の人達を脳裏に思い浮かべた。


「しかし、浮屠の暗部って滅茶苦茶優秀だよな。

良くそんな事まで、情報を入手出来るもんだ。」

浮屠の卓抜した情報網と、収集能力に舌を巻く。


「はは、ありがとうございます。

まぁ、今回の場合はウチの暗部に、殿の殺害依頼が来たからなんですけどね。」

「はい?へ?・・・アンだって~!?」

淡々と語る笮融の、トンデモない爆弾発言に戸惑った後に、素っ頓狂な声を上げる糜芳。


「どう言うこと?ねぇどういう事?」

「ウチの暗部も性質上、非合法な裏組織としての側面を、持ち合わせておりまして・・・。

ちょくちょくこういった類いの、非人道的な依頼も舞い込んで来るのですよ。」

若干言い辛そうに、ポリポリと頬を掻く。


「はぁ・・・あの~その~笮融さん?

当然私めの殺害依頼なんか、受けてませんよね?」

引きつった笑顔を浮かべ、急に丁寧語を喋りつつ、熊に遭遇したかの如く、目線を笮融に合わせながら、ジリジリと窓際に移動する。


「ご安心ください!ちゃんと引き受けました!!」

「何処の世界に裏組織が、自分の殺害依頼を引き受けたと聞いて、安心する阿呆がおるんじゃい!?」

胡散臭い笑顔でドヤ顔する笮融に、怒鳴りつけながら、窓枠を蹴って飛び出した糜芳であった。


~~リアル○ごっこ中につき、糜芳確保まで少々お待ちください~~


「はっ!?此処は?」

キョロキョロと周囲を見回す糜芳。


逃げ出した直後、影のような物体が(うごめ)いたと思った瞬間、首筋に痛みを感じて意識を失い、気が付くと、何事も無かったかの様に居室に戻っていて、椅子に座っていた。


「気が付かれましたか殿?

殿の殺害依頼を受けた、ちゃんとした理由が有ります故、某の話を最後まで聞いてください。」

眉を八の字にして、困り顔で糜芳に話し出す笮融。


笮融曰わく、断れば他の裏組織に依頼が回り、予測が付きにくくなって、何時何処(いつどこ)で襲撃を受けるか不透明になり、守る浮屠側の犠牲も予測不能になる為、ワザと引き受けたようだ。


そうする事で、襲撃側も護衛側も同じ組織になって、ツーカーのやりとりで、適当に誤魔化す事が可能になるので、無用な犠牲者を出さずに済むという計画である。


ついでに、浮屠の暗部は国内の裏組織では、指折りの実力で知られているらしく、実力者の暗部が襲撃に失敗する程の、手練れが糜芳側に居る、と思い込ませる事で、以後に同じ事が発生しても、引き受ける裏組織は殆ど居なくなり、糜芳の身の安全が図れるといった、思惑も有るようだ。


「・・・という訳で、襲撃側も護衛側も、我等暗部の者だけで編成し、許家の依頼は八百長をして欺きますので、ご安心くださいませ。」

「え?守ってくれるの?本当に?ホンマに?」

疑心暗鬼真っ盛りな小心者・糜芳。


「無論当然の事です()()()

貴方様が提唱した、屯田制の裏事業・衆生救済計画の、陰の支援のおかげで此処徐州を中心に、数多くの寺院を建設する事が叶いました。」

手を合わせて、「ありがたや」と感謝の念を送る。


笮融に倣って、しれっと笮融の後ろに居る暗部の者達と思われる、一見地味で特徴が無い、10人程の老若男女も手を合わせる。


「それと共に、貴方様が立案した「※王法為本策」により、漢の国法に則りつつ、高貴な者を無理に布教・教化(きょうけ)の対象とせず、一般民衆を主な対象とする事で、少しずつですが徐々に徐々に、我等の同志が増えております。

「黄巾の良し悪しを学べ」の教え、身を以て実感している次第であります。」

深くお辞儀する。


王法為本(おうほういほん)=王法(国家権力者・統治者が定めた法律と、権力者・統治者自身)を遵守して従いつつ、為本(仏教の教え)を柔軟に説く事。


(いや~、俺のオリジナルじゃなくて、確か後世の偉いお坊様が、提唱したモノなんだけど・・・。

寛容な御仏の仏心で許してくださいね)

ゴメンナサイと未来のお坊様に、心中で合掌・拝礼して謝る(仏)罰当たり者。


因みに黄巾の良し悪しとは、良い所は「草の根活動」により、一般民衆を教化(きょうか)の対象とした結果、時代背景も合わさって、ネズミ算式に信徒が増えた事であり、悪い所は教化して日が浅く、国家全体に年数を掛けて教化も浸透もしていないのに、反乱を起こして邪教扱いになった事である。


それはさておき、


「その上で我等日陰者の暗部にも、衆生救済計画の一翼を担わしていただくという、日の当たる大仕事に関わらして貰う事に、誠に感謝しております。」

遂には涙を流し始めた。


後ろの暗部連中も、嗚咽を漏らして泣いている。


「それ故に、導師様のお命は我等暗部が、命を賭して御守り致します。」

「「「「「我等にお任せくださいませ導師様!」」」」」

「あ~・・・ゴメンナサイ、笮融。

其処まで考えてくれているのに、疑っちゃって。」

ぺこりと頭を下げて謝罪する。


「いえいえ、命を狙われているのですから、当然の反応かと。

某の言い方も、若干悪かったですし・・・。」

「いや若干じゃなくて、9割方そ・「しかし!」

糜芳の反論を遮る様に声を上げ、


「それだけ用心しても、相手は大家(たいか)・許家。

豊富な財産を元に莫大な報酬を積めば、目が眩んで応じる組織も出てきましょうし、場合によっては、国外からの組織を呼び込む等の懸念があります。

許家が有る限り導師様に安息の日々は、訪れ無いかも知れません。」

悩ましげに語る。


(・・・確かに、此処まで拗れると、殺るか殺られるかにしかならない・・・か。

躊躇すれば父上や竺兄・阿燐に害が及びかねん。

母上?は大丈夫っぽいな、鬼神も避けそうだし)

腹を括りつつ、糜香本人に知られたら、華陀の二の舞になるのは確実な、ド失礼な思考をする。


「潰すしかないか・・・う~ん・・・あ~して、こ~したらそ~なって・・・。」

目を(つぶ)って腕を組みつつ、ぶつぶつと独り言を呟いた後に、


「・・・よし!コレに決めた!」

「殿?」

カッと目を見開くと、竹簡に文章を書き始めた。


暫くして筆が止まると、


「笮融!急ぎこの書簡を、何進大将軍いや荀攸殿に届けてくれ!」

「はっ、承知しました。」

「それと・・・・・・の手筈も頼む。」

「はぁ、浮屠の情報網を使えば容易ですが。」

矢継ぎ早に笮融に、指示を出していく。


「あ、そうそう、言い忘れてました殿。」

「うん?何?」

「今回は洛陽で前々から常宿にしていた、某が推薦した屋敷には宿泊出来ませんので、別の場所を考えてください。」

「え?どうして?」

首を傾げる糜芳。


「いや~あの彼処(あそこ)は実は、暗部の裏組織用件の連絡・交渉の場所でして・・・。

許家の関係者も出入りしていますので、流石に殿が彼処に泊まるのは、幾らなんでも不味いですので。」

申し訳なさげに、頭を下げる笮融。


(まぁ、当の暗殺対象者が、暗殺する側の組織の拠点で寝泊まりして、平然と寝起きしているなんていう、シュール処か怪奇現象な事になって、八百長が即バレするからっていうのは、それはそれで判るんだけども・・・)

それはそれとして、


「お前なぁ・・・んな物騒極まりない所を、宿泊先に推薦すんじゃねーよ!?」

至極当然な事を怒る糜芳。


「はぁ、申し訳有りません。

結界(防衛網)を張るのが、容易なモノでつい。

え~とそういう訳でして、出来れば不特定多数が出入りする、一般の宿屋ではなく、個人宅を宿泊先に選んで頂けると幸いです。」

ペコリと頭を下げつつ、しれっと要求する。


「え、駄目なのか?」

「出来れば、万全を期す為にお願いします。

許家がウチ以外に、殺害依頼をしていない保証が有りませんし、不特定多数だと判別が難しく・・・。」

「ああ、確かにそうだわな。」

笮融の説明に納得する。


(う~ん・・・じゃあ何処にすっかなぁ・・・。

何進・荀攸は却下、下手に借りを作ると面倒だし。

蔡・・・は論外、別の意味で危険だからな。

商家の高家はどうだろ?嫁さんの結婚プロデュースや、食糧取引の恩義が有るから、喜んで泊めてくれそうだけど・・・一般の人を巻き込むのもなぁ。

すると・・・あっこしかねーか、ううっ面倒臭い)

脳裏にとある短体を思い浮かべて、選択の余地無しと渋々筆をとり、笮融に書簡を渡した糜芳。


「まぁ、とりあえずこんなモンか。

後は勅使来訪を待って・・・ん?年始の挨拶って事は・・・よっしゃあ!!万歳~万歳~万歳!

母上に年始に会わずに済むやん!

曹嵩様々だわ~・・・ありがたや、ありがたや。」

災い転じて死神の鎌から、逃れ得た事に万歳三唱した後に、柏手(かしわで)をパンパンと打って、曹嵩が居ると思われる洛陽方面を拝む。


「あの~殿?その曹嵩様々のせいで、命を狙われる隙が出来た事を、理解しておられますか?

それ以上に母君に会いたくないとは・・・母君は悪鬼羅刹か何かですか?」

「時と場合による。」

笮融が若干引きつった顔で糜芳に尋ねると、真顔で深く深~く頷くのであった。


そして数日後・・・


        洛陽大将軍府執務室


「フンフンフ~♪・・・。」

後漢が誇る軍部の、実質的トップである大将軍・何進は、鼻歌を歌いながらうずたかく積まれた、決裁待ちの書類を処理している。


彼は此処最近上機嫌であった。


遂に彼はとある真理を悟って実行に移し、自己負担の軽減化に成功したからである。


その真理とは、「アホ共(名家・宦官閥)に下手な案件を任せたら、ほぼ確実に失敗や問題を起こして、何倍もの厄介な状態で尻拭いをさせられるから、最初からアホ共に任せず、自分でやった方がマシ」という、前向きなのか後ろ向きなのか何とも言えない、意見が別れる真理であった。


結果、一時的には負担は増すが、最初からやる分、後の始末は楽になり、中抜き・横領する中間管理職(汚吏・悪吏)が減って、何処ぞの国の公共事業の如く、予算経費が膨張したり、継ぎ足しのお代わりも少なくなって、予算出費の圧縮に自然になっていた。


そうして、「何で儂って軍部の将軍なのに、政務をやっているんだろう・・・おかしくないか?絶対おかしいだろこれ?」という日常的に感じる疑問を、頭の片隅に追いやりつつ、せっせと処理していると、


「何進閣下、宜しいでしょうか。」

「うん?どうした荀攸。」

副官兼腹心の参軍総長・荀攸が、1巻の竹簡を携えてやってきた。


「今朝方、徐州の糜芳殿より、()()()()()()()()()()()()()()()。」

スッと竹簡を差し出す。


「・・・・・・・・・。」

無言で差し出された竹簡を受け取り、ジ~ッと眺めた後、スタスタと未決裁の竹簡の束の山に持って行き、崩れ落ちないよう、砂山を削っていき棒を落としたら負けの、山崩しゲームの如く竹簡山を慎重に掻き分け、ソッと糜芳からの書簡を、下部奥底に押し込む。


ふぅ~と一息吐いた何進は、やりきった表情で席に戻り、何も見なかった、何も知らないかの様に、元の書類決裁をこなす。


「・・・・・・・・・。」

一部始終を眺めていた荀攸は、竹簡の束からジェンガの如く、スッと糜芳からの書簡を抜き取り、ガシッと何進の手首を掴んで、ポンッと書簡を渡す。


「なぁ、止めようよぅ荀攸~。

漸く韓遂の件が落ち着いた矢先に、これ以上厄介事を抱えるのはさぁ・・・。」

いい歳扱いたオッサンが、泣き言を洩らす。


「諦めてください何進閣下。

いずれはやらねば成らぬ事ですから、早く処理しておくべきです。

それに今回は上手くいけば、何進閣下に最も恩恵が有りますぞ。

具体的には、その政務関係の竹簡の束山が、減るか無くなるぐらい。」

ニッコリと微笑みかける。


「な、なんだと!?」

慌てて竹簡を開いて、血走った目で読み込む。


「・・・なぁ荀攸、コレって糜芳君の策謀が()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どれくらい失敗する可能性があると思う?」

「そうですね・・・塵芥(ちりあくた)優曇華(うどんげ)の花ぐらいの、可能性は有るかと。」

「全く無いに等しいだろそれ!?」

荀攸の答えにツッコミを入れる。


「まぁまぁ閣下、どちらに転んでも閣下に損は無く、どっちに転ぼうが利になりますから。」

「それはそうなんだが・・・しかし荀攸、お前の方こそ良いのか?

コレを実行すると、名家に影響が出るが。」

「構いません、寧ろ名家なればこそでございます。

報国報恩(ほうこくほうおん)をせずに、何が名家でございましょうや。」

キッパリと言い切る。


「私の方よりも、糜芳殿の策謀案件の肝である、閣下に依る主上の説得の方は、如何なものなんですか?出来そうですか?」

「ああ、その辺は問題ない。

主上は結構功利的、特に利害には聡いお方だ。

説明すれば、アッサリ喜んで了承なさるだろうな。」

自信有りげに頷く。


「それより今回の策謀の()()()、許劭の人物批評とやらは、実際どれくらいのモンなんだ荀攸。」

「う~ん・・・私の知っている限りでは、ウチの大将軍府に在籍している、曹操殿が出世頭かと。

後は寡聞にして、聴いた事有りませんな。」

記憶を辿っているのか、天井を見ながら答える。


「おいおい、全然大した事ねーじゃねーか。

何処のそれが「大家」なんだよ?チンケな占い師と大差無いじゃねーかそれ。」

儂の期待を返せと愚痴る何進。


「ええ、ですから塵芥の可能性と言ったんですよ。

批評を専業にしている連中の殆どが、自身と名家閥の評判を上げて、地方名家をヨイショして、派閥に取り込んでいくのが目的ですから。」

「フン、やっている事は只の幇間(太鼓持ち)かよ。

名士様が庶民顔負けの、みみっちい事してやがる。」

鼻を鳴らして(あざけ)る。


「閣下、断じて許劭は名士では有りません。

糜芳殿曰わく、「名士は(みだ)りに批評をしない。何故なら悪しきと観れば、己が行いを省みて戒めとし、その者と関わりを避けて語らず、善しと観れば、その者を推挙して世に出す事を、如何なる険難が在ろうとも、厭わないからである」ですから。」

ウンウンと、けだしその通りと頷く。


「なんだそりゃ?糜芳君がそんな事言ったのか?」

「ええ、糜芳殿が豫州の知人の、葬儀の際に名士の定義を語った、「糜芳語録」の1つですね。」

自慢げに語り、


「実際に糜芳殿は、無名の国淵なる人物を、州の屯田計画の責任者として推挙し、後見人(連帯保証人)となっております。

その国淵なる者は、素晴らしき才を発揮して、屯田計画を何倍にも促進しているとか。」

ご存じ無いのですか?と、確認する荀攸。


「いや、知らん。糜芳語録?初めて聞いたが。」

「語録の定義に依れば、閣下は立派な名士ですね。」

「え?庶民出身の儂がか?」

自身を指差して、驚いた表情をする。


「ええ、曰わく、「名士とは、家柄・出自・血筋から来る者ではなく、生き様で成る者である」であり、「名士は国家の危難に際して報国報恩をする。それは義務だからではなく、当たり前と考えているからだ」ですので、報国報恩を自然としている閣下は、紛う事なき立派な名士であります。」

「・・・そうか、名家筆頭格出身のお前に言われると、余計に実感が湧くなぁ・・・。」

ジーンと感無量な面持ちの何進。


「良いこと言うなぁ、糜芳君は。」

「ええ、本当にそうですよね。

私も語録を聴いて感銘を受けました。

私自身、出自で思う所や周囲の目が、気になっていたのですが、「生き様で成る」と聴いて、(もや)が晴れる思いをしましたので。」

晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。


「ああ、儂とは真逆の悩み事があったのか。」

なる程と頷く。


「ええ、そうなんです。

まぁ、そういった悩める若人を中心に、糜芳語録が爆発的に広がっており、特に武官系の者達には、絶大な支持を受けていますね。」

「武官系にか?糜芳君は文官系だから、相反する系統から支持されるなんぞ、よっぽどじゃないか。」

自身が武官系(将軍)に属し、文官系(名家閥等)と対立しているので、余計に凄さが解る何進。


「はい、彼の言った、「軍人達は誰もが、名も無き末端の兵士でさえ、烈士であり名士である。何故なら彼等は、命を賭して報国報恩をしているからだ。これを以て違うと誰が言えようか?もし違うと言うなれば、その者自身が軍人以上に命を賭して、範を示さなければ万民が納得しないだろう」を聴いて、感銘しない武官は居ないでしょう。

実際、皇甫嵩・朱儁将軍は大泣きしました。」

「実証済みかよ!?まぁ、さもありなんか。」

そりゃそうだわなと納得した。


「それに加えて、そう発言した糜芳殿自身が、傷病兵・遺族を優先して屯田開拓に選抜したり、私財(給料)を投じて、()()()()()()の為に、就業訓練施設や斡旋所を開設したりと、軍人の報国報恩に報いる事を積極的に行っており、尚のこと評判が高まっている状態ですね。」

補足説明をする。


因みに、戦没者の遺児とは、糜芳は治安維持・良化の為に行った、就業訓練施設に放り込んだ、浮浪児の中に含まれ、捨て子だけでなく片親が戦死・病没して、身寄りの無い子供も、浮浪児になることが多かった。


「おいおい・・・片や色街の幇間(ほうかん)擬き兼、チンケな占い師擬き、方や立派な郡太守兼篤志家。

これじゃあ端から聞いたらどっちが、名家生まれの奴か判んねーよ。」

ハァ、情けないと嘆く。


「全くその通りですな。

・・・して糜芳殿の献策、如何なさいますか?」

「聞く迄もないだろう。

立派な名士たる儂が国益にも繋がる事柄を、放って於くわけにいかんだろうが。

ククッ、ハーハッハッハッハ・・・!!」

呵々大笑して了承する何進。


「では、私も何時でも行動に移れる様、準備を整えておきます。

曰わく、「名士は多くを語らない。何故なら語るよりも先に、動いて範を示すからだ」ですからね。」

「・・・いやお前、かぶれ過ぎじゃないか?」

困惑気味に苦言を呈す。


こうして糜芳が、許劭及び許家を潰す為に発案した策謀は、個人同士の諍いから、国家を巻き込んだ騒動へと、発展していくのであった。


                     続く

え~と、王法為本に関しては、調べたのですが私自身の不明でハッキリと理解出来ず、こういう意味合いだろうと、推測して書いてあります。


間違ってたら、御仏の寛容なお心で、優しく諭してくれるか、スルーして頂けたら幸いです。

(合掌・拝礼)


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


優しい評価・感想を、書いて頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 寧ろ獅子座(糜香)の必殺技直撃で生きてると評価が上がる可能性が [一言] 皇甫嵩、朱儁でこれかー、況や韓遂はって未だ話が来てないでしょうけど
[一言] 糜芳「実家に帰りたくないでござる!」 「備忘録」ならぬ「糜芳録」ですか…… お酒を飲む度に、「オレ、なんかやっちゃいました?」になる糜芳殿。 ある意味テンプレですね。 想像以上に大事に…
[良い点] 相変わらずですが、その解釈には目から鱗が落ちる思いです。 次回も楽しみにしてます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ