閑話・平穏無事ってなんだっけ?あふたぁ~
読んでくださっている方達へ。
いいね・感想ありがとうございます!
私個人としても励みになります。
後は誤字脱字報告をして頂き、誠にありがとうございますと共に、御手数をお掛けしてすみません。
遅くなって申し訳ありません。
今回は曹魏の祖にスポットを当てた話です。
あの人は今・・・
糜芳が公開裁判を実施して、郡内の評判を得ていた同時期・・・
蜀漢の祖・ボ○ビーこと劉備が、ジャイ○ン・ス○夫コンビと悲参人現筆頭を連れ、各地でやらかしを繰り返して放浪し、孫呉の祖・ド○ベーこと孫堅は張温撤退後も涼州に残って、反乱軍ホイホイとして格好の囮役に、董卓達涼州軍にこき使われていた頃、曹魏の祖・コ○ンは・・・
豫州沛国譙県曹家別邸
宦官閥元トップであり、曹家先代である曹騰が故郷の譙県に建てた別邸は、洛陽にある本邸よりは豪奢さに劣るが、その分広大な敷地面積を有しており、一昔前に権勢を誇った大宦官・曹騰の、偉容さを現す象徴となっていた。
そんな広大な別邸の持ち主である、現当主・曹嵩は洛陽の本邸で生活している為、普段は家令が管理していたのだが、今は子の曹操が義祖父の喪に服すという事で故郷の別邸に居り、留守居として父から管理一切を委任されているのだが・・・
「「「「「主様此方~、手の鳴る方へ♡」」」」」
「よぉ~し、探すぞ~待て~。」
「「「「「きゃあああぁぁ~♪♪」」」」」
洛陽では厳格な人物として、「鬼曹」と恐れられていた男は、だらしない表情を浮かべて遊び回っていた。
今日も今日とて、多数の遊女を遊廓から屋敷に呼び集めて、目隠しをしながら手の鳴る方にフラフラと寄っていく、鬼ごっこ擬きをして楽しんでいる。
ポスン・・・ガシッ!!
「うえへへへ~、捕まえた~♪
・・・うん?なんかゴツゴツ硬くて、むさくるしさを感じる気がする・・・?」
ペタペタと無遠慮に触り、違和感に首を傾げた。
「・・・主様こちら、手の鳴る方へ。」
捕まえた相手から重低音な野太い声が聞こえ、ポキポキッと指の骨が鳴った瞬間、
バキィィィィイイ!!!
「あ痛ぇぇぇぇええ!!??」
左頬に鋭い痛みと衝撃が走り、たまらずもんどり打って倒れ込んだ曹操。
「なんだなんだ!?あっ、惇じゃねぇか!
貴様ぁ、なにしやがブッ!?」
殴られた拍子に目隠しが解けて、目の前に立っている従兄弟・夏侯惇が犯人と判ると、怒って猛抗議をしようとするも、
「なにしやがるだぁ?操、貴様こそ何してやがる。
義祖父君の喪に服している筈じゃあないのか?
喪中にコレはなんだ?オイ、コラ?」
怒れる夏侯惇から罵倒されつつ、グリグリと顔面を踏みつけられる。
「イタタタぁぁ!?止めんかいおい!!!」
とある姦雄の怒声が、部屋中に響き渡った。
~~しばらくお待ちください~~
「お~いてて・・・。
惇、ちょっとは手加減しろよ!?」
「ふん、喪中に乱痴気騒ぎをしている輩に、手加減などする筈なかろうがたわけ。
我等が父祖の怒りと思え不孝者め。」
濡れた手拭いで患部を冷やしつつ、恨めしげに夏侯惇を睨み付けるが、夏侯惇は意に介さず鼻息を漏らして反論する。
すったもんだとした後、夏侯惇から「ちょっと話がある」と言われた曹操は、遊女とのお楽しみを止めて屋敷内にある、遮蔽物の無い360度視界の開けた東屋に移動していた。
このポツンと建っている東屋は、俗に言う防諜(盗聴)対策として、当時では地位・権力の有る家では極々一般的に建築されていて、周囲が開けている事で周囲に人の有無が容易に確認出来る為、密談等人の耳目を憚る時にちょくちょく利用されている施設であった。
それはさておき、
「んで?わざわざ乱痴気騒ぎを止めに来たっていうなら、叩き出すぞお前。」
「んなわけ無いに決まっておろう。
そっちはついでだついで。」
「ついでで殴られたんかよ、俺・・・で?」
憮然とした表情で呟き、目線で続きを促した。
「先日(曹)洪から聴いたのだが、嵩叔父貴が大司農に叙任されたらしいな?」
「ああ、そうだぞ。」
「・・・その大司農の官位を、売官制を利用し金銭で購ったのも誠なのか?」
「ああ、そうだが?」
「!!操、貴様!?」
悪びれもせず、あっけらかんと答える曹操に、
「売官を買った叔父貴も叔父貴だが、それに何も思わない貴様も貴様だ!恥を知れ痴れ者が!!」
備え付けの卓を激しく叩き、勢い良く立ち上がると指を指して糾弾する。
(相変わらず生真面目というか、正義感が強いというか・・・それはそれで美徳なんだがなぁ。
変に揉めても面倒くさいし、誤解を解いておくか)
内心苦笑いをする。
「?何処が悪いのだ惇?理解出来ん。」
「なっ!?なにぃぃぃい!?」
「まぁ、とりあえず落ち着いて聞け。」
疑問符を浮かべて首を傾げた曹操に、再び激昂しかけた夏侯惇を、手を突きだして制した。
「先ず一つ目、お前が批判している売官制は、主上が定めた天下の御法だぞ?
その御法にキチンと従って納金して得た、官位の何処が悪いのだ惇よ。
寧ろ主上の定めた事を批判するお前の方が、不敬極まりない事だろうが?」
「うぬぬ・・・。」
理路整然と言われ唸る。
「次に二つ目、お前は金銭で購った云々言っておるが、今も前も官位持ちに金銭抜きで就いている者がどれくらい居るのだ?
それ所か名家や宦官共など職権を悪用して、任官出来る官位に値札を付けて、あちこち売り捌いている始末ときている。
それに比べて、なんと親父殿の健全な事よ。」
「ぬう・・・。」
表情から険が取れ、大人しく椅子に座る。
「最後に三つ目、名家・宦官は売り捌いて得た金銭を懐に入れるだけだが、親父殿はキチンと朝廷に納めて国庫を潤わしている。
これらを悪行と詰るのは、早計ではないか惇よ?」
「・・・確かに早合点だった、スマン。」
曹操の話を聞いて冷静になり、謝罪する夏侯惇。
「理解してくれて何よりだ。
お前が勘違いで揉めると、他の夏侯一族も一緒に揉めかねんから、早めに誤解が解けて良かった。」
曹操も安堵した表情になった。
「う~む・・・しかしだな操。
それならそれで、大司農という大任を叔父貴が得たのは何故なのだ?」
「それは無論亡き義祖父を倣って、宦官閥云々抜きに、臣として正しい姿を示す為だ。」
「なんと!?曹騰殿をか?」
曹嵩の心内を知って驚く。
史実として曹騰は、宦官閥元トップとしてはかなりの異色の人物であり、決して高潔ではなかったが、公職に於いては公平であり、例え敵対関係にある名家出身者であっても、身分の低い下役人であっても、「才がある」と観ればその人物を進んで推挙し、同時に援助を惜しまない奇特な人だった。
結果、現在宦官閥軍を率いている大尉・張温(政治家としては優秀)を始め、多数の人物が曹騰の引き立てで世に出る事が叶い、そうした経緯から亡くなった後の葬儀の際には、宦官閥だけでなく敵対関係である、名家閥の人達も弔問に訪れ、恩誼や遺徳を偲んで涙する程であった。
「そうだ。義祖父は派閥だのなんだの関係無く、良き人材を見出して惜しまず、朝廷、引いては国家伸長に力を尽くした。
義祖父こそ正しく臣下の在るべき姿であった。
それを張譲・趙忠共が醜く歪ませ歪ませ、私利私欲に走り腐らせたのだ。
義祖父の時のようにするには、先ず主上から一定の信頼が要るし、賛同者を得て発言力を増すには、それを裏付けて、賛同者の後ろ盾となる地位が要る。
それ故に大枚で大司農の官位を買ったのだ。」
拳を握り締め力説する曹操。
「なんと・・・そんな深慮遠謀が有ったとは。
スマン、本当に叔父貴を見誤っていた。」
夏侯惇も曹操に触発されたのか、拳を握り締め、
ドゴッッ!!
曹操の頭上に拳を振り下ろした。
「ぐおぉぉぉお・・・何をするてめえ!?」
「貴様こそ、何で此処で遊んでいやがる?
叔父貴の大義を理解しているのに、悠長に遊び呆けている場合か?
とっとと洛陽に戻って、叔父貴の手助けをしてやらんかいコラ!」
頭を抱えて悶える曹操を尻目に、拳を握り締めたまま至極真っ当な説教をかます。
「頼むから最後まで聞いてくれませんかね!?
何で他の奴には結構寛容なのに、俺にだけは容赦がないんだよてめえは!?」
「貴様を甘やかすと、禄でもない事を仕出かす事を、がきんちょの頃から理解しているからだよ!
・・・んで?サッサと話せ。」
腕組みをしながら、続きを促す。
「ったく・・・下手に今俺が動くと、親父殿の害になるからだよ。」
「害になる?」
「ああ、俺は今、大将軍・何進率いる軍部=大将軍府に、所属しているのは知っているよな?」
「ああ、お前自身から聞いているが・・・?」
首を傾げつつ、頷く。
「現状俺は趙忠共宦官閥の、軍部に於ける唯一の駒として、何進を介さずに軍部連中との裏の接触や、学閥の同門の袁紹を介して名家閥との情報収集を、任されている身だ。
最も俺の利にならんし、何進にバレたら軍部をつまみ出されるから、適当に誤魔化しているがな。」
「ふむふむ。」
「そして親父殿は趙忠共とはこっそりと距離を置いて、水面下で別勢力の形成中の段階だから、まだまだ形を成しておらん。
そんな状態の折に、俺が「親父殿の手助けだ」と称して騒いでみろ。
事がすぐさま露見して趙忠はともかく、張譲・蹇碩は確実に親父殿を潰しに掛かるだろうし、何進も俺を騒動の種の元として忌避して、大将軍府から追い出すだろうからな。」
現状の自己分析と、夏侯惇の意見を実行した場合のリスクを述べる。
「よしんば勢力形成に成功しても、俺が軍部を追放されていれば、親父殿と何進とを直接取り持つ連絡役が居なくなり、結果趙忠共に頼らざるを得なくなってしまい、独立性が失われてしまう。
つまり今の俺の立場を失うのは、親父殿に取って後々の損害になってしまうのだ。
だから下手に騒がず時節到来を待つのが、現状に於ける良策なんだよ。」
「ふ~む・・・それならば動かぬ方が吉か。
それに叔父貴が勢力拡大すればする程、お前の軍部内の立場も自然と上がるって事か・・・。」
唸りながら理解を示した夏侯惇。
「そう言う事だ。
まぁ、後は軍部に残って軍功を稼いで、実績作りをしておきたいしな。
何せウチ=曹家は俄かの成り上がりだ。
家柄・血筋が無い以上、実績・実力を誇示せねば人が付いてこぬし、上には上がれぬからな。
意地でも将軍位にはなって、軍部に影響力を持って置きたい所だな、将来を考えると。」
「うん?軍功を欲するなら、張温将軍の討伐軍に参加すれば良いのではないか操?」
曹操の話に疑問を挟む。
「馬鹿も休み休み言え惇。
そもそもの所属が違うのもそうだが、あんな「泥船」になんぞ乗ったら、共倒れになるのは確実だぞ?」
手を左右に振って、それは無い無いと答える。
「は?泥船だと?涼州に於ける活躍で、大尉に出世したあの張温将軍がか?」
「ああ、韓遂達反乱軍との初戦で2万近い戦死者を出し、亀の如く長安に籠もって籠城状態で過ごし、反乱軍が物資補給の為に一時撤退したのを、指を咥えて傍観して見過ごしたという大活躍をな。」
「はぁ!?なんだそりゃ!?
活躍処か、完全に敗軍の将ではないかそれは!」
張温率いる宦官閥軍の実状を聞き、憤慨する。
「正しくな。
因みに前任者の皇甫嵩は、反乱軍を撃破して追撃したが、韓遂捕縛に失敗したのを責められて更迭。
張温は手も足も出ずに完敗して、長安に引き籠もって見過ごしたのに大尉に昇進だ・・・摩訶不思議な話だよな?」
「完っ全に報告を捏造しているだろそれ!?
しかし何で1将校のお前でも知っている話を、軍部の何進や名家閥連中は責めないのだ?」
新たな疑問に首を傾げる。
「そう、それなんだよなぁ。
まぁ軍事音痴の文弱共が、マトモに理解していないのは判らんでもない。
唯一軍部に属して知る位置に居る袁紹は、袁家没落と共に今や名家閥連絡用の、何進の使い走りになり果て、隔離され人も離れて目暗状態だしな。」
四世三公の名家の跡取りの、哀しい実態を良い笑顔でディスる。
「しかしだ、間違いなく実態を把握している筈の、何進が糾弾せずに見過ごしたのは何故か、最近まで理解不能だったのだが・・・。」
「が?」
「張温が并州に赴いてから後に届いた、親父殿の宦官閥内の宦官閥軍に関しての、情報が書かれた書簡を読んで、漸く理解出来た。」
「どういう事だったんだ?」
結論を促す夏侯惇。
「何進はどうやら并州の厄介事を、張温というより宦官閥に押し付けるのを画策して、ワザと見逃した節がある。」
「并州の厄介事と言えば、確か盗賊が徒党を組んで暴れている、あの「黒山賊」の事か?」
「ああ、それだそれ。」
コクリと頷く。
「親父殿の情報に依ると、倒しても倒しても賊徒が湧いて出てキリがなく、張温達はジワジワ削られてジリ貧状態に陥って、物資・兵数共に凄い勢いで消耗しているらしい。
まぁ、兵数の方は、脱走が相次いでいるのも一因のようだがな。」
「おいおい、なんともはや・・・黒山賊には道士がいて、殭屍でも生み出してんのか?」
「んなわけ無いだろうが。
黄巾賊に荒らされて流民と化した、隣の冀州辺りの奴等を取り込んでんだろう大方。」
正確にゾンビアタックのカラクリを読む曹操。
「前線は士気がガタ落ちして壊乱寸前、後方は莫大な戦費と多大な犠牲者の山でボロボロ。
涼州で在る筈の無い戦功を糊塗した以上、并州で戦功を挙げねば後が無いのに、この有り様だ。
最早張温の失脚は時間の問題だろう。」
「成る程な、それはどうにもならんな。
寧ろ喪に服していたお蔭で、巻き込まれずに済んだのは僥倖だったか・・・。」
「万事塞翁が馬」かと呟く夏侯惇。
「まぁ、そういう事だ。
しかしそれに引き替え何進はやる事にそつがない。
大将軍府なんぞ張温が并州入りする前から、并州軍の要請を受けて并州入りして、前線を担っていたらしいが、損害はほぼ無いそうだ。」
「はぁ!?どうやって!?それこそ殭屍使いの道士でもいないとおかしいだろが!!」
「いや、お前・・・いい加減そっち系から、思考を離れろよ・・・好きなのか、もしかして?」
オカルト思考的な発言に、半眼で尋ねる。
「違うわ!あくまでも常識的に言えば、そうでもないと説明が付かんだろうが!」
「まぁな、確かに。
実際には死刑囚達重罪人を召集して囚人兵とし、それを運用して使っているそうだ。
上手く考えたものだよな。
凶悪犯と賊徒を噛み合わせて潰し合いをさせて、どっちが死のうが大将軍府は痛くも痒くも無い処か、一石二鳥なのだから。」
頻りに感心する。
「う~む・・・それは確かに凄いが・・・。
普通、凶悪犯なんぞ完全に賊徒側だろう?
戦い合わせる処か、即座に寝返って大将軍府側に損害を与えそうなもんだが・・・どうやったんだ?」
「さあ?其処までは解らん。
しかし両者が相反する様に仕向け、殺し合いをさせる策謀が有ったのは間違いないだろう。」
腕組みして、脳内で考察する。
「因みに趙忠達も何進のやり方を知って、重罪人は何進に押さえられているからと、軽犯罪者や貧民街の住人を無理やり召集して、囚人兵に仕立て上げたらしいが、洛陽を出た途端に集団脱走されて、行方知れずとなって、慌てて引率者に罪を被せて蜥蜴の尻尾切りをして逃げて以降、悉く誰も囚人兵の引率をやりたがらず、沙汰止みになったそうだ。」
「・・・馬鹿なのか?趙忠達って。」
「まごう事なき馬鹿なんだよ。
親父殿がどうにかしてそのクソ馬鹿共と、縁切りしたい気持ちがよく解るだろう?」
溜め息を吐く姦雄さん。
「何進大将軍・・・か。
商人上がりと聞いていたが、かなり優れた器量の持ち主だったのだな。」
「いや、政治的才覚は確かに優れているが、軍事的才覚は全く無いし、完全にド素人だぞ?何進は。
囚人兵等軍事関連の策謀は、参軍総長を務めている側近の荀攸の画策だろうな、十中八九。」
したり顔で自信ありげに話す。
実際はとある悪辣少年の策謀なのだが、事情を知らない曹操は荀攸の策謀と勘違いし、過大な評価をくだしていた。
「荀攸?荀家と言えば、あの荀子の末の?」
「ああ、荀子の末裔のだ。」
「我が家よりも古い家系である、高祖以来の古参名家中の名家ではないか!!
何でそんな名家出身の者が、成り上がりの何進の下に付いているのだ?」
普通に考えれば、有り得ない組み合わせに驚く。
「そりゃ当然、名家過ぎるからだよ。
名家閥前筆頭の袁家や現筆頭になった楊家等は、己の家を「四世三公」だの、「四世大尉」だのと高らかに持ち上げて謳ってはいるが、所詮は後漢=光武帝から後の家に過ぎん。
だから荀家を入れると、年功序列的に自分達が後塵を拝す事となり、自然と筆頭から転落するから、弾き出して敬遠したんだろうな大概。」
「それで政敵に知恵者を献上するとはな・・・。」
呆れた口調で唖然とする。
「まぁ、何はともあれ張温は失脚秒読み、張温に便乗した趙忠と蹇碩は、共に甚大な損失を叩き出して派閥内の支持を失いつつあり、残る張譲は自滅して見る影もなしときている。
親父殿や我々にとっては、これ以上ない好機だ。」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「確かに・・・間隙を突いて勢力形成・拡大の好機ではあるな。
しかしだ、宦官閥内はともかく何進や名家閥連中共が、座して新たな政敵と成りうる叔父貴を、放っておく筈があるまい?
どう対処するのだ操よ。」
不敵な笑みを浮かべる曹操に、問い質す。
「どうもこうもない。
何進からすれば趙忠達の様な腐れ者が、台頭するならば潰しに掛かろうが、親父殿が目指すのは義祖父の様な真っ当かつ公平な派閥だ。
喜びこそすれ、潰しに掛かる事はないな。」
「へ?何故だ?」
政敵が歓迎するという話に、首を傾げる。
「現状何進は、趙忠や楊彪達の尻拭いに奔走し、軍部処か民部にまで関わっている有り様だ。
親父殿が宦官閥の主流になって大人しくなれば、負担が勝手に半分になるのだぞ?
何進に取ってみれば、これ程助かる事はあるまいし、互いに求めているのは「国家の安定と安寧」と、共通点もあるのだ。
理念がほぼ同じ且つ、「同じ成り上がり者」同士だから、手を携えるのに懸念が無い。
我等が手を結ぶとすれば、間違いなく何進とだ。」
「おお、確かに。聞けば聞く程納得出来るな!」
曹操の解説に、大いに頷く夏侯惇。
「それと名家閥の方は、「売官制に因る官職争奪戦」の余波で混乱状態に陥り、自分の所の処理で手一杯で、とても身動きが取れん。
筆頭だった袁隗が高転びに転んで、替わって筆頭になった楊彪は、去年ポックリ逝った父親の楊賜翁の跡を、いい歳(40代)をして継いだばかり。
加えて表立った実績が無いから、求心力も乏しい。
余所に嘴を突っ込む処じゃないのが現状だ。」
いい歳で現役だった老害様々だ、と笑う。
「ふ~む・・・成る程なぁ。
しかしそんな混乱状態なら、袁家復権の動きが有っても、おかしくないのではないか?」
懸念材料を示す。
「無い無い、逆だ逆。」
「逆?」
「袁家の復権なんぞ宦官閥・何進処か、名家閥連中の誰も望んでおらんよ。
寧ろ手を叩いて喜んでいるぐらいだろうな。」
益々笑みを深くして、左右に手を振って否定する。
「は?自派閥の人間もか?」
「ああ、単純に袁家に深い縁の有る奴を、追い落として自分達の出世が出来るのが1つ。
そもそも袁家=袁隗は黄巾賊以来、バカをやらかしまくって名家閥を窮地に追いやり、同じくやらかした宦官閥の張譲と共に何進という、怪物を作ってしまった大戦犯だぞ?
金輪際バカを政治に関わらせない様に、一致団結して排除するのが、自然の理なのが1つだな。」
誰がこんな愚物を担ぐんだよ、と大笑いする。
「し、しかし楊家は袁家と縁戚だろうが?
縁戚を見捨てるのは、外聞が悪かろうに。」
「袁家をバッサリ見捨てる方が、外聞が悪くなるよりも遥かにマシだろうが?
助けた所で共倒れになるのがオチ、百害あって一利もないのだぞ。」
笑いを納め、真顔で諭す姦雄。
「元々袁家と楊家が縁を結んだのは、「宦官閥に対抗し、お互いが背中から刺され無いように」する為の、不戦協定の一環に過ぎん。
対宦官閥で利害が一致したから手を結んだだけで、互いに派閥内に於ける最大の敵だからな。
その敵が失脚して自分の天下になったのに、わざわざ内患を戻す阿呆が何処にいるんだよ?」
「う、ううむ・・・そんなものなのか?」
ドロドロした内容に付いていけないのか、しどろもどろに返事する夏侯惇。
「ウチらみたく、一蓮托生の間柄とは成り立ちも、事情も全く違うのだから、混同するなよ惇。」
「ああ、判った操。」
コクリと頷く。
「それにだ・・・。」
「それに?」
「お前、「董重」なる人物をしっているか?」
「董重?・・・いや、知らんな。誰だ其奴は?」
首を左右に振って、訝しげに尋ねる。
「主上の実母・董太后の甥で、主上の従兄弟に当たる人物なのだが、つい最近に五官中郎将(袁紹の虎憤中郎将と同格)になったのだがな。」
「はぁ!?モロに外戚で従兄弟になる人物が、五官中郎将(皇帝の親衛隊隊長)!?
幾ら何でも役職が低すぎだろうそれは!」
あまりに立場とそぐわない低さに驚く。
「おいおい忘れたのかお前?
主上は先帝陛下の御養子と成って、帝位と帝室を継がれたお方だぞ?」
「あっ!?そうだったそうだった!
じゃあ董重とやらは、外戚でもなんでもない、只の田舎者じゃないか!
なんでそんな奴が、中郎将になんぞになっているんだよ?分不相応にも程があるだろ!?」
先程とは正反対の台詞を述べた。
夏侯惇が両極端な発言をした理由は、「先帝=帝室との繋がりが有るか否か」に依るモノであった。
例えるなら、曹操の父・曹嵩が霊帝とほぼ同じ境遇に当てはまる。
曹嵩は知っての通り夏侯家出身だが、曹騰の養子に入って跡を継いでいる。
当時の常識では曹嵩の父は曹騰であり、普通に曹家の人間としてカウントされ、子の曹操と曹仁は血縁関係は無いが、同族の従兄弟として扱われた。
逆に夏侯家の実父母とは、血縁関係は有るが他人扱いになり、曹操と夏侯惇は事実上の従兄弟だが、世間的には従兄弟には見做されなかった。(但し、幼なじみには違いなく、両家共に兄弟同然だった)
つまりは霊帝の場合も養子に入った以上、父は先帝=桓帝であり、母は先帝の正妻=竇皇太后と見做され、実母の董太后は皇太后としては見做されず、「霊帝と縁の有る女性で、霊帝のお情けで後宮に住んでいる居候」と認識されて、その甥である董重は「居候の紐付き」に過ぎなかったのである。
実際の史実として、霊帝亡き後に董太后は、「分家の嫁の分際で、本家の後宮に居座るとは何事だ」と、何進に洛陽から追放され、挙げ句に「本家の継承問題に嘴を挟んだ不敬者」として、洛陽から出た途端に殺害されたと言われている。
これ、普通に考えれば先帝の母であり、現帝の祖母を追放した上に殺害したという、とんでもない一大スキャンダルなのだが、何進を追い落としたくて仕方がない、宦官閥や名家閥連中でさえ誰一人として、不思議と非難処か一言も言わずに容認しているのである。
それに加えて董太后亡き後、霊帝の実父である夫と一緒に合葬されている事から、皇太后=皇帝の母とは、見做されていなかったのは確実である。
それはさておき、
「んで、その紐野郎がどうしたんだ?」
「紐野郎ってお前・・・。
え~と、元々主上の次子・協皇子を養育している董太后の関係者という事で、最初宦官閥にくっ付いていた、長子・弁皇子の伯父・何進の対抗馬として、名家閥に飼われていたんだが、何進が名家閥に鞍替えした途端、捨てられた奴なんだが・・・。」
「そりゃそうだろう。
今上陛下が御隠れ(死亡)なされたら、縁が切れて無関係になる輩に、わざわざ媚びを売る阿呆は居らんだろうしな。
・・・しかし、紐に飽きたらず皇子殿下にまで寄生しやがるとはな・・・腐れ者めが。」
嫌悪感丸出しで罵る夏侯惇。
「あの~惇さん?落ち着いて聞いてくれる?
その腐れ者なんだけど、今度は蹇碩達宦官閥と手を結んで、何進に対抗しているのだが・・・。」
「節操まで無いのか董重とやらは!?
どう仕様も無い屑だな誠に・・・。」
吐き捨てる様に、怒りを露わにする。
「まぁ、その紐なんだが不思議な事に、全く接点の無かった蹇碩と、どうやってか繋がりを持って、今回の中郎将任官に相成ったのだがな。
そしてもっと不思議な事に、捨てた犬が政敵に飼われて当てつけの様に出世し、名家閥は言わば捨て犬に、小便を引っ掛けられた状態なのに、足を引っ張らず文句も言わずに黙認しているのだ。
面白いだろう?惇。」
苦笑する曹操。
「おいおいまさか・・・蹇碩と楊彪が裏で手を結んでいるって事かそれ!?」
「そうでなければ説明が付かん。
蹇碩・楊彪・董重の三者それぞれの利害関係が、一致する人物と言えば、何進一択だしな。」
「確かにそうだが・・・。」
信じられんといった表情な夏侯惇。
「恐らく蹇碩・楊彪は、董重を刺客に仕立てて何進を始末させた後に、董重と蹇碩・楊彪も始末して、自分が次期皇帝の後見人として、威を振るう腹積もりでいるのだろうな。
そして董重は、蹇碩・楊彪等の企みに乗って何進を始末した後に、どさくさ紛れに蹇碩等を始末して、以下同文と言った所か。」
曹操は顎に手を当てて推理する。
「まぁ、話は袁家の復権に戻すが、楊彪が宦官閥と手を結んでいる可能性が濃厚な以上、袁家と利害が一致しないから、先ず助ける事はしないだろう。
袁家は最早衰亡を待つばかりだ。」
「成る程・・・理解した。」
頷いて瞑目する。
(相変わらず、とんでもない読みをする奴だ此奴は。
ガキの時分から常に思うが・・・此奴には敵わん)
内心舌を巻く夏侯惇。
子供の折りから小柄ながら、曹・夏侯家の同年代グループのリーダーを務めており、思春期には夏侯惇も対抗意識を持って競った事もあったが、純粋な武勇こそ勝てたが他は遠く及ばず、見事に自尊心をへし折られた。
(敵として観れば厄介極まりなく、味方として観ればこの上なく頼もしい。
そして主君として観れば、これ程適材適所に人を使いこなす奴もおるまい。
淵・仁・洪も異口同音に言っている。
我が夏侯家の復興、曹家の隆盛は間違いなく此奴に掛かっている!)
幼少の頃から、度々思っていた事を確信する。
(名士の橋公(江東の2橋の父・橋公とは別人)が、此奴を「治世の能臣、乱世の姦賊」と評したそうだが、知った事ではない。
我等曹・夏侯家は此奴に付き従うのみ!
生まれた時から、仕え甲斐のある者に出会うとは、なんと幸運な事よ!)
カッと目を見開いて、未来の主君を見て、
バキィィィイ!!
「あでぇぇえ!?」
人が瞑目している間、変顔をしておちょくっていたのでシバき倒す。
(このお調子者と、度の過ぎたスケベさえなければ、もっと仕え甲斐があるんだがな~・・・ハァ)
天は悪い意味でも二物を与えるなぁと、のたうち回る馬鹿を見ながら、知らず知らず溜め息を洩らす夏侯惇であった。
閑話・終
え~と、今回の閑話は、個人的解釈が結構入っております。
悪しからずご了承くださいませ。
許子将が曹操を評した有名な言葉、「治世の能臣、乱世の姦雄」は、元々橋玄という後漢を代表する文武両道の名臣が、「治世の能臣、乱世の姦賊」と評したのを、オマージュしたものらしいです(多分)。
長々とすみません。
楽しんで読んでくださったら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




