加速する内憂と内情・・・その1
今作を読んでくださっている方々へ
何時も今作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
優しい評価に感謝を・・・。
この投稿が今年最後になります。
遅筆で申し訳ありませんが、来年も宜しくお願い致します。
糜董邸居間
慌ただしい1年があっと言う間に過ぎ、187年の正月を迎えた糜芳は、地元の朐県に帰省して新年の挨拶をすべく実家に赴いたら、
「は、初めまして芳兄様。
ワ、わ、私は妹の燐と申します!宜しくお見知り置きくだちゃいませ!あぅ・・・間違えました。」
小学生になるかならないぐらいの、自称妹と名乗る可愛らしい女の子から、噛んでドモリ気味の挨拶をされたのであった。
「はぁ、此方こそ宜しく。
え~と?父上まさか・・・隠し子ですか?」
ボウフラの如く、いきなり湧いて出た妹の出現に、戸惑いつつも父・糜董にじと~と目線を送る。
ガタタッ×2
「ち、ちょっと芳!?新年早々何言ってんの!?
香さん違う!何回も説明してるでしょ?違うから!
この阿燐は私の妹の子、妹の子=姪だよ!
だからね、ね?落ち着いてくれるかな?」
「・・・・・・。」
まるで熊虎を宥めるが如く、脂汗を流しながらドウドウと糜香を宥めるが、糜香からは疑念の視線が注がれていた。
「父上に妹なんていたのですか?初耳ですけど?
てっきり一人っ子だとばかり・・・。」
「うん、いやまぁ、あんまり人に言うことじゃあないんだけど・・・私と妹は腹違いでね。」
バツの悪そうな表情をしながら、
「先代の父上=芳の祖父は妹を認知したけども、同居は母様が悋気を起こして反対してね、その為結局私達とは別々の生活を、妹とその母君は送る事になっちゃったんだ。
公然の秘密扱いだったから芳達や香が、私の異母妹の事を知らないのは当然なんだけど。」
古株の使用人しか知らず口を閉ざしていた事情を、ざっくりとだが糜芳達に説明をする。
「父上亡き後に妹が適齢期になったんで、私が後見人になって余所に嫁がせていたんだけど、妹と旦那さんが流行病で亡くなってしまってねぇ。
嫁ぎ先の方も親族が家督を継ぐ事になったんで、阿燐は此方に送り返された訳さ・・・。」
「???」
幼少故に自分の置かれた環境と、事情を理解していない姪の燐に、糜董は頭を撫でながら、同情と慈しみの視線を送る。
「まぁ、そう言う訳でさ、こう言っちゃあなんだけど、ウチには女の子がいないし、養女に迎え入れて娘として育てようと思ってね。
芳も妹として可愛がってあげて欲しい。」
宜しくお願いと目線で訴える。
「成る程・・・事情は解りましたし、父上には大変失礼を致しましたご容赦を。
よくよく考えたら父上が母上に隠し事する、必要性も勇気も度胸もないですしね。」
「うん・・・ものっそい(物凄く)失礼だよ芳!?
私だって香に言っていない事ぐらい1つ・「へえ?旦那様是非ともお聞かせ願えますか?」
さり気なくディスってくる糜芳の言葉に、憤慨して何かを言い掛けた途端、素敵な笑顔を浮かべた糜香に肩を掴まれて、みるみる顔面蒼白となった。
(成る程ね~・・・道理でボ○ビーの側室になる筈の、糜夫人が身近にいなかった訳だ。
異母妹でも実妹でもなく、実際には従兄妹で義妹だったてか。
まぁ、この時代の従兄妹は兄妹同然の扱いだったから、妹と表記されても不思議じゃないけどね)
バタバタと珍妙な体操の如く、身振り手振りをして狼狽えている糜董を横目に、転生当初からの疑問が解決して納得した糜芳。
糜夫人・・・キングボ○ビーに関わって不幸な人生を歩んだ、正妻の甘夫人・後妻の孫夫人と並ぶ悲惨夫人の1人で、筆頭格な人物である。
後妻の孫夫人・通称孫尚香は、孫家と劉家との同盟関係強化の一環で鳴り物入りで嫁いだが、両家の荊州南部に於ける領土問題悪化に伴い、ヤリ逃げ状態で強制的に離縁されて、喪女となった悲運の女性だが、3人の中でこれでもまだ1番マシであった。
ボ○ビー被害者次席・甘夫人は糜夫人と同じく、各地を転々と流浪した上に、個人的危機回避能力だけは超一流の旦那に因って、置いてけぼりにされて敵対者に捕らわれ、捕虜になること一度ならず二度以上に及び、甘夫人・糜夫人達は、ボ○ビーに見捨てられた事に深~い同情と哀れみを受けて、寧ろ敵対者に依ってボ○ビーが両夫人に対する扱いよりも、余程丁重に扱われる始末だった。
そんな恵まれた捕虜生活(?)を経て、ボ○ビーと共に荊州に流れ着いた甘夫人は、跡継ぎの劉禅を産んだ後体調を崩し、荊州攻略に大軍で襲来した、曹操との長阪追防戦は生き延びたが、赤壁後に死去。
皇后に成る筈の甘夫人は、ただただ旦那の好き勝手に振り回されて、幸薄い人生を終えたのである。
そして筆頭の糜夫人こと糜燐は、糜竺の推薦でボ○ビーの奉公に上がり、側室=第2夫人となる。
当然の如く第1夫人で同年代の甘夫人と共に、ボ○ビーに振り回されて各地を流浪し、正史に於ける最期は長阪追防戦に於いて生死不明となり、恐らく高確率で死亡している。
一般的に長阪追防戦は、趙雲が単騎駆けして無双した場面にいきがちだが、趙雲が無双している最中に、非武装・非力な女性が戦場という、正しく生き地獄を彷徨っていたのである。
想像を絶する苦難だった事だろう。
三国志演義をご存知の方々なら、当たり前に知っている事だが、演義では運良く趙雲に発見された折りに劉禅を託すと、「足手纏いになりたくない」と井戸に投身自殺をするという、非業の死を遂げるのであった。
これだけでも大概たが、非業の死を遂げてまで助けたのが、後世に於いて「三国一のドラ息子orバ○坊」と酷評された劉禅だった事で、三国志演義に於いてというか三国一処か、フツーに中国史上最もぶっちぎりで救い様が無く、報われ無い死を遂げた悲惨な人物だった。
因みに史実に於ける糜燐の非惨な死が、本来の糜芳に影響を与えて、呉に寝返った遠因になったのでは?と糜芳は疑っている。
直接的な原因は、クソ髭関ジャイこと関羽の、理不尽且つ身勝手な行動と要求が事の発端だった。
劉備が配下の張飛・趙雲・諸葛亮の活躍で益州を攻略後、碌な功績を立てていない事に焦ったのか、突然関羽は魏領だった北荊州攻略を計画する。
当然同僚兼与力の糜芳達は、「未だ殿(劉備)が益州を得て幾許もたって居らず、他に兵力を回す余裕も無く、後詰めも得れない状況で兵を起こすのは危険すぎる!」と反対をしたが無視し、主君の劉備にも事後承諾且つ独断で兵を起こして、魏の領土だった荊州の州都・襄陽に侵攻。
不意を突いた形で攻め込み、元々政治機能を重視していて、防衛機能に乏しかった襄陽を攻略する。
襄陽を陥落させた事で調子に乗って益々傲慢になり、「呉の備えが手薄になって危険だ!」と自分の行動にケチを付ける糜芳達を、糜芳の部下が失火をやらかした事を、責めつつ怒鳴り散らして黙らせ、後方の対呉に備えていた兵力をも、目一杯引き連れて意気揚々と北上した。
北荊州随一の堅城・樊城を包囲して、曹魏の勇将・龐徳を討ち取り、古参の将・于禁を捕虜としたまでは良かったが、後背を孫呉の呂蒙に突かれ、前方は曹魏の曹仁と対峙していた為、前後を挟まれて逆包囲されてしまう。
一転して想定外の窮地に陥り(関ジャイ視点では。糜芳達は初期段階で指摘している)、自分の思い通りにならない事に得意の逆ギレを起こし、関ジャイに引き抜かれたギリギリの兵力で、呉の突然の侵攻に必死に対処していた、後方の糜芳達に向けて、
「貴様等後方は一体何をしていたんだ!?サッサとこっちに援軍を寄越せ!期日までに兵を送らないと厳罰に処するぞ!!」
理不尽な伝令を送りつけた。
自身の油断と傲慢な思考、周囲の意見を無視した事が原因なのに、忠告・警告した糜芳達の所為にして責任転嫁、自己中且つ無責任極まりない暴言を吐いたのだった。
それに加えて、長阪追防戦に於いて兄妹に等しい糜燐が、緊急避難的要素が有るにせよ、捨て殺しの見殺しにされた身内からすれば、劉備に対して隔意を抱き忠誠心に影が差していても、なんら不思議ではない。
トドメにボ○ビーは、兄弟分のジャ○アン・ス○夫を露骨に依怙贔屓するという、最悪の悪癖があり、幾ら関ジャイに非があって自身の潔白を弁明しても、聞き入れられない可能性が高かった。
(劉備の養子・劉封が魏軍と対峙していて、関羽を救援する余裕が本当になかったのに、弁明が聞き入れられずに処刑された実例有り)
まぁ、それ以前に関ジャイに依って、自分の失態・失敗を誤魔化す為に、同僚達と共に一切合切の責任を押し付けられた上で、「死人に口無し」で処刑されるのが確実であったが。
その為、関ジャイの思考回路をイヤと言うほど熟知していた、同僚の士仁(一般的には傅士仁で知られているが、士仁が正式な名前)は、「クソ髭の我が儘で犬死になんぞ、真っ平御免だ!」と呉の投降勧告にあっさり応じ、「このままだと理不尽にクソ髭に殺されて、犬死になるぞ!」と同じ境遇に陥った糜芳を、進んで説得したのである。
この時点で糜芳には、大きく3つの選択肢が有ったと考えられる。
1つ目は関羽の要求に応えて、防衛拠点を放棄してでも兵を率いて、救援に向かう。
→前述の通り、関ジャイに汚名を着せられた挙げ句、責任も押し付けられて処刑される。
2つ目は関羽の要求も、士仁の説得も聞き入れず、拠点防衛に専念し、急ぎ劉備に事の次第を通報、身内を捨て殺しにした主君の救援を待つ。
→本隊の救援が間に合った場合は、高確率で関ジャイ救援が優先され、見殺しにされる可能性大で、死んだ後に関ジャイに汚名を着せられる。
もし万一なんとか生き延びても、1つ目と同ルートを辿る事になる。
間に合わなかった場合は、劉封と同ルートを辿る。
3つ目は史実通り理不尽なクソ髭と、糜燐を捨て殺し見殺しにしたクサレ主君を見限り、士仁の説得に応じて呉に寝返る。
→「裏切り者」の汚名は被ってしまうが、生き長らえる事が出来る。
以上の3つである。
1つ目は、関ジャイの性格上自尊心が異常に高く、まず自分の過ちやミスを認められないタイプなので、「後背を呂蒙に突かれたのは、後方の責任」と、自身が後方の兵力を手薄にして、誘発した事態を責任転嫁するのは確実で、犬死に確定。
2つ目は、身内を捨て殺しにした主君を、其処まで信頼出来るのか?と言われれば微妙だし、尚且つ糜燐が死亡した事で縁戚関係が消失しており、弁明の口添えも得られず(兄・糜竺は文官なので軍務は論外)、劉封の如くどう転んでも助かる余地なしで、「関羽見殺し」or「関羽に因る責任転嫁」の汚名を着せられ、これまた犬死に。
3つ目は、孫権というほぼ面識の無い人物に、降伏した途端に殺されるリスクはあるが、1・2と違って確実に処刑ではなく、生き延びれる可能性があり、同時に1・2と同じく「汚名を被る」のは変わらない。
・・・コレ選択の余地ある?と言った感じの、選択の余地が全く無い、クソッタレな3択であった。
ほぼ100%の人が選ぶ選択を、本来の糜芳も当たり前に選んだに過ぎず、後の夷陵戦に於いて、孤立してやむを得ず魏に投降した、蜀漢の将・黄権以上に厳しい条件だった。
(いや、これってフツーに同情出来るんだけど?
そんな状況で関ジャイを見限ったからって、本来の糜芳を責められる奴いんの?
誰だってそうするだろうし、関羽を依怙贔屓にするにも程があんだろうがコレは!?)
つくづく思う糜芳であった。
それはさておき、
(この子がボ○ビー被害者筆頭になって、救われず報われない死を遂げる、糜夫人になるのか・・・)
糜香が淡々と糜董を詰め、悲鳴混じりに弁明している糜董を尻目に(どうやら虚勢を張った模様)、夫婦喧嘩勃発にオロオロして、半泣き状態で「芳兄様・・・」と袖をクイっと引っ張って助けを求める愛らしい糜燐を、じ~とじっくり観察する。
「・・・あの、芳兄様?」
上目遣いで見詰める、可愛い糜燐にハートブレイクされた糜芳は、ヒョイとお姫様抱っこすると、
「さぁ阿燐、此処は危険だし目の毒だ。
とっととウチに帰って、兄様と楽しく面白可笑しく過ごそうな!」
ニコッと爽やかな笑みを浮かべつつ、ムーンウォークばりにジリジリと後退して、2人に悟られぬ様、部屋を出ようとする。
「いえ、あのそうじゃなくて・・・。」
糜燐がお姫様抱っこ状態で呟いていると、
ガシッ!
「ちょおっとお待ちなさい?阿燐を何処に連れて行くつもりかしら芳?」
糜香が糜董に体を向けたまま、手だけで糜芳の頭を鷲掴みして牽制する。
「いえ、阿燐の教育衛生上見せては駄目だと判断し、ウチで引き取って、大事に育てようかと思いまし痛ぇぇぇええ!?」
「あら、アンタ私達では真っ当に、阿燐を育てられないって言っているのかしらねえ?・・・阿芳、シバかれたいの?」
ギリギリとアイアンクローを喰らう。
「イタタタ!ちょっと、ちょっと!?
あのお母様とっくにやってますよ!?現在進行形で僕にしているコレは何!?」
「やぁねぇ、聞き分けのない子に対する愛よ愛♡
・・・四の五言わずに、阿燐を離しなさい。」
ニッコリ微笑んで力を込める、鬼子母神。
文字通り糜香の圧(握)力に敗れた糜芳は、渋々ゆっくり糜燐を解放して従う。
「幼子の前で揉め事を見せるのは、宜しくないですから、別室に連れて行くつもりだったのに・・・。」
「嘘おっしゃい。
アンタあからさまに、自分の家に連れ出す気満々だったでしょうが。」
呻く糜芳を、ジト目で睨み付ける。
「うう、何はともあれ落ち着いた様で何よりです。
あの~父上、阿燐はウチ=糜芳糜家の者として、養子というより養妹縁組みをしませんか?」
こんな可愛らしい子を、クソボ○ビーの犠牲者にしてたまるか!とばかりに、鬼○母○のシバきにもめげず激痛を堪えつつ提案する。
「いや、幾ら何でもそれは・・・つい最近養女に迎え入れた所なのに、直ぐに芳の家に送り出しましたは、ウチの面子と体裁が悪過ぎるよ。
下手しなくても阿燐がたらい回しにされたと、周囲に観られ兼ねないし・・・。
却って阿燐の評判が悪くなる選択肢は、流石に了承しかねるよ。」
眉を八の字にしながら、やんわり却下する糜董。
「まぁ、そうですね・・・確かに。
それならば、阿燐が余所に嫁ぐ時には、改めてウチから嫁ぐ様にしませんか?
父上には申し訳ないのですが、ウチから嫁がせた方が箔付けになりますし、嫁ぎ先の選択肢が増える事にも繋がりますし。」
必死に食い下がる糜芳。
「う~ん、それなら有りかな?
しかし意外だったけど、芳がそんなに初対面の阿燐の事を、大事に考えてくれるなんてねぇ。」
「いやまぁそりゃ・・・ご両親が不意に亡くなって、降って湧いた不幸に見舞われているのですから、同情ぐらいはしますし、ご両親の分も幸せになって欲しいと思いまして。」
まさか前世の記憶で、糜燐が悲惨な最期を遂げます!とは言えないので、適当に誤魔化した。
「芳・・・君にも人情がちゃんと有ったんだねぇ。
前に平気で人を陥れる、外道詰問状なんかを思い付いたり、それを躊躇なく実行する容赦ない行動を目の当たりにしてたからさ、芳って人の心が無いんじゃないかと心配してたんだよ・・・。
良かった、本当に良かった・・・。」
ジ~ンと感動した面持ちで、天然で糜芳に負けないレベルの発言をしつつ、目頭を押さえる。
「・・・お褒め頂きありがとうございますぅ。
では父上、阿燐の嫁入り前には僕に一報して頂き、僕にも婿候補の選定に、決定権をお許し頂きたく。」
「う~ん、そうだね。
逆に芳の方からも、婿候補を連れて来る可能性も有るだろうから、その場合は私に通達して貰い、私と芳の選定が一致したら、糜芳家から阿燐を嫁がせる様にしよう。」
糜芳の意見に頷いて、条件を付け加えた。
「了解しました。
では一応書簡に記して、念書を交わしましょうか。」
「うん?念書かい?」
「ええ、阿燐の嫁入りは当分先でしょうし、申し上げ難いですが、父上に万一があって兄上の代になった場合に、有った無かったで揉めたくないので。」
予防線を張っておきたいと主張する。
「成る程、確かに無きにしもあらずだね。
分かった。後々の為にも念書を書いておこう。
只、この話は竺も無関係ではないから、私の方から竺に伝えておくから。」
「ええ、宜しくお願いします。」
主張を受け入れて糜董は新の竹簡に、念書の内容を記し始めた。
(よっしゃあ!これで阿燐が竺兄の都合で、一方的にボ○ビーに差し出されずに済むぞ!
時系列的に、あんま考えたくねーけど最悪ポックリ逝ってるか、良くても隠居してるみたいだしな。
とりあえずボ○ビー対策は完了、と・・・)
内心でガッツポーズをする。
このまま座して見ていれば、糜燐の生き地獄ルートが確定だったが、この念書に依って離籍して表面上無関係になっている、糜芳も糜燐の将来について口を挟む事が可能になった。
当然間違っても、ボ○ビーに嫁がせる積もりは毛頭無いので、自然ボ○ビールートから外す事に成功し、尚且つ糜燐の親権(?)も養女縁組みすれば、糜董・糜竺ではなく糜芳にスライドするので、後々の災いも防げる、一石二鳥な策謀付きの念書である。
こうして2通の念書に署名して、糜燐の将来が悲惨な事にならない様に、成功した糜芳であった。
「いや~それにしても、阿燐は可愛いですね~。」
「ホントにね~、ウチには男の子しか居なかったから、余計にそう感じるのかな?」
糜香の膝の上に乗って、キャッキャッと天真爛漫に笑う糜燐を観て、目尻を下げて微笑む義父と義兄。
(う~ん、なんか阿燐の可愛らしさを、より引き立てるモノがないかな~・・・あ!アレとかどうかな?
とりあえず母上に、この時代のセンス的にイケるか確認してみるか・・・)
ポンッと手を打って、控えている使用人・田観=通称ミタさんに、手頃なサイズの木炭と白布を張り付けた板を持って来させる。
シュバババ・・・カリカリ・・・
素早くスケッチを描き始めた。
「??芳、貴方なにしてるの?」
「??」
「こうして・・・ああして・・・ヨシ、出来た!
母上!コレを観てください!お願いします!」
首を傾げて訝しむ糜香達をよそに、バッとスケッチを渡して見せた。
「え?ああ、ハイハイ・・・こ、これは!?」
「どうですかね?それイケェェェ!?」
恐る恐る感想を求めた瞬間、胸倉をグイグイ糜香に引っ張られて上に、ガックンガックン揺さぶられ、締められた鶏のような悲鳴を上げる。
「でかしたわ芳!初めて貴方を天才だと感じたわ。
こんな素晴らしいモノを思い付くなんて!・・・コレを阿燐が・・・はわ~。」
想像してウットリとした表情を浮かべる。
「オゲェェェ!?判りましたから離してぇぇ!?
ま、間違っても褒めてる人にィ、やる所業じゃありませんよねぇ!?ばばヴベェェ!?」
「アンだって!?誰が婆じゃコラ!!」
高速で糜芳を揺さぶりながら。
数週間後・・・
糜董邸大広間
糜芳がデザインしたモノを、全商会の娘・全明が実質経営者であり、戦死した軍部の妻女で主に構成されている、「虎子商会」の縫製部門に依頼し、出来上がったと連絡が来たので、郡治所から速攻で馬(車)を飛ばして朐県に帰郷した糜芳。
因みに構成メンバーに反比例して、結構ゴツい名前の商会名の由来は、蔡琰と全明が商会名の命名に悩み、糜芳に相談して来たので、なんとなくテキトーに話した、前世に於ける孤児から起業して、一代で会社を世界レベルのトップメーカーに押し上げた、とある某経営者から由来して名付けられている。
それはさておき、
ザワザワ・・・キャッキャッ・・・
糜董邸の大広間には、普段は宴会場として男が多い空間なのだが、今は多数の妻女=虎子商会のスタッフ達と全明・蔡琰が椅子に座って、四方山話に話を咲かせており、当主の糜董とデザインを手掛けた糜芳の2人のみが、男の出席者として隅っこの方で隔離状態で席を用意され、居心地悪げに座っている。
「芳、すんごく居心地悪いんだけど・・・私、これでも当主で家の主なんだけどな~・・・。」
「いやそれ僕に言われても・・・母上に仰ってくださいよ、そういう愚痴は・・・。
どうなっても僕は知りませんけども。」
「・・・うん、止めとく。虎穴に入ってお墓に入りたく無い。」
ガックリとうなだれ、真の支配者に屈する糜董。
(母上もこんな大袈裟にせんでも・・・)
自分だけ愛でたかったのに、と内心愚痴る。
やがて糜香が出来損ないのお化けの様な、大きい白い布を被った糜燐と思しき、ちんまい人物を伴って部屋に入って来た。
「皆お待たせ、さぁ御披露目するわ・・・阿燐。」
満を持してガバッと布を取っ払う。
「は、はい、み、みなみ皆様初めまして!
糜家当主・糜董がい、一女・糜燐ともも申します!
以後よ、よろ宜しくお願いしますぅ!」
緊張で赤面してドモリつつ、ひよこの顔を模したフードを被り、黄色に染色されたモコモコな服=着ぐるみ擬きを着た糜燐が、ペコリと挨拶をする。
シ~ンと静まり返っていた次の瞬間、
「「「「「きゃあああぁぁぁ!?うっそっっ!?信じらんない!?かわいいぃぃい♡」」」」」
ソプラノボイスな悲鳴の様な嬌声が上がり、目を♡にして糜燐に駆け寄り、周囲を取り囲んで揉みくちゃに愛でる妻女達。
(むぉぉぉ・・・耳がぁ、耳がキーンとするぅ!)
別の意味で悶える糜芳と糜董。
「う~ん・・・可愛らしいねぇ。
よくあんな愛くるしい衣装を思い付いたものだよ。」
「はぁ、ありがとうございます。」
耳鳴りが収まった糜董が、遠目から観て目尻を下げ、糜芳は適当に返事をする。
(糜燐が元々可愛いとは言え、こんなにも大反響があるとは・・・マジで驚いたわ)
想定以上の好反応に、可愛いは正義だな~と実感した兄バカ。
ひよこスーツ(?)のお尻部分は、尻尾を模して横長に伸びており、ひょこひょこ歩く度にお尻の動きに連動して、フリフリと左右に振れる仕様となっていて、糜燐が歩いて実演すると、益々可愛いコールが大広間に響き渡った。
大勢のお姉さん方に褒められて、「えへへ・・・」とはにかんだ笑顔を浮かべる、マイ天使を観て、
(うんうん、可愛いよ阿燐・・・!
この兄様が阿燐に集る害虫G共を、あらゆる手段を使って始末するからね。
もし万一にもゴッドボ○ビーが寄って来ても、歴史改変になろうともピー(殺)るから、安心してね。
君は幸せになるべき子なんだから)
どこぞの魔除けの斧を渡した親バカの如く、この地に舞い降りた、純真無垢なマイ天使を護る決意を固めた兄バカなのであった。
因みに糜燐のひよこスーツの、魔力に魅入られた糜香が、自慢気に市場などの人目の多い場所に、ひよこ糜燐を連れ出して見せびらかした結果、大勢の婦女の注目を集めて騒ぎになった。
「この服は何処で手に入れたのか?」と尋ねられた糜香は、抜け目無く製造元の「虎子商会」の名前を宣伝し、同時に商会の成り立ちも添えて説明した為、婦女を中心にあっという間に、共感・同情・賛同といった様々な感情と共に、名が広がったのであった。
ついでに、糜燐のひよこスーツ姿を観て、「自分の(孫)娘にも着させて、愛でたい!」と、親バカ・爺婆バカが急発生して、製作元の虎子商会に製作依頼が殺到、ひよこスーツ製作に忙殺される事となり、思っても観なかったひょんなきっかけで、幸先の良いスタートを切ったのであった。
因みの因みに、母・糜香から「もっと他にも可愛らしい、衣装のデザインを描きなさい?芳、貴方解っているわよね?」といった内容の竹簡が、度々届く様になり、竹簡越しに滅○の波動が伝わって、頭を抱える事となるのは余談である。
続く
え~と、糜夫人こと糜燐の登場回になっております。
関ジャイの性格と糜芳の因果関係に関しては、個人的な解釈になっておりますので、あしからず。
いや~、今回で丁度糜燐を登場させようと思っていたら、感想を書いてくださった方から、ピッタシに糜燐の事に関しての意見を頂戴して、「え?なんで?エスパーな方なの?」とホンマにビビってもうたです。
エスパーなご感想ありがとうございます。
今年は皆様方には私の作品を読んでくださって、誠にありがとうございました。
少しでも笑って楽しんで読んで頂けたら、何よりの喜びにございます。
良いお年を過ごされます様に・・・。
あ、え~と、優しい評価もお願いしますね。




