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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
61/111

その9

読んでくださっている方々へ


いつも読んで頂き誠にありがとうございます!


連勤が続いて書ける時間が無く、遅くなって申し訳ありません。


ちょっと全体が長くなってしまったので、キリの良い所で分けて、前後編になっています。


悪しからずご了承くださいませ。


        186年9月并州


6月には并州に入った太尉・張温率いる宦官閥軍が、意気揚々と黒山賊討伐を開始するも、賊徒から倒しても倒しても湧いてくる、ゾンビアタックを延々と喰らい続け、3ヶ月で泥沼の消耗戦により物心共に疲弊、前線では将兵の士気はドンドン落ちていき、脱走兵が相次いでいた。


司令官の張温を始めとする司令部は、なんとか士気を維持しようと躍起になるも、元々「簡単手軽に手柄を立てれて出世出来る」という、軽率且つ皮算用で参加している軽薄者が多く、目に見える利益が無い事と、終わりの見えない戦闘に嫌気が差しており、功を成さなかった。


太尉兼驃騎将軍である張温が并州にやって来た事で、黒山賊討伐の指揮権が張温に移り、自動的に最前線から外された形になった、張遼達軍部から派遣された義勇軍組と地元并州軍は、表向きは如何にも口惜しそうにしながらも、内心は「どうぞどうぞ」と某鳥クラブの如く大喜びで譲って戦線離脱し、ニヤリとほくそ笑んだ。


張温がゾンビアタックを喰らっている間、并州軍は城砦防衛に専念し、張遼達義勇軍は直属の志願兵=囚人兵を2つに分け、1組は并州内で黒山賊に便乗・合流を目論む、賊徒の討伐と脱走兵狩りを行って治安維持に努め、1組は労役に廻して、各城砦の改修(補修)・増改築を行い強化し、()()()()()()()()()()()()()()()


そして後方支援を担っている、軍部トップの何進と宦官閥トップの趙忠もまた明暗が分かれ、予め補給路を確保していた軍部は円滑に流れ作業で行い、張遼達義勇軍が捕らえて護送された、脱走した宦官閥軍の将兵達を、「敵前逃亡罪」で本人は処刑して、連座で脱走将兵の親族・身内を失脚に追い込み、ドンドン宦官閥でも特に十常侍周りの勢力減衰に成功。


放って置いても自動的に自分から墓穴を掘って、自滅ネタを提供する(さま)に、笑いが止まらなかった。


一方宦官閥トップの趙忠は、補給路の確保に四苦八苦し、尚且つ苦労して確保した補給物資を、補給担当者が横領・中抜きを自勢力でさえ行った為、前線では常に物資不足に陥り、(なお)のこと脱走を促す悪循環を形成してしまっていた。


それに加えて軍部に依る脱走将兵の連座問責がダイレクトに影響し、人材がドンドン失脚して慢性的な人材不足に陥り、後方支援もままならずといった体となる。


又、涼州からの失態続きにより不満が噴出し、支持力の低下に依る派閥勢力の離反を招き、遅れじと便乗した蹇碩(けんせき)と共に支持基盤が沈下。


宦官閥主流だった張譲・趙忠・蹇碩の3頭の影響力が色()せ始めて、非主流勢力に離反した者達が流れた結果、主流・非主流の力関係が拮抗してドングリの背比べとなり、お互いが主流奪取・防衛に紛糾して、徐々に纏まりを失っていったのであった。



       東海郡郡治所太守執務室


暑い日々から少しずつ涼しさが増していく中で、此処郡治所ではいつになく緊張と熱気に包まれ、郡役人達はほぼ全員集まっていた。


何故なら糜芳の要請に依り、州から監査が訪れているからである。


「監査官殿・・・にございます。」

「ふむ、承知しました。」

属官(部下)が幾日かに依る、監査結果の最終報告を耳打ちし、要請に依って監査官に抜擢された実兄の糜竺が、言葉は丁寧だが表情は(いか)めしく頷く。


「では、東海郡の者達に申し渡します。」

「「「「「はは!」」」」」

一斉に郡役人達が拱手して頭を下げる。


「監査の結果・・・・・・。」

「「「「「・・・ゴクリ・・・。」」」」」

特に経理担当者は前のめり気味に固唾を飲んで、糜竺の紡ぐ言葉に耳を傾ける。


「結果・・・・・・些少の誤りはあれど、問題無しであります。ご苦労様でした!」

「「「「「ははぁ!!や、やった!良かった!!」」」」」

一昔前のクイズ番組の司会者の如く、溜めを作って申し渡した内容に、安堵と歓喜の声を上げた。


郡役人達が監査結果に、それぞれ万歳する者・拳を握り締める者等、喜びの表現をしていると、


「糜竺監査官殿及び州の方々、お勤め誠にご苦労様にございます。

ささやかながら、慰労の宴席を設けております。

金敦・尹旋、属官殿達の案内を・・・。

糜竺殿はちと宴会の前に茶でも一服如何か?」

糜竺の横に控えていた糜芳が、拱手して州役人達に慰労の宴会を勧め、個別に糜竺を呼び止める。


「おお、これはこれは(かたじけな)い。

遠慮なく馳走になりましょう。

皆の者は案内に従って、先に行っておいてくれ。」

「貴君等も、案内人と私に留まる様に言った者以外は、通常勤務に戻る様に。」

「「「「「はは!承知しました!」」」」」

上司の糜竺と糜芳の言に従い、属官達と殆どの郡役人達は執務室から退出する。


そうして限られた人だけになると、


「ふぅ・・・いやぁ何年お役目に就いても、慣れていない役職は緊張するね~。」

今までの厳めしい表情を崩し、見慣れた何時もの柔和な素顔に戻った糜竺。


「いえ、あの~糜竺殿?」

(かしこ)まった言動はもう良いだろう芳?

私の役目は先程終わったのだから、これからは私人として、兄として接して貰えないだろうか。」

「は、失礼しました兄上。

しかしながら兄上、普段を知っている僕からしたら、違和感が半端ないですね~。」

糜竺の要望に応えて昔からの態度に戻り、手を前後にヒラヒラさせて茶化す糜芳。


「ははは、残念ながら私は役職に成りきる事は駄目で、役者には向いてないようだね。

それに引き換え君は、その歳で上手く郡太守を務めている事に、喜ぶべきか驚くべきか悩ましいよ。」

驚喜(きょうき)と言うか、苦笑いで糜芳を評すると、


「あ、そうそう、州軍部の曹豹様と民部の鄭玄様からの言伝(ことづて)でね、君の報告書が簡潔で読み易いから、これからも今のままで宜しくと言っておられたよ。」

伝言を伝えた。


「お~そうですか、喜んで貰えて何よりです。」

「うん、そうだね。後は・・・・・・。」

「あ、それでしたら此方も・・・・・・。」

約半年振りに会って近況を話し合う。


そうして近況をお互いに確かめた後、


「さて四方山(よもやま)話(雑談)もこれぐらいにして・・・。

芳、わざわざ私を監査官にするように、鄭玄様に要望したのは聴いているのだけど、何か私に尋ねたい事か頼み事が有るんじゃないのかい?」

糜芳がそうした意図を窺う。


「はい、正しくその通りです兄上。

お互いに職務に追われ、気軽に会う事もままなりませんので、無理を言ってお願いした次第です。」

「成る程、やっぱりね。それで用件は?」

フム、と腕を組んで聞く姿勢になる。


「はっ、屯田の進捗状況の確認と、屯田に関しての人材の推挙をしたく。

こればかりは書面では流石に不味いと思い、ご足労を願った次第です。

・・・後ちょっと帰り掛けに、実家に立ち寄って貰って母上に会って頂くと、非常に幸いです。」

真面目な話をしつつ、蔡琰への贈り物騒ぎが表沙汰になった場合のリスクを脳内計算し、母・糜香への御機嫌取りを忘れず、保身にひた走る男・糜芳。


「?いやまぁ、帰り際に足を延ばして寄るつもりだったけどもね・・・義母上だけなのかい、父上は?」

「個人的には父上はどっちでもいいです。」

本人が聴いたら泣き崩れそうな台詞を吐く。


「いやいや良くはないだろう芳!?

私にそんな事を頼むという事は・・・又シバかれる様な事を仕出かしたんだろう?」

糜芳の行動原理を察した糜竺が、呆れ顔と声で糜芳を見つめる。


「いやぁそんなつもりは無かったんですけどねぇ。

兄上、女性に対する贈り物って面倒と言うか、クソ厄介な難物(なんぶつ)ですねぇ。」

遠い目をして呟く。


実際に蔡琰への贈り物に対してキレた全明に、改めて良い高級な贈り物を依頼した所、


「そうじゃなくて!?

アンタ今度は高い物贈れば靡く俗物女扱いか!?

しかもそれを私に依頼して丸投げするか普通!?」

再度キレられシメられたのであった。


(安物だったんで、「蔡琰を安い女と観てるのは許せない!」と怒ったのが理解したから、女性視点で見繕って貰おうと頼んだのに・・・訳解らん)

内心頭を抱える。


因みに一連の騒動は郡治所内で行われ(私邸で会うと男女の関係と疑われるので、それを避ける為)、しっかりと郡役人達に全明は「恐妻・全()()」と認知されて、誰何(すいか)(確認・取り次ぎ)無し・チェック(身体検査)無しの顔パスになって出入りしている。


又、全明本人も郡役人から「夫人」呼ばわりされても否定処か、しっかり「はい」と素直に肯定して、糜芳の預かり知らない所で、しれっと認知される様外堀を埋めていっていた。


こうして配慮が思いっきり仇になった上に、死角の背後から徐々に距離を詰めて迫る「上~手」の背鰭(せびれ)が、1枚でなく2枚で有ることに全く気付いていない糜芳であった。


それはさておき、


「う~ん、女心と秋の空と言うぐらい、女性の考えは複雑怪奇みたいだしね~。

あ・・・コホン、とりあえず要望よりも用件を片付ける事にしようか。」

イケメンの糜竺でも難解なのか、複雑な表情をした後咳払いをして、用件に入る。


「屯田制については、軍屯は今までの約3年間で大方予定が完了し、始発の此処東海郡を始めとして、7~8割方田畑耕作に着手済みで収穫をあげている。

残りは来年度から耕作を開始し、着手する予定になっている状態だね。」

「「「「「おお~!?」」」」」

糜竺の屯田の内状を聞いた、尹幹・梅里を始めとする郡文武官達は、感嘆の声を上げた。


(早いな!軍部と民部の全面協力が有ったにせよ、此処まで早く軌道に乗せるなんて・・・。

本来つーか史実では、商業や財政経理を得意分野とする人の筈なんだけど、竺兄みたいな才能有る人は、何でも器用にこなせるんだなぁ)

器用なイケメン才人の糜竺に感心する。


「そして、軍屯の目途が立ったので残りの軍屯計画と並行して、民屯計画も発動する予定になっている。

まぁ、民屯計画に関しては、耕作地と必要資材の選定・それに伴う募集人員の算出・経費と管理者数の試算とか、これから準備に入る段階だから、下準備だけで実施に至るのは難しいのが現状だね。」

「成る程・・・では兄上、屯田制が軍部主体から民部主体に、移管していく過程に有るのですね。」

糜竺の説明に頷く糜芳とその他。


「その通り。

そんな状態だから、人手不足なんだけど・・・それを見越して芳が推挙してくれるのかい?」

「いえ、偶々状況と時機が(かぶ)さっただけなんですけどね・・・貴君、兄上に挨拶を。」

偶然のタイミングに頬を掻きつつ、推挙する人物に挨拶を促した。


「はっ!この度糜芳太守様より、糜竺屯田制顧問に推挙を賜りました、青州出身で名は国淵(こくえん)・字は子尼(しじ)と申します!

以後宜しくご指導・ご指摘をお願いします!」

着古したヨレヨレの服を着た質素な(よそお)いの、モッサリとした人物=国淵が拱手して挨拶をする。


(いやぁ~まさか、丁老師の推挙で郡に来た人物の中に、曹魏の()()()()が紛れ込んでいたのを知って、ビックリ仰天したわホンマもんに)

天の配剤って在るんやな~と実感する糜芳。


徐州の北隣・青州出身の国淵は、孫策に仕えて名を馳せた孫呉屈指の武人・太史慈や、蜀漢と言うより建国前の劉備の流浪時代を支えた、凄腕交渉人(ネゴシエーター)・孫乾といった同郷出身者の同年代の中で、前述の両名をも超越した偉人であった。


なにせこの国淵さん、官渡の戦い以後に曹魏=曹操に仕えて屯田の担当官に任じられると、入念な土地調査と適切な役人の必要数を計算する等、緻密な計画を練って屯田を成功に導き、僅か5年後には食糧庫が満ちて溢れたと言われる程の実績を叩き出し、曹魏の食糧問題を解決してしまったのである。


因みに前述した黒山賊の張燕が、自然解散に追い込まれた要因である、民屯の充足を行ったのがこの国淵さんであり、間接的に30年近く横たわっていた厄介な問題も解決している。

(ついでに曹操にまつわるとある事件も、優れた頭脳と地道な調査と推理で、見事に犯人を特定して解決しており、ガチで三国志界のコ○ンボでもあった)


ぶっちゃけ農政分野に限れば、諸葛亮よりも優れた業績を残しており、屯田成功の功績に依り三公に次ぐ九卿の1つ、太僕(たいぼく)(皇帝専用馬車の専属運転手兼運輸大臣)に任命される程であった。


しかしながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()不明だが、演義には登場していないせいで、偉人なのに知名度が低い不遇な人物である。


なんでそんな大物が、隣州のしがない郡役人に推挙されてるのか、(ふくろう)並みに首を傾げて聴いた所、糜芳がうっかりやらかした屯田制が原因だった。


元々地元青州で大学者・鄭玄(じょうげん)(作中の徐州民部筆頭官・鄭玄とは同名の別人)から学問を学び(孫乾と国淵は同門の兄弟弟子)、そしてより深く学問を修める為に、洛陽の太学に遊学していた所に黄巾の乱が勃発、地元に帰るに帰れなくなった。


その後漸く乱が鎮圧されて収まったので、とりあえず一旦帰郷しようと考え、危険性を(かえり)みて兗州から青州の最短直通ルートは無理と判断、兗州と南の豫州との境目付近から徐州を経て、青州に戻るルートを選択して徐州に入ったようだ。


そして徐州に入った際に偶々軍屯村に立ち寄り、四肢欠損している人や戦傷に依る後遺症の人、寡婦が多い事に訝しんで事情を聴いた所、「屯田制」の仕組みと成り立ちを聴いて深く感銘を受け、駐在していた軍政官を捕まえて情報収集をし、発信源である丁老師の下に辿り着き、教えを乞いに猪突猛進した。


まぁ、流石に他人の弟子を勝手に門下生(弟子)にするのは、この時代の常識的に最大・最悪の禁忌な為に当然断られたが。


しかし本能なのか地なのかは不明だが、国淵は「これこそが己の行くべき道だ!」と見定めて、大急ぎで青州に戻ったかと思ったら、蜻蛉返りで師の鄭玄の紹介状を持って、再度丁老師に教えを乞いに行ったのだった。


結局師匠の許可証(紹介状)を持っているので、弟子というよりは食客(しょっかく)(客人)として遇され、学ぼうと半年経った所で糜芳の要請に依り、丁老師から推挙されて現在此処にいるに至っている。


最初は渋っていたそうだが、丁老師から「糜芳君こそが屯田制の発案者で、仕組みを考案した人物である」と教えられて豹変、喜んで推挙に応じた模様。


それはさておき、


「う~ん、万事責任関連には慎重な態度を取る芳が、満を持して推挙するぐらいだから、余程優れた人物なんだろうね。」

「ええ、間違い無く。

将来的には三公は難しくとも、九卿になるぐらいは有能な人物ですよ。」

前世の未来知識で国淵の将来を知っている為、自信満々に告げる。


「「「「「ええ~!?九卿ぇ~!?」」」」」

糜芳の発言を聞いた周囲が大声を上げ、「いやぁそれ程でも・・・」と照れてボリボリ頭を掻いている、モッサリとした貧相な国淵を凝視する。


「ほ、本当に?芳。」

「はい、兄上に対して口幅(くちはば)ったいのですが、商業や財政分野には兄上に一日(いちじつ)(ちょう)(熟練度)があれど、経理では互角で農政分野に至っては、兄上の十倍の才覚の持ち主かと。」

広大な曹魏領の食糧問題を、僅か約5年で解決した傑物なので、徐州1州なんぞお茶の子さいさいだろうと推測して述べる。


「そんなに!?・・・と言うか何で芳が推し量れるんだいそれを?」

「そりゃあ兄上の仕事振りは実家で観てますし、国淵の場合は直に確認してますので、両者の力量を観た上での、客観的な判断ですけど。」

「成る程・・・逆に両方を知っている芳だからこそ、理解出来るという事か。」

糜芳の発言に頷く。


「それで兄上、国淵を推挙したいのですが、如何にございましょうや?」

「此方としては願ったり叶ったりだけども・・・え~と確認するが、国淵とやらはそれで良いのか?

芳が言っている程の才気の持ち主なら、望めば芳から何進大将軍閣下に推挙して貰って、中央官僚に成れると思うが・・・。」

逸材が1地方官僚に甘んじる事に、疑問が渦巻いた糜竺は、探る様に視線を送る。


「え?太守様って大将軍閣下との繋がりとか、そんな太い伝手をお持ちだったのですか?初耳です。

まぁ、中央官僚に推挙されても固辞しますが。

洛陽に遊学していた際に、色々と観てきましたが中央官僚の現状と体たらくでは・・・。」

糜芳の意外な人脈に驚いた後、落胆と失望感漂う表情で(うつむ)き、


「腐敗と汚職が蔓延る中央で、屯田制が取り上げられても、己等の都合の良いように改悪され、利権と甘い汁を(すす)る為の道具と変わり果て、悪用されるのがオチでしょうから。」

打って変わって憎悪と憤怒の表情に変わる。


(まぁ、確かに国淵の言う通りなんだよな。

皇甫嵩のオッサンも、屯田制に興味津々で実践したいとか言ってたけど、肝心の官僚(名家閥)が腐っててどうにもならん!って嘆いてたもんなぁ)

うんうんと国淵の主張に頷く糜芳。


「・・・成る程、了承した。

私の持っている権限に依り国淵、君を屯田制の民屯担当官に採用する。

但し、君の勤務態度及び行為に問題有りと判断した場合は、郡太守の推挙と言えども厳正な対応を行うので、覚悟して勤めるように。」

「はは、承知致しました。

推挙してくださいました、太守様の名を汚さぬ様に、一心不乱に勤める所存にございます!」

バシッと拳を当てて拱手する。


(よ~し、コレで民屯計画にブーストが掛かってくれる事に、大いに期待出来るぞ。

演算能力がずば抜けているから、経理担当官のままでもいいんだけど、流石に勿体無さ過ぎるし。

曹操襲来に備えて、出来る限りの事はやっておくに越したことはねーしな)

少しでも民屯実用化に向けて、行動に移す糜芳。


こうして天の配剤か気紛れかは不明だが、降って湧いた適材を適所に配置して、来るべき災いに備えて準備を整えていくのであった。


それから凡そ1ヶ月経った10月、国淵を州に推挙して屯田制推進を図った糜芳は、それとは別に太守としての務めに励んでいた。


せっせと相も変わらず書類決裁をして、さっさと書類を捌いていたのだが、「保留」の箱に残っている2つの裁判に関する竹簡をじっくり読んで、


「あちゃ~・・・やっちまったわ・・・。」

困った表情を浮かべて、ペタリと机に突っ伏した。


「如何なさいましたか?太守様。」

侍っていた尹旋が首を傾げて、竹簡を覗き見る。


1つ目は、とある県で発生した傷害事件であり、被疑者である県の衛兵隊長(幹部警察官)が、被害者の地元有力者のボンボンを殴り飛ばしたのである。


一見すると結構な不祥事だが、詳しく読んでいくと被害者の方に非が有りそうな内容で、背景としては浮浪児(ストリートチルドレン)をボンボンが、自分の財布をスったとして逆上し、取り巻きと一緒に殴る蹴るの暴行を加えたのが発端だった。


その浮浪児は確かにスリの常習犯だったが、事件発生前に衛兵隊長に諭されて更正しており、衛兵隊長の後見でとある職人の見習いとして、働き始めた矢先の事で、偶々警邏巡回中の衛兵隊長が只の喧嘩と思って割って入った所、目を掛けていた浮浪児の無惨な姿を観て逆上、ボンボンとその取り巻きを殴ったとの事。


事件発生の要因となった件の浮浪児は、「懐から落ちたのが見えたので、拾って届けた」と証言しているが証人は居らず、ボンボンの方は「前にもスラれた事があり、今回もスラれた」と主張して、取り巻き達も「俺達も観ていた、アイツが間違いなくスった」と証言している。


この事件のややこしい所は、被疑者の衛兵隊長は私財を投じて浮浪児の救済や職の斡旋等、面倒見の良い人物で県民・部下から慕われている事、被害者のボンボンは逆に実家の権力を笠に着て、やりたい放題し放題という、どこぞのボ○ビー並みの鼻つまみ者である事で論争が勃発。


県内では衛兵隊を始めに、衛兵隊長を慕う者が声を大にして味方する庶民派と、ボンボンの実家と繋がりが有る、権力に(おもね)る者が味方する富裕派に分かれて衝突、揉めていた。


県役場内でも、人柄を惜しんで情状酌量すべしと衛兵隊長を擁護する人情派と、法は法として法律を遵守し、罰するべきとする遵法派に分かれて紛糾し、両派の板挟みにあった県令が、たまりかねて郡に上告したのであった。


2つ目は、別のとある県で公金横領が発覚、経理担当官が横領罪で逮捕された、横領事件である。


それだけなら、何の変哲もない極ありふれた(?)事件なのだが、この担当官は県内でも有名な孝行息子として知られており、横領した理由が「母の病を治す為」という理由だった。


日頃から勤勉実直であり、貧富に捕らわれず思いやりのある好青年な為、上司・同僚・県民からも好かれており、給料から月々に弁済させるだけに留めて、罪に問うのは如何と嘆願の声が、ひっきりなしに県令に届く有り様である。


こんな状況で身内を裁くのは、公平性に欠けると県令は判断し、これまた郡に上告したのである。


「うわ・・・これはまた・・・飛びっきり面倒で厄介な案件ですね。

下手な判決をすれば、遺恨や(しこ)りを残して統治に悪影響が出かねませんし。」

竹簡の内容を覗き見た尹旋は、顔をしかめて自分ならどうするか、自問自答をしていく。


「う~ん、1つ目は下調べが必要だけど、どうにか適当に裁けるし、2つ目は常識に照らし合わせたら、普通に問題ないんだけど。」

「へ?もう解決策をお持ちで?」

難問と観た尹旋が、あっさり解決出来ると述べた糜芳を、唖然とした表情で観る。


(それはどうとでもなるから良いんだけど。

・・・この2人には悪いけど、今回の事件を利用させて貰おうとしようか・・・はぁ。

少しでも良い状況に持って行くのが、せめてもの救いになるかな、俺の利にもなるし。

バタバタしてたからうっかり忘れてた・・・。

これらもキチンと対処しないといけなかったのに。

1つ目の方はまぁ専決しても良さそうだけど、2つ目はこの時代だと微妙っぽいから、周囲に確認してから決定する方が良さそうだな)

突っ伏したまま、アレコレ脳内思考する糜芳。


「え~と、尹旋従事。」

「はは、何でしょう。」

「尹幹・梅里両筆頭官を始め、主だった管理官に此処に集まるように言ってくれ。」

「はっ、承知しました。」

拱手して執務室から出て行く尹旋。


その後、集まった管理官達と協議を重ね、認識の摺り合わせを行った糜芳は、問題なしと判断して、1つ目の事件の詳しい調査を尹旋に命じ、


「え~それでは、先程の傷害事件に関しては、尹旋の調査が済み次第裁判を起こし、この裁判は公開裁判として、此処郯県の広場で行うものとする。」

一般公開裁判をする事を宣言する。


「「「「「はは!・・・うん?えええぇぇぇ!?」」」」」

最初疑問に思わず拱手した後、疑問に気付いて絶叫する管理官達であった。


                    続く

前編は屯田制の進捗状況の確認と、うっかりやり残した事への前振り、みたいな感じになっています。


大概2つの裁判沙汰内容で、お察しして頂けると思います。


後編は明後日投稿する予定です。

(早ければ明日になるかもですが)


楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。


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[一言] 国淵が仲間になった。 よっしゃ勝ったな!
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