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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
60/111

その8

読んでくださっている方々へ


いいね・感想をクリックor書いて頂き、誠にありがとうございます!


毎度遅筆で大変申し訳ありません!


なんとか書けましたので、投稿させて頂きます。

       東海郡郡治所太守執務室


「あ~エラい目に遭った・・・。」

ぐで~とだらしなく椅子にもたれ掛かる糜芳。


186年6月、ジワジワと暑くなってきたこの頃、糜芳は先月のドタバタ騒ぎを思い出していた。


蔡琰と全明が揃ってわんわん泣いた後、才女同士が同じ不遇・悲哀を知った事で、肝胆相照(かんたんあいて)らす仲となった両者は身分を越えた同志として、その場で義兄弟と言うか義姉妹の契りを交わし、お互いに助け合う事を誓ったのであった。

・・・相も変わらず部屋主である糜芳の存在をほったらかしにして。


かと思えば蔡琰が「義姉上を(はずかし)めた」とプンプン怒り出して、何故だか正座させられ、くどくどとガチ説教をされた。


「いやあのね、蔡琰殿?

流石に周囲に人が居る中で、「胸元見えてる」と口に出して言う方が辱めにならない?

全明殿が痴女扱いされるかもしれない、そう思って目線で訴えてたんだけど・・・。」

とりあえず抗弁を試みるも、


「あんなにだらしなく鼻を伸ばしていた癖に、説得力の欠片もありませんよ?芳様。

よしんばそうだったとしても、「瓜田(かでん)(くつ)を直さず、李下(りか)に冠を(たた)さず」と言う(ことわざ)が有るように、誤解を招く行動は慎むべきですよ・・・ねぇ芳様?」

グゥの音も出ない正論を返された上に、笑顔のプレッシャーを浴びた糜芳であった。


結局当の全明が執り成したので蔡琰は矛を納め、事なきを得たのであった。


その際、「まぁ、責任を取って貰えば・・・」みたいな事をゴニョゴニョ言っていたので、「あ、はい、じゃあ総額の一割引きの、90万銭で経営権を譲りますね」と糜芳が言うと、「それじゃない」みたいな表情をしながら、


「いえ、そうじ・「はい、お二方その辺で。

新商会に向けて、建設的な話をしましょうか?」

「「あ、はい。」」

全明が言いかけたのを遮って、オオオォォォ・・・と、先程とは別次元の重苦しいプレッシャーを感じた2人は、蔡琰からの圧力(暗黒闘気)に呑まれて、2つ返事で頷いたのであった。


「コホン・・・え~義姉上が立ち上げる新商会ですが、聴いた限りでは率直に申しまして、知名度が無い事と周囲の信用が無いのが大きな問題かと。」

蔡琰が咳払いして指摘する。


「確かにそうなのよねぇ・・・。

糜芳様、何か方策はございませんでしょうか?」

困った表情で頬に手を当て、糜芳に話を振る。


「う~ん・・・知名度に関しては友人に楽士がいるから、彼方此方(あちこち)でチンドン屋をさせて練り歩かせれば、それなりに知られると思うけど。」

「「チンドン屋?」」

「うん、音楽を演奏しながら、屋号(やごう)(店名)と業務内容を喧伝して、練り歩く仕事だけど。」

「へ~、徐州ではそんな職種があるんですね。」

「う~ん、聴いた事ないですけど?初耳です。」

糜芳の説明に、両者共に首を傾げた。


「まぁ、最近出来たモノだから。

士嬰という楽士なんだけども、どうも()()()()()()()のでロハ(無料)でやってくれるから。」

「へ~芳様お弟子さんを取ってたんですね~。」

「楽聖の弟子と有らば、さぞや優れた楽士なんでしょうから、その人が演奏してくれるだけでも喧伝になりますね。」

師匠の頼みは基本的に無料奉仕が原則なので、実状を知らない2人は、糜芳の言葉を鵜呑みにする。


(さぁ~て士嬰君よぉ、洛陽で他人の名前を勝手に使った対価を、キッチリ払って貰いましょうかね~?

クックックックック・・・)

ドス黒い笑みを浮かべ、容赦なくタダ働きでこき使う気満々な糜芳。


「知名度に関しては、それで大丈夫だと思う。

信用度に関しては、州軍部の曹豹殿や民部の鄭玄殿達に添え書き(協賛)をして貰ったり、ウチの糜家商会や全家商会に裏書き(保証人)して貰ったら、徐州では充分通用すると思うけど・・・あっ。」

説明途中で有る事を閃いた糜芳は、ポンと拳を手の平で鳴らすと、


「そうだ、いっその事両方同時に出来る、「展覧会」でもやってみようか?」

「「展覧会?」」

2人して、聞き覚えの無い単語に首を傾げた。


糜芳が提案した展覧会とは、現代風に言えばファッションショーに毛の生えたシロモノだった。


「先ずは曹豹殿や鄭玄殿に添え書きを頼んで、近隣の名家・名士の奥方達と、糜家商会や全家商会等にも添え書きして貰って、中堅以上の商会の奥方達に招待状を送るんだ。」

「え?奥方達に、ですか糜芳様?」

「その通り。

全明殿が設立する商会の一番の目的である、女性使用人の斡旋に際しての採用・不採用や、2番目の目的の衣服の縫製関係って、基本的に奥方に決定権が有るもんだろ?」

「確かにそうですわね。」

頷く蔡琰。


「其処で近隣の奥方達を一堂に招待して、実際に使用人として雇われたい女性に、キチンと行儀作法を身に着けさせて接待させ、直接雇用の機会を得ると同時に質の良さを喧伝するんだ。

上手くいけば、後々続く人達にも好影響になるし。」

「成る程そうなれば、新規の女性使用人を雇用するとなれば、ウチを又指名してくれますね。」

理解して糜芳の後を解説する全明。


「そう言う事。

それと奥方達を呼び寄せる口実兼目玉になる、幾つかの意匠の衣服を作って発表する場にもする。」

「しかし芳様、既に軍部から軍袍(ぐんほう)の縫製作業を請け負っているので、無理しなくても宜しいのでは?」

蔡琰が竹簡の内容を読んで、疑問を挟む。


「うん、それはそうなんだけどね。

けども決して高い賃金じゃないから、少しでも割の良い仕事を得る努力も、するべきだと思うんだよ。

優れた技能の持ち主だったら、針子(はりこ)(裁縫専門の使用人)として好待遇で、雇用してくれる可能性にも繋がるかも知れないし。」

「ふむふむ・・・別分野からの雇用機会と、現状に甘んじず新しい飯の種を創設する・・・ですか?」

聡明な蔡琰は、糜芳の考えを読んで頷いた。


(この2人を郡役人に雇いて~・・・マジで賢いわ。

俺みたいに前世の義務教育で、培養されて知識を得た凡人と違って、素でこんなに賢明で優れているのに、女ってだけで排除されちまうんだから、この時代つーか世の中理不尽だよな~・・・)

2人を観て真剣に思う糜芳。


「正しく蔡琰殿の言うとおり。

飯の種は多いに越した事は無いからね。

そういった諸々の事を展覧会に(かこつ)けて、纏めて喧伝すれば一石二鳥になると思うのだけど、どうだろうか2人の意見は?」

「聞く限りでは面白い試みかと。」

「ええ、私も阿琰と同意見ですが・・・。」

両者共に同意するが、


「しかし展覧会を実施するに当たって、幾つか疑問点が有るのですが・・・。」

「うん?全明殿何か?」

「はい、1つ目は使用人志望の行儀作法に関する、教育をどうするかです。」

全明が疑問点を呈す。


「行儀作法の教育に関しては、例えば丁老師の奥方や蔡琰殿の女中に頼めば、問題無いと思う。

前者は徐州でも有数の名士の奥方の、教育課程を修了したと有れば、信用も出るだろうからね。

後者は洛陽の都の、最先端の教育課程を修了したとなれば、良い箔付けになるから、奥方達の見る目も良い意味で変わるだろうし。

どちらにせよ、どちらか片方或いは両方の太鼓判を受けた者のみ、今回は参加させるべきだろうね。」

「成る程、お任せください義姉上。

私から小母様と婆やに頼んでみますから。」

糜芳の話を聞いて、ドンっと胸を叩いて義姉妹の為に請け負う。


「うん宜しくお願いね阿琰、これで1つ目の疑問は解けました。

2つ目は、展覧会で発表する衣服に関してですが、どれくらいの数を作製すれば、妥当と思います?」

「う~ん、そうだなやっぱり老若男女それぞれ有った方が良いかな~?

子供服男女一着ずつ、若者向け男女一着ずつ、青年向け男女一着ずつ、中・高年向け男女一着ずつと、後は晴れ着なんかも有ったら良いと思うから、最低限10着以上は必要かな?

欲を言えば幾つかの、意匠違いがそれぞれ何着かずつ有れば、猶良いかもしれないなぁ。」

なんとなくの感覚で、全明の疑問に答える。


「後は男性用衣服は飾るだけに留めて、女性用衣服は見目麗しい女性に実際に着て貰って、見栄え良く見える様にすると、受けが良いかもね。」

「え?女性用だけで、男性用は飾るだけですか?」

首を傾げて疑問符を浮かべる全明。


「そりゃあねぇ、奥方達女性の集まりに、関係者で有っても男性が居たとなると、旦那衆の悋気(りんき)(やきもちや嫉妬)や下手な勘ぐりをされたら、騒動の種になって新商会の看板が地に落ちかねないから。」

「あ、確かに・・・そうですわね。理解しました。

それでは3つ目なのですが、糜芳様が(おっしゃ)る展覧会ですが、そのぅ費用が結構掛かると思われるのですけど、財源はどうされるので?」

肝心要な質問を、聞きにくそうに尋ねる。


「それに関しては義姉上大丈夫ですよ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()芳様が、快く出してくださるに違いありません!」

「ね、芳様?」とばかりに、にぱ~っと満面の笑みを浮かべて強請(ねだ)る小悪魔。


「うぇっ!?え、いや、あのその・・・内容を確認して見積もりを見てからじゃないと、何とも言えないな~と・・・。」

曖昧にお茶を濁して逃げを打つ。


「では芳様、芳様から贈って頂いたこの装飾品を売りに出して、多少なりとも費用の足しにしても宜しいでしょうか?」

「え、あ、可愛い・・・じゃなくて!

阿琰!?糜芳様からの贈り物ていう、そんな大事な物を売るなんて、何考えているの?止めなさい!」

大事な宝物を売り飛ばしてまで、自分の為に協力してくれようとする義妹に、嬉しさと申し訳無さが混在した複雑な表情を浮かべ、制止の声を上げる。


「いや、それ、原価で20銭もしないから、売っても大して処か、二束三文にもならないとぉぉう!?ぐけぇェェ!!?」

突然鶏の鳴き声の様な悲鳴を上げた糜芳。


「はぁ!?20銭(約2千円)未満の安物を、曲がりなりにも婚約者で有る阿琰に贈ったですって~?

信じらんない最っ低!!

アンタ名家令嬢に対しても、1人の女性に対しても、いくら何でもそれは無いんじゃないの!?ええ~しみったれ?

何か言いなさいよこのっ、この!?」

あまりに安物を糜芳が、同志兼義妹に贈答した事実にプッツンキレた全明が、理性を失って曲がりなりにも太守である、糜芳の襟首を両手で引っ付かんで締め上げ、ガックンガックン揺さぶっていた。


「しゅみばせん!?咄嗟の贈り物がそれぐらいしか思いぃいうがなぶで~!?衛兵!?えいべざん!だすげて~!?」

ギリギリと締め上げられる中、必死に衛兵に助けを呼ぶが、ついさっきまで指先ぐらいの大きさで見えていた姿が、点に見えるぐらいまで離れていた。


「ちょっと落ち着いてくださいませ義姉上。」

怒り狂っている全明と、文字通りシメられている糜芳の間に入って、暴れた拍子に(あら)わになった全明の胸元をソッと閉じて仲裁する。


「けど阿琰!!」

「義姉上、私は安物だろうと嬉しいのですよ?

何よりも芳様から頂戴し、私の為に芳様自らが意匠を描いてくださった事に。」

激昂する全明を宥めつつ、清らかに純真無垢な笑みを浮かべて、


「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、芳様謹製の一点物ですよ?可愛いですし。

下手な金銀財宝よりも、よっぽど高い価値が有りますよコレ。」

真っ黒な生々しい発言をした。


「あ、確かに・・・素材はともかく、付加価値が凄い有るわねソレ、可愛らしいし。」

いいな~と、羨ましげに見つめる。


「オーイ・・・?」

「さて芳様、今回の新商会の成功の要である展覧会は、私達義姉妹の門出を占う大事な催しです。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

暗に糜香に報告(チクリ)します、と強請(ゆす)る。


「謹んでご協力させて頂きます!

いえ、お願いしますからさせて下さい!!

だからね、ね?母上には穏便な執り成しを頼んます、ほんまもんに!!」

蔡琰の足元に縋りついて、許しを乞う糜芳。


「マァ、流石は芳様、そう言って頂けると琰は信じておりました。」

必死な形相で縋りつく糜芳の頭を、笑顔で良い子良い子と撫でる。


「糜芳様って結構腹黒いけど、この子も大概だわ。」

2人のやり取りを観て戦慄する全明。


こうして糜芳は、知らず知らずの内に墓場に向かって、墓穴を掘り進めていくのであった。


因みに、「死なば諸共、テメエも道連れじゃい!!」とばかりに、糜芳に呼ばれて「毎度~」と笑顔と揉み手でノコノコやってきた、洛陽での修行を終えて当主となった士嬰(馬鹿)を、


「士嬰く~ん?君洛陽で僕の名前を勝手に(かた)って、楽しんでいたそうだね~?

官爵位(貴族)の名を無断で使うと、どうなるのか解っているよね?どうしよっかな~?」

にこやかに問い詰めて、バカが自身のやらかしがバレた事に顔面蒼白になった所で、


「けれど僕達は友達だから、其処まで鬼じゃない。

君には選択肢を与えよう。」

「せ、選択肢?」

じわりと型に嵌めていく。


「そう、君には2つの選択肢が有る。

1つは素直に罪に服し、余罪がないか厳しく詮議(拷問)される事。」

護衛として侍っている、佐郎と渥進がそれぞれ鞭と鉄棒を持っていて、「ヘッヘッヘ」と悪人顔で笑いながら、ペチペチと拷問器具を手に当てて、これ見よがしに威圧する。


「2つ目は、贖罪として豫州でやった「チンドン屋」を、徐州全域の城市で無償でやる事。

・・・どっちにする?」

「無償!?うう・・・無償でチンドン屋を徐州全体でやらして頂きます。」

ガックリとorzして了承する士嬰。


「宜しい、是非頼むよ・・・つーかさ、何で一歩間違えば物理的に首が飛ぶような、危ない橋を渡るんだよ?下手したら一門にも累が及ぶのに・・・。」

「しょうがなかったんや!洛陽では田舎者って馬鹿にされるし、婚約者にも見栄張りたかったし。」

某サスペンスステージの如く、うずくまりながら自白する犯人(士嬰)


「へっ、けどさ結局婚約者には、くされ親父の所為で逃げられるし、今こうして罰を受けてるし。

・・・うぇぇぇん!あんまりだぁ!?

天(神)は無情なんかよぅ・・・。」

おんおん泣き出した。


「いや、確かに婚約者の件は同情出来るけど、罰は己の自業自得で、「タダで得た物程高いモンは無い」の典型例だろうが。

まぁ、天はベガに長期休暇に行って留守だってさ。」

「何処に行ってんだよそれ!?」

どっかのヤンキーなシスターが言ったぽい台詞を言うと、即座にツッコまれたのであった。


後日、偶々士嬰がチンドン屋をやっているのを見かけた糜芳は、周囲から好奇と、子供にちょっかいかけられて往生している姿を観て、深い憐れみを覚えたので、士嬰に受動的明日を送る某アニメ主人公の序幕曲、「沈黙の嘆き」を演奏してプレゼントしたのであった。


それはさておき、


(うう・・・俺の貯蓄が無くなっていくぅぅ。

何進から巻き上げたお金が~・・・まぁ、不労所得みたいなモンだし、いっか。

(あぶく)銭で困っている誰かが救われるなら、ソレはソレで良しだしな。

笮融がせっせと揚州で、作物転売で稼いでいるから、裏金は結構有るしな・・・うひひひ)

回想を終えて、全明達からの展覧会行事に関する請求書が、何時来るのか怯えつつも、裏金が有る事実にホッと安堵する糜芳。


そうして回想を浮かべてダラダラしていると、閉められていた入口のドアがノックされ、


「失礼します太守様。」

外側から金敦の声が掛かったので、


「うむ、入れ。」

慌てて姿勢を正して待ち構えた。


「は、太守様、各県からの報告書と陳情書をお持ちしました。

確認の上、捺印(なついん)(ハンコ)と署名をお願いします。」

大量の竹簡の報告書を両手で抱え、机の上にドサッと無造作に置く。


郡という行政機関は、軍事的な負担は前述の通り州・県に比べて少ないのだが、政治的負担は逆に州・県に比べて大きかった。


県(町村)に対しての場合、年貢徴収等の業務経過・結果の報告、盗賊等の人災に関する各県への周知・伝達、自然災害時の物資や労働力の救援願い等の精査・捻出を行い、それが郡では対処不能と有れば、州に陳情書と使者を送って窮状を訴えて、支援を得るといった県の直系上司ポジションだった。


逆に州(県)に対しては、精査した各県の報告書を一纏めにして提出し、国及び州で発せられた命令書・指示書を各県に周知・伝達を行い、軍事的な場合は各県からの規模からそれぞれ、指定人数を割り振って軍勢を徴集して、郡兵として指定場所に送り出すなど、州の直系部下ポジションだった。


つまり郡(市)という立ち位置は、州(県)の命令・指示と県(町村)の報告・陳情の板挟みになる、中間管理職的ポジションであり、州・県の調整役としての負担が大きく、労力も比例して大きかったのだ。


一応州も国と郡の板挟みだが、郡からはそれなりに精査された報告書が上がるし、国に上奏するほどの大事は滅多に無かった(面子に懸けて州内で始末するから)ので、郡程の労力はなかった。


「あーハイハイ、やりますかね~。」

当然糜芳も例に漏れず、サッと決裁に取り掛かる。


とりあえず一読(いちどく)して問題無ければ「可」の箱に入れ、あからさまにおかしいのは、「不可」の箱に入れて問題点に一筆書いて再提出をさせ、すぐに判断出来ないのは「保留」の箱に入れて、自身が精査したり部下を呼んで確認したりしている。


そして可の報告・陳情書の場合も、見落としが無いかもう一度確認して決裁するのであった。


テキパキと確認と決裁した後に、保留の書類(ほぼ裁判に関する事項)をじっくり読んでいく。


「え~と何々?・・・県民応が県民営の財布を拾って届けたら、営が応の善意に感動して、そのままそっくり財布の銭を贈呈しようとした所、応がそれを拒否。

すったもんだの挙げ句、喧嘩になって最終的に県に始末を訴え出た、と・・・おい、これ何で郡に裁決の陳情が上がるんだよ?県令何してんの?」

何処かで聴いた事が有る下らない内容と、そしてこんな下らない訴訟も、解決しないのか出来ないのか判らない県令に頭を抱える。


「はい?え~と・・・ああ、此処の県令様は、徳高い仁として推戴された方ですから、こういった人情的な問題は判断つきかねたのでは?」

「それを判断するのが県令の職務だろうが。

高徳と優柔不断は別物だろうに・・・え~と「国法に準拠するなり過去の判例を調べて判決するべし」と、ハイハイ不可不可、こんな県民同士の喧嘩事まで取り上げてたら、郡の機能が滞ってまうわ。」

ポイッと不可の箱に入れる。


「因みに太守様でしたらどうします?」

「喧嘩両成敗で牢にぶち込んだ後財布の金銭を折半、それでも揉めるなら両者を叩き(鞭や棒で叩く刑罰)にして、下らん事に県を煩わせた迷惑料として没収と罰金だな。」

金敦の質問に、容赦の無い内容をスラスラ答えた。


(よくよく考えたら、大岡越前て良くこんなアホな問題に、ポケットマネーなんぞ出したよなぁ?

普通に「三方一両損」って悪しき判例になって、詐欺紛いの模倣犯が続出すんだろ。

まぁ、創作だからこそのガバなんだろうけど)

両者が結託して共謀すれば、1両タダ取りに成ってしまう話に、改めて呆れる。


「はぁ、それで宜しいのですか?」

「事の発端が両者の善意からだったとしても、実質周囲の人達に迷惑を懸けた時点で、立派な「善意の悪事」だよ。

周りに騒動を起こして迷惑を懸け、尚且つ県の行政機関に面倒を煩わせたのだから、当然迷惑料として没収した上で罰金を科し、県と周りの人達に支払われるのが、筋だと私は思うがな。」

「成る程、そう考えれば確かにいい迷惑ですな。」

納得して頷いた金敦。


こうして保留箱の書類を処理していく糜芳は、高徳だの有徳だので推戴された県令達(東海郡で凡そ13県有った)の多くが、先程レベルの裁判問題をそのまま郡に上げている事に、就任後からの書類処理の記憶と記録で気付き、


(こ、此奴等、こんなしょうもないモンまで郡に上げやがって、只単に丸投げしてるだけじゃねーか!?

ふざけんな!キチンと職務を果たさんかい!!)

無責任県令達に怒る。


「金敦!今から私が言う内容を文章に興し、ソレを私が名を挙げた県令達に送りつけよ!」

キレた糜芳は添付の竹簡を送りつけて非難した。


因みに内容は、


           諫言状


貴君の徳高さは寡聞な自分でも知っており、同郷の者として誇りに思っております。


しかしながら、それは個人的に思っている事であり、公的には諫言せざるを得ません。


貴君から送られてくる陳情に、裁判に関する事項が多く散見されるのですが、弱年にして未熟な限りの私でさえ、別途で記載している解決法が思い付くのに、如何なる理由でそれらを活用せず、解決に導かないのかが理解出来ないのです。


このまま州に陳情が上がれば、良く見立てられても、「言を左右にして決なし(優柔不断で決断力が無い)」、「些事を解する事も(あた)わず(ちょっとした事も解決出来ない無能)」として、州役人から嘲笑の的となり、貴君の名声が堕ちるのは必須かと。


そして悪く見立てられれば、「怠惰にして無責任」として「徳業(とくぎょう)に偽り有り(偽善・偽徳者)」と(そし)られ、貴君の徳性(とくせい)に深刻な疑義(ぎぎ)が発しかねません。


これらを言われるは同郷(同郡)として、慚愧(ざんき)の念に()えません。


どうか州を越えて、国に知られる様な次第にならない様切に願うべく、諫言させて頂いています。


貴君の如く有徳な御仁なれば、有為な人材に事欠く事は無いでしょうから、有為な人材を敢えて頼みにしては如何でしょうか?


であり、現代風に訳せば、


          糜芳の本音


お宅さん、有徳の人らしいね?立派な人みたいなので同郷として誇りに思いますよ?立場的にはサッサと掃除(解任)したい、郷土の(ほこり)に思ってますが。


プライベートでは善人かも知れんけど、今回はビジネスでの話なんではっきり言います、「キチンと仕事しろやボケ!」


アンタええ年扱いて、ガキの俺でさえ判断出来る事を出来ないの?理解不能なんたけど・・・。


このままだとお宅さん、「事なかれ主義者で、マトモな知識・見識が無く、処理能力も無いおつむがパーな無能」と周囲と州全体から見られて、陰日向に嘲笑(あざわら)われるけどいいの?


それに下手すりゃ「サボり魔な職務放棄者」として、徳行(とくこう)(善行)と真逆に悪行と観られて、存在意義(アイデンティティ)を問われ疑われる事になっちゃうんだけど、大丈夫?


自分が無能や悪行晒して恥掻くのは勝手だけど、俺や同郡の人まで巻き込まれて迷惑だから、ちぃとは物事考えて行動せんかいアホ!


追伸:もし改善の兆しが無ければ、実名入りで国(皇帝)に報告しますよ~?

曲がりなりか(まか)い物(偽善者)か有徳かどうか知らんけど、ええとこの坊ちゃまなんだろうから、マトモな人材を登用して、そいつに委託しろや。


・・・である。


「・・・あの~これ・・・フツーに渡された県令様達が、「無礼な!」と怒りません?」

文章を興した金敦が、冷や汗を流して問い掛けた。


「少なくとも私は間違った事を言っていないし、こんな幼稚な陳情を、「上役」である「郡太守」に丸投げする方が、よっぽど無礼だよ。

それにホンマもんの有徳者だったら、他人に恥を掻かされた無礼なと怒るよりも、己が恥を掻く事をしたと己自身を恥じて省みるモノだろう?」

理路整然と述べた上で、


「つまり騒げば騒ぐ程、世間に自身が偽徳・偽善者であると喧伝してしまう訳だ。

根拠が無い事なら只の誹謗中傷・讒言だが、しっかりと記録が残っている以上、こちとらは根拠を提示出来るし、そうなれば県令達は破滅だしな。

まぁ、内心どうあれ、身の破滅処か一門没落を招く愚行は、()()()()()()()じゃない限り、するアホはそうはいないだろうな。」

ニッコリとドス黒い発言をする。


「はぁ、左様でございますか・・・。」

感心と怖れと呆れが入り混じった、複雑な表情で頷いた金敦。


「あの~万一よっぽどの愚者が現れた場合は、如何為さるおつもりで?」

恐る恐る糜芳に尋ねる。


「その場合は、基本的に「職務不適格(無能)」として解任するか、「偽徳の騙り者(詐欺師)」として解任をして、どちらも「世間や周囲に混乱や騒動を齎した」として、「騒乱罪(反逆罪の1つ下の罪)」を適用するつもりだけど?」

「そ、騒乱罪!?一族族滅相当の重罪ですぞ!?」

悲鳴の様な声を上げる。


「そりゃそうだろうが。

不適格に依って些事も解決出来ない、県令が務める県がマトモに運営出来ているとは思えんからな。

確実にやらかしているぞ。(実例:青州牧・孔融)

そしてもう一方の偽徳・偽善者という悪徳者は、徳を(たっと)ぶ漢帝国にとって天下の重罪人だぞ?

連座で一族諸共処断されるのは当然だろう。」

「う~む、確かに・・・。」

糜芳の理由説明に頷く。


「しかしながら太守様、あまり追い込むと県令様達が反乱を起こす可能性が、出来てしまうのでは?」

「う~ん、なきにしもあらずだけど、現状そんなアホに同調する輩は、蜂起して後の無いアホ県令の一族一門ぐらいだろうし、即鎮圧可能だしな。」

「へ?そうなのですか?」

「はい、そうなのですよ。

そもそもアホ県令が反乱を起こしたとしても、其処の地元有力者(商家)・地元民・地元兵士達は同調した処で、全く「利(益)」が無いから。」

糜芳が理由を説いていく。


今現在漢帝国に於いて、各地で起きている・起きた反乱の内、思想的理由で反乱を起こした韓遂の乱、宗教的理由で発生した黄巾の乱を除けば、黒山賊の様に賊徒に依って反乱が発生し、それに棄民・流民達が同調して加わる事が殆どで、地元有力者・地元民・地元兵士達は、よっぽど怨みでもない限り(中央名家・宦官閥等)、反乱に加担する事は無かった。


何故なら、この3者には比較的安定した収入・生活・給料が有り、それらを放棄してまで反乱に加わる程の「利」が無いからであった。


逆に棄民・流民達が反乱に加担するのは、そのまま座して飢え死にするよりも、反乱に加わって食糧を略奪して、飢えを凌ぐ方がマシという「利」が有るからである。


翻って徐州はどうかと言うと、「屯田制度」のおかげで兵士達は退役後の生活が保証され、制度進行促進に依る大規模な盗賊狩りが行われた結果、副次的効果で劇的に治安が向上し、他州に比べて民衆はより平和に安定生活を営み、商家は安全に商売に精を出している。


その様な状況下でアホが蜂起しても、先ず兵士達は反乱に加担したら、屯田制度の恩恵を失うので確実に拒否し、寧ろ拒否処かアホの首を穫りに行くのは、想像に難くない。


次に地元有力者達の場合は、そもそも糜芳が提案した「売官制度」の、裏技に賛同したシンパ(協力者)であり、同時に郡太守・県令達の動向を見張る、裏の監視役でもあった。

そんな状況で反乱を企てても即バレし(食糧・武器調達時に大概は商家と接触するから)、証人・証拠付きで即座に逮捕され、即一族諸共首チョンパになるのがオチである。


そして地元民は、前の2者が同調しないのに安定を捨ててまで反乱に加わる事もなく、其処までする程の恩や義理も有る筈も無いので、精々反乱を起こした県令の財産等を、どさくさ紛れにちょろまかすのが関の山といった処だろう。


トドメに1番兵力の当てになる棄民・流民自体が、東海郡というより徐州全体で殆ど居らず、その為アホが金を積んでも精々源頼朝と反目して決起した、源義経が募兵を募って参集したレベル(約数百人)であり、そして郡が集めれる人数は、数千から1万前後である。

・・・絶望的に勝ち目が無かった・・・。

(因みに頼朝さんの兵力は、凡そ10万ぐらい)


「・・・という訳で、そもそも反乱を計画した段階で、厳しい監視役の目をかい潜って、準備をしなければいけないから、かなり難しいだろうな。

まぁ、それが出来るなら、最初から職務を全うしろって話になるけど。」

説明というより、裏話を締めくくった。


「はハはハ・・・さ、左様ですね。」

糜芳から裏話を聞いた金敦は、生まれたての小鹿の如く足を小刻みに震わせ、ぎこちない声音でつっかえながら頷いた。


(・・・これは尹幹筆頭官殿達が怖れる訳だ。

とっくにと言うか最初期の段階から、監視網を構築済みとは・・・太守様には逆らうまい)

感服し、改めて服従を誓ったのであった。


「太守様の深慮遠謀に気付かず、失礼をば。」

「いや、私も貴君の忠告痛み入る。

・・・そうだな金敦よ、諫言状とは別に先程の裏話の内容を、個人的な密告といった体で送ってくれ。」

「は?裏事情をわざわざ教えるのですか!?」

裏事情を密告(リーク)せよとの指示に、唖然とした表情で問い質した。


「そうだ。貴君がさっき言っただろう?

あまり追い込むと、県令達が叛意(はんい)を持つとな。

中途半端にするから危険な考えに及ぶんだろうから、それなら敢えて自分達が置かれている状況を教えて、徹底的に追い込んで立場を理解させて置けば、アホな考えすら起きなくなるだろうからな。」

ニタァとどす黒い笑みを浮かべる。


「はは!承知しました!」

「宜しく。まぁコレで推戴されて浮かれている奴も、襟を正すだろうし。」

「いやまぁ、間違いなく正すでしょうねぇ・・・。」

拱手しつつ、「しない奴がいたら見てみたい」と内心思い、問答無用で追い込まれる県令達に、微かな同情の念を抱いた金敦であった。


後日、糜芳から送られた書状を読んで、顔を真っ赤にしたとある県令が、肩を怒らしながら金敦の密告状を読むと、今度は顔面蒼白になって震え出し、己の置かれている真の状況を悟ったとある県令は、翌日から人が変わった様に鬼気迫る表情で、寝る間も惜しんで職務に勤しんだそうな。


                   続く

え~と、予定では後1~2話と閑話で、この章を終わらせたいと思っております。


但し、予定は未定ですので、悪しからずご了承お願いします。


楽しんで読んで頂けたら、嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 女性陣の方が賢く見える…… 今回までにも、役人や貴族の腐敗っぷりは散々書かれていたけど、こうして見ると漢王朝が滅んだのを宜なるかな。 小国は外敵の軍事力で滅び…
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