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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
59/111

その7

読んでくださっている方々へ


いいね・感想・誤字脱字報告、いつも誠にありがとうございます!感謝です!


そして遅筆で誠に申し訳有りません!

平にご容赦を!!


何とか書けましたので投稿します。

         186年3月中旬


宦官閥軍を率いていた張温が、2月に涼州から并州に転戦命令が、宦官閥トップの趙忠に依る朝廷内工作で出され撤退準備中の最中、突如韓遂達反乱軍が長安付近から撤退した。


コレを観た張温は、「多大な犠牲を払いながらも韓遂達反乱軍を破り、長安付近の秩序と平穏を取り戻した」と朝廷にそれらしく虚偽を報告、自派閥の大ダメージの補填と責任をどうにか誤魔化したい趙忠が、裏工作をして過大評価をされる様に仕向け、結果戦死者の形だけの名誉と些少の補填がされ、張温はその功績(偽)を以て「三公」の1つ、「太尉(たいい)」(軍の最高司令官)に任じられる。


まぁ、韓遂達が撤退したのは、只単に長期に渡る軍事行動により、食糧・飼い葉等が乏しくなったので物資補給の為、本拠地に一時的に帰還しただけで、補給を終えると再度長安に戻って来ているが。


そんなあからさまな虚偽報告を、何進達は追及・告発する事もなく、事態を静観した。


別段政敵が太尉に成ろうと名目上に過ぎず、自身は中央軍の軍権をガッチリ掴んでいるので、全く問題が無かったし、何よりも并州の始末を押し付けるのに、今失脚されても困るという理由もあったからだ。


因みにだが、2月末に実は大赦(恩赦)が発せられていたのだが、囚人兵は解放される事は無かった。


何故なら彼らは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()并州に赴いた事に、書類上はなっていたからである。


事前に大赦の情報をキャッチした荀攸が、


「志願兵に成れば即座に処刑されなくなるぞ?

活躍すれば場合によっては、特赦が出る可能性も有るのだが・・・どうする?」

死刑囚たる凶悪犯達に言葉巧みに誘導し、志願兵として登録させたのであった。


これによって罪を赦された囚人兵は、志願兵に名称が変わっただけで待遇に変わりはなく、寧ろ軍属扱いになるために軍律により縛られ、余計に厳しくなったぐらいである。


何進や荀攸からすれば、大赦で野に放てば確実に無辜の善良な民衆に、不幸と災いを齎す凶悪な輩を、ハナから生かしておく積もりは欠片もなかった。


そうして凶悪犯達が、己自身が犯した罪の因果応報を受けている頃・・・


        東海郡郡治所太守執務室


(おう)(のう)ぉ・・・なんてこったい・・・。」

糜芳は悲嘆に暮れていた。


(悲報!?四則演算がマトモに出来ない経理現る!

それも2割程!・・・ってか・・・嘘やろ)

何でやねんと頭を抱える。


予算案の内訳を精査してみると、ま一出るわ出るわの計算ミスの数々。


「え?もしかして・・・まさか」と思い、試しにテキトーに和差積商(わさせきしょう)(足し・引き・掛け・割り算)をそれぞれ2問ずつ問題を作り、経理官連中に解かしてみると凡そ2割もの経理官が、算盤を使っても和差はともかく、積商がマトモに出来ない事が判明したのであった。


(そら~経理がこんなに丼勘定でガバガバやったら、咎め立ても受けへんから、不正が蔓延(はびこ)る様になるのも当然だわな~・・・ハァ)

頭を抱えながら、溜め息を吐く。


杜撰な経理状況にキレた糜芳は、その場で四則演算が出来ない経理官を解任したが、とはいえいきなり免職(クビ)はやり過ぎなので庶務(雑用)に廻し、


「一年間の猶予期間を与えるから、経理官としてキチンと四則演算を習得するか、若しくは何かしらの技能・技術を習得せよ。

それが(あた)わずならば、正式に免職とする。」

猶予を与えて、再学習と技術獲得の機会を促した。


その際に尹幹筆頭官始め、何人もの人達が取りなして来たが、


「ならぬ、論外である。

貴君達は新築の家を建てる時に、釘も碌すっぽ打てない様な未熟な大工に、金を払って頼むのか?

それと同じく、職務もマトモに全う出来ない者を使うなど、見習いならともかく以ての外である。

今回の場合は、今まで幾らでも学ぶ時間・習得する機会が有りながら、自己鍛練を(おこた)った事に依る事象であり、同情の余地も無い。」

バッサリと容赦なく切り捨てて、


「ましてや経理とは不正・誤りを正し、公金を適切に扱っているのか監査する、最後の砦だぞ?

その門兵たる経理が職務を能わずならば、不正・横領が蔓延り何の為に経理の職種が有るのか、存在意義を失ってしまう。」

理路整然と尹幹達を()いた。


そして、


「まぁ、それでもどうしてもと貴君達が言うのならば、貴君達の意見を聞こう。

但し、それならば州から監査官を派遣して貰うので、「例え不正・横領の事実・容疑をかけられても、自分達が責任を持って対処し、喜んで連座します」という念書を書いて貰うからな?」

覚悟しろよてめーら?と念押しする糜芳。


「「「「「へ?いやなんで?」」」」」

「いやなんでって・・・今まで問題が発覚して、処罰されなかったのか?」

「いえ、監査の度に何人か免職になるので、あまり人気の無い部署でして、人数を減らされると困るのでお願いしているのですけど・・・。」

「免職されてる時点で理由が丼勘定が原因って、はっきり解ってんじゃねーか!!

其処まで解ってて何故キチンとした、改善策を講じないんだよ!?」

バンッと机を叩く。


(こ、此奴等・・・他人事だから無関心で無関係だと思って、安気に構えてやがる。

よ~し、そんなら()()()にしてやんよ、てめーらをよぉ・・・)

にちゃあと邪悪に笑う糜芳。


「・・・ふぅ、判った理解した。

では今からこれより、貴君達を「経理特別管理官」に命じ、経理部署の統括責任者にする。

貴君達は現状維持を望んでいる様だから、これ以上問題を起こさない様に見張ってくれ。」

「「「「「はぁ、それならば承知しました。」」」」」

取りなしが功を奏したと思った面々は、糜芳の悪辣な企みに気付かず、承認してしまい頷いてしまう。


「では頼んだぞ経理特別管理官達。

あ、それと州からの監査役には、()()の糜竺殿に頼む事とするので、そのつもりでいる様に。」

「え?糜竺殿(娘婿)にですか?糜芳太守様?」

まさか糜芳が糜竺を呼ぶとは思わず、目を見開いて驚いた表情を見せる尹幹。


「ああ、私が知っている限り、糜竺殿が適任だからな。

何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()公明正大な御仁だから適任であろう?()()()()()()()()?」

にっこりと微笑む外道。


(いや~竺兄その辺はホンマに容赦ないからな~。

普段温厚篤実な人だから誤解されがちだけど、温厚ではあっても、優柔不断では無いからな~竺兄は)

普段とは違った一面を持つ、兄を思い浮かべる。


顔は勿論イケメンだが性格もイケメンな糜竺は、人の失敗や不慮の過ちはキチンと直せば、笑って許す人物だが、身内の不正・不祥事等の過ちや、理解しているのに怠惰で通し改善しない事には、頑として譲らず逆に率先して告発したり咎めたりといった、芯の強い剛直な人物でもあった。

(現在、県役人に成る為に父・糜董がばら撒いた金銭を恥じて、州役人になっても給料の大半を自主返納して、屯田制につぎ込んでいる程)


史実でも糜芳のやらかしを知った途端、自ら縄を打って劉備の前に連座の罪を告発して出頭し、ほぼ死刑が確定している状況でも、率先して自分から罪に服そうと訴え出る程であった。


「・・・という訳で、尹旋従事。」

「は、はは・・・。」

「生まれた時からの付き合いで、糜竺殿の人柄を良~く知っている私だから、今の現状を糜竺殿が監査役として観たらどう思うか、嫌でも理解出来るから言っておくのだが・・・。

短い付き合いだが、貴君の事は忘れないからな?」

ツカツカと尹旋に寄って、ポンポンと肩を叩く。


「いぇ!?ちょっとお、お待ちを!!」

「尹幹筆頭官、尹玲夫人はキチンと糜竺殿が、離縁せずに養うだろうから、安心してくれよ?

私からもちゃ~んと口添えしておくからな?」

今度は尹幹の肩をガッシリ掴んで、「大丈夫だから、安心しなさい」と優しい目で尹幹に伝える。


「な、ななな・・・!!」

「尹親子だけではないぞ。

前太守が罷免されて責任者が貴君達、経理特別管理官しか居ない以上、キッチリ責任を負って貰う。

自分達が現状を良しとし、進んで取りなして特別管理官を引き受けたのだから、当然の話だろうが。」

1人1人指差しながら、


「州都から呼べば遅くとも一週間ぐらいで、糜竺殿が監査に来られるだろうから、貴君達も一週間の()()を存分に楽しむ様にしてくれ給え。

何なら出仕するに及ばぬからな?」

さも残念そうに首を振る。


「さて・・・それを踏まえて改めて聞くが、このまま糜竺殿に監査役を依頼すれば、確実に貴君達の将来が危ぶまれると推測するのだが・・・どうする?」

「ま、待ってください!取り下げます!取り下げますから、お許しを、お許しを~!!」

「「「「何卒、何卒!!」」」」

尹幹達が取り縋って哀願する。


「うむ、宜しい了解した。

では、演算出来ない者を経理から外す事を、貴君達も賛成してくれるのだな?」

「はは!それは無論!」

「うん、じゃあ()()()()()()()()()()()()()()宜しく頼むぞ、経理特別管理官達?」

「「「「「へ?」」」」」

糜芳の発言に、素っ頓狂な声を上げる尹幹達。


「そりゃ何時監査が有るのか判らないのだから、当然今すぐ是正するべきだろう?

経理特別管理官たる貴君達の、最優先事項だ。

貴君達も本来の仕事も有って大変だろうが、滞り無く頑張ってくれ給え。」

容赦なく面倒事を、笑顔で押し付ける。


「「「「「うぐう・・・承知しました。」」」」」

思いっきり藪蛇になった事を泣きつつ、拱手して引き受ける尹幹達だった。


         丁老師邸玄関先


急に何故だか忙しくなった尹旋従事に変わり、計算がキチンと出来ないが能筆(のうひつ)(字が綺麗)な元経理官を、新たに従事に採用してから約1ヶ月後、通常業務プラス去年度予算の再計算と精査が合わさって、尹幹達の特別管理経理官が必死に寝る間を惜しんで行うも、経理官不足が深刻化していた。


血走った目と隈を作った尹幹達が、「どうか、どうか経理官の新規採用を~!!」といい年扱いて大泣きしながら嘆願して来たので、人材で困ったら「丁えもん」と思い立ち、手紙で人材推薦を依頼すると、「偶には顔を出しなさい」と返信が来たので、確かに疎遠になってたなと思い、挨拶がてら久し振りに丁老師邸を訪ねている。


(う~ん、何か足が向きにくいんだよな~)

気まずげに佐郎達護衛と共に馬車から降りて、トボトボと屋敷に向けて歩いていると、


「まぁ、ようこそいらっしゃいました芳様!!

お会い出来て琰は嬉しゅうございます!」

にぱ~っと笑顔で、丁老師の下に居候している蔡琰が、側付き女中と共に出迎えてくれた。可愛い。


因みに蔡琰付きの女中は、「ウチのこんなに愛らしいお嬢様をほったらかしにして、(ないがし)ろにしやがる甲斐性無し野郎がぁ、ああん!?」と、ビキビキと蔡琰の後ろ越しに憤怒の表情を見せ、頭上には「!?」の記号が幻視できた。


それに加えて、蔡邕が蔡琰に護身用に渡したらしい、桃の木で作られた目・鼻・口周りだけ穴の開いた簡素なお面と、同じく柄の部分が桃の木の手斧を握り締めており、恐怖倍増ドンッ・・・であった。

(桃の木は当時魔除けとして重用されていた)


(どう考えても俺に対する殺意高過ぎやろ爺!?

俺、一っ言も嫁にくださいって言って無いのに、何でこんな目に遭わなきゃいけねーんだろうか・・・)

遠い目をして理不尽を嘆きつつ、


「これはこれは、ご無沙汰しております蔡琰殿。

わざわざのお出迎えありがとうございます。

あ・・・え~とコレお土産です。」

若干恐怖に怯え足を竦ませながら、蔡琰に箱に入ったお土産を渡す。


「ありがとうございます、芳様!

え~と・・・えい、まぁ、可愛らしいですわね!」

待ちきれなかったのかその場で箱を開けて、デフォルメされた猫や兎等の動物が施された意匠(デザイン)の、木製の首飾りや櫛といった装飾品が、幾つも入っているのを見て、「可愛い」と連呼している。


年相応にはしゃいで喜んでいる蔡琰を見て、「お嬢様も可愛いですよ!」と女中も笑顔を見せて、憤怒モードが解除されたのを確認する。


(ふぅ、第1関門クリアと・・・う~ん、「可愛いは女性の正義」って母上が言ってたけど、やっぱりそういうモンなんだな~)

喜んで貰えて良かったと安堵する糜芳。


母・糜香に絵心が有るのを知られると、「何か可愛い絵を描け」と言われ、前世に於いて「ペケ口ウサギ」や「ふっくら奇体猫」、アニメの「冷蔵庫在住ペンギン」、パチ屋の広告で見た「隻眼男のイロハ娘」等を描いたら大喜びされ、せがまれたので「いい歳扱いて・・・あ」とウッカリ言ってしまい、ガッシリと顔を掴まれ、笑顔でシバかれた時に糜香が言っていたのを思い出し、木工師に頼んでお土産にチョイスしたのであった。


因みに父・糜董は、糜香がファンシーと思っている絵を観て、「何だいこのヘチャむくれ(ブサイク)な絵は?」と大笑いして、見事に糜香の逆鱗にダイレクトタッチし、糜香に依って自身の顔がヘチャむくれにされていたのは余談で有る。


それはさておき、


「あの~、蔡琰殿丁老師はご在宅ですか?」

はしゃいでいる蔡琰を愛でるのもそこそこに、本来の用件をさり気なく伝える。


「あ・・・す、すいません芳様!丁小父様は客間にて、芳様をお待ちになられて居られます。

・・・どうぞ此方へ。」

糜芳の言葉で本来の役目を思い出したのか、顔を真っ赤にして早足で客間に案内するのであった。


          丁老師邸客間


「ご無沙汰を致しております。

老師に於かれては、御壮健で何よりにございます。」

客間で待っていた丁老師に、部屋に入るなり糜芳は拱手して挨拶をする。


案内役を務めた蔡琰は、先程のはしゃぎ振りが鳴りを潜め、丁老師の斜め後ろに控えた。


「おお、おお良く来られた糜芳郡太守殿。

少し見ぬ間にあれよあれよと大出世、誠におめでとうござる。

心よりお喜び申し上げまする。」

丁老師も几帳面な性格故か、高位者に対する丁重な返礼を返した。


「は、有り難く・・・。

え~と老師何か面映(おもは)ゆいので、前と同じ様にしてくれませんでしょうか?」

「ホッホッホッホ、そうかね?ではそうしよう。

しかし、少し見ぬ間に大きくなったのう、糜芳君。」

糜芳の言葉を受けて、素の状態に戻す丁老師。


「ふむ、早速用件に入るかのう糜芳君。

手紙に依れば「算術に秀でた」人物を、推挙して欲しいとあるが、如何なる理由かね?」

「は、実は・・・。」

糜芳は丁老師に、太守に成ってからの一連のあらましを伝え、現状経理官が不足している事を告げる。


「う~む、左様か・・・。

郡に勤務する弟子達から、ある程度の各郡の状況を聴いておったが、いざ実態を知ると改めて嘆かわしい事よのう、誠に。

世襲化して安穏と怠惰に過ごし、基礎能力も碌に身に付けず、家業を疎かにするとはハァ・・・愚かな。」

糜芳の話を聞いて溜め息を吐く。


「ええ、本当に・・・。

まぁ、その様な事情で4~5人程、経理官を新規採用しようと思っておりまして、恥ずかしながら丁老師の人脈にお縋りしたく。」

「ふむ、成る程のう。解った。

糜芳君の家臣にと言うのなら、ちと難しいが郡に出仕するとあらば、そう(いと)う者はおるまい。

今おる弟子達の中から見繕って推挙致そう。」

快く応じた後、脳内でピックアップしているのか、目を閉じて唸り始めた。


「ありがとうございます!老師。

え~と老師、推挙して貰う身で大変申し訳ないのですが、条件がありまして・・・。」

「・・・うん?条件とな。」

瞑目していた目を開け、糜芳を観る丁老師。


「はい、コレを早く正確に解けた者を優先的に、推挙して頂きたいのです。」

そう言って糜芳は、懐から竹簡を取り出した。


「ふむ・・・コレは算術の問題集かね?」

「はい、四則演算それぞれ5問ずつ計25問を解いて貰い、満点の者の内先着順で推挙をお願いしたいのですが・・・ご了承して頂けますか?」

竹簡を見た老師に、恐る恐る尋ねる。


(コレばっかりは譲れねーからな~。

下手くそな人物を推挙されちまうと、免職させにくくなるし、したらしたで丁老師の面子を潰した上で、相馬眼(そうまがん)(馬等の能力を見抜く能力の事)というか、見識を世間から疑われる事にもなるから、丁老師のお弟子さん全員を敵に回してしまうからな。

洒落になんねぇから、予防線は張って置かねーと)

自己保身に余念のない男・糜芳。


前述した通り、学問の師はこの時代では「第三の親」であり、学問の師に恥を掻かせる=弟子達に仇敵認定される事となり、丁老師程になると徐州全体に近いレベルで敵対者を作ってしまうのである。


丁老師の人脈を利用するのは、リターンも大きいがそれ以上に非常にハイリスクな、諸刃の刃であった。


(かと言って、算術に縁の深い商家関係もな~。

経理じゃなきゃ全然有りなんだけど)

コレも又不味いんだよなぁ、と脳内で呟く。


商人と繋がりの有る人物に、郡の公金の流れ・動きを把握し易い経理官に採用すると、実家の商家に情報が確実に漏洩して、悪用されかねない危険性(例:公共工事で使用される資材を買い占めて、高値で売り付け暴利を得る等)が非常に高い為、流石に採用するつもりはなかった。


(結構重要な部署なのに、不思議と軽視されて蔑ろにされてんだよな。

やっぱ不浄とされる金銭を直接扱う部署だからか?)

理解不能と首を傾げる。


それはさておき、


「う~む・・・糜芳君、君の意図する事は何かね?」

「はい、僕の意図と言うか求めているのは、人徳と言った儒教的な見地に依る推挙ではなく、純粋に即戦力足り得る能力・才覚に依る見地で、推挙をお願いしたいのです。」

この時代では未だ、異端に等しい発言をする糜芳。


「ほう、「才は徳の()(格下)」と申すが、そうではなく逆を糜芳君は求めるとな?」

険の入った目で糜芳を見据える。


「はい、老師が敬愛する管公(管仲)はご存知の通り、決して人徳の有る人物では有りませんでした。

しかし有り余る優れた能力・才覚で、瞬く間に故国・斉を強国に押し上げて、人徳は有れど決して有能とは言えない主君・桓公を、覇者に導きました。」

「ふむ、確かにな。」

頷く丁老師。


「つまり僕が郡の運営に欲して要るのは、管公の如く有能な人材であり、桓公の様な人物は求めておりません。

まぁ、両方兼ね備えた人物が望ましいのは、間違いありませんけども・・・。」

竺兄みたいな人材がベストですと告げる。


「それに先程老師は、「才は徳の奴」と言いましたよね?」

「ああ、そうだが?」

「老師にお尋ねしますが、この漢帝国に於いて「徳」の人物とは、誰を指しましょうか?」

「うん?ふ~む・・・それは無論、現帝陛下・主上であろうのう。」

糜芳の意図が読めず、首を傾げながら答えた。


「左様ですね、僕もそう思います。

(ひるがえ)って言わば我々漢に出仕している者は、等しく主上の「奴」に成るわけですよね?

主上の奴で有る我々臣下が求められるのは何か?

当然主君・桓公の「奴」であった、管公の様な優れた能力・才覚です。

それに依って国を富ませる事で、主上の徳を万民に知らしめて敬服させ強兵を促し、威徳を以て異民族に畏れを抱かせて屈服させるのが、「公人で臣下足る」我々の職務なのではないかと思う次第です。」

多分、きっとそうだと思うと脳内でつけ足しながら、某閣下の様に拳を握って熱弁をふるう。


「おお・・・なんと・・・。」

目を見開いて、驚いた表情の丁老師。


(う~ん、もう一押しか?)

チラッと丁老師を観察しながら、思考する。


「僕が人伝(ひとづて)で聴いた話に依ると、「個人・私人の無能・非才は、身内に災いを齎し一族の不幸で済むが、公人・立場ある人物の無能・非才は、組織・国家に災いを齎し、組織内部とその家族・万民の不幸であり、最早犯罪人である」と聴きました。

その様な不幸が無きよう、少しでも優れた人材を欲しております。 

業腹(ごうはら)かもしれませんが、何卒ご理解ご協力を!」

拝礼して頭を下げる糜芳。


(コレでどうだ?「うん」と言ってくれ頼むから)

頭をじわりと上げ、丁老師を観察してみると、


「・・・・・・うう、うぉぉぉん・・・。」

シュバババ・・・

丁老師は滂沱の涙を流して嗚咽し、蔡琰は素早く筆を動かして竹簡に、何やら書き込んでいた。


(爺さんが泣いとる~!?何でや?)

さっぱり解らず焦る。


「糜ぼぶぐん~・・・ぎみはずばらしい!ズルル!

君の様な真に憂国の士に出会えた事に、儂は生涯の誇りに思う!!」

「はぁ、どうも・・・。」

感動的な面持ちである丁老師に、困惑顔の糜芳。


(いえ、正直憂国の士処か、亡国の士になりそうつーか成るので、サッサと辞任したいんですが・・・)

言えねえと脳内で思考する。


「任せておき給え!!

人選に人選を重ねて、優れた能力・才覚の人物を推挙するのでな!」

ドンッと胸を叩いて請け負うと約束してくれた。


「あ、ありがとうございます!老師。」

ミッションコンプリートと、内心ガッツポーズをして喜ぶ。


その後は食事にお呼ばれされて、蔡琰との婚姻に話が及び、「ゴホッゴホッ・・・儂の元気な内に阿琰の花嫁姿を見たいのう」と、都合の良い年寄りに成り下がった老師だった爺の戯言をスルーして、のらりくらりと「公人」を盾に逃げ切った糜芳であった。


       東海郡郡治所太守執務室


丁老師邸を訪れてから2カ月後、日差しが暖かいから徐々に暑くなって来ている5月、丁老師に依って厳選された人材が推挙されて出仕し、即戦力として活躍をして、「24時間戦う企業戦士のテーマ」の如く化していた尹幹達がバンザイ三唱している頃・・・。


就任直後の様に混沌としてはおらず、それぞれの部署が独自のルーチンワークを形成し、早くも輪番制を取り入れた部署も現れて落ち着きを取り戻していた。


それに伴って糜芳の居る執務室も、人混みと竹簡(書類)の山は姿を消し、書類決裁も効率よく進んで鼻歌を歌うぐらい、余裕が出来ていた。


「♪フフフ、フフン~フフフ、フフン~♪・・・」

「あの~、太守様。」

「うん?何?」

「その鼻歌だけは止めて貰えないでしょうか?

少し前までの悪夢を思い出しますので・・・。」

従事の尹旋が、嫌そうな表情で苦言を呈す。


「え?そうなの?

前歌った時に、泣きながら聴いていたからてっきり、喜んでたのかな~っと・・・。」

意外そうに頬を掻く糜芳。


寝る間も惜しんで、予算の再計算と精査をしていた尹幹達を励ます()()()で、「24時間戦う企業戦士の愛飲するドリンクのテーマ」を熱唱した処、「うぁぁぁ!」とか「チクショ一殺せ!殺せよ~!?」と涙を流し絶叫しながら聴いていたので、喜んでいたと勘違いしていたのであった。


「いやあの状況下で、あんな気の滅入る歌を聴かされて、喜ぶキ○ガイはいませんよ!?

どういう目で観ているのですか我々を?」

半眼で糜芳を見詰める。


「う~ん、わざわざ火中の栗を拾う勇者かな?」

「それ絶対に褒めてませんよね?」

容赦のない糜芳の言に、ガックリと頭を下げる。


「失礼します、太守様。」

「うん?何事だ?」

尹旋と話していると、新たに経理を解任して従事となった、もう1人の従事・金敦(きんとん)が門番からの伝達を受けて、執務室の外から糜芳に拱手していた。


金敦は能書で記憶力も良い人物なのだが、計算関係はからっきしなので、副官というよりも書記(記録係)や祐筆(ゆうひつ)(代筆係)として登用している。


「はは、太守様に客人がみえられたとの事ですが。」

「客人?名は?」

「は、全明と申される女性だそうです。」

30代半ばといった金敦が、ハキハキと答える。


「あ、全明殿か。

漸く設立の目処が立ったという事か・・・。

良し、会おうか通してくれ。案内を頼む。」

「はは!承知しました。」

再び拱手して退室していく。


少し時間が立つと、ナイスバディな美少女が現れて、周囲が感嘆と溜め息がそこかしこから聞こえる。


(しっかし、全明さんも難儀だねぇ~。

見た目は妖艶つーか男受け抜群の外見なのに、中身は至って真面目なエリートさんて言う、チグハグな所為で誤解や色眼鏡で観られるんだから)

近づいて来る全明を観ながら、同情する糜芳。


年齢的なモノも有るが、幾ら魅惑的な美少女と言えども、仕事上の繋がりで有るだけの関係であり、某3代目怪盗紳士の如く、美人に眼が無くてオツムがパーに成る程の色欲もなく、又個人的な関わりは皆無な為、理性的な判断が出来ていた。

 

「お連れしました太守様。」

「うむ、ご苦労。全明殿、お久しぶりですな。

ささ、遠慮なさらずに椅子に座られよ。」

「はい、糜芳様、ありがとうございます。

あ、改めまして郡太守就任おめでとうございます。」

勧められた椅子に座る前に、拝礼して糜芳の出世を笑顔で言祝(ことほ)ぐ。


「これは丁重な言葉痛み入る。

さて・・・此方に来られたという事は?」

「はい、長らくお待たせ致しました。

漸く目処が立ち、お伺いした次第です。」

「おお、漸くですな。

具体的なお話しの前に・・・ちょっと失礼。」

全明との会話を中断し、ツカツカと部屋の入り口付近に(たむろ)して、全明をチラチラと覗き見する、5人の出歯亀共(馬鹿兼暇人共)に近づき、


「ホォォォ・・・セイ!ヤア!タア!フン!アタ!」

「「「「「ぐべぇ!?おごぉ・・・。」」」」」

空手の息吹きで呼吸を整えて、金的・鳩尾等の急所に拳と蹴りを叩き込み、出歯亀共に制裁を加えて、


「おーい、皆の者。

こやつ等暇を持て余している様だから、貴君達の仕事を分けてやってくれ。」

「「「「「はは!喜んで!オラぁ仕事じゃあ!!」」」」」

糜芳の言葉を聞いて、悶絶している出歯亀共に笑顔で竹簡(書類)の雨を投げつけ、押し付ける同僚達。


「衛兵。」

「はは!」

「すまないが、このアホ共がこの竹簡の処理が終わるまでの間、逃げ出して帰らない様に、交代で見張ってて貰えるか?無論残業代は払うから。

此奴等の給金からさっ引いておくのでな。」

「は、承知しました。

・・・因みに逃げた場合は、如何しましょうか?」

どうしたらと尋ねる衛兵。


「当然職務放棄だから、容赦無く懲罰(拷問)決定が相当だろう?現状もそうだが。

あ、その間もキチンと竹簡の処理はさせる様に。」

手と頭は怪我させない様に指示を出す鬼畜。


きっちりと出歯亀共を、公私と共に地獄に落とした後、


「済まない、お待たせ致した。」

ぺこりと全明に謝罪して、着席する。


「あ、いえいえ!?お構いなく!」

手をバタバタ振って戦く。


「コホン・・・え~と、では約定通りに。

この竹簡を私の自宅の趙と言う家令に見せれば、書いてある金額分を出してくれるから。

但し一括は難しいと思うので、その都度渡す形になるのは了承して欲しい。」

「はい・・・確かに、お預かりします。」

竹簡に書かれた金額を確認し、(うやうや)しくおし戴く。


「それでは是にて契約成立とする。 

異存はあるかな?」

「有りません、契約成立を承認します。」

「では契約書を確認の上、一筆書き(サイン)を。」

「はい、拝見します。」

予め作成していた契約書を渡す。


契約書の内容を読み進めていく全明は、幾つかの項目に目を止め、じっくりと考えている。


「何か質問は有るかな?」

「・・・はい、此処の項目にある、「現状は名目上の会頭だが、商会設立の元金を支払えば正式な会頭に成る事が出来る」とは?」

「うん?それは読んだ字の如く、今は私がほぼ全額出資しているので、私が実質的な会頭だが、出資額の100万銭を私に支払えば、全明殿の持ち商会に成るという事だが。」

「え!?では私が新商会で稼いだお金で、商会を買い取る事が可能という事ですか!?」

興奮気味に問い掛ける全明。


前のめりになったせいで、見えそうで見えない絶妙な豊満な胸元を晒している。


(天然かよ、この姉さんは?

下手な奴なら怪盗紳士ダイブしてんじゃねーのか?)

直接言うのは憚られたので、


「その通り、但し経営者としての適性を見極める為、2年間は適用外とさせて貰う。

明らかに不適格な場合には、1年以内に解任する可能性も有り得るので、気をつけて欲しい。

今回の商会は、何人もの行き場の無い女性の、未来が懸かっている大事なモノだ。

全明殿の不適格で潰す訳にはいかないからね。」

真面目に説明しつつ、「オイ見えかけてんぞ姉さん、胸、胸」と目線でチラチラ見ながら訴えかける。


「はい、その通りですね・・・頑張ります!

え~と、次にこの「保証人」についてですが。」

「ああ、それは全明殿が商会運営に、致命的な損失を齎した場合に、全栄殿の「全商会」が損失分を補填する事が、其方側の保証人の役割だな。」

「え・・・お父様は関与しないのでは?」

固い表情になる。


「ああ、()()()()()()()()()()()

あくまでも貴方の損失補填で、金銭を支払うだけだ。

その代わり貴方は借金のカタに、全商会の「所有物」として、全栄殿に引き取られる事になる。」

マトモに話しつつ、「だから、見えかけてんぞ姉さんってば、ああ、そんなに体揺らしたら、ち、ちょい見えてんぞおい!」とガン見の目線で訴えて、胸元に注意喚起を促す。


慌てて周囲を観ると、先程の出歯亀の末路を見せたお蔭か、室内にいる両従事共に此方に背を向けて、観ない様にしていた。


(や、ヤバい、胸元から目が離れね~!?

男の性って奴かコレは・・・駄目だ、全明姉さん契約書の内容確認に夢中になってて、自覚してねぇ。

このままだと痴女と痴漢に認定されかねん!

姉さんには悪いが、声に出して言うべきだろう)

ほぼ見えている状態をロックオンしながら、意を決っした所で、


「・・・何を為さっておられるのですか芳様?」

聞こえない筈というか、聞こえてはいけない状況下で蔡琰の声が妙に耳に残り、笑顔の様で全く笑っていない蔡琰が室内に立っていた。


オオオオオォォォォ・・・


「あれ?蔡琰殿がどうして此処に?」

急に寒気と悪寒が全身を走り、ベタつく汗を掻きながら、重苦しくなった空間の中、平静を装って明るい声音で尋ねた。


周囲を観れば、両従事は蟹歩きで部屋の外に退避中で、部屋付近に居る筈の衛兵の姿が、かなり小さくなっていた。


(お~い衛兵!?どこ行っとんじゃい!

護衛対象ほったらかしにすんな~!今一番お前等が必要なんだよ!?)

言いたくも言えず、口をパクパクするだけであった。


「えっ?どちら様?」

「・・・丁小父様の使いで、芳様に書簡を渡しに参った次第ですが・・・どういう事ですか芳様?

・・・貴女、胸元が開いていますよ?」

「えっ!?あっ!」

蔡琰の指摘で漸く気付いた全明は、慌てて身嗜(みだしな)みを整えて、恥ずかしいと赤面する。


「あ、ありがとうございます!

私この度糜芳太守様のお声掛けで、殉職した兵士さんの未亡人・娘さんを主に雇用する、新しい商会の会頭を務める事となった、全明と申します。

まだ仮では有りますが、以後お見知り置きを。」

蔡琰の衣装を観て、高貴な家出身と見抜いた全明は、明らかに年下の蔡琰にも丁重に接する。


「まぁ!何て立派な志をお持ちなんでしょう!

艱難辛苦を覚悟で、世の恵まれない女性の為に自ら立ち上がった勇気、誠に尊敬を致します!!

私、畏れ多くも主上にお仕えしている、蔡邕が一女・蔡琰と申します。

私に出来る事が有れば、何でも仰ってください!

心から応援を致します!」

胡乱(うろん)気な視線で全明を観ていたのが一転、キラキラと尊敬の視線を送り、全明の手をギュッと握り締めてエールを送る。


「えっ・・・う、うわぁぁぁん!

嬉しいですぅ、ヒッグ・・・誰も認めてくれなくて母様も否定してウ~、陰口叩かれて・・・。」

「解ります全明さん、私も学問が大好きで勉強したらするだけ、父様のお弟子さん達から陰で、非難されて貶されてぇぇぇぇええん!」

お互いに才女としての悲哀を知って共鳴したのか、2人共が泣き始めた。


(え、ナニコレナニコレ!?

いきなり2人して泣き始めたんだけども!?)

部屋の主を置いてけぼりにして。


部屋の外を観れば2人の泣き声に驚いたのか、尹幹と梅里が代表して様子見しており、「幼気(いたいけ)な娘さん達を泣かすのは、流石にどうなん?」みたいな、非難めいた視線を糜芳に送っていた。


「ち、違う、違うから!誤解だからな!?

ちょっと!?蔡琰殿・全明殿お願いだから泣き止んでホンマに!?誤解されてるから現在進行形で!

あ、オイ!尹幹筆頭官・梅里筆頭軍政官?

誤解だから!すたすたと戻らずにこの状況を、年の功でどうにかしてくれ~!?」

必死に誤解を解こうとする糜芳の叫び声が、虚しく郡治所に響き渡るのみであった。


後に、「公共の場に正室・側室を連れ込んだ」豪胆連れ込み太守だの、「女2人を泣かせた」性豪性欲太守だのと、謂われの無い2つ名を陰口で付けられて、最も被害を被って泣いたのは、余談である。

前書きでも書きましたが、遅筆ですいません。


此処最近繁忙期に入って、昼夜の連勤が入ったりと私生活が安定せず、マトモに執筆時間が取れなくなっておりまして・・・。


言い訳がましくて申し訳有りませんが、読者の方々のご理解の程を、宜しくお願い致します。


楽しんで読んで頂ければ嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 ご無理をなさらず、ご自分のペースで。 糜芳の正室は決まったけど、側室候補は結構いますからねぇ… これでまだ12,3歳、大変だ…
[一言] どんな人物が紹介されたのか気になりますね。 やはり、数字に得意な役人は自ら養成するのが一番の近道⁈ ご多忙とのことですが、寒くなってきた昨今、お身体などくれぐれもご自愛ください。
[一言] あれ?噂の為に母上のライトニングボルトで泣かされたのかとw
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