その6
読んでくださっている方々様、いいね・感想をありがとうございます!
何とか書けましたので投稿させて頂きます。
それでは皆様、おやすみなさい・・・。
東海郡郡治所太守執務室
186年2月、涼州・韓遂の乱と并州・黒山賊の蜂起等の治まりが見えない中、荊州でも反乱が発生し徐々に乱世の足音が聞こえ出した頃、徐州に於いては概ね平穏だったが、東海郡の郡治所では騒然としていた。
「太守様、この案件は・・・。」
「太守様、コレは如何が致し・・・。」
「太守様、この手続きはどう・・・。」
矢継ぎ早に、入れ替わり立ち替わり部下達が質疑に訪れ、糜芳の居る執務室は部下と竹簡に、スペースを占拠されつつあった。
(うひ~・・・作業効率を進める為に、アレコレと色々簡便・簡略化を図っただけなのに、何で却ってこんなに忙しくなんだよ!?)
内心愚痴りながら、部下達の質疑にあ~しろこ~しろと答えたり、専門管理官に仕事を振ったりしつつ、書類処理をヒイコラと捌いていた。
数々の報告書を読んだ結果、報告書の書式や作成内容の簡便化の改定を行った糜芳が、次に目を付けて着手したのが、郡治所に於ける訴状・証明・登録等の諸々の申請手続きの、複雑且つ煩雑な書類決裁の簡略化であった。
(近代までは、世界レベルで基本的に役所が訴状を受け取り、裁判所も兼務していた。
日本でも江戸時代に於ける江戸の南北奉行所、大阪の東西奉行所がそれに該当し、時代劇の影響で裁判所のイメージが強いが、奉行所の実際は役所仕事(行政)がメインで、裁判は殆ど探索方(刑事・民事事件専門の捜査官=十手持ち)の与力が裁判長を務めており、世間を騒がす程の大事件でもない限り、奉行が直接裁く事は稀だった)
それはさておき、
コレも又、お役所仕事有る有るなのか、簡単な事柄ならその場で手続きが済んで仕舞いが着くのに、少し大きい事案になると、あっちこっちの部署を書類(申請者)が渡り歩く羽目になり、手間暇が掛かって時間の浪費に繋がっていたのである。
一応あっちこっちに書類が渡る事で、余所の部署のチェックが入り、手続きの不備や抜けが予防出来るといった利点も有るには有るのだが、実際には問題が発生すると、責任のたらい回し・押し付け合いになって紛糾した挙げ句、責任の所在が曖昧になって、「はい?なんでコイツが責任被ってんの?」という、謎の始末(蜥蜴の尻尾切り)になる欠点の方が、遥かに大きかったのであった。
その煩雑複雑を簡略化する為に糜芳は、受け付け窓口こそ細かく専業化したが、利権が被る部署は一元化(例:水利(農業)事業と土木事業を同じ部署に合併)をした上で、1纏めに建物やスペースに集めて一括処理を可能にし、たらい回しの移動と手続きの時間短縮を行った。
この一元化するよりも前は、
申請者(書類)→専門受け付け・受け取り→受け付け担当者か上司の裁可→別の部署に移動→別の専門受け付け→その上司の裁可→最初の部署に移動→再度受け付け担当者へ→上司の裁可→筆頭官の裁可→太守ヘ
といった、アホみたいに無駄な時間を喰っていて、繁忙期には書類がその何処かでストップし、一週間以上も滞る事も珍しくなかった。
しかし一元化により、
申請者(書類)→専門受け付け・受け取り→受け付け担当者が裁可又は上司の裁可の後、バックヤード(後方の事務スペース)で他分野の専門官に裁可を取る→筆頭官の裁可→太守ヘ
という様に、大凡約半分の過程で済むようにして、短縮を実現した上で、裁可した担当者・専門官・上司の名前をキチンと明記させる事で、責任の所在もハッキリさせたのであった。
こうして一元化計画を発動したのだが、計画段階で文武官からは懸念や不満の意見が出たので、まず不満を聴いてみたら意外にも、「仕事効率が向上した場合に、暇になったら嫌だ」といったモノだった。
「へ?わざわざ自分達がしんどいブラック環境で、働きたいのかコイツ等は?」と目が点になった糜芳だったが、詳しく聴いてみるとこの時代の役人的思考で、「仕事が多い=有能・勤勉であり、仕事が少ない=無能・怠惰」という認識のようであり、「仕事が少ない事に罪悪感を感じる」らしい。
(こ、コイツ等仕事を溜め込むのは有能、余裕を持って仕事をするのは無能っていう、アベコベな認識をしてやがる・・・アホかぁ!
仕事が少ないのにはよー判らん謎の罪悪感を持つ癖に、逆に横領や賄賂受領には罪悪感だの躊躇が何でねーの?おかしいだろどう考えても!?
地方でこんなアホな認識だったら、中央なんぞもっと酷い事になってんだろうから、そら~マトモな政治が出来ないのも当然だわ・・・ハァ)
宇宙人的思考に、も~嫌だと頭を掻き毟る。
「貴君に尋ねるが、例えば「公共」の灌漑工事で一週間の予定が3日で終わったとした場合、それは良い事か悪い事かどちらであろうか?」
最も強く発言した宇宙人に念の為確認する。
「それは無論良き事に御座いましょう。」
堂々と矛盾を宣う宇宙人。
「そうだな、良き事だよな。
最前から私が言っている事は貴君等の「公共」の仕事を、一週間掛かる作業を3日で終われる様にしようと言っているのだがな。
さて貴君に問うが同じ「公共」の仕事なのに、灌漑作業は短縮出来れば良い事で、書類処理作業は短縮したら悪い事、罪悪感を感じる様になる理由を是非とも御教示願えるか?」
マジで聞きたいと思っている糜芳。
「え?あ・・・え~と、その・・・。」
糜芳の発言で漸く矛盾を悟った某文官は、アタフタと取り乱すだけで、何も言えなかった。
(こりゃあ認識を改めるのには、荒療治しかねーな。
こんなアホな認識で、繁忙期に仕事溜め込まれたらこっちが堪らんわ)
某文官を尻目に、非情に徹する覚悟を決める。
「ハァ・・・もう良い、尹旋従事。」
「はっ!何でしょう。」
「并州送りの監督者の中に、この者を付け足す様にしてくれ、丁度良かった。
実は何進大将軍閣下から、并州に出来れば文官も手伝いで送って欲しいと頼まれていてな。
この者は仕事が欲しくて堪らんようだから、「出向」扱いでそのまま并州で働いて貰おうか。」
「なっ!なっ!?」
突然の話に目を白黒させて混乱している某文官。
実際に糜芳は郡太守に強制就任が確定した際に、何進に手紙でやり取りをして、郡内の重犯罪者(殺人・放火・強盗犯)を囚人兵として送致する許可を貰っており、彼方は消耗戦で消耗しても惜しくない人材を得てハッピー、此方も凶悪犯を始末出来てハッピーと、WIN=WINの策謀を何進に提案していたのである。
その際に余裕が有れば、并州でも黒山賊の最前線付近の城砦が文官不足なので、文官も派遣して欲しい旨を頼まれていたので、適任であった。
「・・・承知しました太守様。」
一番身近に糜芳に接している為、いち早く今の糜芳に逆らうと、碌でもない事になると察知した尹旋は、同僚というか元同僚に確実になる某文官を、容赦なく見捨てる方向に舵を切った。
「お待ちを太守様!!お待ちを!?」
「おお、喜んでくれて何よりだ。
ちゃんと貴君の望み通り、最も忙しくてやりがいのある、最前線付近の城砦に配属される可能性が大だぞ?良かったな嬉しかろう?
賊徒との戦闘に巻き込まれて、文官がちょくちょく階級特進を遂げて居るらしく、人手不足で困っているとのことだ。」
某文官の悲鳴を都合良く解釈する振りをする。
「貴君の働き次第では、将軍府或いは朝廷に召される可能性も有るので頑張ってくれ、応援しているぞ。」
「お許しを~!おゆるしください~!!」
笑顔で明るい某文官の未来を語る糜芳に、涙で顔をグシャグシャにして許しを乞う。
「そうかそうか、貴君も泣くほど嬉しいか。
お~い衛兵、この者は名誉(殉職ほぼ確定)に感極まって仕事にならん様だから、しっかりと自宅に連れて行ってやってくれ。
おお、それと貴君は名誉ある職務に就く大事な身故、郡治所に出仕するには及ばん。
并州に逝くまでの間自宅で英気を養っておくように。
さあ・・・連れて行け。」
ニッコリと笑顔で連行する指示を出す。
衛兵達に半ば引き摺られながら、「お助けを~~!?お許しをおぉぉぉ・・・」とドップラー現象を起こしつつ、泣き叫んでいる某文官を見送ると、
「尹幹筆頭官。」
「ヒヒィ、ハイ!何で御座いましょうか!?」
郡内文官統括職の尹幹に声を掛け、掛けられた尹幹は顔を真っ青にして、馬の鳴き声の様な甲高い返事をする。
「かの者が(遺骨・遺品で)帰って来るか(天に)召されるまでの間、管理職が空席になるのは宜しくないので、代理を選任しておく様にしてくれ。」
「ハヒ!じ、迅速に行いまする!!」
コクコクと壊れた人形の如く頷く。
「頼むぞ・・・さて、他にかの者の様に作業効率が上がる事に、罪悪感を持つ者はいるか?」
全員が一斉に首を高速で、ブンブン左右に振る。
「ふむ、では各自部下達に伝達する様に。
もし部下の誰かが、罪悪感を感じると訴えるのであれば、遠慮なく報告してくれ。
并州は文武官問わず常に不足しているらしく、大歓迎だそうだ。」
「「「「「ハハッ!!」」」」」
2つ返事で答える文武官の管理職達。
こうして一元化計画の不満をキッチリ解消した後、懸念事を確認すると、先程の活発な意見を出していたのが嘘の様に、押し黙ってそれぞれが目線を交わして躊躇っていた。
やがて最年長の梅里に目線が集中し、皆の意志を受けて意を決した梅里が、
「では某から・・・。」
皆を代表して話し出した。
梅里が感じた懸念事は、「効率が向上した結果人員に余裕が出来、それが理由で人員整理が起きて、解雇される者が出るのでは?」というモノだった。
「う~ん、成る程・・・今の所人員に余裕が出来ても減らす積もりは無い、と言うよりも、寧ろ余裕が出来たら輪番制(シフト制)を作って、交代で休日を取れる様にしたいと思っているのだが。」
「輪番制・・・ですか?」
「そうだ。今までは色々無用な時間を喰っていた所為で、慢性的に人的余裕が無く、ギリギリで職務を回していたと思うが、今回の計画が成功した場合1人1人の余裕がある程度出来、それらを結集して遣り繰りすれば1日分の休み時間が取れて、交代で休日を取れる様に出来るのでは?と思っている。」
あくまでも理想で、可能性の段階と言い添える。
「ふ~む・・・上手くいきましょうか?」
「こればかりはやってみないと判らない。
只一元化する事で一括処理が可能になり、書類のたらい回し・裁可の数が減る分の余裕と、書式の統一や不必要な文章削除の分の余裕を併せれば、あながち不可能ではないと思うが。
まぁ、最初の内はバタバタするだろうが、落ち着いて慣れれば楽になるのだから、貴君等にとっても不利益には成るまい?」
お互いの利益を強調する。
「それは確かに・・・。」
頷く梅里達。
「あの~太守様それでしたら、かの者(某文官)の穴が開く分人的余裕がキツくなるので、今回はお許しになられては如何でしょうか?」
恐る恐る某文官を擁護する尹幹。
「それは出来ない。」
「何故でしょうか?」
キッパリと拒否する糜芳に、首を傾げる。
「かの者を許すという事は、かの者の言い分も許すという事である。
私が荒唐無稽な夢物語や、拙速で杜撰な計画で貴君等に不利益だけを齎すなら、不満や批判・非難されても解るし仕方ないと思う。」
そう冒頭で述べた後、
「しかしかの者の言い分は、不必要な無駄を省いて、作業時間を短縮出来る仕様が有るにも関わらず、旧態依然とわざわざ時間を掛けて作業をすると主張しており、俗に言う遅滞行為=怠慢を行うと言っているに等しい。
その様な認識を持つ者を郡を預かる太守として、公僕の1人としても、断じて認める訳にはいかない。
それなら新規雇用した方がマシだ。」
ハッキリと断じる。
「それに貴君等からしても、貴君等は効率良くせっせと職務を行う中で、かの者はちんたら職務を行い、貴君等の半分程度の仕事量しかこなしていないのに、同じ俸給をかの者が貰う事に不満を抱かないのか?」
「それは流石に納得いきません。」
管理官の1人が発言し、殆どの者が頷く。
「大概は誰だってそうだろう。
それ故に私はかの者を許す事は無い事を、理解して貰えたと思う。
無論私の利益になるから、提案しているのは事実だ。
しかし貴君等にも利益になる提案で有る事も、又事実であるだろう?」
糜芳の言に頷く管理官達。
「つまり私の提案は、私と貴君等双方の利益を提案しており、どちらか一方が野良を扱いたり遊ばす為にではなく、楽を持って仕事に臨もうと言っている訳である。」
「はは、太守様の深慮に気付かず失礼致しました。」
尹幹が納得の面持ちで、頭を下げた。
「いや、尹幹筆頭官の意見にも一理有るので、かの者の子息・親族が私の提案を呑むのなら、見習いとして新規に雇用するのを認める。」
「はっ!有り難く。」
厳しい中にも、一定の情も示す糜芳。
(ま、計画を進める為と後々災いを避ける為にも、少しでも無闇に反感や怨恨を買わない方が、自分の利になるしな・・・)
実情は自身の保身の為だったが。
「さてとコレで皆の者も納得してくれた事だろう。
他に何か意見・質問が有る者はいるか?」
「太守様、効率化を目指す今回の提案とは、別件になるのですが・・・。」
尹旋が手を挙げる。
「うん?尹旋従事何か?」
「はっ、太守様が大将軍閣下に提案された、郡内の凶悪犯を囚人兵として、并州に送致する件についてなのですが・・・。」
「え~と、それが?」
「あの~・・・送った凶悪犯達で編成された囚人兵部隊が、そのまま黒山賊に寝返って、却って国家に害を成す存在になるのでは?と強く不安を覚える次第なのですが・・・。」
囚人兵共がそのまま、反逆者に味方する事を危惧していると告げる。
「ああ、その事なら対策済みなので、心配無用だ。」
「へ?対策済み・・・ですか?」
あっけらかんと答える糜芳に驚いた尹旋。
実は尹旋が危険視するより約半年前、糜芳が何進達に提案した対黒山賊策謀、「二狗相殺」発動に於ける一番の問題点として、筍2号こと荀攸に指摘されていた事であった。
荀攸の指摘に対して糜芳の答えは、「1~2度程ワザと、囚人兵達を黒山賊に寝返る様に仕向け、その寝返った囚人兵達の中に、此方側の密偵・細作を潜り込ませて黒山に潜入、黒山賊の武器庫・食糧庫を放火等で破壊工作したり、幹部暗殺を試みたりと派手に囚人兵達の中に、密偵・細作が居る事を喧伝するべし」だった。
そう書簡で荀攸に伝えると、「何故にその様な成功率の低い目立つ事をして、諜報員を不必要に危険な状況に晒すのは、不合理且つ不利益ではないのか?」と返信が来たので、「そもそも諜報員を囚人兵達の中に潜り込ませるのは、諜報活動を行う為ではなく、囚人兵達を受け入れれば密偵・細作が紛れ込んでいる可能性と、工作される危険性が非常に高い」という認識をさせる為だと送信する。
つまりは、囚人兵達の中の密偵・細作の存在感を敢えてアピールする事で、囚人兵と黒山賊の間に楔を打ち込み、主に黒山賊の警戒心を煽って離間させる目論見であった。
その辺の棄民・流民から、幾らでも兵が補充可能な黒山賊にとって、デメリットしかない囚人兵達を受け入れる必要性が全く無く、寧ろ生かしておく危険性を考えると、徹底的な排除に思考が傾くのは自明の理であった。
流石は万(万能)の2号と言うべきか、糜芳の再送信の書簡を読んで意を汲んだらしく、「え、大丈夫なのかコレ?」と不安がる軍事音痴の何進を、「あーハイハイ、大丈夫・ダイジョーブ」とテキトーにいなし、初動で数百人規模の囚人兵に3千人程の督戦隊を付けて、并州に派遣する。
并州に送られて黒山に着いた囚人兵達は、移動中に紛れ込んだ密偵達に依って唆され、ワザと警戒態勢を緩めていた督戦隊の監視をかい潜って約半数が脱走、黒山賊に同志扱いで受け入れられて、「ザマァ見ろ!俺達ゃ自由になったんだ!」と喜んだが、束の間の自由だった。
何せ囚人兵達を受け入れた途端、分散して貯蔵していた幾つかの武器庫・食糧庫が、何者かに襲撃されて守備兵は殺害された上で焼失したり、隊長クラスが夜間に複数暗殺されかけたりと、黒山賊内部が騒然とした事件が多発したのである。
当然そうなれば囚人兵達は疑心の目で観られ、それに加えて「囚人兵達の中に密偵が混じっている」という、噂がまことしやかに囁かれ、視線が疑心から殺意含みに変化するのに、時間は掛からなかった。
元囚人兵達は要監視対象として、官軍がしていたのと同じような扱いをされ、周囲を監視兵と柵に囲まれた狭い場所に押し込められた。
そして2代目頭領となった張燕の、「疑わしきは殺せ」の指示の下、囚人兵達は悉く殺されて首をはねられ、はねられた首は官軍の陣屋近くに、ゴミの如く捨てられていた。
これ以降、度々司隷・冀州を中心に并州へ囚人兵が送致され、ちょくちょく黒山賊に寝返ろうとする輩が現れたが、黒山賊の返事は無数の矢の雨か、剣や槍の冷たい刃を振るうのみであった。
これによって策謀、「二狗相殺の計」が発動。
とある悪辣少年により、逃げ道を閉ざされた囚人兵達は最早戦って手柄を立て、「特赦」を得るしか生き延びる手段が無くなり、結果的に官軍の「走狗」となって、黒山に立て籠もっている「山狗」こと黒山賊と一進一退の戦いを行い、「走狗」と「山狗」の2匹の狗が殺し合う、泥沼の消耗戦を繰り広げる事となった。
「二狗相殺の計」発動により、「三方一両損」ならぬ「三良一方損」が連動。
糜芳の策謀に依って、何進達は官軍兵の損耗が抑えられた上、并州の援軍要請にも応えられて、并州軍閥及び并州軍の好感度が爆上がりして良し。
并州軍閥及び并州軍は、囚人兵が黒山賊との戦闘の身代わりとなった事で、被害損耗が限定的となり本来の職務である、異民族対策と城砦守備・州民の安全対策に専念出来て良し。
糜芳は郡内に居る凶悪犯を、ただ処刑するだけでなく有効活用して始末し、同じく蔓延る汚吏・悪吏を、自分の手を汚さず処か「殉職」と銘打って、恩を着せつつ始末する、というえげつないやり方と、「并州送り」と言うムチを提示し、郡内の統治に利用して最も良しであった。
そして一方的に損を被ったのが、本来犯罪者と反逆者と言う、お互いアウトロー的な間柄で同調し易い筈なのに、糜芳の策謀で囚人兵と対立・反目してしまった張燕達黒山賊であった。
張燕達がやっている事は、現代風に例えれば「人里離れた山に縄張り(拠点)を構える地元のヤーさんと、その縄張りを潰そうとしている、外来ギャングとの仁義無き戦い」である。
つまり世間様の鼻摘まみ同士の殺し合いなので、官軍側からすれば「凶悪犯共の最終処分場」扱いになっており、例え囚人兵が全滅しようが痛痒も無く、黒山賊程無尽蔵ではないが、予備兵(凶悪犯)のストックはタップリ有るので、長期戦にも十分対応可能となっていた。
それに加えて張遼の様な、若手将校達にとって貴重な山岳戦・攻城(山塞)戦を主とする実戦経験と、1隊・1軍の将としての指揮経験が積める、最高の実戦場であった。
結果的に張燕達黒山賊は、同士討ちに等しい潰し合いをしている上に、敵将の成長の促進を促した挙げ句、并州内の郡・県の城砦に、官軍が援軍で入り込んでおり、防備が分厚くなって今までと違って、略奪・強奪もままならないという、踏んだり蹴ったりな状況になったのであった。
「・・・と言う現状だから、囚人兵達はきっちり形に嵌めているので大丈夫だ。」
「アッ、ハイ・・・蛇足でした、スミマセン。」
実父の尹幹と義弟の糜竺から、糜芳の実態を聴いていて実際に観ている尹旋は、やたら詳細に語る糜芳に、「あ、コレは太守が入れ知恵しているな」と理解して、要らぬ心配だったと頭を下げたのだった。
こうして管理官達の満場一致の支持を得た糜芳は、「簡潔・簡略・簡便」をモットーとした「三簡計画」を実行に移したのだが、その為の旧体制の改変・改善等に追われて、書類と人員の山に囲まれると言う本末転倒な状況になったのであった。
東海郡太守館自室
「え~とコレを足して、んでコレを引いてと・・・合計額は・・・おいおい・・・だぁ~!又間違ってんじゃねーかよ!
いい加減しろやコノヤロウ!
何でこんなポンポンと計算ミスが、専門科の経理で頻発してんだよ!?」
一応2回程試算して、自身の計算ミスが無いか確認しつつ、経理から提出された予算等の金銭出納についての報告書と、自身の計算結果を見比べて、経理担当者の丼勘定の酷さを自室でキレる糜芳。
郡治所を日暮れ前に出た(トップが帰らないと、尹幹達も帰り辛いらしい)糜芳は、自宅となっている太守館に戻り、幾つかの公共事業の予算決裁に関する書類を持ち帰り、せっせと処理していた。
(予算決裁をしないと、事業が始まらないからな~。
サッサと精査して認可を出さないと、業者や従業員はオマンマ(飯)の食い上げになっちまって、大変になるから、早くしてやんないとな・・・)
自身が前世の仕事上、公共事業の有無・遅延に依っては、生活にモロに影響が出ていた実体験が有るので、少しでも早く決裁する為に頑張っている。
流石に郡太守の館と言うべきか、貴重な油もタップリ常備されており、暗くなった部屋を灯して書類と睨めっこをしていると、
「・・・うん?あれ?これ数字の合計数がおかしくないか?え~と、念の為確認すっか・・・。」
自作のA5ノートぐらいの大きさと、5センチぐらいの高さの箱に砂を敷き詰め、その砂箱に適度な水を浸して砂を凝固させて崩れ難くして、鉛筆に似た細い鉄棒を手に持ち、報告書に書かれている漢数字を、アラビア数字に変換して筆算を始めた。
後漢時代にはシルクロードを経由して、算盤=珠算自体は存在していた様だが全く普及しておらず、古来から使用されていた算盤と呼ばれる木製・布製の盤と、算木と呼ばれるマッチ棒状の木を用いた方式で四則演算がされていた。
算盤には、横に右から一・十・百・千と数字の単位が記され、縦に上・中・下の3段が記され、縦横が升目状になっており、升目に算木を縦に置けば1、横に置けば5の単位で計算するのだが、
(いや、無理!こんなん出来るかぁ!?
ど~考えても筆算の方が、簡単で楽やろこれ?)
なまじ現代の計算式に馴れている糜芳には、逆に難解過ぎて理解不能だった・・・。
因みに珠算の方も、義務教育の時に習った程度で全然覚えておらず、スケボーの代用品扱いだった記憶しか残ってなかったので、有っても使えなかったのだが。
それはさておき、
「も~ヤダ・・・最後の砦の経理までザルかよ~。
うう・・・マトモな人材が欲しいよぅ。」
丼勘定な予算見積もりだけを持って帰ったので、予算内訳の詳細を確認してからでないと、どれぐらい数字のズレがあるのか不明なので、決裁する処では無く、諦めて書類を隅に避け、机に突っ伏して嘆く糜芳。
「う~ん、郡太守になったんだから、人材スカウトでも・・・しても無駄なんだよな~俺の場合。
・・・世知辛いなぁ・・・ハァ。」
机に突っ伏した状態で溜め息を吐く。
糜芳が郡太守就任以前の、霊帝から官爵を賜り社会的地位を得て実家から独立をしても、よくある歴史逆行系小説の様に、「よっしゃ!現時点では無名な有能・逸材スカウトタイムだぜ!」に突入しなかったのは、糜芳の後漢時代に於ける社会的立場では、スカウト自体がほぼ不可能だったからである。
どれくらい不可能かと謂うと、三国志に登場する人物達に、「とあるサーティーンな怪物狙撃手の依頼遂行達成率」ぐらいの確率で断られるレベルである。
(確か99、8%ぐらい)
何故そうなるのかと言う根拠は、糜芳というより生家の「糜家」自体に、「家柄・血筋・血統」と言う後漢王朝に於ける3種の神器、名家的社会的ステータス(背景力)が全く無かったからであった。
実際に歴史的史実として、三国志3英傑の内、蜀漢のボ○ビーを除く、曹魏のコ○ンと孫呉のド○ベーの2人は、先述した3つのステータスが無くて、自分の勢力地盤形成に、大変な苦労をしたのである。
勢力地盤形成・発展に必要不可欠な文官は、糜竺・簡雍等の極一部の例外を除き、殆どが地方・中央の名家出身であった為、
「成り上がりで、汚れた家柄の宦官家出身」
である曹操(血筋は最古参の夏侯家だが、出自は曹家と見なされる)や、
「卑しい賤民(商家)出身で、乱暴な無作法者」
である孫堅の、招きに応じてホイホイ仕官するのは、
「格上の者(名門)が、格下の者(成り上がり)に頭を下げて臣になるのは、みっともない恥ずべき行為」
とされ、自身と実家の名声や声望を貶めるとして、忌避されたのであった。
その為曹操は初期にバッタリ偶然出会った、陳宮ぐらいしか文官に恵まれず、この時代の常識を無視した筍一号こと荀彧が、幕下に参じるまでは飛躍出来なかった。
(後漢王朝でもトップクラスのステータス(家柄=後漢帝国最古参、血筋=古代の大学者・荀子の末裔、血統=代々高級官僚を輩出且つ、自身も「王佐の才」を謳われた俊英)を持つ荀彧に推挙されるのは、「一流名士の証明」として大変な名誉とされ、名士達はこぞって荀彧からの推挙を熱望した程だった。
出仕先はまぁアレだったが・・・)
もう1人の孫堅は当代では形成出来ず、次代の孫策の代で親友兼義兄弟であり、江東処か華南でも指折りの名家出身(代々高級官僚と三公を輩出した)の周瑜が、進んで幕下に加わった事で地元・揚州の名家達(豪族)の支持を得て漸く自立に成功する。
(周瑜の仲介を経て揚州のビッグ4=「江東4家」と呼ばれる有力家の内、陸家=陸遜の一族を除いて(孫策が陸家当主・陸康(陸遜の伯父)を殺害し、仇敵になった為)、周家=周瑜、朱家=朱桓・朱然、顧家=顧雍を味方に付けて、瞬く間に揚州を席巻、「江東の小覇王」と呼ばれた)
ついでに劉備は没落していたとは言え、蜘蛛の糸レベルでは有ったが、「皇族の端くれ」という金看板を持っており、自身も「漢高祖の風あり」と言われる魅力的な人物?でも有る事から、他の2英傑に比べて歴とした社会的ステータスを持っており、実は勢力地盤形成に於いて最も優位であったのである。
(例:袁家のダブルドラ坊、袁紹と袁術は中身こそスカスカのパーだったが、ステータスだけは超一流だったので、他の群雄達に先んじて勢力地盤形成に成功している)
但し、真っ当な生活をしていればであるが。
ご存知の通り劉備さんはヤーさんになった事で、自分から唯一無二の金看板と優位性を、ドブor肥溜めに振りかぶって全力で投げ捨てるという、バカな暴挙を成し遂げて自爆。
徐州での州牧推戴(庶民層は純粋に支持したが、徐州名家層は真っ黒な思惑で利用しただけ)という例外中の例外を除けば、庶民層には人気が有ったが、支配者層である名家には支持を殆ど得れず、流浪を重ねて借り暮らし処か借り倒し(資金・物資を借りるだけ借りて、踏み倒した上で逃亡)を繰り返した。
もしも真っ当に生活をしている状態で、義勇軍を起こしていたら周囲の支持を得れて、地元・幽州で勢力地盤形成に成功し、もしかしたら劉秀=洪武帝みたいに第2の中興の祖に成れる素質は有ったのに、優位性を捨てた事で2英傑に周回遅れぐらい突き放され、結果的に劉邦擬きで終えてしまった、残念な人物であった。
それはさておき、
「う~ん、万が一でもスカウトに、応じてくれそうな人物は、やっぱ寒門出身者か・・・。
簡雍・竺兄はボ○ビーが憑いているか憑く予定だから却下、徐庶・魯粛は歴史的役割が有るから駄目。
残るは・・・蒋済と吾粲ぐらいか?」
脳内で三国志ゲームの登場人物を、思い浮かべては消してを繰り返す。
「つーか簡雍パイセンと竺兄以外って、今幾つなんだそう言えば?
それに何処の出身なのかも覚えてねーしなぁ。」
人物名は、うろ覚えも含めてわりかし覚えていても、所在地・年齢までは、張遼みたいにお気に入りでもない限り、キチンと覚えていなかった。
「片手に余るだけの何処にいるのか、幾つなのか判らん人物を充てにするよりも、自分で人材育成した方が、よっぽどマシ・・・か。」
思考を纏めて結論付ける。
「しっかし名家出身じゃ無いのに、史書に名前を遺した文官型の人物って、竺兄・簡雍・魯粛・吾粲・徐庶・蒋済・・・ぐらいか?
少ね~マジで・・・そ~考えたら竺兄達って超激レアさんなんだよな。」
身近な人物が魏呉蜀陣営で、僅か2名程しか居ない、超稀少な人物だった事に驚いた糜芳。
「・・・うん、文官スカウトは無理、諦めた。
じゃあ武官スカウトは・・・コレも無理だよな~。
正直俺に仕えても、メリットが全く無いしな。」
ぐで~っと更にだらしなく突っ伏す。
戦場で派手に活躍して手柄を立て、将軍位にのし上がってナンボの武官から観たら、完全に文官型にシフトしている糜芳に仕えても、旨味が全く無いのである。
理由としては単純明快、日本の武士と違って中国では古来から役割分担が明確化しており、基本的に文官型は戦場に出ないからで、主君の文官が戦場に出ない以上部下の武官も戦場に出れず、活躍の場がほぼ無いからであった。
(諸葛亮や司馬懿の様に文官型が戦場に出て、尚且つ指揮官・司令官を務めたりするのは、かなりの例外)
「そんな活躍の場が無くて、優れた武勇を腐らすアホは、まず居らんわな。
郡太守の配下としても、郡兵の出動つっても郡兵単独で動く事が稀だし・・・。」
意外だったなぁと呟く。
実際に郡単独の出動はほぼ無く、例えば県を跨ぐ盗賊団が現れても、県同士が合同で退治に乗り出し、郡が派遣するのは賞罰の証人として軍監ぐらいであり、郡を跨ぐ盗賊団だったら、今度は州軍が出動して郡兵も州軍の指揮下に入り、埋没してしまうのであった。
「まぁ、そう言う訳で武官もほぼ応じない・・・と。
ぶっちゃけスカウトしても使い所が無いしな。
とりあえずどっちにせよ、スカウトしても無駄ということは解ったから良しとするか・・・。
ふぁぁア~・・・起きててもやること無いし、サッサと寝るか・・・。」
燭台の灯火を息を吹いて消し、ベッドに潜り込み、
「明日は経理のアホを、キッチリ詰めたる!」
明日のメインイベントを、自身に言い聞かせる様に吠えながら、直ぐに眠りに就いた糜芳であった。
続く
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