その5
読んでくださっている皆様方へ
いいね・感想ありがとうございます!
ちょっと昼夜の連勤等が有って、投稿が遅れて申し訳ありません。
徐州東海郡郯県郡治所(市役所)付近
186年1月、去年の年末には正式に東海郡の郡太守に任官されていた糜芳は、新年を地元の胊県で過ごした後、屋敷の留守を趙家令に任せて、東海郡の市役所が有る郯県に入り、前太守が退去した郡太守用の屋敷に入居し、初出勤日を迎える事となった。
(はぁ・・・俺何で此処に居るんだろ?
今頃胊の屋敷でのんびり寝転がってた筈だけどなぁ)
郡治所に向かう、送迎用の専用馬車に揺られながら、去年の寄り合い以降の事を思い浮かべた。
185年9月、糜董達に推戴という名の拒否不可能な強制イベントにより、郡太守就任が決まった糜芳は、「太守就任までの執行猶予」として事務処理等の全てを、家人の趙家令達に任せて不貞寝していた。
別にサボりではなく太守になる以上多忙になり、家の事務処理まで手が回らなくなるので、趙家令達に引き継ぎと問題が無いかの経過を観るため、糜芳はウロウロすると正直邪魔になるので、大人しくゴロゴロしているだけであり、決してサボりでは無い。断じて。
そんな折りに糜董が訪ねて来て、
「芳、実は他の郡・県の会頭さん達から頼・「あ~お~あ~聞こえない!聞こえませんよ!!」
明らかに厄介事を持って来たので、糜董の言葉を遮り、両手で耳を塞いで聞こえないフリをする。
「ちょっと芳、ちゃんと聞いておくれよ!?
このままだと芳の提案した方策が、失敗になりかねない一大事なんだよ?」
「あ~・・・うん?何か問題が発生したのですか?父上。」
耳を塞ぐのを止めて、聞く姿勢をとる。
「そうなんだよ。
概ねの郡・県は推戴に応じてくれたんだけども、幾つかの郡・県は推戴に応じてくれなくて、途方に暮れちゃってるらしくて、どうにかならないかと相談が寄せられてるのだけど・・・。」
困った表情で糜芳に説明をする。
ピクリ・・・ピクピク・・・ピシリ
「ぬわあんですぅってぇ!?そんな羨ま・・・いえ、怪しからん輩が居るですとぉ!!」
幾つもの青筋を浮かべて、激怒する糜芳。
(ざけんなぁ!!俺みたいなガキんちょでも出仕(強制)すんねんぞ!?ええ歳扱いたおっさんが仕事もせんとニートを堪能(?)する気かよ!?)
許さんと呪詛を呟いた後、
「逃げは許さんぞぉ絶対に!オドレ等ぁ・・・道連れじゃああ!!」
推戴を拒否した連中に(勝手に)私怨を抱いた糜芳は、天に向かって吠えると、俄かに竹簡を取って猛然と筆を走らせた。
暫く筆を走らせた後に、
「良し、出来た!父上!コレを複写して、推戴を拒否した輩共に、それぞれ届けて貰えませんか?」
やり切った!とばかりに清々しい笑顔を浮かべて、糜董に竹簡を渡す。
「あ、ああ分かったよ。
え~と、どれどれ・・・芳、コレって・・・。」
糜芳の笑みに気圧されつつも、渡された竹簡の内容を読んだ糜董は・・・絶句した。
因みに糜芳が書いた内容は、
詰問状
貴公に問う。汝、五体満足にして気力充実し、人品学識優れて博識多才にも関わらず、国家存亡とまでは言わずとも故郷の危難に対し、傍観するとは如何なる所存なのか?
無学非才にして弱年人品劣る私でさえ、乞われた限りは故郷の為に粉骨砕身尽くす所存。
それに引き換え貴公はどうか?
同郷人の危難を傍観して於いて、人品優れていると言えるのか?誰がそう思うのか?
良き師に師事して学んだ学識は、何の為に得たものなのか?只の自己満足の為の学識なのか?
又、折角の博識多才に恵まれながら、それを世に活かさずに私事に玩ぶは、周囲世間に於いては「匹夫にも劣る愚行」と誹りを受けましょう。
それでも尚、怯懦を貫くと有らば「虚名にして不義の仁」としか、私個人としては思わざるをえず、もし貴公の虚名が都に伝わり、誤って朝廷に召し出しを受けた場合、双方の不幸・徐州の恥となる由、依ってやむなく知己である何進大将軍閣下を通じて、「この者、虚名にて怯懦かつ不義の仁なり、決して用いる事無かれ」と主上に上奏する所存。
その方が貴公と父祖の名をイタズラに辱めず、一族一門を不当に貶めず、子孫に謂われ無き汚名を着せずに済む、最良の事と存ずるがこれ如何に?
(糜芳風現代訳)
オイコラてめえ、ピンシャン元気で人格者だの賢人だのと言われてるクセして、地元近所の人が未曽有の災害(人災)に遭いかけているのに、知らん顔でほったらかしにするのかよてめえはよ?
人間辞めてます?
学歴も才能も無い、ろくでなしのクソガキの俺でさえなぁ、一生懸命(強制)やるつもりなんだぞコラ、ああん(血涙)?
あんたさぁホントに人格者なの?今回の件で間違いナシに似非人格者だと周りにバレてんぞ?分かってんの?
折角良いとこの太学(大学)とかに行ってて、活かす場所が有るのに活用しないのは、俗に言う「頭のいい馬鹿」なんですかね?正直才能を遊んで腐らすんだったら、博徒やチンピラにも劣るっすよ。
これだけ言っても、ど~してもプ~さんを貫くんだったら、俺個人的に「名ばかりで中身スカスカのクソ似非野郎」と見なし、権力者の何進と霊帝にチクりま~す。
てめえも無能がバレて恥を掻いて、不幸(処刑)にならずに済む様にしてるんだから、良いことしてるでしょ俺?
そうした方が、世間様から後ろ指を指されて先祖共々恥掻くけど、親御さんを巻き込まずに済むし、村八分にあって周りから冷遇されると思うけど、親戚・親族も連座させずに済むし、嘲笑されて孫か曾孫ぐらいは確実に世に出る事は叶わなくなるけど、子供や孫に累が及ばない最善のやり方だと思うんですけども、それだけの覚悟で推戴を拒否ってるんだから、無論問題無しで良いよね?
という訳で、よ~く良く考えて決めてね♡
・・・である。
「いや・・・コレ・・・詰問状じゃあなくて、とんでもないと言うか非道な脅迫状じゃないか・・・。」
余りに悪辣な内容に、この竹簡を送られる相手に同情を禁じ得ない糜董。
「いや~これなら確実に、推戴に応じると思って書いたんですけどもね~。」
ニッコリと罪悪感も無い清々しい笑みを浮かべて、エッヘンと胸を張る。
「そりゃあ当たり前に応じるよ!?確実に!
こんな内容を主上に上奏されたら、下手しなくても本人処か一族一門と子々孫々に至るまで、漢帝国内全域で居場所を失って、身の破滅になるんだから誰だってそうするよ!?」
拒否不可能に追い込むエグい文章を読んで、非難めいた声を上げる。
「え~?一言半句も嘘偽りを書いてませんし、真実を述べているだけですよ?
断ったらそういう目に遭いますよ、と警告しているだけですし、県・郡にだけでなく州・全国に虚名と汚名が広まるぐらいの差ですからね~。」
周囲の県・郡レベルでの非難から、何進から霊帝に上奏される→都で名前(悪名)が広まる→各地方に派遣される刺史・太守・県令に拠って全国レベルで広がる→やったね!全国に恥名度が知られたね!だけである。
「いやそれ致命的な一撃なんだけど・・・?
まぁ、私でも確かにそうだな、と納得してしまう内容では有るけどもねぇ~。
何気に説得力と言うか、否定・反論出来ない部分も有るから、余計に質が悪いと言うか・・・。」
眉を八の字にして、何とも言えない表情をする。
「でもさちょっと心配なんだけど芳。
こんな脅迫状めいた詰問状を送っちゃうと、君が何か郡政で問題を起こした時とかに、この書状を送った人達に非難されたり責められたりしないのかが、気掛かりなんだけど大丈夫なの?」
親としてか、心配気に糜芳を見つめる。
「はい、全然問題ありませんよ。」
「えっ?何で?」
糜董の心配をよそに、あっけらかんと無問題と答える糜芳に驚いた。
「何でも何も僕自身の世間的名声と、他の人達の世間的名声は質が異なりますし、推戴された理由も僕と他の人達とは異なるからですよ。」
「えっ・・・どう言うこと?」
糜芳の意図が読めず、首を傾げる。
「つまり僕の名声は、「音楽や絵画といった芸術面・教養面」での名声であって、他の人達と違って政治的分野での素養や、家柄・血筋を買われた事(名家出身なんだから、当たり前に出来るだろうという、周囲の期待と思い込み)による名声とは異なります。
そういった理由から、政治的素養なんぞそもそも僕に有ると思われず、失敗しても「まだ童なんだから当然」と大概の人達は思いますから、大した傷になりませんと言うか、家柄・血筋系の名声なんて元々無いですし。」
自身と他の人達との、名声の違いを説明した上で、
「それに僕の場合は、「何進大将軍や主上との繋がり」という人脈が理由での推戴ですから、人柄・徳行や学識・才幹で推戴された人達とは、根本的に推戴理由が異なります。
つまり僕は郡政で失敗を犯しても、それを理由にサッサと辞めれますし、大した瑕疵になりません。
それに父上達とは離籍しているので、僕自身以外累が及ぶ係累が居ませんしねぇ。
比べて他の人達は大変ですねぇ~、しくじったら自身の徳や能力を疑われて、名声と世間様の評判を落としますし、係累や子孫にも累が及びますからね・・・クックックック・・・ハーハッハッハ。」
どす黒い笑みを浮かべて、くぐもった声で笑った後、腰に手を当てて大声で笑う外道。
「あ、悪どい・・・。
人には逃げ道を塞いで、否応なく引きずり込んでいるのに、自分はキチンと逃げ道を用意して、何時でも辞めれる算段を付けるなんて・・・。」
腰に手を当てて笑う糜芳を観て、余りの悪どさに開いた口が塞がらない糜董だった。
10月、推戴を渋っていた連中が、糜芳からの手紙を読んだ途端に血相を変え、自ら進んで推戴を受ける様に何故かなった。
11月、徐州内の殆どの悪徳県令・太守は、地元民から嫌悪されて、故郷を憂いた地元有志(商人)が県令・太守の官職を朝廷から買い取り、人品学識に優れた人物に委譲した事で失職、任地から叩き出された。
この糜芳が提案した方式は、瞬く間に近隣州にも広まりを見せて、他州民も追従する動きを見せたが、残念ながら徐州の様には上手くいかなかった。
1つ目は他州民に知られたと同時に、他州の県令・太守にも知られた為、機先を制して自分の官職を買った事と、2つ目は糜芳が危機感を煽って、危機意識を持って団結した徐州商家達と違い、個人個人が己の利害得失で行動した為に意見が纏まらず、四散五裂したからである。
12月、糜芳の策謀により、張温率いる宦官閥軍が韓遂達反乱軍に敗れ、対抗手段を喪失してにっちもさっちも行かなくなり、焦った趙忠に依って并州に転戦命令が出され、後始末を董卓に丸投げした後碌に調査もせずに、ノコノコ張温が地獄の消耗戦に向かっている頃・・・。
正式に朝廷から多数の人達に官職が叙任されたので、下邳郡に於いて一纏めに叙任する為に叙任式が行われ、刺史の沈賀から太守の官印を受け取り、糜芳は郡太守に叙任された。
叙任された人達の中には、張紘や張昭の後の「江東の二張」がおり、式の最中に2人の名前を聴いて、「へ~彼奴等って徐州出身だったんだ」と糜芳は驚いた。
そのまま宴会に突入したのだが、只でさえ30代から40代のオッサンズの集団の中で、飛び抜けて若くて浮いている糜芳だったのに、酔った沈賀にうざ絡みされて散々自慢話をされ、余計に悪目立ちしてしまう。
さらに沈賀に歌曲を強請られて、「河川の如き歌」や「自動車メーカーみたいな天体な歌」を歌ったら、なんか年配の人達が目を潤ませて俯き出したので、慌てて「サッカーのキャプテン名をくださいな的歌」を歌うと、今度は宴会の為に雇われた踊り子達(遊廓から派遣)が、嗚咽を漏らしてシクシクと泣き始めてしまい、楽しい宴が通夜になってしまった。
焦った糜芳は自分の席に戻ると、グイグイと(水)杯を飲み干し酔った振りをして、宴会から逃げ出したのは良い思い出である。
そして、現在・・・
「太守様、到着致しました。」
「うむ、ご苦労。」
「は、では某は厩にて待機して居りますので、お帰りの際はお声掛け下さいませ。」
「ささ、新太守様、ご案内させて頂きます、此方へ。」
「うむ。」
御者は頭を下げると厩の方に馬車を持って行き、糜芳は馬車に陪席していた案内役に促されて、郡治所の門をくぐり抜けた。
そのまま馬車に随伴していた、家臣で護衛の佐郎共に郡治所に入ると、
「糜芳郡太守に於かれましては、太守就任誠におめでとうございまする。
我ら東海郡・郡役人一同、心より歓迎させて頂くと共に、糜太守には誠心誠意・粉骨砕身尽くし、犬馬の労も厭わぬ所存であります。」
それなりの広さが有る、郡役人達の職務室と思われる広間に、流石に文武百官もは居らずとも、20人前後の文武官が筆頭文官と筆頭軍政官と思しき人を先頭に祝辞を述べた後、一斉に拝礼を糜芳に対して行ったのであった。
(うん?あれ・・・?義姉上の親父さんと、どっかで見た軍政官の爺さんじゃん)
首を傾げつつも、
「あ、尹幹殿じゃないですか、どもどもお久しぶりですねぇ。お元気そうで何よりです。」
「ハハ・・・太守様、お願いしますから時と場所を考えてくださいませ。うう、胃が・・・。」
糜芳が気軽に挨拶した途端、顔色が悪くなり腹を押さえて苦しみ出す、兄・糜竺の義父になる尹幹。
「あ、これはすまぬ・・・。
え~と、其処の軍政官、何処ぞで会った記憶が有るのだが、何処かで会わなかったか?」
「は、太守様とは主上お召しの際に、沈賀刺史と州都の下邳で面会された折りにお会いして居りまする。
改めまして、某現在東海郡の筆頭軍政官を勤めております、梅里と申します。
此方の筆頭文官を勤めます尹幹殿と共に、太守様の補佐をさせて頂きます。」
慇懃な態度で再び拝礼する。
(あ、沈賀に護衛をケチって叱られた爺さんやん。
州の役人が何で郡に?・・・ああ、疎まれて左遷されたんだな)
爺さん軍政官・梅里の素性を思い出し、何となく事情を察した糜芳。
「ああ、宜しく頼む。」
「ははぁ、お任せ下さいませ。」
慣れない命令口調にあくせくしながらも、無難な返答を返す。
そうして主だった郡役人の上層部と、面通しをした後に太守の執務室に案内されると、1人の若手役人が室内に控えており、糜芳の姿を見ると拝礼して出迎えた。
「え~、紹介致します。
この者は、太守の従事(秘書官)になります尹旋と申します。
とりあえず心利いたる者をあてがったつもりですが、問題が有れば何時でも交代させますので・・・。」
因みに私の息です、と尹幹が言い添える。
「・・・お久しぶりにございます太守様。
太守様に於かれましては御機嫌麗しゅう。
精一杯勤めさせて頂きますので、宜しくお願い申し上げます。」
「はぁ、宜しく。」
お互いに微妙に居心地悪そうに挨拶を交わす2人。
(側近が竺兄の義兄、補佐役が竺兄の義父に何か俺の出来事が要因で、州から郡に左遷されたっぽい爺さん軍政官、何だこれ?・・・や、やりづれ~)
妙な因縁の有るメンバー構成に、初日からゲンナリする糜芳であった。
東海郡郡治所執務室
「うむむ・・・。」
初日は郡管理職との顔合わせと、一般職員達との新太守歓迎の宴で終わり、2日目の今日が実質上の勤務になった糜芳は、とりあえず職務として東海郡の状況把握をする為に、此処1ヶ月ぐらいの政治・軍事の報告書を唸りながら読んでいて、
「だぁ~なんじゃこりゃ!?こんなんマトモに読めるかぁ~!・・・コレ、本当に報告書か?」
思わず読んでいた竹簡を放り投げた。
「如何なさいました?太守様。」
糜芳が放り投げた竹簡を拾い上げ、驚いた表情で糜芳に問い掛ける尹旋。
「旋従事!その報告書は郡治所では、ごく一般的な文章として書かれているものなのか?」
「は?え~と・・・そうですね。普通かと。」
「じゃあ、コレとかコレは!?」
「ちょっと拝見します・・・ええ、多少の癖字の物もありますけど、概ね問題無しかと思いますが?」
拾い上げた報告書や渡された報告書を読んで、異常は有りません、何か問題でも?といった表情をする。
「・・・オーマイガッ!」
「え、お前が?何か私がしでかしたでしょうか!?」
糜芳が呟いた英語を、聞き間違えて焦る旋従事。
「いや、何でも無い。
旋従事、今から尹幹筆頭政務官と梅里筆頭軍政官に声を掛けて、今すぐ此処に郡管理職を連れて来る様に申し伝えてくれ。」
「は?はは、承知しました。少々お待ちを。」
糜芳の命を聞いて、拱手して退室する尹旋を横目に、
「マジすか後漢クオリティー・・・半端ねーわ。」
余りの酷さに頭を抱えて呟く糜芳であった。
そして、小半時後(30分後)・・・
「糜太守様、お召しにより皆を集めました。」
「うん、ご苦労。」
左右に文武官がそれぞれ別れて、管理職の人達が執務室に集合していた。
「・・・して、糜太守様我らを集めたのは、何の為でしょうか?」
「うむ、皆に集まって貰ったのは、他でもない文武官各自の報告書の事だ。」
「報告書・・・ですか?それが何か?」
梅里が問いかけ、糜芳の答えに尹幹が首を傾げる。
「何かもクソもあるかい!
報告書の内容が余計な修飾語だの時節の挨拶だのと、不必要な文章が多過ぎるんだよ!
何時、何処で、誰が、何を、どういう風に、どうしたぐらいの要点でもっと簡潔に報告書を書く様に、各自部下達に徹底させる様に!」
5W1Hを徹底させろ!と怒る糜芳。
この時代の役所はと言うよりも何時の時代もと言うべきか、無駄に冗長な文章で報告書が書かれていて、知りたい答え・結果を長ったらしい文章から発掘せねばならず、読み解くのに非常に手間を喰うのだった。
例えば、とある案件の可否の報告を文書化するなら、
「何時何時に、当所で決まった案件について、何処其処で此方は誰某を担当者とし、相手担当者の誰某と協議をし交渉を重ねた結果、色好い返答は貰えずに失敗に終わりました。」
僅か2~3行ぐらいで済む内容を、
「本日はお日柄も良く・・・あ~だこ~だ(前略)何処其処で時節の訪れを感じた・・・あ~だこ~だ(中略)ウンタラカンタラで無理でした。
しかしながら・・・あ~だこ~だ(後略)・・・ご自愛ください、誰某よりかしこ。」
ぐらいの、只の可否を短編小説でも書いてんのか此奴は?と是非聴きたくなる程の冗長というよりも、最早小説擬きを当たり前に、伝統的に公文書に記しているのだった。
しかしこれだけでも大概だが、
「それ以上に、公文書に詩吟を書いている者とか、自身の近況(日記)?を書いている者がいるのだが、コレが普通?正気なのかホンマに?」
現代人の感覚からしたら、黒歴史のポエミ一やプライバシーを、平然と明け透けに公文書に公開している強者、若しくは中二病勇者がいた。
阿呆なのか?と問い詰めたい糜芳であった。
「まぁ、己を太守様に喧伝する意図かと。」
「いやいや!恥曝してるだけだろうがコレは!?」
あっけらかんとした答えにつっこむ糜芳。
「はぁ、しかしながら詩吟は兎も角、時節の挨拶等は太守様への敬意を表しており、それを抜かすのは非礼になるのでは?」
「いや、尹幹筆頭政務官。
こんな冗長な文章を提出する方が、余程非礼だろうし無駄だろう?」
「はて?何故に?」
理解不能と首を傾げる。
「非礼とする理由は、「時間=刻の浪費」だ。
時間とは、国家に冠たる主上でさえ購えぬ、貴重無比な代物だからだ。
上役の貴重無比な時間を無駄に奪って於いて、「部下が敬意を表している」と認識する上役が、何処にいるのだ?只の嫌がらせにしか感じんぞ。
・・・もしもそのつもりなら、貴君と言えども「不敬罪」で、容赦なく処罰するがどうなのだ?」
「め、滅相もありません!
その様な意図は皆目ございません!」
ダラダラ流れる汗を手拭いで拭いながら、首を振って否定する尹幹。
「次に無駄だとする理由は、1番は竹簡の無駄使いだ。
こんな無駄な文章を書くために、竹簡を浪費するぐらいなら、替わりに麦の一粒・矢の一本でも購入した方が、余程有益だと思うのだが、どうだろうか?
2番はこの様な冗長な文章を書ける程の、無駄な人員の余裕が有ると言うことか?
それならば不必要な人員を削減して、郡予算を別の物に回したいのだが、梅里筆頭軍政官如何か?」
「とんでもありませぬ!
只でさえギリギリの人員で、遣り繰りして居りますのに、人員削減などされてはかないませぬ!」
梅里が首をブンブン振って、勘弁してくれと訴えた。
「それならば、私の言った事に皆賛同するよな?
では、以後この様な無用な時節の挨拶だの、詩吟だの個人の近況だのを、公文書に記載する事を禁ずる。
守れない者は、罰金を徴収するので覚悟せよ。」
「「「「「ははぁ、承知しました。」」」」」
出席者全員が拱手して頷いた。
「それでは次!
書いている書式がバラバラで、直のこと読み難い!
コレも東海郡では文武官両方統一化をする。」
煩わしくて堪らんと告げる。
これも又後漢クオリティーと言うべきか、書式も各一家でそれぞれが、自家特有の書式を子弟に伝承していく為、全く統一されて居らずバラバラであり、報告書を読むのに難儀したのであった。
(郡なら郡毎、県なら県毎に書式が違うのは、この時代だと離れた場所との情報伝達・共有化が難しいから理解出来るけども、何で同じ職場で働いてんのに、書式の統一化が出来てねーんだよ!?)
脳内で頭を抱える糜芳。
「此処にいる貴君等とて部下達の中には、読みづらく判りづらい報告書を出す者が、少なからず居るのではないだろうか?」
「まぁ、それは・・・。」
「確かに居りますな。」
糜芳の言に、頷く尹幹と梅里。
「其処で同じ規格の書式を定めて適用すれば、提出された者がてんでバラバラな書式よりも理解度が飛躍的に上がり、部下達の情報伝達の齟齬や、報告書内の誤り・問題点を見つけ易くなり、貴君等も見落とした部下達のうっかりで、とばっちりを受けずに済むのだから、利があると思うのだが如何か?」
中間管理職の君達にも、良いことだよと諭す。
「ふ~む、我々にも確かに利が有る事なのですが、それだと基準を設けないといけませんが・・・。」
「左様、もし今から基準を1から作れと仰せならば、時間が掛かる上必ずや混乱を齎して、却って害悪に成りかねませぬぞ糜太守様。」
文武官両方の筆頭が、それぞれ懸念を示した。
「ああ、それなら良き基準になる奴が有るから、それを基準にするとする。
梅里筆頭軍政官!」
「はっ!?」
「貴君の書いた報告書の、時節云々を削除した文章形式を、我らが郡の正式な書式とし、貴君の名を取って「梅里書式」とする。」
「へっ?某の書式をですか!?」
いきなりの話に驚いた表情の梅里。
「うん、貴君の報告書が1番判り易かったからね。
済まんが皆の見本・手本として、何本か貴君の報告書を写本させて貰う。
写本した物を各部署に配るから、それを手本に報告書を作成する様に、各管理者は徹底させること。
それと梅里軍政官を「書式指導官」に任命し、書式指導を一任するので、不明な点が有れば梅里軍政官に聴く様にして、梅里軍政官も宜しく指導をしてやってくれ。頼んだよ。」
「はは!お任せください!必ずや徹底させまする!」
自分の書式が基準になるのに大喜びし、ふんすと意気込みを見せる。
「じゃあ、それで宜しく。
最後に塩の専売と、武具の買い付けの管理者は何処に居るか?」
「「はっ、これに。」」
糜芳に問われて、立ち上がって拱手する2名。
「ふむ、両者に命じる。
明日早朝に参考質疑をしたいので、それぞれこの名前の担当官と、取引しているこの商人を執務室に召喚して欲しい。」
「参考質疑・・・ですか?」
「ああ、何せ私はド素人故、職場の状況把握を掴みたいのと、実際の現場の生の声を聴いて見たくてな。」
ポリポリと頬を掻きながら、管理者に話す。
「おお、成る程、それは大事な事ですなぁ。
承知しました、ご指名のあった者達を明日早朝に、此方に向かう様に伝えておきます。」
「ああ、宜しく頼む。
それと貴君等にも判らない事が有った場合、補足説明を頼むかも知れないので、同席をして欲しい。」
「「はは!」」
「あ、そうそう、ついでに尹幹・梅里両筆頭官も臨席をしてくれるか?」
思い出したかの様に、ポンと手を打って両筆頭官にも出席を依頼する糜芳。
「?はあ、承知しました。」
「御意。」
「うむ・・・以上で私からの話は終わりだ。
急な呼び立て済まなかった、それぞれ職務に戻ってくれ。」
「「「「「はは!では失礼します!」」」」」
全員が拱手して、旋従事以外が退室する。
「はぁ・・・旋従事。」
「あ、はい、なんでしょう?」
「ちょっと耳を・・・・・・手配してくれ。」
「ええ!?誠ですか!?・・・承知しました。」
「宜しく頼むわ・・・はぁ~めんどくさいな~。」
尹旋に耳打ちして指示をした後、溜め息を吐く糜芳であった。
翌日早朝・・・
「「お召しにより参りました。」」
「「同じく、糜太守様には御機嫌麗しく・・・。」」
執務室には2人の担当官が拱手し、2人の商人が担当官の後ろに控え、拝礼している。
「朝早くから呼び立てて済まないな。
では早速質疑を行おう・・・武具の担当官に問う。
剣などの購入単価は、この報告書に記載されている単価で、相違ないか確認してくれ。」
尹旋従事を通じて、竹簡を担当官に渡す。
「はぁ・・・はい、相違ありませんが?」
「では商人の方は、この単価で納品した事に相違ないか確認してくれ。」
「あ、はい・・・はい、この単価で納品しました。」
糜芳に購入単価が記された報告書を渡され、困惑しつつも記載に誤りが無い事を証言する2人。
(このアホ共・・・マジでやってやがった・・・)
内心呆れながら、
「ふむ、因みにだが、私が非常に懇意にしている同姓の商家が、この報告書と同時期に購入した記録と照らし合わせても、殆ど差違は無かった。」
「左様でありましょうとも。」
「しかしだな、それだとおかしくないか?
懇意にしている商家の場合は、原料の鉄の購入費+製作加工費(鍛冶職人への支払い)+商人の利益=武具の購入費になっているのに対し、ウチの場合原料の鉄は官製の専売=我々郡治所が管理している物品だぞ?
つまり、掛かる費用は製作費云々と、商人の利益と多少の手数料ぐらいになるはず。
それなのに何故に同じ購入単価になるのだ?
購入単価が一般単価と変わらない理由を述べよ!」
他の人に判り易く説明口調で、厳しく問い詰めた。
「「「「あ!?」」」」
糜芳の指摘で問題点を理解する、両筆頭官と管理官。
「う!?いや、あのこれは・・・その・・・。」
「衛兵!この不埒者達を捕らえよ!!」
挙動不審になってオロオロした、担当官と商人を観てクロと確信した旋従事が、表で待機していた衛兵を呼び出して捕縛を命じる。
鉄の担当官と商家が捕縛され、両者が縄をうたれている最中、糜芳は平然と続ける。
「さてと、では次に塩について尋ねるぞ?
報告書を読む限り幾つかの商家に卸している様だが、其処にいる商人ともう1人には、他の商家よりも10銭近く安い卸値で卸しているとなっておるが、担当官如何なる理由か?」
「は、この者ともう1人は大口の購入業者(商家)故、大量購入して貰っている分、他よりも多少は安く融通している次第です。」
大口購入業者だから、他の業者よりも優遇していると答える担当官。
「ふ~ん、その割には他の購入業者と、販売価格が変わらない様だが?」
「それはこやつ等商人の勝手でございましょう?
某が口を挟む事柄では有りますまい。」
「確かにな。」
担当官の言い分に頷く糜芳。
「では、それを受けて其処な商人よ。」
「は、ははい!」
「寡聞にして懇意の商家に聴いたのだが、東海郡内に於いては、「大概の物品は、購入価格と販売価格を均一に売買して商う」という協定を郡内の商家、特に大手商家が率先して結んでいるとの事なのだが、お主の商家は大丈夫なのか本当に?」
外にバレたら不味いんじゃねーの?と確認する。
日本でも江戸時代くらいまでは、大手商家に成れば成るほど安定志向が強く、「株仲間」と呼ばれる組合を組織して、価格競争や極端な値付けをしない等の協定を結び、相互協力・相互監視をしていた。
糜芳の住む東海郡でも、「寄り合い」という枠組みで組合が組織されて、どちらかと言うと余所からの新規参入の阻止や、価格競争を起こして潰し合いをした結果、吸収合併をされない様、大手商家程用心して協定に参入していた。
つまり、此処にいる商人ともう1人は、協定に参入しておきながら、「仁義破り」というあらゆる業界で呼ばれる、最低最悪のゲス行為を働いていたのである。
それは、業界人にとってどうなるかと言うと、不買と不売行動をあらゆる関係者が行い、信用を失って契約も破棄・更新拒否されるといった、
「申し訳ありません!
其処の担当官様に言われて、ついつい不正行為に加担してしまいました!
専売所の売値は間違いありませんが、安く買った差額の半分は担当官様にお渡ししておりました!
損失分は必ずや弁済しますので、どうか、どうか、余所の商家に報せる事だけはお許しを!!」
即ち社会的死を意味する為、汚職担当官を売り飛ばす事に躊躇などなく、少しでも心証を良くする為即座に罪を認める程であった。
「はぁ・・・お~い、え~へ~。」
「はは!」
溜め息混じりに手をヒラヒラさせて、控えている衛兵に捕縛を命じる。
捕縛された4人組を観ながら、
「あ~物証も証言も有る故、厳しい詮議をする必要も無いと見なし、今より裁決を下す。」
「「「はは!」」」
「「ははぁ・・・。」」
「「「「・・・・・・。」」」」
4人組と2人の管理官を睨み付けながら、両筆頭官と従事が返事をして拱手し、両管理官は土下座して拝聴する姿勢をとった。
「「「「「・・・・・・。」」」」」
因みに突然の騒動を聞きつけたほぼ全職員が、開け放たれた執務室の前に群がり、目を皿の様に見開いて耳を象の様に大きくして、見聞きしている。
「鉄・塩の担当官に告げる。
汝等は職務を悪用し、国家の財を掠め盗り私腹を肥やした事明白、コレは庶民が窃盗・横領するよりも重く、例え如何なる理由が有れども許し難く、正しく国家の罪なり。
依って件を以て一罰百戒とし、財貨を徴収した上で極刑を申し渡す。」
ザワ!?・・・ザワザワ・・・ひそひそ
糜芳の裁決に、聴衆から賛否両論が飛び交う。
「・・・・・・ははぁ。」
「但し、殊勝にも罪科を認めているのも考慮し、子や親族に家督継承を認め、任官を許すとする。
又、「贖罪で義勇兵に志願し、并州送り」として并州に送致して、「殉職」扱いとする。」
実際は囚人兵だが、名誉だけは守る事を宣言する。
「は、ははぁ、お、恩情有り難く・・・う、うう。」
父祖の名誉、子孫の将来を残す事になる恩情に、涙を流して嗚咽に咽ぶ。
「太守様、并州送りはどうするのですか?」
「何進大将軍閣下に叙任前より確認済みだ。
并州の州都に送れば、後は彼方に委任すれば良い。」
簡単に手順を伝える。
「は、承知致しました。」
大物の名に驚きつつも、旋従事は拱手して頷く。
「では商人達に告げる。
汝等はかの者達の悪事に加担し、自身も国家の財を掠め盗った事は明白、言語道断である。
しかしながら望まずとも、強要された懸念も無きにしもあらず、依って損失分の弁済・相応の罰金と汝等を鉱山送りとする。
但し、鉱山送りは相応の釈放金と寄付を納めれば、その限りではない。」
「ははぁ!御温情感謝します!」
深々と頭を下げる商人達。
「お待ちください太守様!
担当官と商人との間の、刑罰の軽重に差が些か大きく思いまする。
如何なる理由でありましょうや?」
職務上法の適用に敏感なのか、梅里軍政官が喰ってかかり、聴衆もウンウンと頷いていた。
「単純に、公人(公僕)と私人(個人)の差である。
例えば商人(私人)が悪事を勧めても、担当官(公人)が拒否すれば悪事は成立しない。
逆に担当官から悪事を勧められれば、何の権力も無い1商人が拒否するのは難事である。
場合によっては、権力を嵩に口封じ・冤罪に遭うことも有り得るのだから。
依って常に選択権・主導権は、担当官に有ると見なして、担当官の方が重くなる・・・と言った所かな。」
自身の理論を述べる糜芳。
時代劇風に例えれば、越後屋が賄賂を贈っても拒否すれば、代官は悪代官に成らず、逆に悪代官が賄賂を強要すれば、逆らえない一介の商人が越後屋に成ってしまう、という感じである。
「ふ~む、なる程・・・。」
「それに、パッと見は差が有るように観えるけど、商人側の方も結構重罪にしているんだけどね。」
「ええ!?何処が!?」
尹幹が驚いて尋ねる。
「う~ん、立場の相違に拠る認識の違いかな?
貴君等名家は「名誉・体面」を重視するから、今回の様に罪人として地元で生き長らえるのは、「生き恥」として死ぬより不名誉な事と観るよね?」
「確かにそう父祖から教えられますな。」
頷く尹幹達。
「だけど商人・商家は違う。
商家達は「金銭の多寡・信用の有無」を重視するから、今回の様に多額の金銭を失うのは「没落」を意味し、それがそのまま信用の有無に直結するので、金銭を失うのは命を失うよりも重く大きいんだよ。」
何せ金銭の方が身体生命よりも重たいと、言い切った某日本一級河川さんが居るぐらいだから、と自信満々に言い切る糜芳。
「まぁ、昔取った杵柄って奴で良く理解出来るから。」
「太守様がそう言われると、説得力が有りますな。」
糜芳の出自を思い出して納得する。
「さてと話を戻すぞ。
両管理官は、今この場限りで管理官を解任と致す。
理由は言わずとも判るな?弁論が有れば聞くが?」
「「いえ、有りませぬ。
監督不行き届き誠に申し訳有りません。」」
拱手して頭を下げる。
「では両筆頭官、今より平に降格して空いた両管理官と、空席の担当官の再選任を頼む。」
「「はは、承知致しました。」」
拱手して了承する2人。
そうして参考招致という名の、断罪を終えて後始末の段取りを付けた後、聴衆と化している職員達に、
「皆の者、ご覧の通り昔取った杵柄と、懇意にしている同姓の商家のお蔭で、数字や相場・単価・価格には人並み以上には強いのが解って貰えたと思う。
疑わしきは罰せずが私の考えなのだが、幾つか疑わしい数字と報告書が有るのだが、多分記載の誤りだと今の所思っているので、心当たりが有る者は今から1ヶ月以内だったら、不問に付すので訂正と弁済を宜しく頼んだぞ・・・あ、後貴君等と懇意にしている商家に、「善意の寄付」を受け付けていると、伝えてくれ。」
ニッコリと身辺整理をしろと、満面の笑みで伝える。
「ち、因みにですが、その1ヶ月を過ぎて事が発覚した場合、どうなりますのでしょうか?」
手を上げて、恐る恐る尋ねる尹旋従事。
「本人と一族の成人男性全員「并州送り」、女子供は「鉱山送り」又は「色街行き」だな。
無論罪名もキチンと周知した上でな・・・ああ、そうそう賢明な貴君等の事だから、言うまでもないと思うが今後もし万一(悪事を)やる気ならば、その覚悟でやるように。」
キッパリと宣告する糜芳。
「「「「「ヒィ・・・・・・!?」」」」」
奇しくも聴衆していた職員達が、図って合わせたかの如く声無き悲鳴を上げた。
後日・・・不思議な事に、争う様に報告書の竹簡が保管されている書庫に、大勢の職員達が突撃する様が目撃され、何故か多額の弁済金と寄付が寄せられて、東海郡の財政は大いに潤ったそうな。
「うひひひ・・・儲け儲けっと。」
「・・・糜竺君が言っていた事が、漸く理解出来ました・・・信じなかった私が馬鹿でした。」
悪どい笑みでほくそ笑んでいる糜芳を観て、額に手を当てて沈痛な面持ちで告げる尹旋であった。
因みにだが、糜芳自身は全く意図していない事で有ったが、奇しくも前漢の稀代の悪党・王温舒と同じく、「部下の表沙汰になっていない悪事の証拠を掴んで、自分の意のままに従わせる」と酷似した手口を無自覚に行い、「糜芳太守様に逆らえば悪事を暴露され、身の破滅だ!」と大半の職員に思い込まれて、約1ヶ月で東海郡の郡治所を、いつの間にか掌握していたのは余談である。
続く
糜芳の刑罰の軽重の思考は、個人的な意見なので、当時の刑罰の法律とは違っていると思われますので、悪しからずご了承を。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
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