その4
読んでくださっている方々へ
いつも読んでくださってありがとうございます!
いいね、感想に感謝であります!
そして誤字脱字について、
39部に於いて般若心経ではなく、法華経の文言を般若心経と誤って表示した事を、深くお詫び致します。
(指摘してくださった方、有り難く教えてくださった文言を、流用させて頂いて訂正させて貰いました。ありがとうございました!)
己の無知さに汗顔のいたりであります。
又、前話に於いては、長安と洛陽の表記間違いをしてしまい、ご指摘ありがとうございました!
素で間違えていました・・・すみません。
色々拙い所が多々あると思いますが、暖かい目で見て頂けたら幸いです。
遅筆で申し訳ありませんが、その分長文で書いておりますので、平にご容赦を。
徐州下邳郡下邳県
8月、現代日本で言うお盆が過ぎ、少しずつ暑さが柔らいでいる最中、糜董と共に徐州の州都で有る下邳に糜芳は、「売官制度」を最大限活用する様に、州全体の主な商家が集う、今回の寄り合いにゲストとして参加する為、馬車に揺られて訪れていた。
因みにだが、寄り合いと言うのは現代日本風に云えば組合・商工会に近く、色んな業種の商人が集まり、例えば盗賊被害の情報伝達・共有や、情報・意見交換を行って、自分の商売に役立てたり、場合によっては同じ業種間で、値付け(値段設定)の交渉・糾弾をして白黒つけたり、商家同士の金銭の貸し借りについての公証人(保証人・見届け人)に等々・・・。
当然この時代の情報媒体は、手紙等の伝達・人伝に依る伝聞等にほぼ限られているので、こういった意味に於いて寄り合いは、貴重な情報交換と収集出来る場所として重宝されており、その為大概の商人は郡・県の寄り合いに属している。
(う~ん、とりあえず商人の人達にも利益が有ることだし、大丈夫だと思うんだけどな~。
まぁ、俺の方策を聴かなかったら、自分達が泣きを見る羽目になるだけだけどね・・・)
脳内思考して、「大丈夫だよな」と呟く。
「芳、ボチボチ目的地に着くから、準備しなさい。」
「あ、はい、父上。」
糜董の呼び掛けにハッとした糜芳は、慌てて前方を観ると、広大な屋敷の目前に来ていた。
陳商会陳真邸
そのまま吸い込まれる様に入り、2人共に馬車から降りて、簡単な身元確認を行った後、「ようこそお越しくださいました、糜家商会様並びに糜芳様」と受付担当の使用人が挨拶をすると、別の使用人が「此方で御座います」と寄り合いを行う会場へ誘導する。
(ほぇ~・・・ウチの家の倍はあんぞこれ。
ウチも富豪って言われてるけど、上には上が居るんだな~やっぱり)
キョロキョロと見回して、おのぼりさんの如く観察する。
そうしてキョロキョロしていると、一際豪奢な造りの迎賓館らしき建物に辿り着き、「此方で主が待って居ります」と告げて、使用人が入っていく。
使用人が、「東海郡より糜家商会の会頭・糜董様、及び右庶長・糜芳様がお越しになられました!」と大声で告げ、「失礼します」と建物から去っていった。
「おお、ようこそお越しなされた糜董殿。
そして我らが徐州の誇り、「楽聖」様が我が家にお越しなされた事、恐悦至極に御座います。
私、この家の当主でささやかに商売を営んで居りまする、陳家商会の陳真と申します、以後お見知りおきを・・・。」
糜董よりも一回り程(一回り=干支の12支=12歳)上に観える、白髪混じりの男性が糜董に拱手した後、ニッコリと笑顔を向けて、丁重な挨拶の後に糜芳に拝礼をする。
「陳真殿、此度は糜芳様共々お世話になります。」
「お世話になります。」
「はは、精一杯のおもてなしをさせて頂く所存で有ります・・・ささ、此方へどうぞ・・・。」
糜董に釣られて挨拶をした後、陳真が先導して外装と違わない、豪奢な内装の広間を移動する。
ザワザワ・・・ヒソヒソ・・・
既に到着していて、糜芳を観て隣同士で囁き合っている、州内の大手商家の会頭達の間を通り抜け、今回の寄り合いの主催者で有る陳真が座る主席の、左斜め後ろに一段高く設置されている貴賓席(ⅤⅠP)と思しき席に、「どうぞ、此方にお座りくださいませ」とにこやかに促された。
因みに糜董は、糜芳のすぐ横に席が用意されており、糜芳の付き人的ポジションの扱いになっている。
(うぉぉぉ・・・い、居心地が悪いぃ・・・。
オッサンや爺さんの視線がハンパないし、スッゴい場違い感が・・・)
周囲の遠慮ない好奇の視線と、子供の自分が最上位の扱いを受ける事に、気疲れを感じる。
こうして、続々と広間に入って来る会頭達を、「あの人は何々商会の誰々」と脇に居る糜董の説明を聞きながら、内心で、「そんな人数のプロフィール何ぞ、覚えられるかぁ!?」と内容をほぼ聞き流し、笑顔で誤魔化す糜芳。
老若男女もとい老若男(会頭1人に、付き人が1人付いている模様)が次々と入場して来ると、
「下邳郡より、全家商会会頭・全栄様、お越しになられました!」
糜董と変わらない年齢の男が、ナイスバデー且つちょっと目つきが鋭い美少女(15歳ぐらい?)を伴って入って来た。
全栄という名の会頭の、美少女付き人を観た多数の他の付き人(恐らく各会頭の子息)と、一部の会頭が好色そうな視線を無遠慮に少女に送っている。
「う~ん、若いお妾さん同伴かぁ、こんな懇親会に連れて来るなんて、中々大胆だなあの人。」
全栄というオッサンの剛胆さに感心する。
「何を仰っているんですか芳様。
あの女性は全栄殿のご息女・娘さんで、え~と、確か全明さんですよ。」
余所行きの言葉遣いで糜芳を窘めつつ、訂正をいれる。
「え、そうなんですか?
じゃあ娘さん同伴させているのは、婚活ですか?」
「いえ、そうではなくて、非常に聡明で賢いらしくて秘書と言うか、側近的な扱いで溺愛している娘さんだから、単純に付き人としてと自慢を兼ねて、連れて来ているのだと思いますが。」
多少自信なさそうに説明する糜董。
「只、糜芳様、全栄殿にはお気をつけを・・・。」
「へ?何でです?」
「その~ですね、全栄殿はウチ=糜家を敵視しておりまして、ちょっと厄介というか何と言うか・・・。」
口ごもりながら、ポツポツと話す。
「ええ、敵視!?先祖の因縁とか、同業種としての損得のもつれとか、そんなんですか?」
「いや~、当代の私と竺が原因で・・・。」
「はい!?父上と兄上が!?どうやって?」
温厚篤実な2人が敵を作った事に、驚嘆する糜芳。
糜董に依れば、全栄が跡継ぎの長男の嫁さんにと、以前から親交のあった尹幹の娘・玲を欲した所、「糜董と子供が生まれる前からの約束が有るから」と断られた事に端を発して、隔意を抱かれる様になる。
続けて今度は糜竺と同門・同年・同位(同じ賤民出身)で、全栄の優秀な次男坊を世に出す為、せっせと就職活動(袖の下)をした結果、郡の軍部に将校として仕官が叶い、県の役所勤めをしていた糜竺と比べて上位に就いた事に、「フフン」と優越感に浸っていた。
しかし、とある少年が提唱した「屯田制度」の策謀に巻き込まれ、曹豹とは別の派閥に属していた次男坊は失職、全栄が次男坊の優秀さを吹聴していた事も手伝って地元でも居場所を失い、他州に暖簾分けの形で新たに商人として再出発する羽目になった。
次男坊の不幸に打ちのめされている折りに、隔意のあった糜董の息子で、次男坊とは同門・同年・同位の宿命のライバル(全栄視点)、糜竺が県から一足飛びに州の役人に出世した事に茫然自失、やがて「何で糜董の所ばかり!!」と激しい怒りを覚え、敵意剥き出しになったそうだ。
(因みに一連の全栄の話は、他州から尹玲との婚礼に駆け付けくれて、誰よりも祝福してくれた糜竺の親友である、全栄の次男坊からの情報提供だそうだ)
「・・・とまぁ、色々な事が重なってややこしくなったと言うわけでして、まぁ、長男の安君と次男の定君と竺との仲は良好なので、当代限りの話ではあるのですが・・・。」
「はぁ、それはまた降って湧いた災難ですね~。」
「いえ、あの~、問題の一端は確実に芳様が要因なのですが。」
糜董は、「何他人事みたいに言ってんの?」という視線を糜芳に向けるが、糜芳はふぃっと目を逸らして知らないフリをする。
(う~ん、それなら竺兄が以前零していた問題も、解決出来るかもと思ったけど、無理筋かな?
まぁ、後でとりあえずダメ元で、機会を見て声だけでも掛けてみるか・・・はぁ)
女性秘書兼側近の全明の話を聞いて、ピンと閃いた糜芳だったが、前途多難な事と知って、嘆息する。
そんなこんなで時間が過ぎ、寄り合いに招待された商会の会頭達が揃った所で、主催者の陳真が徐に立ち上がって、
「皆様方、ようこそ此度の寄り合いにお越しくださいました!主催者として1人の欠けも無く、ご出席頂いた事に感謝致します!
そして皆様方、お喜びください!我々の拙い寄り合いに、我らが徐州の誇りであり、洛陽の都人処か、皇帝陛下にまで高く賞され、「楽聖」と称される、右庶長・糜芳様が今回お越しになられました!」
バッと手の平を糜芳に向け、大々的に発表した。
オオオオォォォ・・・
「な、何とあの童が噂の・・・。」
「皇帝陛下も絶讃されたとか・・・。」
貴賓席に座る糜芳を訝しげに観ていた人達が、糜芳の素姓を知ってどよめく。
(いや、ちょっと!?
何か凄く大袈裟に話を盛ってない?・・・おおう、オッサンズの興奮気味な視線と、全栄とかの敵意剥き出しの視線がスンゴイ事に・・・)
オッサンズの上気した目つきと、全栄の刺すような目線にげんなりする。
陳真は、同郷では皇族の劉虞に次ぐ、(一応)大物となる糜芳の来訪兼歴とした初社交デビューに、自分が主催する寄り合い(懇親会)が選ばれた事に舞い上がっているのか、糜芳の紹介に熱が入る。
「・・・そして!何とこの度、我々と同じく商家出身で、今を時めく「今呂不偉」と呼ばれて時の権力者に成った、何進大将軍閣下の腹心、清廉裂帛の士にして政治家・大学者でもある、蔡邕様の御息女と成婚と相成り、中央にも太い繋がりを持った、徐州期待の星で有らせられます!」
陳真が必死に糜芳をヨイショし、自分の人脈はスゴいんだぞ!とアピールしている。
「ちょ・・・っ!」
思わず盛りまくったと言うより、聞き捨てならないワードを聞いた糜芳は、立ち上がって反論しようとするが、糜董に太腿近くをギュッと握られ、制止された。
(駄目だよ芳!
陳真殿というか主催者の言に、文句を付けちゃあ。
陳真殿の面子を潰す行為になるから、やっちゃいけない不文律を犯す事になるよ!)
(けど父上!
成婚してませんよ僕は!?既成事実を勝手に作られて広められたら、たまったモンじゃ有りませんよ!)
ヒソヒソと親子で言い合う。
(いやあのね芳、あんなに賢くて利発で良い子なのに、何が不満な訳だい?)
(娘さんの方じゃなくて、娘バカでイカレた蔡邕の爺を、舅にするんが嫌なんですよ僕は!?
誰が娘に手を出したと言って、斧振り回して追い掛けて来る、キ○ガイを舅にしたい婿が居ます!?)
リアル13フライデーを実体験する想像に戦く糜芳。
「・・・そして、うん?え~と、如何なさいましたか糜芳様?」
皆の視線が自分ではなく、奥の糜芳達に向いている事に気付いた陳真は、振り向いて糜芳に問い質す。
「あ!いえ、この様な場合、どの様に挨拶をすれば分からず、ち、ではなくて、糜董殿に確認しておりまして・・・はは、ご無礼をば。」
うっかり場所を弁えず、言い合う形になったのを咄嗟に誤魔化す。
「?左様ですか、え~話が長くなって申し訳ない。
それでは早速、糜芳様に一言お願いしましょう。
どうぞ、宜しくお願いします。」
妙な忖度をした陳真は、そそくさと話を切り上げ、糜芳に挨拶を促した。
「あ、はい!え~、皆様方初めまして。
陳真殿より紹介を受けた、糜芳と申します。
以後、お見知り置きを・・・。」
無難な挨拶をすると、
「我々賤民たる商人如きに丁重な挨拶、痛み入りまする。
此方こそどうか、お見知り置き下さいますよう。」
宴席の最前列に居る長老格の爺さんが拝礼し、それを観た後ろの人達もそれに倣う。
(う~ん、このまま「売官制度」についてサッサと話すべきか、宴に入ってから話すべきか・・・。
・・・良し、サッサと話そう、ちゃんとした判断力が有る内に言うべきだろうな~)
拝礼している会頭達を観て、決断する。
「宜しくお願いします。
・・・陳真殿、申し訳ないのですが少し皆様方にお話しをしたいのですが、宜しいですか?」
「はぁ、どうぞ・・・。」
糜芳の想定外の行動に、呆然としつつ頷く。
「ありがとうございます、では・・・コホン。
皆様方に大事なお話しが御座いまして、是非聞いて頂いた後、検討をお願いしたく・・・。」
「「「「「大事な話?」」」」」
会頭達が首を傾げて、疑問符を浮かべる。
「はて?如何なる話でしょうや?」
「はい、皆様方に大変な利益になるモノなので、安心してください。」
「「「「「ほう・・・大変な利益・・・ですか。」」」」」
ギラリと商人らしく目を光らす面々。
「はい、では・・・皆様方は「売官制度」はご存知でしょうか?」
「はぁ、確か金銭に応じて、自由に官職を買えるという制度ですよね?」
陳真が糜芳の問い掛けに答える。
ザワザワ・・・ザワザワ・・・
「??それがどう我々の利益になるんだ?」
「さぁ?サッパリ解らん・・・。」
ヒソヒソと会頭達が周囲と会話をして、ざわめき始めて、理解不能と疑問符を浮かべた。
「・・・まさかと思いますが糜芳様が官職を買いたいので、我々に自分に資金提供をしてくれ、という話ではありませんでしょうな?」
全栄が丁寧な口調ではあるが、ふざけた事を言うなクソ餓鬼が、という目線を、糜芳に送る。
「全栄殿が言った通りのお話ですかな?糜芳様。」
最前列の翁が、目を細めて尋ねた。
「いえ翁、資金提供して頂きたいのは確かですが、僕自身にではありません。
それだと僕個人の利益にしかならず、皆様方の利益にはなりませんので。」
「確かに左様ですな。」
頷く翁。
「では一体?」
「はい、此処にいらっしゃる皆様方と、徐州内の商人達で、徐州内の県・郡の「県令」と「郡太守」の官職を買いませんか?」
にこやかに糜芳は、会頭達に告げる。
「「「「「はぁ~!?県令と郡太守の官職を、我々が金を出して買う~!?」」」」」
糜董以外の出席者全員が、素っ頓狂な大声を上げる。
「何を馬鹿げた事を仰いますので?
糜芳様、ご存知の通り我々は「賤民」ですぞ!?
賤民の我々が官職を買った処で、法律上官職に就けない事ぐらいは承知しておりましょう!?
その様な捨て銭を、我々に出せと?正気ですか!!」
全栄が、顔を真っ赤にして非難し、
「「「「「そうだそうだ!!無駄遣いをさせるお積もりか糜芳様は!?」」」」」
全栄に同調して、一斉に他の会頭達も糜芳に非難する。
ワーワーと騒ぎ立て始めた会頭達を、翁の「鎮まりなさい」と静かだがよく通る声が響き、ピタッと静かになった。
「ふむ、確かにそれだけだと論外だが・・・。
我々に大変な利益を齎す方策をお持ちですから、わざわざ仰っておるのでしょう?」
顎に手を当て、糜芳を念押しする様に凝視する翁。
「ええ、無論です。
その疑問に答える前に、翁に訪ねたき議が有るのですが、宜しいでしょうか?」
「はて?何でしょう?」
「翁の長い人生に於いて、数多の郡太守や県令と会った事があると思いますが、「この人こそ、郡太守・県令に相応しい人だ!」と言える方は、どれくらいいましたか?」
「ふ~む~・・・百を越える人を観てきましたが、片手に余るぐらいですな。」
糜芳の質問に、腕を組んで瞑目して唸った後、片手を突き出して答えた。
他の会頭達も、「そんぐらいだろう」と頷いている。
(おいおいおい、片手に余るって事は4人以下かい!
全体の4%未満て・・・スマホゲーのガチャだったら詐欺紛いとして炎上案件じゃねーの?
どんだけマトモな人材が居ないんだよ、後漢は!?)
あんまりな話に、呆れる糜芳。
「え~と、ご回答ありがとうございます翁。
それを踏まえて皆様方、確かに全栄殿が仰っていた通り、皆様方が買っただけでは意味を成しません。
ですが、買ったそれらの官職を、その立場に相応しい人に譲り渡せば如何でしょうや?」
にやりと笑みを浮かべて、会頭達に尋ねる。
「???・・・・・・あ!!?我々の、我々の意思でマトモな県令と郡太守を、金さえ出せば自由に選ぶ事が出来るのか!!」
糜芳の意図を真っ先に悟った全栄が、興奮した状態で立ち上がって吠えた。
「「「「「あ!!確かに!?」」」」」
他の会頭達も気付いて、興奮気味に声を上げる。
糜芳が提案しているのは、日本の明治初期の選挙に近い感じの代物である。
日本明治初期の選挙は、高額納税者の富裕層しか選挙権が無く、僅か数%しか出来なかったが、後漢時代は僅か数%の高額納税者の富裕層でも、当然選挙権などなく、国家上層部(名家・宦官)から派遣された、9割強ハズレな人物が赴任して来て、唯々諾々と従うしかなかった。
しかし、売官制度のお蔭で僅か数%の富裕層(商人)が、自身は法律上官職に就く事は出来ないが、制度上は商人でも買えたので、優れたorマトモな人物に権利を買って譲る、もしくは代わりに用立てる事で、言わば金銭で選挙権を買う事が出来るという、裏技もとい抜け道的な活用方法が有ったのである。
残念ながらこの時代には、入札(元請けに対して複数の業者が、請負単価や納品単価を書いて提出し、最も適正価格に近い業者に、元請けが業務委託や商品納入を依頼する事)は有っても、「選挙」という概念が無かった為、実行される事は無かったが。
つまり、霊帝が定めたこの売官制度、糜芳の提案の様に活用すれば、問答無用でたったの4%未満の当たりを、常に引き続ける事が出来るという、チートコード的な代物であったのである。
何気に売官制度さん、天下の悪法処か上手く活用すれば、庶民・富裕層に最も恩恵の有る可能性を持っていた、画期的な法制度であった。
因みにだが、県令・郡太守の官職を買うのに、何故州牧史(刺史)は買わないのかと言うと、単純に買えないからである。
後漢王朝だけでなく大概の歴代中国王朝は、「州の管理者を地元出身者に任命しては駄目」という法令を制定して、地元出身者を地元の州の管理者にする事は先ず無かった。
これは中国民族特有の概念、「同郷意識」が強い為であり、州管理者が地元州で反乱や謀反を起こすと、地元民も同調して反乱や謀反に荷担する可能性が、非常に高かったからであった。
この同郷意識は、漢王朝から歴代中国王朝の、負の伝統と言うか風物詩と言うかの産物と思われ、その同郷意識が生まれる要因となったのが、漢王朝の地方に対する管理方法だった。
基本的に漢王朝は中央から、漢代でいう地方に刺史や太守を派遣して地方を管理する事が多かった。
(日本で言う国司制度に近い)
その為、中央から地方に左遷された刺史や太守は、中央に返り咲く為の手段(中央の偉いさんに賄賂)として、地方の政をほったらかしにして金策に奔走し、重税を課して搾取の限りを尽くし、地方民を苦しめた。
その挙げ句に地方で反乱や、異民族侵攻が発生すると、任務をほったらかしにして逃亡するという、無責任且つ身勝手なアホが多かった為、「自分達の故郷は自分達で守る!」という意識が地方民に芽生え、「皆は1人の為に、1人は皆の為に」的な団結力を形成して互助をする思想に発展、「同郷会」という互助組織の結成に繋がったのである。
結局漢王朝以降もしっかり同郷意識は根付き、中央に対する根強い不信感と、地元を愛する愛郷心と同郷出身者を大事にする思想を常に持つ様になり、歴代王朝にとって痛し痒しの問題となった。
それはさておき、
(まぁ最もこの裏技って中央の官職に適用すると、中央のアホ共が一致団結して、必死に潰しに掛かるだろうから、地方官職限定かつ、霊帝が生きている間だけの裏技なんだけどね)
内心でペロッと舌を出す。
「ご名答に御座います。
此処にいらっしゃる皆様方は、確かに官職を買っても就く事は出来ません。
しかしながら官職を相応しい人に譲れば、翁が仰っていた「片手に余る」極僅かな優れた人物に、常に地元の県・郡の治世をお任せ出来るのです!
地元に素晴らしい福音を齎し、地域住民に賞賛される行為を為すのは、他の誰でも有りません、今此処にいる貴方なのです!!」
ビシッと指を突き出して、アジって(煽動)みる。
ウォォォォォ・・・・・・!!
「確かにそうすれば・・・もう、度重なる袖の下を要求されたりせずに済む!」
「ああ、女を差し出せと、理不尽な要求をされる事も無くなるんだ!!」
「「「これで、あのロクデナシとおさらばだ!!」」」
今まで散々ろくでもない目に遭ってきたのであろう、会頭達が怒りと憎悪を滾らせて、悪徳県令や悪徳太守を罵る。
「ちょっと待った皆の衆!糜芳様!
因みに郡太守だと、どれくらいの金銭が必要になるのでしょうか?」
陳真が鼻息荒く糜芳に詰め寄る。
「え~と、そうですね・・・。
確か中央官職の最高位・三公が、500万銭程だった筈ですから、地方官職だったら県で数千から数万、郡でも数万から十万単位だと思いますが・・・多分。」
前世のうろ覚えの知識で、適当に答える。
「「「「「それなら安い物だ!!」」」」」
「金銭の負担額も郡なら郡、県なら県で各地域の商家さんで人数割りすれば、もっと安上がりになりますしね。」
「「「「「尚良し!!」」」」」
会頭達がほぼ一致して頷く。
(おおす・・・思った以上に食い付きが良かったな。
う~ん、念押しで危機感も煽っておくか・・・)
念には念を入れる糜芳。
「ありがとう御座います、ありがとう御座います!
これで、これで我らが故郷・徐州のとんでもない危難を回避出来ます!本当に良かった・・・。」
涙を流すフリをして、顔を袖で拭う。
「ふむ?糜芳様、徐州の危難とは一体何ですかな?」
「はい、実は我らが故郷・徐州を中央名家や宦官達が、根刮ぎ搾取する企てを知りまして・・・。」
「「「「「なにぃ~~!?」」」」」
会頭達処か、付き人も一斉に立ち上がって激昂する。
因みに糜芳の横で、「いやそんな事、一言も言ってなかったよね?」という糜董の呟きが聞こえたが、聞こえ無いフリして無視する。
「如何なる所存で、その様な無体な事を?」
「実は・・・・・・。」
6月に糜竺から売官制度の話を聴いて、笮融に詳細を探って貰った所、売官制度を受けて名家閥と宦官閥連中の間で、「下剋上」という名の内ゲバ状態に陥っていて、混乱の極致になっていた。
解任された袁隗の後の三公の地位を、名家閥の中堅クラスの崔烈が500万銭で買って就任した事で、「金さえ出せば出世出来る!!」と目の色を変えた中堅名家や宦官達が金策に走り、自分の上司の官職を金銭で買って追い落とす事例が多発、慌てて名家代表の楊彪、宦官代表の趙忠がそれぞれ派閥連中に、厳しく禁止を呼び掛けて制止するも、
「お前らも元々は己や父祖が、家柄と金で買った官職だろうが。
同じように我らが金で買って何が悪い!?」
主張して聞かず止まらず、自分達も官職を奪われて失脚する事を恐れ、自身の官職を買って、身の安全を確保する有り様だった。
挙げ句の果てに上位の官職が埋まると、今度はライバルの官職を買って失職に追い込み失脚させたり、買った官職を高額の金銭で売り買いする事例が多発して、制御不能に陥っていた。
そうした経緯を経て俄かに売官バブルが発生し、両派閥連中が商家に借金をしてまで、金集めに奔走した結果、借金の担保や見返りに、下級官吏の官職を商家の子弟にバラまく事となり、或る商家では幾つもの下級官職の官印を持ち、それを紐で結んで飼い犬の首に掛ける程であったという。
因みに何進や将軍府の連中は、キチンと結果を出している功績と、「売官騒ぎに巻き込まれたら、政治と軍事が機能不全に陥ります!」という諫言に近い、何進の上奏を認めて何進達の官職は売官されず、改めて再任されている。
ついでに、袁紹と袁術の2痴将も、「金で高位の官職を得る好機!」と考えて、それぞれ叔父の袁隗と父親の袁逢に金銭の無心をするも、袁隗が解任されて半年近く経っても復帰する兆しが無かった為、「袁家が再起する芽はないな」と判断した、スポンサーだった豪商達に拠って、袁隗・袁逢双方が貸し剥がしにあって借金の返済に追われ、官職を買う余裕など無かった。
「・・・という訳です。
中央名家や宦官達は、現状洛陽の商家に借金を重ねて返済に苦慮しております。
かと言って司隷は主上のお膝元、無体は出来ません。
じゃあ己の地元はと言えば、大概の地元は黄巾賊に荒らされ、マトモに税を取ることも儘なりません。
となれば、黄巾賊の被害が殆ど無い・・・。」
「「「「「我らが徐州という訳か!!」」」」」
糜芳の理由説明に、益々激昂する面々。
「ええ、その通りです。
皮肉にも華北で唯一毅然と黄巾賊に対応し、加えて官軍に物資援助をした事で、「徐州は豊かで搾取のしがいがある」と目を付けられた様でして・・・。」
口惜しげに唇を噛む。
「な、何たる無体、その様な横暴な事が、まかり通って良いものか・・・おのれぇ。」
余りに酷い内容に、ブルブルと怒りに震える翁。
(まぁ、今の所デマなんだけどね。
それが本当にならない様に、予防線を張らして貰ったんだけど・・・。
悪目立ちし過ぎて、ガチで狙われそうだからな~)
騙している形になって罪悪感は有るものの、現実になるよりはマシと脳内思考する。
史実では徐州も黄巾賊騒ぎの被害を被って、華北の他州よりは多少マシ程度で、そんなに目立たなかったのだが、「屯田制」の影響で黄巾賊騒ぎに便乗する盗賊達が壊滅状態になり、極端に被害が少なくなって、搾取される危険性が跳ね上がっていた。
「ふざけるなぁ!!そんなしょうもない理由で、徐州を荒らし、我々を踏みにじろうと言うのかぁ!?」
「「「「おのれぇ~!!国賊共めがぁ~!!」」」」
翁の言に1人が呼応して叫ぶと、残りも叫び声をあげる。
「皆さん!一刻も早く人選をして、悪しき企みを阻止せねばなりません!
今回の寄り合いの議題は、県は各自地元に戻って検討して頂き、郡だけでも擁立候補を確立するべきです!
とりあえず郡ごとに分かれて協議しましょう!」
「「「「「おお!!」」」」」
主催者の陳真の提案に呼応し、それぞれが郡ごとに分かれて、あ~だこ~だと人選を始めて激論を交わす。
周囲の寄り合い参加者が騒いでいる中、1人蚊帳の外になっている糜芳は、腕を組んで瞑目して、これからの予測をしていた。
(ふぅ、まぁとりあえずこれで、危機回避できたな。
県・郡は目処が立ったけど、徐州の州牧史は徐州民の俺ではど~にもならん。
まぁ沈賀のバ○殿が留任するみたいだし、州牧制度が発足するまでは安泰かな?)
「何もしない事が、最大の手柄」という謎の功績を得た沈賀は、自身が望んで徐州州牧史に留任する事を望み、それが朝廷に認められていた。
(けれど、沈賀のオッサンを州牧に、ってのは無理だろうな~やっぱり・・・。
現状華北に於ける、一大食糧供給源と「軍屯」のモデルケースになってるっていう、軍部を仕切る何進にとっては超重要拠点地域になっちまってるからな~。
そんな重要地域を元商人らしい、かなりの能力主義者の何進が、凡庸な沈賀のオッサンに任せっ放しにする筈もなし、時期を観てつーか、州牧制度時に交替になるのは間違いないだろうな)
何進の人間性を垣間見て、予測する糜芳。
(そもそも沈賀自体が何進の部下じゃないから、信頼もクソも無いしな・・・。
かと言って売官騒ぎで遊んでいる、アホ共の尻拭いを必死にしている現状で、幹部クラスの人材を派遣する余裕も有るわけでもなし、その辺は4年程度で改善されるモンでも無いだろうし)
う~ん、と唸りながら思考する。
(そうなると候補に挙がるのは、幹部クラスでは無く、そこそこ有能でそれなりに信頼が出来る人材か。
・・・って、どう転んでも陶謙になるやんけ!?
う~ん、歴史の修正力なのか?意図せず自然とそういう流れになっているような・・・はぁ、徒労感がハンパねーわ)
ため息を吐く。
(まぁ、徐州は陶謙のやらかしさえどうにか軽減すれば、後は呂布の争乱とキン○ボンビーが要らん騒ぎを起こす以降は、天下太平・平穏無事に過ごせるのが確定しているから、陶謙ルートを踏襲するのが無難ちゃあ無難なんだよな~。
陶謙以外だと予測不能且つ、もっと酷くなる可能性も有るわけだし・・・となると・・・)
やはり陶謙ルートかなと、とりあえず現状は規定路線を踏襲する事に決める。
因みに、糜芳が脳内思考をして、うんうん唸っている横で、東海郡の商家である糜董と他2名が郡太守の人選について話していた。
「え~と、石商会さん何か意見ありますか?」
「いや~論ずるまでも無いかと・・・。」
「・・・唐商会さんは?」
「石商会さんと同意見ですなぁ、糜商会さん」
石商会の会頭と、唐商会の会頭が糜芳をチラチラ観て、糜董も釣られて自分達の会話に気付かず、うんうん唸っている我が子を観る。
「・・・とりあえず郡に帰った後に、郡内の主な商家に是非を問いましょうか?」
「まぁ、そうですな、恐らく満場一致でしょうが。」
「他の郡の方々と違って、我らは楽ですなぁ。」
他の人達が人選に頭を突き合わせて悩む中、東海郡の3人はさっさと結論を出し、情報交換と談笑を始めたのであった。
こうして糜芳が投じた、爆弾発言により生じた激論は数時間に及び、ある程度落ち着いた所を見計らった、陳真の音頭で宴が始まったのであった。
惜しげもなく燭台に油をタップリ入れて灯し、高級遊廓から遊女を借り切って、美しい遊女が煌びやかな衣装で妖艶に舞い踊り、それを楽士が音楽を奏でて花を添えるという、豪勢な宴である。
宴が始まって半時ぐらいに、
「ちょっと厠に・・・失礼します。」
「では、私も・・・。」
「お待ちくださいご両人、不案内では迷いましょう。
私が先導致します。」
美人にお酌をして貰いながら、(水)杯を傾けていた糜芳は、周囲に中座してトイレに行く事を示唆した後、広間の後ろを通って出ようとすると、糜董が付き添いに名乗りを上げ、陳真が先導役を買って出る。
薄暗くなった廊下を手持ちの燭台で照らしつつ、厠では無くある一室の前に着くと、「此方でございます、どうぞ・・・」と入室を促した。
促されて入室した部屋には、部屋の燭台に照らされて人が座っており、
「お待たせしました、全栄殿、全明殿。」
先に待っていた2人に詫びる。
「・・・いえ、さほど。」
警戒心MAX状態で、ぼそりと返事する。
「して、私如きになに用でございますかな?」
「はい、いいえ、正確には息女の全明殿に話が有るのですが・・・。」
「え!?ワタクシにですか?」
いきなり話を振られて驚く全明。
「・・・娘になに用ですか?」
「はい、単刀直入に言うと全明殿、商会を立ち上げて経営者=会頭になりませんか?」
「「「はぁ!?会頭!?」」」
全明以外の全員が叫声を上げる。
「ほっ!・「ち、ちょっと芳じゃなくて芳様!?一体何を仰ますので?」
「左様ですぞ糜芳様!?女性の全明殿に商会経営者などと無茶な事を・・・。」
「・・・・・・。」
驚喜の表情を浮かべ、腰を上げかけた瞬間、糜董と陳真の言葉に腰を下ろし、口惜しげに俯いてギュッと手を握り締める全明。
「・・・如何なる理由でその様な話を?」
チラリと娘を観た後に糜芳に問い掛ける。
「全栄殿は州軍部が主導している、屯田制をご存知ですか?」
「ええ、無論。糜董殿の御子息が関与している事も含めて存じ上げておりますよ。」
「それなら話は早いですね。
その屯田制に於いて、どうしても肉体労働が合わない女性の数があぶれており、生計が成り立たず困っているとの事で、そういった女性達の受け皿になる事業はないかと思案していた所、娘さんの全明殿の話を伺いまして・・・。」
「ウチの明に白羽の矢を立てたと?」
「ええ、その通りです。」
訝しげに尋ねる全栄に、コクリと頷く。
この時代に限らずアジア圏に於いては、近代以前までは女性のコミュニティーはかなり狭く、実家の近しい親族以外だと母方の実家ぐらいしか繋がりが殆ど無い為、実家と縁遠くなり(両親・兄弟が死亡して代替わりする等)大黒柱の夫が亡くなると、収入源が途絶えて途端に困窮する事が珍しく無かった。
実際に呉の呂蒙の母も夫を亡くして困窮し、余所に嫁いだ姉妹の嫁ぎ先に転がり込んで、居候になっていたりと、女手一つで生きて行くのは非常に困難だった。
(徐庶の母はかなり珍しい例外)
「成る程・・・それなら糜芳様なり糜董殿が引き取れば宜しいのでは?」
「いえ、それだと女衒(女性専門の人買い)や遺族を奴隷にしたと勘違いされて、謂われの無い恥辱を軍遺族に与えたと誤解されかねず、屯田制の実施に悪影響を及ぼしますので出来ません。
あくまでも自力で生計を立てるのが目標なので。」
首を横に振って否定する。
「その様な経緯が有る為、女性の経営者が望ましいと思っていた所に、明殿が聡明で賢く、栄殿について経理・経営学のイロハを学んでいると聞き、コレは天佑と思い是非にお願いしたく。」
拱手して頼み込む。
「どの様な商売を目指しているので?」
「先ずは商家や物持ち(金持ち)等の、使用人としての就職斡旋をする口入れ屋。
次に裁縫を得意とする人達を中心に、軍袍(軍用衣服)の縫製を請け負う縫製業。
後は商家や物持ちの奥方や女性使用人を対象にした、小物や装飾品を扱う訪問営業とかですかね。」
思いついた業種を羅列する。
「成る程、それらの業務を行う商会を立ち上げるのに、明を表向きの会頭とし、私に設立の資金を出資せよという事ですかな?」
「はい?いいえ全然。
明殿を表裏なく正式に会頭とし、全栄殿には出資されると却って困りますので、出さないで頂きたい。」
キッパリと拒否する。
「は!?し、しか・「1つ、全栄殿、勘違いされないで頂きたいのですが、貴殿の娘だから声を掛けたのではありません。
僕が望んでいた適合者が、偶々貴殿の娘さんだったに過ぎません。
つまりは貴殿はオマケであり、最前から伝えている内容は明殿に言っております。」
「なっ!」「えっ・・・。」
「2つ、出資してくれるなという理由は、屯田制絡みによる軍部の紐付きは新商会の利ですが、出資による特定の商家の色が付くのは、商家の密偵や細作(工作員)と疑われたりして、就職や業務に悪影響が出かねないからです。」
「うっ、うぐぐ・・・。」
真っ当な正論に、二の句が告げれない全栄。
「3つ、じゃあ誰が出資するかと言うと、この僕・糜芳が全明殿に出資します!」
「「へ?」」
陳真と全栄両名が、ポカンと間の抜けた面をする。
「あ、あの糜芳様?大変失礼な事は重々承知の上で申し上げますが、商会1つ立ち上げるのには、それなりのお金が必要なのですよ?
卒爾ながら、糜芳様の年齢で用立てれる金額では難しいかと・・・因みに幾ら程お考えで?」
「え~と・・・100万銭程ですけど。」
「ひ、ひゃ100万銭!?そんなに何処から!?」
陳真がやんわり警告後に、糜芳が唸りながら答えた金額に驚嘆して、思わず実父の糜董を見つめた。
「まさか・・・糜董殿!
貴様糜芳様を出汁にして己の利権にするべく、裏で操っているのではあるまいな!?」
陳真の視線の先を観て激高し、邪推する全栄。
「へ?いやいやいや!そんな訳ないですよ!!
今この場で聴いて、寝耳に水の状態なんですから!」
手と頭をブンブン横に振って、文字通り寝耳に水なとばっちりを食らう糜董。
「では、何処から少年の糜芳様が、100万銭などという大金を得れると言うのだ!?」
「都の何進大将軍閣下から、糜芳様が巻き上げたお金ですよ!」
「はぁ!?何進大将軍閣下ってあの!?」
「どういう事ですか?糜董殿。」
陳真達が呆然と尋ねる。
「はぁ、私も詳細は知らないのですが、何進閣下と負ければ大将軍府に出仕、勝てば1千万銭を貰うという賭けをして、勝って得た金銭の様でして。」
「「い、い、1千万銭・・・・・・。」」
余りの金額と、時の権力者相手に賭けをするという、「いや~儲かりましたよ~」と頭の後ろに手を当てて、照れている糜芳の剛胆さに唖然とする2人。
「全栄殿、これは忠告として聞いて欲しい。
この糜芳様は、あの曹豹様や鄭玄様も平身低頭頭を下げて、敵対するのを心底恐れている方だ。
無論、最早私如きでは制御不能な、歩く人生の危険物・破壊兵器と化しているのだ・・・。
素直に聴けば害は無く、寧ろ多少の恩恵は有るから多分・・・きっと。」
「本人の目の前で、クソミソに言いますね~糜董殿。」
半眼で呻く糜芳。
「あっ、ご両人が零していた、「悪辣童子」ってまさか・・・?」
陳真の言葉に、コクリと頷く糜董。
「全栄殿、糜董殿の申す通り、糜芳様の話を受け入れた方が良い。
下手に断って敵対すると、徐州軍部と民部を敵に回しますぞ。」
「そ、そんな娘を差し出せと!?・・・。」
「いやあの~人を邪神扱いにして、さも生け贄を捧げるみたいに言うの、止めてくれません?」
手を上げて抗議する。
「大丈夫ですよお父様。
例えこの身や魂魄を捧げても、立派に商会を立ち上げて、迷える世の女性を助ける大任を果たして見せますので!」
「いやあの~僕が欲しいのは、経理・経営学の知識やそれに携わった経験なんですけど・・・?」
人の話をイマイチ聞いてくれない事に、戸惑う糜芳であった。
そして・・・数日後。
とりあえず最終的には、全栄も全明も糜芳の話に合意して、陳真を公証人として全明に、新商会設立の軍資金100万銭を出資する事を文書に記して、立ち上げ準備が済み次第、資金提供するだけとなった頃・・・
「旦那様、御父君と十数名のお客様が見えられましたが、如何致しましょう?」
「うん?父上と客人?何だろう・・・?
まぁいいや、とりあえずお通しして。」
書類処理を終えて、昼寝でもしようかとした矢先に、予定のない訪問に首を傾げる。
そして案内されて来た面々が、糜董を先頭にいきなり糜芳の前で拝礼し、
「この度糜芳様に於かれましては、ご機嫌麗しく存じ奉ります。
我ら東海郡を代表してまかり越した次第であります。
何卒我らが故郷・東海郡の太守に就任して頂き、中央からの魔の手から我々郡民をお救い頂きます様、伏してお願いに上がった次第です。
何卒ご了承くださいます様・・・。」
糜芳に太守就任を懇願する。
「へ?はい?僕が太守?」
いきなりの出来事に混乱して、自分を指差す。
「はい、徐州の危機を誰よりも早く察知した先見力、中央にも轟く名声と次期宰相と名高い、何進大将軍閣下との繋がりが有るという人脈・・・どれを取っても東海郡に於いて、糜芳様に勝る人物は居りません。」
「いやあの待って、待って!?僕子供、子供!?」
必死に子供アピールするも、
「そんな子供にも劣る人物しか居ないのですよ現状。
当然、今回の騒ぎの言い出しっぺが、知らぬ存ぜずと言うわけありませんよね?糜芳様?」
「・・・・・・。」
ニッコリと微笑む糜董に、「自分の言った事に責任を持ちなさい」と目線で言われ、沈黙するしかない糜芳であった。
時は185年9月~10月。
徐州に於いて州内の民衆が「売官制度」で買った、地元の県令・郡太守の官職を以て、人格者・賢人で知られる人物達を県令・郡太守に推戴する事態が多発、州内の県令・郡太守が多数新たに任官されるという椿事が発生した。
特に東海郡に於いては、僅か12歳の少年が太守に推戴された事が公になると、徐州処か近隣の州、果ては遠く洛陽の都にまで、話題が届く程であったという。
そして、正式に中央から任官が受理され、年明け早々に太守に就任するのが決定した、とある少年は、
「orz・・・最近こんなんばっかしぃぃ!?」
己の墓穴の深さに嘆いていたそうな。
続く
ちょっと早い様な、遅い様な・・・まぁ、兎に角主人公を表に出すことにした次第です。
とりあえず売官制度については、こう使えば良かったんじゃないかな?という想像で書いておりますので悪しからず。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




