その3
読んでくださっている方々へ
いいね・感想・誤字脱字報告、誠にありがとうございます!
誤字脱字の御指摘、ご足労をお掛けして申し訳ありません。
仕事が終わってから執筆活動をしておりまして、恥ずかしながら、週1前後のペースが精一杯であります。
平にご容赦を・・・。
糜芳邸執務室
「あ~う~・・・何でこの歳で、墓場の棺桶に片足突っ込まなあかんのよ~・・・ううう・・・。」
執務室の豪勢な机に、ぐで~と顔面から突っ伏し、呻く様に嘆く糜芳。
鳴り物入りで地元・東海郡にやって来た蔡琰の噂は、あっという間に郡内を駆け巡り、郡処か徐州全体にも広がりをみせ、蔡琰と糜芳は時の人となっていた。
必死に糜芳が、「婚約する処か破談になった」・「無理矢理婚約されそうになったので、逃げ出した」と幾ら主張しても信じて貰えず、両親から返ってきたのは、
「婚約者を置いて帰るとは、何考えてんのよ!?貴方という人は!?」
無責任過ぎる!と激怒した母・糜香のシバきと、
「うぉぉぉん・・・!良かった、良かったよ~芳!!
竺の時には幼少時から、尹幹の所以外から数多の結婚の申し入れが有って、対応に苦慮していたのに、芳の場合はひとっつも来なくて、嫁の来手が在るんだろうかと心配してたんだけど・・・。
本当に・・・本当に良かった・・・うぉぉぉん。」
聴いているコッチが泣きたい、父・糜董から齎された切ない裏事情だった。
「何を嘆く事がありましょうや導師・・・いえ殿、この度のご成婚おめでとうございまする。
利発で聡明そうな、良き御息女では有りませぬか。」
将来に於ける、曹操の徐州大虐殺防止対策のブレーン(参謀格)として、雇用して正式に家臣となった執事の笮融が、からかう様に凶悪面を歪ませる。
「結婚じゃなくて婚約だから、って・・・認めてねーからね?全くの事実無根だから!」
「はぁ、まぁ某は洛陽での事情を、承知してますので理解しておりますが、周囲の者からすれば、間違ってもそうは見えますまいな。」
「くっそう、ぜってーに筍2号の策略だろ・・・。
何時かきっと仕返ししてやんぞ、あの野郎・・・。」
バンバンと机を叩き、今の環境状況を作り出した筍2号こと、荀攸を呪う。
結局押し掛け婚約者としてやって来た蔡琰は、「齢七つにして、席同じにすべからず」という後漢の常識に従って、あくまで婚約者に過ぎない為、当然糜芳邸や糜董邸に同棲する事無く、蔡琰の父・蔡邕の同門の兄弟子に当たる、丁老師の家に居候として起居している。
そして当の蔡琰は、ちょくちょく糜芳邸ではなく糜董邸を訪れて、特に糜香と積極的に交流を行い、1ヶ月も経たずに今や、娘の様に可愛がられていた。
一応婚約者という立場の自分に殆ど関わらず、姑(予定ではなく未定)に積極的に交流するのに不思議に思った糜芳は、偶々蔡琰が帰って行く所にばったり出会ったので確認してみると、
「あっ、はい、杏姉様から、「いきなり本人と積極的に接触すると、本人に警戒されるし、周囲からも引かれるから止めなさい。
それよりも先に姑を籠絡して、味方に付ける方が肝要、味方に付ければ旦那がどう騒ごうと、コッチのモノだから」と教えて貰ったので!」
にぱ~と天真爛漫な笑顔で、狡猾老獪なゲスい事を言う蔡琰だった。でも可憐。
それを聴いた瞬間、脳内に「運命」ではなく、某パニック映画の金字塔、「上~手」のテーマの最初の重低音が流れ、背後に言い知れぬ焦燥感が過ったのは、気の所為だと思いたい。
(ま、まぁ気の所為な事は置いといて。
イレギュラー過ぎるイレギュラーだったけど、結果的に洛陽を離れれたから、結果オーライかな。
蔡琰の場合は、聡明な才女だったのが仇になって、悲惨な前半生を送る羽目になっちゃったからな~)
脳内思考する。
蔡琰の悲劇は、父・蔡邕が書いていた私史(私的に書いていた史書で、日記に近い)が原因で、起こったと謂われている。
何故私史ぐらいでそうなったかと言うと、蔡邕の人となりは直言居士=立場や状況を無視して阿らず、媚びず、顧みず、是は是・非は非と遠慮会釈無しに、正直に言う人として世間一般に広く知れ渡っており、それが原因で憎まれて、何回も逃亡生活を送る羽目になった程の筋金入りだった為、彼の書いた私史は公平無私かつ、真実を有りの儘に書いていたと言われていた。
つまり、偽勅(天下の重罪で、三族族滅相当)を使って董卓を暗殺した王允や、王允に組して協力した名家閥達には、自分達の現在から過去の悪行・痴政・暴逆が記された、非常に都合の悪い代物だったのである。
その為、董卓暗殺のどさくさに紛れて蔡邕を投獄し、後世の「後漢書」には、処刑したのは手違いだっただのと、すっとぼけた事が記述されているが、董卓暗殺後に投獄された人物は蔡邕以外に居らず、どう考えても最初から殺る積もりで処刑したのであった。
そして、蔡邕を投獄から処刑する前後に、王允とその配下達が私史を焼却処分する為に家捜しをした際に、運悪く居合わせたのが未婚で家に居た蔡琰だった。
皮肉にも彼女は、蔡邕自慢の娘・文才少女として知られており、「此奴も蔡邕の私史の内容を知っているのでは?」と疑念を持たれ、拉致られてしまう。
どんなに蔡琰が知らないと言い張っても、「悪魔の証明」にしかならず、聞き入れられる事はなかった。
しかしながら、捕らえた王允達も蔡琰の扱いに困ってしまう。
表面上は、「手違いで誤って処刑した」と公表した以上、蔡琰を連座で処刑する事が出来なくなったからである。
それに加え王允達を支持する者が、董卓による粛清で少数となった名家閥以外殆ど居らず、董卓の政策の問題点をズバズバ指摘して、矯正していた蔡邕を処刑した事で、余計に信望と支持を失っていた。
そんな中で、蔡琰に危害を加えれば益々窮地に立たされるし、かと言って行方不明にすれば、自分達が連れ去った事は周囲に知られているから、親族達が騒ぐのが目に見えている。
といった経緯で、王允達が解決策として考案したのが、「釈放した後に、異民族に誘拐された」という、後漢帝国の首都・長安のド真ん中で発生した、摩訶不思議・前代未聞の珍事件であった。
勿論そんなアホな話を信じる馬鹿は居らず、と言うか居たら見てみたい並みの、性もない詭弁を弄した王允一派は孤立し、主君・董卓の敵討ちにやって来た李寉達董卓軍残党に依って、誰にも助けて貰えずに悉く惨殺されたのである。
(王允達は因果応報だから、同情の余地もねーけど、蔡琰はとばっちりで不幸に見舞われたのだから、改変しても罰は当たらねーと思って、やってみたんだけどね?神様。
それが何で俺にとばっちりが来んの?おかしくない?おかしいよなぁ絶対に!?)
脳内思考した後、バンバンと再度机を叩く糜芳。
それはさておき、
「まぁ、その辺は殿のお気持ち次第ですので何とも。
・・・ではそろそろ、「御仏様の件」について、経過報告をさせて貰っても?」
其方は殿の御勝手にと突き放し、コレが肝心要の至上の命題だとばかりに、ズィッと身を乗り出す笮融。
糜芳は笮融が熱心な浮屠教徒なのを利用し、「御仏の御告げがあった」として、徐州大虐殺の対応策の要である食糧確保と備蓄を任せていた。
それだけ聞くと糜芳が、一方的に浮屠教を利用している様に聞こえるが、キチンと必要経費は払っているし、買い付けやそれに伴う輸送の人夫等の人材は、浮屠教徒を積極的に雇用したりして、浮屠教にも利益を供給しており、WIN=WINの関係になっていた。
「あっ、うん、宜しく。」
「え~では・・・去年末からの買い付けにより、10万人程の人が、1ヶ月は食っていける量を確保しました。」
「う~ん、まだまだ足りないね。」
「そうですな、目標は100万人程が半年程食っていける量ですので、全く足りません。
しかし、このまま買い付けを行い続けても、とても目標達成するのは難しいと言わざる得ません。」
凶悪面で渋面を作る笮融。
「あ~・・・やっぱり反乱が相次いでいるから?」
「はい、左様です。
反乱が国中で頻繁に起こり、騒動に巻き込まれたり略奪の憂き目に遭ったりとした結果、税が払えず田地を放棄して、流民になる者が多発しております。
その為に収穫量はドンドン減り、それに反比例して麦を始めとして作物の値が、ドンドン処か泰山の如く急上昇しており、支払う金銭との均衡が全く釣り合いません。」
神妙な顔で笮融は述べた。
「結構酷いの?」
「ええ、殿から最前預かった800万銭の銭も、買い付けのみに頼れば、あっという間に溶けますな。」
「そんなに!?」
自分の想像以上に、高騰している事実に驚いた糜芳。
「其処で殿に提案したいのですが、この辺りで買い付けを止めて、殿の地元・徐州では無く、他州で新たに土地を買って耕作地を得ませんか?」
「他州で土地を?つー事は1から作物を作って、自農自作するって事?」
「はい、その通りです。
作物の値段は高騰が続いてますが、土地の値段は逆に放棄・放置されて、寧ろ下落を続けていますので狙い目です。
初期費用と手間暇はそれなりに掛かりますが、人材面は人夫として雇用している者を、小作人として転用すれば人を忽ち集める必要が有りませんし、耕作地の警備も初期は結構な負担になりますが、耕作・収穫が進めば作物の一部売却で十分賄えましょう。」
理路整然と自説を述べて、
「そして何よりの利点は租税を抜きにすれば、安定した食糧確保に繋がる事です。
又、徐州で推進されている屯田制の様に、1から開墾・開拓せずに早く収穫が可能なのも利点ですな。
・・・如何でしょうか殿?ご決断を。」
利点もキチンと話す。
(う~ん、確かに・・・。
有るやら無いやら分からずに、闇雲に探し回った上に高額の購入費を払うよりも、遥かに健全だな。
それなら少しでも早い方が利か・・・)
利害得失を脳内で算盤を弾き、
「うん・・・笮融急いで出来る限り買い漁ろう。」
速断する。
因みに徐州で土地を買わないのは、他州と違って反乱騒ぎで荒れておらず、それなりに土地代が高い事と、曲がりなりにも「屯田制」の発起人が、土地を買い漁っていると悪評が立つのを避ける為である。
「はは、御意にございます。
それでは、買う場所・州の選定をしましょうか。」
「先ず遠方は無し。そして豫州・兗州も無しだな。」
「ふむ?何故にございましょうか?」
「そりゃあ当然、アホ共に搾取されるから。」
「ああ、なる程。」
頷いて納得する。
「となると、青州と揚州の2つですな。」
「う~ん青州は駄目かな、黄巾賊の影響が強そうな感じがするから。」
本音は苛政聖人(笑)が州牧になって、青州を荒らすのが解っているからだが。
「結局の所、揚州一択ですか・・・ふむ。
某の地元ですので、伝手を辿って安く多く買い込む事が可能です、是非やりましょう。」
お任せあれ、とドンと胸を叩いて自信を覗かせる。
「うん宜しく、笮融。
長江を挟んでいるけど、船を使えば周辺の州の陸路よりも、速く大量に運べる利点が有るし、万一徐州が反乱騒ぎで荒れても、策源地が離れていれば影響が少なく済むしね。」
「はは、御仏の慈悲を遍く知らしめ、浮屠の教えを広める千載一遇の好機、必ずや必ずや成功させましょう!殿いえ導師!!」
キラキラと凶悪面に似合わない、純粋な目で訴える笮融。
因みにだが笮融に、「こんな途方ともない事業に、協力してくれてありがとう」と、プロジェクトの最初の方に言うと、
「とんでもない!!某こそ、この様なやり甲斐・生き甲斐を感じさせてくれる上に、御仏の意に添った大仕事の大任を任せて頂き、感謝しております!」
涙ぐんで、逆に感謝された。
本人曰わく、何代も前より汲々と浮屠の暗部として浮屠教を支えて来たが、日の目を浴びずにいる事に鬱積した思いが笮融のみならず、暗部全体に澱の様に蟠っていた所に、糜芳が自分達暗部にしか出来ない御仏の御告げ、「衆生救済」と言う、御仏が行っていたとされる話を持って来た事で、今までの鬱積が晴れたとの事。
只でさえ浮屠教徒にとって、「御仏の意に添う」という誉れに加えて、活動資金をたっぷり提供してくれるスポンサー付きである。
「日陰者の自分達だって、活躍の場が在るんだ!」と奮起、笮融を中心に徐州から精力的に活動を始めた。
そして、浮屠教暗部コミュニティーにあっという間に情報が共有化され、最初は半信半疑だった他州の暗部達も、自分達が唱えていた、曖昧で杜撰なお経ではなく、糜芳が(ウッカリと)唱えた、完成されたお経(真言)を聴いて愕然、又教祖である仏陀の伝記も、失伝して途切れ途切れの部分を補完する形になった、糜芳の(無自覚に)伝えた仏陀伝を知って驚愕、
「ま、正しく御仏の御告げに違いない!!」
目の色を変えて、徐州の笮融に負けじと積極的に協力を申し出て来たのであった。
「うん?そう言えばさ笮融。」
「はい、何でしょう?」
「いや、洛陽にちょくちょく行っているけど、総本山の白馬寺から「衆生救済」について、何の接触も連絡も無いけど、ちゃんと伝わっているのかな?」
首を傾げて尋ねると、
「・・・僧正様を始め、御坊様方は解脱を目指して日々修行をされて居られます。
その様な折りに、俗世の俗事に関わっておられる暇など、無いのでありましょう。」
玉虫色の回答を返してきた。
訝しんだ糜芳はじ~と笮融を観察すると、ス~と笮融の目が左右に泳いだのを観て、
(暗部達が一致団結して、黙秘してやってやがんな)
自分達の活躍の場を奪われない為に、上層部(総本山)に連絡していない事を確信したのであった。
糜董邸居間
笮融との密議から暫く経って、寒さが遠のいて新緑の季節・6月となった糜董邸では、久し振りに糜竺が地元に戻って来て、親子3人が四方山話に花を咲かせていた。
「いや~芳、結婚おめでとう。
利発で賢くて、可愛らしい子じゃないか。」
「いえ兄上、婚約処か結納すらマトモにしてませんし、そもそも何度も言いますけど、何進大将軍達の陰謀ですからね!・・・あ、何なら兄上、第2夫人にどうですか?」
「いやあのね・・・自分の婚約者を秒で、実兄に押し付けようとするのは止めようね?芳。
私には、尹玲が居れば十分だから。」
苦笑いしながら拒否する糜竺。
「・・・そうですか、じゃあ父上に任せるしかないですね、しょうがない・・・。」
「何処がしょうがないの!?
止めて!香に聴かれたら私の命が無くなっちゃう!」
オドオドと挙動不審に周囲を見回す糜董。
何気に蔡文姫を、父兄に押し付けようと画策する糜芳だったが、失敗に終わる。
「まぁまぁ、この話はそろそろ止めようか?
そう言えば父上聴きましたか?三公にして驃騎将軍に任じられた張温将軍が、涼州の反乱軍討伐の為に5月に洛陽を出陣した事を。」
「ああ、その話かい。
聴いた限りじゃ、余り芳しくないみたいだねぇ。」
糜竺の話題変更に、糜董は相槌を打ち、
(まぁ、実際は甚大な被害を被ったみたいだけどね)
糜芳は心中で、詳細を付け足した。
笮融達、浮屠暗部情報網に拠ると、
4月末、ちんたらしていた軍編成が漸く終わり、5月頭に、「大将軍府企画(有)発案・司隷横断!涼州・鏖殺(皆殺し)地獄と、并州・泥沼地獄を実体験する、死出の旅路ツアー」に出発し、張温軍という名の宦官閥軍の先遣隊約2万騎が長安に到着、本隊を待たずにして強行偵察を行った結果、バッタリ反乱軍約5千騎と遭遇、戦闘になった。
何故か反乱軍は騎射を行わず、直接戦闘に応じた結果数に押されて劣勢となり、総崩れ状態となって撤退を開始。
それを観て先遣隊は即座に追撃を開始、猛然と反乱軍を追い始めた為、偶々先遣隊の軍監(監視役)として本隊から派遣されていた、参軍(参謀)の孫堅が、
「明らかにおかしい!間違いなく貴殿等を罠に引き込む為の釣りだ、追撃を止めろ!!」
大声で警告して諫めるも、血気と手柄に逸る先遣隊は聞き入れず、無視して逃げ出した反乱軍を追撃。
追い付きそうで追い付けない、絶妙な距離感を保ったまま暫く追走すると、突如無数の矢の雨が左右から降って来たと同時に、前方の反乱軍も騎乗のまま後ろを向いて矢をつがえて発射、反転して先遣隊に突撃を行い、周囲からもワラワラと騎兵が隊を為して雄叫びを上げ、襲い掛かった。
こうなると、前方に馬を走らせるぐらいの技量しか無い、なんちゃって騎兵隊は為す術も無く極度の混乱状態に陥り、右回りに反転しようとして、左回りに反転しようとした馬にぶつかったり、どうすればいいのか判らずに立ち往生したりと、せめて一点集中突破すればまだどうにかなるのに、それすらもマトモに考えられず、容赦なく韓遂達反乱軍に討ち取られていった。
あわや全滅かと思われた時、孫堅率いる2百の騎兵隊が、包囲を狭めてトドメを刺そうとしている後方の一点を突破、脱出路をこじ開け辛うじて残っていた残兵を引き連れて脱出に成功、一目散に逃げ出した。
しかし、後一歩の所で完勝を逃し、孫堅のトレードマーク・紅い巾を見た涼州反乱軍は、
「あ!あの紅い巾は・・・江東の紅狐野郎!?
おどれ~!1度ならずも2度まで、わし等を虚仮にしくさりやがって~、ぶっ殺したるわ~!!」
闘牛の如く怒り狂い、前回の雪辱も合わさって猛然と追撃を始めた。
涼州兵の厳しい追撃に晒された殿の孫堅は、必死に応戦して暫くは持ち堪えたが、支えきれずこれ以上は無理と判断、非情だが生き残った先遣隊を囮に、脇に避けて完全に逃亡態勢に入ったのだが、
「「「誰が逃がすかや!クソボケがぁ!?
往生せいやぁ!!この腐れ狐野郎がぁ!!」」」
「はぇ!?何で俺の方に全軍が来んねんな!?」
殺マニア兵のほぼ全軍が、孫堅を追撃したのであった。
最終的には孫堅隊は散り散りになり、散々追い掛け回されつつも辛うじて生き延びた孫堅は、結果的に友軍の危機救出と、自らを囮に友軍を生還させた功を立てたとして、高く賞された。
しかしながら、この戦闘により先遣隊約2万騎は、2千にも満たない数になって大敗、張温軍はたった1回の戦闘で大打撃を受けた。
あまりの反乱軍の精強さに恐れ戦いた張温は、度々董卓に救援と合流を要請するも、董卓からの返答は、
「どうしてもと言うならやむなしだが、もしも異民族が襲来して来た場合は、其方で対処して頂く様になるのだが、宜しいのですな?」
そう言われると何も言えなくなり、韓遂以上の強敵と対峙するのを恐れて、押し黙るしかなかった。
こうして初手から、反乱軍への対抗手段を失った張温軍は、手も足も出せなくなって、6月現在長安から動く事が出来ない状態に陥っている。
(まぁ、なるべくしてなった訳だ。
想定通りになったから、このままいくと并州に逝くのも時間の問題だろうな)
ご愁傷様と手を合わせる糜芳であった。
それはさておき、
「そう言えば父上、洛陽の都より州に伝達が来たのですが、主上が「売官制度」なる、とんでもない制度を制定したとの事です。」
糜芳が思考している間に、別の話題に変わっていた。
「売官制度?」
「はい、売官制度とは官職に応じた金銭を支払えば、その官職を得る事が出来る、と言った制度とか。」
「う~ん、世も末だねぇ・・・本当に。」
「ええ、全く・・・嘆かわしい事ですね。」
糜董・竺親子が揃って嘆き、溜め息を吐く。
(へ~、売官制度ってこの時期に制定されたんだ~)
ふ~んと内心でなるへそと思考する糜芳。
1人同調しなかった糜芳に糜竺は、
「芳もどうだい?嘆かわしい事だろう?」
改めて呼び掛けるも、
「いえ、全く。
寧ろキチンと法令化されて、万々歳ですね。」
糜竺とは真逆に賞賛する。
「「ええ~~!?何で!?」」
思ってもみなかった返答に、親子揃って素っ頓狂な声を上げて、糜芳に疑問をぶつける。
「いや何でって・・・父上も兄上も、売官自体はとっくの昔から行われているのはご存じですよね?」
今更何言ってんの?と言った顔で、説明を始める。
そもそも売官制度が制定される前から、売官自体は普通に行われており、仕組みとしては、
官職Aを得る場合・・・地方なら伝手を辿って(伝手を介した分だけ紹介料が発生)中央名家・宦官に依頼する(仲介料が発生)→官職Aの相場に相当する相場料を払う(手数料も別に発生)→朝廷から正式に任官される(謝礼金が発生)→官職Aを得る・・・である。
(史実として、何進も外戚になった時に「河南尹」という官職を得たのだが、宦官を仲介して莫大な金銭で得ている)
そうして幾つもの過程を経て、その都度料金が発生して支払った金銭は、当然「非公認」なので、一銭も朝廷(国庫)に入らず、中央名家・宦官達が懐に全てポッポにナイナイ(着服)という、朝廷(皇帝)からの官職に応じて(三公・九卿等)委任されていた任命権を悪用し、名家閥が考案・構築をした汚職システムなのであった。(宦官はそれを真似ただけ)
その半ば公然と行っていた汚職システムを、霊帝は正式に「公認」する事で、今までの様にクズ共を介さずとも、朝廷に直接必要額を納めれば任官出来るようにして、クズ共が不正に着服していた仕組みを破壊、立て続けに発生する内乱に拠って、金銭不足が顕著になった国庫の補填に充てたのが、霊帝が制定した「売官制度」の仕組みであった。
「・・・と言う訳です。
つまり、主上の売官制度というのは、以前から行われていた売官行為に拠って、汚吏(汚職官吏)や悪吏(悪徳官吏)が私腹を肥やしていた金銭の流れを断ち、金銭の行き着く先をクズ共から、朝廷の国庫に入る様に健全化した制度なのです。
・・・コレって嘆かわしい事ですか?」
「「いや全然。寧ろ喜ばしい事だね。」」
首を振って、糜芳の意見に同調する親子。
「・・・じゃあ風の噂で制度制定に当たって、百官が反対して、心ある者が嘆いたっていうのは?」
糜竺が州庁で聴いた噂を、糜芳に真相を確認する。
「百官の方は恐らく、単純に自分達の利権を奪われて、金銭を着服出来なくなる事に反発し、尚且つ己自身の悪行を棚に上げて、悪し様に非難しているだけでしょうね。」
「く、クズ過ぎる・・・。」
あまりの中央官吏の腐敗ぶりに、二の句が継げなくなった糜竺。
「後は心ある者ですけども、ど~せ心ある者といっても名家閥の事でしょう?
自分達が不正と腐敗が横行する仕組みを作っているのに、嘆く事自体不自然でおかしいでしょうが。
そもそも、本当に心ある者だったら、そんな禄でもない組織にいる筈が無いでしょうしねぇ。」
「確かにその通りだねぇ。」
糜芳のド正論に頷く糜董。
(まぁ、恐らく袁隗が三公を解任されたのも、売官制度について諮問か何かされた時に、反対したからだろうな大概。
そら~な、自分達は不正に売官してOKなのに、霊帝がキチンと売官するのは駄目なんて言われたら、霊帝もブチキレるのは当たり前だろうし。
しっかし、霊帝さんもアイデアマンとしては本当に優秀な人なのに、そのアイデアを上手く具現化する人材に恵まれなかったのが、不運だよな~)
霊帝の不運に同情する。
「後漢書」ではかなり悪し様に記されている霊帝だが、実際には「上手く」運用すれば優れた政策を残している。
霊帝の2大失政と謂われる中の1つ、「売官制度」も前述の通りだし、もう1つの「党鈷の禁」もそうであった。
「党鈷の禁」を発令したのも、背景には権力が肥大化して傲慢化していた、名家閥(袁家や楊家等)を掣肘する為であった。
本来なら売官システムを構築した、名家閥トップの袁家を含んだ上位陣を潰し、蔡邕や盧植といったマトモな人材を残す制度だったと思われるが、運用を任された張譲達宦官が馬鹿過ぎた。
自分達を正面から非難する蔡邕達を私情で逐い、袁家達が用意した「蜥蜴の尻尾切り」要員を潰す事で満足して、肝心の大魚を放置するという、なんともなアホっぷりである。
結果的に、マトモな人材が宮廷内に居なくなってロクデナシが残り、余計に不正と腐敗が深刻化してしまったのであった。
又、後年に設立する「西園軍・西園八校尉」も、トップが蹇碩という、アホな名家閥・宦官閥の巣窟(曹操と一部除く)となって史実ではマトモに機能する事なく、不正が横行して指揮官の校尉達が、処罰・処刑される不祥事が多発して機能不全に陥り、金食い虫の無駄飯喰らいに終わってしまう。
只、キチンと機能を発揮すれば煩雑な手続き抜きで、皇帝の裁可1つで即座に出動出来る、「即応軍」の性質を持っており、コンセプトとしては当時の状況に沿った結構優れたモノであった。
(後に、曹魏の曹操が西園軍の構想を実現化し、虎豹騎等の即応軍を設立している)
政策を支える優れた補佐役が居れば、後世の評価がガラリと変わった可能性を持つ、惜しい皇帝であった。
それはさておき、
「後は、今回の売官制度って、地方出身の人にとっても恩恵があるんですよね。」
「うん?そうなの?」
糜芳の発言に、興味を示す糜竺。
「ええ、以前の非公認売官機構・機関だと、どうしても中央名家か宦官を間に介していたので、嫌でも連中の紐が付き、派閥の枠組みに組み込まれていました。
けれども、新しい制度のお蔭でクズ共と関わりを持たずに、直接朝廷に仕官する事が可能になりましたので、兄上みたいに清廉で有能な人が忖度なく、堂々と出仕する事が出来ますね。」
「成る程ね・・・ちょっと面映ゆいけど。」
糜芳に褒められて、苦笑しながら照れる。
因みにだが、この利点を最大限に利用し、一世一代の大博打を打ったのが曹操の父・曹嵩である。
曹嵩は前述した通り宦官閥に属していたが、正式な宦官ではない事と、出自が最古参の名家・夏侯家だった事が合わさり、蝙蝠扱いをされて不遇の身だった。
(実際に曹操もコツコツ実績を積み重ね、自力で社会的地位を得ている)
そんな折りに今回の制度が制定され、趙忠達十常侍に憚る事無く、自力で官職を得られるのを理解すると、「これだ!今こそ絶好の機会!!」として、義父・曹騰が残した遺産をかき集めて、約1億銭もの資産を現金化し、三公の太尉(日本で言う防衛大臣に相当)・九卿の大司農(農林水産・金融・財務大臣)・同じく大鴻臚(外務大臣)の官職を得た。
これにより曹嵩は霊帝から、自分の政策の良き理解者として信用を得る事に成功、深い繋がりを持った。
信用を得た曹嵩の目論見は恐らく、このまま10年・20年と信用を積み重ねて行き、流石にいきなり三公は無理でも(就任から1~2年で辞任した)、大司農か大鴻臚ぐらいは、子の曹操に引き継ぐ事が出来、それを次代・次次代に繋げていく事で曹家の名を引き上げ、「四世三公」の袁家や楊家の様な、名(曹家)実(夏侯家)共に累代の名門化を目指したのではないかと思われる。
只、まぁ名門化を画策した曹嵩の最大の誤算は、次代に官職を引き継がせる処か、自身が就任して僅か数年で、肝心要の霊帝が早世した事であった。
結果、霊帝の信用のみで成り立って得ていた官職だったので、何進の様に甥の弁皇子といった後ろ盾が無い曹嵩は、国家元首の世代交代に依る交代人事で失職、1億銭もの大金がパーになってしまい、博打は大失敗に終わってしまう。
この時のショックで曹嵩は隠居、曹操が家督を継ぐ事となる。
こうして中央では、曹嵩を筆頭に崔烈等の人物達が官職を買って、重職に就いたが、1番霊帝が期待していた地方出身者は、全くと言って良い程無反応だった。
それと言うのも、
(・・・まぁ、ホンマもんに心ある地方出身者は、郭泰だったっけ?みたいに、「漢王朝、病膏肓(重病で手遅れな様子)に入れり、手の施しようも無し」と捉えて、とっくの昔に見放してるんだよなぁ・・・)
優れた人程国家の末期と考え、大金を投じてまで中央の官職を得る意義を見出す事は無く、そのまま無視したのであった。
「ふ~ん、よく考えられているんだね~芳。
竺がその気なら私は協力するけども、どうする?」
「・・・いえ、私は結構です。
県から州に一足飛びに上がったばかりですし、任された仕事を放り出すのは、不義理ですから。」
首を横に振って、やんわり拒否する。
「え~、じゃ・「お断りしますよ!冗談じゃ無い!」
喰い気味にキッパリ拒絶する糜芳。
「え~?君は官爵っていう地位持ちなんだから、それ相応の立場を持っておくべきじゃないかい?」
「人様の為、世の為に貢献して得たモノならともかく、偶々降って湧いた話や、他人の褌巻いて得た地位で官職なんぞ得たら、非難囂々ですよ!」
宮廷内で貶される姿を想像・・・想像?して、「あ、俺なら絶対仕返しするわ」と思いつつ、テキトーな言い訳をする。
「う~ん、そんなものなのかね~?」
「そうですよ!それにそもそも僕は、12歳ですよ?じゅう、に、さい!こんな弱年で、宮廷に出仕する奴居ますか!?」
「「あ、そう言えばそうだっけ?」」
「実の子弟の歳ぐらいは、幾ら何でも覚えておいてくださいよ!?」
ポンと手を打って、忘れてたとばかりにあっけらかんと言う父兄に突っ込む。
(何が悲しゅうて、同年代と野山を駆け回る歳で、むくつけきオッサン共と宮廷内を駆け回らにゃあいかんのじゃい!?冗談じゃねー!!
それにもし出仕したとしたら、間違い無く何進の所だろうし・・・)
目に隈を常時作っている荀攸の横で、同じく目に隈を作ってせっせと働く背後から、とっても素敵な笑みを浮かべた、鉞担いだ金太郎(蔡邕)にビシバシ扱かれる(物理)のを想像し、背筋を凍らせる。
「と、とにかく!僕にはまだ早いですよ・・・。
それよりも父上郡規模、出来れば州規模の商家の寄り合い(懇親会)が有るようでしたら、是非ともその折りに連れて行って貰えませんか?」
仕官話はコレで終わりとばかりに、話題を変えて糜董にお願いをする糜芳。
「え、寄り合いに?
え~と、確か州規模の寄り合いが、再来月ぐらいに有るけども・・・いきなりどうしたんだい?」
「いえ、我らが故郷・徐州を未曽有の危機から救う為、売官制度を最大限発揮する方策が必要になるので、その際に父上を含んだ商人の合力が不可欠なので、お願いします。」
「ええ!?なにそれ?」
糜芳の発言に驚いた表情を浮かべる。
(下手すると、徐州全体で取り組んでいる、「屯田制度」が潰れる危険性が高いからな。
それと同時に曹操対策にも、支障が確実に出るだろうしな~・・・悪目立ちし過ぎたなぁ)
はぁ、と内心溜め息を吐く。
「う~ん、未曽有の危機ねぇ・・・竺が言うと素直に危機なんだと思えるんだけど・・・芳が言うと途端に胡散臭く聞こえるのは、何故なんだろうか?」
「ほっといてください。」
徐州を救う策謀を聞いた糜董に、胡散臭そ~な視線を送られる糜芳であった。
続く
え~と、「売官制度」・「売官システム」と「曹嵩1億銭」のくだりについては、実際はこうだったのでは?という、個人的見解的な想像ですので悪しからず。
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