その6
この物語はフィクションです。
実在する人物・地名・組織・団体とは関係ありませんよマジで。
呼んで下さっている、読者の方々へ
投稿が遅れて大変申し訳ありません!
夏バテ+熱中症になってしまい、寝込んでしまいました。
遅れた事に平に御容赦を・・・。
それと読者様の感想に手厳しい御指摘がありまして、「確かにそうかも」と納得して調べてみると、広島や兵庫のとある市長さん達、女性議員の方々の様に立派な人達が居るのを改めて知り、
「世の中捨てたもんじゃないな~。」
と痛感し、蒙が開けた気持ちになりました。
きっかけを作ってくれた方に感謝を。
ただ、前回に書いてある私の気持ちは、マスコミに拠る物でなく、実際に聞き知った出来事から来ている気持ちです。
建設関係に携わっていると、どうしても公共事業との関わりは在るもので、大概の建設関係者は事業の闇深い話を聞いてしまうモノです。
とある大口の公共事業の、闇話を教えてくれた監督さんから聞いたのですが、その時私は「あ~適当言ってんだろうな~」と軽く流していたのですが、数日後にその公共事業の取材映像を観たときに、「あれ、この前の監督さんやん!?ウッソ!じゃああん時言ってたのって・・・」闇話を教えてくれた監督さんが映っており、あの時の衝撃は十年以上経った今でも忘れられません。
己の利権の為に市民・県民・国民の税金を湯水の如く使おうとする議員。
素人目から観ても、メリットよりデメリットの方が大きいと理解出来るのに、掣肘せずに忖度している官僚。
利点ばかり放送し、明らかな欠点は殆ど放送しないマスコミ・・・。
そう思うと、斜に構えた視線でしか観れなくなってしまいました。
まぁ、結局民主党政権に変わり、事業凍結になり今も行われていないので、ホッとしていますが。
闇話をチラホラ聞いていると、中々にキチンと観るコトが難しく・・・。
あっ、フィクションですよ、フィクション!
意外とこの業界、情報通・事情通な方がおりまして、色々な情報を知ることが出来ます。
そっくりさんの映画が、有名になってしまった今は亡き、アクションカンフースターにまつわる厄ネタとか。
浅学な身で有りますが、これからも精進に努めますので、宜しくお願いします。
司隷・洛陽洛中
「あ~、かったりぃ~な~・・・。」
心底面倒くさそうにブツブツ呟く糜芳。
10月に笮融を雇用して、笮融の紹介で浮屠教関係の護衛も雇用し、それと並行して一部の使用人を実家の糜家から貰ったりして、辛うじて家の体裁を整えた糜芳は、新興家の当主として初めての新年を迎える準備を行っていた12月の初頭に、洛陽から勅使が下向。
何だろう?と首を傾げていると、「主上に年始の挨拶をしに上洛・参内せよ」と勅を発せられ、新年の準備と並行して、上洛の準備もする羽目になったのであった。
ドタバタと慌ただしく新年を迎えたと思ったら、直ぐに上洛に向けての出発の準備に右往左往。
新しく糜董家を老齢の為後任に譲り辞して、糜芳家に移籍した、徐州の世故に長けていて、それに疎い笮融の教育を兼ねて着任した、趙家令に留守居を頼んで東海郡を出発、前回と同じく下邳郡に立ち寄り、州牧史の沈賀の上洛・参内に便乗(此方は義務)して、一緒に洛陽出身の大蝉を供に、沈賀共に洛陽にやって来たのであった。
「はぁ~、かったるいけど、今回は個別じゃなくて他の人達と一纏めてらしいから、サッサと年始の挨拶を済ませて帰れるな・・・。」
溜め息を尽きながら安堵する糜芳。
沈賀の話に拠ると、上級の官爵クラスの人達は個別に謁見して挨拶するのが通常らしいが、中・下級クラスや糜芳みたいに、勅で呼ばれたぐらいだと十把一絡げに纏めて謁見・挨拶して、ハイおしまいで終わるのが通例のようだ。
そして沈賀と洛陽到着時に別れ、笮融の紹介で司隷方面の浮屠教教区長を務める人物の家に宿泊させて貰い、護衛と共にてくてくと宮城に向かう。
「お勤めご苦労様です。
徐州・東海郡在、五大夫の糜芳が年始の挨拶を主上にする為、勅に依ってまかり越しました。」
出来る限り丁寧な挨拶を心掛けつつ、懐から勅使から渡された符(証明書)を、受付担当者に渡す。
「あ、はい、徐州の糜芳様ですね?
え~と、徐州の糜芳・・・徐州の糜芳・・・あ、有りました有りました。
では謁見控え室で担当者が呼ぶまでの間、お待ち下さい。」
端から観れば、まだ子供の糜芳の姿にも驚かず不審がらず、営業スマイルで対応する担当者。
受付近くに待機していた案内役に先導されて、控え室に入ると、大勢の人達が控え室で待機していた。
(うぉぉ・・・老若男のオッサンの集団だ。
つーか、ガキなの俺だけで疎外感がハンパねー・・・居心地悪~)
オッサン連中の不躾な視線を受け、一礼した後月見草の如く隅にひっそりと佇む。
ザワザワ・・・ザワザワ・・・
「何処の子だ?」
「いや、誰ぞの名代じゃないか?」
「いやいや、先代が若死にして、当主として参内に来た可能性も・・・。」
1人だけ低年齢なのを興味深げに見詰め、色々と周囲の人達と考察しているオッサン連中。
好奇の視線に晒された糜芳は、顔を壁に向けて、「俺は木、俺はその辺の木・・・」と都会の洛陽では違和感しかない台詞を呟きつつ、周囲の視線を自分なりにシャットアウトする。
存在感を空気化するのに必死に心掛けていた糜芳だったが、呼び出し係と思われる人が、
「徐州の糜芳様!徐州の糜芳様は何処にいらっしゃいますか~!?」
大声で自分を呼び掛けてきた。
周囲のオッサン連中が、キョロキョロと呼ばれた人物を探し回っている最中、おずおずと手を挙げて、自分ですとアピールする糜芳。
「おお!其方で御座いましたか!」
オッサン連中を掻き分けて、糜芳を目掛けて近づき拱手すると、
「今より主上に謁見を行うのですが、主上直々の命により、糜芳様が先頭に立ち年始の挨拶をするよう、とのお達しに御座います。」
周囲にハッキリ聞こえる声で伝える。
ウォォォ・・・ザワザワ・・・ザワザワ・・・
「えっ?僕が、何で?」
周囲のざわつきをBGMに係に尋ねるも、
「さあ?私如きの立場では判りかねます。
それでは主上謁見に参りますので、糜芳様を先頭に他の方々も付いて来て頂きますよう、お願いします。」
糜芳の疑問をあっさりスルーして、糜芳を先頭に引っ張り出して謁見の間に先導する担当者。
「どういう事だ?」
「何故あんな子供が、主上に指名されるのだ?」
「そもそも何者だ?あの者は・・・。」
後ろから羨望や嫉妬、疑問の声が渦巻いているのが、バシバシと聞こえる。
前回の謁見は、主上の私的な事情での謁見だった為、左右に侍っていた文武官以外は糜芳の存在を知らず、その為に今回の様に毎年謁見に臨んでいる人達には、全くの未知の存在であった。
そうした人達の視線を背後に受けながら、謁見の間に入った糜芳は、既に着座している霊帝を直視しないように心掛けつつ、顔を伏せた状態で拱手したまま中腰で小走りに駆け、ボワァァンと銅鑼の鳴った位置で停止、その場で拝礼をする。
(うぉぉ・・・こ、腰がぁ・・・。
何でこんなヘンテコな格好で、小走りに走んなきゃ行けねーんだよ!?
もうやだ・・・礼儀作法面倒くせぇ・・・。
よく後ろのオッサン連中毎年するよな、尊敬するわ)
土壇場で教えてくれた係の人に感謝はしているが、煩わしい礼儀作法にウンザリする糜芳。
そして拝礼したまま、
「勅に依り参内しました糜芳に御座います。
主上に置かれましては相変わらずの御壮健、祝着至極に存じ奉りまする。
又、改めまして新年明けましておめでとうございまする。」
内心の不平不満をおくびにも出さず、表面上は営業スマイルで年始の挨拶を述べる。
「うむ、皆の者よくぞ参った大儀である。
糜芳よ久しいのう、暫く見ぬうちに少し大人びて来たか?」
糜芳に笑顔で親しげに問い掛ける霊帝。
糜芳に対する霊帝の返事を聞いた途端、周囲の文武官達と後ろの中・下級クラスの官位持ちが、ひそひそとどよめいた。
事情を知らない人達からすれば、自分と同レベルor下位レベルのガキが、主上に名前を憶えて貰っている上に、親しげに話し掛けられるという、この時代の常識でいえば、破格の待遇か若しくは大変な寵愛を受けているに等しいのであった。
(・・・???何かえらくざわついてんな?
もしかして年始の挨拶、トチった(間違えた)のか!?や、やべぇ・・・怒られるのかな?)
当の本人は全く自覚が無く、見当違いの思い込みに焦っていたが。
「さて、年始の挨拶はこれで良しとしてだ。
糜芳よ、聞く所に拠れば朕が下賜した品物を売り払い、売り払って得た金を先年の賊徒討伐の際に、官軍に全額供出したというのは、誠であるのか?」
笑顔を浮かべたまま、糜芳に尋ねる。
ドヨドヨ・・・ザワザワ・・・
「??はい、左様でありますが。」
周囲のざわめきが大きくなったのに首を傾げつつ、あっさり肯定する。
「な、なんと不敬な!!貴様と言う奴は!」
「主上の下賜品を売り払うなど・・・信じられん。
お前は己のした所業を理解しておるのか!?」
宦官の趙忠の隣りにいる、30代ぐらいで小太りの若い宦官と、文官で最も霊帝に近い所に侍っている50絡みのオッサンが、立て続けに糜芳を非難し始めた。
それに伴い、文官側上座からと後ろの中・下級クラスの官爵持ちからも、糜芳に対して「そうだ、そうだ」と多数非難の声を浴びせてきた。
(ええ~・・・下賜品売っ払って何でいけねーの?
地元の名家・名士連中もブツブツ騒いでいたけど、結局喜び勇んで買ってくれたのになぁ)
下賜品=贈答品=自分の物という現代的な認識であった為、売る行為に躊躇が全くなかった糜芳。
まぁ、霊帝の名前を表に出して売った事には、少し悪かったかなぁ~ぐらいの気持ちはあったが。
それに加えて、生家の糜家自体も「下賜品」等という大仰な物品に馴染みが全く無く、精々名士連中の融資の担保に家宝を質草として預かったり、返せない場合は没収して売り払ったりする事が多かった為、下賜品売却に対して忌避感がなかった事も影響していた。
そして、文官達の容赦ない非難を浴びていると、
「黙れ!貴様等!!」
今度は武官側から、中・下級官爵持ちと文官達に向けて怒声が上がる。
(え~と、確か朱儁だっけ?このオッサン)
朧気な記憶で思い出した糜芳。
「黙って聞いていれば、糜芳殿に罵詈雑言の数々、聞くに耐えんわ!!
貴様等の中で1人でも糜芳殿の様に、例え下賜品であっても私財を売り払ってまで、先年の国難に財産を供出した者が居るのか!?
又、国家から支給される俸禄を全額返上し、「漢の為に尽くし、負傷・死亡した軍人とその遺族に自分の俸禄分を差し上げて欲しい」と言った者が居るのかぁ!?」
うっすらと涙を流しながら、糜芳を非難した面々を睨み付け、怒りの声を上げる朱儁。
「おお・・・なんという・・・。」
「正しく臣の鑑ではないか・・・。」
糜芳に対する非難に同調しなかった武官側と、文官側の下座にいる人達が、糜芳に対して感嘆・賞賛の声を上げる。
「陛下、この糜芳殿は私財供出だけでなく、徐州の軍部・民部にも駆けずり回って働き掛け、徐州軍の黄巾賊討伐の出動、徐州からの食糧提供にも貢献した者で御座います。
この事は私だけでなく、皇甫嵩・盧植・董卓殿達が証人に御座います。」
「フ~ム、皇甫嵩は・・・涼州にいって居らんか。
盧植よ、朱儁の言に相違はないか?」
朱儁の話を聞いて、霊帝は盧植に問い掛ける。
「は!朱儁殿の言に嘘・偽りは有りませぬ!
書記官に記録を命じて書簡にて残しておりますし、それがしも当時非常に感銘を受けて、良く憶えております。」
霊帝の問いに、盧植も朱儁の話に感動して泣きながら拱手して答える。
非常に都合の良い解釈をしてくれた模様である。
今度は武官を中心に、糜芳に非難囂々罵声を浴びせていた文官や中・下級クラスの官爵持ち達に、「貴様等、漢の忠臣たる糜芳殿を罵るとは何事だ!?」と非難の声を上げて騒ぎ始める。
不義・不忠の輩扱いから一転、忠臣・臣の鑑だと賞賛される事となり、混沌とした状態になった。
(う~ん、訳わからん。
不忠の輩だの忠臣だの、結局どっちなんだよ?
まぁ、後漢に忠誠心の欠片もねーから、不忠って言われても否定出来ねーけどな)
脳内で非難を肯定する糜芳。
「静まれい、者共。」
文官と武官双方がお互いを罵り始めた時、決して大きい声ではないが、よく通る声で霊帝が制止する。
途端にピタッと騒ぎが収まったのを、見計らった霊帝は、糜芳に視線を向け、
「糜芳よ、朕の見解としては下賜品は下賜した以上、お主の私物と見做す。
拠って私物を売り払った事を咎める筋合いは、朕は持っておらぬ。
私利私欲で行った事ならまぁ思わぬでもないが、此度の事は国家及び朕の難事に対して行った事。
漢帝国の首長たる朕の立場で言えば、天晴れな事この上なしである。褒めて遣わす。」
下賜品売却に非はないと認め、褒め称えた。
「ははあ!有り難き幸せ!」
思いっ切り私利私欲で下賜品を、フーテンの人の如く叩き売りで売り飛ばした糜芳は、内心冷や汗を掻きながら平伏する。
「ふむ、糜芳よ。
そちの此度の功績を評し、五大夫より2階級上になる11等爵、右庶長に封ずる。
又、別に報奨金も与えるので、受け取るが良い。」
相変わらずにこやかに糜芳に告げる霊帝。
「はあ、しかし国難の痛手が大きい今、国家再建や無辜の民の為に使われるべき物を頂戴致すのは、些か受け取り難く・・・。」
人災ではあるが被災した人々がいる中、自分だけお金を貰ってラッキー!と言えるような、面の皮の厚さを流石に持っていない糜芳は、下手に貰って世間に逆恨みを買わない様、用心してやんわり断った。
何か盧植と呼ばれたジッサンを始めとする下座の文官達や、朱儁を含めた武官達良い年をしたオッサン連中共が、泣いて嗚咽を漏らしているが、自己保身で考えて行動している為、理由が解らず「何で泣いてんだ?」と思いつつ、見ぬ振りをする糜芳。
「うむ?その様な事気にせんでも良いぞ?キチンと対策は講じておる故。」
ニヤリと含み笑いをした後、
「おお、そうそう糜芳よ。
お主、私財を売却して幾ら程になったのじゃ?」
何気なく糜芳に尋ねた。
「は?・・・え~と、10万銭程だったかと。」
霊帝の意図が読めなかったが、正直に答える。
「ほう、10万銭か・・・袁隗、蹇碩よ。」
「「はは、何で御座いましょう?」」
「新参で官爵末端の糜芳が私財を売り払った、たった10万銭程の金銭を供出しただけなのを非難した、古参で官爵上位のそなた等は、さぞや糜芳の比にならぬ金額、それこそ何十倍・何百倍の金銭を供出するよのう?」
ニタァと、言葉の端々を強調して両者に畳み掛ける。
「「へ??え~と、あのう・・・。」」
「ん?違うのか?
それならば朕が認め許した糜芳を、朕の目の前で誹謗中傷=讒訴した事の是非を問わねばならんのだが、それで良いのだな?」
「「う!?・・・うう!!」」
霊帝の言葉に声を詰まらす粗忽者達。
(うわ~、えげつな~白アン様。
わざと聞き間違えたフリして、阿呆共に財産供出を進んで自らするか、讒訴をしたとして財産を没収されるかを選べ、と脅してるわ~)
霊帝の意図を理解して、エグいわ~と内心戦く。
(前者は当然の義務扱いにされて褒美もクソも無し、後者は罪人として根刮ぎ没収される訳だ。
まぁ前者は聞き間違えた体で、主上が称えた俺を讒訴した罪を免除してくれるんだから、それが褒美っちゃあ褒美か)
そう考えれば当然、
「「む、無論です!陛下の御期待を裏切る事は、古参の臣として出来ようも有りませぬ!」」
約束された返事を両者が返す。
「うむうむ、重畳、重畳。」
袁隗の平身低頭な様子を観て、黄巾の乱以前では有り得なかった光景に、満足気に頷く霊帝。
黄巾の乱以前だったら自分達に非があっても、あーだこーだと屁理屈を捏ねて逃げるか、逆ギレして「職務ボイコット」をちらつかせて、有耶無耶にしていたのが常だった袁隗達名家閥。
しかし黄巾の乱の際の、度重なる失態・失敗と言うか自爆を繰り返した結果、地方・中央問わず影響力・権威が暴落したのは周知の事実だが、名家閥が牙城としていた各府内(省庁内)でも権威が失墜し、属官達(所属府の中・下級官吏・官僚)が袁隗達トップ官僚に対して、ドンドン離反し始めたのである。
理由としては、袁隗達が自分の失態・失敗を、部下即ち属官に責任転嫁して逃げた事で不信感が強まったのと、何進という皇帝の縁戚・外戚の新興勢力の台頭が挙げられる。
今までは対抗勢力が宦官しか居らず、「宦官如きの下に付くのは嫌だ」という嫌悪感があって、名家閥の下で働いていたが、四世三公の袁家の様に組織が世襲化した事で、身分・役職が硬直化・固定化してしまい、中・下級官僚はうだつが上がらなくなり、内心不満を抱いていた。
其処に名家・宦官両派閥の自爆により、外戚の何進が急浮上。
何進自体は食肉卸売り業者という商家出身だった為、絶望的に官吏・官僚不足で、党錮の禁で解放された非主流派の文官をドシドシ登用、有能な人材はドンドン出世させて、こき使・・・重用していた。
それを観た各府内の属官達は、
「うだつが上がらず、己の不始末の責任を自分達に押し付ける、クソ上司の袁家達にこのまま付くよりも、何進の下に付いた方が出世出来る余地が有る分、余程マシなのではないか?」
内部間で密かに囁き合う様になり、やがて「脱上級名家」の風潮が生まれて、上司の悪事の証拠を手土産に何進の下に走る者が続々と現れたのである。
自分の下に投じた属官達を大喜びで迎え入れた何進は、上級名家の悪事の証拠をせっせと霊帝に上奏してチクり、府内の上級名家を排除して自分の息の掛かった人物を据えて、排除した際に空いたポストを自分に投じた属官を着けてキチンと報いた為、徐々に袁家達から離れて何進に属する者達が増加、民部にも権力基盤を築き上げ、勢力を拡大していった。
これにより名家閥の政治的優位性が崩壊、袁隗達は自派閥の引き締めに必死に奔走したが、殆ど功を成さなかった。
それというのも、袁隗達上級名家には属官達を納得させて宥める飴(利益・恩恵)を、持っていなかったからである。
各府内の役職のポストには当然定員数に限りがあり、それらを上級名家が独占しているため、属官を引き上げる余地が無く、かと言って上級名家を押しのけて属官を据えれば、今度は上級名家が猛反発して離反してしまうという、上級名家(派閥幹部)を穫るか属官(派閥構成員)を穫るかのジレンマに陥っていたのだった。
袁隗達に引き替え、何進の場合は上級名家達(政敵)を、属官が手土産に持って来た悪事の証拠で潰し、潰して空いた穴に属官を配置するだけで良いだけという、向こうから政敵を排除出来る要因がやってきて、尚且つその府を勢力下に置くことが出来るのだから、正しく一石二鳥・濡れ手で粟であった。
それでも未だトップの袁隗や袁隗の姪婿(袁隗の兄・袁逢の娘、袁術の姉)で、No.2の楊彪などが凄いカリスマ性や、優れた政治能力・判断力を持っていれば、どうにか出来た可能性もあったが、自身の失態を誤魔化す為に蜥蜴の尻尾切りをする輩に、カリスマだの人望だの在る筈も無く、現在進行形で失態を犯す者に、政治・判断力等が在る筈も無かった。
「人は危急の際の行動で、その人の真価が判る」という言葉が有るように、袁隗達は危急の際に何ら有効な手段を講ずる事が出来ず、それ所か立場に胡座を掻いて失態を繰り返す有り様で、組織や人の上に立つ器量・資質不足を周囲に露呈、これによりただ単に世襲に拠って、トップ官僚に成れたに過ぎない事を、他ならぬ自分自身達が証明してしまうのであった。
結局黄巾の乱以降、何進に拠って徐々に派閥内部が侵食されていき、実権を奪われて有名無実化して、過去の栄光と父祖の功績に縋る、爵位が高いだけのモブ集団と化し、皇帝の寵が衰えて凋落期に突入している宦官閥よりも先に没落、中国の歴史からフェードアウトしていくのであった。
それはさておき、
「さて、他にも袁隗等と同じく供出金の少なさに非難した者が、そこかしこにおるのう?朕は両の目・耳でしっかりと見聞きしておるぞ。
その者達も糜芳の供出した金額の比にならぬ、財産供出する事を期待しておるぞ?
まぁしない場合は、どうなるか身を持って知ることになろうがな・・・。」
「「「「「ヒッ!は、ははぁ・・・!」」」」」
霊帝の言葉に怯えながら平伏する、名家閥連中と中・下級官爵持ちの人達。
「確かに命じたぞよ・・・ふむ、何進大将軍。」
「ハ?あ、ははぁ!」
他人事とボ一っとやりとりを傍観していた、武官側で最も霊帝に近い場所に侍り、ガッシリした体格の武官側の中で、唯一ポッチャリとしたオッサンこと何進が、急に話を降られて慌てて拱手する。
「お主に供出金を出す者共の、各々の最低金額の設定値を算出する事を命ずる。
基準としては、爵位・役職・家禄・累代数等を基にすれば、算出し易かろう。」
「御言葉ですが陛下。
私は軍部の将軍であって、民部の者では有りませぬ。
そもそもその様な事は、大司農(現代日本で例えると、財務省・農林水産省・国税庁等が一緒になった部署のトップ)の職務であり、私が行うのは余りにも権限の逸脱が過ぎましょうぞ。」
霊帝の命令にやんわりとした口調で反論し、遠回しに拒否の意志を示す何進。
(う~ん、一見淡々としてっけど、「そんなクソ面倒い事なんざやってられっか!?」って考えてるよな~、まぁ、誰だってそうだろうけど・・・)
面倒事から必死に逃げようとしているのを、そりゃそうだと同情の視線を何進に送る糜芳。
「うむ、筋としてはそうなのだが、今回は大司農も当事者に該当しておる故、当事者に任すのは公平性に欠けるであろう。
それにお主は元々商家出身、その手の類は得意であろうが?」
「いや、しかし・・・。」
「何進よ勅命である!
キチンと勅を果たすが良い。」
「ははぁ!この何進、勅命を承りました。」
伝家の宝刀・勅命を切られ、否応なく承諾する何進。
「うむ、頼んだぞよ・・・さて、皆の者大儀であった。
皆も良き年になるよう、朕も天に祈ろうぞ。」
何進に面倒事を投げて、出席者を労った後、退席していく。
(ふぃ~、何とか無事終わった~。
2~3日逗留したら、サッサと徐州に帰ろ)
霊帝が退席する間、拝礼をしながら内心で呟き、帰ろうと踵を返したが、直後に朱儁達武官や盧植達文官に囲まれて、散々自己紹介を受け続けぐったりとした糜芳。
そして文武官達の自己紹介が終わった後、糜芳の疲労をお構い無しに朱儁から何進を紹介されて、同じ身分出身と「何か謂われのない事で、苦労してそうだなぁ」という謎のシンパシーを感じて意気投合、歳の差を忘れて話が弾んだのであった。
因みに余談だが、霊帝の勅命で面倒事を押し付けられた何進は、
「儂、大将軍だよね?武官の筆頭だよね?
何で大司農の文官仕事を、大将軍の儂がやってんの?オカシくないか?おかしいよねこれ絶対・・・。」
自身の執務室で、何段にも積まれた書類(竹簡)を眺めながら、ブツブツぼやいていた。
「・・・いい加減にしろよ・・・クソ馬鹿共。
いっつもかっつも、まいどマイド毎度!無関係の儂を巻き込みやがってえ!!
何で馬鹿共の尻拭いを儂がやってんだよ!?おかしいだろ絶対に!!
彼奴等鳥の頭以下か!?取っ替え引っ替え問題起こしやがって!
鳥でも流石に学習するぞ大概にしろや!?」
段々と怒りがこみ上げて来たのか、声も釣られて荒々しくなり怒鳴り始めて、竹簡を持つ手がブルブル震える。
黄巾の乱以降、①馬鹿共が無計画かつ私利私欲な政策で問題を起こす→②当人達には解決する能力が無く放置・又は霊帝の徳云々をぬかして責任転嫁→③見かねた霊帝から勅命という強制命令で、無関係の何進が指名されて、やらかした当人達は鼻ホジしている中、必死な思いで何とか始末する→①に戻る、という地獄の様な負のループが何進に発生し、恨み骨髄に達していた。
「・・・クックックック。
観てろよ馬鹿共が・・・この恨み晴らさでおくものかよ・・・は一っはっはっはー。」
怒りの余り筆を持つ手が震え、馬鹿共が供出する最低金額の設定値の桁が、1つ2つ増えていくのはしょうがない事だった。
そして、それぞれ監視兼取り立て役の武官達を派遣した後に、馬鹿名家代表格、袁家のドラ息子達=袁紹と袁術を呼び出して、
「自分達の身内の不始末ぐらい、自分達でキチンと後始末しろ!
勅命により竹簡に書かれた最低金額を、一銭でも不足していたら貴様等も容赦なく処罰する。」
それぞれ叔父・袁隗と実父・袁逢の下に派遣して、嫌味と皮肉を込めて牛太郎(遊郭で遊興費が払えなかった者に、遊興費の取り立て等を行っていた男性の事)させて、袁家に恨みの有る武官を選抜してドラ息子達の監視兼、真の取り立て役に任じ、情け容赦なく絞り穫ったのであった。
この一連の事態により、宦官・名家閥共に3バン(カバン(鞄)=金銭、ジバン(地盤)=属官の支持、カンバン(看板)=役職・身分)の内、それなりの者が看板以外を失い、中には供出金が払えずに爵位(看板)を返上する羽目になり、没落して庶民に転落した者もいたのであった。
洛陽洛中東大路
ぐったりとした謁見を終えて、都合の良い解釈により目出度く出世した糜芳は、全く目出度く無い表情で宮城から出て、てくてくと逗留先に戻っていた。
「・・・あの、殿?」
「うん?助さん何?」
「いえ、佐郎です殿。
何か宮中で嫌な事でもあったのですか?」
心配気に糜芳に声を掛ける、新しく糜芳家に武官(用心棒)その1として雇用された、細身で高身長で軟派な雰囲気の、剣の遣い手・佐郎。
「佐郎の申す通りですぞ、殿。
浮かない顔をなされておられますぞ。」
「大丈夫だよ、格さん。」
「あの~殿?某の名は渥進ですぞ。」
糜芳の変な渾名に訂正をする、糜芳家に武官その2として雇用された、縦横に大きく温厚な雰囲気の、金棒や鎚といった鈍器を得手とする・渥進。
2人共笮融の紹介で雇用した人物だが、別段浮屠教徒でもなく、単純に笮融が知る中で最も強い人物を紹介してくれた様で、実力は氾師範の折り紙付きである。
「いやあ、何か知らんけど9爵位の五大夫から、11爵位の右庶長に昇進しちゃってさあ・・・。」
「いやあの、それで何で浮かない顔が出来るんです?
と言うか、知らない内に昇進する物何ですかそれ?」
糜芳の話を聞いて、理解不能と首を振る佐郎。
「いやまぁ、下賜品を売り払って得た金を官軍に供出したのが、評価されたみたいなんだけど・・・。」
「ちゃんとした理由が在るではありませぬか殿。
疚しい理由なら兎も角、立派な事なのですから堂々と誇るべき事と存じますが?」
気にする必要がないと告げる渥進。
「まぁ、そうなんだけど・・・。
出る杭は打たれると言うか、過ぎたるは及ばざる如しと言うか・・・この歳でその辺の名家・名士よりも成り上がっているのがどうもね・・・。」
「「ああ、確かに。」」
周囲の奇異の目と嫉妬・敵視を受けると考えている、糜芳の懸念を理解した2人。
「現に地元徐州だと皇族の劉虞様を除けば、俺が筆頭に成っちゃってるし・・・。
洛陽でも中堅ぐらいに成ってるんじゃないかな~?」
イマイチこの時代と国の身分制度が判らない糜芳。
「う~ん、それを聞くとやっかみに遭っても不思議じゃないですね。」
「左様ですな、徐州なら上過ぎて判らなくても、洛中なら厄介事が起きる危険性は高いですな。」
2人共洛中内の危険性を指摘する。
「うん、やっぱりそうだよね。
サッサと荷造りして徐州に帰ろうか、大蝉には悪いけどな~。」
佐郎達の意見を聞いて、とっとと帰る決意をする。
心なし歩くスピードを上げて、移動をしていると、
「さぁさぁ腕自慢の強者共は集まってらっしゃい、寄ってらっしゃい!
我こそはと腕試しをしてみないか!?
たった5銭で挑戦出来て、この偉丈夫に勝てば1万銭を手に入れる大好機だよ~!!」
細目というか糸目で、温和な顔付きに似合わない大声を上げ、呼び込みをしているのが目に入った。
観れば1月にもかかわらず、上半身マッパという別の意味でも強者っぽい偉丈夫の前に、荷車に積まれた1万銭を目当てに何人も並んで挑戦をしており、次々とコテンパンにやられていた。
獅子を連想させる赤見がかった髪型に髪色、覇気に満ちた目に立派な虎髭、筋肉質な上半身に幾筋もの傷が縦横に走り、歴戦の猛者を感じさせる偉丈夫である。
「う~ん、5銭で1万銭かぁ・・・。」
500円で挑戦して、100万円を貰える仕様に、物欲センサーがピクリと反応する糜芳。
「ふ~む、なかなかどうして・・・上手い勧誘をしている、義勇軍の連中ですな。」
顎に手を当て、感心した表情で渥進が呟く。
「義勇軍?勧誘?」
「ええ、黄巾賊以来彼方此方で、「漢に忠を尽くす」という大義を掲げ、大小様々な人達が集まって結成しているのが、俗に「義勇軍」と呼ばれる集団ですね。
まぁ、盗賊紛いから真っ当なモノまで、ピンきりですけどね・・・。」
偉丈夫を観察しつつ、糜芳に説明をする佐郎。
「そして勧誘方法は色々ですが、ああやって些少の資金稼ぎをしつつ、大金で人を釣って集めて稽古方式で実力をある程度見極め、めぼしい人物には介抱しながら勧誘・募兵していく、という寸法ですな。
豊富な資金と、あの偉丈夫の実力が有ればこそではありますがな。」
渥進が佐郎の説明に補足を足す。
「ふ~ん、そうなんだ・・・。」
2人の説明を聞いて納得した糜芳。
(なる程ね~、劉備や孫堅だけじゃなくて、色んな人達が義勇軍を率いていたのか・・・。
離合集散を繰り返して、最後に残ったのが劉備、途中で上手く自立したのが孫策ってとこか)
歴史上の記録しか知らない糜芳は、突っ込んだ内容を実感して、大いに驚くのであった。
佐郎達とあーだこーだ話していると、獅子髪の偉丈夫に挑む挑戦者が途切れていた。
「さぁさぁ、どうしたどうした?我こそはという猛者は居ないのか?
よ~し、じゃあもう1万足して2万銭だ!!
どうだ!?誰か挑戦する者はいないか?」
糸目の青年が言うと、荷馬車から銅銭が運び出されて、荷車にドサッと上積みされる。
「はい、やります!」
「「ち、ちょっと?殿ぅ!?」」
快活に返事をした糜芳に、驚きの声を上げる2人。
(何を考えておられるのですか、殿!)
(いや~5銭で2万銭って美味しいな~っと)
(勝つつもりなの!?無理無理無理!
私や渥進でも、対1なら勝ち目が薄いと見立てる程なのに、殿では万一も在りませんよ!)
ブンブンと手と首を振って、ひそひそ声で佐郎は止めに入る。
(佐郎の申す通りですぞ殿!
相手は優れた武才に、戦場で実戦も積んでいる猛者ですぞ!?
稽古で習った程度の凡庸な殿が、敵う相手ではありませぬ!お止め下さい!
大事な御身、5銭払って怪我をしてなんと為さるので!?)
渥進も、糜芳を酷評しつつ留めようと諭す。
三者三様ですったもんだ揉めていると、
「え~と、其方の中々雰囲気の有る、ご両人が挑戦するのかな?
さぁさぁどうぞ此方へ参られよ。」
佐郎と渥進に代わって、糜芳がエントリーをしたと勘違いした糸目男は、2人を手招いて呼び込む。
「「いやいや、違う違う。私達じゃあない。」」
ブンブンと手を振って拒否している最中、
「はい!僕が挑戦します!」
ビシッと手を挙げてアピールした後、スタスタと糸目男の下に寄っていき、「お願いしま~す」と言って、5銭を糸目男に渡して、ヘンテコな踊り(柔軟体操)を始める。
「・・・・・・はっ!?
ちょい待ち、ちょい待ちや少年!?
何考えとんのよ君は?あのオッサン、手加減ど下手クソの武勇馬鹿なんやから、命が幾ら有っても足りへんよ?解ってんのその・あ痛ぁ!!」
必死に糸目男が獅子髪男をクソミソに言いながら、糜芳を慌てて止めようとするも、手加減ど下手クソの武勇馬鹿が、糸目男目掛けて持っていた木剣を投げつけ、頭に当たった糸目男は頭を抑えてうずくまる。
「・・・おい、静。曲がりなりにも主君に対して、言いたい放題だなオノレは?」
こめかみをヒクつかせて、糸目男に語り掛ける獅子髪男。
「いや、言いたい放題て・・・事実やろ。
我がの息子を武芸の稽古だ言うて、途中で本気になって大怪我させとるやないかい。」
「あ、あれは、獅子は我が子を、千尋の滝に落とすという故事をだな・・・。」
「滝やのうて「谷」な・・・それして奥方が激怒して、殿自身が家の2階から叩き落とされとるやん。」
うずくまりながら、獅子髪男の反論を封殺していく静と呼ばれた男。
獅子髪男も大概だが、嫁さんも旦那を2階から紐無しバンジーさせる猛者の模様。
結局此方もすったもんだとした挙げ句、ガタイの良い配下の仲裁も有って鎮静化し、チャレンジが再開される事となった。
「さぁ待たせたな少年!掛かってこい!!
キチンとちゃんと手加減はしてやるからな。」
「ホンマにキチンとしてや殿。
大人はウッカリでもなぁなぁで済むけどが、子供にウッカリはウチ等の評判が堕ちるんやからな!?」
「解っとるわ!黙っとれ!気が散って手加減失敗したら、どないすんじゃい!」
獅子髪男と静が怒鳴りあいながら、話を進める。
「あの~追加料金払いますんで、続けて貰って良いすか?」
糜芳は三角座りをして、漫才を堪能していた。
「「見世物とちゃうわい!!」」
2人に怒鳴られて、ツッコミを入れられるのであった。
それはさておき、
「え~と、コホン・・・本当に待たせたな少年。
其処に置いてある、刃引きの武器の中から好きな得物を選んでくれ。」
獅子髪男の脇に置いてある、短剣から戟・槍といった色々な武器を指差し、糜芳に選ばせる。
「いえ、いいです。僕の一番の得手はこの拳なので。」
拳をギュッと握り、アピールする。
「へ?・・・おい、静!ちょっとこっちゃ来い!
あ~ちょっと待っとてな少年。」
ウルトラな兄弟の、とある光線を放つ様なポーズを取りながら、静を呼ぶ獅子髪男。
そのまま相撲の物言いに対する協議の如く、立ったまま此方をチラチラ観ながら話し合いを始めた。
待つことしばし・・・
「え~、協議の結果、素手の子供相手に木剣を使うのは、大人気無いとして、枝で対応する事とする。」
漸く話が纏まったらしく、獅子髪男が持っていた木剣を部下が回収し、代わりにその辺で拾って来たと思われる、魔法使いの針井さんが好んで使いそうな、細いタクト棒の様な枝が渡された。
(す、スゲー・・・ラ○ボーが機関銃じゃなくて、枝を持っているかの様に、チグハグ差がハンパない)
今までの覇気が、嘘の様に消えていくのを実感する糜芳。
「そして、少年に先手を譲った後に、攻撃を此方から仕掛けるモノとする。」
先に先制攻撃させると宣言した。
これだけハンディキャップを付ければ、幾ら子供相手でも普通はクレームが観衆から上がりそうなものだが、既に10人以上の男を倒しているのを観ていたらしく、それでも足りないと言っている始末だった。
(え、先制攻撃して良いの?
よっしゃ!勝ち確やんけ!ラッキー!)
内心大喜びの糜芳。
「え~と、ではお言葉に甘えて・・・コォォォ・・・いきます!」
拳が届く範囲まで近づき、息吹で呼吸を整えて、構えをとる。
「せいや!!」
人体の急所の顎先、別命※チンをなぞる様に、拳を当てる。
※因みに此処をやられると、脳震盪を起こして、気絶するか立って居られなくなるので、用法を守って使用しましょう。
「ははは、そんなだぁげ!?はら?にゃに?」
糜芳のしょぼい打撃と笑っていた獅子髪男が、突然ろれつが回らなくなり、片膝を付いてしゃがみ込んだ。
(好機!!)
日本では絶滅してしまった、幻の鳥と同名の聖者の如く、目をキラーンと輝かせて、突然の事態に混乱している獅子髪男の隙を突いて、渾身の回し蹴りを鼻っ柱に叩き込む。
「グホォッ!?」
モロに蹴りを正面から喰らい、獅子髪男はたまらずそのまま後ろに倒れ込んだ。
「セイヤ!!」
「・・・っカハ!・・・。」
倒れ込んだ獅子髪男の、これまた急所の鳩尾に拳を振り下ろして、トドメの一撃をお見舞いする。
「・・・・・・。」
「コホォォォ・・・押忍!」
相手が反撃に来ないか残身を残して、相手が動かないのを確認した後、息を吐く。
そして、糜芳は野球における、ツーアウトのサインをしながら、
「ヴィクトリ一!!」
勝利宣言を高らかにする。
「「「「「・・・・・・へ?・・・・・・え?」」」」」
糜芳の勝利宣言を聞いた観衆は、余りにも予想外の結末に目を見開き、茫然自失状態になっていた。
「へ?へ?嘘やろこれ?・・・兄やん!堅兄ぃ!?しっかりしてくれ兄やん!?おい!!」
夢遊病者の様にフラフラしていた静が、正気を取り戻したのか、慌てて堅と呼んだ男の下に駆け寄る。
姿形は全然似てないが、どうやら兄弟のようだ。
皆と同じく茫然自失状態だった佐郎と渥進を、軽く膝蹴りして正気に戻させて、2万銭を積んだ荷車を曳く様に指示を出して移動を開始する。
そして、移動し始めて直ぐに、
「うぉぉお!許さんぞ小僧!!
よくも我が君・孫堅様をぉぉぉ!?」
兄弟の仲裁に入っていた、若白髪の男が突如として憤怒の声を上げ、此方に走りながら勢いよく殴り掛かって来た。
「あたぁ!」
「グへェ・・・!!」
振りかぶって殴り掛かって来た、若白髪のパンチをかわし、カウンターを放ってK・Oする。
「ふ、つまらぬモノを倒してしまった・・・。」
モロに顔面に決まり、ズキンズキンと痛む拳を庇いながら、格好を付ける糜芳。
「す、スゲー殿。
まさかあの男に勝つなんて・・・。
しかも素手で戦ってなんて信じられません。」
「う~む、意外だったですな。
観たことのない武術と見受けるが、その武術は何処で学ばれたのですかな?」
荷車を押しながら多少興奮気味に尋ねる2人。
「いや~は・・・じゃなくて、独学で・・・。」
危うく糜香に擦り付けかけたのを訂正し、適当に答える。
(そ~言えば白髪男が、孫堅様とかいってたような・・・まぁ偶々同姓同名の人なんだろうけど)
江南に拠点を構えている筈の人物が、洛陽にうろついている訳ねーか、と苦笑する。
ガシッ!!
「うん?」
「見事だ少年!君の様な武人がいようとは、世の中広い、広いな!」
片手で持ち上げられて、プラーンとした状況で獅子髪男に熱く語られる。
「俺だけでなく、黄蓋まで倒すとは素晴らしい!
君は我が孫堅軍に必要な人材だ!幹部待遇で迎え入れたいのだが、どうだろうか!?」
「どうだろうかもクソも、貴方方の事を全然知らないんですけど・・・後、降ろして貰えませんかね?」
プラーンと掴まれたまま、抗議する糜芳。
「ふむ、確かに・・・。
良し、じゃあ百聞は一見にしかずと言うし、我が軍の活動・活躍を観て貰うために、軍営に招待しようではないか!」
「いや、あの降ろしてくんない?」
糜芳の抗議を無視して、勝手に話を進める孫堅(仮)。
「そうと決まれば善は急げ!
さぁさぁいざ参ろうか?少年。」
そう言うと孫堅(仮)は荷車を運んでいて、今はフリーになっている馬に飛び乗り、糜芳を掴んだまま、そのまま西を目指して駆け出した。
「へ?へ?嘘、嘘~~!?」
「あ、おい兄やん!?洛中で騎乗の走行はいかんて!
ちゅーか俺らを置いていくなや!コラァ!!」
「「殿~!?」」
3者3様の叫び声を上げ、茫然と孫堅(仮)と糜芳を見送る。
そして、西門に辿り着くと当然止められたが、
「西部戦線より火急な知らせが届き、急いで戻る為に騎乗している。緊急時故許して貰いたい!
私は別部司馬・孫堅文台と申す!道を開けられい!」
覇気の籠もった声で城兵に告げると、勢いに呑まれたのか、ザザァと道を開ける。
(うそん!?ほんまもんの孫堅かよ?何でこんな所にいるんだよ?)
思わず孫堅をガン見する。
「うむ、お勤めご苦労!」
「誰か~!た~す~け~て~!?」
それはそれとして、糜芳は必死に助けを呼ぶが、誰も助けてくれなかったのであった。
西門を出た孫堅は、郊外近郊に駐屯していた部下達と合流し、ひたすら西に向かって替え馬をしながら、駆け通しで移動していくのであった。
糜芳は移動中の休憩時間に、必死に自分の身分を明かして帰らせて貰おうとするも、孫堅の部下達からは、「あ~ハイハイ」とか「坊主が名士だったら、俺は王侯貴族だなぁ」と失笑されて、相手にされなかった。
(脱走しようにも洛陽までの道程が判らんから、どうにもならん・・・。
とりあえず孫堅の軍営に行ってから、改めて考えるべきかなこれは・・・)
揺れる馬に相乗りさして貰いながら、漠然と脳内思考する糜芳。
そんなこんなで数日掛けて移動した後、漸く目的地に着いたのであった。
ワァァァァァァァ・・・・・・
血風吹き荒ぶ戦場に・・・。
「だ、誰か・・・たしゅけて・・・たしゅけて。」
白目を剥きながら、幼児退行した口調で茫然自失になる糜芳であった。
続く
え~と、すいません・・・書ききれませんでした。
次話に書くので・・・ごめんなさい。
一応補足ですが、牛太郎と言うのは「妓夫」とも書き、遊廓に勤める男性従業員の事です。
まぁ、日本の遊廓に居た存在なので、中国には居なかったとは思いますが、似たような従業員は居たと思われるので、敢えて混同して書かせて頂きました。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




