その4
この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・組織とは一切関係ありません。
読んでくださっている方々へ
いつも評価・感想誠にありがとうございます!
相変わらず遅筆ですみません。
・・・夏バテしました・・・皆様も炎天下でのお仕事・お勤めの方だけでなく、室内仕事の方々も十分お気を付けくださいませ。
すみませんが、ちょっと長く連載間隔が開く事になりそうです。
申し訳ありません。
糜芳邸自室
曹操に拠る徐州虐殺と言う名の侵攻を、少しでも軽減化しようと目標を掲げた糜芳は、前世知識チートを実行しようと目論むも、物の見事に挫折、初手からすっころんだ状態になってしまった。
(まだだ!まだ終わらんよ!!
黄巾の乱を見越して行った仕込みがまだ残っとるわ!
とりあえず、種銭は確保出来んだろ!・・・多分)
赤色がトレードマークの、新人類の如く台詞を脳内で叫び、グッと拳を握り締める。
そうして満を持して年が明け、1月になったのだったが・・・何も起こらなかった・・・。
「え?あれ?ウッソだろ、マジで!?
発生年間違えたの俺!?・・・やってもうた~!」
頭を抱えて振り乱し、
「エラいこっちゃ、エラいこっちゃ~!ホンマにどないしょー!?どないしょー!?」
半錯乱状態で叫びながら、部屋内をうろうろしてはしゃがみ込み、又立っては部屋内をうろうろと徘徊を繰り返した。
本当は、司隷や冀州では太平道事件で大騒ぎになっていたのだが、徐州とは豫州等の州が間に在る為に情報が伝わらず、その事実を知らない糜芳は勘違いして取り乱していた。
・・・実際に正月早々と、発生月を素で間違えて覚えていたので、尚更取り乱している。
それを家政婦じゃなくて、使用人(見習い)になった豹蝉がいつも通り掃除に来たと同時に目撃、即時に自分の手に負えないと判断、糜芳に察知されない様に無言で音を出さずにムーンウォークの如く足運びで後退、距離を取るとバッと走り出し、
「大奥様~!大奥様~!大変です。
旦那様が妄言だけで無く、妄動まで始めました~!
大奥様~!?」
大奥様こと、糜芳の実母・糜香に助けを求めた。
因みに、豹蝉の妹の小銭こと豹銭も、見習いの見習いとして姉にくっ付いて働いており、一緒にいたのだが、
「えらいこちゃ~、えらいこちゃ~。」
糜芳を観て、キャッキャッと面白そうに糜芳の真似をして、一緒になってうろうろしていた。
結局、豹蝉の通報により駆け付けた糜香に、パンパンと正月の魔除けに使われる竹が、火に炙られて爆ぜた時のように軽快な音を立てて、両頬に闘魂を注入(別名ビンタ)され、
「へぶぅぅっっ!?おぶぅぅっっ!?」
「貴方も曲がりなりにも一家の主、人を使う身になったのだから、軽挙妄動は慎み、部下を不安がらせないように、どっしりと構えなさい!」
K・Oされた上にガミガミと説教される羽目になり、暫くの間「勇気だけが友人」の某ヒーローと、同じ顔の輪郭で過ごす羽目になったのであった。
因みに小銭は、K・Oされてピクピクと痙攣している糜芳のほっぺたをツンツンとつつき、「大丈夫?」と心配してくれた。・・・マジ天使。
2月、漸く顔を簡単にチェンジ出来る、驚異というか脅威と言うべきなのか悩ましい、某ヒーロー顔と別れを告げた糜芳は、
(よく考えたら、時期的に買った時よりも高く売れるんだから、利鞘は黄巾が発生した時よりも少なくなるけど儲けになるんだから、取り乱す必要性が無かったんだよなフツーに。
・・・母上にシバかれ損してんじゃん俺・・・)
冷静に振り返って凹む。
糜芳が凹んでいると、バタバタ・・・ドスドスと父の糜董が「大変だぁ、大変だ!」と、何処ぞの岡っ引きの子分の如く叫びながら、糜芳に近づいて来る。
「芳!ゼヒュー変ゼヒューよ!?太ゼヒューがゼヒュー起こしゼヒュー!!」
「・・・あの父上?ゼヒュゼヒュしか聞こえなくて、何言っているのか、全然わからないのですが。」
息切れを起こしている、糜董の話が理解不能で困惑する糜芳。
~~しばらくお待ちください~~
「えっとだね、張角率いる太平道が朝廷に反乱を起こしたんだよ、反乱を!!
本拠地の冀州だけじゃなくて、豫州他にも広がっていってるみたいだよ!?」
「え!本当に!?」
息を整えて、興奮気味に黄巾の乱を告げる糜董に、糜芳は驚きの声を上げた後に、
「ヨッシャー!!コレで種銭確保出来るの確定じゃあ!!
良かった・・・マジで良かった。」
歓喜して、思わず安堵の表情を浮かべた。
「・・・コラ!芳!!国家の一大事・罪のない無辜の人々が、巻き込まれて往生しているのに喜ぶなんて、なんて不謹慎なんだい!?君は!!」
滅多に怒らない糜董が、糜芳の不謹慎な発言に激怒する。
「・・・・・・あ。」
糜董に怒られて、自分が如何に心無い言動をしていたのかに気付いた糜芳だったが時すでに遅し、その場で正座させられ、懇々と「芳を私は、そんな薄情な人間に育てたつもりは無い!」と涙ながらに説教される。
「も、申し訳ありません父上。
心無い言動をした僕が浅慮でした。
以後無いように心得、慎む所存ですので、どうか平にご容赦を・・・誠にすみませんでした。」
十全に自分が悪いのを自覚した糜芳は、糜董に平謝りを繰り返したのであった。
因みに小銭は、長時間の正座に依って足が痺れて悶えている糜芳を観て、「ねぇ、痛い?痛い?」と笑顔でツンツンと足を突っつくのであった・・・マジ悪魔。
3月、黄巾の乱の影響で、華北を中心に大規模な民衆反乱と賊徒に拠る集団強盗が起きていたのだが、徐州は例外的に比較的平穏無事であった。
史実では徐州も黄巾の乱の影響を受け、冀州・豫州程でないにせよ、盗賊・暴徒の被害があったのだが、糜芳のウッカリ発言で始動した、「屯田制」の影響が幸いして、盗賊等自体が激減していたのが原因である。
屯田制の過程で先ず「軍屯」が最優先事項として軍部で掲げられ、兵士達は自分達の老後・死傷時の将来が掛かっているのを理解していたので、目の色を変えて積極的に盗賊達を討伐、州内の盗賊達は悉く壊滅し、微かに生き残った連中は他州に逃げるか、単独で息を潜めて活動停止状態になり、黄巾の乱に便乗して暴れる賊徒の芽を、偶発的にも事前に摘んでいた。
そして1月には、糜竺が州役人として抜擢されて、州都・下邳に赴いたのを皮きりに、軍民共同で屯田制を協力し合う事を発表、糜竺は指導官兼顧問に就任する。
軍部が盗賊討伐をする過程で、目星をつけた場所を軍屯地に決定し、不運にも救済されずに不遇を託っていた傷病者や遺族の人を最優先に、盛大に見送られて順次軍屯地に送られる事となった。
これにより、理不尽にも不遇を託っていた傷病者と遺族という、現状最も暴徒化し易い状態の人々の、不満と怒りを解消する事に成功。
又、軍屯がある程度進んだ段階で、民屯も開始する事と軍部の新兵募集の採用枠が、屯田制により増加する事も併せて発表されており、一般民衆の中で近い将来に部屋住みの次男以下の庶民達が、安定した職と土地持ち百姓に成れるかもという、将来に希望と展望を持った事で、極一部を除いて暴徒化する事はなかった。
そしてその極一部の暴徒達は、地元の衛兵と意外にもヤーさん達に依って鎮圧され逮捕、獄に繋がれて処罰を受ける事となった。
因みにヤーさん達が鎮圧に協力した理由は、
「暴徒達が徒党を組んで組織化したら、自分達の縄張りを荒らされるか、奪われる危険性があったから。」
とのことらしい。
どうやら何処ぞの福耳男が地元で結成した様な、愚連隊擬きが発生するのを抑制したようだ。
それはさておき、
こうして「屯田制」による副次的効果で、徐州の治安と政情は他州に比べて遙に安定し、それに伴い州軍は外部からの黄巾賊に備える事に集中する事が出来、黄巾賊の多い豫州・兗州の州境を中心に、分厚く州軍を配置して展開、賊徒の侵入を抑止・防衛に努めた。
しかも、糜芳の策謀に拠って軍部内の派閥が消滅した事も手伝って、指揮系統の混乱・煩雑がなくなり、侵入して来る賊徒の対処・討伐もスムーズに進んだ。
結果消極的では有ったが、豫州・兗州に蔓延る黄巾賊の後背を常に脅かす存在となり、皇甫嵩達官軍の助攻的な役割を果たす事になる。
他州では郡太守・県令等の単独で黄巾賊に抵抗・戦闘した者達はいたが、州一丸となって戦ったのは、ただ徐州1州のみであった。
(幽・并・涼州は異民族対策で身動きがとれず例外)
後に乱の終息後、今回の国難に於いて州一丸となって戦った事と、華北全域が食糧難にも関わらず、多少なりとも官軍に食糧を提供した事が、皇甫嵩の上奏を通じて評価され、褒賞として軍民両方の上層部が1階級の陞爵(爵位が上がること)となり、何代も前から維持・降格を繰り返して来た徐州の上層部は、自力で階級を陞爵した事にむせび泣いた。
因みに食糧提供に関しては、糜芳が裏で私利私欲の為に民部連中を唆し、実現させた経緯があったのだが、それは何故かと言うと・・・。
4月、糜芳の屋敷の私室には、大量の一束千銭で結ばれた銅銭が山と積まれ、同時に幾束もの証文が書かれた竹簡も積まれていた。
「うひひひ・・・儲け儲け。
買い込んだ麦とかの食料品は、またまだ在庫量が有るから、もっともっと儲けれるぞぉ・・・たまんねーなあ、こりゃあ。」
両目を¥にして、悪徳商人もかくやといった体でドス黒い笑みを浮かべ、悦に入っている糜芳。
糜芳は民部連中に、「こういう時こそ官軍に食糧提供をすれば、貴方様方の朝廷からの評価が上がりますよ?もしかしたら、褒賞が有るかも」と唆して食糧提供を実現させ、その輸送部隊に金魚の糞の如く、糜家商会の荷駄隊と護衛の連中を同道させて、彼方此方の商会に高値で売り捌いて、暴利を貪っていた。
具体的には、1石=100~200銭で買った麦等の穀物を10万銭で売るくらい・・・ボロ儲けである。
何故こんなにとんでもない差額になったかといえば、黄巾の乱がモロに影響していた。
黄巾の乱が勃発した冀州は、華北でも有数の麦の生産地域であり、同時期に蜂起した豫州もこれまた生産地域であった。
(南米北麦と言われ、長江から北の華北では麦が主食で、南の華南は米が主食だった)
しかも発生時期が2月であり、基本的に華北では春麦が主流で種蒔きは3月~4月頃に行われ、収穫は9~10月頃だ。
つまりは華北有数の麦所(?)が黄巾賊の所為で、収穫が壊滅状態になってしまったのだ。
その為ほぼ1年半以上にわたり麦の生産が激減する事が確定、その事実を察した華北全域の穀物商人達は、一石処か一握りの麦を得る為に東奔西走、圧倒的な買い注文が殺到し、日に日に値段が高騰から暴騰になり、あっという間に一石が1万銭を越えた。
そしてこの一連の暴騰状態に拍車を掛けたのが、洛陽の穀物を扱う大商人達であった。
彼らは朝廷に直接御用達として、様々な物品を納入しているのだが、特に穀物商の大商人は一定量の穀物を、朝廷に納品する契約を交わしているものだから、納品出来ないと物理的にも商売人としても死んでしまう(朝廷に対する不義で処刑)ので、一定量を確保する為に、その時の相場の何倍もの金額を提示して、損失度外視でかき集めたからである。
実際に、初対面に等しい洛陽の侯家商会から、何処で嗅ぎつけたのか不明だが、嫁に嫁いだ林臨の名が記された食料売却依頼の嘆願書が、遠く離れた徐州に届く程であった。
当時の女性はほぼ文盲(文字の読み書きが出来ない)な為、代筆というか偽筆なのは確実なのだが、糜芳としても幾らWIN=WINだったとはいえ、オペレーションに巻き込んだ負い目と、良縁あって知り合った人の幸せを願う程度の情は持っているので、一石=15万銭の提示額を10万銭で売り払う事にして、林臨の嫁ぎ先の立場が少しでも良くなる様にしてあげた。
(相場が、一石=15万銭台になったか・・・すげー暴騰状態だけど、コレでもまだまだ序の口だからな~、食料バブルは)
前世の記憶を辿りながら思考する糜芳。
何せ現在程の極端な暴騰は続かないのだが、凡そ10年近くに渡って高騰が続き、終いには一石=50万銭にまで値上がりするのだから、とんでもない話だった。
それはさておき、
こうして糜芳は前世歴史知識で、黄巾の乱前に食料品(偶々収穫期で1番安い時期に)を買い漁り、錬金術の如く僅かな食料を元手に大量の金銭を得て、巨万の富みを糜家商会を通じて築いたが、根が小心者なので決して暴利を得ても最高値で売らず、2~3割引で売ったりして、ビミョーに買い手に恨みを糜董と共に買わない様に心掛けていたし、保身に余念がなかった。
東海郡朐県城内露天地区
保身のために先ず主上から貰った、前世の感覚・感性からしたらガラクタ(下賜品)を処分して売り払って、悪評が広まる前に一定の名声を得ようと画策し、
「主上のお召しを受け下賜品を貰いながら、主上の苦難に何も出来ず申し訳ない。
それなら下賜品を死蔵して埃を被らせるよりも、1振りの剣・1領の鎧・1張の弓・1枚の盾に変えて主上のお役に立てる方がマシだ。」
心にもない、それらしい理由付けをして、主上=霊帝からの下賜品を周囲の金持ちや名士に売っぱらう事にしたのだが、
「「「下賜品を売るのも言語道断だが、買うなどと、とんでもない不敬が出来るか!!」」」
猛反対を受けて、全然売れなかった。
仕方ないので、使用料を払って露天販売で売り捌く事にした糜芳は、下賜品を無造作に適当に露天に並べて、その辺で拾った木の枝で地面をぺチペチと叩きながら、
「さぁ、いらはい、いらはい。
此処に在る品々は天下に2つと無い、恐れ多くも皇帝陛下からの頂戴品だよ~。
安くしとくよ~、いらんかね~。」
何処ぞのフーテンの方の如く、文字通り叩き売りをしていた。
「「「「「ギャハハハハ!!なんだそりゃ!?」」」」」
「おいおい観ろよ、坊主がとんでもねー品物を売ってんぞ?皇帝陛下の頂戴品だってよ?プハハハ。」
「んなわきゃねーだろうが。
オイ坊主、冗談じゃすまねーぞ?止めとけよ洒落になんねーから。」
糜芳の口上を聞いていたギャラリーは大爆笑して、ある人は笑って冗談と思い込み、ある人は真剣に糜芳の身を案じて説教をする。
そうして糜芳のトンデモ口上により、大勢の人々が糜芳の出品している品々を観ていて、その内1人の50絡みの朴訥そうなオッチャンが玉(宝石)を手に取り、
「う~ん、偽もんでも綺麗なモンだなあ。
孫娘が喜ぶわ、坊主、オラにコレを売ってくんねぇかな?」
糜芳に売買取引を持ち掛ける。
「ヘイ、まいど!
旦さんお目が高いですね~、それは良いものですよ~(多分)。」
「へへ、そうかい?値段は幾らだい?」
「旦さんのお気持ち次第でどうぞ。」
「ええ!?値段設定してねーんかい?
・・・う~ん、曲がりなりにも皇帝陛下の頂戴品って名目だからなぁ、失礼の無いようとりあえず手持ちの全財産を払うわ。」
悩んだ末に、懐から貧相な巾着袋を取り出して糜芳にそのまま渡す、気のいいオッチャン。
周りからは、「よっ、太っ腹」だの、「止めとけよオッチャン、銭失いだぞ」だの賛否両論の言葉が飛び交っている。
一連の騒ぎを見ていた、隣で露天販売しているおっさんが、近くの同業者に目配せをし、目線を受けた若い兄ちゃんが小走りに駆けだしていく。
どうやら騙り商売と判断し、衛兵を呼びに向かったようだ。
(通報がいったな・・・良し。
とりあえず売れた!さぁてこれからが本番だな)
ニヤリと一瞬あくどい笑みを浮かべた後、瞬時に表情を引き締め、丁重に巾着袋を押し頂き、
「誠にありがとうございます。
つかぬ事を伺いますが、お名前を教えて頂けませんでしょうか?」
名前を尋ねる。
「うん?オラか?オラは○○村の田彫つうがな。」
「○○村の田彫様ですね?ありがとうございます。
貴方様の憂国の志は、決して疎かには致しません。
必ずや主上に上奏して、お伝えしますので・・・。」
田彫に拝礼する糜芳。
「ははは、それは楽しみにしとるだで坊主よ。」
笑いながら頷く。
瞬間、
「どけどけぇ!!道を空けんか!!」
怒鳴り声が辺りに響き渡って、ゾロゾロと衛兵達が糜芳達の周りをぐるりと囲む。
「貴様かぁ!!主上の名を騙って商売をしている不届き者は!?・・・て、あれ・・・び、糜芳様!?」
睨み付けていた衛兵隊長らしき人物が、正面に回って糜芳の顔を観た途端、驚きの声を上げる。
「あ、衛兵隊長さん、お勤めご苦労様です。」
「あ、どうもご丁寧に。じゃなくて!!
こんな所でなにしてんですか!?五大夫の官爵位を主上から頂戴した御貴族様が!?」
「「「「「ハァァァァァァァァ!!!!!????」」」」」
衛兵隊長の発言を聞いて、顎が外れんばかりに驚愕の声を上げるギャラリー。
観れば通報を促した隣のおっさんは泡を吹いて失神、通報しにいった若い兄ちゃんは、やりきった表情から一転、ガックリと膝を曲げて上半身は天を仰ぎ、祈るような珍妙なポーズで固まっていた。
「何って、主上の苦難を救うお手伝いをしようと思って、金策をしようとしたら、私物自体が下賜品しか無いので、売り払った金で武具とかを購入して、官軍の方々に寄贈しようと思いまして・・・。」
ポリポリと頭を掻きながら答える。
「売る!?下賜品を!?
皇帝陛下の下された品物を売るつもりですか貴方様は!?し、信じられない・・・。
けれどもそんな恐れ多い品物を買う、在る意味勇士な奴居ませんよ!とんでもない!」
「いやー、漸く1つ売れまして。」
「買った奴居るの!?・・・誰だ!そんな不届き千万の輩は!?」
顔を真っ赤にして、周囲を見渡す衛兵隊長。
「は?え、え?」
ギャラリーの視線が一斉に、孫娘のお土産に皇帝の下賜品を購入した、朴訥そうな勇士(56歳)に向けられた。
「貴様かぁ!!恐れ多くも皇帝陛下の下賜品を金銭で購入した不届き者は!
・・・罪を認めれば、温情で死刑執行が家族には及ばないようにしてやる。
・・・認めなければ・・・判るな?」
激怒した後、諭すように淡々と死刑宣告を告げる。
問答無用で殺る気満々であった。
「ヒィィィ!!お、お助けを、助けてくれ!?」
「お待ち頂きたい。
彼は真の憂国の士であり、世間から賞賛されるべき御仁です。
そのような御仁を害するなど以ての外ですよ。」
「いやあの・・・至極真っ当な対応だと自負する所存なんですけど・・・。」
呆れた表情で答える衛兵隊長。
「いやいや、この御仁の行動は主上にキチンと上奏して、お伝えするつもりですけど?」
「し、主上にですか!?え、本当に?」
「はい、(手持ちの)全財産をはたいて、主上の苦難を救わんとするのですから当然でしょう。
一応黄巾討伐軍の司令官・皇甫嵩様とは懇意にしておりますし、総司令官の朱雋様とも知己なので、双方にお願いすれば可能かと。」
淡々とさも当然の如く話す。
「はぁ、左様で・・・。
え~その~貴方様の崇高な志、十分に分かりました。
・・・因みに、全財産とはいかほどで?」
雲の上の存在が次々と出たことで、自分の手に負えない事を理解した衛兵隊長は、適当に切り上げるべく、適当な質問をして、お茶を濁して去ろうと決意する。
「え~と、ひぃふぅみぃよぅ・・・。
全部で38銭ですね!」
「たった38銭で、万銭は届く下賜品を貰い、主上に上奏されるなんて・・・ウ~ン。」
信じられない事実にバタンと昏倒する衛兵隊長。
「隊長一!?しっかりしてください!
おい、隊長を屯所に運んでいけ!」
副隊長らしき人物が部下達に指示を出して、事態の収拾に奔走している。
「え~と、お大事に。じゃあコレで。」
「ち、ちょっと!?そんな無造作に下賜品を扱わないで!!壊れたりしたら、私達の命が無くなるから!」
絶叫しながら、適当に下賜品を風呂敷に詰め込む糜芳に、注意喚起を促す副隊長だったのであった。
糜芳邸私室
こうして、とんでもないエピソードを意図的に起こした結果、
「糜芳から下賜品を買えば、主上に自分の名前を覚えて貰える。」
「下賜品を買っても不敬にならず、忠義になる?」
「たったの38銭で、其処までの恩恵が有るなら、もっと高い金額を払えばもっと凄い恩恵を得れるのでは?」
といった内容の噂があっという間に広まり、猛反対していた連中が手の平をクルッと返して、「自分に売ってくれ」の大攻勢になり、オークション形式で売り捌いて巨額の金銭を得た。
そしてオークションで得た金銭を、包み隠さず公表する事で透明性をアピール、その金銭の使い道をどうするか、徐州中から注目を集めた後、7割近くを黄巾賊と戦っている3手の討伐軍に、それぞれ軍資金として提供する事を発表し、糜芳から下賜品を購入して、金銭を搾り取られたのに気付いていない、幸せな曹豹達州軍部に丸投げして、責任回避の為に公衆の面前で渡し、残りは屯田制充実の為に使用すると発表。
同じく幸せな気分になっている、鄭玄達民部に丸投げして公衆の面前で渡した。
これにより州内外から賞賛されて名声を得た糜芳は、食料品を超高額で売り捌いて巨額を得ている事実を、名声でコーティングして保身に努める事に成功。
(例え事実を知られて非難されても、下賜品を買った協賛者兼共犯者は、自分達の名誉を傷つける事を許容出来ないから、真っ向から否定するだろうし、皇甫嵩達からすれば、非難する奴を「じゃあお前は何をしたんだ?」と逆に非難してくれるだろうからな。
クックックック・・・上手くいったわ)
保身を得る為にやった事は、露天販売で騒ぎを起こしただけである。
非常に低コストで最大の利益を得た糜芳であった。
因みに実情を知る数少ない人物・糜董と糜竺は、
「「あ、悪どい・・・。
下賜品も元々貰い物なんだから、実質1銭も使ってないじゃないか。
それを州の軍民部の連中に高値で買い取らせて、不満処か喜ばせるなんて・・・只でさえ初期の屯田制費用を捻出させているのに・・・口先1つで人を転がすなんて、蘇秦・張儀みたいだまるで。」」
呆れ半分、感心半分の複雑な評価をしていた。
因みの因みにだが、糜芳から玉を38銭で購入した在る意味勇士の田彫さん(56歳)は、乱の終息後正式に玉を下賜された上に民爵が2階級陞爵して、「徐州1幸運のオッチャン」として名が広く知られるようになったそうな。
続く
とりあえずまだこの話は続きます。
次は窄融登場の場面になる予定です。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




