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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
39/111

閑話・ドナドナと洛陽へあふた~

この物語はフィクションです。


実在するorした人物・地名・団体・組織とは一切関わりはありません。


何処かで聞いた事がある名詞は、気のせいです。


更新が遅れて申し訳ありません!


仕事現場が一週間遠方で片道2時間、往復4時間もかかる場所だったので、書く暇が無く、書いている最中に寝落ちする日々でした。


感想及び誤字脱字報告ありがとうございます!


読んでくれなくなった方も居られれば、読んでくださっている方もいらっしゃる。


読んでくださってくれる方達に、少しでも楽しんで頂ける様、頑張ります!

      洛中北西部後漢中央軍練兵場


なんだかんだとあった末、無事御目見得を終えた糜芳は数日の静養をした後、さっさと地元に帰還すべく慰留を粘着質に勧める曹操の誘いを(夏侯惇が物理的に)蹴り、夏侯惇や李軻をお供に挨拶まわりを行っていた。


今回暑苦しいヤロー共の巣窟と言える練兵場を訪れたのは、勅命とは言え送り届けてくれた皇甫嵩に面会して礼を言いに来たのと、有る目的の為であった。


曹嵩と曹操の連名で書かれた紹介状を衛兵に渡し、姓名と目的を伝えて暫し待つと、或る一室に案内され、


「失礼します。」

定例句を述べた後に入室する。


「おお、よくぞ参った糜芳よ。

さあ、遠慮せず入れ。」

飾り気の無い簡素な部屋の中央に、白髪混じりの熊髭を生やした、がっしりとした体格を持つ武人然とした佇まいの男が、泰然と座っていた。


「では、失礼して・・・」と用意された椅子に座り、送り届けてくれたお礼を述べる。


「なんのなんの、勅命によりした事で、礼を言われる事では無いから礼には及ばん。

・・・して、礼とは別に何ぞ儂に用件が有るとか?

スマンが多忙でな、手短に頼みたい。」

顔の前で左右に手を振って、「気にするな」とジェスチャーをした後、糜芳に用件を急かす。


「は、では・・・実はこの度、主上より実家から離籍独立を許されて五大夫の官爵を賜りまして・・・。」

「な、なんと!?それは誠か!?

これは失礼致した糜芳殿、今までの非礼許されよ。」

糜芳の話を遮り、先程までの目下に対する口調と打って変わり、丁寧な言葉遣いに変えて頭を下げて謝罪する皇甫嵩。

観れば皇甫嵩の側に控えていた側近も驚いた表情をしていて、慌てて居住まいを正していた。


(曹操の言う通り、最下級でも官爵クラスの爵位を持つと、周りの見る目が変わるってホンマなんやな~)

子供の自分に頭を下げる、後漢末期を代表する名将・皇甫嵩を観て、脳内で思考する糜芳。


因みにだが後漢時代の爵位は20等爵も数が有り、若い番号程低く1~8位迄は民爵と謂われて、良民と呼ばれる一般庶民なら貰える、又は金銭で買える爵位であった。

(地方名家・名士はこの民爵の上位クラスを持っていた人達の総称で、諸葛亮の諸葛家が該当)


それに対し、官爵は9位以降で後漢王朝から正式に認められ、尚且つ六百石以上の家禄を貰っている人達に限られ、俗に貴族とも呼ばれた中央の名家・名士しかほぼ持てない、結構レアな爵位だった。

(洛陽付近の州・郡出身者に多く、司馬懿の司馬家が該当)


そのような概念から皇甫嵩は、糜芳に対し先程まで庶民に対する態度(かなり丁重)で接していたのだが、中央名士に(不本意ながら)なったのを知って、口調を改めたのである。


それはさておき、


「皇甫嵩様、お気になさらず顔を上げてください!」

皇甫嵩の謝罪を受け入れ、話を仕切り直す。


「え~と、それでですね皇甫嵩様。

朝廷より六百石の家禄を頂戴する事になったのですが、その家禄をそのままそっくり軍部に寄進(寄付)したいと思いまして・・・。」

「「はぁ!?」」

皇甫嵩と側近が揃って素っ頓狂な声を上げる。


「糜芳殿、な、何故に?」

「はい、これは主上にもお話したのですが、国家伸長・安寧を齎しておられる文武官の皆様と違い、絵画・歌曲で国家の財を頂戴するのは心苦しく、かといって主上の下賜を即辞退するのも不敬になるので、それならいっそ軍部にと・・・。」

「はぁ、左様か・・・。」

糜芳の話に信じられないといった表情で、呆然とした返事を返す。


(まぁ、オワコン化してどうせ空手形か、万一貰えても中抜きされるか横領されるのがオチだしな)

心中で本音を付け足す。


「ふ~む、それなら某でなく民部に言うべきでは?」

極々真っ当な意見を述べる皇甫嵩だったが、


「ええ、まぁその~・・・皇甫嵩様の知人にマトモな民部の方(名家閥or宦官閥)、います?

いたら紹介をお願いしたいのですが?」

マトモな奴がいたら、ハナから此処に来ていないと暗に示す糜芳。


「スマン、知らん。」

糜芳が寄進した家禄を、喜び勇んで中抜き・横領する民部連中がありありと思い浮かぶのか、苦々しい顔で即答する。


「しかし、そもそも何故に軍部なのだ?」

「それは勿論僕の寄進する禄を、国家に殉じて殉職(戦死)された方の遺族や、負傷して軍務を全う出来なくなった人達の為に使って頂きたいからです。」

「「「おお!なんと奇特な!!」」」

皇甫嵩と側近だけでなく、護衛として臨席している夏侯惇も感嘆の声を漏らした。


「それに・・・。」

「それに?」

「近衛兵を除く軍部の大半は庶民出身なので、働き手を失うと(たちま)ち困窮しますが、民部は大半が名家出身で実家が太い(金持ち)ので、困窮する事は極少数でしょうし。

と言うかそもそも民部で殉職(過労死)する人っているんですかね?」

「まずおらんな。腹上死する輩なら、掃いて捨てるぐらいおりそうだがな。」

糜芳の質問に辛辣な解答をする皇甫嵩。


実際に両派閥は権力抗争に夢中になって本業が疎かになり、「遊んでないで仕事しろ!」と心有る者が叫ぶぐらい、実務をサボり過ぎて国家運営に支障をきたしていた。


「まぁそういう事で、民部の人達に委託するのはちょっとアレなので、軍部の方に直接お話しようと思い立ちまして。

特に主上に召され、覚えめでたき皇甫嵩様なら民部を介さず、内容を歪めたり握り潰したりせずに、そのまま主上に上奏する事が出来るのではと思いまして・・・。」

ごそごそと袖から竹簡を取り出して、皇甫嵩に差し出した。


「コレは?」

「この書簡には皇甫嵩様を始めとする軍部の方々に、僕が頂戴した家禄を委譲する旨と、その理由を書いてあります。

素人が書いた上奏文なので、問題が有れば添削して書き直して、お手数ですが上奏してください。」

ぺこりと頭を下げて、ズィっと竹簡を渡す。


竹簡を受け取った皇甫嵩は、


「糜芳殿、何故に其処まで、其処までなさるのか?」

糜芳に疑問を呈した。


(え~、そりゃオワコンの後漢に関わりたくないのと、家禄(六百石=一石50銭で凡そ3万銭=300万円)に固執して中央に残って政争に巻き込まれたくないのと、主上の呼び出しを受けるブラック環境から脱出したいのと、家禄を貰って故郷に帰った時に「俸給泥棒」と後ろ指差されたくないからなんだけど)

ボロボロと保身的理由が内心から溢れ出るが、そのまま正直に言うのはマズいと思った糜芳は、


「それは無論僕達力無き者が、盗賊や異民族に怯えずに安穏と生活出来るのは、軍部の方々の奮闘が有るからだと思い、感謝しているからです。

その恩義ある方々の不幸が少しでも無くなり、報恩が出来ればと思った次第です。」

適当に誤魔化して、それらしい理由を述べる。


「おお、なんと・・・うう、うぉぉぉ・・・。」

糜芳の答えに感極まったのか、ぽろぽろと滂沱の涙を流して嗚咽を漏らした。

観れば皇甫嵩の側近も泣いている。


(おおう・・・ガチ泣きしとる。

適当な言い訳をしただけなんだけどな~)

皇甫嵩達のガチ泣きにたじろいでいると、


「びぼヴ殿~、がならずや必ずやこの上奏文を主上に届けますぞ!我が身命に代えても!!」

竹簡をおし頂き、拱手して涙ながらに皇甫嵩は答えた。


「いえ、あの~・・・其処まで必死にならなくても宜しいのでは?」

思わずツッコんでしまう糜芳であった。


     洛中北大路から東大路に至る回道付近


「ふぃ~、ミッション終了と・・・。」

疲れた声音でボソッと呟く糜芳。


あれから皇甫嵩に気に入られてなんだかんだと話し込み、話の流れで徐州で実施している屯田制と軍屯の話をすると、「屯田制?軍屯!?詳しく!!」と凄く食い付かれて、慌てて軍政官達や将校を呼び出し、側近は竹簡を取り出して一言一句も書き漏らさんとスタンバイ、有らん限りの情報を搾り取られた。


その上尋問の様な事情聴取の様な聞き取りが終わり、さぁ帰ろうかとするとガシッと袖を掴まれ、「まぁまぁまぁ、もう少し居られよ」と皇甫嵩に抑留された。


「いやアンタさっき多忙とかどうとかいってたよね?何か言ってた事と違う事ない?」と思いつつ、周囲の筋肉男(キン○マン)達の圧力にあえなく敗れ、アドバイザー的ポジションになった糜芳は、どうぞと用意された白湯と煎り豆(ほんのり塩味)をボリボリ齧りながら、屯田制の有無・良悪について激論を交わす皇甫嵩達に付き合う羽目になったのであった。


「いや、お疲れ様ですね糜芳殿。

しかし、屯田制ですか・・・誠に見事な政策ですな。

屯田制を考案した兄君は素晴らしい御仁ですな~。」

疲れている糜芳を傍目に、ウンウンと感心しきりの護衛役の夏侯惇。


(まぁ元ネタは貴方と部下からなんだけどね・・・)

脳内で思考しつつ、


「ええ、そうなんですよ!自慢の兄です!」

清々しい笑顔で面倒事を押し付けて、しれっと自慢の兄を売り飛ばす弟。


息をするように鬼畜な所業をして歩いていると、


「あ、あの!すいません、もし!」

不意に呼び止められた。


「うん?」

声のした方に視線と体を向けると、ボロボロで解れて破れた衣服、手入れが殆どされていない放髪、やせ細った手足の、自分より幼い子供が立っていた。


「え~と、俺を呼んだのかな?」

「は、はいそうです!」

自分を指差して確認すると、コクリと頷いた。


(う~ん、どう観ても貧民地区の貧民の子供だけど、何用だろう?

しかし良く観てみると、ショタ女が涎を垂らしてお持ち帰りしそうな、中性的な美貌の美男子だなあ。

どうせ転生するならこんな美男子になりたかったな)

ジロジロと観察し、自身を振り返って嘆息する糜芳。


「それで?用件は?」

「はい、この前の夜に花嫁行列を観たときに、演奏されているのを見かけまして・・・。」

「へ~。そうなんだ。」

「それで話を聞き込んだ所、麦粥一杯の料金で演奏を引き受けられたとか。」

窺うような目線で糜芳を見つめる。


「まぁ、そうだけど・・・。」

「それならお願いします!!コレで、コレで母の弔いに1曲、1曲演奏願えませんでしょうか!?

お願いします!!お願いします!!」

ビタ銭(悪銭)を6枚糜芳に差し出した状態で、土下座して懇願する美男子。


(う~ん、どうしよう?)

受けるか否か悩んでいると、


グぅ~キュルルル・・・

盛大な腹の虫が聞こえる。


「ねぇ、そのお金で何か食べた方が、お母さんも喜ぶと思うよ?」

「いえ、2~3日食べなくても平気です!

それに弔いは今しか出来ないので、お願いします!」

ご飯よりも弔いをしたいと願い出る。


(ええ子やんかぁ。こんなクソな魔都にも、みてくれはボロでも心は錦な人って居るんやな~。

この子みたいなんが俗に孝子って奴か~、居る所には居るんやなぁ・・・感動したわ)

じーんと孝子の孝心に感動する糜芳。


「ヨッシャ!引き受けた!」

「ちょっと糜芳殿!?」「おい!坊!?」

ドンと胸を叩いて了承する糜芳に、抗議の声を上げる夏侯惇と李軻。


「まぁまぁ2人共、孝子を見捨てるのは人道に悖る事になりますよ?」

そうして2人を宥め、美男子孝子の案内でドンドン日当たりの悪い北東部に進んでいく糜芳一行だった。


        洛中北東部奥貧民街


繁華街から風俗街を抜けると一気に建物がボロっちくなり、掘っ建て小屋処か廃屋や倒壊寸前の建物がちらほらと散見するようになる。


幾つもの不審そうな視線を浴びながら、少し離れた所で浮屠(仏教)を信仰している、白馬寺の僧侶と思しき人達が、布教活動の一環なのか炊き出しをしているのを遠目に、孝子の案内で数人の人が囲んでいる廃屋に近付く。


「おい!(だい)!妹の(しょう)をほっぽって、なにしてんだよテメェは!?」

孝子を見つけた強面のオッサンが、肩を怒らせながら孝子を大と呼んで怒鳴る。

周りにいた老若男女も同じ意見なのか、そうだそうだと頷いていた。


「ごめんなさい、小父ちゃん達。

母さんの弔いに楽士の人を呼んで来てたんで、ちょっと遅くなっちゃった。」

「おいおい、本当に連れて来たのかよ!?

まぁ、とりあえず早く家に入って小を宥めてやりな。

ビービー泣き喚いて、手が付けられねぇからよ。」

大の話に驚きつつも顎をしゃくって、中に入る様勧める強面ながら優しいオッサン。


「ありがとう。小父ちゃん達。

・・・小!今帰ったよ!!」

どうやら周囲の人達は、大と呼ばれる美男子を心配していたらしく、周りの人達に大は頭を下げて廃屋に入って声を掛けると、


「だい~~大ぢゃん~!どごいっでだの”ぉ?わ~ん!!1人にじないで~。」

弾丸の様に大に飛びつき、グリグリとお腹辺りに顔を擦り付ける、大より幾つか幼い幼女が現れた。

兄の大よりほんわかした雰囲気だが、将来結構美人になりそうな造形をしている。


「もぉ~。何処にも行かないから泣き止んでほら。

・・・あ、スイマセン楽士さん。ほったらかしにしちゃって・・・。

・・・此方が母になります。」

妹をあやした後糜芳達の存在を忘れていた事に気付いて、慌てて亡母の許に導いた。


「失礼します。」

断りを入れて入ると、大のすぐ側に母糜香と変わらないか少し下ぐらいの、大と小に似た若い女性が眠る様に横たわっていた。


「人品卑しからず、何処ぞの没落した名家か商家の妻女、といった処ですか・・・。」

夏侯惇が大の亡母の死に顔を覗いて、ポツリと呟く。


「え?そうなのですか?」

「ええ、如何に襤褸(ぼろ)を纏おうと、生まれや育ちで培った気品や雰囲気は、中々隠しきれるモノでは有りませんから。」

「なる程、確かにそうですね。」

目の前の生きた実例に説明されて、大いに納得した糜芳。


「あの、ではお願いします・・・。」

「あ、はい、では・・・。」

大に促されたので、糜芳は大の亡母に拝礼して立ち上がると、


♪~~~~♪~~~~~~♪・・・

指笛改を使って、演奏を行う。


「ノブの欲望」シリーズで、物悲しい曲を幾つかメドレーで演奏する。


家・・・廃屋で演奏していると、何だ何だとゾロゾロと人が集まって、騒ぎになっていた。


♪~~~~~~♪・・・

「ふぅ、こんなものかな・・・。」

30分程で演奏を終えてぺこりと頭を下げる。


オオオオオオォォォォ・・・

「すげえぞ!あんちゃん。」

「こんな所で音楽が聞けるなんて、夢にも思わなかったよ・・・グス。」

野次馬から感嘆の声が挙がる。

 

(え~と、そう言えば後道士か何かが、祝詞か呪文みたいなん唱えてたな・・・)

出来る限りの事はしてあげようと思い、道士の呪文を思い出そうとするも、サッパリ覚えてなかった。


どうしようかとふと周囲を見渡すと、袈裟みたいな衣装を纏った、浮屠の坊さんが目に入った。


(う~ん、この際仏教の般若心経でも良いか。

弔う気持ちが第一で大事だろうし)

そう結論付けた糜芳は合掌して、


「仏説摩訶~般若波羅蜜多心経~観自在菩薩。」

朗々と般若心経を唱えた。


因みに糜芳が般若心経をソラで読経出来るのは、前世の母の影響である。


前世の母方の祖母は、実家丸ごと仏教系新興宗教の信者だったらしく、母も母の兄の伯父も般若心経を幼少時から教え込まれたそうだ。


母自体はその新興宗教を全く信仰していなかったが、習慣として般若心経を読経するのが染み付いた様だ。


子供の頃は全く意味が判らなかったが、「魔法使いの呪文みたいで格好いい!」と思った幼い前世の優人は、一生懸命聞きかじって習得をしたのである。


何気に宴会等の一発芸や、仕事関係者の義理事にと重宝して、謎の需要があったが。


ついでに前世の母に、


「母さんは何で婆ちゃんと同じ宗教を信仰しなかったの?」

素朴な疑問を尋ねると、


「その宗教信仰のせいで、アンタの婆ちゃんと爺ちゃんが離婚する事になって、私や兄さんが不幸になったのだけど?

理不尽に不幸な目に遭った私と兄さんが、そんな諸悪の根源と謂うべき宗教を信仰すると思う?」

真顔で答えられて、「サー!イエッサー!!」と敬礼して理解したのであった。


それはさておき、


「おい、何か妙な呪文を唱え始めたぞ?」 

「う~ん、多分道教のまじないじゃないか?」

「ああ、魔除けのヤツか。」

基本的にマトモな葬儀をした事も観た事も殆ど無い貧民街の人達は、道教のまじないと勘違いして神妙に糜芳の般若心経を聞く。


「行深般若~波羅蜜多時。」

もしかしたら浮屠の坊さんに怒られるかな~、と思ってちらっと坊さんの方を観てみると、何故か糜芳に向けて合掌して熱心に拝んでいた。


(ありゃ?まぁ、怒られないならいっか・・・)

首を傾げながら読経を続ける。


因みにだが、この時代は前述した通り仏教伝来黎明期であり、ブッダの教えは口伝や伝聞で伝わっていた為に、欠落・解釈ミス・誤訳が多く不完全だった。


中国の唐代に、かの有名な三蔵法師が天竺(インド)に赴いて仏教の経典を持ち帰り、大般若経を出版して漸く正しい教えが伝播したと言われているのだが、糜芳は無自覚に大般若経を端折(はしょ)った般若心経とは言え、ブッダの教えを正しく唱えていた為に浮屠の坊さんからは、御仏の使いや伝道者の如く映っていたのであった。


そんな浮屠に目を付けられる事を全く自覚していない糜芳は、読経を終えて大の方に振り返って、


「こんなモノで良いかな?大。

出来る限りの事はしたつもりなんだけど・・・。」

大に確認する。


「は、はい。ありがとうございました。

母も、母もきっと喜んで・・・ワァァァァああ!!」

無事に母を弔う事が出来た事で緊張の糸が切れたのか、亡母に縋りついて泣き喚き始め、小も釣られて泣き出した。


暫く兄妹の合唱を聞いた後、落ち着きを取り戻した大から6銭のお金を受け取り、


「じゃあコレ、母君への香典ね。」

持っていたお金を全て渡す。


「こ、こんな大金受け取れません!」

「君の孝心と、そんな立派な子供を育てた賢母への弔いの気持ちだから、遠慮なく受け取って。」

「それなら尚のこと受け取れません。

僕の母への孝行と母からの愛情は、金銭で表せるモノでは有りませんから。」

キッパリと固辞される。


(おお・・・凄い、顔も中身も美男子だ。

俺ならル○ンダイブして喜んで飛びつくのに・・・。

うん?待てよ、身持ちが堅くて金銭にも惑わずって、よく考えたら結構な逸材じゃんか!

実務能力は未知数だから、ウチの家令や執事が務まるかは何とも言えないけど、使用人としては現段階で有望だな。良し!スカウトしてみるか)

脳内で利害計算し、結論を出す。


「じゃあ大、コレは手付け金として渡すから、ウチの家に来ないかい?」

ニッコリとフレンドリーに声を掛ける。途端、


ザワ!ザワザワ!!

周囲が殺気立ちざわめく。


「糜芳殿!?」「おいおい!坊!?」

夏侯惇と李軻が驚いた声を上げ、責める口調で、


「「人前で堂々と人身売買する(とは何事)なよ!!」」

苦言を呈す。


「誰がやねん!?んな非人道な事するかい!!

ウチに使用人として雇われないかっつってんだよ!!人聞きの悪い事言うな!」

顔を真っ赤にして反論する。


「あのな、坊。

それを言うなら支度金だろうが!!

手付け金つったら人身売買で、半金前払いで唾つける意味になっちまうぞ?」

「え?そうなの?」

「そうだよ!」

とんでもない勘違いをしでかした阿呆。


観れば大は小を引き寄せて、ガタガタと震えていた。


「スミマセン言い間違いました!支度金でした!

ウチの家は新興の家で、現状使用人が居ないんです!

今なら最低でも使用人頭、能力次第で執事・家令も可能です!

個室完備!衣食支給!賃金良し、昇給有り!さぁ、如何でしょうか!?」

何処ぞの怪しい求人広告みたいな宣伝をする糜芳。


「いきます!」

「ちょっと!?小?」

「大ちゃん、せんざーいちぐ~のこおきだよ!!

このままだとじりひー?なんだから、いまが最後かもしんないよ!?」

非常に乗り気な幼女小。


「けど・・・もしかしたら小狙われるかもよ?」

「ダイジョブ、だいじょぶ。

か~ちゃんがん(眼)だとヘタレなぼうずだから!」

えへんと自信満々に胸を張る。


(清楚な顔してすげー情操教育してたんだな、大達のおかん)

半眼で安らかに眠る亡母を見つめる。


結局躊躇はしたものの使用人として雇用される事を、小と共に生活出来る事を条件に了承した大。


その後遺品整理を行い、遺体の埋葬を金銭を払って住民に依頼して後始末を終え、大達を伴って寄宿先の曹家にさぁ帰ろうとすると、


「あの、もし・・・。」

禿頭の坊さんが、アルカイックな笑みで糜芳に声を掛けて来た。


(うげ!?もしかして勧誘か?功徳(くどく)という名のお布施の要求か!?もしくは営業妨害(?)のクレームか?)

警戒心MAXで後ずさる。


「あ!もうこんな時間だ!

サッサと帰らなきゃね、夏侯様、李軻さん!?」

在るはずのない腕時計を見る振りをして、ツカツカと早足で距離を取ろうとする。


「もし!お待ちを・・・。」


ダッ!ダダダダ・・・


ダッシュで脇目も振らず逃げ出した糜芳一行であった。

(大と小は夏侯惇と李軻が小脇に抱えて回収済み)


        洛中曹家邸客間


ダッシュで坊さんを振り切って、寄宿先の曹家邸に戻った糜芳は、せっせと帰郷の準備をしていた。


(うっかり忘れてたけど、サッサと帰らなきゃ黄巾の乱に巻き込まれて帰れなくなっちまう!

後、帰ったら将来に向けて資金稼ぎをしなくちゃ!)

脳内思考しつつ、荷造りをしていると、


「失礼します、旦那様。」

自分より少し年下の綺麗な女の子が、小さい女の子を伴って入室して来た。


「はい、え~と、何でしょう?」

「いえ、身仕度が整ったので、改めて挨拶に参りました旦那様。

これより粉骨砕身お仕えさせて頂きます。」

「いただきま~す。」

「え?誰?」

謎の美少女の奉仕宣言に、喜びよりも困惑の方が上回り、警戒モードになる糜芳。


「誰って・・・大ですよ!大!」

「しょうですよぉ!小。」

「はい?お前・・・女装趣味なの?」

ジリジリと距離を取る。


「僕じゃない、私は元々女です!」

「大ちゃんは女の子ですよ~。」

「え?ホンマに?」

文字通りビフォーアフターに驚愕する糜芳。


大曰く亡母の教えで、「貴女は素でも美人だから、拐かしに遭わない様にする為にワザと顔を汚し、男の振りをしなさい」と常々言われていたそうで、念入りに髪もボサボサにして男の仕草を身に付け、擬態していた様だ。


(うぉい、マジか・・・。俺人見る目ね~なぁ)

人物眼の無さにガックリする。


「え~、こほん、旦那様?

私の正式な名前は、豹蝉(ひょうせん)と申します。

宜しくお願いしますね。」

「ええ!?貂蝉(ちょうせん)!?」

「貂じゃありません!豹です!」

何故か非常に違いを強調する。


「それでわたしも豹銭(ひょうせん)だよ!

よろしくお願いします!」

にぱーと笑う小。


「じゃあ大と小って・・・。」

「ええ、字は違うのですが、読みが同じで紛らわしいので姉の私が大、妹の銭が小と、私と妹を区別する為に便宜上名乗っているだけです。」

淡々と語る。


(なんか江東の美人姉妹と有名な架空美女がチャンポンした様な感じだな)

豹姉妹を観てそう思った糜芳であった。


その後豹姉妹を観た姦雄が、電波か下半身が反応したのかは不明だが、熱心に姉妹を勧誘するも零度の対応で拒絶、三国志の覇者を凹ませる偉業を成し遂げた。


そして、遂に帰郷する事になり、新たに豹姉妹を連れて、ちょっとした資金稼ぎをこなしつつ年内に帰郷する事が出来た。


徐州で年が明けて早々・・・


三国時代の幕開けを告げ、後漢の終焉の始まりとなる、


黄巾の乱・勃発・・・!!


世は戦乱の時代に突入していく・・・。


                    続く















































え~と、補足?蛇足?です。

一応仏教(浮屠)を絡ませたのも、後々伏線で使う為に登場させました。


皇甫嵩については、朱儁・盧植・蔡邕と並ぶ、「後漢4名臣」と私は思っています。

(王允は除く)


後述しますがこの4名臣、人物伝が書かれている「後漢書」のプチ被害者になっていると推測しております。(又の折りに書く予定です)


後は三国志に詳しい方ならご存知、貂蝉(ちょうせん)は実在しません。

実際に呂布が董卓を殺害したのは、王允が勅状を偽造・捏造したから。


結果的に王允の後先を考えない行動で、後漢は滅亡が決定したと私は考えており、個人的には王允は「王佐の才」ではなく、「王破の才」(主君を破滅させる才能)の持ち主だったと思っております。


まぁ、その辺も書けたら書きたいですね。


長々とすみません。


とりあえず始動編は終わりです。


次話から新しい編に突入します。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 南無妙法蓮華経は法華経です 般若心経は 仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 となっていたはずです
[一言] 一気に読み進めました。 とっても面白かったですね! もう既に歴史が変化しだしてる様で未来が変動し始めてるのかも。 とりあえず兄が劉備に拐われないと良いなぁ~。 苦難の旅路への同行は流石にさ…
[一言] 王允は実際に才はあったんでしょうが、我意が強く融通が全く効かない(法に則って賊軍に加担した兵の三族まで族滅したが普通こんなことしない)ところが破滅を招いたと思っています。 この作品の時系列的…
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