その6
この物語はフィクションです。
実在する人物・人名・地名・組織・団体とは一切無関係です。
又、何処かで聞いた事有る様で無い歌曲は、既存の歌曲とは全く無関係です。
気にしてはいけません。何かに負けます。
後、ちょっとご飯が不味くなる可能性がある描写が有りますので、ご飯時にはご注意願います。
糜家邸大広間・夜
大広間には、煌びやかな衣装を纏った新郎新婦が到着して、婚儀が始まって粛々と儀式が進行するのを大勢の人達が見守る中、新郎の糜竺のすぐ側に座っている糜芳はと言うと、
「うう、えらい目にあった・・・。」
頭をさすり、今までの経緯を思い浮かべながらブツブツと呟いていた。
回想
聞冬達に歌を披露した後に、興奮した士嬰・士謡兄妹による、ダブルネックハンキングツリー(首吊り)を喰らい、それを目撃した周囲の人達が、士嬰達を取り押さえる事態になった。
士嬰達のやらかしに、長子である士響が飛んで来て、
「申し訳ありません!」と糜芳に士嬰達と共に土下座して謝罪する事となった。
糜芳としては、友人同士のじゃれ合い程度の認識だったので、軽く流すつもりだったのだが、周囲の人達が許さなかったのである。
「謝って済むと思っているのか貴様達は!?」
親族・招待客達は激昂し激しく糾弾、特に聞冬達武官連中は、
「預けている剣を誰か持って来い!!
我等が心の師である糜芳殿に、危害を加えた不届き者の素っ首をはねてくれる!!」
剣を所持していたら、そのままその場で斬りかかりそうな勢いで怒っていた。
流石にこのままだと士嬰達がヤバい、と思った糜芳は、
「どうか、お怒りを鎮めて下さい!
この者達は僕の大事な友人で、おふざけで遊んでいただけなのです!
僕自身は全然気にしていませんから!
お願いですから、落ち着いて下さい皆様!」
自ら率先して周囲に頭を下げて士嬰達を庇い、事態の鎮静化を図った。
被害者である糜芳が加害者の士嬰達を庇った事が、周囲の人達を冷静にさせ、
「他でもない糜芳殿本人がそう言うのなら・・・。」
と言って、落ち着きを取り戻し、何とか事態の収束に成功する。
しかし、聞冬を始めとする周囲の人達は、
「如何に例えおふざけだったとしても、糜芳殿に危害を加えたのと、周囲に迷惑を掛けたのは事実。
この者達に、それ相応の罰を与えるべき。」
として、あーだこーだと話し合いをした結果、士嬰達にやられた分を、糜芳がやり返す事でお互い様になり、士嬰達の罰になって一件落着?という謎の結論が出て、糜芳が士嬰達をシバく事になった。
「私が全て悪いんです!
妹の分も私が受けますから、どうか阿謡は勘弁して下さい!」
士嬰が妹を庇い、自身が全て罰を受けると宣言して、男を見せる。
結果、士嬰を糜芳が2発シバく事になり、両者が向かい合わせに立つ。
「え~と、じゃあいくよ?」
「ああ、何時でもいいぞ芳。
今回は本当にすまなかった。庇ってくれてありがとうな友よ。」
ニヒルな笑みを浮かべ、従容と受け入れる姿勢の士嬰。
(顔面は目立つからNG、手足も演奏に影響出そうだから駄目、となるとボディが無難かなぁ。
下手に手を抜くと、やり直しになったら面倒だから、それなりにやらなきゃな)
どこを狙うか考え、結論を出す。
「では、コォォォオ・・・セイ、セイヤァ!!」
「ブホォォォォオオオ!?」
「ふ・・・手加減したから・・・ってあれ?」
とりあえず気合いを込めてボディブローを士嬰にかまし、手加減ムーヴをしていたら士嬰がうずくまったまま、起き上がって来ないのを訝しんだ。
「うぐぐ・・・オロロロォ・・・ふぐぅぅ!!」
うずくまっていた士嬰は吐瀉物(ゲ○)を吐き出し始め、そのまま腹を手で押さえつつ、ゴロゴロと苦悶の
表情を浮かべながらのたうち回り始めた。
「へ?え?なんで?」
予想外の惨劇を作り出した現状に混乱して、自分の握っている拳をマジマジと見つめる糜芳。
どうやら、士嬰が息を吐いて無防備になった瞬間+鳩尾という急所+絶妙な力加減という、奇跡のコラボレーションが発生し、渾身及び会心の一撃を繰り出してしまった様だ。
「おい!大丈夫か!?」
「しっかりしろ!?誰か方士(医者)を呼んでこい!」
周囲の人達が士嬰を取り囲み大騒ぎしている中、聞冬が糜芳に寄ってきて、
「あの~糜芳殿?」
何故か引きつった表情を浮かべて問い掛けてくる。
「ああ、聞冬様。
え~と、後1発どうしましょう・・・?」
「あの者は大事な友人なのでしょう!?トドメを刺す(殺る)つもりですか!?
みんな!糜芳殿を抑えるぞ!あの子供楽士にトドメを刺す気だ!!」
聞冬達に変な誤解をされて、今度は自分が周囲に取り押さえられる羽目になった。
そして、
「このクソ忙しい時に、要らん騒ぎを起こすな!!」
騒ぎを聞きつけた糜香にカンカンに怒られ、容赦のない拳骨を喰らった上に、
「この通路は新郎新婦が通るのよ!?
それをこんな吐瀉物塗れにして・・・責任を持って綺麗に掃除をしなさい!!」
明るい未来と幸福に溢れるヴァージンロードを、汚いゲ○と胃液に溢れるヴァージンゲ○ロードにした罰として、清掃を命じられるのであった。
(会場内にいる連中も、同罪として一緒に清掃した)
現在
「うう、痛いよう、痛いよぅ・・・。」
頭に響く鈍痛に、泣き言を呟く糜芳。
因みに士嬰は何とか現場復帰を果たし、腹をさすりながら楽士の列にいて、士謡は涙目になりながら、しきりにお尻をさすっている。(どうやら姉の士響にお尻ペンペンをされた模様)
「あのう、大丈夫ですか芳君?」
クイ、クイと袖を引っ張って、左隣に座っている人物が、気遣わしげな声を掛ける。
「ああ、ありがとうございます、徐歌殿。」
徐歌の気遣いに感謝しつつ、じっと徐歌を見つめる。
今の徐歌は、糜香達女性陣によって化粧と衣装をバッチリ施され、美少女から絶!美少女にランクアップしている。
化粧と衣装によって普段の活発というか、やんちゃなイメージが払拭され、清楚な雰囲気を醸し出していた。
(う~ん。女は化粧や衣装で化けるって言うけど、ホンマなんやな~。
・・・「綺麗な花には棘がある」の生きた実例だなこれは、表装詐欺に近い)
普段とのギャップを考察して、心中でわりかし酷い酷評をするド失礼な糜芳。
因みにだが、本来行儀見習いという客分に過ぎない徐歌は、そもそもの前提として出席すら出来ないのだが、糜香が「結婚式を間近で観ることによって、少しでも女らしさを身に付けてくれれば・・・」と主張し、糜董が承認した為、特別に身内扱いとして糜芳の隣に座っている。
「あの、やっぱり何か変なのかな?芳君。
周りの人達もちらちら私の事を観てるし・・・。」
糜芳の視線にモジモジと恥ずかしげにする徐歌。
それを目撃して、徐歌が純真無垢に見えた野郎共は、「ウッ」と胸を抑えて魅了されている。
周辺の野郎共(未婚)の反応を観た糜芳は、
(あ~あ、こりゃ盛大な勘違いをしてんぞ。
みてくれは大和撫子だけど、中身は日本武士
なのに。しかも薩摩二アン寄りの・・・。
見合いをと言ってきて、外見と中身のギャップに打ちのめされる阿呆野郎が、大量発生するんだろーな)
近い将来起こり得る悲劇に、心中で合掌して憐れむ糜芳であった。
それはさておき、
そんな糜芳達の、密やかな(当然、今までの会話はひそひそ話である)やり取りとは一切関係無く、婚儀の儀式は仲人役の丁老師を中心に進行し、無事固めの杯(三三九度)も終わって、婚儀が成立して晴れて夫婦となった糜竺と尹玲。
会場内の全員が「おめでとうございます!」と祝辞を述べて祝った後に丁老師が杯を掲げ、
「新しい夫婦に幸有らんこと願って乾杯!!」
と音頭をとり、皆が「乾杯!!」と丁老師に習って杯を掲げ、宴に突入する。
それに併せて士家率いる楽士達が演奏を始め、踊り子達が演奏に合わせて華麗に舞い始めた。
この時代の楽曲は、現代日本で例えれば「越天楽」が有名な雅楽に近い。
(う~ん。現代の曲のテンポと大分違うな。
微妙に俺には合わないかな?)
士嬰達の演奏を聴いて勝手に評価する糜芳。
糜芳が勝手な評価している時に、「失礼します!」と使用人が宴の邪魔にならない様に席の後ろ側から回って、糜董の元に辿り着き耳打ちをする。
「なんと!!真かそれは!?」
「は、はい!今案内を伴って此方にもう間もなく・・・。」
使用人が「来られます」と言いかけた瞬間、
「失礼する。」
と言って、見た事がない派手な衣装を着た中年男が大広間に現れた。
突然の闖入者に楽士達は驚いて演奏が止み、踊り子達も固まる。
そして、案内を務めた使用人がヤケクソ気味に、
「此方徐州が州牧史(刺史)、沈賀様が当会場にお越しになられました!!」
大声で怒鳴る様に告知する。
ドォォォォオオオ・・・
突然のⅤⅠРの登場に、会場内が歓声とも怒号ともとれる声に包まれ、大騒ぎになった。
慌てて楽士・踊り子達が左右に避けて拝礼し、それをみてハッと気付いた皆が同じく拝礼する。
「これは、これは沈州牧史様。
突然のお越し恐悦至極にございます。
予め一報頂けたら丁重におもてなし出来ましたのに・・・。」
チクリと苦言を呈しながら、笑顔で出迎える糜董。
「いや、スマンスマン糜董。
将来を嘱望されている曹豹と鄭玄が、揃って職務を休んでまで出席する、此度の婚儀が気になって仕方がなくて遂な・・・。」
悪びれもせず、曹豹達をチラ見して糜董に謝る沈賀。
突然話を振られ、困惑顔をしている曹豹と鄭玄。
(最初から糜竺達に付き添っていて、糜竺達と共に会場に入場していた)
(ふ~ん、このおっさんが州の名目上のトップ、沈州牧史か・・・。
何かバ○殿がバカ貴族にジョブチェンジしたみたいな見てくれだな。
父上の話じゃこんなバカ貴族っぽい奴でもマシな方らしいからな、マジで終わってるよな後漢・・・)
周囲と同じく拝礼しつつ、ちらりと沈賀を観察する。
因みにどれくらいマシかと言うと糜董曰わく、「職務をほったらかしにして、酒と宴に現を抜かすだけマシ」である。
それを聞いて思わず、「いや、何処が!?」と素でツッコむと、糜董は真顔で、
「性欲全開で見目麗しい女を片っ端から側室や妾に強要したり、平気で公金(税金)横領等の犯罪行為を働いたり、個人の感情で不当な冤罪で気に入らない人物を陥れたりする人物よりマシだろう?」
と糜芳のツッコミに答えた。
いや、それってゲスな犯罪者よりマシって事なんじゃあ・・・?と思った糜芳だった。
糜董から犯罪者よりマシと評価されている沈賀は、そのまま糜竺達の方にツカツカと近づき、
「その方が曹豹・鄭玄に目を掛けられておる糜竺か?」
糜竺に声を掛ける。
「はっ、左様に御座います沈州牧史様。」
「うむ。婚儀の中に突然現れてすまなんだ。
今は持っておらんが後日祝儀は包む故、すまんが儂も宴に参加させて貰えぬか?」
「はい、それはもう・・・。
私如きの婚儀の宴に州牧史様が参加して頂けるとは、光栄の極みに御座います。」
沈賀の頼みを受けて、笑顔で了承する糜竺。
「そうか、参加させてくれるか。
さて改めて糜竺よ、此度の結婚目出度い事である。」
「はは、有り難き幸せ。」
「うむ、うむ。
そこな花嫁よ、名は何と申す?」
沈賀は糜竺の返事に満足気にした後、今度は尹玲に問い掛ける。
「は、はい、尹玲と申します。」
「ふむ、尹玲よ。
お主の旦那は、いずれ州の役人になる男じゃ。
その旦那の立場に相応しい妻になる様、精進せいよ?お主は良き旦那に恵まれて、果報者じゃな。」
ホホホと笑いながら、尹玲にも祝辞を述べる。
「「「「「ええええぇぇぇ!?」」」」」
主に新婦側から大声が発せられる。
新郎側は親族以外の連中は、「やっぱりな」ぐらいの感じで薄々察していた様だが、新婦側は寝耳に水だったようだ。
そんな驚く人達を無視して、沈賀は何故か糜芳をじっと見つめて、
「何でも素晴らしい歌曲が聞けると耳に挟んでな。
楽しみにしておるぞ?
宴は無礼講が基本じゃ、さっさと顔を上げて遠慮無く飲み食いして楽しめ。」
ニヤリと笑って急遽作られた席に向かう。
(ええ!?何で州のトップにまで届いてんの?
・・・あれって絶対俺に言ってるよな・・・)
良くも悪くも知れ渡っている事に頭を抱える糜芳。
「え~、それでは早速余興を行うとしよう。
糜芳君が面白い余興をしてくれるとのことだ。」
丁老師が沈賀の意を汲み取って、宴が始まって間もないにもかかわらず、早速余興タイムに突入させる。
「「「「「ウォォォオ!!糜芳!・糜芳!・糜芳!」」」」」
「天馬夢翔」により、若手の心を鷲掴みした糜芳に、新郎新婦の若手連中から糜芳コールが巻き起こり、会場内に糜芳の名前が連呼される。
(うう、止めて~、恥ずかしいから)
糜芳コールに赤面する。
事情を全く知らない大人達は、目を見開き糜芳をまじまじと凝視していた。
周囲の視線を一身に浴びつつ、スッと立ち上がるとコールは止み、スタスタと主役の糜竺達の正面に移動して拝礼し、
「この度のご成婚、誠におめでとうございます。
ささやかでは有りますが、兄上と義姉上に贈り物と余興を楽しんで頂ければ幸いに御座います。」
祝辞を述べて、贈り物と余興を行う事を告げる。
「うん、楽しみしてるよ。」
「芳殿、私達の為にありがとう。」
両者が礼を言って了承する。
「では早速・・・オ~イ例の物持って来て~。」
「は、コレに!!」
糜芳が入り口に向けて大声を上げると、既に待機していたのか、直ぐに2人の使用人がそれぞれ楯を抱えて入って来て、糜芳の側に控えた。
「それでは御両人、お納めください。」
糜芳の言葉に合わせて、使用人達が裏面になっている楯を表に返した。
表に返した楯に描かれた絵を見た糜竺と尹玲は、「なっ・・・」と2人共絶句した後、
「は、母上!?」「お母様!!」
2人して立ち上がり絶叫する。
(良かった、上手く描けたみたいだな)
とりあえず贈り物が上手くいって、胸をなで下ろす。
一応、楯に描いただけでは見えにくいと思ったので、楯に白い布を貼り付けて、絵が見えやすい様に工夫している。
2人が仰天しているのを観て、我先にと楯に描かれた絵を見に群がる親族・招待客達。
「なっ!こ、これはまさしく亡き何夫人ではないか!!・・・信じられん、まるで生きているかのようだ・・・。」
糜竺の実母を知る親族の人達が驚き、糜董や糜香はうっすら涙ぐみ、
「うう、うおおおぉぉぉ・・・。
何で、何で!お前は逝ってしまったんだ!!
もう少し、後少し生きていたら、玲の綺麗な花嫁姿が観れたのに!!馬鹿者があぁぁぁあ、あ、あぁぁぁあ・・・。」
亡き妻の絵を見て、尹幹は泣き崩れていた。
尹幹の隣にいる尹玲の兄と思しき人も、嗚咽を漏らして泣いていて、親族達も同様に泣いている。
招待客達も絵を見て仰天し、この中で1番目が肥えて居るであろう沈賀も、
「これは素晴らしい・・・。
このような生き写しの絵なぞ、洛陽でも終ぞ見た事がない。
このような鄙びた田舎に、これ程の絵を描ける者が居るとは・・・。」
感嘆していた。
「ありがとう、ありがとう芳。
生前の母上の姿を見ることが出来るなんて、思いもよらなかったよ・・・グス。本当にありがとう、う。」
糜竺は糜芳の下に寄り、糜芳の両手を包む様に両手で掴み、拝む様に頭を下げた。
(まぁ、今まで観た絵と比べればそりゃそうなるよな)
現状のへた・・・抽象的な絵と比較されれば、当然の帰結になるのは予測していたので、別段驚きはなかった糜芳。
思った以上に糜竺達が喜んでくれた事には、嬉しかったが。
それから少しして、落ち着いた所で糜芳は歌曲を披露する事にした。
「え~、それでは、兄上が義姉上に対する気持ちを歌います。」
「え、僕の!?」
驚く糜竺をよそに、指笛改で哀しげな、寂しげなイントロを演奏し、
「~~~~、~~~~、~~~~♪」
静かに、語りかける様な曲調で歌い始めた。
糜芳が歌っているのは、「冬に降る雪を美しい花に、まるで花園の様に見立てた、と思われる歌」である。
哀しげな曲調とは裏腹に、相手と一緒に過ごせる事の喜びと愛を、訥々と語りかける様な感じになっており、実はラブソングという意外性のある曲である。
又、降雪を花になぞらえる事で、天も自分達を祝福してくれているよと、上手く表現しているのが秀逸な曲でもある。
歌っている最中にチラッと糜竺達を観ると、糜竺はドストレートな愛情表現に、羞恥で顔を真っ赤にして俯き、尹玲は感極まったのか両手を合わせ、目頭を押さえて小刻みに震えて泣いていた。
「~~~~♪・・・ふぅ、ご静聴ありがとうございました。」
一息付いて、ぺこりと頭を下げる。
「・・・グス、何て良い歌なの・・・。」
「私もあんな風に言われたい、思われたい・・・。」
「う、う、う、尹玲さんが羨ましい・・・。」
主に女性陣から泣きながら賞賛と、尹玲に対する羨望の感想がちらほらと聞こえる。
(良し、掴みは上々かな、次!)
「え~、次は義姉上から父君の尹幹様への気持ちを歌いたいと思います。
義姉上、歌わせて貰っても宜しいでしょうか?」
「グス・・・グス、え?ええ良いけど・・・。」
尹玲の許可を貰い、クルリと尹幹の方に体を向ける。
「~~~~、~~~♪」
糜芳が歌っているのは、「秋に桜のような花が咲く、綺麗な草木を歌った、と思われる歌」である。
この曲は物悲しい曲調と共に、嫁にいく娘の親の心情と、嫁ぐ娘の親への心情を非常に上手く表現した歌である。
娘を持つ親には、効果抜群に刺さる曲である。
「うおおおぉぉぉん、う、う、う・・・。」
糜芳の歌を聞いて、大声でガチ泣きしている尹幹。
「~~~~、~~~~♪・・・ご静聴ありがとうございました。」
歌い終わって、ぺこりと頭を下げる。
「うう、俺の娘もいずれ嫁ぐ事になるんだよなぁ。」
「うちの娘は元気にしとるかのう・・・グス。」
今度は大人達を中心に涙する人が多く、過去や将来に思いを馳せている様だ。
会場内全体がしんみりとした雰囲気になり、所々で嗚咽や泣き声が聞こえ、まるで通夜か葬儀の様な感じになっていた。
(うぉ、婚儀が葬儀みたいになっちまった・・・。
しかし、この時の為に掛けて良かった保険。
さぁ、士嬰出番だ力モーン!)
クルリと後ろを振り返って、士嬰にパチンとアイコンタクトを送る。
満を持して士嬰を観ると、ブンブンと手と首を左右に振って、「無理無理無理、無茶言うな、こんな状態で援護なんか出来る訳ねーだろ!」とばかりに拒絶のジェスチャーを繰り返す。
(オイ!ふざけんな!てめえプロなんじゃねーのか?
ギャラも払う(まだ未払い)んだから、契約遂行果たさんかいやコラ!?)
脳内で思わず前世の言葉遣いになる糜芳。
指をクィッ、クィッと前後して士嬰を促すも、ブンブンと手と首を振って拒否られる。
「??え~、素晴らしい歌じゃった。
次は演奏も披露してくれるのじゃったな、糜芳君?」
糜芳の謎の行動に首を傾げつつも、次の演奏を促す丁老師。
「・・・はい、承知しました。(士嬰の馬鹿野郎!)
え~、僕が演奏するのは、古に覇王と呼ばれた「項籍(項羽)」を連想した組曲、「覇王組曲」です。」
内心で呪詛を吐きつつ、演目を発表する。
因みに「覇王組曲」と言うのは、前世で遊んだレトロゲームのBGMを適当にチャンポンした、チャンポン組曲である。
項羽の人生を、出陣→怒濤の勢い→漢楚戦→垓下戦→
最期というパートに分け、そのパート毎に「時の引き金」・「ロマン溢れる物語」・「幻想伝承」・「栄光的ノブの欲望」から選曲、それぞれチャンポンして組み合わせて、指笛改・二胡を駆使して演奏した。
演奏を終え、ぺこりと頭下げて終わりを告げると、
「ウォォォオ!!素晴らしい!糜芳君、君は素晴らしいぃぃ!!」
と言って、楽士の集団から、学者みたいな名字と役所の記入例の名前に、ほぼ100%記載されている名前を持つ、情熱的なオッサンに良く似た人物が駆け寄って来て、糜芳を激しく揺さぶる。
「ち、ちょっと!?く、くるしい~。」
「糜芳君!君の才能は素晴らしい!是非とも楽士に!
なんならウチの娘のむコペェ!?」
いきなり変なオッサンに、前後に揺さぶられたと思ったら、急にオッサンの首が曲がっちゃあいけない角度に曲がり、崩れ落ちた。
「お父様ぁ?いつも言っているでしょう?そういう風に、後先考えずに行動するのは、止めて下さいと。」
人体構造的に危険域に首が曲がったオッサンの先には、表情は笑っているけど目は笑っていない、士響が立っていて、そのままズルズルとオッサンを引き摺って楽士集団に戻っていく。
どうやら、情熱的なオッサンが士家当主・士景だったようだ。
士家親子のやり取りを呆然と見送ると、
ガシッ
「糜芳よ!お主の楽才は素晴らしい!洛陽でも聴いた事のない歌、天上の調べ!誠に見事じゃ!!
どうじゃ糜芳。
お主、皇帝陛下の御前で歌ってみぬか?演奏してみぬか?
お主程の楽才なら、儂が喜んで推挙してやるぞ!?」
今度は沈賀に肩を掴まれ、興奮した口調で、皇帝への推挙を言い始めた。
バタン・・・バタン・・・
「キャー!旦那様一!?しっかりぃー!!」
「父上一!?」
「皇帝への推挙」という単語を聞いて、あまりのショックで気を失った糜董と尹幹。
結局、糜董達が気絶するドタバタ騒ぎ乗じて断りを入れ、有耶無耶になってホッとする糜芳であったが、世の中は甘くなかったのであった。
続く
え~と、とりあえず結婚回は終了します。
後は閑話を挟んで新話に入ります。
読者の方々、申し訳ありません。
私の文章を纏める力量が足らず、長文となってしまいました。
ダラダラと書き連ねて申し訳ありません。
楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




