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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
26/111

その5

この物語はフィクションです。


実在する、個人・団体・地名・組織とは一切合切関係有りません。


又、作中に登場する、どこかで聞いた事があるような、ないような曲の見解は、1個人的な感想であり、同意・同調を促すモノではありません。

        糜家邸大広間・夜


士謡が糜芳に突っかかって来てからの、一連の騒ぎが落ち着き、士謡の兄士嬰との依頼交渉(歌と演奏はOKだったが、正統派美少女・士響の専属契約(嫁も可)は士謡に(すね)を蹴られて拒否された)も纏まり、万一の保険を確保して安堵した糜芳は、すったもんだあったが、結果的に打ち解けた士嬰・士謡の兄妹と他愛のない話をして、だべっていた。


周りを観れば、楽士達も踊り子達も準備を整え終わっていて、思い思いに雑談を交わしている。


そうして、士嬰との会話(ほぼ士嬰達の父親の文句と愚痴)を適度に相槌を打ちながら聞いていると、


「お客様方が入場なさいます!」

使用人が大声を上げて糜芳達に伝えに来ると、間もなくぞろぞろと招待客の人達が大広間に入って来る。


「お~、漸く始まるのか。」

糜芳が能天気に言うと、


「おいおい芳、始まるのはまだまだ先だぞ。

今来ている客は、新郎新婦を先行して出迎える為の、言っちゃあなんだけど、(にぎ)やかし要員だからな。」

士嬰が糜芳に解説をする。


短い間だが、お互いに年齢や人間関係にあまり頓着しない質の様で、砕けた物言いになっていた。


「賑やかし要員?」

「ああ、招待客が全員花嫁行列の後ろについて行ったら、新郎新婦が式場に入場した時に、客が誰も居ない状態になるから寂しいだろ?

だからああやって客の中でも若い人達は、行列がある程度進んだら、暗黙の了解でこっそり列を離れて、式場に先に到着して新郎新婦を出迎えるんだよ。」

得意気にフフンと鼻を鳴らして糜芳に話す。


「へ~、そうなんだ。」

士嬰の解説を聞いて客の様子を観察すると、確かに皆年若く此処まで走って来たのか、肩を上下して荒い息を吐いていたり、給仕から水を貰って水分補給をしたり、手拭いで汗を拭う仕草をしていた。


「ん?じゃあ年配の人達は?」

「年配と言うか大人達(一族や地元地域の長老・社会的地位や権力等、一定の格を持った人物)は、そのまま行列と一緒に行動して、新郎新婦について行くのが普通だな。

まぁ、純粋に体力が無い、というのもあるんだろうけど、立場や地位のある人達を帯同する事で、婿さんと家の見栄や権威を誇示するという意味も有るみたいだけどな。」

「へ~、嬰は良く知ってるな~。」

士嬰の知識に感心する。


「そりゃそうよ。ウチらの家業柄、物心がついた頃から当たり前の様に接して、自然と覚える事だもの。

別に兄様が凄い訳じゃないわ。」

士嬰だけが誉められるのが面白くないのか、士謡が横から口を挟んでくる。


「いや、解ってて当然というのなら、俺に突っかかってくんなよ、謡。」

「うっさい!!家門の誇りとは別物よ!」

半眼で士謡を見つめ、呆れ半分に文句を言うと、逆ギレされて怒鳴られる。


そうこうして、士嬰達と話していると、


「糜芳殿!!お久しぶりであります!」

と野太い若い男性に声を掛けられる。


「え?・・・ああ、丁老師の新塾落成の折にいらっしゃった、確か軍参謀の・・・。」

「は、州軍参謀を務めております聞夏が弟、聞冬(ぶんとう)であります。」

糜芳の懐疑的な応答に、笑顔で快活に話す聞冬。


(そうだった、そうだった。

参謀兄・聞夏に、キレの良いフックとストレートを喰らってた、武官弟だわ・・・冬って名前だったんだ)

兄にぼこられていた、脳筋男を思い出す。


「ああ、そうそう聞冬様でしたね、一別以来お久しぶりです。

この度は兄・糜竺の婚儀にご出席して頂き、誠にありがとうございます。

さしたるお持て成しが出来ず恐縮ですが、どうかお(くつろ)ぎ頂きます様お願い申し上げます。」

兄の婚儀の招待客として、丁寧な言葉遣いで聞冬に口上を述べて、拱手して頭を下げる。


「はぁ・・・これはご丁寧に(かたじけな)く。

・・・相変わらず、子供と思えぬ態度ですな。」 

ぽかんと口を開き、呆然とした表情で返答する聞冬。

余りに糜芳の毅然とした応対に呆気にとられた様だ。


そうして聞冬が呆気にとられていると、


「おい!聞冬!!何ボケッとしているんだ。

早く糜芳殿に頼まないと時間が無くなるぞ!?」

「そうだ、そうだ!早くしろよ!!」

同席している州の文武官達から、聞冬に野次が飛ぶ。


「ハッ!スマン!!実は糜芳殿に我等一同、お願いが有りまして・・・。」

「お願い、ですか?」

「は!婚儀が始まるのに、恐らく小半刻(約30分)から半刻(約1時間)あると思われます。

その間に1曲、1曲だけでいいので、本場の「天馬夢翔」を歌って頂きたく!!お願いします!何卒!」

「「「「「お願いします!!」」」」」

聞冬以下新郎側の招待客達が、一斉に頭を下げて懇願してくる。


ドヨドヨ・・・ザワザワ・・・ 


「おい、あの子供は何者だ?」

「席次からすると、新郎の弟だと思うが・・・。」

「新郎側の招待客は間違いなく、州の役人だぞ。

州の役人が頭を下げる程の何かが、あの子供に有ると言うことか!?信じられん・・・。」

新婦側の招待客達(尹幹の同僚・郡の役人)は驚嘆し、


「ヤバい。ウチの本家って州にも顔が利く所か、従わせる程の権力持ってんのかよ。洒落にならねー。」 

親族達は部屋住みの糜芳でさえ、州の役人に丁重な扱いを受けているのを見て、糜家本家に恐れおののき、


「おい、「天馬夢翔」っていえば・・・。」

「ああ、聴いたことはないが、州の若手役人の間で大流行している、という評判の歌だよな。

まさか、謡お嬢と変わらんぐらいの子供が、作曲者だったなんて・・・考えられん・・・。」

楽士達は、衝撃の事実に唖然とする。


州のトップ機関に勤める若手エリート達が、年端もいかない子供(糜芳)に頭を下げている、という異常な事態に、親族や新婦側の招待客や楽士・踊り子達が目を見開いて驚き、大いにざわめく。

それぞれが、微妙に勘違いをしながら・・・。


そんな周囲の注目と関心を、意図せずに集めている当の本人はというと、


「え~と、「天馬夢翔」ってどんな歌でしたっけ?」

酔った時の記憶が綺麗サッパリ飛んでいて、全く覚えておらず、困惑していた。


「へ?いや、あの~、丁老師の落成式の時に歌ってくれた、ほら、~~♪という冒頭から始まる・・・。」

「ああ、思い出した、思い出しました、ハイハイ。」


(つーか、酔ってた俺ってどんだけ歌ってんだよ。

何か段々怖くなってきたんだけど・・・)

無意識のやらかしに、頭痛がする思いの糜芳。


聞冬達がリクエストしている「天馬夢翔」とは、前世の海外で「ゾディアック・ナイト」(星座の騎士)という通称で呼ばれている、星座をモチーフにしたバトル漫画のアニメ序幕曲であった。


(まぁ、歌詞に少年(若者)に、ピンポイントに刺さるフレーズが随所に有るから、若手役人達にはクるものがあったんだろうな・・・招待客の要望を無碍にするのも拙いし、1曲ぐらいなら歌うか)

歌詞を思い出しながら、分析する。


「え~では、ご要望にお応えして1曲歌います。」

「「「「「ウォォォッッッ!!!」」」」」

「待ってました!!」

聞冬達が大声で歓声を挙げる。


「では・・・。」

てくてくと新郎新婦席の中間付近に移動すると、指笛改で特徴的なイントロを演奏した後、


「~~~~!~~~~!~~~~♪」

ノリの良い曲調にシャウトを利かせながら、大声で身振り手振りを入れて熱唱する。


曲の1番を歌っていると、聞冬達もノリノリで伴唱していたが、2番になると「え?」という表情になり、動きが止まっていた。

どうやら酔っていた時は、1番しか歌ってなかった様だった。


「~~~!~~~♪・・・ふう、どうもご静聴ありがとうございました。」

呼吸を整えて、ぺこりと会釈する。


「「「「「ウ、ウォォォッッッッッッ!!!」」」」」

「まさか、我等の要望を満たしてくれるだけでなく、即興で2番も作って歌ってくれるなんて・・・。」

「うう、良い歌だよな・・・部屋住みの俺でも夢を持って生きていけって言われてる様で、励みになるというか何というか・・・。」

「ああ、それだけでなく、自由を得ようとするならば命懸けで運命に抗え、闘えと言ってるのを聞くと、闘志がこう湧いてくるみたいな・・・グス。」

涙しながら、感動している聞冬達。


(あ~、聞冬達次男以下の人達からしたら、実家や長兄に、手柄や功績を立てても搾取されるだけの存在だから、「夢」「自由」という単語はモロに心に刺さる訳か。そら~ウケるわいな)

「天馬夢翔」が人気になる理由に納得する糜芳。


「あの~・・・。」

「はい?」

声のした方を顔を向けると、新婦側の招待客が何人も目の辺りを袖で拭っているのが見えた。


「お願い申し上げます!もう一度、もう一度歌って頂けないでしょうか!?お願いします!」

「「「「「お願いします!!!」」」」」

今度は新婦側に懇願される。


「はぁ、良いですけど・・・。」

新郎側の要望を聞いた以上、新婦側の要望を無碍に出来なくなった糜芳は、惰性的に2回目を歌う事になり、ノリで「皆さんご一緒に!」と3回目はプチライブの如く、新郎新婦両方の招待客と一緒に熱唱して一体感を味わった後、すたすたと席に戻った。


「ふぃ~。とりあえず、新郎新婦が入って来るまでに会場を暖める事に成功したかな?嬰?」

一息付いて、先程までだべっていた士嬰に話掛ける。


「「・・・・・・・・・・・・。」」

士嬰だけでなく士謡も目を見開き、口を金魚の如くパクパクとして、唖然呆然と此方を観ていた。


「お~い、嬰?謡?お~い。」

糜芳は2人に声を掛けつつ、手をぶんぶん顔の前で左右に振る。


「ハッ!・・・おい!芳!!何なんだよさっきの歌は!?有り得ない、考えられない!どういう事だ!?吐け、芳!お前さっきの歌はどうやって作ったんだ?余りにも異質過ぎるぞおい!?」

鬼気迫る勢いと表情で、糜芳の胸倉を掴み、ガックンガックンと前後に振る士嬰。


「く、苦しい、や、止め・・・うぷ、吐く、別のモン吐いちゃうぅ!」

「ち、ちょっと兄様!落ち着いて!!芳は顧客、顧客様よ!顧客様は?」

(かね)様!!」

士謡の掛け声に、何処かで聞いた事が有るような、無いような返答をする士嬰。


返答してハッと我に帰った様で、慌てて手を離し、


「ス、スマン芳!つい興奮して、胸倉を掴む無礼をしてしまった。申し訳ない!!」

頭を下げて謝罪する。

興奮すると、周囲が見えなくなる家系のようだ。


「さて、落ち着いた所でキリキリ吐いて貰いましょうか、芳?

ウチ達でも知らない・聴いた事も無い曲をアンタが知っていて、歌っているのを。」

ギロリと睨み付けながら詰問する士謡。


士嬰によると士嬰達楽士は、地元民謡と後漢帝国における文化の中心的発信地・洛陽から、伝手を頼って新曲を仕入れ、そのまま演奏するか、アレンジを加えて演奏する事で飯の種にしているらしい。


しかし、新曲と言っても一昔前の使い古したフレーズをアレンジしただけのモノが割合多く、全くの新曲は文化の中心的発信地の洛陽といえど、滅多に作曲されず、珍しいようだ。


そんな環境の中、玄人(プロ)の世界に身を置いている自分達でも知らない・聞いた事も無い、既存の楽曲とは違う曲調の歌を、素人の糜芳が作曲し歌っている(様にみえる)のである。

常識的に考えて有り得ない現象が、目の前で起きた訳だから、興奮して取り乱すのも無理は無い話である。


例えれば、クラシックやジャズぐらいのジャンルしかない時代に、全くの新ジャンル=ロックを歌うに等しい。


(そりゃあ士嬰達が取り乱すのも当然だよな~。

さて、どう言い訳しよう?・・・前世で聴きました!つっても信用してくれないだろうし。

う~ん、母上に・・・止めよう、洒落にならん)

一瞬、母の糜香に習ったと(なす)り付けようかと思い至ったが、それをすれば間違い無く武術騒動の時みたいに、顔面四谷怪談コースになるので、すんでのところで自重する。


「え~と、何となく天啓(と言う名の前世の記憶)が降りて来て、自然にと言うか何というか・・・。」

糜香達と同じ言い訳をして、誤魔化しにかかる。


「はぁ~!?天啓ぃ~!?アンタ馬鹿にしてんの?

そんな戯言をウチ等が信じるとでも思ってんの?」

ますます眉間に皺を寄せて、訝しむ。


「ふ~ん、じゃあ、その天啓とやらで歌・・・じゃなく、1曲演奏して貰いましょうか。

嘘じゃないならできるわよね?芳。」

デジャヴを覚える事を言われる糜芳。


「え?え~と、じゃあ・・・スイマセン、二胡をお持ちの其処の楽士の方。

少しの間、貸して貰えないでしょうか?」

二胡を持っている楽士にてくてくと寄っていき、声を掛けて交渉する。


因みに二胡というのは、「東洋のヴァイオリン」と呼ばれている中国発祥の弦楽器である。


そして、何故二胡を選択したかというと、元々の糜芳は幼少期から母・糜香から、二胡の手解きを受けており、ひょんなきっかけから記憶が統合された今の糜芳にも、きちんと経験が引き継がれていて、人並みには弾けるようになっていたからである。


二胡を持っていた楽士は急に話を振られ、戸惑いながら糜芳の後ろにいる士嬰達の方に視線を向ける。


「すまないが、貸してやってくれ。」

士嬰の鶴の一声で、楽士は糜芳に二胡を差し出した。


「では、失礼して・・・~~~♪~~~~♪」


糜芳が二胡で弾いているのは、ヨーロッパ地域での民間伝承にある、「空に浮かぶ城・ラピュータ」をモチーフにしたアニメの終幕曲である。


前世における国内処か海外にも放映され、何十年経っても弾き継がれ、歌い継がれている名曲中の名曲である。


儚げで物悲しい曲調が古代文明の栄枯盛衰を表現し、世代・時代を超越した感動を老若男女問わず与える。


「~~~~♪~~~♪・・・ふう・・・あ、どうもありがとうございました。」

呆然としている楽士に二胡を返却し、てくてくと自分の席に戻る。


瞬間、

「「「「「・・・・・ウ、ウォォォッッッ!!!?」」」」」

会場内に招待客達からの、怒号・悲鳴・歓声が入り混じった声が大きく響き渡る。


「え~と、信じてくれたかな?2人共。」

「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」

またしても、唖然呆然としている2人。


そして、さり気なく2人から手が糜芳に伸びて、


「「・・・有り得ない!信じられない!!どうなっているんだ!?吐け、吐きやがれ芳!!」」

2人がかりで首を締め、前後に揺さぶる。


「ちょ、や、何?止!2人共オェィ!?」

再び揺さぶられる糜芳であった。


                    続く













え~と、もう1話続きます。


結婚の解説については、多分にフィクションが入っております。

時代考証無用でお願い申し上げます。


又、ゾディアック・ナイトは、本当に南米を中心にわりかし知名度があり、ポルトガル・スペイン語で歌われています。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


優しい評価をお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 天馬幻想と戦士之夢のどっちだろうと思ったら、前者だったかー
[一言] ペ○サスファン○ジーは名曲ですからね (ビギニングは、うん…)
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