その4
この物語はフィクションです。
実在する人物・地名・団体とは一切の関係は在りません。
読んで下さっている方々へ
毎度の事ながら、誤字脱字及びご指摘ありがとうございますと同時に、申し訳ありません!
糜芳の母「糜香」についてですが、「夫婦別姓」が古代中国から普通であり、例えば劉備の奥さんの甘夫人(実家が甘家)・糜夫人(実家が糜家)・孫夫人(実家が孫家)というように、実家の姓で表記するのが正しく、「糜香」だと当時の禁忌である、「同姓(同じ名字)婚=近親婚」になるのでは?とご指摘を受けました。
まさしくその通りであります。
一応、そう書いた理由としては、人物紹介の内容に、糜香は過去は家妓=妓女であったと記していまして、設定としては・・・。
糜香は孤児で親の名前も知らず、仮姓を名乗って妓女として生活した後、糜董に家妓として買われ、第2夫人として迎えられた際に、「糜董の妻」として生きる決意をして、仮姓を捨てた。
という脳内設定で書いていたので、今回の様な仕儀に成りました。誠に申し訳ありません。
そして、ご指摘を無碍にする様で申し訳ないのですが、敢えて「糜香」の表記のままで書かせて頂きたいのです。
(名字をいきなり変えると、私自身(主に)と読者の方々(多分)混乱する恐れがある為と、後はちょ~~っと修正が・・・ゲホゴホゲフン(汗))
これ以降は基本的に実家の姓で表現していきますので、どうかご理解とご協力をお願い申し上げます。
糜家邸内大広間・夕暮時
結婚の「婚」は、「女性が黄昏れる」と書く様に、日本でも江戸時代以前は日が暮れてから結婚式を行っており、古代中国の後漢時代も同じく夕暮れ時に、結婚式が執り行われていた。
隠れた才能(に見える)を披露して、糜香にシバかれてから凡そ1ヶ月が経ち、結納だの招待客の手配だの、慌ただしく諸々の過程をこなし、漸く結婚に漕ぎ着けた糜竺と尹玲。
そして現在、今まさに糜竺と尹玲の結婚式の準備が糜家邸の大広間(大宴会場)にて、最終段階に入ろうとしていた。
花婿の糜竺は糜董と仲人を務める丁老師と共に、花嫁の尹玲を迎えに尹家宅に赴き、糜香は使用人達や女房衆(親族の妻女)に様々な事を指示を出して、目まぐるしく動き回っていて、多忙を極めていた。
そんな身内は言うに及ばず使用人達や、式典・宴会用に雇われた楽士(士家提供)、踊り子などがバタバタと楽器や衣装の調整や準備をしている最中、
「ふぁ~あ・・・ヒマだ。」
主賓(新郎)席に限りなく近い席に糜芳は座って、盛大に欠伸をかましていた。
幾ら前世からの記憶が有るからと言っても、外見上は只の子供に過ぎず、早々に戦力外通告を受けて、周りの人達のドタバタを傍観する事しか無かった。
一応、親族席と思しき場所に同年代ぐらいの子供達が自分と同じく所在なさげに、キョロキョロと周囲を見回して待機しているが、親族筋とは言え全く面識が無く、そんな希薄な関係の親族の子供達の輪に入って、お喋りする気も起きない。
どうやら糜芳と同じく、子供達は親から待機を命じられてこの大広間に居るようで、大広間は一時的な託児所の様な状態になっていた。
(まぁ、嫡子の竺兄と違って、部屋住みの俺なんざに関わりを持ってもメリットが無いし、あの子供達の親御さんも、父上と竺兄には繋がりを保とうと思っても、俺と接触する気なんぞ無いだろうから、そら~面識が元々の糜芳の記憶にも無いのも当然だわな)
親族席にいる子供達を遠目に眺めながら、益体もない事を内心で思考する。
「ちょっと、アンタ。」
「ん?」
親族席を遠目に見て、ぼーっとしていると、不意に女の子の声が近くで聞こえて、視線を声のした方角に動かす。
視線を動かして見ると、自分と変わらない年頃の、着飾った女の子が腕を組んで、可愛い顔付きを歪ませて敵意剥き出しの表情で此方を睨み付けていた。
「アンタが噂の糜芳ね?」
「噂は存じませんが、確かに僕が糜芳ですけど。
失礼ですが、貴女はどちら様で?」
「ウチは、今回の婚儀に係わる楽士の統括者、士家当主・士景の次女・謡よ。」
胸(無)を張って居丈高に話す子謡。
可愛い顔をして、勝ち気でかなり自尊心が強い性格の様で、「アンタ馬鹿ぁ!?」の名言(?)を残した人物に面影も性格も類似している。
「え~と、士謡殿でしたか?僕に何か用で?」
「ええそうよ、アンタに用が有るから声をかけたの。アンタ素人の癖に、歌が上手いって褒め称えられて、調子に乗ってるそうじゃないの?」
「はい?俺が?」
全く身に覚えの無い話に驚き、素の口調で疑問符を浮かべる糜芳。
「ええアンタが。
州の上層部の人達が「人間性との乖離が酷すぎるけど上手い」とか、「魔性の知恵に天性の歌声」とか、「天は要らない二物を与えた」とか言ってたから、お偉い方に褒められて有頂天になってるんでしょうが!!」
激昂して、指差して怒鳴る士謡。
「何処が褒められとんじゃい!?
おもっくそ貶されて、悪口を言われてるだけやんけ!
そんな糞味噌に言われて、有頂天になるアホがおるかあ!!」
あまりに酷い言い草に、立ち上がって素の口調でツッコミを入れる糜芳。
「え・・・そうなの?てっきり褒め称えられているとばかりに、思っていたんだけど・・・。」
糜芳の剣幕にたじろいで勢いを無くし、声量と同時に指先もしおしおと萎れていく。
どうやら小難しい言い回しを、良い意味に捉えていた様で、悪い意味で勘違いをしていた様だ。
「いいえ、全っ然褒められてません。
普通に悪口を言われてるだけですね。」
「そ、そうなんだ・・・ごめんなさい。
って、それはそうとして!アンタ!!ウチと勝負をしなさい!」
根は素直らしく、しおらしく素直に謝罪した後、キッと再び目を吊り上げ、ビシッと指を差して勝負を挑んで来る。
「勝負?何のですか。」
「無論、歌曲の勝負よ!素人のアンタに劣ると言われたら、楽士の名門・玄人の士家の名に懸けて負けられない!納得いかない!」
目に涙をうっすら溜めて、糾弾するかの如く糜芳に向かって叫ぶ。
「え、俺に劣る?」
「そうよ。ここ最近州の役人や主催の宴に、依頼を受けて歌曲を披露しているのだけど、「糜芳殿の演奏の方が面白い」だの、「糜芳殿の歌の方が素晴らしい」とか言われて、師兄や師姉が不当に貶められているのよ!?許せない!
だからウチがアンタに勝つ事で、師兄や師姉の方がアンタより優れているのを証明するのよ!」
拳をぎゅっと握って、熱く語る士謡。
士謡は自身の意地やプライドでは無く、兄姉弟子の為に激昂して、糜芳に突っかかって来ているようだ。
周りをチラッと観ると、幼い妹分の健気な言動に感動して、楽士達や踊り子の姉さん達が目頭を手で押さえているのが見えた。
(ああこの子は、勝ち気で自尊心が強いだけじゃなくて、優しくて人一倍思いやりの有る、他人の為に行動出来る良い子なんだな~。
かなり無鉄砲というか、どうなるか後先を考えてはいないみたいだけど)
何気に批評しつつも、当初のイメージよりもかなり上方修正して、感心する糜芳。
(まぁ、俺は勝っても負けても、別に痛くも痒くも無いから受けても良いんだけど・・・受けたら士謡の立場を考えたら、どう考えても拙いよな~)
内心頭を抱えつつ、結論付ける。
「お断りします。」
士謡の健気さに慮って拒否する。
「はぁ!?何でよ!男のクセに逃げるの!?」
再び激昂して、非難する士謡。
周囲の楽士達も敵意の有る視線を糜芳に向ける。
「実兄の慶事に勝ち負けをするのは、幾ら何でも非常識過ぎるからですよ。」
「うぐ・・・。」
しれっと受け流して発言する、糜芳のド正論に言葉を詰まらす士謡。
周りの敵意の視線も瞬間的に霧散する。
「それにもし勝負を僕が受けたら、勝っても負けても大事な兄姉弟子さんに多大な迷惑をかけますし、お家の立場を窮地に追いやる事になりますよ?」
「はぁ!?なん・・・。」
「ちょっと待った!ちょっと待った!!何をしてんだよ謡!?お前は!」
糜芳が丁寧に説明しようとし、それに喰ってかかろうとする士謡を遮って、楽士達の集団から、自分達より年上の男の子(13歳前後?)が焦った顔で飛び出して来た。
「あ、兄様!」
「兄様じゃねーよ、謡!!お前は勝手に何してんだよ!?」
コツンと軽く士謡を小突いた後、此方に体を向き直って拱手し、
「糜芳殿とお見受け致す。
私、士家当主・士景の嫡子・嬰と申します。
この度は、ウチの妹が大変失礼な言動をして、誠に申し訳ありません!
只、妹は悪意無く、我々兄姉や弟子の事を一途に思ってやった事なのです。その辺はご理解頂きたく。
どうか、どうか平にご容赦を、ご容赦を!!」
深々と糜芳に頭を下げて、赦しを乞う士嬰。
「赦します。分かりましたから頭を上げて下さい。
士謡殿が兄姉弟子さん達の事を思っての言動なのは、重々承知していますから、お気になさらずに。
いやいや、人の為に誹謗を恐れず行動出来るなんて、健気で本当に優しくて、思いやりの有る、善き妹さんですね。」
にっこりと微笑んで、謝罪を受け入れて士嬰の面子を立たせ、士謡の言動を褒め称えてヨイショする事で、士謡の将来に悪影響が出にくい様に配慮する。
「おお!ありがたい、ありがとうございます!
ほら、阿謡も謝りなさい。」
糜芳の配慮に心底感謝して頭をぺこぺこ下げ、士謡に謝罪を促す。
「兄様、ウチは悪い事をしてません。
謝る理由がありません!」
ほっぺたを膨らませ、ぷいと顔を逸らす。
「コラ!阿謡!!お前はどれだけ糜芳殿だけでなく、他の兄姉弟子達に迷惑を掛けてると思っているんだ!」
「え?」
士嬰が本気で怒鳴っているのと、兄姉弟子達に迷惑を掛けてるという事実を聞かされて、驚く士謡。
「あのなぁ、糜芳殿は「雇い主=顧客」の身内の人だぞ!?顧客側の人に、謂われのない喧嘩を売っているのに、気付いてないのかお前は!!」
「あ、え?」
「そんな只でさえ非礼なのに、勝負を挑むなんて事をしてからに!
もしも糜芳殿が受けてたら勝っても負けても、「顧客に恥を掻かせた」事になって、悪評が広まってウチの家業はお終いになるんだぞ!?
そうなったら兄姉弟子達は失業するんだぞ!分かっているのかお前は!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る士嬰。
(まぁ、そうなるわな~。
顧客側の人間に恥を掻かせる様な芸者さんなんかは、誰も呼んでくれなくなるだろうし・・・)
さもありなんと頷く糜芳。
「そ、そんな・・・。」
全く其処までの考えに至らなかった様で、顔面を蒼白にしてガタガタと震え始める。
「それに、糜芳殿は逃げたワケじゃなくて、お前の立場や将来を慮って断ってくれたんだよ。
其処まで配慮してくれた人に、謂われのない喧嘩を売っても、お前は悪くないと言い張るのか?」
「ご、ゴメンなざぃぃい~!!ア“阿”~~!!」
士嬰に諭されて自分の過ちに気付き、士謡はワンワンと大声で泣きながら糜芳に謝罪する。
「うわわ!全然気にしてないから泣かないで、士謡殿ね、ね?
兄姉弟子さんの事を一生懸命考えて、良かれと思ってした事だって理解しているからね、大丈夫だよ。
誰か他の人が騒いでも僕が父上達に取りなすからね、ね。泣かないで。」
泣き叫ぶ士謡にうろたえて、わたわたとあやす様に優しく呼びかける。
「・・・・ひっく、ひぐ・・・・・ほんとう?」
「うん、本当、本当。」
「うん・・・わかった・・・ありがとう。
そして、本当にごめんなさい。」
ぺこりと頭を下げて、改めて謝罪する士謡。
(ふぃ~。漸く泣き止んでくれたか・・・。
しっかし、何時の時代も泣く子には敵わんな~
・・・うん?あ・・・)
ホッと一息ついたのも束の間、楽士達や他の人達の無言の視線が自分達に集まっているのに気付く。
「え~と、何事も無く問題は在りませんので、ご心配とご迷惑をお掛けしてすみません。
改めて今回の兄上の婚儀に関して、皆様のご協力を何卒お願い申し上げます。」
ぺこりと周囲の人達に頭を下げて、お願いをする。
「いえ此方こそ。糜芳殿の温かい温情に感謝します。
我等が士家の名に賭けて必ずやご満足して貰える様、惜しまず全力でやらして頂きます。」
楽士達の中で年嵩の人が拱手して、笑顔で答える。
「「「「「「お任せ頂きたい、糜芳殿。」」」」」」
他の楽士達も一斉に拱手して答える。
(ふぅ、何とか一件落着かな・・・)
「糜芳殿!妹の失態だけでなく、我等一党まで気にかけて頂き、誠に有り難く。
クソおや・・・じゃなくて、父上のボ・・・もとい気紛れで振り回された中で、一番マトモな仕事になりそうです・・・無料ですけど。」
感謝の言葉の後の言葉が、怨念の籠もった闇深い台詞になっている士嬰。
(うわ~士嬰殿の父上は、芸術家に有りがちの金銭に頓着しないタイプなんだろうな~。
散々振り回されて悲惨な目にあってるみたいだし。
う~ん、じゃあ俺のポケットマネーで依頼して、少しでも利益になるようにしてあげよう。
・・・俺にとっても保険になるしな)
脳内思考し、結論を出す。
「あの~士嬰殿。
個人的に依頼したいのですが・・・。」
「はぁ。」
「無論料金は出します。」
「喜んで!!ウチのクソ親父がお薦めですよ!
金銭感覚はパーですけど、腕は超一流ですから!!」
目を¥にして、最早隠す事なく父親の罵詈雑言を吐きながら、居酒屋の店員の如く明朗な返事をする。
余程、父親の所業に泣かされている様だ。
「兄様、言い過ぎ・・・でもないわね。」
娘からも擁護されない未だ見ぬ士家当主。
「それで、依頼の内容は何でしょう?」
「はい、僕が結婚式の余興で、歌や演奏をする事になっているのはご存知だと思うのですが・・・。」
「ええ、クソ親父が噂を真に受けて、ただ働きを了承する条件で成ったと聞いてますけど。
・・・たく、その情熱を欠片でもいいから利益に向けろよな・・・。」
所々黒い言葉が滲みつつ、頷く士嬰。
「え、ええ、そうなんです。
其処で、士家の方に僕の歌や演奏が失敗時に、保険として失敗後に歌や演奏をして貰いたいのです。」
「成る程、我等に万一の援護をして貰いたいと。」
「そうです。お願い出来ますか?」
糜芳の依頼に士嬰は胸をドンと叩くと、
「お任せ頂きたい。我等にとっては容易い事です。」
笑顔で請け負う。
「演奏の方はクソ親父が適任でしょう。
そうなると、演奏代は・・・これぐらいですね。」
士嬰に料金を提示されるも相場が分からず、とりあえず払える金額だったので、頷いて素直に了承する。
「後は、歌の方ですが・・・。」
「すいません。アナタが糜芳殿ですか?」
士嬰の話を遮って、女性が声を掛けて来る。
「あ、姉様!」
士謡が声を上げる。
観ると、士謡がそのまま成長した姿みたいな、落ち着いた雰囲気の、胸にデカい装甲を装備した、美女と美少女の中間に位置する女性がいた。
「はい、僕が糜芳ですお姉様!」
直立不動で快活に答える。
「ウチの妹が不作法と無礼を働いたと聞き及び、お詫びに参りました。
士家当主・士景が長女・響です。以後、お見知りおきを。」
ぺこりと優雅にお辞儀する士響。
「いえいえ、お気になさらず。
子供のした事ですから。
此方こそ、末永く宜しくお願いします!」
徐歌と違うタイプの、正統派美少女と装備している厚い胸装甲に舞い上がった糜芳は、だらしない笑顔で返事する。
「士嬰殿。」
「はい?」
「全財産払うから、歌も演奏も士響さんも宜しく。」
「あの~お客様?そ~いう営業は、ウチでは取り扱っておりませんが?」
糜芳の戯けた発言に「!?」な表情をして、ビキビキと眉間に青筋を浮かべながら返事する士嬰。
「サイッテ~・・・。」
ゴミくずを見るような冷たい目で、糜芳を見下す士謡であった。
続く
え~と、とりあえず後1・2話で慶事編が終了して、閑話を挟んで新しい話を書こうと思っています。
前書きを長々と書いてすみません。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
これからも優しい誤字脱字・ご指摘と評価をお願いします。




