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猪可以飛  作者: ヨシトミ
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第5話 めんどくさい女

第5話 めんどくさい女


ひとつふとんの中、きれいな女が身体を寄せて隣に寝てくれている。

男としてはなんとおいしいチャンスなんだろう。

きっかけはどうあれ、今の俺にこんなチャンスはたぶんもう二度と来ない。

俺はふとんの中で動いて、シンレイの上を取った。

腰を寄せて、眠る頬に触れて、彼女の白い首筋に顔を埋める…。


「むっ」


俺はがばりと顔を上げた。


「臭いわ貴様!」

「ぬう」


シンレイは眠りながら唸った。


「一体いつから風呂入ってないねや! 臭すぎやろが! 風呂入りい! 貸したるから!」


俺はまたシンレイの足を持って、風呂場へと引きずった。

シンレイは引きずられながら「眠う〜」と嫌がった。


「あかん! 入りい!」


俺は怒鳴りながら風呂桶を洗い、湯を溜め始めた。

シンレイは風呂場の外に寝転がっていた。


「めんどくさいからやだ、言さんが風呂に入れてよ」

「は?」

「さ、服脱がしてさあ」


このまま放置しておくとシンレイはどんどん臭くなる一方だ。

俺は意を決して彼女の服を脱がせてやった。

女の裸もまた3年ぶりだ、逮捕の前夜に見たきりか。

シンレイは人形になり、黙って俺に服を脱がさせていた。

恥じらいもない。

ただ、右目の眼帯を外そうとすると、彼女は抵抗した。


「見るな」

「なんでやのん」

「言さんには見られたくない」


眼帯は金属製だったので、まあ仕方ないとそのままにする事にした。

洗い場の椅子に座らせ、シャワーからお湯を出して背中にかけてやる。

うつむかせて髪を洗ってやる、男の一人暮らしにリンスやトリートメントなんかない。

身体だって洗ってやる、でもさすがに尻まで洗うのは気が引ける。

自分で洗えと石鹸のついたナイロンタオルを渡すと、シンレイはそのまま返して来た。


「言さんが洗ってよ、さっ」


シンレイは脚を開いた。

俺の方が恥ずかしい。

適当にナイロンタオルでこすって終わりにした。

するとシンレイは新しい注文を出した。


「ついでに身体も剃ってよう」

「なんで俺がそんな事までせなあかんねや…」

「女だって腕や脚や腋に毛ぐらい生えるんですう、言さん女に夢見過ぎ」


剃刀を用意して肌を剃ってやると、シンレイはうっとりと気持ち良さそうにしていた。

お湯を溜めた浴槽に浸からせると、彼女の美しさはいよいよ質量をもって迫って来る。

シンレイは顔だけの女じゃない、裸にするとその身体まで美しかった。

俺とタメなだけあって、若い女のガラのような身体とはまた違い、

筋肉と脂肪が絶妙のバランスでついている。

胸と尻は高く突き出ており、腰はそんなに細くなくともしっかりとくびれ、

大きく張り出した骨盤へと滑らかに線が流れている。


それ以来、シンレイを風呂に入れてやるのは俺の役目となった。

俺がしてやらなければ、彼女は絶対風呂に入らない。

食事だって俺が用意してやらなきゃ、いつまでたっても空腹のままだ。

嫌でも俺がしなきゃ自分自身に返って来てしまう。


シンレイは本当に迷惑な女だった、だが驚くほど美しい女だった。

美しい女の美しい裸体を見る事が出来る、触る事だって出来る。

俺も男だからそういうのは正直嬉しいし、したい事はしたい。

でも俺の犯した罪を思うと、とても手出しなんか出来なかった。

シンレイの素肌に触れるたび、俺は欲望と良心の板挟みになって苦しんだ。

彼女はむきゃむきゃ言って、俺の苦しみなんか気付きもしない。

ひどいいじめだ。


シンレイの後、まだお湯が温かいうちに俺も風呂を使う。

ついでにこっそり性の処理もしておく。

なんで一人暮らしの俺がシンレイごときに気をつかわなきゃいけない。

シンレイのせいでエロ本もビデオも見られないじゃんか。

てか、そもそもなんでこの俺が一人でしなきゃいけない。

シンレイのせいで、シンレイなんか、シンレイ、シンレイ…。

…俺の思いは次第にシンレイに集約されて、視界がだんだんと狭まっていく…。


「あのさあ言さん」


いいところに突然声がして顔を上げると、目の前にシンレイが座り込んでいた。

恥ずかしい姿を見られてしまった。


「ぎゃっ、シンレイ!」

「あ、構わなくていい。続けて」


シンレイは俺の脚の間で、椅子に座る膝に手を置いて言った。


「続けろって…そうやな、手伝ってくれたらな」

「断る、言さんのお粗末だからやだ」


彼女の冷たい視線が股間に突き刺さる。

お粗末とかひどいな、でも見ててよ。

俺は空いた片手でシンレイの頭を押さえ込んだ。


「あのさ言さん、台湾のママが仕事で東京に来てる。

会いに行かなきゃ、話したい事がある」

「そんなんほっといたらええやん…」


…シンレイに間近で見られるのも悪くない。

そのきれいな顔をめちゃくちゃにしてやるよ、俺は構えた。

ところが気付いた時にはもう、シンレイはいなくなっていた。

虚しい分泌液が指の間から、浴室の床にとろりと流れて落ちるだけだった。


あれほど帰らない、居座るとほざいていたくせに。

さすがのシンレイも母親の接近には逆らえないらしい、いい気味だ。

風呂からあがると、シンレイのいない部屋はやけに広かった。


仕事までまだ時間がある、俺は買い物に出た。

ドラッグストアのシャンプー売り場で、トリートメントを手に取る。

シンレイは帰って来るのだろうか。


駅前を通ると、シンレイの姿を見つけた。

声をかけようとしたその時、黒塗りの立派な車が彼女に近づいて来、

中から黒の高そうなコートにスーツの男が出てきた。

俺より少し年上だろうか、でもかなりのイケメンだった。

女の好きそうな、中性的で繊細な顔立ちをしている。

シンレイはぱっと花が咲いたような笑顔になり、人目もはばからず彼に抱きついた。

男も嬉しそうに彼女を抱きしめ、髪の匂いを嗅ぐように顔を埋めた。


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