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猪可以飛  作者: ヨシトミ
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第18話 勝手知ったる家

第18話 勝手知ったる家


「わかった、俺もこれからそっち合流するわ…一緒に探す」


俺は電話を切ると、バイト先に休みを言って席に戻った。


「…ごめん伊さんにシンレイ、ちょっと用事出来たから行かんと」

「どうされた?」

「上杉…上杉の姐さんの方が買い物から帰って来ない、探しに行かんと」

「とし姉ちゃんが…?」


シンレイはがばりと立ち上がった。


「私も…言さん、私も連れて行って! 私もとし姉ちゃんを探す!」

「私も行こう、あまりいい予感はしない…上杉の組では人員も力も限りがあろう」


俺たちは婚約祝いの祝宴を切り上げ、シンレイのおかんの車に乗り込んだ。

シンレイのおかんはしきりに電話をかけ、何やら台湾語で話していた。

たぶん応援を呼んでいるのだ。

シンレイは車内に隠したトランクを開いて、拳銃の準備をしていた。

そしてそのうちの一丁を俺に差し出した。


「言さん、これ使って」

「ありがとおシンレイ、でも俺…」

「発砲しなくてもいい、構えて脅すだけでいいから」


いや、そういう意味じゃないんだけど…まあいっか。

俺は拳銃を腹に挟んだ。

…拳銃は初めてじゃないよ、海外旅行で撃った事もあるし。

シンレイはもしもの時は殺す気で行けと、ナイフも1本よこしてくれた。


俺たちは上杉のおやじさんと連絡を取り合い、自宅ではなく会社で落ち合った。

会社は銀座の中心街から少し離れた、大通り沿いにビルを構えていた。

上杉の会社は初めてだが、結構大きい。

見たところごく普通の一般企業のビルだ、特に看板を出している訳でもない。


「上杉の組は一応井上会の直参だから、決して小さくはない。

一般のイメージの街の暴力団事務所とはだいぶ違いますが…」


シンレイのおかんが会社の前でそう説明してくれた。

会社の中では上杉のおやじさんが、そわそわしながら待っていてくれた。


「よく来てくれたね、それに吉富さんまでわざわざ…」

「構いませんよ、ちょうど三人一緒に食事をしていたところなのです」


上杉のおやじさんはシンレイのおかんに上座をすすめたが、

彼女はそれを断って、長いソファの出入り口側に腰掛けた。


「おやじさん、上杉はまだ見つかりそうもないんか?」

「うちの者も手を尽くしているが、まだ…」

「くそう…さすがとし姉ちゃん、男になってもすごい美人は見過ごせないって事か。

きっと敵は人身売買組織だよ、そうに決まってる」


シンレイはぎりぎりと親指の爪を噛みながら言った。

それを否定するように、シンレイのおかんが言葉を重ねた。


「井上会は私の前の本部長の頃に、神政会と戦って壊滅状態にしている。

その生き残りの恨みは相当のものだ、現に先日上杉を襲撃した。

私らがそれを退けた事で、神政会はまたひとつ井上会に恨みを重ねた。

姐さんの事はその報復なのではないだろうか」

「俺もひょっとしたらとは思っている…けれど上杉だけではどうにも」


上杉のおやじさんは困り果てた顔をしていた。


「一応応援は呼んでいます、私の家と井上の家に」

「戦うしかないのか」

「私どもはいつでも構いません」

「えっ、俺も?」


俺はぎょっとしてシンレイのおかんを振り向いた。

彼女はしまったという顔をした。


「…もちろんええで、俺に出来る事があんなら好きん使うてほし」


俺は笑った、俺に出来る事なんかないくせに。

上杉のおやじさんはそんな俺に鍵をさし出した。


「なら高岡くん、自宅を守ってくれないか。ここは吉富さんの応援と幹部らで守る。

自宅にはうちから若頭はじめ人員を出そう、交代で見張りを立てさせる。

悠一がいつ帰って来ても良いように、自宅の安全を確保しておきたい」

「了解や。シンレイ、お前も一緒に来るやろ?」

「言さん、私は前で戦いたい」


シンレイはにっと笑って、俺の誘いを断った。


「女が前に出たら危ないやろが…」

「女だからこそ今回は戦いたい、女の敵は女がちゃんと倒さなきゃ。

でなきゃまた同じ事の繰り返しになるよ」

「高岡さま、シンレイなら大丈夫です。私もついていますし」


シンレイのおかんが言葉を添えた。

そこへノックの音がして、若頭という人が入って来た。

若頭というにはあまりにも高齢過ぎる、上杉のおやじさんより十は年上だ。

身体は細身ですっきりしているものの、髪がだいぶ白く、しわもおやじさんよりずっと深い。

これでは若頭ではなく爺頭だ。


「高岡くん、うちの若頭の武田だ」


武田のじいさんは改まってお辞儀をすると言った。


「車は回してあります、すぐに参りましょう」

「頼んだよ」


俺は他の組員と合流し、上杉の自宅へと向かった。

相変わらずの地味な佇まいだ、相変わらずこの家の狭い玄関はまったく陽が射さない。

中の下駄箱やたんす、食器棚など古い家具も、微妙な散らかり具合ももう見慣れた。

勝手知ったる家だ、俺はさっそく風呂場を掃除してお湯を張り始めた。

いつでもすぐに食べられる物も用意しておきたい。

おにぎりとみそ汁なら上杉に習った。


「武田さん、着替えも用意しときたいねんけど…」


食事の支度を終えると、俺は武田のじいさんに聞いた。

武田のじいさんは、二階に上がってすぐの部屋だよと教えてくれた。

そういや二階のその部屋は初めてかも。


俺はどきんとした、俺がそこに上がってもいいのだろうか。

いや、事情が事情だ。


二階にあがってすぐの部屋は洋間だった。

ドアを開けて中に入ると、俺は驚きを隠せなかった。

そこは女の部屋だった…。


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