【陽輔編】6.俺の地元
「遅い!」
顔を見てすぐ怒鳴られた。
怒っているのはモチ匠。
なんでかって?
そりゃ普通怒るよなぁ、約束ってか一度伝えた時間よりも30分以上遅れりゃ。
まぁでも。
「いーじゃねーか、混んでたんだから」
半分ホントで半分嘘。
確かにこっちにくる途中の道から込み始めたけど、遅れた一番の理由はパーキングでイチャついてたからだからなぁ。
まぁもちろんそんなことご丁寧に説明する気は全くないので、朱美にも緘口令を強いている。
まぁ…あまり期待はしてないんだけど。
理由は…。
「…目が泳いでるぞ、朱美」
こりゃ完璧バレてるな。
朱美はガキの頃から嘘つけない。
必ず目が泳いだり言い淀んだり。
「…え、な、なんの…」
「お前相変わらず嘘下手だなぁ」
もちろんその事を匠は知ってるから、多分無理だろうとは思ってたけど…ここまで改善されてないとは思わなかった。
ある意味すげぇ。
しかも本人に自覚はないらしく、ホントに不思議そーな顔するし。
まぁ匠の方も朱美ので嘘がバレバレなのわかってももう何も言わない。
ま、これ狙ってたんだけど。
「しっかしお前クリスマスに呼び出すとはいい度胸だよなぁ」
朱美で遊ぶのも楽しいっちゃ楽しいんだけど、こっちだって予定がある。
用事はさっさと済まさないとな。
「ふっ、それで来るお前もなw」
ってお前が譲ってくれなかったんじゃねーか。
よく言うよなぁ。
「…んで?なんだ?頼みたい事って」
「プレゼント買うの付き合えよ」
「はっ!?おまっ――それだけの為に呼び出したわけ!?」
「だってお前今年暇だって言ってたじゃんか」
――確かに言った…言ったけどよぉ(泣
あ〜、めっちゃ楽しそうな顔しやがってっ!!
朱美の前だと何も言えないの知ってるのいいことに…やってくれるじゃねぇーか。
くっそぉ。
毎回毎回コイツと絡むと苛立つ――が、俺たち見て笑ってる朱美見るとなんだか苛立ちが消える。
昔からコイツが俺たちの潤滑油になってんだよなぁ…本人に自覚は無いようだけど。
(大人になるんだ、俺!用事さえ済めば朱美と二人っきりだっ!)
と、俺はなんとか自分を落ち着かせる。
「んで?どんな奴なん?」
プレゼント買うって事は相手がいるわけだろ?
んでわざわざ俺呼び出すってこたぁ…女絡みだよな?
――匠の彼女ってことか。
「ん。あの子だよ」
「は?あの子って言ってもわかるわけ…」
俺の脳裏にある少女が浮かんだ。
――俯きながらブランコを漕ぐ少女の姿が。
「――ってもしかしてガキの頃の?」
まさかとは思った。
それは俺が引っ越す前の話。
けれど、嬉しそうな匠の顔からそのまさかであることを悟る。
「だってお前名前しか知らなかったじゃねぇか」
そう、コイツが引っ越した時期にやっと名前を聞いたんだと少し寂しそうに話してた記憶がある。
連絡先を聞くこともしなかったって言って暫く匠は荒れていた。
(それなのに…再会したっていうのか?)
俺の疑問は次の匠の言葉で簡単に肯定された。
「まぁホント偶然。お前らと一緒だよ」
偶然…って言っていいレベルじゃないだろ、それ。
ん?
再会したって事は会ってるんだよな?
ぅん?
確か匠都内に一人暮らし始めたって言ってなかったか…?
「ってか待てよ?なんでわざわざこっち呼び寄せた?お前だって都内暮らしだろーが」
「まぁそれはちょっと…ね」
「なんだよ」
「しらねーの?最近この辺りよく紹介されてるじゃん」
この辺り?
って…地元のことだよな?
なんかあったか?
「なぁ朱美?」
朱美の方を見ると特に驚いている様子がなくて、それを見た匠が朱美に同意を求めた。
「え、あ、うん。あんまり詳しく見てないから詳しくはないけど、そんな特集してたね」
…マヂですか。
朱美でも知ってるとか…俺情報遅い??
…うわぁ〜マヂショックだ…。
しかしそんなん知られたくはないので平静を装う。
「ふーん。で?何買うんだ?プレゼント」
「あ〜それは…」
匠が朱美を見る。
…って朱美??
「――陽輔は買ったのか?」
「――!?」
お、おまっ!
本人前にして何いってん!?
「お、俺の事は…どうでもいいだろ」
こんなトコで答えられるわけがねぇ。
そんな様子を見ながら匠は俺と朱美の関係を悟ったらしい。
「へぇ。ま、お前でも苦労することあるんだな」
心底珍しいものを見たような顔をする。
「…なんとでも言え」
俺だって惹かれてるって気付いてからここまで何もしないなんて自分で驚いてるとこなんだから。
(大体朱美が鈍感過ぎ…)
チラっと朱美を見ながら他力本願的なことを思う。
まぁ実際鈍感だと思ってるからいいっちゃいいんだけど…。
んでもって。
「――ようちゃん、岳ちゃん。懐かしいしちょっと向こう行ってくんね」
そんな俺の気持ちを知るはずもない朱美は一言いい置いて背中を向ける。
まぁ多分久々だし行きたいトコでもあるんだろう。
俺は俺で朱美に聞かれたくない話もあるわけだし、匠もそれには同感らしい。
二人して同じ言葉を投げかける。
『迷子になるなよー』
言ったことがダブったことに関して匠と二人顔を見合わせて笑いあう。
こんな短時間でも匠は朱美が変わってない事に気付いたようだ。
ま、よく二人で探し回ったしな。
「――ぷっ、ってか朱美変わらな過ぎだろ」
朱美の背中が遠ざかり、もう声が届くことはないだろうって距離で耐えられないといった感じで匠が笑い出す。
そのこと事態は賛成だが…何故だろう。
人から言われるのって腹立つんだよな。
ま、俺もそう思っちゃいるわけなんだけど。
「それより陽輔、朱美に何も言ってねーの?」
「…あぁ」
「――へぇ〜」
まるで希少動物でも見つけたような顔――ってなんなんだよその珍しいって言いたそうな視線は。
「あの陽輔がねぇ」
「うっせ。あいつ前にするとそういう言葉でて来ねぇんだよ」
「…うっわ、いいやがった」
「どうとでも言えよ」
俺だって今の俺がおかしい自覚はある。
かといって…しょーがないだろ?
「陽輔もしかして初恋?」
「あ?お前知ってるだろ?俺が今まで何人と関係持ってきたかなんて…」
「あぁ知ってるぜ。女の方から告って来たって奴ばっかな」
俺の言葉を遮って自信満々にそういいきる匠の目は言い逃れの出来ない目。
昔から抜け目ないんだよな、こいつ。
…よく覚えてやがるよ。
「ま、これ以上は突っ込まないでやるよ。で?陽輔何買ったんだ?」
「…それ聞いてどうすんだ?」
「参考にしようかと」
「止せ。女つっても皆違うんだぜ?朱美にいはいいけどお前の彼女に合うかなんてわからん」
「…そういうこというお前見るとホント遊んでたのバレバレなんだけどな」
…いまさらそんなこたぁどうでもいい。
どうせ朱美だって知ってることだし。
「お前があげたいと思ったものでいいんじゃねぇーの?俺どのみち小学校の時の姿しかしらねーし」
「ん〜そうなるかぁ。ま、んじゃ悩むの付き合えよ」
「悩むのは匠だ」
「ま、そりゃそうだけど…な?」
「わかったわかった。こっちも予定あるんだからさっさと行こうぜ」
「ま、そだな。朱美どうする?」
「ん〜、あっちの方向って言ったら昔のあいつの家かぁ、迎えに行くか」
「そだな」
結構頻繁に行き来していたのでしっかりと覚えている。
よく迷子になった朱美探して駆けずり回ったっけ。
懐かしいよなぁ、ここも。
匠の彼女の話をボチボチ聞きつつ歩いていると、思ったとおりの場所に朱美を見つける。
しかし――。
(――泣いてる?)
その背中が泣いているかのようにどこか切ない。
「――朱美?」
一向に気付く気配の朱美に呼びかけるのでさえ躊躇われるほどに。
抱きしめてやりたいと思ってやるほどに。
「――あ…、行く?」
明るく返事をする朱美だが、俺も匠もガキの頃から知っている中。
何か思い悩んだであろうことは簡単に想像できる。
そして朱美が見ていた家の方角に目を向けると…。
「…あ、…家、取り壊されちゃったんだなぁ」
何も無い空き地。
そこにはホントに何も無くて…朱美の家があった面影も探せない。
「ん、そうみたい」
朱美は気付いているんだろうか?
自分の目がとても切ない事を…。
俺には…掛けたい言葉が見当たらない。
俺は…どうしようもなくなって家を手放しているから。
そうしなきゃいけなかった事なんてあの時点でさえわかったから。
――あぁ、そうか。
「ま、家がなくなっても朱美が忘れない限りはここは俺達の地元だろ?」
俺の地元は土地じゃない。
朱美や匠がいる所が、俺にとっても地元なんだ。
「――…うん」
気のきいた事ではなかったと思うけど…、朱美の晴れ晴れとした顔はつい見惚れてしまうほど。
朱美にだけはそういうクサイこと言えないんだけど。
「んで?何処行くの?」
「あぁ、ショッピングモール行くつもり。二駅先らしいしな」
止めっ放しな車がちょっと心配になるけど…ま、この辺りなら平気か。
ちらりと振り返った朱美の言葉は俺の耳にも届いたけど、俺は気付かないふりをした。
朱美の気持ちは朱美のもの。
背中を押すことは出来ても深入りはしない。
ガキの頃からそれが俺らのスタイルだったから、それは変わらない。
それが俺らの『居心地のいい場所』だから。
遅くなってしまいました。
ホントに申し訳ございませんっ!
「前回の更新いつだよ!?」って話ですよね。ホントゴメンナサイ!
言い訳していいかな!?
言いかな!?!?!?
ここずっと転職活動と引越しの準備してました。私が今東京なんだけど、好きな人追いたくて福岡に転職決めて、家決めて…って。まぁそうしたら昨日相手に彼女出来たこと判明したんだけどね( ̄▽ ̄;)!!
ノンフィクションでこの経験も見る分には楽しそうなのでそのうち小説にしまーす。
引越しが3月末なのでまだまだ遅くなるかもです…。
待っていていただけると…すごく嬉しいです。
失恋の痛手ってひどいもんだね…。
ではまた…。