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【陽輔編】4.ドライブ

毎回毎回遅くなってしまいゴメンナサイ。感想くれたら頑張れるんだけど…とか催促してもいいですか?(ぉ

二人で出掛ける事なんて吐いて捨てるほどあったはずなのに、俺はガキみたいに緊張している。

バタンと音をたてて車のドアを閉めるとハンドルによりかかる。

あの後何度か匠を説得しようと試みたがことごとく失敗。

予定通り(?)車で地元に向かうわけなんだが、なんだかしっくりこない。

まぁでも今連絡取ってないみたいだから、匠に会うのは多分朱美は喜ぶだろう。

嬉しそうな顔が見れればいいかと思う俺と、独占したいと思う俺。

まぁ思った所で変わる事はないんだけどな。

そう思い直すと車のエンジンをかける。

心地よい振動とともに控えめな稼動音が響く。

エンジンが気に入って買ったこの車は、今の所俺の中で1番高い買い物だ。

青い車体もかなり気に入っている。

俺は車の中をざっと見回す。

たまに男同士で出掛けると変なの置いてくバカがいるから。


(ないみたいだな)


それだけ確認すると今の気分でCDを突っ込み、時計を気にしながら車を発進した。

現在時刻は8時。

ここから朱美の駅までだいたい30分ほどだから、30分前にはつくだろう。

待ってる時間もデートのうちってな。

クリスマスイブ、しかも休日っていう状況にも関わらず、道はいたって平常通りで別段予想外に混むなんて事もなく、予定通りに目的地に到着する。

大きな駅だが、広いのに殆ど誰もいない今の状況では広いからこそ物悲しさを漂わせる。


(ってこんな感じなのも好きだけど)


今から行く俺らの地元も栄えてるとは言い難い。

でもだからこそたまに帰りたくなる。

あの街に流れる空気が好きだから。

そんな事を思いながらハンドルに上体を預ける形で駅のロータリーを見渡していると、待ち人の姿を捕らえる。


(――朱美…だよな?)


俺が断言出来ないのも当たり前だろう。

確かにめかしこんでこいとは言ったけど、今までジーンズ姿しか見たことのない朱美があんなに可愛いらしい恰好をしてるんだから。

白いコート、その下に覗く淡い色――多分ワンピースだろう、それに合わせた黒い編み上げのブーツ。

問題はそれを着ているのが朱美だということ。

慣れないヒールになんだか歩きづらそうだが、それがまた支えてやりたいっていう男の保護欲を掻き立てる。

朱美は俺に気付かず駅の階段を上――え?


――ブッブー


咄嗟にクラクションを鳴らすと、予想通りびっくりした朱美が振り向く。

身を乗り出して助手席の窓を開けると冬の冷気が社内に入り込む。


「朱美、こっち」

「ようちゃん!…うっわっ!!!」



名前を呼ぶと嬉しそうに笑顔を浮かべ、慣れない靴であることを意識していなかったんだろう、体勢を崩す。


「朱っ!?」


咄嗟に名前を呼ぶ。

何故外に出ていなかったのかと自分の行動を後悔しながら。


「えへへ…ごめん、平気」


なんとか踏みとどまったらしく、恥ずかしそうに顔を向ける朱美を見て、安堵したのと同時に自分がきつく手を握っていたことに気付く。


「ったく、気をつけろよなぁー。ま、早く乗れよ」


しっとりとかいている汗を拭い、中から助手席のドアを開けると、ゆっくりと歩いて来た朱美がドアを潜る。

キョロキョロと動く視線は珍しそうに車内を見渡している。

クッションを抱きしめるのは小さい頃と同じだから癖なんだろうな、きっと。

キョロキョロしていた視線が戻ってきたかと思うと、今日初めて正面から顔を覗く。


「ようちゃんが車持ってるなんて知らなかったよー」


化粧をしてる事にはすぐ気が付いた。

普段リップも塗らないのに、今日はナチュラルにこそ見えるが、しっかりと化粧をしていた。

普段から長いと思っていた睫毛は今でははっきりと影を作るほど。

二重になりたいという女が多い中、もとの一重のまま涼しい目元を演出していて、それが朱美が本来持ってる空気にマッチしている。

俺が予想していた以上にめかしこんでくれたらしい。


「…あー、言ってなかったっけ?」


そんな細部まで視線を走らせながら出た相槌はちょっと心そこにあらずだったけど。


「全然!持ってるって知ってたら行きたいトコ一杯あったのになぁ〜」


え?

それ…もしかして俺誘われてるのか?

まぁ朱美に他意はないんだろうけど。

っても今年はもう厳しいなぁ。

無理矢理空けたからなぁ、今日。

ってすると来年か。


「んじゃ来年でいいか?」

「え?何が?」

「行きたいトコあるんだろ?」

「え?連れてってくれんの!?」


俺的には連れていかせてもらうなんだけどな。


「だって、行きたいんだろ?」

「うん!約束だからね!」


んな嬉しそうに笑うなよー。

まぁ運転中だから何も出来ないけど。


「じゃぁようちゃんに彼女居なかったら誘おうっと♪」


彼女?

いるとしたら当人だけだと思うとはさすがに言えない。


「おぅ。約束だからなぁ〜?朱に彼氏居たって行くぞ?」

「あははw来年も彼氏なんていないと思うよ〜」


俺としてはさらりと探ったつもりなんだけど…ふいに淋しそうにしたのはなんだろう?

車はスムーズに進んでく。

もうマニュアル車の運転も慣れたもので、話している間も左手と左足が動く。

ミラーごしに朱美を盗み見る。


「朱?どした?顔になんか付いてる?」


ジッとこっちを見つめてほうけている朱美に声をかける。

目立つことにはもう慣れたとはいえ、片想いの相手に見つめられるのはどうにも居心地が悪い。


「え…と、何処向かってるのかなぁ?って」


嘘ついてるな。

ったく、何考えてたんだ?

絶対今なんかを隠そうとしたよなぁ。

まぁ必死そうだから聞かないでおくか。


「あ〜、一回地元の方戻ろうかと思って」

「地元?」


驚かそうと思ったけどいっちゃうか。


「そ、岳伊匠タケイ タクミって覚えてる?」

「え?岳ちゃん?」


意外に即答。

まぁ仲良かったからなぁ。

あーでもあの日から一緒にいることは少ないけど。

そいやそういう話はしてないなぁ。

機会がありゃ聞いてみるかな。

頭の隅で別の事を考えながら朱美を盗み見る。


「そ。引っ越してからあいつとは連絡取ってたんだよ。知らなかっただろ?」


そいやなんで朱には言わなかったんだっけ?

――…あー、泣かれるからか。


「…ぇ、だって、岳ちゃん知らないって…」


あーこのままだと匠の印象悪くなっちまうな。


「俺がそう言えって言ったからな。ってか、朱今連絡取ってないだろ?」

「うん、引っ越す時携帯とかも持ってなかったし」


――ってかあの頃そんなもんなかっただろ――確か携帯が普及したの中学に入った後だったし。

とかってツッコミはヤメトコ。

多分無駄だから。


「こないだ匠の方からメール来てたからさ、朱美のコト話したら会いたいってさ」

「岳ちゃんなんて懐かしい〜!!会う、会う!」


こんなにはしゃぐとは…なんか複雑な心境だ。

俺ホント独占欲強いかも。


『陽輔クール過ぎて私とは合わないと思う』


初めて告られた相手にはそういわれて別れたのに、…変わりすぎだろ俺。

そんな軽い自己不信に陥っていたら、また視線を感じる。


「朱?今度は何?」

「…なんでもないよーだっ」


朱美の反応は気になったが、そろそろ気を散らさないで運転しないとな。

通行量増えてるし、事故るのは洒落にもならないし、そろそろ高速だし。

頭の中を整理しながら前を見据えると緑の交通標識が見える。


(500メートル先左折でインターか)


時計をちらりと見ると推定到着時間を割り出す。

まぁだいたい予想通りの時間か。


「どれくらいで地元着くの?」

「ん〜、この調子だと2時間くらいかな」


まるで考えていることを感じ取りでもしたかのような問い掛け。

まぁ朱美に限って有り得ないけど。

朱美らしくないと言えば…。


「朱普段そういう服着るの?」


今朝朱美の姿を見たときから感じる違和感。

惚れた贔屓目を差し引いたとしても異存無しに可愛いと思う。

ってやっぱり俺面食いか…?


「へ?えと…ううん、着ないけど…」

「そ?まぁ…その方がいいよ」


これを聞いて安堵した俺がいたのは言うまでも無い。

嬉しいけど嬉しくない…そんな心境をわかって貰えるだろうか。

俺の隣だけでならいいけど、ほかの男の前では…だな。

多分朱美はそういう自覚ないんだろうし。


「…似合わない?」


ほらな。

ん〜、どう言えば朱美に伝わるだろうか?


「あ〜、いや、そういう意味じゃなくて…似合ってるよ。友達の見立て?」


こういう時遊んでた癖にいい台詞が出てこないのはもう性格の問題か?


「あ、うん」

「あんま頻繁にそういう格好するなよ?」


ついつい出る本音。


「なんで?」


…答えられるわけがない。

だから。


「…動き難いだろ?」


ってことにしといた。

まぁいつもパンツルックだからあながち間違っちゃいないだろう。


「もっと違う格好の方がよかった?」


あ〜、こりゃ完全に誤解してる。

遠回りに似あわないとでも言われてるみたいに思ってるんじゃないか?

かといって気持ちを言えるわけもなく…。


「あ、いや…今日は車だし…、動き難いとかないだろ?」

「ん、まぁ…」


何かを考えるような仕草に少し焦る。

まぁ多分朱美が俺の気持ちを理解することは万に一つもなさそうだけど。


「――あんま深く考えなくていいから」

「…うん」


別に悩ませたかったわけでもないし。

あ、そういや。


「朱、車酔いとかしない?」

「ん〜、多分…かな?あんまり車って乗ったことないから」

「え?今まで彼氏とかと出かけたりとかしなかったのか?」


聞いてから後悔した。

『いた』と過去形で言われたとしても…それでもやっぱりいい気分にはならないだろうし。

はぁ〜、俺ってバカかも。


「出かけたり…ってか、彼氏って居たことないもの」

「…ぇ」


嘘…って感じじゃないよな?

ってことは…まだ…?

――って、変態か俺は。


「ようちゃんは彼女一杯居たんでしょ?」


――グサッ。


って形容詞が一番しっくりくるかもしれない。

口調が既に疑問系じゃないくて確認って感じだから…、どっかから話聞いたのか?

大学同士でコンパとかしてたしなぁ〜。

その中に共通の奴がいたのかも…、マヂついてねぇ。


「…ぉぅ」


否定なんて出来るわけがない。


「モテるんだね」

「…さぁ」


モテたとは思うけど…女が惹かれた自分って結局容姿なんじゃないかと思う。

あ〜大学とかも入るか。

結構な学歴になるし。

朱美が惚れてる奴ってのもやっぱりそういう奴なのかなぁ。

女ってそういう男の方が好きなのか?


「朱…好きな奴居るだろ?」


気付いたら出ていた言葉。

多分一番知りたかったこと。

そして、一番知りたくなかったこと。


「――っ!?」

「…図星かぁ」


嘘がつけないってか、反応が正直だよなぁ。

周りに居た女と違って打算的なもんがないっていうか。

しっかし…自分で聞いたこととは言えかなりショックだ。

明日健司と呑み行くかな…。


「どんな奴?」

「え…と…」


俺と正反対だといいな。

そしたら…きっと諦めがつく。


「――バカで、優しくて…しっかりした人――かな?」

「――そか」


…微妙。

どんな奴だか全くわかんね。

まぁでも朱美が惚れるんだからいい奴なんだろうなぁ。


「…クリスマスなのに俺でいいのか?」


ホントはそいつと居たかったんだろうなぁ。

俺は今朱美と居れてるけど…、朱美は…。


「え?なんで?」

「本当はそいつと居たかったんじゃねぇの?」


肯定されても否定されても嬉しいとは思えないけど。

聞いてしまう。

そして――。


「…誘えなかったんだもの」


皆考えることは同じって事か。

――せつね。


「ようちゃんこそ…。いいの?クリスマスに隣に居るのが私で」

「――いいんじゃね?気兼ねしなくていいし」


ここまで言われて気持ち言えるほど、絶対的な自信は俺にはねぇよ。


「――そっか」


その一言の後、社内の雰囲気は何故かとても険悪なものになった。

せっかくクリスマスに好きな女と一緒にいるっていうのに…何やってんだろ俺。

車はスイスイと景気よく走っているのに…。

見かける店見かける店クリスマスの飾りをこれでもかっていうぐらいしているのに…。

その後無言のまま、目的地までの距離は縮まっていった。

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