第16話 異世界YouTuber
学校の特別講師なんてものを引き受けたせいで、YouTubeの更新が完全に止まっていた。
弱小YouTuber、真道 凌。俺は今、頭を抱えている。
久しぶりの生配信。溜まっていたお便りを読み上げる。
しかし——しかしだ。明らかに同時接続が減っている。画面の隅に表示された数字を、俺は何度も見直した。見直したところで増えるわけでもないのに。
どうしたらいいんだ。
お便りが減って余った時間を埋めるように、オカルトニュースを読み上げるコーナーを作った。何もないよりはいい。それに毎月の再生時間もある。生配信は一時間、これは死守したい。
「えーと、なになに……『AIグラスで幽霊撮影!?』」
AI搭載のメガネに録画機能があって、それで幽霊が撮れたらしい。
「本当なんですかねー?」
「次はですね、『異世界への入り口を探すアプリで行方不明者発生!?』」
スマホで異世界への入り口を探すアプリがリリースされたそうです、とのこと。
「これで行方不明者? まぁ多分、ジョークアプリだと思うんですけどね。話題づくりの嘘ニュースかな」
「他には……『街中を生きているマネキンが歩いていた!?』夜の街を、トボトボと歩くマネキンが目撃されたそうで。まぁ見間違いだと、あっ……」
言葉が途切れた。
「……まぁ、見間違いじゃないですかね」
我ながら雑な読み上げと、雑なコメント。
なんとか放送時間が一時間を超えたのを確認して、コメント欄に流れた応援を拾い上げ、礼を言って配信を切った。
ニュース読み上げてたら、またお便り増えるかな。それとも——。
どうであれ、これを続けていくしか手がない。もしくは、またお便りの内容を実際に検証しに行くか。にしても、いいネタがないんだよなあ。
メールソフトを立ち上げ、未読のウインドウを開く。
二件。これが頼みの綱である。
1つ目。
数年前に誰もいない世界に閉じ込められたから助けてほしい、というネット掲示板の書き込みについて、調査してほしいという依頼。
……こんなの、いたずらの書き込みでしょ。
勝手に決めつけて、次のメールをクリックした。
2つ目。
俺のリスナーがよく視聴していた無名のオカルト突撃YouTuberが、配信中に突然消えたので捜索してほしい、とのこと。
チャンネルを見てみた。登録者数、九十八人。
俺より少ない。
まぁそれでも、こうして心配してくれる熱心なファンがいるわけだ。少し複雑な気分になりながら、問題の生配信のアーカイブを開こうとした。
通常、ネットの生配信は配信者が自分で消さない限り、アーカイブという録画のようなものが残る。
しかし、教えてもらったURLの先には、何も残っていなかった。
放送がBAN——強制中止されたらしい。
何か、映ってはいけないものが映ったのか?
お便りの内容はあっさりしたもので、どんな配信だったのかの記載すらない。
ちょっとばっかし、検索してみるか。
二時間。あっという間に時間が溶けた。
弱小すぎるだろ……ネットに情報がなさすぎる。
わずかに拾えた断片を、俺はメモにまとめた。
・異世界を探すスマホアプリを、偶然ストアで見つけた。
・そのアプリで計測しながら、廃墟などを巡る生配信をしていた。
・アプリは反応せず、入り口は見つからなかった。
・しかし配信の終わり、「今から家に帰る」と車載配信をしていたところ、突然アプリが反応し始めた。
・どうやら田舎らしい。路肩に車を停めて、藪の中に入っていくところまで放送され——その後、突然のBAN。
・以降、一週間が経つが、配信者のSNSは更新が止まったまま。
ん……そういえば。
今日読み上げたオカルトニュースにも、似たことが書いてあったような。
『異世界への入り口を探すアプリで行方不明者発生!?』
これだ、これ。
検索してみるが、なかなか該当のアプリが見つからない。
こういうのは、凪さんに聞くのが早い。
常夜 凪。チャットでたまにやりとりしている、占い師——だと思う——さんである。
そこから先は、早かった。
『「境界計」というアプリです。こちらの世界とあちらの世界の、壁が薄い部分を探すためのものだと言われています』
壁が、薄い部分。
いったいどんな謎技術が使われてるんだと思いながら、アプリストアで検索した。
※iOS用のApple Storeにて「境界計 Liminal Finder」で検索。
https://liminal-finder.paper-desk-works.workers.dev/
——これは娯楽用ソフトです。
ああ、やっぱりジョークアプリじゃないか。
そう思いながら、俺はインストールボタンを押していた。
起動すると、注意文がつらつらと表示された。
どうやらこのアプリの製作者は、本気であちらの世界への入り口を探しているらしい。
GPS情報を提供するかどうかの同意文が出てくる。もちろん、拒否もできるようだ。
なんだろう。言葉にできない違和感がある。
娯楽用アプリのはずなのに、同意文の文面が、妙に真剣なのだ。
まるで本当に境界が存在していて——計測アプリを無料で全世界にばら撒くことで、誰かがその場所を世界中から探し出そうとしているような。
そんな、馬鹿な。
さすがにファンタジーすぎる。いやオカルト系YouTuberが言うことじゃないか、これは。
表示されたアプリ画面を見て、俺は少し驚いた。
レーダーみたいなものを想像していた。でも、これは——いったい何だ。
画面の奥へと、何かが流れていく。ところどころに、見たことのない文字で計測値らしきものが表示されている。
ネタアプリにしては、凝りすぎていないか?
適当なタイミングでびっくり画面が出てくるだけの、そういうアプリだと思っていた。
でも、これは……。
まさか。
本当に、境界なんてものが存在するのか?




