第1話 恐怖の大魔王
初めまして。
籠崎莉々(かごさきりり)と申します。
小説、書いてみたので読んでくれると嬉しいです。
世界は闇に包まれた。
千年前――幾つもの国が滅び、大地は裂け、空は焼け落ちた。
人類に“終焉”を意識させた存在。
その名を、誰もが恐れている。
魔王ターニャん。
その封印が、いま解かれた。
再び、世界は滅びへと歩み出す――
はずだった。
―天界ヴァルハラ―
世界を見守る神々の領域。
ソファに寝転ぶ女神が、ヴァルハラモニターを眺めながら声を上げた。
「えっ、目覚めたの?あいつが?」
思わず口にくわえていたチョコチップクッキーが零れ落ちる。
「やばくない? あれ、けっこうマジでやばいやつだよね?」
周囲の天使たちがざわめく中、彼女だけが妙に軽い。
―聖協会本部―
荘厳な聖堂。
女神サナスタシアの像が、光を受けて神秘的に輝いている。
その前で、聖女リリーは静かに祈りを捧げていた。
「ついに……伝承の魔王が……」
「聖女様」
騎士服の青年が駆け寄る。
「祈りを捧げていらっしゃったのですね」
「ええ。この地に、再び不幸が訪れぬように……」
リリーはゆっくりと立ち上がる。ヴェールが揺れた。
「千年前のように、大地が裂け、国が滅びるなど……」
その瞳に、決意が宿る。
「そのようなことは、決してさせません」
祈りが届くかどうかは――誰にもわからない。
―水の都シリエル―
「ファリスの村が年貢の軽減を求めております。干ばつが続き……」
「知ったことか」
領主は無慈悲に答える。
「納められぬなら、子を売るなりすればよい」
冷酷な言葉。
衛兵は一瞬だけ眉をひそめるが、逆らわない。
「…承知しました。村長にはそのように伝えておきます」
去っていく背中を見送り、領主は笑う。
「水に困る、か……理解できんな」
この都には、“水”がある。
だからこそ――
「奴隷が増えるなら、それも悪くない」
―魔王ターニャんの塔―……の周りの雲の上
「ふははははははは!ターニャん、復活!」
雲を踏みしめ、高らかに笑う――全裸の少女。
彼女こそが、世界を滅ぼしかけた魔王ターニャんである。
「ターニャん様……お目覚めを、心よりお待ちしておりました」
控えめに声をかける側近の女性。
「……はて、誰じゃったかの?」
「ええ、存じております。三人以上覚えられず、三日で大抵を忘れることも含めて」
にっこりと微笑む。
「側近のゾフィーでございます」
「おお、側近! つまり――」
「ターニャん様の右腕のような存在でございます」
「右腕…つまり背中がかゆいときとか掻いてくれるってことかえ?」
「えぇ、まあ、なんというか、もうそれでいいです」
もう訂正は諦めている。
「それよりお召し物を…」
「なんじゃこれ?」
「人間たちが開発した"おむつ"というものにございます」
「おむつ?」
「その、ターニャん様は封印中ずっと垂れ流しだったもので……」
「いらん」
受け取らず、投げ捨てた。
「そんなことより早速人間界を恐怖に陥れに行くぞ!」
「そんなことかぁ…あ、せめてお召し物を…」
結局、ゾフィーが適当な衣を着せる。
「まずはどこへ?」
「うーむ……近場でよい!」
「でしたら、ファリスの村などいかがでしょう。干ばつで苦しんでおります」
「ほう。“水攻め”か」
ターニャんの目が輝く。
「溺れさせてやるというわけじゃな! くくく、よい!」
(そうなる未来が見えないのですが……)
―ファリスの村―
大地はひび割れ、作物は枯れ、人々は空を見上げるしかなかった。
「もう……終わりだ……」
誰かが呟いた、その時。
影が差した。
「愚かな人間どもよ!」
空に立つ、小さな影。
「この魔王ターニャんを――恐れ、敬うがよい!!」
右手が掲げられる。
次の瞬間。
空に浮かんだ巨大な水球が――弾けた。
雨。
いや、恵みだった。
乾いた大地に、水が染み込んでいく。
「ああ、大地が蘇っていく…」
「あのお方は一体…」
「きっと女神さまに違いない!」
「……ああ……」
誰かが膝をつく。
「水だ……水だ……!」
「大地が……生き返る……!」
歓声が広がっていく。
空の上。
「くくく……苦しんでおるな……!」
(完全に救ってますね……)
ゾフィーはそっと目を逸らした。
「見よ! 我が恐怖の力を! これぞ絶望の雨――」
「女神様だ……!」
誰かが叫んだ。
「女神様が、我らをお救いくださった!」
「……なに?」
ターニャんの動きが止まる。
「崇めておる……つまり、恐怖で屈したのじゃな?」
「ええ……まあ……そういうことにしておきましょう」
ゾフィーは遠い目をした。
空に祈りが向けられる。
その中心で――
魔王は、誇らしげに胸を張っていた。
盛大に勘違いしたまま。
これは、世界を征服せんとする魔王が、
なぜか誰よりも人々を救ってしまう――
そんな、致命的に間違った物語である。
初投稿、ドキドキしています…




