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【コミカライズ】この人、私の婚約者ですから!と嘘に巻き込んだ御曹司がなぜか話を合わせてくるんですが!?  作者: 有沢真尋
【第三章】

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2,バズりの波紋

挿絵(By みてみん)

★2026.3.3 本日よりコミカライズ配信始まってます!

「投稿これか……。隠し撮りだな」


 朝食のレストランに移動し、SNSアカウントを確認して海が呻いた。

 本社の入っているビルがよく見える形で、海と城戸が並んで話している横顔を、背後から映している写真だった。角度が絶妙で、二人とも全貌は見えていないが、それでも十分に目を引く顔立ちであることがわかる。何より、頭身のバランスが良く並んで立っているだけでドラマや映画のワンシーンのように絵になっていた。


「撮れてしまって、使いたくなった気持ちもわかりますが、ネットリテラシーの観点からするとこれは完全アウトですね……! このスクショは事実確認用の記録であって私の個人利用分というわけではありません」


 画面をスクショし、画像データを念の為保存しながら、アリスは言い訳をした。


「不適切投稿として削除ですか」


 城戸が海に水を向けるものの、海は「うーん」と珍しく困り顔で唸っている。


「デジタルタトゥーは『消すと増える』だから、単純に削除だけではどうにもならない。バズの沈静化を早めることはできるだろうけど、これだけなら問題のある投稿とも言い切れないのに、バズっている間に削除してお詫びを出すほうが後ろ暗い印象になる。それくらいなら、いっそ有効に利用したほうがいい。城戸まで出ているのでそこは申し訳ないが」


 浮かない表情であるのは、海自身が自分や城戸の外見を宣伝に利用するつもりは一切予定になかったからに他ならない。特に、城戸を巻き込んだのを気にしている様子だ。

 他人事の芦屋が、にやにや笑いながら寄せられたコメントを読み上げる。


「バズと炎上は紙一重だからな。次の一手でどう転ぶかわからない。『このイケメンはどなたですか!?』『ポスター撮りかな!?』ってレスついてる。ポスターにしちゃえば?」


 海はさらにうぅ~っと悶えた。その海のスマホが、着信を告げて振動する。


「……盗聴でもされているのか? うちが印刷物を頼んでいるデザイン会社の社長だ」


 周囲に配慮したようで、海はスマホを持って席を立った。見送った芦屋が楽しげに言う。


「忙しくなりそうだねえ。まあ、広報部長としては自分の部下のやらかしだし、自分で挽回するしかないだろ」


 結局、クルーズ船「春日」がその日の午後に目的地の函館港に着いたところで、アリスは海と城戸と下船して新幹線で東京に急いで戻った。


 船上でも下船してからも、海への連絡はひっきりなしである。


 これまで取引してきた相手先から「あれは今後のキャンペーンの布石だろ?」「とうとうモデルデビューか。年貢の納め時だな」「この際、観念して自分ごと会社を売り出していけ。プロデュースは引き受けた」と本気で口説き落とされているとのこと。

 立て続けの電話に対応する合間に、海は「俺が納めなければならない年貢とは何か」と暗い表情で呟いていた。少なくとも「もう後がない」と脅されるようなことを海本人はしていないはずなので、納得がいかないものがあるだろう。

 反省する点があるとすれば「SNSの担当者選びを間違えたこと」だと言いつつ、本人とも連絡を取っている様子であった。


 東京駅から、帰宅することなくその足で向かうのはもちろん香空(かのあ)リゾート本社である。だが、タクシーの中で暁子から連絡があり行き先変更を告げられた。近くの系列でもないホテル内のラウンジで待ち合わせとなる。

 顔を合わせるなり、暁子は「会社の外に、出待ちがいるのよ」と言ってきた。


「写真の人物が社員という情報がすでに出回っているの。まだ写真一枚のことだし、さほど時間がかからず沈静化するとは思うけれど、弓倉部長の存在が想定外の層に知れ渡り、『ファン』が増えたことは間違いないと思うわ。いまは騒ぎが大きくなっている段階でしょ? 会社の周りに『出入りする姿を一目見たい』ってうろうろしているひとがいるみたい。警備員から報告が上がってきているし、私も確認したわ」


「いまの時期は、熱中症で倒れるのでやめてほしいですね。うちの会社近辺で頻繁に救急車を呼ぶことになったら、さすがに問題だと思います」


 暁子の報告に対し、海が顔をしかめて言う。横で聞いていた城戸も、渋い声で同意した。


「出待ちというのは『待ち続けて諦めた五分後に本人通過』があったら諦めきれない思いから、どうしても自分の限界を超えるようなことをする危険性がありますからね」


 これには暁子も「そうなのよねえ」と深く頷く。


「今は真夏でしょう? SNSは炎上の類ではないし、出待ちはいわば『通行人』だから会社から行動を規制できない。その結果として死者が出れば、遡ってSNSの投稿が問題視される恐れも十分にあるわ。この場合、実際に良いか悪いかではなく『問題視されるようなことがあった』だけで会社にとっては事案なのよ。なんだか悪いイメージが残るっていう」


 反論することなく、海は「はい」と認めた。


「ポジティヴに……うちの業績に反映できる内容のバズだったら良かったんですけどね。俺と城戸の外見が晒されたところで、宿泊施設でもなんでもない本社ウォッチをされても」


「そこなのよ!」


 暁子は不意に、強い態度で海の言葉に食いついた。


「香空リゾートは旅館・ホテル経営の会社だけど、本社には泊まれないでしょ。本社で人の出入りを張り込みで注視されていても、営業利益には何もつながらない。お客様の健康上の問題は懸念される。現状、形勢はやや悪い。はい、そこで白築さん。こんなときは経営戦略上どのような解決法が考えられるかしら?」


 突然の名指しに、アリスは「はいっ!」とまずは勢い良く返事をしてから考えを巡らせる。


(宿泊施設でもない本社に、お客様に来て頂いても何もできない……。「お客様」つまり、暁子副社長の認識では「海さんと城戸さんを見たいがために本社前で張り込みをするファンの方」も、潜在的お客様……!)


 ならばと自分なりの戦略を頭の中で整理して、アリスは口を開いた。


「いっそのことこの騒動を一時的に広告戦略として利用するとして、海さんと城戸さんを短期間どこかの支社に配置し、SNSで告知してしまうのはいかがでしょう。もちろん本格的な異動ではなく、本社業務に差し障りのない範囲でとはなりますが」


「なるほどね。『本社にはいない』ことにするのね。もう少し具体的には?」


 興味を示してくれたようで、先を促される。アリスは思いつくままに続く構想を展開してみた。


「つまり、酷暑で本社前の張り込みが危険と想定される向こう一ヶ月くらいの期間、海さんの行動を広報アカウントから発信してしまうんです。もちろん行き過ぎたストーカー好意などに備えて、事前にスケジュールを公開することはなく、事後報告の形で。最初に『しばらく地方支社巡りするので、本社は不在にしております!』と宣言して、そこから地方の複数の支店を回るんです。それで、新幹線で駅弁を食べつつ移動して、香空の各店舗で過ごした様子を時間差で広報アカウントからSNSに出して行くイメージです」


 隣県同士の移動は予期されやすいため、熱心なおっかけがいた場合先回りされる恐れがあるので、飛行機などの移動も挟み出現場所のランダム要素を高める。

 できれば、この夏休みのシーズンにも宿泊客に空きのあるような店舗から周り、宣伝効果につなげる。

 報告しない範囲で東京での仕事も並行して進める。なるべく本社には立ち寄らず「本社前で出待ちをしても会える可能性はない」ということを早めに周知させて解散を促す。


「その……、私は推し活のようなことをしたことがないので、ファンの熱量というのが実際にどのようなものかわからず、もしかしたら過剰な対策かもしれませんが……」


 海も城戸も、一般人として考えるとヴィジュアルが強いのは理解できるものの、どうしても「芸能人でもないのに」という考えが拭えない。


(それなのに、この作戦を取った場合は、かえって海さんのマスコットキャラクター化を推進してしまうといいますか……。多くの写真がウェブ上に出回り、有名人となり……。インフルエンサーになる、のかな。本人は望まなさそう)


 いまの状況を打開できたとしても、後々の影響を考えると悪手ではないだろうか。

 アリスとしては迷いどころであったが、言ってみろと言われて自分の考えとして口にした以上、もはやこの場で無責任に撤回できない。

 この先は、実際に社としての方針決定に関わる重役の人間が採用、不採用を判断するところである。特に海は広報を統括する立場にあるので、策として「自分」を使うかどうかは海の作戦の範疇となってくるのだ。

 何を馬鹿なことをと一蹴することなく、海は思案するような顔で発言をする。


「現在一時的に本社に対して過剰に集まっている注目を、地方支社に向けてもらうべくPRにつなげるというのは面白いと思います。香空全体で営業利益の目立って落ちている店舗は現状さほどなかったはずですが、気になるといえば気になる店舗があるんですよね」


「箱根の例の件ですか」


 城戸が短く合いの手を入れ、海が「そう」と認めた。


「芦屋専務から個人的に話を聞いた段階ですが、青海クルーズの関連企業で箱根の老舗旅館に、潰れかけている店舗があるそうです。現在『白鳳』での業務提携に際し香空はノウハウの提供をしています。できればそこの旅館にも『煌』系の人材に立て直しに入ってもらいたいと。まともな状態なら広報で協力できるかもしれませんが、現場が機能していないなら立て直しからで……まずは実際の状況を目で見てきたいと思っていました。その他、香空の地方支社に関しても、現場経験のない自分がこれ以上本社で身動きとれなくなる前に、せめて視察する機会を増やす必要は痛感していましたので、白築さんの提案には賛成です」


 海は仕事柄、東京を離れることがあまりない。

 現場経験がない、というのはこの先を見据えてもひそかに悩みどころだっただろう。

 しかし現状スケジュールが分刻みで詰まっていることもあり、それを覆してまで地方視察の予定を入れていくのは「よほどの理由」が必要になってくるのだ。


(「本社前で人死にを出すわけにはいかない」というのは、実際問題大きな理由になり得ると思いますが……!)


 海の意見を聞いた上で、暁子は「なるほどねえ」と呟いた。


「弓倉部長の考えは、よくわかるわ。まず、箱根の他社店舗に関して、立て直しが必要というのなら、お客様がいま足を運んでも良い思い出にはならないかもしれないから、積極的なPRはできないわね。ただ、箱根であれば香空の支店もあります。あなたが白築さんのSNS戦略にのる気なら、箱根を含む地方支社巡りをするのは良いんじゃないかしら。広報部の仕事で折り合いがつけば、ですけど」


「つけます」


 即座に海がきっぱりと言う。


「わかったわ。SNSはどうするの? このまま顔出しでバズに乗っていく方針なの?」


「……公人でも芸能人でもないですが、たしかに検索すると多少出てくる程度に俺の写真はすでに出回っているので……。積極的にではないにしろ、食事風景で手元を映したり、かなり離れた位置から弊社の施設を背景に映す程度なら妥協します。城戸はこれ以上巻き込みたくないので、出しません。インプレッションが落ち着く頃には、露出も少ないまま忘れられているのではないかと。SNSは必ずしも実際の売上に繋がるとは考えにくく、運用は今まで通り慎重に行います」


 海が悩ましい表情のまま、落とし所としてそう答えた。

 暁子も「そうね」とすぐに同意する。


「まずは、この暑い中で本社に張り込みしている人が飽きてくれればいいだけだから、それでいきましょう。今日はお疲れ様。明日は朝イチの会議でいまの話を進めて、なるべく早く弓倉部長の地方巡業を実現させましょう」


「よろしくお願いします」


 話し合いが済んだところで、解散となった。暁子は「見送りは結構よ。あなたたち、今は目立っているから」と冗談交じりに言ってさっと立ち去ってしまう。

 海はスマホを手にして、遠くへ目を向けた。


「問題への対処方針を決めただけで、まだ何も始まっていない。明日の会議から忙しくなるな。芦屋にももう一回連絡を取って、どういう形で提携するのか具体的に詰める必要がある」


「本気で箱根の立て直しに力を貸すんですか?」


 城戸が確認のように、質問をする。「あの場では冗談だと思ったけど――」と言いながら、海は自分のスマホが振動しているのに気づくと、席を立った。歩き出しながらスマホの画面に視線を向け、目を瞬いて呟く。


「姉さんからだ」

★いつも応援ありがとうございます!!

 前書きでもお伝えした通り、電子書店各ストアにてコミカライズの配信が始まっています!

 漫画家は上森優先生:双葉社・KoiYui(恋結)編集部さまです!

 大変麗しい海サン&かわいいアリスです!!見たかったシーンもきっとありますよ!!


★2026.3.3活動報告でご案内を書いておりますので、ご覧いただけますと嬉しいです!!

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✼2026.3.3配信開始✼
i1107933
― 新着の感想 ―
志摩スペイン村も、周防サンゴさんとコラボした途端来場者が爆増しましたし、今の時代インフルエンサーの宣伝効果は計り知れないですよね( ˘ω˘ )
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