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2 ダイバッタの贈り物

「さようなら!」

「じゃあまた明日ー」

「それではおいとましますね」

「皆様ご機嫌よう、ですわ」


今日は学校帰りにみんなでサファリのカラオケに寄った。そしてアタシは夜食用のアンパンを持ってみんなに挨拶してから帰ろうとしていた。サファリは食べ放題のカレーも有名だがアンパンも人気が高いのだ。


「近道で帰ろっ……と」


そしてアンパンを袋に入れたまま今日は少し近道をして帰る事にしたのだ。


 ……しかし、これが大きな運命の分かれ道だったのだ!


 もしここで近道をしなければアタシは明日からも普通の女子高生ライフを満喫していただろう。しかし運命とは不思議な物である。ここである人物に出会った事で私の運命はとても大きく変わってしまった。


近道して帰ろうとしたアタシの前でホームレスのお爺さんがガラの悪そうな男たちに殴る蹴るされている。


「何をするだぁ!やめんかァァァ!! ひいぃぃ!」

「汚物は消毒しないとな!」

「街をきれいにする俺たちってマジ善人だよな」

「さっさと街から出ていけよ」

「クズに生きる資格は無ぇんだよ!」


酷い、無抵抗な老人相手に体格のいい男たちが数人がかりでいたぶっていた。しかしこいつらは町の自警団を称するシティーパニッシャーという連中で誰も彼らを止める事が出来ない。


 でもお婆ちゃんが言っていた事をアタシは思い出した。


「独善的な人の一方的な正義は悪にも劣るの、本当に正しいとみんなが思う事をしなさい」


お婆ちゃん! アタシこのお爺さん見捨てられない!!


「やめなさい! 恥ずかしくないの!?」


思わず言ってしまった! でも後悔はしていない……やっぱりウソ! 今滅茶苦茶怖い!!


「あ?なんだこの女?」

「このボロクズの知り合いか?」

「へー、アンタ可愛いじゃん、俺たちと遊ばない?」


こいつらは今間違いなくお爺さんでは無くアタシを見ている! でもアタシにはこいつらと戦うだけの力なんてない。正義無き力は暴力、力なき正義は無力……アタシは今間違いなく無力である。こんなアタシがここを乗り切るには何か知恵を出すしかない!


アタシはあたりを見回した、これだ!


 ガァアアン!


料理屋の裏に積まれた空の一斗缶の山にアタシは全力でキックした。 綺麗に山積みだった一斗缶はバランスを崩し一気に崩れてチンピラとアタシ達二人の間にバリケードを作ってくれた。


「お爺さん走って!」

「わわわわわぁ もう少し優しくしてくれんかぁ!」


アタシはお爺さんの手を握り全力でその場を逃げ出した。


どうにかやつらを振り切ったアタシ達は人気の無い場所に座り込んでしまった。


「はぁ ……はァ……」

「ゼェ……ゼェェ……ごほっ ゴホッ」


お爺さんはその後咳をしてすぐに横にバタンと倒れてしまった!


「お爺さん! 大丈夫!?」

「娘さん……お願いがあるんぢゃが……」


「もう三日も何も食べとらんのぢゃ……悪いが何か喰い物を恵んでくれ……」


ホームレスらしいお爺さんは空腹すぎて動けなかったらしい、アタシは今日の夜食にするつもりだったサファリのアンパンをお爺さんに差し出した。


「ありがたい、ありがたい」


お爺さんはそう言うと両手でアンパンを持ち一心不乱に齧りついた。よっぽどお腹が減っていたのだろう。


「お爺さん」

「なんぢゃ?」

「NPO の人とか助けてくれないの?」

「門前払いされたわい」

「生活保護は? 申請できるんでしょ?」

「住所不定無職には申請させれないと追い返されたわい。ワシの後ろの奴は日本語以外で話してすぐに申請通ったみたいぢゃがな!ワシの場合、財布から何から全部奪われて身元証明できんかったのも理由かもな」

「すごーい!お爺さん外国の言葉わかるの?」

「ワシはもともとインド人ぢゃ」


アンパンにむしゃぶりついたお爺さんは全部食べ終わって指まで舐めていた。


「おぢょうさん、ありがとう。こんな日本にもまだあんたみたいな娘さんがおるんぢゃな」 「いえ、お婆ちゃんが困った人は助けてあげなさいと言っていましたし。」


そのすぐ後にお爺さんは目をギョロッと大きく剥いてアタシの胸元(そんなに大きくないけど)を覗きこんできた!


「キャー変態! 何するのぉー」


アタシは突然の事に思わずお爺さんをハリ倒してしまった!


「イタタタ……何をするんぢゃ!」

「それはこっちのセリフです!!」


「何か誤解しとらんか? ワシはお前さんのスカーフを見たかったんぢゃ!」

「コレですか? お婆ちゃんの物ですけど」

「ん? お前さんはひょっとして嘉保子さんか?」

「……嘉保子はお婆ちゃんの名前ですが、お爺さんはお婆ちゃんの知り合い?」


ん……お前さんの名前を教えてくれんか?」


「アタシ?三ツ矢……嘉穂ですが」

「三ツ矢ぢゃと!!? お前さン タケシ の孫か!?……そうか 時の経つのは早いなぁ」


そう言うとお爺さんは腕を組んで少し考え事をして……


「お前さん、この国は好きか?」


唐突な質問にアタシは少し戸惑いつつ


「はい、大好きです」


その返答にお爺さんは


「アンパンのお礼にお前さんにプレゼントしたい物があるんぢゃが」

「お礼?」

「伝説の力ぢゃ、正義の守護神・アラブの星、プリズームコンドルの力ぢゃ!」


そういうとお爺さんはアタシに向かって手をかざしてきた、すると何だかあったかくて力強いエネルギーがアタシの中に流れ込んでくるのを感じた。


「いたぞ! ジジイと女だ!」

「ジジイはブッ殺せ!女はおれたちのオモチャにしてやれ!」


ヤバい! あいつらがこっちに気がついたみたいだ。

お爺さんが杖を私に向けて


「念じよ、 ワシの言葉に続くのぢゃ」


と言った。何がどうなるのか分からないけど大ピンチなのは変わらない。


「コンショウコウライ ナーマクサーマンダーボダナン ター! さあ、言ってみい!」

「こしょうこんさい? なますて?」

「違う! コンショウコウライ ナーマクサーマンダーボダナン ター! じゃ!」

「こんしょう…… こう らい なーまく さーまんだー ぼだなん?」

「タワケ! ター! が抜けておるわ!!」


こんなワケわからないやりとりしている間にも数人組はこっちに近づいている、もう時間が無い!もう自棄だ!!なるようになれ! アタシはそう思ってお爺さんの言う通りに……


「こんしょうこうらい……なーまくさーまんだーぼだなん……ター!」


と唱えてみた、すると、体が軽い……アタシはなんだか空中に歩き出すように凄いジャンプ力で空に飛び上がった。そして身体が光り出す! そして制服がどこかに消えてしまいまるで裸のシルエットみたいだ。こんな恥ずかしい姿になるなら死んだ方がマシだ―!! と思っていると……全身に何か布のような物がまとわり……服の形になった。何なんだこれ?


「何だあれは!」

「知るかよ、俺に聞くな!」

「でもちょっと可愛いかも……」


アタシにまとわった光が消えると身体はゆっくりと地面に着地した、あれだけのジャンプ力で飛んだのに怪我一つない……。


「それがお前さんに授けたアステカの星、プリズームコンドルの力ぢゃ! さあ、お前さんは今日から《愛の使者プリズーム・マン》として ……いや、女だからウーマンとして闘うのぢゃ!!」

「えー!! 聞いてないよー! 詐欺だ―!!!」


どう考えてもこれは強制イベント、クーリングオフ出来なそうな話である。

そんな戸惑っているアタシに向かってチンピラ数人が殴りかかってきた!


「ヒーローごっこならおうちでやりな!」

「コスプレアイドルとしてプロデュースしてやるよ、手取り足取り腰取りな!」

「やっちまえー! やっちまえー!」


万事休す! これはどう考えても逃げようがない!


そう思って一瞬目を閉じたアタシの前の光景は予想だにしないものだった。

……まるでビデオのコマ送りのような動きで殴りかかって来たのだ。こんなものなら歩いても避けれる! アタシはパンチをかわして大男のたるみきったお腹に一発パンチを入れてみた。女の子のパンチ力で倒せなくても少しは何か効果あるだろう……と思ったのだが


ドゴォォン!!


パンチを食らった大男は数メートル先の壁に叩きつけられた。これ……本当にアタシの力なの?


「ひぇぇえ! バケモンだー!」

「ゴリラ女だ―! 逃げろ―!!!」


チンピラが気を失った大男を見捨てて全員逃げ出した。どうやら本気でアタシを怖がって逃げだしたらしい。

すると杖をついたお爺さんがニコニコしながらアタシを指差して


「どうぢゃ! これがお前さんに与えたインドの星、プリズームコンドルの力ぢゃ!」

「どういうことですか!? ちゃんと説明して下さい!」


お爺さんは空中に浮きながらドヤ顔で話し出した。


「ワシの名前はダイバッタ老人 ありがたい仙人様ぢゃ!」

「ダイ……バッタ? 大きなバッタ?」

「バカモン!ダイバッタぢゃ! ありがたーい仙人様なのぢゃぞ」


空腹が満たされた途端にダイバッタ老人は態度がでかくなった。


「本来あの程度のチンピラ、ワシの仙術があればちょちょいのチョイなんぢゃがな、あまりにもはらが減り過ぎて力が出せんかったのぢゃ……ところで嘉保子さんや」

「アタシは嘉穂です!」

「そうか、すまんすまん、で……何から聞きたいのぢゃ?」


「色々ありますけどまずはこの服装の事です! なんですかこれ!!」

「かわいいぢゃろ! ワシのナウいこーでねーとで作ったでざいんじゃ!」

「納得行きません!」

「そう言わずにこれを見てみい」


そう言ってダイバッタ老人が古ぼけた写真を取り出した。その写真には若い時のお婆ちゃんと…ものすごくダサいご当地ヒーローの出来そこないみたいな全身タイツのカラフルな覆面男が写っていた。


「これが嘉保子さんの祖父の写真ぢゃ! 《愛の使者プリズーム・マン》おぬしの祖父は世界を守ったヒーローだったのぢゃ!!」

「私は 嘉 穂 で す !」

「すまんすまん、年をとるとどうも忘れっぽくなってしまってノー」

「で、このお爺ちゃんの写真とアタシのこのコスプレ何の関係があるんですか!?」

「このカッコでもよかったんじゃぞ、せっかく女の子だから今はやりのでざいんでこーでねーとしてやったんぢゃが」


そういっていたダイバッタ老人の荷物の中に古紙回収から拾ってきたようなぼろぼろのアニメ雑誌が見えた。これではどう見てもアニメ雑誌のやたらと数の多いスクールアイドルのバッタもんである。


こんな姿を大型 SNSイッタッターにでもアップされたらアタシの人生オシマイだー!  そう思っていた時……


「嘉穂さん、人間とはな、不思議な力を秘めておるのぢゃ。それは鍛えれば鍛えるほど無限の力を発揮する。おぬしに与えたナイルの星、プリズームコンドルの力はその無限の力を発揮する事が出来るようになる人間本来の力ぢゃ! 今のおぬしの力は常人の 50 倍以上の力を出す事が出来るのぢゃ!」


……そりゃゴリラとも言われるわけだ、マジでゴリラ以上の力を手に入れてしまったのだから。……それに、なんとかの星って毎回場所違わない???


「わー! 戻して下さい!! アタシ普通の女の子に戻ります―!!!」

「無理ぢゃ」

「詐欺だ―! クーリングオフさせろ―!! もし出来ないならこのゴリラ以上の力でお前をひねりつぶしてやる―!!!」

「ままままm 待つんぢゃ! ワシの話を最後まで聞け!」


「おぬしは言ったな、この国が好きだと」

「…はい、言いましたよ」

「ではワシの話を最後まで聞け!」

「……。」


「おぬしの祖父タケシはプリズーム・マンとして世界を征服しようとしていた《デスサタン団》の人類壊滅計画を阻止しようとしておった…おぬしの祖母、嘉保子さんはそれを報道の力で手伝おうとしておったのぢゃ!」


お婆ちゃんがジャーナリストだった事は知っていたがそんな事をしていたとは初耳だった。


「プリズーム・マンのおかげでデスサタン団首領は爆死し、組織は壊滅したはずぢゃった。しかし生き残った幹部連中は征服、壊滅計画を別の形で水面下に進めておったのぢゃ!」 「それはいったい…」

「政府の乗っ取りぢゃ! 今の市民党はデスサタン団の残党の巣なのぢゃ!」

「ウソでしょ!?」

「本当ぢゃ、おっと……人が来たようぢゃな」


知らない間にアタシ達は大量の警官に囲まれていた!壁まで吹っ飛ばされた大男がアタシの事を通報したらしい。


「君たちは完全に包囲されている! 武器を捨てて大人しく投降しなさい。」

「武器なんて持ってませーん!」

「では大人しくするように」


警官がアタシの体に触れようとした時、一人の警官の手が偶然アタシの成長途中のバストに触れてしまった。


「キャー! なにすんのよぉーー!」


ズドガァーン!


またやってしまった……今度は警官の束がドミノ倒しに吹っ飛んだ。この力全く制御できていない……ダイバッタ老人に聞かないと!


「……」


いない! ダイバッタはどさくさにまぎれて逃げてしまった! 今ここにいるのは数十人の警官とアタシだけ……もうオシマイだー!! こうなったら逃げてやる!


アタシは押さえつけようとする警官を次々となぎ倒しながら逃げようとした。どんどん警官の数が増える増える増える! あたりの警官全部が総動員されたかのように集まってきてしまった。それに一般人がこの様子をイッタッターにアップしている……もう破滅だ ―!!


こうなったらどうとでもなれ! アタシは数十人の警官相手に大立ち回りをすることになってしまった。


「本部救援お願いします……こちら全滅です。恐ろしく強い女テロリストが現れました…至急救援を……」


その通信は帰宅途中だったこのみにも届いていた、十年ぶりの捜査 0 課始動である!

『高機動特警レイバン』それは人類を抹殺しようとするバイオロボット生命体『イグノイド』をせん滅するために戦う警視庁捜査0課所属の特殊刑事である! レイバンがただ一人心を通わせることのできる小さな女ボス、このみ。これは愛と平和と人類のために戦う警視庁捜査0課所属刑事レイバンとこのみの愛と闘いの日々の心のドラマである!


次回!高機動特警レイバン  ハロー! 元小さな女ボスに ターゲット・ロック!

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