初めての異世界
何者かも分からなかったあの時、異世界に行きたいと思った瞬間、急に光に包まれて急に真っ暗になった。
その真っ暗な場所で水に包まれている感覚があった。すぐに悲鳴が聞こえて、その後腕と胸の辺りに鋭い痛みが走って...。でも気づいたら何事もなかったみたいにまた水の中。
さっき痛みがあったところはじんじんしてるけど、それ以外は何も感じない。母親のお腹にいるんだなってのが外からの男の人のくぐもった頑張れって声で気づいた。
痛みのせいでさっきは死ねかと思ったなんて、つい口走っちゃったけど、気づかれてないよね。
あの女性のそばで異世界アニメを見てたはずなんだけど、ここどこだろう?
ぼやけてほとんど何も見えない。
ぼやけた視界の中で、顔を覗き込む人影が3つ見える。
「おめでとうございます!お母さまにとてもよく似た男の子ですね!」
「ええ、でも男の子だと泣かないものなのかしら」
「何度も出産には立ち会っていますが、泣かないなんてことはほとんどありませんね…泣くどころか何かぼそっと聞こえた気もしますが」
「いいじゃないか、元気そうではあるぞ。リンに似てかわいいなー!口元は俺かな?どう思う?」
「鼻と口元があなたそっくりに見えるわ」
「まあ、呼吸もしっかりしていますし異常は無いように見受けられますので問題なさそうですかね。」
聞いている限り、3人はお母さんとお父さん、助産師さんといったところか。
お母さんに似ているといったところから想像するに、私の髪の色はお母さんと同じ金髪かな。というより女性らしき人はどちらも金髪だ。お父さんは茶髪か。
「ローグさん、リンさん、子供さんのお名前は決めていますか?」
「ああ、男の子ならカイルと決めている。」
「では改めまして、カイル君のお誕生おめでとうございます。」
「ええ、エレナも出産の手伝いありがとうございました。」
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~それから1ヶ月~
エレナは産後の経過を見に来ていた。
「あれから奥様に体調の変化はありませんか?」
「ええ、体調は問題ないわ。むしろ絶好調よ!」
「それなら良かったです。カイル君の様子はどうですか?」
「あの子、生後15日目には歩いていたわ。男の子の成長って早いわよね~。」
「はぁ!?」
エレナは固まった。母親のリンは怪訝そうだ。
「…失礼、取り乱しました。早いなんてレベルではないと思うのですが…健康なら良いです。」
「そうなんですね。私も主人も世間には疎くて、普通がどうかなんて分からないの。教えてくれるかしら。」
「ええ、もちろん。あくまで普通、標準の話しをさせていただきますが、首が座るのが15日、よちよち歩きがその15日後といったところでしょうか。思うように歩き始めるのは更に5日、走り始めるのはそこから10日なので、走り始めるまでの期間としては1ヶ月半が標準です。ちなみに、今の私たちの何千年も昔はもっと遅かったと聞いています。」
「なら早くても問題ないじゃない。早い子もいれば遅い子もいるのよね?」
「そうはおっしゃいますが、昔に比べて早くなっている成長を更に飛び越していくなんてことはそうそう起こりません。あの…、今はしっかりと歩いているレベル…でいいんですよね?」
「えーっと…」
リンは目を泳がせながら言った
「しっかり食べて、しっかり走って、しっかり剣の素振りまでしてるわ。今度は魔法でも教えようかと」
エレナは思考停止した
「ちょっとエレナ、大丈夫?うちの子はちょっと成長が早いだけよ!心配ないわ!」
「そうですね、きっと私の知らないところでは同じようなことがたくさんあるでしょうとも。一応私もこの国では名の知れた助産師ではあるのですが、子育ての経験はありませんので…」
余談ではあるが、エレナは現在18歳。この世界では助産師の家庭は子供を幼い時から後継者として育て、10歳に至ることには助産師助手として経験を積ませる。12歳に一人前として独り立ちさせ、王宮に仕えるか一般家庭の助産師として活躍するか選ばせるのである。また、後継者育成のため必ず20歳までには子を産むよう厳しく言いつけられているが、まだその役目は果たせていない。仕事にかまけすぎていて出会いが無いのである。
さて、前述の通り助産師という仕事に関しては同年代の仲間のうちでも人一倍経験を積んできているエレナでも、前例のないほどのスピードで成長する子供。これは師匠である親に報告すべきかと迷った。
「ねえ、エレナ。私さっき話を聞いてて思ったの。カイルはすぐに私たちの元を旅立ってしまうんじゃないかって。だってそうでしょ?こんなに成長が早い子だもの。旅立ちもあと10年くらいで来てしまうじゃないかしら。だからそれまでは、ローグと私で育てたい。だから誰かにこの話をするのは止めておいてくれるかしら」
「そう…ですね。分かりました。でももっと早い段階で私が来ていれば少しはお役に立てていたかもしれません」
「いいのよ、助産師の仕事って忙しいのでしょう?」
「そうですが、1ヵ月経過した歩き始めの段階で私たち助産師がお子様の様子を見て、生育に応じて保護紋を施すことになっているので、職務怠慢だと思われても仕方ありません。」
この保護紋とは助産師の家系に伝わる魔物から身を隠すためのものであり、魔物からは魂の力を見えなくする効果がある。
保護紋の形は生まれ持った魂の形で変わるため家族と似通った形になることがほとんどである。
「それでも元気に育ってくれたわ。ローグとカイルを呼んでくるからここで待っててくれる?」
「分かりました。」
それから30分後。
「連れてきたわ」
「こんにちは、エレナさん」
ローグは前回の出産時同様、気さくに話をかけてくれる。
「こんにちは。えーっと、エレナさん?」
と、カイルも同じように話しかけてくる。
「こんにちは。ローグさん、カイルく…ん???ちょっと待って、思考が追い付かないのだけれど、今カイル君挨拶した!?」
「人として挨拶は当然のことです。」とローグが話す。
「いやいやいやいや、そうじゃないですよね?生まれてからまともに言葉を話すようになるのはいつだと思っているんですか!?」
「そうはおっしゃいますが、現に話せていますし人と挨拶を交わすことは当然のマナーだと常々教えています。」とまじめ腐ってローグは話すが、この人はそういったキャラには見えない。冒険者崩れで不真面目が服を着て歩いているような男だとは、この男の妻であるリンから聞いた言葉である。
「リンさん…」
「はい?」
とぼけるリンは姉さん女房で22歳、ローグは18歳である。この人の入れ知恵に違いない。やんわりした物腰や普段の口調からはそう頭がいいといった印象は受けないが、魔法論理の学者である。とは言っても…
「さっき、言葉までしっかり扱うような話は聞いておりませんが?」
「身体的なことは聞かれましたが、言葉についてまでは聞かれておりませんので。」
やっぱり子育てとなるとこうなる。
でも確かにリンさんは魔法を教えようとか口走っていたのは記憶にあるから、私がまだ話せないと頭から決めつけていただけか…。
「すみません、何か僕悪いことしちゃいました?」
先月生まれたばかりのはずのカイル君だが、すでに大人と変わらないレベルの言葉遣いだ。
「ああ、いえ。カイル君は立派になりましたね。ついこの間までちっちゃくて話せなかった…あの時の赤ん坊だとは思えないくらい成長してたから戸惑っちゃったわ」
見た感じ平均的な1ヶ月の子供より大きい。生後2ヶ月の子供と同等の発育に見える。生後2ヶ月というと走る・跳ぶのみならず、言葉のやり取りもある程度は可能であろう。
「ありがとうございます!お姉さんも変わらずお綺麗ですね!!」
「ありがとう。」(私は誰に何を言われているのかしら…)
「あら、カイルったらローグに似て女ったらしだわ。」
「多分だが俺はあのくらいの年で、あんなこと言った覚えはないぞ…。」
「ははは…」エレナは、生後一か月の子供にお世辞のようなことを言われ乾いた笑いをするしかなかった。
子供の成長は早いものです。特に異世界では…
この世界は過酷ゆえに生れてからの成長スピードが速くなっています。




