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罪を重ねし異世界で被る罰の話⑬


「はあ、はあ……」


 カリストロスが必死になって、目の前の空間に空いた謎の孔に飛び込むと、そこはやはり光源が皆無で、超人的視力を有する彼でさえも中の様子は変わらず確認出来なかった。それでもとりあえずは、入ってすぐに平らな地面があって足がついたので、何も無い空中に投げ出されて落下してしまうような事はなかった。


 その後、カリストロスがふと後ろを振り向くと、侵入口であった孔が独りでに閉じてしまう。それによって外から差し込んでいた光が消失し、彼の視界は完全なる闇に包まれてしまった。


(入った途端、穴が閉じやがった……。でも、とりあえずアイツらからは逃げられたっぽいな。……でも一体、ここは何なんだ?)


 ゆっくり息を整えてはその場より立ち上がると、カリストロスは改めて周囲を見回そうとする。だが、どう目を凝らしたところで何かが視えるようになりはしなかった。


(くそっ、完全に真っ暗で何も判らない……! 俺の眼でも見通せないなんて――うおッ!?)


 すると突然、カリストロスの全身に何かで強く縛り付けられたような感覚が生じては、そのまま身動きを取ることが出来なくなってしまった。


(な、何だ!? 体が……拘束されたみたいに動かせなくなった……! 何なんだよ、何が起きているっていうんだ!?)


 カリストロスが酷く戸惑っていると、これまた突然、彼の頭上よりスポットライトの如き強い光が降り注いでは、カリストロスの周囲を明るく照らし出した。それにより、彼の体は魔力の鎖によって、まるで十字架にでもかけられたかのように大の字で空中に留められていることが判った。それだけでなく、彼は現在、何やら朝礼台のような場所の上にいるという状況も判明した。


「レディースアーンドジェントルメーン!」


 直後、カリストロスのすぐ傍にて、誰かがマイクか何かを使って、大きく響かせた声でそう唱えたのが聴こえてきた。その声は男性の老人によるものであった。しかも、それはカリストロスにとって明らかに聞き覚えのあるものであった。


(なッ!? コイツは……!)


 カリストロスが慌てて目を向けると、声の聴こえた先にいたのは過去に彼を陥れた、仙人のような風貌をした禿頭に髭の老人であった。その人物がどんな者であるのかをカリストロスが忘れることは無い。彼はカリストロスにとって怨敵たる男、スレイアが元々転じていた姿に他ならない。


 更に老人が挨拶らしき言葉を口にしたすぐ後、大量の灯りが天から注がれては、カリストロスの視界に映る全域の様子が一気に露わとなった。なんと闇が粗方消え去った景色の中には、非常に大勢の――それこそ何千どころか何万もの人間達が所狭しとひしめき合っており、加えてその全員が一人の例外なくカリストロスを凝視していた。


 そんな異様な景色に、ついさっきまで他に誰かがいるなどといった気配など微塵も感じなかったというのに、ものすごい群衆の注目を一身に浴びているという現状に、カリストロスは酷く驚かされる。すると、


「どうも皆様、長らくお待たせしました! これよりカリストロス被害者の会主催、因果応報地獄の公開処刑リンチ大会を開催いたしまーす!」


 今度は別の方向から、老人とは別の声が同じくマイクを使ったような感じで広く響き渡った。その声は陽気で可愛らしい女性の声であった。そしてそれもカリストロスには、どうにもすごく聞き覚えがあった。声のした方を向くと、そこには女神っぽい格好をした十代前半頃の少女がいた。


(はああッ――!!!!????)


 とにかくそんな訳の分からなさ過ぎる様子が展開されたことで、カリストロスがあまりの混乱から目を瞠っていると、


「これはこれは久しぶりじゃのう、カリストロス。いいや、奈浪信二。そして見てみるがよい。ここに集まったのは全員、等しくお前によって無惨に殺されてしまった者達じゃ」


 司会役を務める神っぽい老人はカリストロスの方を向くと、あからさまに厭らしい笑みを浮かべながら群衆を差した。


「彼らは漏れなく、貴方につよーい恨みを抱いていますからねえ。つまりは復讐したくてしたくて仕方がないんですよう。……ですので! 本大会はそんな可哀想な彼らに気が済むまで思う存分、憂さ晴らしをさせてあげようという、実にハートフルで素晴らしいイベントなのです!」


 続けて、もう一人の司会役である女神っぽい少女もまた、清々しいくらい悪意に満ちた笑みを湛えながらカリストロスへ話しかける。


「ちょっ、何だそりゃ!? 意味分かんねえよ!」


「そっかあ、意味分かんないかあ。君、性格だけでなく頭も悪いもんねえ。まあ、分かんなくても結構じゃけどねえ」


「とりあえず、お集まりの皆様! あちらにご注目下さい!」


 神っぽい老人が小馬鹿にするように話した中、女神っぽい少女は群衆の方へ向けて言いながら、大げさな身振りである方向を指差す。


 すると彼女の差した場所にて新たにスポットライトが灯り、そこにはとんでもなく広いシートで覆われた、とてつもなく大きな何かが置かれているのが示された。そして直ちにシートがバサッと剥がされると、その中には――何百何千といった数と種類の夥しい銃火器が用意された巨大武器庫コンテナハウスの存在が露わになった。


「なあ……ッ!?」


「ご覧ください! 本大会では非常に様々な銃火器を大量にご用意しております! これよりお好きな武器を手に取られて、こちらの性悪ニート転移者を撃って撃って撃ちまくっちゃってくださーい」


 あまりに物騒すぎるものを差しながら可愛らしい笑顔と声で告げた少女の言葉に、その場に集った者達全員が再び騒々しい歓声を轟かせる。


「おいおいおいおい! 何だよアレ!」


「何って、お主のだーいちゅきな銃器じゃけども。見て判らんかな?」


「違えよ! そんな事訊いてんじゃねえんだよ、俺は!」


 完全に素の口調と態度になって慌てふためいたカリストロスは、必死にその場より逃れようと全力で藻掻く。だが、どんなに体へ力を込めても、全身を縛り付けている拘束はほんの少しも緩みはしなかった。


「くそッ、外れない……!」


「はいはい、暴れたって無駄ですよー。それじゃあ皆様、前以てお渡しした整理券の番号順に並んでくださーい。時間も武器も弾薬も幾らだってありますので、焦らなくていいですからねー」


 少女がそう言うと、群衆たちは待ってましたとばかりにゾロゾロと動き出す。それからしばらくして、彼らは信じられないくらいに規則正しく並んでは、見渡す限り何処までも長い行列を作った。


「はーい。皆様、とっても綺麗に並んでくださってありがとうございまーす。それでは記念すべき、一番目の方は――グランジルバニアの王国騎士団長さんでーす!」


 諸々の準備が整った後、司会の少女に案内され、カリストロスの前に三十代半ば頃の厳つい体格をした男がやってくる。その人物とは、カリストロスが異世界転移してきた初日に攻め落とした、グランジルバニアがブラムド城にて殺害した王国騎士団長その人であった。


「……またあえて嬉しいぞ、邪悪な魔人め。これより我が無念、たっぷりと晴らさせてもらうからな」


(は? 誰だ、このオッサン。俺、こんなヤツ殺したっけか?)


 精悍だった顔つきは、今や幽鬼の如き憎しみに溢れたものとなった王国騎士団長を前に、カリストロスは全く覚えがないと言わんばかりの怪訝な目を向ける。


 それが更に腹立たしいとばかりに王国騎士団長は目を細めた後、右手に握っていた拳銃を掲げてみせた。それはジェリコ941という、ベビーイーグルの通称を持つ自動拳銃であった。


「私は生前、この武器によって殺された。……これを指で引けばよいのだな?」


「そうですよー。因みに弾は全自動でリロードされていくらでも連射できますから、好きなだけ撃ちまくってくださいねー。――あ、違う銃器も試したくなられましたら、どんどん変えてもらってオーケーですよー」


「承知した。では早速、これから使わせてもらうとしよう」


 少女からの説明に頷いた王国騎士団長は、いよいよと前へ進み出ると、磔状態のカリストロスに向けて拳銃を握った右腕を伸ばす。


「ちょっ、待て待て待――」


 ぱんっ。


「がッ……!」


 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。


「ぐああッ!」


 カリストロスからの制止の声など聴く耳を持つ訳もなく、王国騎士団長は無言で無慈悲に引き金を引いては、カリストロスの胸や腹を撃って穴を穿っていった。


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