罪を重ねし異世界で被る罰の話⑪
「……は?」
そんな言葉を耳にした途端、盛大に嘲弄していたカリストロスの笑みと嗤い声が咄嗟に引っ込み、代わって混乱と動揺を示す強張った表情に切り替わる。
「今、何と言った……?」
カリストロスが慌てて目元から手を退けては前を見ると、なんと視界の先には、何故か聖騎士レフィリアが立っていた。しかもその手には既に得物の光剣が握られ、いつでもすぐ斬りかかって来られる状態でいる。
(……ッ!? 聖騎士レフィリア! 何でアイツが今ここに……!? ていうか、この場所って……!)
突然のレフィリアの登場に慌てると同時に、カリストロスは視界に映った周りの景色もまた変化している事に気づく。先程まで戦場と化した市街地内だったというのに、今はどういった訳か、洞窟を利用した居住施設と思しき場所の中にいた。
つまりは、カリストロスがレフィリアと初めて出会った、傭兵団のアジト内と全く同じ光景なのである。それどころか、お互いの構えや位置取りすら以前と殆ど同じであった。更に言えば、ついさっきまで傍にいた筈であるロズェリエの存在がどうした事か、何処にもいなくなってしまっていた。
そのような事態に訳が判らないとカリストロスが狼狽えていると、対峙していたレフィリアがこれより飛び掛かってこようと予備動作を見せる。
(いけない……ッ!)
それに対し、カリストロスは既に呼び出していたGAU-8を反射的に発砲。だが、実際に弾丸が吐き出される前に、接近してきたレフィリアはGAU-8の砲身を光剣で両断してしまった。
「くそッ――!」
(馬鹿か、俺は! 何でアヴェンジャーを撃った!? この後、どうなるのかを俺は知っている筈――)
そうカリストロスは悪態をつきながらも、これまた以前と同じような動きで反射的に後方へ飛び退く。それから、GAU-8を叩き斬っての着地後、続けて光剣を振るったレフィリアの刃を躱しきれず、カリストロスは前回と同じように肩口を切られた。
「ぐッ……!」
「――痛いですか? 少しは人の痛みが解りましたか?」
「お前……ッ!」
切創を負った肩を押さえてレフィリアを睨みつつ、カリストロスはふと、次の展開を脳裏に思いだしては、この後の事を考える。
(……ッ! とにかく、ここは撤退だ! 訳の分からん状況だが、考えるのは後! せめて前と同じようにすれば、逃げ切る事は出来る筈……!)
そのように判断したカリストロスは、前にやった時と同じように、複数のパンツァーファウスト3を全て上に砲口を向けた状態で出現させた。
「何を――」
続けて一斉射したロケット弾は天井へと命中し、爆裂しては狙い通りに崩落を引き起こす。
「なッ――?!」
その光景にレフィリアが驚く中、今回のカリストロスは捨て台詞を吐くことなく、降り注ぐ瓦礫や岩の中に紛れる形で、レフィリアの前から逃走していった。やはりこれも前回同様、レフィリアが続けてカリストロスを追撃してくることはなかった。
「はあ、はあ……くそッ! 一体、何がどうなっている……!」
全力疾走で一目散に洞窟内の通路を駆け抜けたカリストロスは、大して時間を掛けることなく外への出口を見つけると、そこから飛び出すように脱出した。屋外にさえ出てしまえば、あとはアパッチでも何でも呼び出して空へと飛び去ってしまえばいい。この意味不明な状況について、色々と考えるのはそれからでも――
「こんにちは、“裏切り者”のカリストロスさーん」
すると、外に出て視界が一気に明るくなった途端、出会い頭に正面から別の聞き覚えがある声が聴こえてきては、同時に見知った顔の人物の姿がカリストロスの目に飛び込んできた。その相手とは、
「――ッ?! シャンマリー!」
であった。メイド服を着た金髪眼鏡の少女が、いつもの微笑み顔にて彼を名指しで出迎えてくれた――否、待ち構えていたのである。
(何で、シャンマリーがここに……!? ていうか、この悪寒は――!)
シャンマリーの顔を見て動揺を露わにしたカリストロスであったが、その直後、唐突に背筋へ寒気が走ったことで、彼は反射的に横へと飛び退く。
途端、カリストロスの背後からブーメランのような軌道で独りでに日本刀が飛んできては、コンマ一秒前まで彼がいた場所を一瞬で通り過ぎていった。カリストロスが先に勘付いて回避行動を取っていなければ、それこそバッサリと体を見事に両断されていたことだろう。
「がッ……!」
だが、それでも完全に避けきれた訳ではなく、二の腕辺りに傷を負って血飛沫を散らしながら、カリストロスは飛び込んだ先へと転げていく。
「おー、今のに反応したのは凄いですねえ。尤も、そっちの方向は――」
カリストロスを真後ろから襲った日本刀を華麗にキャッチしたシャンマリーは、特に悔しがることもなく、直撃を凌いでみせた彼を目で追っていく。
一方、カリストロスは緊急回避からすぐに起き上がって体勢を立て直そうとしたのであるが、その前に遠くから何か黒くて細長いものが飛んできては、彼の左腕へと巻き付いた。それは、鎖のように並んだ刃を影化させた鞭状の剣であった。
「なッ……!? うおおおおおッ!!」
そんな見覚えのある武器に腕を絡めとられたことを認識したのも束の間、カリストロスは勢いよく引っ張り上げられたかと思うと、それから今度はなす術もなくぶん回されまくる。
(蛇腹剣は、メルティカの武器……! まさかシャンマリーだけじゃなく、アイツまでこの場にいるってのか――!?)
逃れることなど出来ないままに振り回された後、カリストロスは上空へと放り投げられ、続けて地面へと叩きつけられるかのように振り下ろされたのであるが、
(――――ッ?!!)
その先には、大鎌を持ったワインレッドの髪の少女がいた。そしてその少女は、自分のところへ飛ばされてきた男に対して軽々と鎌を一閃し、鎖剣に繋がったカリストロスの腕を肩の付け根から切断した。
「があ゛ああああッ!!」
片腕を断たれたカリストロスはスプリンクラーのように血を撒き散らしながら、勢いよく地面を転げ回って絶叫を上げる。
「やっほう、“裏切り者”のカリカリ君! 聴き応えのある素敵な悲鳴をどうもありがとう。本当は胴を縦にも横にも真っ二つできたけど、まずは腕の一本で勘弁してあげるねー」
そんな彼の傍に、大鎌を肩に預けながら悪魔の少女、エリジェーヌがニヤニヤした顔で近づいてきた。
「え、エリジェーヌ……!」
彼女に見降ろされ、カリストロスは困惑した表情で自分の腕を叩き斬った者を伏したまま見上げる。
「お久しぶりです。“裏切り者”のカリストロス。本日は私達の女子会に貴方をゲストとして誘ってあげに来ました。内容は貴方の拷問処刑大会ですけど」
その後、エリジェーヌのいる立ち位置の反対側から、黒いドレスに紫の甲冑、それから鎖状の剣を手にした騎士の少女、メルティカもまた姿を見せた。




