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男の正体と異世界で挑む者の話③

「スレイア……ッ!?」


「全く、転移とばされた先でその場から動かず立ち話だなんて、貴方がたもまた随分と呑気ですねえ」


 わざとらしく小馬鹿にするような口調で言いながら、相変わらず緊張感の欠片も無い雰囲気で肩を竦めてみせるスレイア。


 しかしそんな彼の登場に、レフィリアたちはすぐさま臨戦態勢になると同時に周囲へと警戒の目を向けた。今のところ姿を現したのは彼だけだが、何も追手がスレイアのみとは限らない。


「――ああ、追って来たのは私一人だけですので、その辺りはご安心を。他の皆様方には“転移先はランダムなので、聖騎士様御一行が飛んで行った場所は分かりません”と言っておきました」


 キョロキョロと周りの気配を伺っていたレフィリアたちへそのような事を軽々しく告げたスレイアの言葉に、一行はどういうつもりかと意味が判らず、つい目を顰めてしまう。


「ですので余計な邪魔は入りませんよ。いやあ、我ながら私って気が利きますねえ」


「よく言いますね……というか貴方、生きていたんですか? 私たちを欺いて、陰でほくそ笑んでいたんですか?」


 静かだが冷たく言い放つレフィリアに対し、スレイアは軽薄に両手をヒラヒラとさせてはいつもの胡散臭い笑みで受け答える。


「まあまあ、そう怒らないで下さいよ。アレはちょっとした演出というか、いわゆる茶目っ気みたいなものです。私を思いの外、犠牲も無しに手早く倒せたと思って少しの間は気が楽だったでしょう?」


「……ッ! 馬鹿にしてくれて……!」


「それはそうと……わざわざ味方に嘘をついてまで貴方がたを追跡しにきたお陰で、これはまた面白い方々に出会えましたね」


 するとスレイアはレフィリアから目線を外し、今度はカリストロスとロズェリエの方を見てきた。勿論、余裕に満ちた厭らしい笑みは絶やさずに。


 その嘲笑うような視線を受けて、ロズェリエが建物の屋根から見下ろしてくる黒衣の男へ不快そうな態度も隠さず応対する。


「何ですか、貴方は? 話を聞くところ、どうやら魔王軍の手の者のようですが?」


「ええ、その通りです、レディ。私は魔王陛下よりこの地へ新たに招かれた魔王軍幹部の六魔将が一人、その名を“緋劔のスレイア”と申します。以後、お見知り置きを」


「新たな六魔将、だと……?」


 恭しく礼をして述べるスレイアの発した言葉に、カリストロスが怪訝そうな目つきになってボソリと呟く。


「そして貴方がた二人のことも勿論存じておりますよ。魔王陛下の御息女であるロズェリエ様と、それから隣にいるのは――元六魔将である反逆者、鐡火のカリストロス殿で御座いますね?」


「…………」


 如何にも演技臭い笑みからねっとりとした口調で喋るスレイアに、カリストロスは珍しくすぐには言葉を返さず、ただ訝しむように頭上から語り掛けて来る男をジッと見つめる。


「しかし不思議です。確かカリストロス殿はメルティカ殿から、いつ何処にいても、その居場所を感知されてしまうと聞いています。ですがここ最近、メルティカ殿は貴方の気配を一切感じ取れなくなったと言う。なので無様に野垂れ死んだ説も俄かに囁かれていたのですが――」


 そこでスレイアは笑みを少し引っ込めると、実に興味深そうにカリストロスの顔を覗きこんできた。


「何でこんな、デモンニグルから最寄りの街に平然といらっしゃるんですかねえ?」


「――ふっ」


 そこまで聞いて、カリストロスは口元を歪ませながら不敵に鼻を鳴らしてみせた。


「そうですか。やはり、あのドラゴン女の監視の目は誤魔化しきれていたみたいですね」


「おや、その口振りだと何かしらの偽装工作でも講じていたのですか?」


「別にそう大したものじゃありませんよ。たまたま拾った落し物が思いの外、私の役に立ってくれたというだけです」


 そう言って、カリストロスは軍服のポケットから何やら装飾品アクセサリーの類らしきものを取り出しては掲げてみせる。


 それはネックレス状に紐で繋がれた青い宝石のチャームで、パッとした見た目は某国民的アニメ映画に登場しそうな、滅びの呪文でも唱えられそうな石のペンダントによく似ていた。


 ただし深い青色をした大粒の宝石には王家の紋章なんかではなく、内部に生き物の眼球をそのまま封じたかのような気味の悪い意匠が施されている。


「んん? 何だ、ありゃあ……?」


 するとトレジャーハンターとして何か感じるものがあったのか、ハンターはふと見定めの透視鏡レンズを手にしては、カリストロスの持っているアイテムを覗き込み鑑定を行った。


「ええと、何々……? 名称は《晦ましの青眼石ナザール》……装備効果は、持ち主を外部から一切探知されなくする、か。ついでに遠見だけじゃなく邪視や呪眼避けの防護機能までついてんな」


 ――そう。カリストロスがエスパーニャで侵入した地下施設のおいて偶然見つけたそのアイテムは、所有者に対してあらゆる遠隔探知手段を無効化する個人携帯用の護符アミュレットであったのだ。


 紛れもなく超古代テクノロジーの産物であるそれは、国を跨いでも特定対象の気配を探る事の出来るメルティカの感知能力すら凌いでみせたようで、如何に破格の性能を有した物品であるかが見て取れる。


「あのチャーム、魔除け装備としては控えめに言っても最上級の代物ですね。私の持つ護符タリスマンと一緒できっと遺物アーティファクトの一種なんだと思います」


 魔審眼で凡その対魔法機能を読み取った賢者妹がそう口にし、ハンターが肯定しては頷く。


「ああ、全くその通りだぜ、嬢ちゃん。アレは間違いなく超古代に作られた装備品だ」


「まさかカリストロスのヤツも遺跡に潜って、遺物アーティファクトの探索を行っていたというのか……!?」


 ルヴィスがそんな推測を口にした直後、スレイアは納得したような表情で頷きながらカリストロスを見下ろし語り掛ける。


「ふうむ、いにしえの魔道具による攪乱だった訳ですか。なるほど、なるほど。これはメルティカ殿もせっかくの優位性アドバンテージが失われてしまいましたねえ」


 私にとってはどうでもいい事ですが、と言わんばかりな口調で答えたところでスレイアは気持ちの悪い笑みをそのままに、ふと人差し指を立てる。


「ところで……一応、説明しておきますと私はそこの聖騎士レフィリアと、そして貴方――反逆者カリストロスの抹殺の為に魔王陛下からこの世界へ遣わされました」


「……それで?」


「ですので本来ならば、私は直ちにこの場で貴方がた二人を処さなければならない。なのですが――」


 そこでスレイアはなんとも白々しい所作で更に口元だけを邪にニヤつかせる。


「ここだけの話、それだと私は困ってしまうのです。というよりは詰まらない。一気に仕事を終わらせてしまうのではなく、もう少しくらい楽しみはゆっくり味わっていたいのです」


「何ですか、それは? そんなの、魔王軍にとってはただの命令不履行ではありませんか?」


 呆れたように話すロズェリエにスレイアは御尤ごもっともと頷きを返す。


「ええ、確かにそうなりますが、どうか貴女はご安心を、ロズェリエ様。貴女が変に抵抗せず大人しくしている分には私も危害を加えたりしませんので」


 その時に一瞬だけ垣間見せたスレイアの悍ましい気配に、ロズェリエは思わず身震いするような背筋の寒さを感じ取って息を呑んでしまう。


 この唐突に現れた怪しすぎる男との会話は、とにかく慎重にならなければならない、と嫌でも思い知らされてしまう。


「で、何が言いたいかといいますと……私は聖騎士と反逆者のうち、どちらか一方はあえて見逃してしまおうかと考えているのです。今日、仕留めるのは片方の獲物だけでいい」


「何……?」


「そしてそれをどう決めるかというと……そうですねえ、とりあえず命乞いでもしていただきましょうか。より私の心に響くような、無様でみっともない助命嘆願プレゼンが出来た方を生かして差し上げますよ?」


 厭らしくそう告げるスレイアの言葉を受け、サフィアが今にも斬りかかりそうな険しい表情になっては憤りを口にした。


「何ですか、あの男は……! 驕り高ぶっているにも程があります!」


「馬鹿馬鹿しいですね。今更貴方から逃げるつもりなんてありませんし、そもそも貴方の発言は信用なりませんので背を向けようとも思いません」


 きっぱりと反意を込めて返答したレフィリアの反応に、わざとらしく憐れむような態度でスレイアは肩を竦める。


「おやおや、どうやら聖騎士レフィリアはこの場で死にたがっているご様子。であれば反逆者カリストロス、貴方は少しでも頭を下げることで、この場から生き延びることが出来ますよ? 如何いかが致しますか?」


「――ふん、しょうもない事を聞くもんじゃあないですよ」


 くだらないとでも言いたげに吐き捨てたところで、カリストロスは汚らわしいものでも見るかのような軽蔑した眼差しでスレイアを睨む。


「というかまずその、初対面のていで話しかけてくるのがすこぶる気持ち悪い」


「ん……? おかしいですねえ、私は貴方と顔を合わせるのは初めての筈ですが――」


「んな訳あるか、クソジジイ。テメエは騙せてる気でいるんだろうが、俺にはハッキリ判るんだよ」


 そこでカリストロスは急に素の口調へ戻ったかと思うと、明確な殺気を見せては視界の先の男へと凄んだ。


「何せ最初にお前を目にした時点で、お前に刺された傷が疼きまくるんだからなあッ!」

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