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勇者剣士と異世界の大魔王の話⑤

 魔王が啖呵を切ったかのように吠えた直後、それを合図とばかりに四方八方から多種多様な魔法攻撃が撃ち放たれ、闘技場内にてルヴィスと魔王の戦闘が再開される。


「ねえ、どうしよう! このままだといくらルヴィスでも消耗してジリ貧になっちゃうよ!?」


 闘技場から稲妻や爆発による轟音が連続的に響いてくる中、慌てた表情でジェドが仲間達の方を向いて尋ねた。


「この決闘はもう破綻しているも同然だ。魔王の再生能力に底があるのかは知らねえが、何にせよ加勢に行ってやらねえと拙いんじゃねえか!?」


「ですけど、サフィアさんの捕らわれたクリスタルは未だメルティカの手の中にあります! アレをそのままに私たちが飛び出して行っても、それこそ敵の思うツボですよ!」


「ああもう、分かってるんだよ! そんな事は……くそっ!」


 賢者妹に制止され、ハンターもまたそれを忘れず理解しているからこそ苛立たし気に歯噛みして手摺を殴りつける。


「そうですわね……せめて、あのクリスタルをどうにかして確保できればいいのですけど……」


他人ひとの持ち物を奪い取る……そういえば、離れた相手の手から所有物を盗む、手品みたいな魔法ってありませんでしたっけ? ええっと、なんて名前だったか……」


 唐突にそのようなことを思い出して口にしたレフィリアに、ハンターが彼女の方を向くと横から答えを言った。


「それって、スティールトリックのことか? あー……、確かにアレなら多少距離があっても、アイテムや装備品なんかを奪えるっちゃ奪えるんだが――」


「いいや、正直言って現実的じゃないよ。あの魔法って成功率かなり悪いし、よりによって対象が六魔将だから絶対に上手く決まらない。そうじゃなくても目標指定ターゲッティングしただけで、すぐに勘づかれて終わりだと思う」


 確実に失敗すると、残酷ながら絶対の事実として告げるが如く冷淡に応えるジェドの言葉に、それを肯定するように賢者妹も口を挟んだ。


「それに邪導のゲドウィンが傍にいる時点で、こちらが向こう側へ何か魔法を仕掛けても術式そのものをディスペルされかねません。下手に魔法を用いた手段を使うのは、悪手でしかないかと……」


 とにかく無理なものは無理と理解せざるを得なかったレフィリアは、どうにかならないものかとため息を漏らしながら思考を巡らせる。


「うーん……せめて私がサフィアさんと同じように“サモンアライズ”が使えればいいんですけど……」


「あっ、それってサフィアさんがレフィリアさんを何処からでもすぐに転移させられる術技ですよね? アレなら詠唱も目標指定ターゲッティングも必要ないので、まだどうにかなりそうですけど……」


「でも、あの術ってサフィアがレフィリアの召喚者だから扱える能力でしょ? 召喚された側が召喚主を逆に呼び出す魔法なんて聞いたことが無いし、そもそもレフィリアって魔法使えないじゃん」


「そうなんですよね……出来ないもの強請ねだりをしてもしょうがないか――」


「いえ。もしかしたら、どうにかなるかもしれませんわ」


 考え込むような表情で突然そう言ったコメットに、仲間達の視線が一斉に集まった。


「えっ……? どういう事ですか!?」


「何か良いアイデアでも、あんのかよ?」


「アイデアって程、大したものではありません。殆ど確率の低い博打みたいなものですが、それでも何もしないよりは良いかと思いまして」


「こんな状況なんだから何でもいいって! で、一体何を考えてるのさ!?」


 するとコメットはレフィリアの正面へ立って、すぐ傍にて人差し指を立てながら彼女を見つめた。


「レフィリアさん。ちょっと質問しますけど今、サフィアさんから手渡されたり受け取ったりしたような物って持っていたりしませんか?」


「えっ、サフィアさんから……?」


 いきなりの思いも寄らぬ問いかけに一、二秒ほど沈黙した後、レフィリアは急に思い出したかのようにして、片手の籠手ガントレットを外しつつ腕の裾を捲ってみせる。


「あ、あります! 少し前にサフィアさんからプレゼントしてもらったブレスレットですけど……!」


 そう述べた彼女の手首には、銀のブレスレットチェーンに小さな運命石スターサファイアが嵌め込まれたチャームの細やかな装身具が巻かれていた。


 これは実用的な装備品でも高価なマジックアイテムという訳でもなく、あくまでちょっとした運気向上を謳った、殆どお洒落用のアクセサリー。


 それでも過去にサフィアから何気ない親愛の証として貰ったその品は、レフィリアにとって大切な持ち物の一つであった。


「なるほど、贈り物というのであれば条件としては、より好ましいですわ」


「……あの、コメットさん。まさかとは思いますけど……」


 コメットがレフィリアのブレスレットを確認しているところで、何かを察したように賢者妹がおそるおそる横から割って入ってくる。


「もしかして、サフィアさんの逆召喚とか考えてます?」


「ええ、その通りですわ」


 淡白なくらいに、きっぱりと言い切ったコメットの言葉に仲間達全員が――特に魔法職組である賢者妹とコメットが、その回答へ大きく驚きを示した。


「いやいやいや! 被召喚者からの逆召喚なんて、スティールトリック成功させるより有り得ないって! ていうか、まず無理だって!」


「そうですよ! 確かにレフィリアさんとサフィアさんは召喚した者とされた者の関係で、魔力以外に魂のパスも繋がってるんでしょうけど……それは川の流れと同じで本来、不可逆なものです。召喚者が呼び出した存在に影響を受けることはあっても、遡られることは――」


「それはあくまで“本来なら”の話ですわ。今回は私がちょっとした“裏技”を使って、色々と誤魔化しつつ何とかしてみます。……まあ、それでも成功するかは厳しい博打になってしまうのですけど」


「裏技ぁ……?!」


「――それで、結局何をどうするのですか?」


 コメットの全く動じない物言いに、賢者妹とコメットはどうにも意味が解らないと眉を顰める中、レフィリアは真っ直ぐ彼女を見つめ返しながら要点を問いただした。


「レフィリアさんがサフィアさんから頂いたというそのブレスレットには、サフィアさんとの“縁”がありますわ。故にそれを逆触媒として利用し、レフィリアさんによるサフィアさんの逆召喚を試みます」


「あのっ、その理屈は解るんですよ! レフィリアさんとサフィアさんのパスを通路にして、そのブレスレットを転送先の基点アンカーにしたいってことはですね……! だけど――」


「実際に、サフィアさんを牽引する為の術式ロープがない。彼女をこちら側へ強制転送するには、動力に用いる魔力源だけでなく、目標を引っ張って来るのに使う“腕”が必要。しかしその術式どうぐは無く、あったところでレフィリアさんは能力制限により魔法を扱う事が出来ない」


 賢者妹が指摘したかった問題点の全てをコメットが自ら告げたことにより、魔法職組の二人は思わず言葉を失ってしまった。


 魔法に疎いレフィリアには細かい内容こそ解らなかったものの、通常ではまず不可能な手段であるということだけはニュアンスで感じ取る事が出来た。


 それから少しだけ黙ったところで、賢者妹が再び口を開く。


「……そこまで分かっていらっしゃるならどうして……」


「――と、“本来なら”無理でしかないものをどうにかするのに、あの厄病女神がくれたコチラを用いますわ」


 そう言ったコメットは、レフィリアが身に着けている純白のマントを手に取ってみせた。


「このマントをですか? もしかして……」


「その口振りですと、レフィリアさんはこのマントの本当の使い道を理解しているみたいですわね? ――そう、これはメレシュタリカの神具によって生み出された、膨大にして極上な魔力の高密度結晶体……ですので、これを構成している魔力を使うだけ使って、レフィリアさんのブレスレットを疑似的な神具に仕立て上げます」


「疑似的な、神具……!?」


 皆が驚いたところで、コメットは頷きながらレフィリアのブレスレットチャームを指差した。


「各々の役割としてはこうです。レフィリアさんがマントに編まれている魔力を紐解き、それを用いて私がこのブレスレットに加工を施しますわ。そして賢者妹あなたには、精霊などを召喚する際に使用する陣を同じタイミングで展開してもらいたいのです」


「つまり、レフィリアさんが直接魔法を行使せずともサフィアさんを引っ張って来れる術式を装備に刻んで、魔法的要素が必要な部分は私が代行する……ってことですか?」


「その通り、流石はその歳で賢者の称号を持つだけありますわね。因みに今更前提的な話になりますけど、召喚魔法の方は修得しておられますわよね?」


「勿論、これでも賢者ですから! 道具なんて使わずとも、汎用的な召喚陣くらいすぐに刻んでみせますとも!」


 自信を持って応えた賢者妹にコメットが微笑みを返したところで、一通り方針が定まってきたと判断したハンターが腕を組みながら会話に加わってきた。


「あー……、正直細かい部分はよく解らんかったが要するに、どうにか出来るかもしれねえ算段はついたって事でいいんだな?」


「はい、とはいっても手順自体はいたって単純なものですわ。レフィリアさんが解放した魔力で私が神具を構築した後、賢者妹かのじょが展開する召喚陣へレフィリアさんは手を伸ばせばいい。……ですがレフィリアさん、そこからサフィアさんをこちらに引っ張って来れるかどうかは、その後の貴方次第となりますわ」


「……分かっています。サモンアライズでサフィアさんに呼び出される時の、あの感覚は知っているんです。今度はそれを、私がやってみせなければ……! 私が、サフィアさんの存在を感じ取って、それを私の手で引っ張り上げる……!」


「そこまで理解されているのならば、私から特に言う事はありませんわ。何にせよレフィリアさんは理屈ではなく、とにかく自分の感覚を信用してください」


 コメットから告げられ、レフィリアは頷きながら自身の手首に巻かれたブレスレットを見つめる。


「プレッシャーを掛ける訳じゃありませんけど、チャンスは一度きり……とはいってもこれに関しては、何回も試してやるようなものでもありません。一回やって駄目なら何度繰り返しても意味はありませんし、逆に上手くいったなら一瞬で事が済む筈でしょう」


「だけどさ、まだ他にも問題はあるよ」


 すると真面目な表情で、ジェドが仲間たちに指摘を告げる。


「向こうにいる六魔将の連中、今の状況だと流石に僕たちが何かしてくるかもって警戒くらいはしてるんじゃない? こっちが何かゴソゴソやってたら、邪魔してくる可能性も十分ありえると思うけど?」


「ああ、それもそうですわね……神具の構築に儀式魔法のような大それた詠唱は要らないので、時間はそう掛からないのですけど……だとしても、数秒くらいは向こうの目が届かない状況が欲しいところですわ」


「特にゲドウィンに気づかれて、遠隔魔法妨害マジックジャマーなんてされたらどうしようも無いですよ」


「最悪、メルティカがあの手に持ったクリスタルを破壊しちまう可能性だってあり得るしな……」


「――あっ、それに関してなんですけど……」


 途端、急に手を上げたレフィリアに皆の視線が集まる。


「お、レフィリアの姉さん。何か妙案でも思いついたのか?」


「思いついたっていうか、感じ取ったというか……つまりは根拠の無い直感なんですけど……」


「あらら、ここに来て天啓が舞い降りたって感じ!? レフィリアの直感ってアテになるからねー、こと戦場においては特に!」


「いや、そこまで期待されるとちょっと逆に困っちゃうんですが……」


 気恥ずかしそうに頬を指で掻くレフィリアへジェドがにこやかに笑いかける。


「まあ、いいじゃんいいじゃん! 他に縋る物も無いんだしさ! ――それで、何を感じ取ったの?」


「ええと、上手く言葉にして説明できる気がしないので……とりあえず皆、いつでも動けるようにスタンバイだけしていて下さい」


 そう言うとレフィリアは一旦仲間達の傍から離れていき、観客席の手摺からその上へよじ登るっては、そこから思いきり身を乗り出し始めた。

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