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魔族の王と異世界で対面する話①

 レフィリアが仲間たちと合流してから半日ほどの時間が経過した翌日の朝。


 その間に可能な限りの食事と睡眠、傷や魔力の回復、それから心身の整理を済ませた一行は、遂に魔王軍の拠点である空中要塞、デモンニグルへと出発した。


 ルヴィス、ハンター、レフィリアと賢者妹、ジェドとコメットのそれぞれが乗った四機の機竜ヴィーヴルが、今日にいたって都合よく天候の落ち着いているナローノベル山の遥か上空を飛行していく。


 そしてデモンニグルの全体像がはっきり見渡せる位置まで接近したところで、一行はひとまず速度を緩めては滞空するように、目的地である敵拠点の様子を観察した。


「改めて近くで見ると、ものすごい城塞ですね……」


 ふと漏れ出たレフィリアの言葉に、やれやれといった様子でルヴィスは息をつく。


「ああ、ただ物々しいだけでなく、絢爛かつ精巧で美しさすら感じるのが返って癇に障る。魔族の城にしては随分とまた洒落ているものだ」


「真上から俯瞰してみると、何だか王冠みたいに見えてきますね。要塞の全周を覆う黄金の城壁に、宝石みたいな発光する何かが六つ……」


「このような大それた構造物を単独かつ短期間で築ける術者が、あの城にはいるのですわよね……私たちの時代の技術すら凌駕する魔導の使い手とは、恐ろしい相手もいるものです」


「ああもう! さっきからみんな、なんでそんなに敵の城を褒めまくってるのさ!」


 口々に皆が感想を呟く中、ジェドが呆れたように髪を荒っぽく掻きながら大声を上げて仲間達に叫んだ。


「そうだぜ、連中の威容に今から怖気づいちまってもしょうがねえよ。逆にあんな城、全部ぶっ壊しにいくくらいの気持ちで行くべきなんじゃねえのか!?」


 ハンターにも喝を入れられ、レフィリアはしっかりと頷いてみせる。


「そうですね。初めから死地に飛び込むと判っているのなら、せめて精一杯に強がらなければ」


「……ん? あれ、そういえば一箇所あそこ……何だかチカチカと城の近くで光っているものが見えますね?」


 急に何かへ気づいたように告げる賢者妹の言葉に、仲間達は一斉にその方向へ目を向けた。


「あら、本当ですわね……それになんだか、こちらに対して光を放っているように見えません?」


「もしかして、あそこに降りて来いって意味なんじゃあねえか?」


「誘導の合図までしてくれるとは律儀なことだ。確かに、あの広場の先には城への入口らしき大門も見える。……行ってみるか、レフィリア?」


「ええ、せっかくですから案内へ従ってみましょう。もし罠のつもりなら、とっくにこちらへ攻撃を仕掛けてきているでしょうし」


「そうだねえ、この要塞って外壁のところ砲門だらけだから、追い払いたいなら既にバンバカ撃ってきてる筈だよ」


「じゃあ、あの光っている地点へ向かいますけど一応皆さん、私からなるべく離れないようにしてください。いざという時には、セイントギフトの守りを展開しますので」


 そう言ったレフィリアの指示に従い、一行は無理に速度を上げずに編隊を保ったまま、纏まった状態で誘導灯らしきものが点滅している場所へと移動を開始した。


 もし万が一、何かのトラップが襲ってくるようであれば、レフィリアがすぐに自らの“ゴッドブレス”と同じ防御効果を味方全員へ付与する術技を使用して、即座に緊急離脱できるようにする為である。


 とはいっても、このデモンニグルには本来、付近の空域に寄り付いただけで対象を細切れにできる視えないレーザーバリアのような攻性障壁が迎撃用防護兵装として存在する。


 それが未だ起動していない時点でメルティカの言っていた通り、魔王軍側は現時点でレフィリアたちを攻撃する意思はないのだ。当然、レフィリアたちがその事について知る由など無いのであるが。


「――着陸しますよ!」


 レフィリアが言った後、すぐに全員が光信号にて誘導された地点へと降り立つ。そこは城の正門前に設けられた、非常に立派な造りの広場であった。


 その中にはレフィリアたちを案内する為の光を放っていたと思われる投光器のような魔導装置と、それを操作していたであろうスケルトンの兵士が数名、見受けられる。


 単なる骸骨兵にしてはかなり身なりの整った装備を着用した彼らは、レフィリアたちを認識すると襲いかかってきたりなどせずに、その場にてとても恭しくお辞儀をした。


「……一応は俺たちを客人として扱ってくれるみたいだな」


「ええ、今のところは……ですけど」


 機竜ヴィーヴルをカプセル化して仕舞い、抜刀まではせずとも、いつ襲撃されても対応できるよう剣の柄に手を掛けた状態でルヴィスはレフィリアに呟く。


「――これはこれは聖騎士レフィリア殿とお連れの皆様方、大変お待ちしておりました」


 すると、正門前にて何も無い空間から浮き出てくるかのように、突然二人の人影が現れては話しかけてきた。


「……ッ!?」


 急な声掛けにレフィリアたちは殺気だった表情で一斉にその方向を向く。そこにいたのは、とても魔族には見えない十代前半頃の端麗な少年少女であった。


 明らかに高級そうなゴスロリドレスとフォーマルスーツの、ともに気品漂う洒落た衣服に身を包んだ二人の姿は魔王城を目前に控えるこの場所において逆に異様でしかなく、その奇妙な雰囲気にレフィリアたちはただならぬものを感じて警戒する。


 今にも戦闘状態に踏み切りかねない空気に、顔がそっくりで双子と思しき少年少女は両手を広げ、戦う意思が無いことを示しながらやんわりとレフィリアたちに微笑んだ。


「おっと、皆様。そう興奮せずに落ち着いて下さい。私たちはただ、皆様を魔王陛下の座す謁見の間へお連れする為のしがない案内人に過ぎません」


「そんな怯えた野良猫のように身構えなくとも、我々は貴方がたへ危害を加えたりなどしませんよ。寛大で慈悲深き我らが王は、本来なら仇敵である貴方がたも来賓として扱われますので」


 礼儀正しい所作の中にも若干の棘と嘲りを感じつつ、そもそも仲間を攫って強制的に招待したのはそちらだろうが、と言い返したくはあったが――ここで単なる使いと問答してもしょうがないので、レフィリアは気丈な表情のまま二人へ受け答える。


「分かりました、お出迎えご苦労様です。でしたら、貴方がたの主のところへ案内をお願いします」


「承知いたしました。それでは城内へどうぞ」


 スーツを着た方の案内人がそう返すと、城の大きな正門が独りでにゆっくりと開いていく。


 レフィリアたちが知っている筈はないが以前、カリストロスの戦闘機が放った爆撃によって木っ端微塵に吹っ飛ばされた門扉や玄関は、正門広場も含めて一切の痕跡すら残らずきれいさっぱり修復されていた。


 そして一行が扉を抜けて入城すると、中には豪奢な様相のエントランスホールが広がっていた。


 それから全員が入ったことを確認したところでドレスを着た方の案内人が指を鳴らし、すぐ傍の床に直径3メートル程の光の魔法陣が出現する。


「城の中はとても広いので、転移魔法にて移動を行います。それではあの魔法陣の中へどうぞ」


「いえ、心遣いはありがたいですが、私たちは直接徒歩で向かいたいと思います」


 有無を言わせぬようなやや厳しめの口調でレフィリアはそう言い、その発言に案内人の二人は予想外とばかりに呆れと驚きが織り交ざったような顔を見せた。


「宜しいのですか? せっかく楽できるところを随分物好きと申しますか……もしや、罠の可能性があるのではと警戒されています?」


 当然だろう、と応えはせずともそのような目つきでレフィリアは黙ったまま返した。


 いくら現時点で危害を加えてくるつもりはないと言われても、立場的にその全てを丸っきり信用する訳にはいかない。


 それに、もしサフィアを救出して城から脱出するという結果になった場合、逃走経路の一つとして城の中のルートも出来る限り確認しておきたいのだ。


 とはいっても連れていく側からしてみれば、十数階建ての建物をエレベーターも使わず上まで昇ると同義の発言をされれば、それは正気かコイツと思いたくもなる。


「……まあ、いいでしょう。到着まで幾らかの手間はかかりますが、その分謁見の間の前で待っていただく時間は無くなりますし。では魔王陛下のところまでご案内しつつ、我らが素晴らしき城の内装を堪能していただきましょうか」


 レフィリアたちの意向に了承した少年少女は、つかつかとエントランスホールの奥へ進んでは長く大きな階段を上に進んでいく。


 それに遅れないようついていきながらレフィリア達は城内構造の確認としてチラチラと魔王城内の様子を見回していったが――とにかく何もかもが豪勢な造りに内心驚かざるを得なかった。


 ここまで贅を凝らした王城や宮殿は、この世界には存在しないのだろうと一目で想像できるくらいには。


 そしてしばらく歩いたところで一行は一際豪奢な大扉の前へと辿り着き、スーツの案内人にその場で一旦立ち止まるようにと指示される。


 きっとこの先が魔王の待つ謁見の間なのだと、仲間達全員が認識しては息を呑んだ。


 そんな矢先、案内人の一人が何かの魔導装置らしきものを操作してはそれに向かって話し出す。


「――エリジェーヌ様。聖騎士レフィリア御一行を謁見の間前までお連れいたしました」


「おっ、りょうかーい。ちょっと待ってねー……」


 装置の先からは何やら、エリジェーヌのものと思しき声が聞こえてきた。彼らの使っているそれは、おそらく通信機のようなものなのだろう。


「……オッケー。こっちは準備出来てるから、そのまま通しちゃって大丈夫だよー」


「承知いたしました」


 これから魔族の王と対面するとはとても思えないような、相変わらず軽薄な口調で話すエリジェーヌの返事が聞こえた後、装置を切った案内人がレフィリアたちの方へ向き直る。


「それではこれより、謁見の間への扉を開きます。くれぐれも失礼のないように」


 案内人がそう言うと目の前の大扉が誰の手も借りることなく、城の正門と同じように自動で開いていった。


 そして扉が開ききったところで、広い室内の奥に数人の見知った顔ぶれと、その中央にて玉座に座った、如何にも偉そうな何者かの姿が覗く。


「――じゃあ皆さん、行きましょうか」


 仲間たちを見回しながらレフィリアが静かに言い、それに全員が一斉に頷く。そしてレフィリアを先頭に、一同は謁見の間へと入室していった。

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