罠と急襲と異世界の魔の手の話⑫
「よし。とりあえず敵要塞、デモンニグルに突入するのは確定として……当然俺はレフィリアに同行するぞ。たとえ邪魔だと嫌がられてもな」
それを耳にし、賢者妹も慌ててレフィリアの方を向く。
「私だって……! レフィリアさんには何処までだってお供すると、心に誓っているんですから!」
「だったら俺ちゃんだって同じだぜ。こちとら姉さんに雇われてるっつーか、それ以上に心を奪われている身だからな。どんな戦場だろうと手伝わせてもらうぜ」
「あー、僕も置いてったりなんかしないでよね。もう少ししたら体調バッチリになるからさ、肝心なところで留守番なんてもうゴメンだし」
ハンターとジェドも続いてレフィリアへの同行に対する自身の決心を口にする。
しかしそれに対し、ルヴィスは少し納得なさげな顔をしながら二人の方を見た。
「いや……差し出がましいのは承知で意見するが、二人はあえて敵拠点に乗り込まない方がいいんじゃないか? 何も全員で無理して向かう必要もないと考えるが」
その発言に、二人はこれ見よがしに苛ついた表情で返答した。
「はあ? 何言ってんだ、ルヴィス。俺ちゃんたちは一度負傷したから足手纏いってか?」
「戦力外通告するっていくらルヴィスでも酷くない? 正直、心外っていうかそもそも足引っ張るなんて言いだしたら、単純な戦闘力だけでみれば誰もレフィリアの足元にさえ及ばないじゃん」
そんな非難の声を受けるも、それは予想していたとばかりにルヴィスは応える。
「だが、どんなにコメットの回復魔法の技術が優れていようと、蘇生後は反動でしばらく十全な実力が発揮できなくなるだろう。二人には俺たちとあえて別行動をとってもらい、エーデルランドにデモンニグルの所在を伝えに行ってもらう、という作戦も今なら出来る」
「おいおい、自分が逆の立場なら絶対にやりたがらない事を人にさせようとするんじゃねえよ。ぶん殴るぞ、ボケ」
「同感ー! ていうか、蘇生後の後遺症なんて余計なお世話だし、心配無用だっての! ――それにさッ!」
そこでジェドはビシッと真正面からルヴィスを指差した。
「僕は世界連合軍を乗せた戦艦をここに連れて来るより、サフィアを奪還してレフィリアを何としてでも生かす方に全力を注いだ方が、絶対魔王軍への勝利に繋がる気がする!」
「ジェド……」
「別にレフィリアに頼りきりになるつもりはないけど……僕らの役割って、如何にレフィリアが万全の状態で戦えるかサポートして上げる事なんじゃないの? 確かに敵味方とも力の差が歴然すぎて僕らにやれる事はたかが知れてるんだろうけど……やるべき事を吐き違えちゃ駄目だと思う!」
ジェドから怒涛の如く言い返され、それを傍で聞いていたレフィリアもまた静かに意見を口にした。
「――私も、二人がそれだけの強い思いでついてきてくれるのなら、止めたりなんてする気はありません」
「レフィリア……」
「あの、ルヴィスさん……」
するとここに来て、賢者妹が少し言い辛そうにしながらも、覚悟を決めたように口を挟んできた。
「どの道、敵から私たちの存在を捕捉されてしまった以上、この国自体が既に死地同然だと思います。今から下手に部隊を分けるよりは、いっそ全員で一塊に行動した方が逆に安全だったりするかもと思うのですが……」
そこまで仲間達の話を聞いたところで、ルヴィスは観念したように大きく息をついた。
「……すまん。どんな理屈を捏ねても結局はついていきたいだけの俺が、自分を棚に上げて偉そうに言える事じゃなかったな……」
「全くだぜ、もちっと考えて発言してくれ。勇者兄さんよ」
「そーそー。自分ばっか抜け駆けなんて許さないんだからね」
分かった分かった、とばかりにルヴィスは未だ機嫌の悪そうな二人へ両手を上げた。
「本当に悪かった、この放言は後で償うからこれ以上は勘弁してほしい」
「おっ、言ったな? よーし、この戦いが一段落ついたら覚悟してろよ? この野郎」
「こりゃあ、ますます死ねなくなったねー。ふっふー、ルヴィスに何をしてもらうか、楽しみに考えさせてもらおうかなー」
意地悪な視線を向けて来る二人にルヴィスは困り顔で後頭部を掻きつつ、それから表情を戻すと今度はコメットの方を向いた。
「それはそうと、今更だがコメットはいいのか? 君の技術や能力は俺たちとしても非常に助かるのだが、離脱したところで無理に引き留めは――」
「構いませんわ、お気になさらず。ここで怖気づいて逃げ出すようなら、初めから皆様に同行しようなどと考えたりはしません。それに――」
するとコメットは自信満々な様子で人差し指を立てた。
「私、これでもそれなりに修羅場慣れしていましてよ?」
「そうか……これは失礼な事を聞いた。実に頼もしいこと、この上ない。これからも宜しく頼むぞ」
ルヴィスが微笑み、コメットもそれにしっかりと頷きを返す。そして話に纏まりが見えたところで、今度はレフィリアから話を切り出し始めた。
「――さて、全員で乗り込むことに決まったのはいいですけど……ただ招待されるがまま、敵地に飛び込んでもろくな事になる筈がありませんよね。せめて何か一つでも作戦なり打開策くらい用意しておきたいところですが……」
「んー、確かにそれが理想的ではあるが、サフィアの姉さんが捕まってるって状況があまりに痛すぎるよな。そう簡単に奴さんへ不意打ちが通用するなら、最初から苦労なんかしてねえだろうしよ」
ハンターの意見に賢者妹も同意しては考え込む。
「そうですよねえ……仮にサフィアさんを首尾よく救出できたとしても、その後はもっともっと大変な事になりますし。魔王軍をそのまま打倒するにしても、要塞から一度撤退するにしても……」
「このままじゃ、ただ敵の胃袋に飛び込むようなものなんだよなあー。うーん、何か秘策でもポーンと思いつけばいいのに……」
「秘策、か……」
その言葉を聞いたところで、ルヴィスは何か思い当たるものがあるような表情をチラリと見せた。
「おや、ルヴィスさん。その顔はもしや、何か妙案でも閃きまして?」
「……ああ、実のところ、無いという訳でも無いんだ。秘策という程、大げさなものでもないんだが」
「「ええっ?!」」
「「マジで!?」」
ルヴィスの急な発言に、レフィリアと賢者妹、ハンターとジェドがそれぞれ声を重ねながら一斉に彼の方を向いた。
「さっすが、ルヴィスー! ただレフィリアにくっついていきたいと思ってたんじゃなくて、ちゃんと勝算があったんだねー!」
「へえ、そいつが本当ならさっきの発言は無かったことにしてやってもいいくらいだぜ。……で、どんな作戦なんだ?」
「いや、そんな風に期待されても困る。まず勝算なんてものには程遠い、殆ど分の悪い博打みたいな内容だ。そもそもそれを実行できるような状況に持っていけるかさえ、分かったものじゃあないしな」
「それでも一応、考えはあるんだろ? 勿体ぶらなくていいから、さっさと教えてくれよ」
早く内容を知りたいハンターに急かされるも、ルヴィスはどこか困ったような顔をするばかりでけして口に出そうとはしなかった。
「……おい、何でそこで黙るんだよ。策があるって言ったのは、他ならぬお前だろうが」
「もしかしてそれは、この場で話すと成功の可能性が下がってしまうような内容なのですか?」
ルヴィスの内心を察してか、レフィリアが掛けた言葉にすまない、と彼は頷く。
「ああ、そんなところだ。いつ何処からか連中が見聞きしているともしれないこの場で、なけなしの手段について語るのは控えようと思う。何にせよ、これは俺にしか出来ないことだし、成功率だって初めから限りなく低いからな」
「それでも……可能性はゼロではないんですよね?」
「そうだな、上手くいきさえすれば……八方塞がりじみた、この状況を丸ごとひっくり返せるかもしれない」
そこまで聞き、レフィリアは信頼するように笑みを浮かべながらルヴィスをしっかりと見つめた。
「でしたら私はルヴィスさんを信じます。どの道、出たとこ勝負をするより他はないのですから、どれだけ確率が低くても何も用意がないよりは全然いいですよ」
「レフィリア……」
「でしたらレフィリアさん。敵拠点への出発はいつ頃に致しますか? 先の戦闘で負傷した二人も同行させるなら、もう少し休息の時間を要したいのですけど」
コメットからの問いに、そうですね、と口にしてから数秒ほど考えて、レフィリアは返答した。
「では明日の朝九時頃、魔王城へ向かう予定にしましょう。相手側がわざわざ猶予を与えてくれているのですから、ここは出来る限りの準備を整えていきます。各自、明日の戦いに向けて少しでも心身の疲れを取るように」




