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罠と急襲と異世界の魔の手の話⑧

「ごほっ……ふう、此度も思った以上に驚かされましたが、結局は私の勝利に終わりましたね。まあ、当然といえば当然ですが」


「貴様ッ……! サフィアに何をした!?」


 怒声を上げるルヴィスに対し、メルティカは既に戦いは決着したといった余裕のある所作で、手にした黒い水晶板を見せつけながら彼の方を見た。


「ああ、聖騎士レフィリアの召喚者ですか? 彼女ならたった今、このクリスタルの中へと閉じ込めましたよ」


「なッ……?!」


 メルティカと一番近い距離で対峙しているルヴィスだけでなく、後方の賢者妹とコメットもまたその事実に目を瞠る。


「ですけど、ご心配なく。別に死んだ訳ではありません。貴方がたがしょっちゅう使ってきたクリスタルと同様、あくまで封じ込めているだけですので」


 王将の駒を取ったとばかりに、サフィアが封印されたと思われる水晶をこれ見よがしにチラつかせながら、メルティカは薄い笑みを浮かべる。


 それは下手な動きや言動をすればどうなるか解っているな、とまるで人質に銃をつきつけては相手を脅す強盗のようであった。


「ッ……!」


 こうなってしまっては流石に万事休すだ。サフィアの死亡はそのままレフィリアの消失にも繋がる。


 せっかく逆転できるかと一筋の希望が見えた矢先、それどころか考えられる限りで最悪の状況に陥ってしまったと、ルヴィスは歯噛みする。だがけして早計な行動を取る訳にはいかないと、とにかく焦りを無理やり呑みこんでは我慢した。


 そうしている間にも、メルティカの周りを急に漂い始めた黒い靄のようなものが彼女の身体を包み込んでいき――しばらくすると、切り裂かれたメルティカの喉や分断されて失われた片腕、そして損傷した尻尾が元通りに再生を果たしてしまった。


(――くそッ、これだけの損害を払ってようやく与えたダメージが、完全に修復されてしまうとは……!)


 益々以て絶望の淵に立たされる一同の中で、賢者妹が狼狽えるようにメルティカを見ながら呟く。


「あり得ない……クリスタルに封入できるのは、あくまで魔法とか無機物のみです。生きているものを中に入れることなんて出来ない筈……」


「それが特別なクリスタルを使えば可能なのですよ。貴方たち人類側には無理でも、こちらの陣営には専門の大魔導師がいますからねえ」


「……邪導のゲドウィンか。確かにヤツなら、そんなふざけた物を作ったとしても何ら不思議ではないが……」


 言いながら、ルヴィスは何とかしてメルティカの手からサフィアが囚われている黒い水晶を落とせないか必死に思案を巡らせたものの、打開策を思いつくことは叶わなかった。


 彼女と正面から睨み合った状態から斬りかかっては、こちらの剣が届く前にメルティカはいとも容易く手にしたクリスタルを砕き、必要とあらばすぐにでもサフィアを殺害してしまうことが出来るだろう。


「これは《闇天黒晶ヴォイドクリスタル》といって、通常の亜空水晶では不可能である生命体も保存することが出来るのです。まあ、殆ど触れるくらいまで対象に近づかなければならない必要こそありますが、それでも一瞬で済みますからね。とても便利な代物には変わりありません」


 そんなルヴィスたちの冷や汗を垂らして焦燥に駆られた表情が気に入ったのか、当のメルティカに至っては黒い水晶板を見せつけつつ語り続ける。


「ですから、最優先で捕縛するべき対象である彼女が自ら私の元へ寄って来てくれたのは助かりました。だから彼女にも言ったのです、隠れ潜んでいればいいのに愚かしい選択をしたものだと」


「――それで、一番捕まえたいヤツが手に入ったからあとは皆殺しにするのか? それとも、レフィリアを脅す為にまだあと何人かひっ捕らえていくつもりか?」


「そうですねえ……聖騎士の召喚者である彼女さえ捕縛してしまえば要件としては十分ですので、あとは別に殺してしまっても構わないのですが……」


 そう述べたところでメルティカは闇天黒晶ヴォイドクリスタルを仕舞い込むとともに、竜翼を一度羽ばたかせては空中へと浮かび上がった。そして高い位置に昇ったところでルヴィスたちを見下ろす。


「ただの人間ながら私にこれだけの傷を負わせた功績として、この場はあえて見逃してあげます。――というより、仲間が存外に手を焼いているようですので、これ以上貴方がたへ無駄に構っている暇はないのですよ」


 そのような台詞を吐いたところで、メルティカはルヴィスたちなどどうでもいいとばかりに隙だらけなくらいクルリと背を向けては、竜の翼を大きく広げた。


「まさかお前、逃げるつもりじゃ――」


「それでは、さようなら。」


 そしてメルティカは一息で遥か上空まで飛び上がってしまうと、そこから飛行機雲を作るほどの速度で飛び退ってはあっという間にその場からいなくなってしまった。


「おい、待て!」


 ルヴィスの叫び声も虚しく、既にメルティカが離脱して自分たち以外誰もいなくなった雪の戦場に、響くことなく音が吸い込まれていく。


「くそっ、逃がして堪るか!」


 ルヴィスは咄嗟にカプセルを取り出して放ると目の前に機竜ヴィーヴルを出現させ、すぐに飛び乗っては空中へと浮かび上がった。


「ちょっ、ルヴィスさん!?」


「もしかしなくても、追いかけるつもりでして!?」


「ああ、その通りだ! コメットはすまないが、どうか蘇生魔法で二人の治療を試みてほしい! メルティカはきっと、エリジェーヌを相手しているレフィリアのところへ向かった筈だ。俺はヤツを追跡するから、後を頼む!」


 そう言うと、ルヴィスは二人の返事も待たずにメルティカが向かって行った方角へと全速力で飛び去ってしまった。


「ああもう、仕方ありませんわね……! 事は一刻を争いますわ。連続で蘇生魔法を行使いたしますので、すみませんが補助をお願いしたいのですけど……」


「勿論です! 術の使用における負担を私の方でカバーして、出来る限り使用待機時間リキャストタイムが短くなるように努めますので!」


 賢者妹は頷くとともにコメットと魔力を同調させ、単に必要な魔力を都合するだけでなくコメットに生じる負荷を極力分散して肩代わりできるようにパスを繋げていく。


「ありがとうございます。それでは……いきますよ!」


 準備が整ったと認識したところでコメットは魔封じの十字杖クロスを真っ直ぐ突き立てるように掲げると、まずは既に意識を失っているジェドに対して蘇生魔法の発動を試みた。


「希望の祈りを今ここに、終焉望まぬ奇跡の光よ――レイズデッド!」

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