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罠と急襲と異世界の魔の手の話⑦

「――なッ……!?」


 形成された光刃の長さだけでなく威力まで倍加した剣に渾身の力を込め、ルヴィスはメルティカに向かって一気に押しかかる。


 それは今まで問題なく受け止めていた筈の彼女の手のひらに刃が少しずつではあるが、しっかりと食い込んでいってはそのまま断ち切ろうとしていた。


 親指と人差し指の間がジワジワと裂けていく中、自身が唐突に危険な状態へ陥っている事態を認識したメルティカは咄嗟に剣から手を離しては、それと同時にすぐさま緊急回避を試みる。


 そうはさせまいと、ルヴィスは彼女の腕から胴体ごと分断してしまおうと、より勢いをつけてラスターソードを振り抜いた。


「ぐううッ……!!」


 しかしメルティカの動きの方がまだ済んでのところで一瞬素早かった為に胴まで斬り抜くことは叶わず、あくまで彼女の腕のみを切断するだけに留まってしまった。


 これでは駄目だ、片腕を落とすだけではけして足りない。普通の人間なら紛れもない重傷だが、こと六魔将にとっては多少動きが阻害される程度の損失に過ぎず、けして致命傷には至らない。


 確実に急所である首を断つか、または心臓を貫かねば。そして今ならまだチャンスは失われず続いている、とルヴィスは間髪入れずに距離を取ったメルティカへと追撃に掛かる。


 だが突然、側面から鞭のように振るわれたメルティカの尻尾による殴打を脇腹に受け、彼は大きく弾き飛ばされる事となってしまった。


「ぐはッ……!」


「くっ、よくも……ッ!」


 腕一本欠損した程度では戦闘に支障を来さないとはいえ、結局は格下だと見下しきっていた、この世界の現地人如きにまたもや不覚を取ってしまったことに、メルティカは今吹っ飛ばした彼に対して忌々しそうな表情を露わにする。


 そんな時、メルティカがルヴィスのみに意識を向けて尻尾による反撃を行ったタイミングで、彼女の背後から一人の人影が飛び出してきた。


 まるで何も無かった筈の景色から突然現れるかのように。


「――メルティカ! 覚悟ッ!」


 それはサフィアであった。


 魔法による光学迷彩じみた偽装と気配の遮断で極力存在を悟られぬよう今まで努めていた彼女が、遂に好機到来と二振りの双剣を握り締めながらメルティカへと踊りかかる。


 ところが、サフィアが姿を晒した瞬間からメルティカは彼女の方を見ぬまま、流れるように反対側へ軌道を変えて尻尾を振り回すと、ここ一番の奇襲も虚しくサフィアの身体を絡めとってしまった。


「ぐッ……!?」


「おや、他の方々と違って少しも姿を見なかったかと思えば……まさかコソコソ不意打ちする機会を狙っていたとは」


 後ろから飛び掛かって来たサフィアの方へおもむろに振り向いたメルティカは嘲笑の混じった声色でそう呟くと、蛇のように長く伸ばした尻尾を更に巻きつけては、彼女が反撃どころか身動き一つ出来ぬようギリギリと締め上げていった。


「しかしまた愚かしい選択をしましたね。ずっと隠れ潜んでいればいいものを“キングの駒”がわざわざ自分から飛び込んでくるのですから――」


 無理に圧迫しすぎて即死させないようにしつつも、普通の人間では全身の骨が砕けるどころか、内臓が穴という穴から飛び出てしまいかねない程の加重を嗜虐的に与えていく。


 だがそこで、尻尾で捕らえていたサフィアの姿が急にマネキンのような形状をした土人形へと変化してしまった。


 しかもそれだけでなく、正体を晒した途端にその土人形はまるで風船のように膨張したかと思うと、爆発しては猛烈な泥塊と土煙を周囲へ撒き散らし、メルティカの視界を奪ったのである。


「何ッ?!」


「はあああああッ!!」


 メルティカが驚いたのも束の間、また別の方向からサフィアの気合が籠った雄叫びが聞こえてくる。


 ――実は先ほど、メルティカが尻尾で捕まえたサフィアは賢者妹が作成したマッドパペットに幻術を被せた偽物であり、加えて破壊される程の衝撃や荷重を受けると破裂する泥爆弾としての機能も仕込まれていたのである。


 そしてこの時まで幻術と気配遮断の併用で存在を殺していた本物のサフィアが今、メルティカの真なる隙をついては強化された双剣――ツインラスターソードを振り上げて、土煙に紛れつつ彼女の懐へと急接近を果たした。


「クリスタルブレイカー・オーバーエッジ――ッ!!!!」


 それから火炎と冷気の魔力をそれぞれの刀身に極限まで収束させ、倍以上に刃を伸ばしてからの超高速連続斬撃。


 サフィアが得意とする必殺技は、見事にメルティカの急所である首筋へと思いきり叩きつけられた。


「ごふうッ……!!?」


 超高温と超低温の魔力刃が瞬間接触する事による脆性破壊を引き起こして、物質の物理的な耐久性を貫通しダメージを与えるサフィアの奥義は、弾かれることなくメルティカの首を斬りつけた。


 それ故に、メルティカは首の断面と口腔から多量の血を吐き出しては吹き出すように零していく。


 サフィアが振り抜いた双剣の刀身を通して得た感触にも、確かな肉を裂く手応えがあった。なのだが――


「しくじった……!?」


 今の決定的なクリティカルヒットでさえも、一撃必殺とまではいかなかった。というのも、肉は斬れたが骨までは断てなかったのだ。


 本来なら物理強度を無視して破壊を引き起こす筈の彼女の刃が阻まれたという事は、その現象を上回るほどの強い魔力によって防がれたという事に他ならない。


 つまりメルティカの首はまだ辛うじてついており、地面へ転がった訳ではない。


 彼女は今、実質ほぼ首の骨だけで自分の頭を支えている状態だ。それでは、メルティカを絶命させた事にはならない――!


「ぐッ……!」


 それでも急所への攻撃を許してしまったメルティカは反射的に尻尾を振るってはサフィアを弾き飛ばそうとし、サフィアは双剣の腹で殴打を受け止めつつ衝撃を殺しては、何とか距離を開けられないようその場へ踏み留まる。


(もう一度、首に斬撃を叩きこまなければ……! あと一発さえ当てられれば、それで決まるッ――!)


 首の皮一枚もとい、首の骨一本で頭を繋げているメルティカに対し、サフィアはすぐに彼女へ再接近を試みてはまたもや双剣の刃を振るう。


 骨が硬い事が判ったのならば、それを考慮した上で接触時の瞬間的な威力をより集中させた一閃をぶつけるのみだ。


 しかしその時、サフィアの側面側の空間から巨大な竜の頭がいきなり飛び出してきたかと思うと、大口を開けたまま食らいついては彼女をそのまま呑みこんでしまった。


「サフィアッ……?!!」


 メルティカの尾に吹っ飛ばされ、地面を転がった後に起き上がってからサフィアの状況を目にしたルヴィスは、目を瞠っては叫び声を上げる。


 突然現れた首だけのドラゴンにサフィアの身体が丸ごと呑まれてしまったかと思うと、その竜は咀嚼して噛み砕こうとする様子もなく、ペッと口から何やら黒い輝きを放つ小さな物体を吐き出した。


 それをメルティカは魔力操作により空中へ浮かばせては、即座に回収してしまう。


 彼女が賺さず手に取ったそれは、黒水晶モリアンのような見た目をした、手のひら大のクリスタルであった。

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